神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第43話


                  武装神姫 クロスロード

                  第43話 「覚醒」

 一直線に自分たちめがけて突進してくるあたしたちを目にするや、使徒たちはあわてて
迎撃を開始した。
『この……こなくそッ!』
 雨あられと降り注ぐビームをかいくぐり、あたしは使徒に肉薄する。
 使徒はビームライフルを投げ捨てると、手にしたビームソードをふりかざす。光の刃が
顔面めがけて突き込まれる。
 間一髪、限界まで首をひねってソードの切っ先をやりすごす、首のジョイントが盛大に
悲鳴をあげた。

                   あっ、なんかヘンな音がした。

 首を押さえながら、惰性で突っ込んできた使徒をかわすと、あたしは使徒の背中を思い
切り蹴りとばした。
 バランスを崩し、使徒は地上めがけて落ちはじめる。
『えっ、ルーシィ?』
 落下していく使徒を目で追っていると、まだルーシィが戦場となった店内に残っている
ことに気がついた。
 さっきからポツンと上を見ていたルーシィは、使徒に気づくやあわててビームライフルを
持ち上げ照準を合わせるが、いっこうに攻撃する気配がなかった。
『どうしたの? ルーシィ!』
 あたしの叫びにもちかい問いかけにも、身体を震わせ彫像と化したかのようにルーシィ
は動かない。

                   しまった! ルーシィはまだ……

 ルーシィは、その優しさゆえに敵に対しても非常に徹しきれない。あたしは、実戦に身
を置けばルーシィも変わるだろうと簡単に考えていた。
『この……馬鹿女!』
 自分自身を罵倒すると、全力で急降下を開始する。
 ルーシィに狙い撃たれると観念していた使徒も、ルーシィの異変に気づいたみたいだった。
ブースターが火を噴き、ルーシィに体当たりせんほどの勢いで襲いかかる。
『ルーシィ、逃げて!』
 あたしの血を吐くような叫びにも、ルーシィは動かない。
 絶望が全身をかけ巡った瞬間、あたしの横を一陣の疾風が通り過ぎた。背後から襲いか
かる気配に気づき、使徒は頭上を降り仰ぐ。

『<ブレードストーム!>』
 叫びとともに、白い疾風が使徒の身体を駆け抜け、恐怖を顔に張り付けたまま彼女の身
体は空中で数個に分かれ、閃光に包まれた。
『……リセル』
 放心したように床に座り込んだルーシィのそばに、両手に一対の光剣を握りしめたリセ
ルが音もなく立っていた。
『セラフ…さん?』
 ようやく事態を把握したのか、リセルを見上げるルーシィの瞳に、大粒の涙がたまって
いく。リセルは光剣を腰に収めながらしゃがみ込むと、ルーシィの身体をそっと抱きしめ
た。
『もう、だいじょうぶよ』
 その言葉に安堵したのか、ルーシィは声を上げて鳴きはじめた。
『ルーシィ!』
『リ、リンさま?』
 床の降り立ち、走りよるあたしに気づくと、ルーシィはいきなりしがみついてきた。
『リンさま、ごめんなさい。わたし、わたし……』
 あたしは、嗚咽をあげて泣きじゃくるルーシィのあたまを撫でさすった。
『もういいよ、何も言わなくても。ほんとうにごめんね、無理させちゃって。あとはあ
たしたちに任せてルーシィは美佐緒たちのところに行って』
 ルーシィは驚きの相を浮かべ何か言おうとしたが、あたしは首を振ると地下室の入り
口を指示した。
 あたしたちはしばらく沈黙したまま見つめ合っていた。でもあたしが口を閉ざしている
と、ルーシィは観念したのか、肩を落としながら美佐緒たちの元へと歩いていった。

 あたしはルーシィの後ろ姿を見送りながら、こんなときに気の利いたなぐさめの言葉一
つかけてあげられない自分の不器用さに心底腹を立てていた。
『だいじょうぶですよ、隣さん。ルーシィはわかってくれます』
 あたしの心情を察してくれたのか、リセルはそう言いながら上を向いた。

『また、借りをつくっちゃったね?』
 飛翔しながら、前を向いたままあたしはリセルにお礼を言った。
『いえ、そんな……それに、ルーシィを見ていると昔を思い出すんです』
 リセルは、すこし照れくさそうに言った。
『むかし?』
『ええ、あの娘はそっくりなんです』
『誰に?』
『わたしに……です』
 それはまったく予期しない言葉だった。あたしがそのことを問いただそうとすると、リ
セルはかすかに微笑み、さらに加速した。

『いいかげんに観念したらどうだ?』
 再び対峙したあたしたちにむかって、サタナエルが嘲笑を含んだ声で話しかけてきた。
 問いには答えず無言でにらみつけるあたしたちを前に、サタナエルは大きなため息をつ
いた。
『貴様等がどうあがこうが、結果は変わらん』
 サタナエルはそう言いながら、ちらりと眼下に目をやった。
 戦いの余波でボロボロになった床の上に、ガーネットやレスティーアにリューネ、それ
にリベルターが見るも無惨な傷を体中に刻み込まれ、床に倒れ伏していた。
 あたしの目は涙で曇り、彼女たちをスリガラスのむこうに覆い隠す。
『あたしはあんたを許さない。必ずガーネットたちの仇は取ってみせる!』
『安心するがいい、トナリ・イチノセ。奴らはまだ完全に破壊されてはいない』
『え?』
 思いがけない言葉に、反射的にサタナエルの顔を見る。
あたしを見つめるサタナエルの
顔はいびつにゆがんでいた。
『私は慈悲深い──そう、奴らは貴様等人間の言葉に例えれば、まだ“虫の息”というや
つだからな』
 サタナエルはそう言うと、高らかに笑いだした。

 慈悲なんかじゃない。こいつは少しでもガーネットたちの苦痛を長引かせるために、
わざと彼女たちを生かしてるんだ!

 『サタナエル……あんたはッ!!』

 あたしの全身を、かつて感じたことのないほどの怒りが駆け抜けた。
『隣さん、落ち着いて!』

 リセルの制止を背中で受けるが、もう止まらない!


 ── うっ ──

『え?』
 あたまの中に声が響いた。

 ── ここ…は? ──

 身体中をかけめぐっていた怒りが、引き潮のように去っていく。“黒き翼を”はばたか
せ、サタナエルと距離をとる。
 あたしの豹変ぶりに、サタナエルは黙ったまま事の成り行きを見守っている。
『この声……トロンなの?』
       
 ── リン? ボクはいったい…… ──

『くわしい話しはあと! トロン、サタナエルを斃したいの、力を貸して!!』

 ── サタ…ナ…エル?………サタナエルッ!! ──

 混濁した意識がつながったのか、激情にかられたトロンの動きに、あたしの身体が勝手
に動き出した。
『きゃああああッ!? ちょ、ちょっとトロン、タイム! 落ち着いて!!』
 いきなり奇妙な動きをはじめたあたしを見て怪訝そうに見ていたサタナエルや使徒たちが
後退をはじめる。

── うわっ!? か、身体が動かない、なんで? ──

『だから、いま説明するって! あんたがシステムダウンしちゃったんで、店長さんにた
のんでライドシステムを使わせてもらったの』

── ライドシステム、そうか、だから…… ──

 ようやくトロンは現状を把握してくれたみたいだった。急に身体の自由がきくようにな
った。

『ライドオンしたまではよかったけど、なんか身体が重いのよ。サタナエルのヤツはめち
ゃくちゃ強いし、それに、ガーネットたちも……』
 あたしはそう言いながらもう一度下を見た。トロンの息を呑む気配を感じた。
「いいや、一ノ瀬くん。きみたちはまだ、完全にライドオンをしていないんだ」
 店内に備えられたカメラで逐一現状を見ていたのだろう。店長さんの声が耳朶を打つ。
『ど、どういうことなんですか、それ?』
「システムダウンした神姫に、強制的にライドオンするなんてケースは前例がないんだ。
きみにどんなリスクが起こるかわからない以上、トロンくんが再起動するまで無茶はでき
なくてね」
『じゃあ、いままでのって……』
「一ノ瀬くんが特訓のためにネイキッドを動かしていたろう? あれと同じだ」

 すっぱりとそう言いきる店長さん。まっさらなネイキッドはあたしの思いどおりに動い
てくれたけど、この身体はトロンのものだ。あいつのくせが染み着いている。しかも、か
んじんのトロンは寝たまま……

                あはは、そりゃ身体が重いわけだ。

 いままでの苦労は何だったの? と自問自答していると、あたしの気持ちに微塵も気
づいてない店長さんから通信が入る。
「ではこれから全システムを起動させる。用意はいいかい、二人とも!」
『は、はい! ……トロン?』

── わかってる、いこう、リン! ──

 あたしの問いかけに、トロンは間髪入れずに答えてくれた。
『店長さん、お願いします!』
「わかった、ライドシステム……ON!」

 店長さんの言葉が終わった瞬間、あたしのあたまに──ううん、身体中に何かが
流れ込んできた。

                  あたしの中にトロンが……


                 ── ボクの中にリンが ──

 意識と肉体の融合……いまあたしたちは、ほんとうの意味で一つになった。

 全身を覆っていた薄い箔がはがれ落ちるような感覚。あたしの肌は、場に満ちた殺気を
びりびりと感じ取っていた。

             そう、生身の身体のときに感じていたあの感触……

『これが、ライドオン……』
 握りしめた拳を見つめていると、悲しみに彩られた声が耳を打った。
「一ノ瀬さん」
「せんぱい、ガーネットを……」
『だいじょうぶ、あたしたちに任せて!』
 マイク越しに聞こえる美佐緒たちの声に、あたしは両の拳を打ちならし即答する。
『リンさま…』
 もうしわけなさそうなルーシィ。あの娘の声に反応するように、あたしの身体は勝手に
動いた。
『だいじょうぶだよルゥ、あとはボクたちがなんとかするからさ』
『トロンちゃん!?』
 その口調からトロンだと察したのだろう。ルーシィの声は、安堵のためかかすかに震える。
『ふん、いつまでもくだらん戯れ言を……いい加減に覚悟を決め……う!?』
 吐き捨てるようにサタナエルはつぶやくが、あたしと目が合うや、残りの言葉を飲み込ん
でしまう。
 あたしはゆっくりと、サタナエルを指さす。

『よぉく見ておきなさい、サタナエル。あんたのいう“ガラクタ”の底力ってやつをねッ!』


        あたしはそう叫ぶと同時に、サタナエルめがけて突き進んだ。


                      トロンとともに。

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武装神姫 クロスロード 第42話

                  武装神姫 クロスロード

              第42話 「熾天使の来訪」


『<ライトニング・フェザ───ッ!>』

 反射的に振り仰ぐあたしの目に、美佐緒たちに襲いかかるガンポッドの上空から数知れ
ぬ光の羽根が雨のように降り注ぐ。
 光り輝く羽根が突き刺さると、ガンポッドは爆発を起こし、閃光が消えたあとにはあれ
ほどの数を誇ったガン・ポッドがすべて消えていた。
 カメラアイをズームさせると、吹き抜けになった天井すれすれのところに六枚の巨大な翼を
広げ、全身から淡い光を放つ一体の神姫が音もなく浮いていた。

『あの…神姫は……』

 その神姫を見た瞬間、あたしの脳裏に数年前の出来事が鮮明によみがっていた。

                          ※
 
「となりおねぇちゃ~ん。はやくはやくぅ!」
「ちょっとまってよ、美佐緒。いったいなんだっていうの?」 
 不機嫌さをかくそうともせず、乱暴に美佐緒の手を振り払うが当の本人はどこ吹く風だ。
「となりおねぇちゃんにあわせたい子がいるのぉ」
「会わせたい子? だれのことよ?」
「えへへ、……が~ねっとぉ!」
「ガーネット? 何よ、あんた犬でも飼ったの?」
「が~ねっとはいぬじゃないよぉ!」
 まゆを寄せながら尋ねると、美佐緒は不満そうに頬をふくらませる。 

                 まるで、焼き餅みたいね……
 
「わかったわよ。そのガーネットとかいうのに会えばいいんでしょう?」
「うん!」
 さっきとは、うって変わって満面の笑みを浮かべる美佐緒の頬をつつきながらあたしは
たずねた。
    
                 今は、つきたてのお餅みたい……

 美佐緒はうれしそうに笑うと、また両手であたしの手をひっぱりはじめた。 

 美佐緒にひっぱられるまま歩いていると、あたしたちは耳をふさぎたくなるほどの音を
立て、工事を続けるのビルの前を通りかかった。
「君たち、危ない!」
「へ?」
 いきなり背後からあびせかけられた大声に、おどろきあたしにしがみついている美佐緒。
その肩に手を置きながら振り返った。
 そこには、サラリーマン風のおじさんが顔をひきつらせながらあたしの頭の上を指さし
ている。
「となりおねぇちゃん、うえっ!」
 すぐとなりで美佐緒の悲鳴にも近い叫び声があがり、あたしはつられて空を見上げた。

                  あの黒いのって、なに?

 あたしたちめがけて一直線に落ちてくるソレが数本の鉄パイプだと気づいた瞬間、あた
しは反射的に美佐緒を押し倒し、その上に覆いかぶさっていた。
 路上にぶつかり音をたてる耳障りな金属音が止むと、あたしはかたく閉じていた目をそ
っとひらく。
 運がよかったのか、鉄パイプはあたしたちを避けるように落ちてきたみたいだった。
「美佐緒、だいじょうぶ? どこもケガしてない?」
 あたしは美佐緒の両肩をつかむと、軽くゆすってみた。
 はじめは焦点の合わなかった美佐緒の瞳が、ようやくあたしの姿を映しだすと、かすか
にうなずいた。
 美佐緒の無事に大きなため息をつこうとしたが、フと周りを見たとたん、あたしはでか
かったため息を飲み込んでしまった。
 目の前……ううん、周りに転がっていた鉄パイプは、どれもまっぷたつになって転がっ
ていた。
 異変に気づいた美佐緒としばらく顔を見合わせていたあたしは、ゆっくりと空を見上げ
た。

 そこには光り輝く六枚の翼を広げ、悠然と宙に浮かぶ人影があった。それはあたしたち
と比べてあまりにも小さかった。でも、あたしにはその人影の指先まではっきりと見えた。
「天使……」
 あたしの横で、美佐緒の惚けたような声が聞こえた。

               そう、その小さな人影はまさに天使だった。

 その人影が“神姫”と呼ばれる存在だったこと。そして、それがアーンヴァルという
天使型の神姫だとあたしが知ったのは、もう少し先のことだった……

                          ※

「隣ちゃん、聞こえるか?」
『ひゃっ!?』
 いきなり男の人の声が耳元で聞こえ、我に返ったあたしは空中で飛び上がった。
『この声………………まさか、須賀さんですか?』

 須賀 匠。そう、前にスーパーで出会ったアーンヴァル──リセルのマスター。

『どうして須賀さんがここに? というか、いまどこにいるんですか?』
「隣ちゃんのすぐそばさ」
『へ?』
 反射的に辺りを見回すが、須賀さんの姿はどこにも見えなかった。あたしの耳に
、須賀さんの含み笑いが木霊する。
「ごめんごめん。正確にはきみの本来の身体のそばだ。いま、この店の地下にいる」

            地下……ライドシステムが置かれた場所。

 まだ現状が把握できていないあたしは口を開くが、須賀さんに先手を打たれてしまう。
「くわしい話は後だ。まずはリセルと合流してサタナエルを……」
『ちょ、ちょっとまってください! じゃあ、あのアーンヴァルはリセルなんですか?』
 おもいっきり須賀さんの話の腰をへし折ってしまったけど、それはやむを得ないことだった。

      じゃあ、あの時、あたしと美佐緒を助けてくれたのはリセルだったの?

 おどろきとなつかしさ。様々な感情があたしの胸をよぎるが、感傷的になったのはほん
のつかの間、サタナエルのつぶやきがあたしを現実へと引き戻した。
『……生きていたのか、セラフ……』

                       セラフ?

 サタナエルの押し殺したようにようなつぶやきには、聞き覚えがあった。それは、以前
DO ITで姫宮先輩が話してくれた、アーンヴァルの名前……

『……隣さん』
 耳元でささやくように名を呼ばれ、おどろき振り返る。すぐそばに、はにかんだ笑みを
浮かべリセルがあたしと並び立つように浮いていた。
 あの左頬にある特徴的なほくろ。間違いなく目の前のアーンヴァルはあたしの知ってい
るリセルだった。
『え~と、あの……お怪我はありませんか?』
 無言で穴が開くほど見つめられ、リセルが困ったような顔で尋ねてきた。
『え? うん、なんとか……ていうか、あたしがわかるの?』
 端から見れば、いまのあたしはポニーテールにしたトロンにしか見えないはずだった。
『ええ、事情は店長さんから……』
「コングラッチレーション!!」
 場にそぐわない調子っぱずれの歓声が、リセルの声をさえぎる。声の主である片桐は、
感極まったといわんばかりにあたしたちを見上げている。
「いや~、素晴らしい! セラフ……まさか、あなたが生きていたとは、これはうれしい
誤算というやつでしたよ」
 片桐の態度に嘘偽りは感じなかった。まちがいなくあいつはリセルの無事を心から喜
んでいるみたいだった。ただ、それとは対照に、リセルの表情はみるみる曇っていく。  
「あなたが……あなたみたいな人がいたから、みんなが……」
 怒りのためだろうか、それ以上リセルの言葉は続かなかった。ただ握りしめた拳をふる
わせている。
 片桐は、そんなリセルを不思議そうに見上げている。
『隣さん、力を貸してください』
 前を向いたまま、リセルが話しかけてきた。
『それはこっちの台詞──でも……』
 リセルの問いに反射的に答えたけど、拭いきれない一抹の不安が語尾を小さくしていた。 
 あれだけの実力をほこったレスティーアたち四人を瞬時に倒してしまったサタナエル。

         あたしたち二人だけで、あのサタナエルを倒せるだろうか……

「せんぱい!」
 美佐緒の悲鳴にも近い金切り声に我に返る。目を覆わんばかりのビームの束が目の前に
迫っていた。
 反射的に目をふさぐが、いつまで待っても痛みはおろか熱さも感じない。
『え? リセルッ!?』
 恐る恐る目を開けると、目の前にリセルが立っていた。
四枚の翼が身体を覆うように前方に展開し、サタナエルのビームは翼の前でその動きを完
全に止めていた。
『そんな、あのビームを……』
 あたしのつぶやきが合図だといわんばかりに、四枚の翼が勢いよく開き、ビームは軌道を
反らされ新しい標的である天井や壁に光る牙を突き立てる。

「あのアーンヴァル……」
 下から、どこか放心したような美佐緒の声が聞こえてくる。

       ようやく美佐緒も思いだしたみたいだ。あたしたちの命の恩人を……

『……天使(セラフ)』
 あの時と同じセリフがあたしの耳朶を打つ。でもそれをつぶやいたのは美佐緒ではなか
った。
『ルーシィ?』
 手にしたビームライフルを力いっぱい抱きしめながら、ルーシィはリセルの姿に釘付け
だった。
『隣さん!』
 リセルは真っ正面からあたしの目を見ていた。あたしは無言でうなずいた。
『美佐緒、先輩、早く地下室に!』
 あたしの声に、姫宮先輩は美佐緒をつれてライドシステムのある地下室へと向かう。
 入り口で二人を迎え入れる須賀さんの姿を目にし、安堵のため息がでた。

『……行くよ、リセル!』
『はい!』

 あたしたちは、同時にサタナエルめがけて飛翔した。

    迷っていても仕方がない、いまはあたしにできることを全力でするだけ!

 そう思いながらも、あたしは無意識のうちにつぶやいていた。




                『トロン、あんたがいてくれたら……』

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武装神姫 クロスロード 第41話

                武装神姫 クロスロード

                  第41話 「猛攻」

 あたしたちは飛翔し、サタナエルと対峙する。
 サタナエルは、左右を生き残った六体の使徒たちに守られるように悠然と宙に浮いてい
た。
 目指す敵は目の前! ほんとうならすぐにでも攻撃に転じるべきだったけど、改めて相
対したサタナエルの圧倒的な威圧感に気をされ、あたしたちは誰一人動けなかった。
『……奴は、何処にいる』
 どうしたものかと考え込んでいると、うなるようなつぶやきが聞こえてきた。
 おどろき振り向くと、レスティーアが左右に鋭い視線を送っている。
『……何処だ、アイギス!』
 ようやくあたしは、サタナエルを護衛する使徒たちの中にレスティーアの仇敵であるア
イギスの姿がないことに気がついた。
 いつの間にか、ひとり非常口の前まで移動している片桐のそばにも見あたらなかった。
「アイギスでしたらここにはいませんよ」
 回答は下からもたらされた。片桐はニヤケた笑みを浮かべながらあたしたちを見上げて
いる。
「彼女には別の用を頼んでいましてね……まさかここまで手間取るとは夢にも思わなかった
のですよ」
 いかにも人を喰ったような片桐の態度に、すぐ横からレスティーアの歯ぎしりの音が聞こ
えてきた。
「落ち着いて、レスティーア」
 いまにも片桐に飛びかからんとしていたレスティーアだったけど、姫宮先輩の声が聞こ
えるやその動きがぴたりと止まった。
「あなたの悔しさ、怒りは私にもよくわかる……でもね、あなたがここで私怨を晴らすた
めだけに独断専行を行えば、半年前のあの悲劇を繰り返すだけなのよ?」
 姫宮先輩の声音はどこまでも静かだったけど、それを耳にするやレスティーアは雷に打
たれたように硬直してしまう。
『姫……』
「あなたはもう、一人ではないの」
 先輩の声に、レスティーアはハッと顔を上げあたりを見回す。あたしたちと目が合うと
レスティーアはかすかにはにかんだような笑みを浮かべたが、すぐにいつもの厳しい表情
になるやサタナエルをにらみつける。
『さってと……』
 内心ホッとしながら、あたしは直面した難題を解決すべくあたまをめぐらせはじめた。
『まずは使徒たちを片づけるのが先決でござろうな』
 考えてることは同じみたいだった。ガーネットのつぶやきに、あたしは無言でうなずい
た。
『……その必要はない』
 荘厳な響きを込めた声に前を見る。サタナエルは左右に目配せしながら首を振った。左
右に散った使徒たちが、音もなく後退を始める。
『どういうつもり?』
『言ったとおりだ。茶番はもう終わり……貴様等の相手など私ひとりで充分』
 サタナエルはゆっくりと前へ進む。バイザー越しに見える瞳には憎悪の炎がゆらめいて
いる。
『まずは貴様等から』
 サタナエルがレスティーアたちを順に見ながら押し殺すようにつぶやく。
『そして──最後に貴様だ!』
 サタナエルは真っ正面からあたしを見据えると、吐き捨てるように言い放った。
『どうやら余計な“モノ”が混じっているようだが関係ない! 今度こそ欠片も残さず消
し去ってくれる。』
 “モノ”扱いされ、カッとなったあたしだったけど、背中から聞こえたレスティーアの
声になんとか踏みとどまる。
『欠片も残さず消えるのはきさまの方だ!』
 サタナエルめがけて、三条のビームが突き進む。一瞬おくれてもう一条のビームの束が
サタナエルに吸い込まれていく。
『……<エデン>』
 必殺の一撃になるかと思われたレスティーアとリベルターの攻撃。でも、それは瞬時に
展開されたフィールドにより、いとも簡単に弾かれてしまった。
『ぉおおおおおッ! ぺィイイイン ナッコォオオオオオッ!!』
 呆気にとられ硬直してしまったレスティーアたちの横をすり抜け、リューネが雄叫びと
ともにサタナエルめがけて殴りかかった。
『なっ!?』
 サタナエルの頬めがけて叩き込まれるはずだったリューネの剛拳も、やはりフィールド
の前にはばまれサタナエルまでとどかない。
『やはりあのフィールドをなんとかせねば、こちらの攻撃は利かんようでござるな』
 さっき自分の必殺剣がフィールドの前に無力と知ったガーネットが、冷静にサタナエル
の能力を分析しながらつぶやく。
『何を悠長なことを! このままでは無駄に時間に浪費するだけでしてよ?』
 なおもフィールド越しにサタナエルを殴り続けていたリューネが血相変えてガーネットに
噛みつく。
『なぁに、時間は取らせんさ』
 鬱陶しそうにリューネをちらりと見ながら、サタナエルが憮然としながら言い放つと同
時に、サタナエルの背後で爆発が起きる。
 それが巨大なブースターから放たれた光球だと気づいた時には、サタナエルの巨体が
急上昇をはじめた。
 呆気にとられているあたしたちから距離をとると、サタナエルは急制動をかけその場で
停止した。
 サタナエルの全身を覆っていたフィールドが音もなく消える。
『今よっ!』
 我に返ったあたしが叫ぶと、みんな四方からサタナエルを攻撃すべく一斉に動き出した。
『ルーシィは美佐緒たちを守って!』
 どうしていいかわからず、おろおろとあたりを見回していたルーシィに声をかける。
 ようやく自分が何をすべきか気づいたルーシィは、ビームライフルを肩に担ぐと一目散
に走りはじめた。
『<フェザー>』
 サタナエルがささやくようにつぶやくと、翼状のパーツの一部が大きく開いた。その奥
に見える小さな影がせり出し、射出体勢に入る。
『……ガンポッド』
 あたしの横で、レスティーアがうめくようにつぶやいたのが合図だったかのように、ガ
ンポッドは一斉に射出された。
 我に返ったあたしたちは、弾かれるように左右に散った。レスティーアとリベルター
は果敢に狙撃をはじめるが、ガンポッドの数はざっと見ても五十はくだらない。
 数基のガンポッドがビームの光の中に消えたが、まさに「焼け石に水」状態だった。
『くっ……何ッ!?』
 回避運動を試みながら、なおも狙撃を続けるレスティーアに数条のビームが襲いかかる
が、強化腕の片方を失いながら、かろうじて不意打ちをかわす。
 内心胸をなで下ろしながら視線をめぐらせると、加虐的な笑みを浮かべたサタナエルが
こっちを見ていた。その巨躯に収められた砲口から光が溢れている。
『来るでござる!』
 ガーネットの叫びと同時に、数条のビームがあたしたちめがけて放たれた。
 どちらか片方だけなら、まだなんとかなったかもしれない。でもガンポットとビーム砲、
この両方を同時にかわす術はあたしたちにはなかった。
『ぐっ!』
『きゃああああ!』
 レスティーアとリベルターは飛来するガンポッドをかろうじてかわすも、ビームの直撃
を受けてしまう。
『がっ!』
『ああ!?』
 ガーネットとリューネはビームをかわすことには成功したけど、ガンポッドの四方から
攻撃にその身をさらしてしまう。
『みんなッ!!』
 身に纏っていた武装をまき散らし、白煙を全身からたなびかせながらリューネたち四人
は力なく落ちていく。
 あわててみんなのあとを追おうとしたが、背後からせまる無機質な殺気に反射的に振り
返る。目の前にガンポッドが迫っていた。
 でも、なぜかガンポッドの群は目と鼻の先でガンポッドは動きを止めてしまう。
『なんのつもりよ!』
 音もなく宙に浮くガンポッド越しに、無言であたしを見ているサタナエルに誰何する。
『言ったはずだ、貴様は楽に殺さんとな……今、おもしろい考えが浮かんだのだ』
 サタナエルは重々しくつぶやくと、あたしを取り囲んでいたガンポッドが一斉に動き出
した。
 襲いかかるガンポッドの群、反射的に身構えるが、ガンポッドはあたしを避けるように
動くと猛スピードで背後に流れ去っていく。
『己の非力さを呪い絶望に身をよじれ──貴様を破壊するのはその後だ』
 抑揚のないサタナエルのつぶやきに、彼女のねらいがなんなのかあたしは気がついた。
『美佐緒、逃げて!』
 ガンポッドはくいと鎌首をもたげ、獲物をねらう蛇のような動きで背後の美佐緒たちに
襲いかかる。
いち早く気づいた姫宮先輩が美佐緒の手を取り安全な場所に避難させようと動きだし、
その足下ではルーシィが懸命にガンポッドを打ち落とそうとしていた。
 あたしも必死に後を追うが、ガンポッドとの距離は一向に縮まらない。

                 だめだ、間に合わない!


           『<ライトニング・フェザ───────ッ!>』



 心臓を鷲掴みにされたような痛みが胸を走る。その時、絶望が胸を覆い顔を伏せた瞬間、
凛とした声が響き渡った。

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武装神姫 クロスロード 第40話

                    武装神姫 クロスロード
 
                  第40話 「ライドオン」




                      ── うっ!? ──

 意識の覚醒とともに全身を襲ったのは、耐えがたいまでの痛み。そして、あたしの目に飛び
込んできたのは、辺り一面火の海と化した家の中だった。
 壁も廊下も──ううん、家そのものが灼熱の舌に舐めとられ断末魔の悲鳴を上げている。
 その光景はまさに地獄そのものだった。

 でも、身体中を熱波と痛みになめ回されながらも、身体はあたしの意志とは無関係に
前進を続けた。
 目の前の床に倒れ伏した人影に向かって……

『……シャ、シャーリー……』
 あたしの口が、あの名前をつぶやく。

『ご、ごめん、シャーリー、ボク……』
 たったひとつ残った右腕を精一杯伸ばすが、今のあたしには人影までの距離はあまりに
も遠かった。

 力無く地に落ちる指先、あたしの頬を伝わる涙は熱のせいですぐに乾いてしまう。

『ふふふ……あーはっはっはッ!』

 突然背後で哄笑が響きわたる。反射的に背後を振り返る。廊下の端に転がっているの
は──あたしの下半身。

 哄笑の主は、その遙か高みからあたしを見下ろしていた。

                     サタナエル……

『何が神姫だ。“神なる姫”だ! この程度の力しか持たぬガラクタが私に取って代わろう
などとかたはら痛いわ!!』

 あたしの心に、憎しみや悔しさといった感情が流れ込んでくる。でも、もう身体が動か
ない。荒れ狂う炎の中で、サタナエルはいつまでも笑い続けている。

 

          そして、あたしの意識は再び闇の中に落ちていった……
             

                         ※


『……う、ここ…は?』
 ゆっくりと瞼を開くと、そこは薄闇に包まれていた。
『まったく、目が覚めてもまだ闇の中なんて──ん?』
 あたしは頬に妙な感触を覚え、反射的に指で頬をなぞる。

                    濡れていた。

 黒光りする鋼の指についた液体を見ながら、あたしはポツリとつぶやいた。
『涙……そっか、あれはトロンの……』
 あたしはこのとき、すべてを理解していた。

『トロンちゃん! 気がついたんだね?』
 あたしの思考を断ち切るように、いきなりルーシィが飛びついてきた。
『ちょっとルーシィ、落ち着いてって』
 涙でぐしょぐしょになった顔で頬ずりしてくるルーシィにちょっぴり辟易しながらも、
ようやくあたしは現状を思い出した。
 頭上では、ガーネットたちが乱戦の真っ最中だ。
『あ、あの、トロン…ちゃん?』
 ルーシィは、あたしを見下ろしキョトンとしている。
『ありがと、ルーシィ。ひとりでトロンを守ってくれてたんだね』
『へ? は?』
 大きく見開かれたルーシィの瞳に映ってるのは、まごうことなきトロンだ。
 とうぜんルーシィには今の状況は理解できないだろう。あたしは苦笑しながらルーシィ
のあたまを撫でてあげた。
『時間がないからくわしい話はあと! それより援護の方、頼むわよ?』
 身を起こしながら手短に用件だけ言うと、あたしは“黒き翼”をはばたかせ、飛翔した。


 しばらくして、遙か下からルーシィの悲鳴にも似た叫びが聞こえてきた。


『……たたた、たいへんじゃ───ッ! トロンちゃんがナンか変ッ!!』




           ……これじゃあ、援護は期待できないわね……

                        ※ 


                   何……この感じ?

 あたしは違和感にまゆをひそめた。妙に身体が重かった。少なくとも、トロンの特訓
につきあいネイキッドを動かしていたときはこんな感じはなかった。
 前方で行われてる戦いの喧噪に我に返る。

           いまはそんなこと気にしている場合じゃない!

 いったん戦いの場を見下ろすぐらい上昇すると、そのまま逆落としに降下する。
 あたしは、使徒のひとりに向かって右手を突き出す
『えっと、こう…かな、わっ!?』
 右手の肘に装備されていたアンカーガンが、ガスの噴出とともにいきおいよく射出される。
 あてずっぽうだったけど、運よくアンカーガンは使徒の持つビームガンを弾きとばすと、
そのままレスティーアたちの間をすり抜ける。
『トロン!?』
『貴様は!』
 レスティーアたちの声を背中で聞きながら、あたし降下を続け床に着地する。
 頭上に感じた殺気に我に返る。振り仰ぐと銃を失った使徒がビームソードを振りかざし
ながら一直線に突っこんで来る。
 突っ立ったまま自分を見上げるあたしをいぶかしながらもも、手にしたビームソードを
振りおろす。
『なっ?』
 ビームソードはその高熱の刃で深々と切り裂いていた。

                   自らの立つ、床を……

『どこを狙ってるの?』
『うおっ!?』
 何が起きたか理解できない使徒は、耳元で聞こえた声におどろくと、後ろに跳びすさっ
た。
『ば、馬鹿な! きさま、いったい何をした?』
 あたしはなにも答えず無言で手招きした。
 怒りに顔を朱に染めた使徒が切りかかってくるが、その軌道はあたしの手刀によって反
らされ、むなしく髪留めを切り裂いたにすぎなかった。
 驚愕にゆがむ使徒には何が起こったのか理解できなかったろう。
 手首を極められ、自らの身体で虚空に弧を描いた時も、そのまま破片をまき散らしなが
ら床にたたきつけられた瞬間ですら……

 完全に機能を停止させてしまった仲間を目の当たりにしても、使徒たちは固まってしま
ったかのように微動だにしない。
 そんな使徒たちの間を縫うように、レスティーアたちがあたしの横に降り立った。
『トロン、きさま──大丈夫なのか?』
『うん、なんとかね。それよりレスティーア、他のみんなはどうしたの?』
 使徒の攻撃で片方の髪留めが吹き飛んでしまい、乱れた髪が視界をさえぎり鬱陶しかっ
たので、あたしは残った髪留めで薄紫色の髪を頭の後ろでまとめながらたずねたが、
いつまでたってもレスティーアからの返事はなかった。
 いぶかしげに顔を上げると、レスティーアの手のひらがひたいに押し当てられる。
『……どこもおかしいとこなんてなんて無いわよ?』
 にぎったレスティーアの手首を、ひたいからはずしながら話しかけるがレスティーアの
まなざしは困惑の色を深めるばかりだ。
『いや、どうみてもおかしいだろう?』
『おかしくなんかないって! よく見てレスティーア、あたしよ、あたし!!』
 自分を指さしながら詰め寄ると、レスティーアは訝しげに見ていたが、ようやく気がつ
いたみたいだった。
『ま、まさか、一ノ瀬どの?』
 レスティーアが惚けたような顔をしたのは、ほんのわずかな間だった。すぐに厳しい表
情を浮かべると、今度は彼女が詰め寄ってきた。
『なんという無茶なことを、危険すぎます!』
『今のあたしと使徒の戦いを見てなかったの?』
 さも心外といわんばかりに顔をしかめてそう言うと、レスティーアは押し黙ってしまう。
『わかってる。あたしが今まで経験してきたことと、神姫たちの戦いがまるで異質だと
いうことぐらい。でもね、いまはそんなこといってる時じゃない。みんなで力を合わせな
けきゃ、あいつは──サタナエルはたおせない!』
 一気にまくして、あたしが息継ぎをしている間もレスティーアはだまってあたしを見つ
めるだけだった。
『わかりました、一ノ瀬どの』
 大きなため息とともに、レスティーアはそう言った。あたしはレスティーアの肩を軽く叩
くとそろって姫宮先輩の足下に駆け寄った。
『すみません、遅くなって』
 だいたい予想はついたけど、案の定返事はなかった。
 頭上を仰ぐと、姫宮先輩は目をまん丸くしてあたしを見下ろしている。
「せんぱぁああああいッ」
 不本意だが、あたしの現状にいっぱつで気づいたヤツもいたみたいだ。美佐緒は地響き
をあげながら走り寄ると、あたしを抱き上げ頬ずりをはじめる。
『ちょ、ちょっと美佐緒、落ち着いて……』
「いや~ん、せんぱいったらさらにちっちゃくなって可愛い! もうこのままぺろぺろし
た──げほ!?」
 あたしの右ストレートが頬にめり込み、美佐緒はもんどりうって倒れ込む。
「せんぱいったら、ひどいです~」
『うるさい! PBぶち込まれなかったことに感謝しろ!!』
 頬を押さえながらブーたれる美佐緒を一喝していると、背後から遠慮がちに話しかけら
れる。
『……そのリアクション……』
『ほんとうに、隣どのでござるか?』
 振り向きながら重々しくうなずくあたしに、リベルターとガーネットが顔を見合わせる。
『まったく。そこまで自虐嗜好のある方だとは存じませんでしたわ。それ以上小さくなっ
てどうするつもりですの、隣さん?』
『ちっちゃいって、言うな────ッ!』
 あきれ果てたといわんばかりの顔で話しかけるリューネに、あたしは中指を突き立てな
がらツッコむ。
『隣どの、落ち着くでござるよ』
 ガーネットの声に我に返ると、あたしは数度深呼吸を繰り返した。
『そうね、今やりゃなきゃならないのは……』
 

 そう言いながら前方に視線を向ける。あたしたちを見つめるサタナエルは、冷ややかな
笑みを浮かべていた。

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武装神姫 クロスロード 第39話

                 武装神姫 クロスロード

              第39話 「ふたつでひとつ」

 あたしはサタナエルから逃げ出すようにゆっくりと後ろに下がりだす。
 でも、決死の逃避行は背中に当たった壁のせいで数歩で終わりを迎えてしまった。
 とっさに左右に視線を向けるが、どちらに逃げようともサタナエルには想定内のことだ
ろう。きゅっと吊り上がったサタナエルの口元が、無言でそれを肯定している。

 眼孔のような砲口から光があふれだす。どうあがいても現状を打破できないことを悟っ
たあたしは、トロンを力一杯抱きしめサタナエルの攻撃からかばうようにしゃがみ込む。

『秘剣……刃狼ッ!!』

 振り仰いだ全員の瞳に、大気を切り裂く巨大な狼の姿が映しだされる。
 とっさにフィールドを展開させたサタナエルに、狼の咢がおそいかかった。
『ちっ!』
 ダメージこそ与えられなかったみたいだけど、サタナエルの巨体がはげしく揺さぶられる。
 天井の大穴から小さな人影が身をひるがえし、音もなくあたしの目の前に着地する。
『大丈夫でござるか、隣どの?』
「うん、なんとか……でも、トロンが大変なの!」
 あたしは、握りしめていたトロンを差し出す。ガーネットはひとしきりトロンを調べて
いたけど、やがて顔を上げる。
『これはいったい……何があったでござるか?』
「それがわからないのよ。サタナエルから昔の話を聞いたとたん、こんなんなっちゃって」
 身振り手振りを交えて事の顛末を説明するが、ガーネットはますます眉をひそめるばかりだった。
 しばらく黙り込んでいたが、奥の方からあたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
 目を凝らして薄闇を擬視すると、階段の中程から美佐緒がおっかなびっくり顔を出して
いる。
「美佐緒!? あんたこそ大丈夫? どこも怪我してない?」
「はい」
 美佐緒の声に安堵し胸をなで下ろしていると、複数の足音が階段の方から聞こえてきた。
足音は、すぐに懐かしい人たちの姿へと変わった。
「みんな!」
 あたしはサタナエルをさけるように大きく迂回しながら階段の方へと向かった。
 不思議なことに、サタナエルは一瞬美佐緒たちを横目で見るが、興味がないといわんば
かりに微動だにしない。
「一ノ瀬くん、無事かい?」
 つかの間の再会を喜び合っていたけど、それもわずかなことだった。
「あたしなら平気です。でも、トロンが……」
 店長さんたちの目の前に、あたしはトロンを差し出した。
「!? いったい、これは……」
「わかりません。トロンの過去を聞いたとたん、こうなっちゃって……」
「なんだって、過去?」
「ええ、……店長さん、ひょっとしてトロンの過去を……」
 過去という単語に店長さんの表情がサッと変わった。あたしの問いかけにも答えようとしない。
「あの……」
『リンさまぁああああ!』
 場違いなほどの明るい声に、頭上を仰ぎ見る。レスティーアに抱き抱えられたルーシィがあた
しに手を振っている。
 爆撃機の爆弾よろしく、空中で投棄されたルーシィがあたしめがけて飛び込んできた。
 あわてて受け止めると、あたしはしっかりとルーシィを抱きしめた。
「ルーシィ! よかった、無事だったんだね?」
『はい、わたしはだいじょうぶです。リンさまこそ、お怪我はありませんか?』
 心配そうにあたしの全身に目をやるルーシィに、あたしは苦笑した。
 あたしたちの足下に着地したレスティーアにリューネ、そしてリベルター。多勢に無勢、
あれだけの使徒を相手にみんな大なり小なりダメージを受けているみたいだけど、とにも
かくにもみんなの無事な姿にあたしは心底安堵した。
『リンさま、トロンちゃんはどこです?』
 キョロキョロとあたりを見回すルーシィ。あたしは床に横たわったトロンを指さした。
『トロンさん?』
『そんな、バカな…』
 リューネとレスティーアとが信じられないという風にあたまを振る。
『うそ……トロンちゃん?』
 ルーシィはよろけながらトロンのそばにいくとしゃがみ込んでしまう。
『ねぇ、起きてよトロンちゃん』
 すがりつくように身体をゆさぶるが、トロンは目を覚まさない。
『ねぇってば、トロンちゃん!』
 さらに強くトロンをゆさぶるルーシィ。あわてて止めようとするが、背後からリベルタ
ーがルーシィの身体を抱き抱える。
『だいじょうぶよ、ルーシィ。トロンはシステムダウンをおこしているだけ、時期に目を
覚ますわ』
『ほんとうですか?』
 すがるように尋ねるルーシィに、リベルターは力強くうなずいてみせる。

「しかし、意外な展開ですねぇ」
 この戦いが始まってから傍観者の立場を貫き通していた片桐が、あたしたち一同をゆっ
くりとながめてからようやく口を開いた。
「サタナエル、現在稼働中の使徒の数は?」
『六体です』
 間髪入れずに答えるサタナエル。片桐はあごに手をやり考え込む。
「しかし、意外な展開ですねぇ」
「何が意外なのよ?」
 同じセリフをくりかえしながらまた考えこむ片桐に、あたしはいらだちを隠そうともせず
言い放った。
「いえね、<ナイン>のみなさんならいざ知らず、スペック的にも使徒たちがこちらの神姫
さんたちに負ける要素がみあたらないんですよ」
 片桐はそこで話を区切ると、ハンカチをとりだしメガネをふきはじめる。
「それなのに、現実は半数以上の使徒を失ってしまった……やっぱりこれって、意外な
展開だと思いませんか?」
「思わないわよ!」
 メガネをかけなおしながら尋ねてくる片桐に、あたしは歯をむき出して答えた。
 あたしの剣幕に片桐は肩をすくめるが、天井に向かって指を鳴らした。
 天井の穴から小さな影が姿を現し、片桐の周りに浮遊する。使徒たちはあきらかにおび
えていた。

                    そう、片桐に。

 ところが、当の本人はそれに気づいた素振りも見せなかった。
「まあ、いいでしょう。私がみたところ、みなさん青色吐息といった様子ですし、後はサ
タナエルにまかせましょう」
 片桐が話し終わると同時に、ゆっくりとサタナエルがあたしたちの前に進み出る。
 ガーネットの必殺剣ですら、サタナエルにダメージらしいダメージを与えることができなかった。

 ダメなものはダメ。あたしは気持ちを切り替えると、こんどはまわりを見渡した。
こっちはルーシィやレスティーアたち全員が、少なからずダメージを受けている。
 そりゃそうだろう。三倍近い数の差に加え、ただでさえ規格外の能力をあたえられた使
徒たちを相手に戦ったんだ、一人の犠牲もでていない現状は奇跡と思うべきだ。
『ふう、仕方がありませんわね』
 大きなため息をつくと、リューネが前にでる。
『落ち着けグリューネワルト』
 肩に置かれた手を、リューネは振り向きざまに払いのける。
『落ち着いたからといって、何か状況が変わりまして、レスティーアさん?』
『確かに……このままにらみ合っていても埒があかないでござる。ここは無茶を承知で敵
陣に切り込み、死中に活を求めるしかないでござるな』
 ガーネットは、籠手の留め具をきつく締めながらそう言うと、こっちに振り返った。
『拙者たちが突入したら、美佐緒どのたちはすぐにこの店から逃げるでござる』
 思いもしないガーネットの提案に美佐緒は狼狽するが、それはほんのわずかな間だった。
「な、何を言ってるの? ガーネットを置き去りにして逃げられるわけないでしょう!」
 声を荒げながら詰め寄る美佐緒。でも、ガーネットは顔色ひとつ変えない。
 ルーシィは、初めて見る美佐緒の真剣そのものの表情に、トロンを抱き抱えたまま唖
然としている。
『それでは拙者が困るでござるよ。美佐緒どのにもしもの事があったら、それこそ拙者
あの世でお館様に合わす顔がないでござる』
 ガーネットの悲壮な決意に気づいたのだろう。美佐緒は口ごもってしまうが、それは一
瞬のことだった。
「だめ! だめ、だめ、だめ!! 神姫とマスターは二つで一つなのよ? そんなの絶対
にだめッ!!」
 狂ったように頭を振り続ける美佐緒を、あたしは慌ててなだめすかした。

 そのとき、あたしの脳裏に美佐緒の声が木霊した。


                  神姫とマスターは二つで一つ


「そ、それよッ!」
 思わず叫んでしまったあたしを、美佐緒が涙でぐしょぐしょになった顔で見ている。
「店長さん、お願いがあるんです」
 わけがわからず怪訝な顔をする店長さんの耳元に、あたしは堰を切ったように話し出す。
「……な!? む、無茶だ! そんなこと……」
 そこまで話すと絶句してしまい、言葉が続かない店長さん。
「確かに無茶は承知です。うまくいっても現状を変えられるかはわからない。でも、もう
それしかしか手はありませんよ?」
 たたみかけるようにそう言うと、店長さんは追し黙ってしまった。
「一ノ瀬さん、いったい何を……」
 店長さんの表情から何かを察したのか、姫宮先輩が心配そうに話しかけてきた。
「もちろん、起死回生の策……とまではいかないけど、少しはこの状況は変えられると思
う……でも、そのためにはみんなの助けが必要なの!」
 いっきょにそうまくしたて軽い酸欠におちいったあたしを、レスティーアたちが怪訝そ
うに見つめている。
『何をお考えなのです、一ノ瀬どの?』
 大きく深呼吸を繰り返すあたしに、みんなを代表してレスティーアが話しかけてくる。
『隣さん、急いでください。ここは私たちが!』
 みんなの上げた疑問の声をさえぎるように、手にしたLC5レーザーライフルをかまえ
ながらリベルターが叫ぶ。
『リベルター、どこまでも愚かな奴──そこまでしてその出来損ないたちを庇う価値なぞ
どこにある?』
『あなたこそはまだ気づかないの? 神姫たちは出来損ないなんかじゃないわ!』
『馬鹿な……奴らのどこが我々より勝っているというのだ?』
 あからさまに侮蔑の表情を浮かべるサタナエル。それを見つめるリベルターの瞳が悲し
みにゆらぐ。
『そう、私たちは神姫たちより優れた存在かもしれない。でもそれは、性能だけの話……
彼女たちは私たちには無いものをもっているわ』
『何、だと?』
『それは、“可能性”よ』
 一語一語区切るように話すリベルター。サタナエルはうつむき黙ったままだ。でも、そ
れはすぐに場を揺るがすほどの哄笑へと変わった。
『アーハッハッハッハッハッ!! 何が“可能性”だ! 笑わせるな』
『……最初から完全な力を与えられたセンジュも紅御雷も最後までそれに気がつかなかった。
でも、神姫たちは無限に成長する“可能性”を持っている』
 淡々と話すリベルター。それは、以前店長さんが話してくれたことおなじだった。
『くだらん! そのような不確定要素で何ができ──何ッ!?』
 とつぜん放たれたビーム、サタナエルはフィールドを展開し間一髪でそれをさえぎる。
「レスティーア!」
 手にした銃を乱射しながらレスティーアが突進する。そのすぐ後ろにガーネットも続く。
 いきなりはじまった戦いに慌てて駆け寄ろうとすると、足下から氷点下級に冷めた声が
聞こえてきた。
『……貴女は、いつまでそんなところでボケッと突っ立ているつもりですの?』
「リューネ?」
『レスティーアさんたちは、貴女のために時間稼ぎをしていましてよ? 何か策があるの
なら、さっさと行ったらどうですの?』
『そ、そうです。こ、こ、ここはわたしたちにまかせてください! ……で、でも、なる
べく早く戻ってきてくださいね、リンさま?』
 リューネの横で、ビームガンを抱きしめながら涙目になったルーシィが哀願する。
『大丈夫です。ルーシィは、私とリューネで守ります!』
 ルーシィのそばに音もなく降り立つリベルター。
「ごめん、みんな。少しの間だけがんばって! 店長さん!!」
「わかった。急ごう」
 ようやく納得してくれた店長さんをうながすと、あたしたちはきびすを返して走り出す。





     この状況を打開できるかもしれないあの場所、地下室に向かって……

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