神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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「わんだふる神姫ライフ」を書き終えて……

え~、初の連投記事でございます。

長々と続きました神姫SS「わんだふる神姫ライフ」も、とりあえず終了いたしました。
一年以上の長きにわたりお付き合いいただいた方々、ほんとうにお疲れ様でした。

さて、終わりと書きましたが、ここまで辛抱強く読み続けくださった方から見ると「あれ、ここで終わり?」と思った方もいるのではないでしょうか?
本編中に、これ見よがしに振った伏線が、ほとんど明らかにされることなく終わっていますので、そう考えるのは至極当然だと思います。

今回の記事も、あとがきなどいう高尚なモノではなく、言い訳として書きました(笑)。


ブログを始めるにあたって書きましたが、このSSは私にとって初めての小説になります。
当然、完成度の高さなど望むべくもない素人まる出しの小説になるのは必至でしたが、とにかく「何が何でも完結させる!」を目標にスタートしました。
そのため、ストーリーも極力簡潔(一風変わった少女のもとに、さらに変わった神姫が現れ☞お約束どおりライバル神姫が現れ☞艱難辛苦を乗り越えてライバルに勝利する…なんのヒネリもネーッ!)にして、20話ぐらいで完結する予定でした。

ところが、当時ハマっていたアニメ等の影響を受け、全体の話が妙に膨らみはじめました。しかも、他の独立していた(脳内)神姫SSと勝手に融合する始末。
このままでは埒が明かないと思い、今回の最終話となりました。
まあ、とりあえず本来の目標(トロンVSレスティーア)は達成したので良しと考えるべきでしょうか……。
もちろん、まき散らした伏線は、次作(第2部?)で明らかにしていくつもりです(汗)。


最後になりましたが、このような稚拙極まりない小説を読み続け、コメント、拍手をしてくださった方々、ほんとうにありがとうございます。
正直、「SSなんて読まれなくて当たり前、なんの反応がなくても腐るな!」と自分に言い聞かせて執筆をはじめていただけに、予想もしなかったコメントや拍手は大きな励みになりました。

次回のSSでも、隣とトロンの凸凹コンビが活躍する予定です。
もし、暇な時間があるときにでも一読していただけたなら、望外の幸せです……。









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わんだふる神姫ライフ 最終話

 
 
     
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
             最終話    「ともに歩む者」
 
 
 
                  ── WINNER トロン ──
 
 
 あたしは頭上の電光掲示板を、ただ、ボ~ッと眺めていた。あたしたちを取り囲むよ
うに見守っていた観衆も、まさに「水を打ったような」静けさ状態だった。
 アクセスポッドから聞こえるモーターの音が、あたしを現実へと引き戻す。
 静かにポッドが開くと、トロンがムクリと起き上がり、両手を天に突き出しながら大き
な伸びをする。
「お、お疲れ。トロン」
 しばらくして、ようやくあたしの口から出た言葉に、トロンがキョトンとした顔をして
いる。
 
 それはそうだろう。この戦いがトロンにとってどれほどの意味を持っていたのか、あた
しにだってわかり過ぎるほどわかっていた。
 レスティーアに勝ちたい。トロンはその一心で、この数ヶ月間、歯を食いしばってがん
ばってきたんだ。そして死闘の末に、ようやくその想いを実現した。
 
                   それなのに、あたしは……
 
 トロンを褒めてあげたかった。伝えたい言葉も山のようにあった。でも、肝心な時に自
分の気持ちを素直に伝えられない。
 少しでもこんな自分を変えたい。あたしはそんな想いから神姫を欲しいと思った。
 でも、結局あたしは何ひとつ変わってはいなかった。
  
                 トロンはあんなにがんばったのに……
 
 自分の不器用さに怒りすら覚え、歯噛みしながらうつむいていると、ふいに名を呼ばれ
た。あたしはハッとしながら声の主を──トロンの方に視線を向けた。
 トロンは金色の瞳で黙ったままあたしを見つめていたけど、やがて小さくうなずくと、いつ
ものようにあたしに向かって軽くウインクをしてきた。
 
                 不器用なのはお互い様……か。
 
 あたしは今になって、ようやく自分の気持ちに素直になれない不器用なヤツがすぐ傍に
いたことに気がついた。
 
 このオーナーにして、この神姫あり。でも、こんなあたし達だからこそ、うまくやって
これたのかな?
 
 トロンも同じことを考えていたのだろうか、口元に苦笑いを浮かべている。
「せんぱい、やりましたね!」
 感慨に浸る間もなく、いきなり美佐緒が抱きついてくる。
「すげーじゃねぇか、一ノ瀬! トロンのヤツ、レスティーアに勝っちまったぞ!」
 人ごみを掻き分けながら、佐山さんが興奮冷めやらぬといった様子であたしに話しかけ
てくる。佐山さんの後ろで秋野さんが感動してしまったのか、両手を胸の前で組んだまま、
黙って何度も首を縦に振っている。
 どさくさに紛れて、あたしの身体を触り始めた美佐緒の手を思いっきりつねりながら、
ふたりにどう答えていいのか咄嗟に思いつかず、考え込んでいると突然周りから拍手と歓
声が上がった
 それがトロンの勝利を称える物であると気がついたのは、姫宮先輩があたしの方に歩み
寄ってくるのが目に入ってからだった。
「先輩……」
 しつこく身体にペタペタと触ってくる美佐緒の手を何とか引き剥がすと、あたしは姫宮
先輩に向き直りながらそこまで話しかけ、先輩の心情を察して言葉に詰まってしまった。
 でも姫宮先輩は、そんなことなど気にした素振りもみせず、穏やかな笑みを浮べたまま
あたしを見つめていた。
「ありがとう、一ノ瀬さん」
「へ?」
 姫宮先輩の口から紡がれた言葉は、あたしがまったく予想もしないものだった。
 
       そう、先輩の言葉の意味がわかったのは、もう少し先のこと……。
 
 真意がわからず、あたしは唖然と立ち尽くしていると、先輩の視線が一点に向けられる。
 いぶかしげに先輩の視線を追うと、アクセスポッドの前で互いを見交わしているトロン
とレスティーアの姿が目に飛び込んできた。
 何か只ならぬ雰囲気感じたあたしが、ふたりの方に歩いていこうとすると、姫宮先輩が
手をかざし行く手を遮った。
「このまま……ねっ。 一ノ瀬さん」
 あたしの方を顧みながら、そう話す先輩。あたしは不安な気持ちになりながらも、先輩
の背中越しにトロンの姿を垣間見た。
 
『いきなりお礼回りってわけじゃないみたいだけど……あ、ひょっとして『この卑怯者め!』
とか、文句を言いにきたわけ? でも、それって御門違いってヤツじゃ……ん?』
 さっきから目の前に立ち、無言で自分を見下ろすレスティーアにトロンがヤレヤレとい
った感じで肩をすくめるが、いきなり差し出された手に眉をひそめる。
『見事だった。……だが、次は負けない!』
 手甲に覆われた手と、レスティーアの顔を交互に見ていたトロンは、レスティーアの一
言に唖然とした表情になる。
 しばらく口を開けたまま、レスティーアを見つめていたトロンだったけど、やがて照れ
くさそうに笑うとレスティーアの手をグッと握り締めた。
 レスティーアの口元も微かに綻ぶ。
 そのまま黙して見つめあうふたり。だが次の瞬間、重ね合ったふたりの手のひらから閃
光が瞬き、ひと際大きな破裂音があたりに響き渡った。
『あっ、ごめ~ん。P・Bが暴発しちゃったよ。 ケガしなかった、レスP?』
 頭を掻きながら、嬉しそうに話しかけるトロン。痛みのためか、思わずしゃがみ込んで
しまったレスティーアは、一筋の白煙が尾を引く手を押さえながら呆然とトロンを見上げ
ていたけど、まるで心の篭っていないトロンの口調にみるみるその碧眼に剣呑な輝きが宿
り始める。
『き、きさま。 わ、私が……』
 怒りのためか言葉が続かず、ワナワナと身体を震わせながらユラリと立ち上がるレステ
ィーア。
 
一瞬、その背後に鬼だか悪魔みたいな影が立ち上ったように見えたのは、あたしの目の
錯覚だったろうか?
 
『だからさ~、事故だって、Z・I・K・O! アンダスタン?』
『ふ、ふざけるな────ッ!!』
 この期に及んで、まだ反省の色もみせないトロンに、ついにレスティーアの怒りが爆発
する。
 音もなく腰の長剣を抜き放つと、慌てて止めに入った姫宮先輩の制止も振り切り、一瞬
の躊躇なくいきなりトロンに切りかかっていく。
『あはは。いやだな~、レスPったら、そんなに顔を真っ赤にしちゃってさあ~』
『う、うるさいッ!』
「…………何やってんのよ、アイツ…………」
 唸りを上げて迫り来る銀線を、バトルの時以上に軽やかな身のこなしで避け続けるトロ
ン。あたしは目の前の光景に、全身を脱力感に襲われながらも目を離す事ができなかった。
 
 照れくさい気持ちはよくわかる。でもトロンのヤツ、もう少しマシなリアクションはと
れなかったんだろうか?
 
 呆れ果てたあたしが、周りに集まってる人たちも同じ考えだろうと思い、ふっと周りを
仰ぎ見た。
 
                     みんな笑っていた。
 
 美佐緒とガーネットが、佐山さんも秋野さんも楽しそうに笑っていた。
 いつの間にか、あたしの後ろに立っていた桜庭さんや狐姫も、そして、姫宮先輩まで笑
っている。
 ギャラリーの人たちも、その人垣の後ろの方では店長さんやリベルターまでが愉快そう
に笑っていた。
 
                      そう、みんなが……
 
 人に自分をさらけ出すのが苦手で、いつもひとりでいることが多かった。
 でも気づいてみれば、いつの間にかあたしはこんなに大勢の人たちに囲まれていた。
 
               いつからだろう、こんな風になったのは?
 
「どうかしたんですか? せんぱい?」
 みんなが笑ってるなか、ひとりだけ考え込んでいたあたしに気づき、美佐緒があたしの
顔を覗き込む。
「ううん。なんでもないわ!」
 心配そうに見つめる美佐緒に、無理矢理笑顔をみせると、元気一杯に答えた。
 
    そう、答えなんかとっくの昔にわかってる。全てはアイツと出会った時から……
 
 あたしはそう考えながら、まだリアル鬼ごっこを続けているトロンたちを目で追ってい
た。
トロンと一緒に暮らしたこの数か月。ひたすらあの悪魔に振り回され続けた日々が、
走馬灯のように脳裏によみがえる。
 ろくな思い出なんか一つもありはしない。でも、いつのころからか、あたしはそれを当
たり前のように感じるようになっていた。
 
       あたしが勝手に思い描いていた、神姫との生活は夢と消えたけど……
 
              まあ、これはこれで、悪くはないかな?
 
今は、そんな風に思うようになっていた。
多分これからも、トロンとは泣いたり笑ったり、そしてケンカしながら一緒に歩いて行
くんだろう。
 
 
 
                  そう……どこまでもずっと……
 
 
 
                「これからもよろしくね……トロン……」
 
           あたしは誰にも聞こえないように、そっとつぶやいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
                     「わんだふる神姫ライフ」
 

                         とりあえず
                          <完>
 
  
  
 

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わんだふる神姫ライフ 第44話

         その音は、レスティーアの口元から漏れる歯軋りだった。
 
『私はまた、トロンの奸計にまんまとのせられたというのか? <アデッソ エ フォル
チュナー>を用いてまでこの体たらくとは、なんたるザマだ!』
 レスティーアの怒りの度合いを示すかのように、長剣を握り締めた右手は、その柄すら
握りつぶさんばかりの勢いで震えている。
「レスティーア。気持ちはわかるけど、今は目の前の相手に、トロンだけに意識を集中さ
せなさい」
 優しく包み込むような姫宮先輩の声を背中に受け、レスティーアはハッとしたように振
り返る。先輩の瞳をレスティーアは黙って見つめていたが、やがて大きくうなずくと、ト
ロンの方へと視線を戻す。
 口笛を吹きながら、右拳や膝にP・Bの予備カートリッジを装填していたトロンが、レ
スティーアの視線に気づくとニンマリと笑った。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
               第44話    「決着」
 
 それはまさに、嵐のような剣戟だった。その一振りが巻き起こす風は烈風と化し、ソウ
ルテイカーの表面を流れすぎる度に、閃光とともに深い切り傷を残していく。
 でも、トロンだってやられっぱなしではなかった。その身体に刻み込まれた傷の幾つか
は、本来なら致命的なものだったろう。しかしトロンは“一重”で確実にその攻撃を捌きな
がら、その威力は半減したとはいえ、果敢に“半歩”を使い、レスティーアの間合いを崩し
反撃の隙をうかがっている様だった。
 あたしは息を飲みながら、ふたりの動きを追っていた。バトル開始時に比べれば、確か
にスピードも威力も落ちているかもしれない。
 でも、トロンとレスティーアが受けたダメージからすれば、ふたりの攻防は脅威的ともい
えた。そして、それは周りの人たちも同じ思いなのだろう、固唾を呑んでこの戦いの行方
を見守っている。
 大気を薙ぎながら迫り来る長剣を、トロンは身を屈めてやり過ごそうとした。
 しかし、トロンの頭をかすめて通過するはずの銀線は、突如その軌道を逆落としに変え、
トロンの旋毛めがけて振り下ろされる。
 その一撃の放つ気迫のせいか、髪の毛を逆立たせながらトロンは舌打ちすると、左手を
頭上へと突き出した。
 トロンは、なんとかその攻撃を“一重”で捌くことができたが、一条の光の線と化した刀身
は、ソウルテイカーの左拳に装備されたP・Bの射出機ごと切り落とすと、なおも下方へと
流れ落ちていく。
 レスティーアの剣が、ゆるやかなラインで形作られたソウルテイカーの腕部をすべり落
ちていくと、その肘のあたりに差し掛かった時、小規模な爆発が起き、激しい衝撃が剣を
強く握り締めたレスティーアの両腕を襲った。
 それがP・Bによるもとレスティーアが気づいた時には、トロンはレスティーア目掛けて
いきなり右手を突き出す。いぶかしげに見守るレスティーアのまえで、トロンの右肘の
パーツが百八十度回転すると、いきなり鋭いガス音とともにパーツの先端から発生したビ
ームソードがレスティーアめがけて射出される。
 だが、ほとんど距離がないのにもかかわらず、レスティーアは自分の腹部めがけて唸り
をあげて飛来するビームソードを間一髪で身を捻ってかわすが、代わりに彼女の腰に括り
付けてあった鞘が、乾いた音を立てて弾き飛ばされる。
 背後に向かって飛び去るビームソードを横目で見ながら、視線を前へと戻すレスティー
ア。トロンの右肘から一本のワイヤーが伸び、それを右肘のパーツが猛烈な勢いで巻き戻
しているのに気づくとハッとした表情になる。
「あれって、アンカーガン?」
 全体的にひとつに纏まった感じのするソウルテイカーだったけど、取って付けたような両肘
のパーツ。ビームソードの発生器にしては大きすぎると思っていたけど、まさかアンカーガン
としての機能まで持っていたなんて。
 あたしは狐姫との戦いを思い出し、トロンが今度はレスティーアに看板でもぶつけるつもり
なのかと思っていたが、ビームソードはレスティーアの背後にあるビルの壁面に深々と食い
込み、いくら引っ張ろうがピクリとも動きそうになかった。
 そして、かわりに他のモノが動いた。
『うおりゃああああッ!』
 トロンはワイヤーに引っ張りあげられると、不自然な体勢のまま、ものすごい勢いでレス
ティーアめがけて頭から突っ込んでいく。どちらかというとトロンの迫力に気圧されたレス
ティーアは咄嗟に対応が遅れ、もろにトロンの体当たりを受けてしまい、ふたりはもんどり
打って倒れこんでしまう。
『くそ。この期に及んで往生際の悪いッ!』
 アスファルトの上を転げまわりながら忌々しそうなつぶやき、トロンを押さえ込もうとする
レスティーア。トロンはそれを足で押し返そうと、悪戦苦闘している。
『クッ! お、往生際が悪いのがボクのチャームポイントだって、わ、忘れちゃった?』
 そのままふたりしてもつれ合ったまま、しばらく転がり続けていたが、鉄筋の剥き出し
になった建物にぶつかり、ようやく動きを止める。
 自分に切り掛かろうとするレスティーアの両腕をなんとか押さえ込もうと、必死になり
ながら背後の壁にしこたま頭を打ち付けたトロンが、目の端に涙を浮べながらレスティー
アに話しかける。
『痛ぅ~。それにさあ、切り札はギリギリまで隠してこそ、その威力も上がるんだよ。知
らなかった、レスP?』
 トロンはそこまで話すと、一点を見つめながら静かに微笑んだ。
 レスティーアは、カラカラに乾いた喉を少しでも潤すようにつばを飲み込むと、トロン
の視線の先を追った。自分の腹に押し当てられた、トロンの踵を……
 次の瞬間、レスティーアの腹部で破裂音が響き、猛烈な勢いで後ろに吹き飛ばされてし
まう。
「なっ、これってダブルフェイク? トロンのヤツ、最初っからこれを狙って……」
 あたしは、地面に横たわったままのレスティーアを黙って見やるトロンに、心の中で絶
句していた。
 
 トロンは、最初にレスティーアと接触した時、ワザと踵にP・Bがあるように振る舞い、
逆に彼女の油断を誘ったんだ。ソウルテイカーの踵に仕込まれたP・Bで、確実にレステ
ィーアにクリティカルダメージを与えるために……
 
『くそっ! ダメか……』
 悔しそうにつぶやくトロンの声に、あたしはトロンが何を言っているのか理解できなか
った。でも、トロンが睨みつける視線の先で、薄く白煙をあげる腹部に手を当てながら、
ゆっくりとレスティーアが身を起こすのを見て、あたしは思わず息を呑んでしまった。
 トロンの口調からも、さっきの攻撃は、起死回生の一撃とはならなかったかもしれない。
しかし、スクリーンに映し出されたレスティーアのL・Pの残量から見ても、今の攻撃が
彼女に少なからぬダメージを与えたのは間違いなかった。
 それでもレスティーアは、そんなことを感じさせず毅然とした態度のままだ。
 でも、それはトロンだって同じだった。レスティーアのあれだけの猛攻にも耐え抜き、
彼女の奥の手である<アデッソ エ フォルチュナー>に全身を焼かれながらも、身体を
襲っているであろう激痛を、おくびにも出そうとしない。
 もう、あたしにはわかっていた。ふたりは心身ともに限界を迎えており、この戦いが終
わりを迎えようとしていることに。
 あたしたちが見守るなか、レスティーアは静かに立ち上がると、真正面からトロンの金
色の瞳を見据える。
 その碧眼に、どれほど怒りの炎が渦巻いているのか、あたしは気が気じゃなかったけど、
レスティーアの双眼は驚くほど澄んでいた。
『トロン……私は貴様のような神姫と戦えることを、誇りに思う』
 レスティーアの唇が紡いだ言葉は、さらにあたしを唖然とさせた。
『……へぇ~。こりゃあ、ビックリだ……』
 トロンは呆けたような顔をしていたが、しばらくして、ようやくポツリとつぶやいた。
 レスティーアは、トロンのさも意外だと言わんばかりの口調に自分でもらしくないと思
ったのか、苦笑しながら目を伏せてしまう。
 でもその表情は、次にトロンの口をついて出た言葉に驚きのソレに変わる。
『はじめてだね。レスPと意見が合ったのはさ』
 レスティーア同様、トロンの言葉に驚きを隠せなかったあたしが、アングリと口を開け
たまま声の主を見つめていると、さすがにトロンも照れくさかったのか、咳払いをしなが
らレスティーアの方に向き直った。
『さて、お互いもう限界みたいだし、そろそろ決着つけようか?』
 晴々とした表情でそう話しかけるトロンに、レスティーアは静かにうなずいた。
 そして、あたしたちが固唾を呑んで見守るなか、トロンとレスティーアはどちらからと
もなく動いた。
 
                 黒き風と、蒼き風となって……
 
 あたしには……ううん。多分、この戦いを声もなく見つめ続ける人たち全てが気づいて
いるはずだった。
 もう余力の残ってないふたりにとって、これが最後の一撃になることを。
 そして、互いに攻撃を繰り出し、最後に立っていた者こそ、この戦いの勝者だというこ
とを。
 
『イエェェェ────────ッ!』
 レスティーアが、大上段へと振りかぶった長剣を、裂帛の掛け声とともにトロンの頭め
がけて一気に叩き付ける。
 だが、トロンは取り乱すことなく金色の双眼で、自分めがけて振り下ろされる銀光を睨
みつけていた。そして、その必殺の刃がトロンを切り裂く寸前、黒い影が音もなくレステ
ィーアの長剣へと伸びた。
『何ッ!?』
「そんな……」
 あたしとレスティーア。それぞれの口から漏れた言葉はまったく違えど、驚きに彩られ
ているという意味では同じだった。
 レスティーアの長剣は、天空に向け敬虔な祈りを捧げるように組み合わされたトロンの
両の手のひらに挟み込まれ、その動きを止めていた。
 
                     ── 白刃取り ──
 
 護身の武術にとって、奥義のひとつでもある真剣白刃取り。あたしは教えた覚えもない
その技で、トロンがレスティーアの渾身の一撃を止めた事に驚いていると、突然、組み合
わされたトロンの手のひらから強烈な閃光が漏れた。
 それが掌に仕込まれたP・Bによるものだとあたしが気づいた時には、レスティーアの
長剣は中程から折れ、その刀身が中天へと舞い上がる。
 
 攻守逆転! トロンは解き放たれた黒い矢と化して、レスティーアめがけて一気に突き
進む。レスティーアは咄嗟に腰に手を回すが、そこにあるべき鞘はなかった。
 
 凍りついたレスティーアを見ながら、トロンの口元に会心の笑みが浮かぶ。
 
          『うおおぉぉおァァああアア────ッ!』
 
その絶叫にも似た雄叫びは、トロンがレスティーアと初めて戦った時にあげたものと、
まったく同じだった。
 そして、トロンの総てを込めた黒い拳が、自分の身体に吸い込まれるのを静かに見つめ
ていたレスティーアは、そっと目を閉じた。
 
 
 
              その口元に、満足そうな笑みを浮べたまま……
              
 

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わんだふる神姫ライフ 第43話

 先に動いたのはトロンの方だった。
 ようやく会得した“半歩”のなんたるかを瞬時にレスティーアに見抜かれ、はたから見
れば自暴自棄の特攻と移ったかもしれない。
 でもあたしにはわかっていた。トロンの戦意は少しも損なわれていないということに、
そして、トロンの心情に気づいている者がもうひとりいた。
 一切の迷いもなく一直線に自分に向かってくるトロンを見るや、レスティーアは愛用の
長剣を両手で握り締め、その切っ先を天にかざすように構える。
 あたしはそれが、レスティーアのトロンに対する敬意であることにすぐに気づいた。そ
してトロンもまた、彼女の思いに気づいていたのだろう。
 その口元にかすかな笑みが浮かんでいた。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第43話     「死闘」
 
 トロンはなんのためらいもなく、鈍い光を放つ漆黒の右手を貫き手の形にとると、一気
にレスティーアの間合いに踏み込む。対するレスティーアは静かに長剣を構え、トロンを
迎え撃とうとする。
 ただの貫き手と長剣。そのリーチの差は歴然であった。だけどトロンは、そんなことは
お構いなしといわんばかりにレスティーアめがけて右手を叩き込む。
 その瞬間、異様に長い指先から真紅のビームソードが発生する。
『な、何ッ?』
 自身に届かぬことがわかっていただけに、わずかに反応のおくれたレスティーアの顔が
強張る。
『くそっ!』
 けれど、忌々しげに紡ぎだされた声はレスティーアではなく、トロンの唇から漏れたも
のだった。
 間一髪のところで下から突き上げるように払った長剣は、トロンのビームソードの軌道
を変え、必殺の闘志をこめた一撃はレスティーアの頬をかすめるように通りすぎていた。
 短い舌打ちとともに、今度は左手のビームソードを発生させたトロンは、そのまま横殴
りにレスティーアの胴を狙うが、自身の左手を襲った衝撃にトロンの金色の瞳がこれ以上
はないというほど大きく開く。
「……鞘……」
 ひときわ激しい光を放ち、トロンの一撃を受け止めているものがなんだが理解した時、
あたしはトロンの心情を代弁するかのようにつぶやいていた。
 トロンとの初戦で、とどめの一撃は放った鉄製の鞘。あの時と同じ、自分の一撃を封じ
られたのを思いだしたのか、トロンが苦渋の表情を浮かべる。
 本来なら、それなりの強度をもっているといっても所詮は鉄。とてつもない高熱を放つ
ビームソードのまえには無力なはずだが、神姫バトルの固有のアイテムに威力や耐久力
の数値が設定されている以上、それを上回らない限り現状ではどうにもならなかった。
 おそらくトロンのビームソードは見た目ほどの威力は備わっていないのだろう。
 右手のビームソードを長剣に、同じく左手は鞘に阻まれ、トロンはレスティーアを目の
前にしながら仁王立ち状態になってしまった。
 でも、ふたりの拮抗はほんのわずかの間だった。両手に展開させていたビームソードの
輝きが突然消えてしまったのだ。
 それが、意図的にトロンが行った結果だとあたしが気づいた時には、自分を支えていた
力がなくなり、驚愕の表情でレスティーアが前のめりに倒れこむ最中だった。
トロンはそれを見てニヤリと笑うと、間髪いれず、レスティーアめがけて膝蹴りを叩き
込む。漆黒の矢と化した膝蹴りが蒼穹の鎧に触れたとたん、一瞬の閃光と激しい衝撃がレ
スティーアを襲う。
「あれって、P・B?」
 鎧の胸の辺りから、一筋の白煙をたなびかせながらバランスを崩すレスティーア。
 タイガとの戦いで勝敗を決めたP・B。あの時は、掌と拳に装備されたものしか使わな
かったけど、どうやらアレと同じものが膝のアーマーにも仕込んであったらしい。
 唖然としていたあたしの視界の端に、一瞬黒い影がよぎった。
『ぅおおぉぉぉおッ!』
 その影がトロンだと気づいた時には、固く握り締められた拳がトロンの雄たけびととも
にレスティーアの胸元に吸い込まれていた。
 さっきとは比べ物にならない輝きが視界を覆い、激しい轟音が鼓膜をゆさぶる。
「レスティーアッ!」
 鎧の破片を撒き散らしながら、宙を舞っていたレスティーアがアスファルトに落ちる音
を同時に、姫宮先輩の悲痛な叫びがフィールドに木霊する。
「トロン!」
『ハァ、ハァ、ハァ……わかってる』
 コンソールの一点を食い入るように見つめていたあたしの声に、荒い息の下、トロンが
レスティーアから視線を外さず、かすれたような声で答える。
 トロンの放った一撃は、レスティーアにかなりのダメージを与えていた。でも、まだレ
スティーアのL・Pはゼロになってはいない。
 トロンは大きく息を吸い込むと、決着をつけるべくレスティーアめがけて一気に走りだ
す。けれど、レスティーアまであとわずかというところで、突然トロンはその動きを止め
てしまった。
 レスティーアが倒れ付した辺りから、微かな、それでいて鋼の如き強さを秘めた声が響
いたためだった。
『まさか……これ程とはな……』
 消え入りそうなつぶやきとともに、レスティーアの頭が持ち上がる。その光景を食い入
る様に見ていたトロンだったけど、その身体は射すくめられたようにピクリとも動かない。
 トロンから視線を外すことなく、その片頬に笑いを浮かべ、ゆっくりと立ち上がるレス
ティーア。その動作は、気品すら感じるほど優雅な動きだった。
「大丈夫なの、レスティーア?」
『心配は無用です、姫』
 心底心配そうだった姫宮先輩。トロンが襲いかかってくる事など意に介さぬといわんば
かりに振り向き、微笑んでみせるレスティーアに、ホッと胸を撫で下ろしている。
『……姫。お願いがあります』
 突然、先輩と向き合いながら話かけるレスティーア。怪訝な顔つきになった姫宮先輩だ
ったけど、すぐにいつも通りの温和な笑みを浮べ、しっかりとうなずいた。
「この勝負はあなたの望んだもの。悔いのないような戦いをなさい」
 先輩の言葉に、力強くうなずき返すレスティーア。だが、トロンのほうを振り返った時
には、その蒼い瞳からは柔和な光は消えていた。
 鎧の胸の部分からそっと手を離すレスティーア。その下には、こぶし大ほどの穴が眼窩
のように黒々と穿っている。
 おそらくトロンのP・Bは、鎧はおろか、その下のレスティーアの身体にも深いダメー
ジを与えているのだろう。
 でもレスティーアは、穴の奥で時折おこるスパークに顔色ひとつ変えることなく、手に
した長剣の切っ先に左手を添えると、大きく右腕を脇に引いた。
「突き?」
 あたしはレスティーアの構えから、それが何であるのか咄嗟に理解した。
「でも、この距離で突きなんて……」
 そこまで考えて、慌ててインカムのマイクを引き寄せた。でも、あたしの口から声が紡ぎ
出されるより疾く、トロンの身体が真横に跳躍した。
 それを見ながら不敵な笑みを浮べるレスティーア。その切っ先に小さな炎が灯ったと思
った途端、その炎は一気に激しさを増し、レスティーアの手にした長剣を覆い尽くした。
 
『アデッソ・エ・フォルチュナ────ッ!』
 
 レスティーアの大気を震わす叫びと同時に、突き出された剣から深紅の炎がトロン目掛
けて噴き出す。
 逆巻く炎より速く自身を包み込んだ熱波に、トロンの動きが一瞬止まり、その直後、トロ
ンの身体が赤炎の舌に絡め取られる。
 そして、トロンを中心に渦巻いていた火炎が次の瞬間、天空めがけて炎の柱と化す。
『がァアアアアアアアッ!』
 全身を紅蓮の炎に焼き尽くされ、永遠に続くかと思ったトロンの絶叫に、あたしは思わ
ず両目を硬く閉じ、耳を両手で覆いそうになったがその動きが途中で止まる。
「だめだ。トロンはまだ戦ってるんだ!」
 あたしはそうつぶやきながら、睨みつけるようにフィールドへと視線を戻した。
「トロンッ! あんたにまだ、“覚悟”が残っているなら立ちなさいッ!!」
 トロンの受けたダメージは心配だったけど、まだ戦いは終わっていない。あたしは心を
鬼にして、トロンを叱りつけた。
 あたしの怒声に似た一声に、地面に倒れ伏したままピクリとも動かなかったトロンの身
体がわずかに震えた。
『まったく……まずは「トロン、大丈夫? ケガはない?」あたりが差し障りのないセリフ
だとボクは思うんだけど……ね』
 全身から無数の白煙を纏いつかせ、苦笑を浮かべながらなんとか立ち上がるトロン。
 ほんのわずかな間、それを驚愕の表情で見ていたレスティーアだったけど、すぐにその
瞳から迷いの色が消えた。
『この期に及んでまだ続ける気か?』
 頭上のスクリーンに表示されている、トロンの残りL・Pを一瞥しながら静かに尋ねる
レスティーア。
『まあね。ボクはまだ、自分の全てをだしきってはいない。それに……』
 トロンはそこまで一気にまくしたてると、少し照れたような顔をする。
『まあ、その、楽しいしね……レスPと戦うのはさぁ』
『……そうか』
 意外ともいえるトロンの言葉に、レスティーアはそっと目を伏せ、かすかに微笑んだよ
うにみえた。
 そして、トロンの覚悟は伝わったのだろう。剣を持ち上げ静かに構えると、レスティー
アはトロンの胸元めがけて稲妻のような突きを放った。
『何ッ!』
 だが、微笑を浮かべるトロンの顔が、ううん、身体全体がかすかにブレると、レスティ
ーアの剣は何の手応えもなくトロンを突き抜けてしまった。
「アクセル・ハート?」
 あたしの叫びと真横に振りぬいたレスティーアの銀線が、背後に現われたトロンに向け
て煌いたのは、まったく同時だった。
 自分の胴目掛けて襲いかかる剣戟に、トロンの顔が歪んで見えたのは、痛みのためか?
それとも恐怖のためか?
 けれど、トロンのわき腹を切り裂くはずの剣は、トロンの右肘から伸びたビームソード
によって阻まれてしまう。今度こそレスティーアの瞳が大きく見開く。
 真正面からレスティーアを睨みつけていたトロンは、渾身の力を振り絞って彼女の剣を
押し返す。
 トロンの力にレスティーアは眉をひそめるが、すぐに左手を柄に添えると両手に力を込
め、そのまま長剣を真横に振りぬいた。
『えっ? う、うわあああーッ!』
 どこにそんな力が残っていたのか。レスティーアの剣の一振りは、まるでトロンを掬い
上げるかのように持ち上げ、そのまま近くの建物に力任せにトロンを叩きつけていた。
『……!?』
 ビルの壁面にぶつけられ、わずかの間意識が混濁していたトロンだったけど、すぐに
ハッとなって前を見る。
 目の前にレスティーアが屹然と立っている。そして、トロンは冷気の正体を知った。
 それはトロンの喉元に突き付けられた、レスティーアの持つ長剣から放たれたものだっ
た。
『今度は首を外して逃げるか? きさまといえど、もはや打つ手はあるまい? 潔くよく
降伏しろ……』
 静かに語りかけるレスティーアを、壁に叩きつけられた衝撃が残っているのか焦点の
定まらない目で見上げていたトロンが、さも億劫そうに片足を持ち上げると、ゆっくりとし
た動作でレスティーアの腹部に踵を押し当てる。
『……手は出ないけど、足なら出るよ?』
 そう言いながら、 無邪気に笑いかけるトロン。レスティーアの表情がみるみる険しく
なる。
『きさま、私たちの戦いを侮辱するのか? こんな事をしてなんの意味が……』
 押し殺すような口調で、そこまで話していたレスティーアが息を呑む。
『……ボクがなんの考えもなく、こんな事をするなんて本気で思ってるの、レスP?』
 唇の両端をキュッと持ち上げ、意味ありげな笑みを浮べるトロン。それを見て、レステ
ィーアは猛烈な勢いで後ろに跳躍する。
『きさま! まさか足にも!?』
 着地した途端、憎々しげにトロンを睨みつけるレスティーア。トロンはそれを黙って見
つめていたが、何故かその頬がみるみる膨れていく。
『ぷっ! あ、あははははははははははっ。 いやだな~、レスPったら。そんなに真剣
な表情(かお)しちゃってさあ』
 我慢の限界を超えたのか、トロンは突然吹き出すと、胸の前で手をパタパタと振りなが
ら笑い出す。
 さも愉快そうに笑い続けるトロンを見ながら、あたしはトロンの考えを理解していた。
 レスティーアは、つい少しまえにトロンのP・Bで大きなダメージを受けている。当然、
トロンがそれを臭わせるような行動をすれば、レスティーアがそれに対して過剰に反応を
してしまうのは仕方のないことだろう。
「それにしても、トロンのヤツ……」
 絶体絶命ともいうべきこの状況を、トロンは見事なハッタリだけで切り抜けてしまった
のだ。あたしは心底、トロンの機転に兜を脱ぐ思いだった。
『さてと。じゃあ充分休んだし、そろそろ続きといこうか、レスP?』
 
トロンはそう言うと、眼前のレスティーアに片目をつぶって見せた。

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わんだふる神姫ライフ 第42話

 それほど長くはもたない。そう思っていたけど、こんなわずかな時間で“半歩”の本質
を見抜いたレスティーアの実力に、あたしは驚きの色をかくせなかった。
 そしてなにより、レスティーアを過小評価していた自分の甘さに内心歯軋りをして悔し
がっていたが、まだ戦いは始まったばかりだ。
 この先トロンにどういった指示を出すべきかと頭を悩ませていると、鉄を打ち鳴らすよ
うな金属音が響き渡り、あたしをギョッとさせた。
 驚いてフィールドに視線を向けると、トロンがこぼれるような満面の笑みを浮べ、レス
ティーアに向かって盛大な拍手を送っていた。
『いや~、さすがはレスP。ボクの超☆必殺奥義、“しましまパンツの大冒険♪”を瞬時に
見抜くとはね』
 レスティーアに向かって、親指を立てながらウインクするトロン。
 
というか、そんな妙な名前の技をあんたに教えたつもりはないんだけど……
 
 ひたすらレスティーアを褒めちぎるトロンにまるで落ち込んだ様子はなく、あたしはト
ロンの図太さに呆れたのを通り越して素直に感心してしまったが、トロンはいきなりしゃ
がみ込むと、澱んだ瞳で地面にのノ字を描き始める。
『まったくさぁ、D・Vまがいの特訓を一週間も続けたボクの立場はどうなるのさ……』
 やっぱり精神的なダメージは大きかったみたいだけど、それより必死になってつき合っ
てあげたこの一週間の特訓を、D・V呼ばわりされた事にあたしが腹を立てていると、ま
だ落ち込んでいるトロンに向かってレスティーアがつぶやいた。
『D・V? ……そうか、この技は一ノ瀬どのから学んだのか……』
 
     どうでもいいけど、なんでD・Vという単語だけであたしに辿り着くわけ?
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第42話     「苦戦」
 
 トロンやレスティーアの一言に憤懣やるかたない気分にどっぷりと浸かっていたあたし
だったけど、いつまでもトロンをしょげかえらしておくわけにもいかず、発破をかけようと
すると、いきなりトロンが立ち上がった。
『さってと。じゃあ、第二ラウンドの開始といこうか、レスP?』
 身体についた埃を払うような仕草をしながら、トロンがレスティーアに笑いかける。
「トロン、あんた……」
 マイクを指でつまんだままのポーズであたしが唖然としていると、さも可笑しそうにトロ
ンが話しかけてくる。
『今のボクの迫真の演技、どうだった、リン? それともやっぱり『あぁんまりだあぁ
ぁぁあ!』、とか言って、涙ジョバジョバ流したほうが雰囲気出たかな?』
 そう言いながら、あごに指を当て首をかしげるトロンに呆れていたあたしだったけど、す
ぐにそれは苦笑へと形を変える。
「へぇ~。さすがのあんたもヘコんでると思ったけど、けっこう平気そうね?」
 さも意外そうだと言わんばかりのあたしの問いに、トロンは軽く肩をすくめる。
『まあね。リンには悪いんだけど、ボクにとって“半歩”がすべてというわけじゃないからね。
至善の策がきかないのなら、次善の策をとるだけさ』
 そう言いながら、眼前のレスティーアを見つめるトロン。
 
       そう、ヘコんでなんかいられない。戦いはこれからなんだから。
 
『まったく、きさまというやつは……』
 意外と精神的ダメージの少なそうなトロンのお気楽っぷりに、レスティーアが呆れた
ようにな顔になるが、すぐにその表情も影をひそめる。
『きさまは良き師に、そして良き主にめぐり合えたようだな』
 そうつぶやきながら、なぜかレスティーアはトロンではなくあたしの方に振り向いた。
 前にもガーネットから、似たようなことを言われたことのあるあたしは、気恥ずかしさ
からうつむいてしまう。
 そんなあたしを黙って見つめるレスティーアのくちびるがほころんでいるのに、あたし
が気づくはずもなかった。
 『……レスP』
 ひとり蚊帳の外状態だったトロンが、妙にまじめな口調でレスティーアに話しかける。
そのトロンらしからぬ雰囲気に、いぶかしげなまなざしを向けるレスティーア。
『なんだ。あらたまって?』
 トロンの表情から何かを感じたのか、レスティーアは硬い声で話す。
『……ボクの嫁に、手ェ出すな!』
 殺気まるだしでつぶやくトロン。一瞬にして、嫌な沈黙に包まれるバトルフィールド。
「だから、嫁じゃね──────────────ッ!!」
 
    あたしの絶叫にも似た魂のツッコミが、フィールドを駆け抜ける。
 
 次の瞬間、黙って静観していたギャラリーのみなさんのあいだから、大爆笑が巻き起こ
る。対戦席に目をやると、姫宮先輩もうつむき、微かに身体を震わせている。
 
                   絶対笑ってるよ、あれ。
 
「こ、こここここの、バカ悪魔ッ! にゃにあることにゃいことねつ造してんにょよ!」
 怒りの臨界点を突破したため、ろれつの回らなくなったあたしの怒声に、トロンの馬鹿
は前髪をかき上げながら微笑む。
『リンったら……素直になりなよ。ボクは覚えているよ。あの夜、ボクの腕の中で頬を赤
らめていたリンの横顔を……』
「それ、スケール的にいっても無理だろッ!?」
『……いいかげんにしろ……』
 怒りのあまり、コンソールの横にあるアクセスポッドごとトロンを叩き潰しそうになった
が、レスティーアの押し殺したような声で我に返る。
『あれ? まだいたんだ、レスP?』
 きょとんとした顔でレスティーアの方に向き直るトロン。レスティーアもうつむき微か
に身体を震わせているが、こっちは姫宮先輩とは反対に怒りによるものだろう。
『うおおおおおおおおおッ!』
 剣を振りかざし、トロンめがけて一直線に突き進むレスティーア。鬼神も避けて通りそ
うなその形相に、一瞬「がんばれ、レスティーア!」とか思ってしまったけど、インカム
のマイク越しにかすかな聞こえたトロンの、『やっぱ、レスPは扱いやすいね』という声に
眉をひそめる。
 
                   ……この、策士!
 
 とりあえず、心の中でレスティーアの心情を代弁してみるあたしだった。
 
 怒りの起爆剤により、倍加したのでは、と思えるほどに鋭さを増したレスティーアの剣
戟の凄まじさ。
 最小限の体捌きで、目にもとまらぬ速さで襲い来るレスティーアの攻撃を避け続けるト
ロンだが、その表情にいつもの余裕はまるで感じなかった。
「だめ! 間に合わない!」
 横殴りにトロンの首筋に走る銀線。回避不可能と本能的に察したあたしは、思わずシュ
ミレーターのシートを跳ね飛ばしながら立ち上がってしまった。
 咄嗟に<アクセル・ハート>を使うように指示しようとしたが、インカムに伸ばした指
の動きが途中で止まってしまう。
 
 だめだ。<アクセル・ハート>を発動させるタイムラグを考えたら、もう間に合わない。
 
 心臓をいきなり握りしめられたような不快感が、あたしを襲う。
 
 トロンにもわかっているのだろう。その口元は絶望に歪んで……あれ、笑ってる?
 
 あたしは見間違いかと、目を凝らしながらもう一度トロンを見た。確かに笑っている。
レスティーアの眉もわずかによるが、いまさら攻撃の手をゆるめる気など毛頭ないだろう。
 必殺の闘志を込めた一撃がトロンの首先に達しようとした瞬間、トロンが自分の腹部に
押し当てていた右手から閃光が起こる。
 そして、トロンの身体が後ろに引っ張られたかのように猛烈な勢いで加速する。うなり
を上げ、迫りくる銀線がトロンの鼻先をかすめて去っていく。
 窮地を脱したトロンだが謎の加速は止まらず、そのままバランスを崩すと、ごろごろと
転がりだした。
 そのまま奇怪な縦回転を行う、人間(神姫)地獄独楽と化したトロンだったが、いつま
でも続くと思われた回転は、幸いなことに近くにあったビルの壁面に叩きつけられて終わ
を迎えることになった。その光景に、さすがのレスティーアも現状が把握できないらしく、
呆気にとられた顔をしている。
『痛った~ッ!』
 なかば壁にめり込んでいたトロンが、コンクリートの破片をまき散らしながら身を起こ
すと、両手で頭を抱えて呻きだす。
「トロン。あんたいったい……!?」
 何が起こったのかさっぱりわからないあたしは、トロンに問いただそうと話し始めたが、
すぐに次の言葉が止まってしまう。
 トロンの腹部から白煙が上がっていたのだ。目を凝らすとその煙の奥で、かすかなスパ
ークが起こっていた。
 
 あたしは瞬時に理解した。トロンは自分の腹部でP・Bを爆発させ、その反動でレステ
ィーアの攻撃をかわしたんだ。
 動きやすさを重視したためか、ソウルテイカーには腹部を防御する装甲がない。でも、
同じダメージを受けるならどちらがマシか、瞬時にそれを天秤にかけられるトロンの機転
の速さは“半歩”の威力が半減したとはいえ、それを補って余りあるものなのかもしれな
い。
『やはり、きさまにとって最大の武器とは……』
 あたしの考えを代弁するように低い声でつぶやくと、レスティーアはゆっくりとした動作
でトロンに歩み寄る。
 気配で気づいたのか、慌てて身を起こそうとしたトロンだが、まだ煙を上げる腹部を押
さえると苦痛に顔をしかめる。
『がはッ!?』
 あまりの衝撃に、トロンの双眸がこれ以上はないというほど見開く。緩慢な動作で移し
た視線の先には、自身の右肩に深々と突き刺さった白銀の刀身が。
『……すまんな。こうでもしないと、安心してきさまと話すこともできないのでな』
 レスティーアらしからぬ行動に眉をしかめたあたしだが、トロンの奸智にさんざん煮え
湯を飲まされた彼女からしてみれば、仕方のない対応なのだろう。自分でも充分理解して
いるのか、その口元に苦笑が浮かぶ。
『ま、賢明な対応だと思うけど。でも、こんな状態でどうやってボクのとどめをさすの?』
 自分の右肩から生えた長剣を目で追いながら尋ねるトロン。おそらく、全身を激痛が駆
け巡っているだろうに、気丈に振る舞う態度は痛々しさすら感じる。
『忘れたか? 私には、まだこれがある』
 そう言いながら、腰に吊るした鞘を軽くたたくレスティーア。あの戦いを思い出したのか、
トロンの表情がわずかに強張る。でもそれは、わずかな時間だった。トロンの顔が上を向
く。
『なるほどね。でも、レスPこそ大切なことを忘れてないかな?』
 そう話しかけるトロンの目が笑っている。そう、とんでもない悪巧みを思いついた時の
あの顔だ。
 その時、あたしのインカムのマイクに、かすかな機械音が聞こえた。それはトロンの目
の前にいるレスティーアの耳にも当然届いただろう。
『うおりゃッ!!』
 気合いの入った掛け声とともに、トロンの身体が前に動いた。壁に縫い付けられた右腕
をそのままにして……
「なっ!?」
 それは、トロンがレスティーアと初めて戦った時の再現だった。あの時もトロンは、チーグ
ルを強制排除して危機を脱したんだ。
 そのまま猛然と突き進むトロン。レスティーアの顔に、強烈な頭突きを見舞う。トロンの
予想もしない反撃に、レスティーアは鼻を押さえながら後方に飛び退る。
 チャンス到来! けど、トロンは突然腹部を押さえると、そのままがっくりと地面に膝を
ついてしまう。
『やれやれ、しっかりしてんね、レスP……』
 トロンは後ろを振り向くと、悔しそうな顔をする。そこには、ソウルテイカーの右腕がさび
しく地面に転がっていた。
 こんな状況でも、己の武器は手放さない。そんなレスティーアに対して、トロンが呆れ
とも感心しているともとれる口調で話す。そしてうつむくと、何かをつぶやいた。声はあた
しに届かなかったけど、トロンが何を言ったかはわかった。
 
                     ── 楽しい ──
 
 トロンの唇は、そう形作っていた。
 そういえば、さっきのレスティーアの攻撃を避ける時、トロンは笑っていた。
 最初はあの笑みは、レスティーアをからかってのことかと思っていた。でもあれは、ま
さに歓喜の喜びだったんだ。
 
 自分より強いものと相対する者だけが感じる恐怖と対になる感情。言葉で説明するのは
むずかしい。でも、あたしにはトロンの心情はよく理解できた。あたしも同じものを持ってい
たから……
 
 右腕を拾い上げ、自らにあてがえながら視線を上げるトロン。その表情は清々しすら感
じた。
『レスPはやっぱり強いね。 ホント……オラ、わくわくしてきたぞっ!』
 不敵につぶやきながら微笑むトロン。
 
 
     あんまりこんな時にツッコミたくないんだけど……キャラが変わってるぞ!

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