神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第4話

「はぁ、はぁ、ふぅ。 あ~、何とか間に合った。まったく、それもこれも全部あのバカ
悪魔のせいなんだから!」
 あたしは校門をくぐり抜けると、ようやく全力疾走を止め、乱れた呼吸を整えようと怒
力する。子供の頃から、祖父に我流の武術の手ほどきを受けていたせいか、荒かった
息も何度か深呼吸をするうちにみるみる正常に戻ってきた。
 腕時計に目をやると、始業までにはまだ少し時間があった。
「まったくもぅ!」
あたしはブツブツと言いながら、いつものように校舎から少し離れた学食の前の、自
動販売機へと向かった。
 自販機のリーダーにカードを通すと、無意識のうちにいつものボタンを押していた。あ
たしは受け取り口に落ちてきたモノを拾い上げると、まじまじと見つめた。
 四角い紙パックの表面には、<超特濃 10・8牛乳>と印刷されている。
「あのバカ悪魔、なにが人の胸を見て『背中?』よ。ホント失礼しちゃう! あたしだって、
こうして人知れず努力してんだからね!!」
寝ぼけ顔でニヤニヤ笑いを浮かべるトロンの顔が、あたしの脳裏に甦る。
 怒りのあまり牛乳を持つ手がぷるぷると震え、なかなか狙いが定まらなかったが、なん
とか差込口にストローを突き刺すと、あたしは一気に中身を吸い上げた。
「んふふふっ。 せ~んぱい」
「    ぶっ!    」
 物凄い衝撃とともにいきなり後ろから羽交い絞めにされたあたしは、日々の努力の一つ
であり、渇いた喉を潤すはずの牛乳を盛大に吹き出すはめになってしまった。
 
                  わんだふる神姫ライフ
 
            第4話  「ギガンティックな女」
 
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
「や~ん。一ノ瀬せんぱい、大丈夫ですか~?」
「だ、大丈夫なわけないでしょっ!」
 突然うしろから抱きつかれたあたしは、むせ返りながらも、はるか高みから聞こえる声の
主の方をキッと睨みつけた。
「ちょっと美佐緒、いきなり抱きつくの止めてっていつも言ってるで、って言うかいつまで
抱きついてんのよ、あんたは!」
 いつも、ところ構わずいきなり抱きついてくる美佐緒の図々しさにも辟易するが、それより
も同じ女とは思えないこの力。もはや抱きつくと言うより締め上げられている感じに身体中
が悲鳴を上げる。
「だってせんぱい、ちっちゃくって可愛いんだもん」
「くっ、う、うるさい! 大体あんた、後輩のくせに馴れ馴れしいのよ!」
 さらに両腕にこもる力に、思わずあたしは顔をしかめる。
 で、こんな時になんなんだけど、さっきから全力全開であたしを締め上げてるこの人間
版アイアンメイデンの名前は、神代美佐緒。あたしより一つ年下の後輩だったりする。
家が近いせいか、子どもの時から一緒にいることが多く、何故かあたしのことを姉のよ
うに思っているらしくて、事あるごとにあたしに纏わりついて来るようになった。
根は素直だし悪いヤツでは無いと思うんだけど、何と言うかこの美佐緒、変わった性癖
があっ、って、痛たたたたたっ!
 骨の軋む音とそれに伴う痛みのせいで、無事現実世界に帰還したあたしは、この現状を
なんとかしようと再び必死にもがき始めたが、体格差はいかんともし難く、美佐緒の腕は
ピクリとも動かない。
 体格差と言ったがこの場合、身長が140センチぐらいしかないあたしよりも、身の丈が
優に180センチを超える美紗緒の方に問題があると思う。
「ん~。せんぱいって、やっぱりイイ匂い」
 頭上から聞こえてきた妙に熱を帯びた声にギクリとなり、そうっと視線を上に向けると、
いつも二コニコと笑みを絶やさない美佐緒の瞳に怪しい光が宿り始め、吐く息までが荒く
なっていた。
「うふふっ、このままイタズラしちゃおっかなぁ~?」
「……いい加減にしろ! このバカ女!!」
 怪しげな手つきであたしの身体をまさぐりはじめた美佐緒に、とうとう堪忍袋の緒が切
れたあたしは、怒声とともに美佐緒の足の甲を革靴の上から踏み拉だいた。
悲鳴を上げ思わず緩んだ美佐緒の右袖を左手で、ブレザーの襟を右手でつかむと、まる
で美佐緒を背負うようにその内側へと潜り込み、同時に限界まで力を溜め込んでいた右足
を真上に跳ね上げた。
 あたしの視線の端に、状況がわからず、あれっ? という表情をした美佐緒が肩越しに流
れていくのが見えた。直後に大地を揺るがす轟音が聞こえる。
 
ありがとう、おじいちゃん。 おじいちゃんのおかげで、隣は今日も何とか純潔を守る
ことができました……ほんとうにありがとう。
 
 あたしは空を見上げながら、今は亡き祖父に心の底からお礼を言った。
 気のせいか、雲ひとつ無い澄み切った青空に、親指をビシッと立ててさわやかに微笑む
おじいちゃんの姿が見えたような気がした。
「え~ん、痛い、痛い、痛いよ~」
 妄想の世界で1人エンドロールを流していたあたしは、学食の横の広場に青々と生い茂
る芝生の上で、のた打ち回る美佐緒の声に我に返る。
「ふん。このままアスファルトの方に叩きつけられたとしても文句言える立場じゃなかっ
たんだからね。あたしに感謝しなさいよ!」
 あたしは瞳に冷たい光を宿しながら、まだ、ヒィヒィ言っているセクハラ後輩のすぐ横
を続くアスファルトの道をゆっくりと指差した。
 
もちろん、そんなことするつもりは毛頭ないけどね。でも、美佐緒のヤツにはこれぐら
い言ってやってちょうどいい薬なのよ。
 
『い、いやっ、本当にいい加減にするでござるよ、美佐緒どの……』
「え? ガ、ガーネット!?」
 とりあえず美佐緒の落下地点には多少なりとも気をつかったが、さすがにカバンにまで
気が回らず、アスファルトの上に放り出された美佐緒のカバンの中から必死に這い出てく
る小さな人影に驚いたあたしは、慌ててその人影に走りよった。
「ごめん、ガーネット。あたし、気がつかなくって……」
『いやいや、悪いのは隣どのでは無いでござるよ』
優しくガーネットを抱き上げながらも自分の軽率な行動にシュンとしていると、当のガ
ーネットは、軽く頭を振るとニガ笑いを浮かべながら、あたしを慰めてくれた。
 この娘の名前はガーネット。美佐緒の神姫である。タイプは……
「や~ん、せんぱ~い。わたしも身体中痛いの~、ナデナデして~」
「うるさい! あんたはバッチリ受け身取ってたでしょう!」
 あたしですら思わず舌を巻くほどの見事な受け身を取っておきながら、まだ芝の上でご
ろごろと転げまわりながら猫なで声を出している美佐緒を一喝する。
 実際その長身に比して、と言うわけではないだろうが、同い年ぐらいの男子の筋力や反
射神経を軽く凌駕する身体能力を有する美佐緒のことだ、さっきの背負い投げもアスファ
ルトに叩きつけていたとしても、実際大したダメージは受けなかっただろう。
「あ~ん、せんぱいってば~~~ッ」
「……いい加減にしないとグーで殴るわよ?」
「あっ、なんだかわたし、治ったみたいです~」
 この期に及んで芝生にひっくり返ってジタバタしている美佐緒に、こぶしを握りしめなが
ら押し殺した声でつぶやくと、美佐緒のヤツはぴょんと飛び上がると芝生の上に正座して
ニッコリと微笑んだ。
 あたしは盛大にため息をつくと、巨大な後輩から目をそらし再び自販機の方へ歩きだし
た。後ろからは美佐緒が邪悪なオーラを纏わせながらあたしの後ろにピッタリとついてく
るが、こっちも負けじとSATUGAIオーラを全身から放射しているため、さすがに美佐緒
もおとなしくしている。
さっきと同じ品を自販機で買いなおしながら、あたしは美佐緒と向き合った。
「まったく、いい加減にしてよね? あんたのせいで牛乳全部噴出しちゃったじゃないの」
『全ては拙者の不徳の致すところ、本当に申しわけないでござる、隣どの』
 いつのまに移動したのか、美佐緒の肩の上からあたしに向かって頭を下げるガーネット。
妙にしゃちほこばった彼女の態度に、胸のうちに湧き上がってくる笑いをかみ殺すのに
苦労した。でもあたしは、そんなガーネットの性格が嫌いではなかった。
 むしろ生一本の実直さは、あたしの好むところだったし、ガーネットとの出会いが、あたし
が神姫を欲しいと思うようになった理由のひとつだったから。
「そうよ、ガーネット。済んでしまった事をいつまでもクヨクヨしてはダメよ」
 
それに関しては、あたしもまったく同意見だけど、少なくとも美佐緒。災いの元凶たる
あんたの言うセリフじゃない!
 
とりあえず、心の中で美佐緒に鋭いツッコミを入れると、あたしは牛乳を飲むべくスト
ロ―を手に取った。
「あ、そう言えばせんぱい。あの話、その後どうなりました?」
 いきなり話を振られ、あたしのストローを持つ手がピタリと止まった。
「へっ?」
「もう、神姫ですよ。し・ん・き! この間、神姫を買うって言ってたじゃないですか」
『なんと! 隣どのも遂に神姫を購入したでござるか?』
あたしが今、一番触れて欲しくない事柄をピンポイントで聞いてくる美佐緒に、軽い殺
意を覚えながらとりあえず牛乳にストローを挿そうとするが、再び手が震えだし狙いが定
まらない。
「あ~、うん。 かっ、買ったよ。ス、ストラーフを……」
『ほう、ストラーフ・タイプを?』
 とぼけておけばいい物を、バカ正直に答えるあたしの背中に、イヤな汗が伝わり落ちて
いく。
「でも、姿が見えませんね、そのストラーフ……」
「え? ああ、ホラッ! 起動させたばっかりだからね。今日はその、お、お留守番して
るの」
なんとか平静を保とうと牛乳にストローを挿そうとするが、額を流れる汗が目に入り、
パックの穴が歪んで見え、あたしの持つストローは虚しく牛乳パックの表面で聞く者とて
いないモールス信号を発信するだけだった。
「はぁ、そうなんですか……で、せんぱい、その神姫なんて言う名前なんですか?」
「な、名前?」
 あんまりにも、あたしの心の不可侵空域にズケズケと足を踏み入れてくる美佐緒に悪気
は無いとわかってはいるが、一気に殺意が噴き出す。  
 
あ、ストロー刺さった!
 
もはや限界に達した喉の渇きをうるおすために、あたしは一気に牛乳を吸い上げた。
一瞬で中身が空になった紙パックが、手の中でグシャリとひしゃげる。
「え、え~と。 な、名前は……ルシ」
『まい ね~む いズ、ト・ロ・ン!
「    ぶっ!!   」
 
あたしの足元にあったカバン……いうより、地獄の底から響いてきたような寝ぼけ声を
耳にした途端、あたしの口に含んだ本日2本目の牛乳は、美しく輝く陽光を纏わりつかせ
たまま、キラキラと蒼い空を彩っていた。

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道化師型MMS

先日、ひさしぶりにfgに投稿した際、他の方の作品をチェックしていたのですが、ある方
の作製した、ダンボール戦機に出てきたジョーカーを使用した神姫を見て感嘆しました。

私も、以前は道化師をモチーフとした神姫を作ってみたいと思っていたことがあるのですが、
最近は、SSを書く方に夢中になっており、店頭でジョーカーを見た時も「ふ~ん」で、
すましてました。

でも、ジョーカーを流用した神姫の姿を見た途端、一挙に神姫者のハートに火が付きました。

さっそく休日にジョーカーを購入、製作に突入!
最初はfgのジョーカー型神姫を参考に、と思ったのですが、人様の作品をパクろうとした
罰が当たったのか、ぜんぜんうまくいかない……

失敗続きでパーツもボロボロになってしまい、とりあえずガンプラ等を流用したいつものやり方
に方針変更。

CIMG0430 - コピー
 
とりあえず頭部画像。

腕用にと作ったイナクトの腕部を見ていたら、なんか道化の帽子っぽく見えたので接着。
それっぽい……かな?

それにしても、このジョーカーの顔、目や口のモールドも無く、パーツの状態ではのっぺらぼう
なんですね。
確かに最近のガンプラは、塗装の負担を少なくするためにシールを多用する傾向にありますが、
これには驚きました。

CIMG0431 - コピー

で、次にとりかかったのが脚部。

ジョーカーのパーツが使い物にならなくなったため、ここはオールガンプラ。
太腿はガラッゾ、膝から下はイナクト、つま先はガンダム デスサイズヘルカスタム(長い!)使用。
無駄に豪華です(笑)。

CIMG0429 - コピー

そして、最後はパーツを素体に装着。

う~ん、道化師ぽい……かな?


まあ、いいか。
とりあえず今日はここまでにして、続きは明日にしますか。

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わんだふる神姫ライフ 第3話

「ハァ。やっぱり夢……じゃ、なかったのね」
 ベッドから起き上がり、机の上に視線を走らせた後、あたしは大きくため息を吐きなが
らつぶやいた。
 机の上には、あたしのテンションをドン底まで落とした張本人、悪魔型の神姫ルシエ…
…いや、トロンがいびきをかきながらクレイドルからずり落ち、どうすればこんな格好に
なるのか聞きたくなるほど豪快な寝相で爆睡中である。
 なんの悩みとも縁のなさそうなトロンの幸せそうな寝顔を見ながら、あたしはまた大き
なため息をつくのであった。
 
                 わんだふる神姫ライフ
 
            第3話     「背中」
 
「隣ぃ~、そろそろ起きないと遅刻しちゃうわよ~」
「はぁ~い、もう起きてるから大丈夫だよ!」
 急いでドアを開け、階下の母に一声かけると、あたしは気乗りしない足取りで部屋へと
戻り、再び机の上に視線を移す。
「ねぇ、ちょっと、いい加減に起きなさいよ! え~と、ト、トロン」
 指先でトロンの身体をしばらくユサユサと揺すると、ようやくクレイドル上のトロンは、
薄目を開けてあたしの方を見た。
『ふァ~~~。何の用なのサ、リン』
「何の用? じゃないわよ。あんた一体いつまで寝てるつもり? もう朝なのよ!」
 まるであたしに非があるとでも言わんばかりの不機嫌そうな声に、こっちもつい声を荒
げてしまう。
 それにしても昨日から疑問に思ってたんだけど、前にあたしが見たストラーフって薄紅
色の瞳を持った中性的な感じすらした顔立ちの神姫だったような気がしたんだけど、それ
に比べて目の前にいる自称ストラーフときたら瞳の色も判別不可能なぐらい目は閉じっぱ
なしだし、弛緩しきった頬の肉にあごは埋まり、その姿は前にテレビで放送していた大昔
のアニメ特集に出ていたムー〇ンとかいうキャラみたいだった。
『なニ? ボクの顔になんかついてル?』
「ううん、何でもない。それよりもホラッ、起きて、起きて!」
 あたしの視線に気づいたトロンの声を軽くいなすと、あたしは再度トロンに起きるように
促した。
『あのさァ、リン。ボク、昨日から気になってた事があるんだけド』
「何よ?」
 無遠慮に人の顔を眺めながら、つぶやくトロン。
『なんでリンって、いっつも怖い顔してんノ?』
「悪かったわね! あたしは生まれつきこういう顔をしてんのよ!!」
 人の気にしてる事をズケズケと指摘してくるトロンに、あたしは声を荒げるが、トロンは
そんなあたしを憐れむように見上げていた。
『そっカ。まア、生きていればそのうち良いことあるヨ……多分』
「山盛りでっけぇお世話よ!」
 器用に片方の眉を上げながら、まるで心のこもっていない口調であたしを慰めるトロン
にあたしは激昂するが、本人は顔色一つ変えやがらねぇ。
 あたしは、この寝ぼけ悪魔に付き合う愚を思い知らされ、ひときわ大きなため息を一つ
吐くと、クレイドルの上でこっちを見ているトロンに背を向け、着替えを始めた。
 
                あ~、なんか頭が痛くなってきた……
 
 気のせいかズキズキと痛むこめかみを指で揉みほぐしながら、読んで字の如くあたしの
頭痛のタネを肩越しに見てみると、やっこさん、あたしに背を向けクレイドルの上でコックリ
コックリと舟をこぎ始めている。
 
                   ハァ~、いい気なもんよね。
 
 もう、あたしの意思とは無関係に出てくるセルフサービス的なため息を吐きながら、パ
ジャマのボタンを外し始めた指が、ふっと止まった。
「ねぇ、トロン。あんたにちょっと聞きたい事あるんだけどさ」
『ン~、なぁにィ、リン?』
「……ひっ!?」
 昨日の夜から感じていた疑問を聞いてみようと、何気ない感じでトロンの方に振り返っ
たあたしは心臓が止まるんじゃないかと思うほど驚いた。
「あ、あんたどうしたのよ? その首?」
『ボクの首がどうかしたノ、リン?』
 あたしは背中をこっちに向けたまま、顔だけあたしの方に向け、話し始めたトロンに唖
然とした。しかもその首も、いきなりギュルンと凄い勢いでこっち向いたんだよ?
「だ、大丈夫なのソレ? 痛くないの?」
 恐る恐るトロンの首を指差すが、本人はまったく平気の平左だ。
『ぜ~んぜん。 神姫だったらさァ、これくらいはラクショーだヨ』
「へ~。す、すごいんだね」
 あいかわらず背中をこっちに向けたまま両腕を腰に当て、顔だけそっくり返しエラソー
にしているトロンだったが、その異次元的なポーズも含めて、あたしは今の科学の進歩に
素直に感心してしまった。
 最もこの神姫の特技(?)は、後にあたしが出会う事になる神姫たちによって完全否定
される事となり、あたしがこの悪魔にだまされたと知ったのは、かなり後の話である。
『んデ、ボクに聞きたことって何なノ、リン?』
「えっ。ああ、それよ、それ!」
『?』
 いきなりあたしに、ビシッと指を突きつけられたトロンは怪訝そうな顔をする。
「あんた昨日からあたしのこと『リン』て呼んでるんだけどさあ、それってやっぱりあた
しのこと?」
『そんなの当たり前の事じゃないカ、リンはリンなんだかラ』
 何をいまさら、と言わんばかりの顔でトロンはキッパリと言い切った。
「だ、だけど、オーナーの呼び方ってオーナー自身が決めるんじゃなかったっけ? 第一
あたしの名前は<となり>よ!」
『だから<リン>でショ?』
「まぁ、あんたが気に入ったんならそれでいいけど……」
『でショ? まァ、それにどうでもいいジャン、リンの呼び方なんかさァ』
 
           待て。あたしの名前ってどうでもいいレベルの話なの? 
 
 なんか納得がいかなかったが、これ以上この悪魔にかかわってると遅刻しそうな気配
が濃厚なので、あたしは着替えを再開した。
 着替えを続けながらあたしは、もう一つだけ気になっていた事を口にした。
「ホントにあんたの名前、トロンでいいの?」
『ン~、なんでェ~?』
 あたしは一瞬、答えに詰まった。だってトロンという名前は、決してあたしの本心でつけ
たものじゃない。トロンに対してイライラしていたあたしが、皮肉と当てこすりでつけたよう
な名前だから……
『ボクは別に気になんかしてないヨ』
 背中越しにトロンの声が聞こえた。
「えっ?」
 話しながらも忙しく動いていたあたしの手が、ピタリと止まった、
『ボクの名前は、マスターであるリンがつけてくれタ、たった一つの大切なものなんだか
らネ』
「ト、トロン……」
 思いもしないトロンの返事に驚いたあたしだったが、ひょっとして今ならと期待を込め
てある提案をトロンにしてみた。
「だ、だったらさぁ、やっぱりあたし、あんたの名前ルシエルが良いと思うんだけど?」
『まァ、どうでもいいジャンそんなコト。この大宇宙の広大さに比べれば、リンのつけた
名前なんて塵芥みたいなモンでショ?』
 
  ち、ちりあくた? なにそれ? あたしの考えた名前ってそんなレベルの事なの?
 
 眼前の悪魔にまたもいいようにからかわれていた事に気づくと、怒り心頭に達したあた
しは、思わず脱ぎ捨ててあったパジャマを机の上のトロンめがけて叩きつけていた。
 いくら小柄な体格のあたしが着ていた物とはいえ、そこは人間のサイズ。どっちに行っ
たら良いのかわからず、トロンはパジャマの下をモゾモゾと這い回っている。
「ふん、いい気味よ! これに懲りたら少しは大人し、って、あんた何やってんの?」
 いい加減パジャマから這い出してくるかと思いきや、いまだに真ん中あたりでモゾモゾ
とやっているトロンに眉をひそめて顔を近づけてみると、荒い息づかいのなか、妙に熱の
こもった声が聞こえてきた。
『あ、あン。リンの、リンの匂いがするゥ~~~ッ。 ボクもゥ、イッちゃ……』
「気持ち悪ぃーんだよ。 おめぇ―はっ!」
 思わずあたしは、パジャマごとトロンを鷲づかみにすると、ベッド目掛けて投げつけてい
た。枕のあたりにぶつかり大きくバウンドしながら布団の上へと落下したパジャマ柄の茶巾
包みの中から、トロンがフラフラと千鳥足で這い出てきた。
『ひ、ヒドいじゃないカ、リン。ボクもう少しでイけそうだったのにさァ』
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃないの! それとトロン、あんたその首をいい加減なんと
かしなさいよね!」
 あたしは、まだ首が真後ろを向いたまま不満そうにブツブツと文句を言っているトロン
を睨みつけながら、鋭く一喝した。
『なに言ってんのさァ、リンだってボクと似たようなモンじゃないカ!』
「はぁ、一体なんの事よ? あたしのどこがあんたと似てって……や、やだっ!」
 眉を寄せながら不満そうに口をとがらすトロン。その指先を目線で追っていたあたしは
自分がブラとショーツだけという、かなり刺激的な格好でいた事を思い出し、慌てて両手
で胸を隠すとしゃがみ込んでしまった。
 壁にハンガーで吊るしてある制服よりは、ベッドに投げ捨てたパジャマの方が距離的に
近いと気づき、必死に腕を伸ばすが、パジャマまであと数ミリというところであたしの動き
はハタと止まった。
「ん? そういえばトロン。さっきあたしがあんたと似たようなもんだとか言ってたけど、
あれってどういう意味よ?」
 ピッと伸ばした指の先、あたしのパジャマの上で、ようやく本来の正しい位置へと戻った
首を両手でコキコキと音をたてて調整していたトロンは、しばらくこっちを眠そうな顔で見
ていたが、おっくうそうに口を開いた。
『あのねェ、さっきからボクのことばっか責めてるけド、リンだってボクの方に背中を見せ
っぱなしじゃないカ!』
 鼻息も荒く、納得いかんとばかりに不満を口にするトロンだが、イマイチ言ってる意味が
理解できないあたしは、トロンの視線の先に目を移す。
「…………」
『ネ、背中でショ?』
「……これは背中じゃねー」
『はァ? 聞こえないヨ』
「これは背中じゃねー……………胸だ───ッ!!」
 部屋中の空気が震え、窓ガラスもビリビリと振動するほどのあたしの魂の絶叫が、部屋
中に轟いた。衝撃波でも発生したのかベッドの反対側、窓際の壁まですっ飛んでいったト
ロンを鷲づかみにすると、無言で顔の正面まで持ち上げる。
『い、いやァ~、ボクもおかしいとは思ったんだよネ。普通、ブラって背中にはしないもんね
ェ~、 ア、アハハハハ』
「……云いたい事はそれで終わりかしら? トロン」
『エ、エ~ト、時間はだいじょうぶなのかなァ~、とか思ったリ』
「時間?」
 ガッシリと掴まれ、ミシミシとヤな音を立てながら薄紫色に変色した顔だけ出していたトロ
ンが、あたしの両手の中から息も絶え絶えに呟いた。
 イヤ~な予感に襲われながら机の上の時計に焦点を合わせると、八時二十分を表示し
ていた。 
                   は、はちじにじゅっぷん?
 
「オー マイ ガッ! な、何コレ? 何でこんな時間なわけ?」
 トロンをベッドの上に放り投げると、あたしは慌てて壁にかかっていた制服をむしり取る
ように手にすると、慌てて着替えを始めた。
『いヤ~、学生さんっテ、ホントたいへんなんだねェ~』
 ブレザーに袖を通し、腰まで伸びたブラウンの髪を乱暴に頭の後ろで纏めながら、トロ
ンのやつを睨みつける。
 あたしを見上げる悪魔は意地の悪そうな笑みを浮かべたままだが、ふと、何かを思い
出したかのように首を傾げる。
『それにしてモ、最近の小学生っテ、制服なんダ?』
「あたしは、これでも高校生よ!」
 一発ひっぱたいてやろうかとも思ったが流石に時間がない。ひったくるように机の上の
カバンを手に取るとドアへと向かう。ドアノブに手を掛けた体勢で、あたしは首だけトロン
の方に向けた。
「いい? あたしが帰ってくるまで家でおとなしくしてるのよ!」
『うン。ボク、いい子にしてるヨ……でモ、さびしくなっちゃうから早く帰ってきてネ。ダーリン』
 
   あたしの返事は、家中を揺るがすほどの勢いで叩きつけられたドアの音だった。
 

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わんだふる神姫ライフ 第2話

             ほんとうに、何なんだろうコレ?

 あたしは畏まって座っていた椅子から、すぐ目の前の机の上にペタンと座り込んだ何か 
凄く眠そうな顔をした『ソレ』を無遠慮に眺めていた。
『ふわァ~~~。……デ、キミはダレ?』
 鎖骨の(無論、神姫にそんなモンがあれば、の話だが)あたりをポリポリと掻きながら
『ソレ』は、なんともしまらない顔であたしに尋ねてきた。
「あたしは、一ノ瀬 隣。 あなたのオーナーよ!」
『ふゥ~ン……』
 いままでの事もあり、少し威圧的な口調になってしまったが、机の上の当の本人は大し
て興味もなさそうに一言つぶやくと、うつむき黙り込んでしまう。
「……起きろ!」
『あ痛ッ。 もウ、痛いナァ。ボクは精密機械のカタマリなんだヨ? 乱暴に扱わないでよ
ォ!』
 あたしの情け容赦のないデコピンの直撃を額に受けた『ソレ』は、自分のことを棚に上
げて文句を言ってきた。
 しばらく自分の額をブツブツ言いながら擦っていたが、不意にゆるみきった顔であたし
の方を見上げ、しばらくするとポツリと言った。
『……デ、キミはダレなノ?』
「あんたいい加減にしなさいよね。これでもう五回目よ!」 

                  わんだふる神姫ライフ 
  
             第2話    「君の名は……」

『もゥ、せっかくボクが場の空気を和ませてあげようとしたのにさァ。本ッ当にジョーダ
ンが通じないんだネ、キミ』 
 ヤレヤレ、と言わんばかりに盛大にため息を吐き、肩をすくめて見せる目の前の……
(いや、もう認めよう。とりあえずコイツが神姫らしいということを)ストラーフに、あたし
はただ唖然とするしかなかった。

  な、何なのこの態度? 神姫ってもっとこう、オーナーの言う事をなんでも聞いてくれて
友達みたいに接してくれる存在じゃなかったの?

 あたし自身の体験や、テレビや雑誌でオーナーに甲斐甲斐しく尽くすその姿を見て神姫の購入
を決意したあたしだったが、心の中で思い描いていた理想の神姫と、目の前の新種のナニかの
ような存在とのあまりのギャップに言葉も出なかった。
『まァ、キミがボクたちにどんな理想を持とうとキミの勝手だけどさァ、人生ってそんなに甘い
モンじゃないんだよねェ』
「いや、起きて間もないあんたに人生の何たるかを説われる謂れはって、ちょっと、何であたし
の考えてる事がわかるのよ?」
 腕を組みながら、ひとりでうなずいているストラーフの言葉にハッとして、あたしは慌てて問
いただす。
『まァ、ボクくらい人生の達人になるト、色々と、ネ……』
「だからあんたは起動して、まだ一時間もたってないでしょう!」

       あったま痛ぇ~。 だ、だめだ。もう限界! ホント何なのコイツ?

 突然襲ってきた激痛に思わず両手で頭を押さえると、あたしはうずくまってしまった。
『ねェ、だいじょうぶゥ?』
 あたしの頭上から、ちっとも心配してないような能天気な声が聞こえる。思わずキッとにらみ
つけてやるが、本人どこ吹く風だ。
『ねェ』
「何よ!」
『……ケロ〇ン、持ってこようカ?』
「だから、何であんたがケ〇リンなんて知ってんのよ!」 
                     ※
『あのさァ……』
 椅子の背にだらりともたれ掛かり、ゼィゼィと喘いでいたあたしは、こうなった原因に無言の
ままゆっくりと視線を移した。
『ほんとにゴメン。ボク、少し調子にのってたよネ……』
「えっ?」
『ボク、やっと自由になってうれしくっテ、つイ……』
 さっきまでとは打って変わって、机の上でしゅんとうな垂れているストラーフを見て、あたしは
言葉を失ってしまった。
「え~と。いっ、いいんだって、そんなに気にしなくても。ほら、あたしも少し大人気なかったし、
これから長いつき合いなるんだから仲良くやろうよ。 ねっ?」
 あまりの豹変ぶりに驚きもしたが、これならうまくやっていけるかな? と心の中でそんな事を
考えながらストラーフを手のひらに乗せ胸元まで持ち上げると、あたしは優しく話しかけた。
『うン。じゃア、ボクの名前を決めてヨ』
「そうね」
 相変らずねむそうな顔をしているストラーフを机の上の戻すと、あたしはコホンと咳を一つする
と、微笑みながらこの日の為にずっと考えていた名前を口にした。
「じゃあ、あなたの名前は<ルシエル>。 どう、ステキな名前でしょう?」
 その名前を耳にした瞬間、ストラーフは雷にでも打たれたように大きく身体を震わせ、動かなく
なってしまった。
「えっと、どうかした?」
 あたしたちの間に漂う、何とも言えない空気に耐えられなくなったあたしは、おずおずとストラ
ーフに話しかける。
 あたしの声に、はっとして顔を上げるストラーフ。そのねむそうな顔からは、彼女が何を考えてい
るのかあたしにはわからなかった。
『ン~~~、パス……かなァ』
「へっ? な、何よパスって。オーナーである、あたしがつけた名前なのよ?」
 てっきり気に入ってくれるものと思ったのに、すっかり肩透かしを食う形となったあたしは、思わ
ず声を荒げて問いただしていた。
 だがストラーフは、あたしの剣幕に動じる気配もみせず小さくかぶりを振った。
『あのねェ、いくらキミがボクのオーナーだからといってモ、その名前が相応しくないとボクが判断
した場合、その命名に対する拒否権を発動できるんだヨ。マニュアルにもちゃんと書いてあ るでシ
ョ?』
「そ、そうなの?」
 あたしは慌ててマニュアルを手元に引き寄せると、パラパラとページを捲り始めた。
「え~と…………あっ、本当だ、書いてある。でも、確かにそう書いてあるけど、どうしてルシエル
じゃ嫌なわけ? そんなに変な名前じゃないでしょう?」
 あたしがルシエルという言葉を口にすると、かすかにストラーフの眉が寄った。それは何かに耐
えているようにも見えた。
 そのことをかすかに気にしながらも、理屈としては理解できても心情として納得できないあたし
は、ストラーフに食って掛かった。
『まァ、なんてゆうカ、ありきたりと言うカ、ボクのハートにピンとこないんだよネェ。と言うわけデ、
グッとくるやつヨロシク!』
 こめかみの辺りがピクピクと引きつるあたしの眼前で、ストラーフはさっきの複雑な表情は何処
へやら、満面の笑みを浮かべながら親指を立てている。

「……じゃあ、アリシアは?」
『ン~、ナンかちがうんだよねェ~』

「………テグリウス」
『イマイチ』

「…………フェイト」
『もう一声』

「……………なのは」
『ベタ』

「………………マルガリータ」
『ハッ!!』

「……ちょっと待て! お前、今鼻で笑ったろ?」
 思いもしないリアクションに、唖然としながらも震える指で目の前のストラーフを指さすが、
当事者の悪魔型の神姫はまったくその事に気づいた素振りもみせない。
『いやァ~、何て言うかさァ、こういうのってその人の感性とかの問題もあるからねェ。まァ、
ボクが 高望みしすぎなのかな~とか思ったリ。何かもウ、めんどくさくなったからアミダか
なんかでテキトーに決めちゃおっカ?』
「…………」

    な、ななななな何なの? 憎ったらしいこの態度! さっきの殊勝な態度は、どこに
行っちゃったわけ?

 わなわなと怒りに震えるなか、あたしはようやく眼前の悪魔におちょくられていた事に気が
ついた。
 本当に腹が立った。そりゃあ、あたしのセンスはそんなに良くは無いかもしれない。でも、
この日のために一生懸命に考えた名前なんだよ!
 そ、それを何でこんな変な人形なんかにバカにされなきゃなんないのよ!!
 思わずこみ上げてきた涙を何とか堪え、目の前のストラーフを睨みつけるが、諸悪の元凶
はニヤニヤとした笑みを浮かべ、気にした素振りも見せない。

     なにさ。開いてんだか閉じてんだがわからない目、いっつも半開きのだらしのない
口、顔中の筋肉の緩みきったトロ~ンとした顔…………!

「ふ~ん。じゃあさぁ、あんたの名前<トロン>なんてのは、どお? だらしのない顔したあ
んたには、ぴったりの名前だと思わない? 別にいいのよパスしたって、あたしちっとも気にし
ないしさぁ」
 あたしは今までの恨みも込めて、皮肉たっぷりに新しい名前を披露したのだが、ストラーフは
あごの関節が壊れたのでは? と思うほどの大あくびで答えただけだった。
『ふあァ~。何かボクねむくなってきちゃったシ、もうソレでいいヨ。……え~ト、名称入力開始、
ト・ロ・ン っと、ハイッ記録終了。 じゃア、ボク少し眠るかラ、もう起こさないでネ』
「へっ?」
 ひとりでブツブツと言っていたストラーフは、唖然として立ち尽くすあたしを尻目にクレイドル
へと向か って行く。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 ようやく我に返ったあたしは、慌ててストラーフを呼び止めた。
『ア、そうそウ、これからも長いつき合いになると思うけド、まァ、よろしくネ……リン』
 あたしの声に、というより単に言い忘れがあったからという感じでクレイドルに片足を掛けた
ままの 格好でストラーフはあたしの方を向いてそれだけ話すと、もはやあたしには一片の興味も
失せたと言わんばかりにクレイドルに身体を横たえる。
 嵐の去った後のあたしの部屋に残った物は、微かに聞こえるイビキの音と、人の形をした、
まっ白いカタマリだけだった。


              今日、ウチに神姫がやってきた。名前はトロン。

                     …………だそうです。

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わんだふる神姫ライフ  第1話

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
 いつもの見慣れた風景が、猛スピードで後ろに流れていく。

                もどかしいな……

 路地を曲がりながら、フッとそんな考えが頭をよぎる。
 いつも通っている通学路。毎日この道を使っているのに、こんなに時間がかかるとは思わ
なかった……いや、実際にはいつもより早いペースで家に向かっているはずなんだけど。

               もう少し、急ぐかな……

 そんなあたしの考えを戒めるかのように、小脇に抱えた箱からカチャカチャと微かな音
がする。
「おっと。いけない、いけない」
 あたしは小さくつぶやくと、箱に視線を移しながらも家路を急いだ。
                   ※                  
「はぁ、はぁ。 たっ、ただいま、お母さん!」
「おかえり、隣。 あのねぇ、今日……」
「ごめん。今、急いでるんだ!」
 まだひとりで話を続けている母を尻目に、一気に階段を駆け上がり部屋に飛び込むと、
手に持っていたカバンをベッドの上に放り投げ、あたしは脇に抱え込んでいた綺麗に包装
された箱をまじまじと見つめた。
「やっと手に入れたんだ。あたしだけの『神姫』を」
 そう小さくつぶやくと、あたしは手にした箱を思い切り抱きしめた。             

                わんだふる神姫ライフ 

            第1話   「悪魔が来たりて」

「あれぇ、おっかしいなぁ、何で動かないのコレ?」
 あたしは何度繰り返したかわからなくなったセリフをまた口にすると、大きく背を反ら
した。背後で座っていた椅子が、不満をこめた軋みをあげる。
 学校から帰って、早数時間。着替えもソコソコに神姫の起動を始めたのだが、何故か机
の上の神姫はピクリとも動かない。
 あたしは、苛立ちを少しでも抑えようと乱暴に頭にツメを立てる。ただでさえ纏りの悪
いあたしの髪はさぞや凄いことになっているだろうが、今はそんな事を気にしてる余裕は
あたしには無かった。
「美佐緒のヤツに聞くのも癪だしね」
 脳裏に浮かんだ後輩の顔に、思わず頭を振る。
「……ふぅ」
 いつまでも腕を組み、眉間にシワを寄せても何の問題の解決にもならないと気づくと、
あたしは机の上に乱暴に投げ出してあったマニュアルを手に取り、何度目だか忘れたが一
から目を通しはじめた。
「えっと、まず神姫の胸のところにある、このカバーをはずしてぇ……んで、後はこの窪
みにこのCSCとかいうのをはめ込めばいいだけだよねぇ」
 そう、たったそれだけの事である。
 あまり機械には強くないあたしだったが、これなら楽勝~、と思い鼻歌まじりで作業を
開始したが、結果はご覧の通り惨憺たるモノだった。
「まさか、走ってる時にガチャガチャ振ったのがヤバかったのかなぁ?」
 あたしは帰り道の爆走を思い出し少し青ざめた。そういえば精密部品ってあんまり乱暴
に扱うと壊れるって聞いたような……いやっ、家に帰って箱を開けた時だって、あんなに
厳重に梱包されてたし、箱の中のブリスターとかいうのもあんなにしっかりと閉まってた
じゃない。
 あんまりしっかりと閉まってたもんで、ブリスターを開けた時、勢い余って中のパーツ
とかを全部ブチまけちゃったくらいだからね(もっとも、神姫だけは必死でキャッチした
から無事だったんだけど)。
「まさかあの店、不良品つかませたんじゃないでしょうね?」
 とりあえず、神姫の動かない理由=『自分』という最悪のパターンを心のなかで否定す
ると、あたしの邪念は一気にこの神姫を買った店へと移った。
「そういえば、何か怪しい感じのする人だったよね」
 あたしの記憶は数時間前、この神姫を買った店へと飛んでいた。
 確かに、あたしの対応をした店長と名乗った人の風貌は、今になって考えると何か変だ
った。ミラーグラスに隠された目、きれいに後ろに撫で付けられた髪の毛、短く刈りそろ
えられた口ひげの下にはキラリと光る白い歯。
 まぁ、それはいいにしても、やっぱりテレビとかに出てくるバーテンダーが着てるよう
なスーツに身を包んでるのはおかしいよね?

   うん、わかってる。そんなに変なら最初っから気づけよって言いたいんでしょ?

 でも、あたしの心はあの神姫に。そう、『特売品、最後の一体です!』の張り紙を張ら
れたあの神姫を見た瞬間、レジへと飛んでいたから……
 みんなも知ってるように神姫は決して安い物じゃない。そりゃあ、なかにはひとりで何
体もの神姫を持ってる人もいるらしいけど、しがない高校生のあたしには別世界の話だ。
 そんなあたしの前に半値以下まで値段を引かれた神姫がいたら。たとえそれがユーズド
品だったとしても、前から神姫が欲しくて堪らなかったあたしが飛びつくのも当然っても
んよね? 
 それに、支払いはカードでOKってことだけど、あたしの銀行の口座から拉致されてい
く諭吉さんたちの姿を思い浮かべただけで……
「それだけに絶対不良品なんて許せない!」
 確かにユーズド品にはいろんなトラブルが付き物。でも、まがりなしにも売り物として
店頭に並んだものが動かないなんて論外よ!
 断固抗議を!と意気込み、椅子から腰を浮かしかけたあたしだが、その動きは途中で止
まってしまった。
「でも、結構親身に色々教えてくれたっけ、あの店長さん」
 店の中で、神姫の入った箱を抱えたまま、血走った目で辺りを見回すあたしを優しく取
り成してくれたのは店長さんだっけ?
 さっさと支払いを済ませ帰ろうとするあたしを引きとめ、神姫が起動した後に必要なク
レイドルを始めとするパーツの類も、一つ一つ丁寧に自分で選んでくれたんだよね。
 あたしが神姫を買うのが初めてだと言うと、店で用意していたCSCをプレゼントだと
言って好きな物を選ばせてくれたのも店長さんだった。

 ただ、あたしが選んだCSCを見せた時、店長さんの口元が引きつったように見えたけ
ど、あれは何だったのかな?

「そうすると一体何が原因なワケ? ああっ、もうワケわかんな~い!」
 とりあえず、根が単純なあたしとしては、上記の理由で店長さんへの疑惑も却下された
わけだが、だからといってあたしの神姫が動き出す筈も無く、結局あたしは自分の直面す
る悩みのスタート地点に戻っただけだった。
「ほんとにどうすればいいわけ? この眠り姫はピクリとも動かなっ、んっ、アレッ?」
 悶絶しながら頭を掻きむしっていたあたしだったが、その動きは机の上に視線を向けた
時にピタリと止まった。
 しばらく机の上の神姫を黙って見つめていたあたしは、とっさに記憶の巻き戻しを始め
た。

 うん、確かにさっきまでは確かに直立不動みたいな姿勢でクレイドルと呼ばれる充電器
の上で寝てたよね。

 だけど、目の前の『ストラーフ』と呼ばれる悪魔型の神姫は、いつの間にかクレイドル
からはみ出すように、だらしなく手足を投げ出したような格好になっている。
「ひょっとして動いたの?」
 一途の希望を胸に、ストラーフに近づいたあたしの耳に微かな音が聞こえてきた。
『ZZZZZZZZZZzzz』

              え~、これってイビキ? 

 いや、待て、落ち着けあたし! 改めてストラーフの顔をまじまじと見つめると、確か
にその音は、半開きになった口から聞こえ…半開き?
 よく見ると、確かにさっきまで閉じていた口元が、今は開いている。しかも、今まさに
その口元から頬を伝わって流れ落ちているのは……
「ヨッ、ヨダレ?」
 わぁ~さすが神姫。ヨダレまで出てくるなんて何て芸が細かいんだろ~って、違う! 
そこは断じて感心する所じゃ無い!
 理由がわからずパニくっていたあたしは、とりあえず自分の胸のうちに湧き上がってき
た不安をまぎらわすために、ひとりボケ&ひとりツッコミを敢行してみたが、無論そんな
ものが問題の解決にならないことはあたしにだってわかってる。
「何これ? 神姫って起動する時って、みんなこんな感じなの?」
 絶対に違うだろうソレ、と頭の中で自分に軽いツッコミを入れながらも、あたしは恐る
恐るストラーフ近づくと、そっと指先で小さな頭を軽く突付いてみた。
『う~~~ン』
 頭を揺すられたストラーフは不満そうな声をあげると、くるりと寝返りを打ち、スヤス
ヤと寝息を立てはじめた。
「やっぱりコレって寝てるわけ? ねぇ、ちょっと、起きてよ!」
 まったく起きる気配を見せない相手に業を煮やしたあたしは、今度はストラーフの頭を
さっきより強く揺さぶった。
 しばらく揺さぶり続けたのに起きようともしないストラーフだったが、あたしのしつこ
さに根負けしたのか、薄目を開けてこちらをチラリと見た。

 どんよりと濁った……そう、たとえて言うなら、死後一週間ぐらい経過した魚のような
目と視線が合った。

           こ、これは、ひょっとして……ハズレ?

 今まで感じたことのないような、後悔という名の稲妻が背中を駆け抜ける。
 しばらく時間が止まったかのように見つめ合っていたあたしたちだったが、それにもす
ぐに飽きたのか、ストラーフはあたしに背を向け面倒くさそうに呟いた。
『う~ン、わかったよォ。あと五分したら起きるからさァ……』
「……」

                 「あと 五分じゃねーッ!!」


 その直後、推定M6クラスに及ぶあたしの魂の激震が、部屋中を震わせた。

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ごあいさつ

ようやく念願のブログをはじめました。

このブログでは、コナミの武装神姫を題材とした二次創作SSをメインにしつつ、
我が家の神姫たちを紹介していきたいと思います。

とはいえ、私は小説の類を書くのは今回が初めてのうえに、神姫を語るうえで
欠かせない、バトルロンド&バトルマスターズをプレイしたことが無いという
とんでもないヤツだったりします。

稚拙な文に、完全な「俺、設定」と、あまり誇れることがありませんが、勢い
と情熱で乗り越えていきたいと思います。



以下、SSの軽いあらすじなどを。





時はもう、2040年を迎えようという未来の世界。

15センチたらずの身体に、喜怒哀楽の感情を持ち、人と共に生きる者「神姫」
彼女たちが現れてから数年の歳月が流れ、今では彼女たちは人にとって欠かせない
パートナーとなっていた。

このお話は、そんな未来の世界で暮らす、一人の少女と悪魔型の神姫が繰り広げる
ありえないほどにありふれた、非日常の物語。


ページファイル02






武装神姫SS。 わんだふる神姫ライフ 第1話「悪魔が来たりて」

近日掲載予定です。




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