神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第17話

『うわァ~、すっごい人だかりだネ』
「……ホント」
 息せき切ってDO ITの二階にたどり着いたあたしたちは、眼前に広がる光景に唖然
としてしまった。
 今日が休日だというのを差し引いても、すごい人の数だった。足の踏み場もないってい
うのはこういう状況をさすんだろう。
「あ~、せんぱ~い。こっちこっち~!」
 小柄なあたしは、どうやってこの人の壁を突破したものかと思案していると、人だかり
の中からあたしを呼ぶ声が聞こえた。
 あまりの大声に見事なくらいに二つに割れた人ごみの奥で、美佐緒が手を振っている。
う~む、器用なやつ、と思いながら紅海を渡るモーゼな気分で歩いていくと、なにやら
周りからヒソヒソと話す声が聞こえてきた。
「おい、あのストラーフか?」
「ああ、そうみたいだな。でも、オーナーの娘ってあんなに小さかったのか」
「そうだな、……どうみても小学生だよな?」
 
 一ノ瀬 隣 十七才 華の高校二年生 只今彼氏募集中! 
 
 瞳に怒りのメッセージをそえ、人だかりのほうをキッと睨みつけると、ヒソヒソと話し
ていた声がピタリと止まる。
『プッ、くくクッ』
  
               おまえも笑ってんじゃねーよ。バカ悪魔!
 
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
               第17話    「刃狼」       
 
「あの~、せんぱい。何かあったんですか?」
「……別に」
 あたしの不機嫌そうな顔を見て、心配そうに眉をひそめながら美佐緒が声をかけてきた
が、憮然と一言つぶやくと、あたしはプイッと横を向いてしまった。
『心配しなくってもダイジョーブだヨ、みさキチ。さっきそこでリンの核心をつく発言が
あってねェ~。それにしてモ、さすがリン。“ランドセルの似合う女子高生”の異名は伊達
じャ……AHEAAAAA!』
 怒りに震えるあたしの殺気に気づいたのか、脱兎のような勢いで逃げ出すトロンを素早
くキャッチすると、渾身の力を込めて握り締めていた。
「ふふふ、トロ~ン。あんまり妙なあだ名を人につけないほうがいいんじゃないかしら?
いい加減にしないと、耐用年数までもたないと思うわよ?」
 手のひらのなかから響く、メキメキとかベキッという音が天上の調べのように聞こえ、
うっとりと耳を澄ませていたが、背後から聞こえてきた美佐緒の不満そうな声が現実世界
へとあたしを引き戻す。
「せんぱい! いくらなんでもちょっと酷くないですか? わたし、ずっと待ってたんで
すよ!」
「あっ!」
 そ~っと振り返ってみると、さすがに能天気な性格の美佐緒も、今のあたしの態度には
カチンときたのか、腰に手を当てこれ以上はないというほど頬をふくらませ、あたしを睨
んでいる。
「あ、あはははは……本っ当にゴメン! 全部あたしが悪かった。お願い許して、ね?」
 手のひらを合わせ、愛想笑いを浮かべながら拝むように何度も謝るあたしを、美佐緒は
無言で見下ろしていたが、ちいさなため息をひとつすると、急にあたしに顔を近づけてき
た。
「じゃあ、せんぱい。コ・コ♪」
「?」
 意味がわからず、思わず後退りながらキョトンとしていると、美佐緒はあたしの前で横
を向くと、さかんに自分の頬を指差す。
「さっ、せんぱい」
「う、うん」
 あたしは、促されるままに美佐緒に近づいていった。
「…………あ痛っ! ひっどぉ~い。なんで叩くんですか、せんぱい?」
 手を上げたままのポーズで立つあたしの目の前で、美佐緒が頬を押さえたまま、驚きの
表情を浮かべてこっちを睨みつけている。
「あれっ? ひっぱたけって意味じゃなかったの?」
「そんなわけないじゃないですか! チューですよ、チュー。罪滅ぼしにほっぺにキスし
てくださいって意味ですよ! もうっ。 じゃあ、もう一度気を取り直して……」
「するかっ!」
 そもそもの原因はこっちにあったわけで、そこらへんを考慮して三割ほど力を加減して
放ったスネ蹴りを受け、跳ね回っている美佐緒を眺めていると、コンソールの上に立った
ガーネットが困ったような顔で遠慮がちに話しかけてきた。
『あの~、隣どの。そろそろ手を離してはいかがでござるか?』
「へっ? 手? ……あっ!!」
 ガーネットの言葉に、なにげなく視線を手に移すと、あたしはトロンを握り締めたまま
であることに気づき、慌ててトロンをコンソールの上にそっとおろした。
「あ~、大丈夫、トロン?」
 さすがに気まずく、あたしは愛想笑いを浮かべる。
『それにしても、時間に厳しい隣どのにしては珍しいでござるな。どこかで事故にでも巻
き込まれたのではないかと、美佐緒どのと心配していたところでござるよ』
 苦笑しながらガーネットが話しかけてくる。
「本当にごめん、ガーネット。トロンのやつがなかなか起きなくて遅れちゃったのが一番
の原因なんだけど、一階で変な男の人に呼び止められちゃって」
『なんとっ?』
「それでケガとかはしなかったんですか、せんぱい?」
 トロンを介抱していたガーネットと、まだ足を押さえて飛び回っていた美佐緒が驚いた
様子で尋ねてきた。ふたりの心配そうな顔に、少しだけ機嫌をよくしたあたしはニコリと
微笑んだ。
「ありがとう。あたしなら……」
『「いや、そうじゃなくて相手の身体の方が……」』
「あーそう! あたしなんて心配するに値しないってことよね? どうせあたしは、ヒグ
マと戦ってもケガひとつしないだろうとか、あんたたちそう思ってるんでしょう?」
『「あははははは」』
 ひきつった笑顔で声をそろえて笑うふたりに、そこは否定するとこだろう? と心の中
でツッコミを入れながら、あたしはますます不機嫌になっていく。
『それにしてモ、ずいぶんと混んでるネ。今日はなんかあるノ、ガンちゃん?』
 自己修復機能でも内蔵しているのか、いつのまにか完全復活したトロンがコンソールの
上にペタンと座り込み、ねむそうな顔で大あくびをしながらつぶやいた。
「あっ、そのこと?」
 殺意のこもったあたしの視線を受け、頭から冷水をかけられたかのように汗まみれにな
っていたふたりだが、トロンの一言に地獄に仏といった顔で美佐緒が説明を始めた。
 この人だかりは、レスティーアの戦いでトロンに興味をもった神姫やそのオーナーたち
が、トロンがガーネットと一戦交えるという噂を聞きつけ集まった結果らしい。
 おそらくこのギャラリーの何割かは、トロン云々よりもガーネットがトロンを対戦相手
に選んだという事に関心をもったんだと思う。
 あたしは、みるみる怒りが引いていくのを感じながら、胸中に渦巻く疑問に思いを馳せ
ていた。
 
    何故、ほとんど戦わないガーネットがトロンを対戦相手に選んだのか? 
 
 ガーネットはレスティーアとトロンの戦いを知り、トロンに興味を持ったと言った。で
も、本当にそれだけなのだろうか?
 あたしから武術を習い始めたとはいえ、トロンの腕前はまだまだ未熟だ。あのレスティ
ーアすら勝てなかったガーネットが相手では、とても太刀打ちできるレベルではないだろ
う。
 あたしはこれから始まる激戦に、身が引き締まる思いだった。
 視線を移すと、さすがのトロンも肌で感じるのか身動きひとつせず、ガーネットを見つ
めて……ん?
「おいっ! 起きろ!!」
『んア?』
 あたしの怒声にビクンと身体を震わせると、口元を伝わり流れ落ちるヨダレをぬぐいな
がら、なんとも締まりのない顔を上げる。
『ふァ~、いい気分で寝てたの二。なんの用なのサ、リン?』
「何の用? じゃないでしょう! あんた緊張感なさすぎなのよ!」
 
           ダ、ダメだ。このままじゃ、ガーネットに瞬殺される
  わけがわからずキョトンとしているトロンを前に、両手で頭を抱えるようにしてあたし
はうずくまってしまった。
『ははは、戦いを前にしてその豪胆さ、拙者ますます楽しみでござるよ。では、そろそろ
戦いを始めるでござるか? 隣どの、トロンどの』
 そう言うと、カラカラと笑いながら、ガーネットは自分たちのコンソールへと向かって
行く。
 
 いや、ガーネット。トロンは別に豪胆じゃなくて、ただ空気読めないだけだから…… 
 
 心のなかでそうガーネットにツッコむあたしだったが、無論ガーネットが気づくはずも
なかった。
 楽しそうに去っていくガーネットの後ろ姿を目で追いながら、この先の戦いに絶望的な
気分になったが、気持ちを切り替えるとトロンの方を振り向いた。
「はぁ。じゃあ、あたしたちもそろそろ用意をって……あれ?」
 そこには鼻歌まじりでアーマーを装着しているトロンの姿があった。
「あんたいつの間に……それにしてもずいぶんとご機嫌ね?」
『まあね』
 先日この店で購入したバッフェバニーのアーマーをつけ終え、立ち上がりながら異常が
ないかチェックを始めたトロンが、言葉少なめに答える。その姿は、つい少し前までの倦
怠感をまとわせていた、あたしのよく知るいつもの寝ぼけ悪魔ではなった。
 爛々と輝く双眸は金色に彩られ、口元は歓喜に満ちた笑みを形作る。少しハスキーな
口調もまるで別人のようだった。
「ねぇトロン。あんたひょっとして、ガーネットの噂を知ってたの?」
 あたしとは対照的に、気落ちしたようでもなく、ガーネット以上に嬉々とした様子のト
ロンを見ていて、思わず胸に湧き上がった疑問を口にした。
『ううん。さすがにガンちゃんがそんな大物だったとは、ボクも知らなかったけど、ガン
ちゃんが強いのは知ってたよ』
 ウォーミングアップのつもりか、屈伸を始めながらトロンが軽い調子で答えたのに、あ
たしは驚いた。
「知ってたって、なんでそんなことがあんたにわかったの?」
『ガンちゃんは、レスPと同じ匂いがしたからね』
「におい?」
 まったく要領を得ないトロンの答えに怪訝な顔をしていると、大きく伸びをしていたト
ロンが、イタズラっぽい笑みを浮かべながらあたしを見つめ、こう言った。
 
『そう。強い神姫だけがもつ、あの“匂い”がね』
 
                          ※
                  
                    そこは死の世界だった。
 
 生きる物の気配ひとつなく、ただ、静寂のみが全てをむなしく覆っている。
 無数にそびえ立つ石柱も、かつての面影を残す物はほとんどなく、大半が傾き崩れてい
る。ときおり石柱のあいだを吹き抜けていく風の音は、まるで人知れず忘れられ、静かに
滅び待つ者たちの怨嗟の声のようだった。
 
 この風化し、滅び行く遺跡になかに、音もなく立つ人影がふたつ。
 ひとつは、黒光りするヴァッフェバニーのアーマーを身に纏ったトロン。
 そして、もうひとつの人影は……
『やっぱりガンちゃん、あの格好で戦う気なのかな?』
「そうみたいね」
 呆れたような口ぶりのトロンに、あたしもまったく同じ想いを抱きながら応じた。
 てっきり、紅緒のデェフォルトである甲冑でも装備してくるものと思っていたのに、ト
ロンの目の前にすっくと立ちつくすガーネットの姿は、店内で話をしていた時と寸分変わ
らぬゴスロリルックだった。
 艶やかな黒髪を、巨大なリボンでツインテールに結わえ、身に着けた黒を基調としたゴ
シックドレスは、悪趣味なほど大量のフリルで飾り立てられている。
「あ、あのさぁガーネット、その格好で大丈夫なの?」
『ふっ、心配は無用でござるよ、隣どの。これが拙者のでふぉるとでござる!』
 あまりに緊迫感に欠けるガーネットの姿に尋ねてみるが、当の本人は気にした様子もみ
せず胸をはって答える。うしろで手をたたいて喜んでいる美佐緒を一瞥しながらあたしは
呆れてため息をつく。
「心配無用って、あんなヒールの高い皮のブーツで動けるの……ん?」
 違和感炸裂っぷりのガーネットを頭から眺めていたあたしは、ガーネットの腰のあたり
で目を細める。
 細くくびれたガーネットの腰には、左右それぞれに一振りづつの日本刀が、皮のベルト
に吊るされていた。
『ん。あの刀がどうかしたの、リン?』
 あたしの視線から、目ざとく目的の物を探し当てたトロンが怪訝そうな声で聞いてきた。
 トロンの言いたいことはあたしにもわかってるつもりだ。侍型の神姫であるガーネット
が刀を武器にするのは当然のことだろう。
 そしてガーネットが二刀流の使い手であったとしても、別におかしいことは何もないだ
ろう。
「でも、あの刀の長さは……」
 あたしの口からもれたつぶやきは、戦いの刻を告げる電子音にかき消された。
 
そして、ガーネットの姿が陽炎のように揺らめいた。

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でーぶいでー観賞

シロ「……………………」

マルガリータ『何、呆けた顔してんのよ?』

アリシア『マリーちゃん、これ!』

マルガリータ『これってDVDじゃない』

シロ「……あれ、マルガリータにアリシアじゃないか、いつからそこにいたんだ?」

マルガリータ『さっきからいるわよ! それより、またDVDなんて買ってきたの?』

シロ「うん。三本買うと一本1000円だから、つい、ね」

アリシア『由緒正しい貧民の家系の出身であるマスターには、ありがたいですよね?』

シロ「あ、あははははは……」

マルガリータ『それにしても<デイ・オブ・ザ・デッド2>に<フルメタル・ジャケット>それに<エイリアン・リベンジ>って、何よコレ、まるでチョイスに統一性が無いじゃない』

シロ「いや、たて続きに三本も同じジャンルの映画見るのは、さすがにキツイだろう?」

マルガリータ『まあ、それもそうか。じゃあ、この<デイ・オブ・ザ・デッド2>ってどんな感じだった?』

シロ「それかあ、なんかジャケットに<死霊のえじき>の続編みたいなことが書いてあったんで期待したんだけど、ぜんぜん別物だったしなあ……それに、あんまり血も飛び散らなかったし」

マルガリータ『なんだ。じゃあ、パスねっ!!』

アリシア『マリーちゃん……じゃ、じゃあマスター、この<フルメタル・ジャケット>はどうでした? これって怖い軍曹さんが出てくる映画ですよね?』

シロ「ああ、ハートマン軍曹ね。確かにあの人のセリフは凄いね。よくもまあ、あれだけ痛烈に人を罵倒できるもんだわ。オレだったら三分で脱走してるね!」

マルガリータ『あんた、根性ないもんね。で、そのナントカ軍曹の他に印象に残ったシーンとかってないの?』

シロ「そうだなあ…………あっ、ラストで兵隊さんたちが、ミッキーマ〇ウスの歌を歌いながら行軍してたのが印象に残った!」

マル&アリ『…………』

シロ「まあ、この作品はベトナム戦争のドキュメンタリー的な映画として見るなら、けっこうおもしろいんじゃないかな。個人的には70点ぐらいの出来だと思うけどね」

マルガリータ『ふ~ん。じゃあさあ、この<エイリアン・リベンジ>ってどうだった?』

シロ「ああ、それ? そうだなあ、あえて点数をつけるとしたら……-300点ぐらいかな?」

アリシア『低ッ!?』

マルガリータ『いや、低いとかそういうレベルじゃないでしょう? ソレ、そんなに酷い出来だったの?』

シロ「あえて多くは語りませんが、途中で見るのを止めた映画って、これがはじめてかも……」

マルガリータ『……』

アリシア『ジャケットは、けっこうカッコいいのになあ……』

シロ「ソレにだまされちゃダメッ! 道に落ちてたとしても、拾っちゃダメッ!!」

マル&アリ『は、はい!』

CIMG0596.jpg




さて、話は少し変わるのですが、ようやくリニューアルしたfgに投稿することができました。
作品は、以前作ったネタ神姫(?)なのですが、ここで困ったことが起こりました。
なぜか武装神姫のカテゴリーに作品が掲載されないんですよねぇ。タグなんかの他にも設定することがあるのでしょうか?
どうやら、新fgのシステムに慣れるのはもう少し時間がかかりそうです。トホホ……。

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わんだふる神姫ライフ 第16話

「はあ、はあ、やっば~。こりゃあ完全に遅刻ね」
 走りながらポケットから携帯を取り出し、表示された時間を横目で確認すると顔をしか
めた。美佐緒との約束の時間はかなり過ぎてしまっている。
『う~ン、だるいヨ~、つかれたヨ~』
「なんで一日中寝てただけのあんたが、そんなに疲れるのよ?」
 猛スピードで後ろに流れていく風景に目もくれず、あたしは胸ポケットから顔だけ出し、
ブツブツとつぶやき続ける遅刻の原因を一喝した。
『むゥ、やっぱり寝疲れかなァ~』
「ふふふ、トロン。なんだったらあんた、このままトコシエの眠りについてみる?」
『ン~、今回は遠慮しとくヨ』
 自分でもはっきりとわかるほど引き攣った顔で話しかけるが、トロンはさして気に素振
りもみせず、しれっと答える。
 あたしはトロンを睨みつけたまま、最後の角を曲がると目の前に見えるDO ITに、
頭から全力で突っ込んだ。
 自動ドアをくぐりぬけ猛然と突き進むあたしに、驚いた顔で慌てて道を開ける他のお客
さんや店員さんに心の中で謝りながらも眼前のエスカレーターへと急ぐ。
「  よっ!! 」
「きゃっ!?」
 エスカレーターまであと少しというところで、いきなり背中に殴られたような衝撃を受
け、危うく転びそうになってしまった。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第16話   「テケリ・リ!」
 
「なっ、何なんですか、あなたは? あぶないじゃないです……か」
 必死にエスカレーターの手摺りにしがみつき、背中の痛みに耐えながら振り向き背後
の人影を睨みつけたのだが、あたしの抗議の声は途中で止まってしまった。
 唖然としながら見つめたその人は、美佐緒ほどではないものの180センチはあるので
はないかとおもえるほどの巨躯をもつ男の人だった。
 しかし身長こそ同じくらいでも、薄手のシャツの下からでもはっきりとわかる筋肉は圧
倒的な迫力があり、ありきたりな言い方をさせてもらえばまるで肉の壁みたいだった。
 ポカンと口を開けたまま、さらに視線を上に向けると、どこかの山から切り出してきた
岩を荒々しく削りだしたような顔があたしを見おろしていた。
「悪ぃ。そんなに力を入れたつもりはなかったんだけどよ。ケガ、なかったか?」
 あたしはしばらくその大男を無言で睨みつけていたが、困ったように頭を搔く男の仕草
に、妙な愛嬌を感じて少しだけ溜飲が下がった思いだった。
「もう少し力の加減をしてください! それと、あたしに何か用でもあるんですか?」
 本来なら時間もないし、すぐにでも美佐緒とガーネットの待つ二階に行きたかったけど
目の前の男の人の態度にひっかかるものを感じて一応用件を聞いてみた。
「お? おお、それなんだけどよ。あんたなんだろう? レスティーアをコケにしたスト
ラーフのオーナーってのはよ」
「え?」
 あたしの剣幕にどう切り出していいのか迷っていたのだろうか、割れ鐘を叩いたような
声で堰を切ったように話し始めた男に、あたしは圧倒されてしまった。
 
            ストラーフって、やっぱりトロンのことよね?
 
 胸ポケットに視線を向けると、なぜかトロンはぷるぷると身体を震わせながら、男の人
を見上げていた。
『テ、テケリ・リ! テケリ・リ!』
「?」
 いきりなり身振り手振りを交えながら意味不明の言葉をしゃべり始めたトロンに、あた
しは眉をひそめる。
「あんた、何やってんのよ?」
『いヤ、なんかショゴスみたいなカオしてるかラ、このほうがコミニュケーションとれる
かなァ~、と思っテ』
「ショゴス? 何ソレ?」
『まァ、一説のよるト、リンたち人間のご先祖さまかもしれない存在かナ?』
 あたしは無言で、眼前にそびえたつ人間山脈を見上げた。
 あたしも人様のことをどうこう言える容姿じゃないけど、悪相といってもいい感じの男
の人の顔をまじまじと見ながら、この人がご先祖様なのはちょっとイヤかな~、などと
失礼なことを考えてしまった。
 
と言うか、コミュ二ケーションってこの人、最初っから日本語を話してるのに……
 
「あのよぉ。話、続けていいか?」
「え? ハイッ、どうぞお続けになってください!」
 困り果てたような顔をした男の人の声に我に返ったあたしは、慌てて作り笑いを浮かべ
ると、妙な日本語で話を続けるようにうながした。
「俺は、桜庭美雪っていうんだけどよ……」
「み、みゆき?」
 度々話のコシを折ってたいへん申しわけなかったんだけど、あまりにギャップの激しい
名前に思わず聞き返してしまった。
「おう! 美しい雪と書いて美雪だ。よろしくな」
 なんか得意そうに背をそらして答える桜庭さんには申しわけないんだけど、あたしの率
直な感想は、似合わね─ッ、だった。
「あたしは一ノ瀬と言います。確かにあたしはトロンのオーナーですけど、それと桜庭さ
んの用件と、どういう関係があるんですか?」
 散々話のコシを折りまくったのはこっちのほうだけど、なかなか繋がらない内容に首を
傾げながら、あたしは桜庭さんに問いただす。
「それなんだけどよ。これから俺とバトルしねぇかい? 一ノ瀬ちゃん」
「へ? バトル?」
 ようやく話が本筋に戻ったことが、よほどうれしかったのか桜庭さんは顔中の筋肉をめくり
上げるような顔をした。多分、笑ったんだろうけど正直いってすごい迫力だった。きっと人食
い虎が笑うと、こんな感じなんじゃないかな。
「あの、すみません桜庭さん。あたしたちこれからバトルの約束があって、今日は無理な
んです」
「え? そうなのか……そりゃあ残念だな」
 あたしの答えにがっくりと肩を落とす桜庭さん。きっと根は素直な人なんだろう。あた
しの態度に、いちいち一喜一憂する姿に笑いをかみ殺すのに苦労した。
 あたしはシュンとしてしまっている桜庭さんが少しかわいそうになってしまい、そっと
目線を胸ポケットに移してみる。トロンはねむそうな顔であたしを見上げていたが視線が
合うと小さくうなずいた。
「でも、日を改めてもらえるなら、あたしたちは別に構いませんよ?」
「ほ、本当か、一ノ瀬ちゃん! おおっ?」
 うれしさのあまりか、こっちにめがけて突進してくる桜庭さんに、あたしの身体はつい
反射的に動いてしまった。
 あたしが我に帰ったのは、桜庭さんを今まさに背負い投げで投げ飛ばそうとしている最中
だった。
 
あっ、今のキャンセル!
 
 そう思った時には手遅れで、キョトンとした顔で肩越しに逆さに通り過ぎていく桜庭さんに、
あたしはただ引き攣った笑みを送るしかなかった。
                            ※
「本当にすみませんでしたっ!」
 地響きを立てて床に叩きつけられ、腰に手を当てうめいている桜庭さんに、あたしは平謝り
に謝った。
「痛つつっ。いきなりじゃないかよ、一ノ瀬ちゃん。それにしてもタイミングといい技のキレと
いい、あんた武術でもやってんのかい?」
「えっ? ええ、少しだけ……」
 顔をしかめながら尋ねる桜庭さんに、あたしはしどろもどろに答える。
『フッ、あまいなショゴス。“熊殺しのリン”といえバ、このあたりじャ、赤ん坊でも知っテ……
OGWAAAAA!』
 あたしは無言で胸ポケットを鷲づかみにすると、力任せに締め上げた。手のひらに伝わ
る断末魔の痙攣を楽しんでいるあたしを見て、桜庭さんがいぶかしげな顔をする。
「なるほどな。しかしオーナーのあんたがこれほどの腕なら、そっちのおチビさんがレス
ティーア相手にいい勝負やったってのもうなずけるぜ。」
 ひとりで納得したように何度もうなずく桜庭さん。あの戦いの時は、まだトロンはあた
しから合気道を習ってはおらず、レスティーアとまがりなりにも渡り合えたのはトロン自
身の実力なのだが、これ以上話がややこしくなるのもいやだったのであえて黙っておくこ
とにした。
「それにしても、これから一戦やるって話だが、相手はどこのどいつだい?」
「相手ですか? ガーネットですけど」
 苦痛に顔を歪めながら尋ねてきた桜庭さんに何気なく答えると、立ち上がりかけていた
桜庭さんが急にあたしのほうに振り向いた。
 その形相に、こんどこそ襲ってくる気か? と思わず身構えるが、桜庭さんはしばらく
唖然とした顔でいたが、ようやく口をひらいた。
「あ、あんた。あの“刃狼”と闘ろうっていうのかい?」
「じんろう?」
 聞きなれない名前に、首を傾げるあたしを見下ろしていた桜庭さんの喉が大きく動く。
「ああ、ガーネットの二つ名さ。めったに戦わないんでランクも下位の方だが、距離を詰
めての戦いならば、間違いなくこの店で最強だぜ。なんてったってあのレスティーアでさ
え負けちまったぐらいだからな」
「う、うそ? だってガーネットが戦うとこなんて一度も見たことないし、“コスプレ侍”
なんて呼ばれてるから、あたしてっきり……」
「まあ、自分の気に入った相手としか戦わねえからガーネットの実力を知ってるやつはそ
んなに多くはねえが、あいつのことをそんな妙な名前で呼ぶやつは、間違いなく何も知ら
ねぇ新参者だろうよ」
 
     すみません。あたしも思いっきり新参者なもんで、何も知りませんでした……
 
 桜庭さんはガーネットの武勇伝を延々と語っていたようだが、真っ白なカタマリと化し
たあたしの耳には一切とどいていなかった。
 ガーネットと知り合ったのは、かなり昔のことだが一度たりとも彼女が戦っているとこ
ろを見たことがなかったあたしは、ガーネットが“刃狼”なんていう二つ名で呼ばれる存
在だったなんて初耳だった。
 だいたい、子供のころから実の姉のように美佐緒の世話ばかり焼いていた彼女の姿
からは、とても想像できないことだった。
「あれ? そういえばガーネットって……」
 思いもしなかった彼女の一面を知って、驚きを隠せなかったあたしだが、ここである疑
問が頭をよぎった。いや、ガーネットの実力の話じゃないんだけど。
『あ、あのさァ…リン。そ、そろそロ……じ、じかン…』
「時間? ……オー マイ ガッ! やばい! 完全に忘れてた!!」
 いまだにつかみつづけていた手のひらの中から、ピクピクと震える感触とともに、息も
絶え絶えのトロンの声が答えのでないあたしの思考を中断させた。
「すみません桜庭さん、あたしたち急いでるんで今日はこれで失礼します!」
 まだひとりで話し続けている桜庭さんをその場に残し、あたしは大慌てで二階のフロア
ーへと続くエスカレーターを駆け上った。
 
              美佐緒とガーネットの待つ、戦場へと向かって……
 
 

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悪癖

「わしゃあ、プラモが大好きじゃけぇ!!」


マルガリータ『……どうしたのよ、いきなり?』

シロ「いや、なんとなく……」

アリシア『ほっ、よかったぁ。 脳に蛆でも湧いたんじゃないかと心配しちゃいましたよ、マスター』

シロ「う、うん。心配してくれてありがと、アリシア……」

マルガリータ『まあ、あんたホントにプラモ好きだもんね』

アリシア『でも、その割にはマスターのコレクション、最近の品ばかりですね?』

シロ「オレ、一定のサイクルで部屋の大掃除をしたくなるからなあ。その度にプラモとかも大量に処分しちゃうんよ」

マルガリータ『もったいないわねぇ! だったら買わなきゃいいでしょう?』

シロ「ふふふ。モデラーたる者、積みプラの一つもせんでどうする?」

アリシア『でも、せめてこのプラモ山脈をなんとかしないと……』

マルガリータ『せめて、いくつか完成させなさいよ!!』

シロ「うむ、それは無理だ!」

マル&アリ『?』

シロ「だってオレ……プラモ組み立てるの苦手だし!

マル&アリ『……最っ低ッ!!』


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わんだふる神姫ライフ 第15話

『痛ったいなァ。なにすんのサ、リン!』
 額をさすりながら、どっから取り出したのか大きな十字型のばんそうこうをぺタリと額
に貼ると、トロンはあたしを睨みつけ、不満そうにそう言った。
「うるさいっ! あんたみたいな寝ぼけ悪魔には、寝覚めの一発はデコピンがお似合い
でしょう?」
『……それってさァ、デコボコのいっぱいあル、オレンジ色のヤツ?』
「それは、デコポン」
『じゃァ、トマトとかにいっぱい入ってるヤツだっケ?』
「それは、リコピンよ!」
『オッ、さすがリン、ないすツッコミ~』
「……はぁ」
 口元のよだれを手で拭いながらニヤリと笑い、親指をビシッと立てるトロン。
 デコポンやトマトの話なんかしてる場合じゃないのに、つい釣られてツッコミを入れて
しまうあたしは、骨の髄までこのバカ悪魔に蝕まれているのだろうか?
 大きなため息をつきながら、不安にかられる今日この頃だった。
 
                     わんだふる神姫ライフ
 
               第15話     「理由」
 
『……あの~、隣どの?』
「あっ、ごめん、ガーネット」
 あたしは照れ笑いを浮かべながらガーネットに向き直った。
 でも、あたしを見つめるガーネットは無言だった。彼女が何を言いたいのかは充分に
理解しているつもりだったけど、どう返答したらいいものか迷っていた。少なくともこの答
えは、一人で勝手にだしていいものではないだろうし。
「じゃあ、せんぱいのやる気をだすためにも、このバトルで賭けをしませんか?」
 どうしたものかと思案していたあたしの耳元に、いきなり美佐緒の声が聞こえ驚き振り
返ると、すぐ目の前に笑みを浮かべた美佐緒の顔があった。
「賭けって……それ、どういう意味よ?」
 あんた近いのよっ! と言わんばかりに美佐緒の顔を押し戻しながら尋ねると、そうは
いくかと、必死に抵抗しながら美佐緒が説明を始めた。
「だ、だからですね、むぐっ、このバトルの勝者に与えられる特典という事です。例えば
ガーネットが勝ったならば、ぐぅっ」
「ガ、ガーネットが勝ったら、くっ、な、なんだっていうの……よ?」
「わ、わりゃひと……おちゅきあいして……くりゃはい!」
 自分の頬にミシミシとあたしの手のひらをめり込ませながら、なおも肉迫する美佐緒を
全身全霊の力を込めて押し戻す。
 めり込んだ手のせいで、一昔前のB級ホラーにでてくるモンスターみたいな形相になり
ながらも突き進んでくる美佐緒の馬鹿力を逆手にとり、あたしはさっと身体の軸線をずら
し美佐緒をやり過ごした。
 当然、後先考えずに全力全開で向かっていた美佐緒は、あたしという身体の支えを失
いものすごい勢いでホールの床に鼻から強行着陸する事になった。
「帰るわよ、トロン!」
 焦点の定まらない顔であたしを見上げていたトロンを、ひょいと箱から摘み上げると、
レジの方へ足早に歩み去っていく。
「え~ん、待ってくださいよぉ、せんぱ~い。そこは「望むところよっ!」って言うとこ
ろですよ~」
 鼻を押さえながら、慌てて後を追ってくる美佐緒にクルリと振り向くと、あたしはこめ
かみを引き攣らせながら吐き捨てるように言い放った。
「言うわけないでしょう、馬鹿! だいたい何なのよ、その賭けって? あたしが勝った
ら何かくれるわけ?」
「万が一、トロンが勝ったその時は……」
「その時は?」
「わたしの身体……せんぱいの好きにしてくだ……あ痛っ!」
 あたしは頬を赤らめ、腰をクネクネさせながら禁断の妄想ワールドに突入した美佐緒の
脛を、無言のまま蹴飛ばしてやった。
『ヘェ~、おもしろそうじゃなイ。やろうヨ、リン!』
「じょ、冗談じゃないわよ! もしあんたが負けちゃったらどうする気なのよ?」
 腰に手を当てたまま、足を押さえながらヒィヒィと言っている美佐緒を凍てつくような
眼で見ていたあたしは、脳天気なトロンの提案に驚いてしまった。
『ダイジョーブだっテ! ボクはリンの神姫なんだヨ? リンもオーナーとして自分の神
姫を信じてヨ』
「で、でも……」
『そんなに言うんだったらボクの目を見テ、リン! これがウソを言っている者の目に見
えるノ? ………………プッ!』
「いや、そんな開いてんだか閉じてんだかわからないような目で言われてもって、あんた
今、最後のほうで『プッ』とか吹き出してない?」
 
 駄目だ。このバカ悪魔は絶対ワザと負けるに決まってる。こいつだけは信じちゃいけな
い!
 
 何がおもしろいのか、よっぽど自分のセリフがツボに入ったらしく、しゃがみ込んで身
体をプルプルと震わせているトロンに氷点下の視線を送っていたあたしの背中に、さっき
から無言のままだったガーネットが話しかけてきた。
『隣どの、先程の勝負の件でござるが、是非拙者からもお願いするでござる……無論、美
佐緒どのが言った賭けは無かった事にして、でござるが』
「え~っ? 何でぇ~、ガーネットォ~」
『何でもナニも、真剣勝負の場に賭け事など持ち込むのは不謹慎でござるよ。美佐緒どの』
 不満そうに食って掛かる美佐緒を珍しく強い口調で一喝するガーネット。美佐緒は頬を
膨らませソッポを向いてしまう。
 そんな美佐緒を、ヤレヤレといった表情で見つめながら苦笑いを浮かべていたガーネッ
トだったが、しばらくするとあたしの方に振り返る。
『で、如何でござるか、隣どの?』
 真摯な光を宿した瞳であたしを見つめるガーネット。彼女がなぜトロンとの戦いに固執
するのかその理由はわからなかったが、ここまでガーネットが望むのなら、あたしとして
は断る必要を感じなかった。
 
                  あとは、本人次第なんだけどね……
 
 そう考えながらトロンに視線を移すと、相変らずプルプルと身体を震わせながらしゃが
み込んでいたトロンだったが、呼吸困難に陥りながらもあたしの方に向かって親指を立て
ていた。
「……ふぅ。OKだって、ガーネット」
『本当でござるか? 隣どの!』
 小さなため息をつきながらふたりの戦いを了承すると、あたしとは対照的に明るい表情
をみせるガーネット。
 
      こんなにうれしそうな彼女を見れたのが、せめてもの救いなのかな?
 
 しばらくそんなガーネットを見つめていたが、意を決するように小さく頷くと机の上の
彼女の前に屈んだ。そしてあたしは真正面からガーネットの瞳を見据えながら、以前から
心に決めていて事を話し始めた。
「あのね、ガーネット。実はあたしからもひとつだけお願いがあるんだけど……」
                           ※
「はぁ。ずいぶんと帰りが遅くなっちゃったな~」
 薄闇に包まれ、人気のない通りをポツリポツリと点在する街路灯が、儚げなくあたしの
影を地面へと写しだしていた。
 あの後、ガーネットとトロンのバトルの予定などを美佐緒と話し合っていたら、すっか
帰りがおそくなってしまい、あたしは夜のとばりの下りるなか足早に家路を急いでいた。
『……ねェ、リン』
 肩から下げていたバッグから眠たげなトロンの声が聞こえてきた。あたしは歩調を変え
ることもなく、何気ない口調でトロンに答えた。
「ん、何?」
『どーしてあんなこと言ったノ?』
「なんの事よ?」
『さっき、ガンちゃんに言ってたことだヨ』
「…………」
 あたしはその言葉を聞くと道のまんなかで、ピタリと立ち止まってしまった。
バッグに視線を移すと、トロンが首だけ出したまま、こっちを見上げている。
 さっきまでとはうって変わった静かな口調のトロンに、あたしは何も言えなくなってし
まった。
 
    トロンの気持ちはあたしにもよくわかる。あたしだって立場が同じだったら、きっと
困惑してしまったはずだから……
                            ※      
『バーチャルバトルで……で、ござるか、隣どの?』
「うん」
 真顔でうなずくあたしを、キョトンとした顔で見つめていた美佐緒とガーネットだった
が、美佐緒が小さくうなずくのを見ると、ガーネットはあたしの提案を快諾してくれた。
『拙者はトロンどのと戦えるのであれば、別にかまわないでござるよ』
 微笑みながらそう答えてくれたガーネット。美佐緒も気を利かせてくれたのか、何も聞
いてこなかったけど、トロンまでもがいっさい理由を尋ねてこなかったのは意外だと思っ
ていたけど……やっぱり気になるよね。
 
 自分の容姿にコンプレックスを持っているあたしは、美佐緒のような存在を別にすれば、
なかなか他の人に素直に自分の心を開くことができなかった。
 
         “何でも気兼ねなく話し合える、友達のような存在が欲しい”
 
 それが、あたしが神姫を欲しいと思った理由だった。こんな話、とてもトロンのヤツに
は言えないけどね……
 
 だから、もともと自分の神姫に戦いなどさせるつもりはなかったあたしには、成り行き
上のこととはいえ、レスティーアとトロンのリアルバトルはかなりショッキングな出来事
だった。
 例え、それがオーナーと神姫の同意の上のこととは言っても、あたしたち人間の暴力へ
の欲望の身代わりとして戦わせているようで、見ているのが辛かった。
 もちろん、今回みたいにリアルバトルをバーチャルバトルに変える事が、なんの問題の
解決にならない事はあたしにだってわかっている。
 そして、リアルバトルを否定してるくせに、トロンがレスティーアに勝ってほしいと、
あたしの勝気な部分が願っているのも否定しようの無い事実だった。
 自分自身のエゴと、そんな自分に対する嫌悪感が頭の中を交錯し、とてもトロンに上手
く説明する自信のないあたしは言葉に詰まってしまった。
 しばらく、何とも居心地の悪い無言の間が続いたが、そんなあたしの心を見透かしたの
かトロンが間延びした口調で話しかけてきた。
『……べつ二、リンが気にするコトないんじゃないかナ?』
「それってどういう意味よ?」
『つまりサ、あくまで戦うのはボクたち神姫ってコト、リンがそんなこと気にしたってど
うにもならないんじゃないノ?』
 あたしはギクリとしながらトロンの方に視線を向けた。相変らずバッグの中から顔だけ
だしていたトロンだったが、毎度のことながら、コイツあたしの心が読めるのか? と驚
きを隠せなかった。
 でもそんなことより、トロンの一言は溜めに溜め込めこんでいたあたの感情に火をつけ
るのに充分だった。
「ば、馬鹿にしないでよね! あたしはあんたのオーナーなのよ? そんな無責任な真似
ができるわけないでしょう?」
『……ボクみたいに生意気デ、かわいげのカケラもなくテ、いっつも寝惚けてテ、リンを
からかってばかりいル、ボクみたいな神姫でモ?』
「あたりまえでしょう? あんたみたいに生意気で、可愛げの欠片もなくて、いつも寝ぼ
けてて、あたしのことをからかってばかりいるあんたみたいな神姫でも、よっ! いい?
トロン! あんたがあたしの神姫であるかぎり、もう絶対にあんたにリアルバトルはさせ
ないからねっ! わかった?」
 止め処も無く口をついてくる言葉を一気にまくし立てると、あたしは息継ぎのために大
きく息を吸い込んだ。トロンはあたしの声が聞こえているのかまるで判断がつかなかった
が、しまりのない顔で黙ってバッグの中からあたしの顔を見上げていた。
 そして、そんなトロンを見て、あたしはようやく我に返った。
「ごめん、大きな声を出しちゃって……でも、もうあたし見たくないの。トロンが戦って
あんなに傷つく姿を……」
『……ふぅ~ン。そっカ……わかったヨ、リン』
「へ?」
 てっきり反論してくるかと思ったトロンが、あっさりとあたしの言葉に従ったために、
拍子抜けしてしまい、何とも間の抜けた返答をしていた。
「本当にそれでいいの、トロン?」
『うン。リアルでもバーチャルでもボクはちっともかまわないヨ。リンといっしょに戦え
るならネ』
「トロン……」
『さッ、もうおそいし帰ろうヨ。ボク、なんだかねむくなってきたしネ』
「う、うん」
 思いもしなかったトロンの言葉に声をなくしたあたしだったが、大きなあくびをしなが
らバッグの中に潜り込んでいくトロンの声に、促されるように駅への道を急ぎ始めた。
『……リン』
 しばらく歩いていると、あたしの歩調のあわせてユサユサとゆれるバッグの中からトロ
ンのつぶやくような声がした。
「どうしたのよ?」
『……ありがとウ……』
「えっ?」
 
 いきなり聞こえた微かなトロンの声に、驚き立ち止まったあたしはバッグへと視線を移
したが、いくら耳をすませても聞こえてくるのはトロンのいびきだけだった。
 

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我が家の神姫たち その6

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□ メーカー
  メルヘン・メーカー

□ タイプ
  フロイライン型

□ 名称
  ローゼッタ・ブラオ


機体解説

メルヘン・メーカー(M・M)社の発売したローゼッタは、同社の予想を大幅に超える売り上げを記録した。
これに気をよくしたM・M社が、次に発売したのが今回紹介するローゼッタ・ブラオである。

前作のローゼッタは、接近戦に特化するために、一切の射撃武器を廃するという特徴を持っていた。
このため、バトルの際には敵に肉薄する前に一方的な遠距離攻撃に敗北を喫することも少なくなかった。
M・M社は、暫定的な対策として専用の射撃武器を販売したが、ローゼッタ自身の性格と基本戦闘プログラムの影響か、これらの武器を有効に使用できなかったようである。

ローゼッタ・ブラオは、同タイプの砲戦仕様ともいうべき神姫である。ローゼッタをベースに、全ての武装を射撃武器に変更。並みの神姫を凌駕するほどの火力を持たせた。
戦闘プログラムも、射撃戦に適したものにアップグレードされ、本機を砲撃専門の神姫として完成させた。


ローゼッタ・ブラオの基本AIは、大変おとなしく素直な性格になるように設定されている。
これは、姉妹機であるローゼッタのようなアグレッシブな性格では、常に敵と距離を取って戦うことを強いられる本機には、はなはだ不向きであろうという配慮からである。

基本的に同じタイプの神姫でありながら、性格、外観、能力において明確な特徴をつけたことによって、ローゼッタを購入したオーナーが、さらにブラオを買い求めるという現象が多発した。
このあたりは、わざわざ同じ神姫を射撃、砲撃仕様として売り出したM・M社の経営戦略の勝利と言えるかもしれない。


追記

余談ではあるが、ローゼッタ・ブラオの「ブラオ」とは、ドイツ語で「青い」という意味がある。
これは、砲戦仕様のローゼッタのイメージカラーから名付けたものである。このため、接近戦仕様のローゼッタも、後にローゼッタ・ロートと改められる。
「ロート」は、ドイツ語で「赤い」という意味である。




毎度毎度の房設定にお付き合いいただき、ありがとうございます。

今回紹介するのは、フロイライン型MMS ローゼッタ・ブラオの「アリシア」です。
では、続きをどうぞ。

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まずは、恒例(?)の後姿から。
刀剣系から銃器系に武装が変更されたのをのぞけば、基本的にはローゼッタ・ロートとほとんど変更点がありません。

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アリシアたち、ブラオを象徴する大型のビームキャノン。
やや細見ですが、アーンヴァルのLC3レーザーキャノンクラスの威力を持っています。

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破壊力は申し分のないビームキャノンですが、いかんせんリロードに時間がかかるため主武装足りえません。
そのため、腰にマウントしたビームガンがアリシアのメイン武器となります。
もともとは、マルガリータたちロートの専用武器として開発されたものですが、上記の理由からブラオ用に転用されました。
もとは大型のビームガンでしたが、取り回しを優先し、銃身部分を撤去しショーティタイプとして使用。
威力、速射性に優れた性能を誇ります。

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ライトアーマークラスの装甲した持たないローゼッタ・ブラオ。並外れた火力を与えられた彼女たちですが、肝心のアリシアは絶望的にまで射撃が下手です。

                       ※


アリシア『えい! えい! えい!!』

 ここは、どこぞの神姫センター。どうやらタッグ戦が行われている模様。

 今日も今日とて、アリシアの銃弾の雨が降り注ぎますが、ワザとやってるのでは? と勘繰りたくなるほど当たりません。

アリシア『ひ~ん。なんで当たらないのぅ?』

マルガリータ 『……たぶん、目を開けて撃てば、少しは当たると思うわよ?』

 マルガリータのツッコミも、アリシアの耳には届いていない様子。嵐のような猛攻が続きますが、器用に対戦相手を避けていきます。

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アリシア『もうっ、こうなったら!!』

 アリシアの声と共に、重苦しい音を立てながら頭部のビームキャノンの砲身が開き始める。

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さらに、ビームキャノンの後部が展開し、姿を見せる放熱ダクト。これこそアリシアの奥の手、ビームキャノン バースト・モード!
マルガリータ『!? あっ、ちょっと……』

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アリシア『じゃ、じゃあ、全力全開でいきますよ? ……あの、当たると本当に痛いから、ちゃんと避けてくださいね?』
 
 アリシアの対戦相手を気遣う言葉とは裏腹に、砲身にビームが収束され、地を揺るがすような咆哮が辺りに轟く。

マルガリータ『いや、だから……』

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アリシア『せ────のっ!!!』

マルガリータ『だから、ちゃんと前を見ろ─────────ッ!?』

 アリシアの掛け声とともに、目も眩むような閃光がフィールドを覆い、光の中に消えていくマルガリータ……。


           こうして、一つの戦いの幕が静かに下ろされた。


                    ちゃんちゃん♪


とまあ、今回は少々いつもと趣向を変えての紹介となりました。
とんでもない凸凹コンビではありますが、そこは同じメーカーの神姫。実際は姉妹のように仲の良い二人だったりします。

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さて、今回の記事で、私の中で二人の存在がかなり再評価された感じです。
二人には、しばらく当ブログの看板娘を務めてもらうかもしれません。

では!

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わんだふる神姫ライフ 第14話

『う~ン、これもちがうなァ』
「………」
 目の前にある、ガッシリした机の上の大小様々な箱の一つから、ねむそうな声が聞こ
えるたびに、コロンコロンと様々な形状をしたパーツが箱の中から放り投げられてくる。
あたしは暇を持て余し、その度に目の前を転がっていくパーツを横目で追っていた。
 ここはDO ITの一階の隅にある、中古やワケ有りのパーツをバラ売りしてくれるコ
―ナー。
 自分の神姫の武装や装備を自作するオーナーには、かなり人気のある場所なのだが
、そんなスキルなど皆無のあたしは、いつも遠目に眺めていただけで、ここにきたのは
初めてだったりする。
『ム~、これでもナイ!』
「ちょっとトロン! いい加減にしなさいよ、こんなに散らか……ひゃっ?」
「うふふふふふ、 せ~んぱい」
 当たり構わずパーツを投げ散らかすトロンに、いい加減腹を立て一言注意をと思ったあ
たしだったが、いきなり後ろから抱きつかれ中断せざるを得なかった。
「ちょっと美佐緒! いきなり抱きつくなって、嫌だっ、どこ触ってんのよあんたは!」
 いきなり後ろから羽交い絞めにされたが、わざわざ振り向かなくても、こんな非常識な
マネをする知り合いはひとりしかいなかった。
「あ~ん。せんぱいの、このツルンペタンぶりがなんとも……あ痛っ!」
「だれがツルンペタンよ、この大女!」
 あいかわらずの怪力で締め付けてくる美佐緒を、何とか振るほどこうとしていると努力
していると、美佐緒のやつがトレーナー越しにあたしの胸をまさぐり始めた。
 カッとなって、当てずっぽうに放った踵の一撃は、見事に美佐緒の向こうずねにヒット
したらしく、ようやく緩んだ美佐緒の手をふりほどき後ろを向くと、美佐緒は足を押さえ
てヒィヒィと言っていた。
『いいじゃないノ、ムネがぜんぜん無くったってさァ、リンにはユメとキボーがあるじゃ
っテ……うワッ?』
「うるせ───よ! バカ悪魔!」
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第14話 「ギガンティックな女 R」
 
 思わずトロンめがけて机の上にあったパーツを投げつけるが、壁にぶつかり虚しい
音をたてると、それはまたあたしの前に転がってきた。
『もゥ、ほんとうにリンはキョーボーさんだねェ、ボクはたダ、なぐさめてあげようとし
ただけなのにさァ』
「あれをどう解釈したら、慰めの言葉になるのよ?」
 トロンは、さっきから潜り込んでいた箱から顔だけ出して、口元にニヤニヤとした笑み
を浮かべながらさも楽しそうに話しかけてきた。
 あたしをからかっているのは疑いようもなく、トロンのやつを睨みつけるが、本人はケ
ロッとしてやがる。
「もう、せんぱいったら落ち着いてください。平常心、平常心」
「あたしから平常心を奪ってるヤツがエラそうに言うな! このセクハラ女子高生!!」
「え~、いくら何でもセクハラなんて言い方は酷いです。わたしはただ、せんぱいとのス
キンシップを楽しんでるだけなんですよ~」
「スキンシップじゃない! それを世間じゃあ、セクハラって言うのよっ!」
 眉をひそめ、頬をふくらませながら不満そうな顔をしている美佐緒を罵倒するが、こい
つもトロン同様まったく反省の色がみえなかった。
 
  あぁ、何かもう熱が出てきたわ。何であたしの周りってこんな変なのしかいないの?
 
 思わず机に片手をつくと、残った方の指でこめかみの辺りを揉みほぐしながら偏頭痛の
原因に視線を向けるが、トロンも美佐緒もキョトンとしているだけで、あたしの悩みなど
全く気づかないようだった。
『本当に、いい加減にするでござるよ。トロンどのに美佐緒どの!』
 
   イタ───ッ! ここにあたしの苦しみを理解してくれる存在がたったひとりだけ!
 
 そこには何故か、神姫サイズのウチの学校の制服を着ているガーネットが、腰に手を当
て机の上からトロンと美佐緒を睨みつけていた。
「あぁ~~~ん、ガ~ネットォ~~~ッ」
『え? うわっ。ど、どうしたでござるか隣どの?』
 思わず走りよって抱きしめようとしたあたしと目が合った途端、ビクッと身を竦ませ盛
大に後ずさりを始めるガーネット。
 
           あ、あたし、今そんなにヘンな顔をしてたのかな?
 
 恐怖の相を顔に浮かべながらあたしを見上げるガーネットを見て、ションボリとうな垂
れていると、我に返ったガーネットが必死に話しかけてくる。
『え、え~と、こんな所でふたりそろって何をしているのでござるか、隣どの?』
『ン~、ちょっと探しモノをねェ~』
 ガーネットの問いに答えようと顔を上げたあたしよりも早く、いつの間にか箱の中に戻
り、またゴソゴソとやっていたトロンが面倒くさそうに答えた。
『……オッ? あっタあっタ』
 やっとお目当ての物がみつかったのか、トロンは満面の笑みを浮かべながら、いくつか
の黒光りしているパーツを両手で抱え、箱の中からヨロヨロと這い出てきた。
「あらっ? それって……」
『ヴァッフェバニーの装備パーツでござるな』
 トロンが抱えているパーツと、箱のすぐ横に積み上がっていた物に気がついた美佐緒と
ガーネットが小さくつぶやいた。
 休日の朝も早くから、トロンに連れられDO ITへとやってきたのは、このヴァッフ
ェバニーとかいう兎型の神姫の装備パーツが目当てだった。
 最初はてっきり、チーグルやサバーカといったトロン自身の装備を修理して使うのかと
思ったのだが、レスティーアとの戦いの後に学校帰りにDO ITで見てもらうと、あま
りの惨状に修理不可能と診断された。
 正直、この話をすまなそうな顔をした店員さんから聞いた時、あたしは目に前が真っ暗
になったもんだ。
 失意のうちに帰路についたが、レスティーアとの再戦を丸腰で戦わせるわけにもいかず
相当の出費は覚悟しながらトロンに現状を説明した。
 でも、黙って話を聞いていたトロンの締まりのない口から出たのは、意外な言葉だった。
『まァ、いいんじゃないノ? ボクもアレはもう必要ないかなって思ってたしネ』
「そ、そうなの?」
 机の上で、相変らずノートパソコンと格闘中だったトロンは、ちらりとこっちを向きボ
ソッと呟くと、またあたしに背中を向けてしまった。
 確かにトロンは、強化腕チーグルの制御が苦手だとは言ってはいたけど、曲がりなりに
も自分の基本装備に対する愛着とか無いのだろうか? あまりのトロンのドライっぷりに
呆れもしたが、正直なところ、内心胸を撫で下ろしているとトロンが何気ない口調で話か
けてきた。
『アッ、そうそウ、代わりといってはナンなんだけどさァ、ボク、ど~しても欲しいモノ
があるんだよねェ~』
「…………」
 
 きっと砂漠かなんかで行き倒れた旅人に、一杯の水を差し出した時の悪魔も、こんな風
な声なんだろうな~、などと思いを馳せながら、あたしはトロンの背中を声も無く見つめ
ていた。
 
 トロンのヤツがどんな無理難題を押しつけてくるかと、気が気ではなかったのだが、D
O ITに着くや否や、トロンがあたしを引っぱっていったのが、冒頭に紹介したパーツ
のバラ売りのコーナーだった。
 てっきり高額な武器や装備をねだられると思い込んでいたが、トロンの選んだ物に拍子
抜けしてしまった。
 ヴァッフェバニー。この兎をモチーフにしたという神姫は、同時期に発売された神姫に
比べるとかなり軽装備であり、映画なんかにでてくる特殊部隊の隊員を彷彿とさせる出
で立ちをしていた。
「ねぇ、トロン。あんたの欲しがってたのってそれで全部なの? なんか数が少ないみた
いなんだけど」
 自分が潜り込んでいた箱の横に戦利品を積み上げ、満足そうに額の汗を拭うトロンを見
ながら、以前雑誌で見たヴァッフェバニーのパーツのリストと比べて数が少ない事にあた
しは気がついた。ヴァッフェバニーを象徴する、ウサギの耳をイメージしたゴーグルや武
器の類、それに背部に装着するリアブースターとかいうのも無いみたいだった。
『うンッ、これで充分かナ……あとはボクがなんとかするからダイジョーブ』
 さして気にする素振りもみせずに、ぺシぺシと積み上げた装備をうれしそうに叩くトロ
ン。よく見ると、トロンが集めてきたパーツは結構使い込んであるみたいで、痛んでいる
物も多かった。それに本来は黒一色で統一されているはずなのに、あちこちから掻き集
めたためか、ブーツ型の右脚などは全て赤色に塗装されていた。
「あのさぁ、ヴァッフェバニーの装備と武器ぐらいなら、あっちで売ってた新品のセット
を買ってあげられるから、それにしたら?」
 トロンの選んだ傷だらけのパーツを見ているうちに、さすがに不憫に思えてきてしまい
机の上にいるトロンの目線まで身体を屈めるとそう提案したのだが、トロンは眠そうな顔
をしながら首を横に振った。
『心配しなくってもへーキだヨ、リン。見た目ほどコイツはこわれてないからネ。それに
コレはあくまでデータ収集用に必要なだけだシ』
「データ……収集?」
 目の前の満足そうな顔のトロンを見ながら、あたしは首を傾げていた。
 
  データ収集ってどういう意味? これを使ってレスティーアとの戦うんじゃないの?
 
「……あの~、せんぱい?」
 トロンの真意がわからず、頭の中を無数の?マークが乱舞していたあたしは、美佐緒の
声で我に返った。
 慌てて振り向くと、すっかり存在を忘れ去られていた美佐緒とガーネットが困った様な
顔をしている。
「あ、ごめん。それで何か用なの、美佐緒?」
 愛想笑いを浮かべながら二人を見比べていると、美佐緒は微笑みながらこう言った。
「今度、わたしとバトルをしませんか? せんぱい!」
「……何よ。あんた、あたしと闘る気なの?」
「へ? ち、違います。わたしたちじゃなくって、ガーネットとトロンの事ですよ~」
 やっとこのセクハラ女に引導を渡せるのかと、歓喜に震えながら眼を細め、拳を軽く胸
元で構えながらニタリと笑うあたしを見て、美佐緒が慌てて両手と首を激しく振り始める。
 
                     チッ、紛らわしい!
 
『……ボクがガンちゃんト、バトル?』
 心の中で舌打ちし、地団駄ふんで悔しがっていたあたしなど気にした風もなく、怪訝な
顔でポツリとつぶやくトロン。
「ガンちゃんって……それ、ガーネットのこと?」
 顔がブレて見えるほど激しく首を立てに振り、肯定の仕種を繰り返すトロン。あたしの
視線の端で、確認の為に自分を指差していたガーネットの口元が、みるみると引き攣って
いく。
 それにしても美佐緒の言葉はトロン同様、あたしにとっても意外だった。あたしの覚え
ている限りでは、ガーネットが戦っている姿を一度も見た事はなかったし、美佐緒にして
もガーネットの服の話はしても、神姫バトルの話が話題に上ったことは皆無だった。
『実は今回の戦いは、拙者が美佐緒どのに無理を言ってお願いしたものでござる』
 お世辞にも、回転が速いとはいえないあたしの頭から、いい加減白煙が噴出すかと思わ
れた時、苦笑いを浮かべながらガーネットが話し始めた。
 事の発端は、レスティーアとトロンの一戦だった。
 あの戦いを観戦していた人たちの口伝で、DO ITに集まるオーナーやその神姫たち
の間でトロンがちょっとした話題になっているそうだ。
 負けちゃったのに? と意味がわからず眉をひそめたが、勝ち負けの問題ではなく、ま
るで戦闘経験の無いトロンが、レスティーアを相手に接近戦で長時間戦い抜いた事にみん
なの興味が集まったらしい。
 そして、実はレスティーアが、DO ITのランキングでは中堅でありながら、剣を使
った戦いではトップクラスの実力の持ち主であることをこの時になって初めて知った。
 この噂を聞いたガーネットが、美佐緒にトロンと戦わせて欲しいと懇願したそうだ。
最初は首を縦に振らなかった美佐緒だが、ガーネットの熱意に負けて最後は渋々と了承
したらしい。
 あたしはこの話に驚きながら、トロンの様子を横目で伺うと、本人はボ~ッとした表情
でガーネットを見ていた。
トロンがどんなリアクションをとるのか興味のあったあたしは、黙って様子を見ていた
が、本人はピクリとも動かない。
 あたしたちの視線に晒されてもまるで動じないトロンを訝しみそっと近づくと、その緩
みきった口元から一筋のヨダレが流れ落ちていくところだった。
 
                     「お・き・ろッ!」
 
          あたしの必殺のデコピンが、トロンの額に炸裂した。
 

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我が家の神姫たち その5

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□ メーカー
  メルヘン・メーカー

□ MMSタイプ
  フロイライン型

□ 名称
  ローゼッタ・ロート


機体解説

2030年中頃に、神姫メーカー、メルヘン・メーカー社が発売した第一作目の武装神姫。

機体内部を完全なブロック構造とし、故障および破損したさい、問題のブロックを交換するだけで修理が可能という高いメンテナンス・フリー能力を有し、他社の同性能の神姫と比べて三割ほど販売価格を抑えるなど、当初は武装神姫のビギナーユーザーをターゲットに開発された機体ではあるが、上記の特徴に加えローゼッタの外観も相まって爆発的な販売数を記録する。

本機の特徴は、頭部の巨大な高速振動剣、そして背部に装備された高出力のビームソードなど、完全に近接接近戦にのみ特化するように調整された神姫であるというところだ。
アーマーを極力廃し軽量化に努め、リボン型のブースターとスカートを模したスラスターを駆使し、立体的な機動で敵に肉薄し戦いを挑む、というのがローゼッタの基本戦法である。

ローゼッタの基本A・Iは、その戦闘パターンに起因するためか大変勝ち気な性格である。
だが反面、寂しがり屋で自分の気持ちを素直に表せないという不器用な一面も併せ持つ。
性格には難ありのローゼッタだが、その手のマニアには受けがよく、その後も同社から新型神姫が発売されるも、いまだに絶大な人気を誇っている。


追記

神姫メーカーとしては後発の企業 メルヘン・メーカー。

もともとは、高級ドールの製造、販売を生業としてた同社が突如方針転換をし、このシェアに参入したことは同業のメーカーや、ことにこの分野に参加を表明していた企業から失笑をかった。

だが、当初は身の程知らずと鼻で笑っていた大手企業も、ローゼッタの想像以上の完成度の高さに少なからず衝撃を受ける結果となる。

畑違いの企業が、これほど短時間で神姫の開発に成功したわけ……色々な憶測が飛びかったが、当のメルヘン・メーカーは、この件については頑なに沈黙を貫いている。




さて、またもや房設定に長々とお付き合いしていただき、ありがとうございます。

今回紹介するのは、フロイライン型MMS ローゼッタの「マルガリータ」でございます。

もともとこのマルガリータ。たKIがわさんのSSの主人公、琥珀さんのメカ・ツインテールに感銘を受け製作したのですが、諸般の事情(主に技術力不足)のため、完成したものは似ても似つかない代物と相成りました。

とはいえ、このマルガリータも今ではかなり感情移入してしまい、お気に入りの一人だったりします。

では、続きをどうぞ!

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まずは、リア・ビュー。

ローゼッタを象徴する、ツインテール型の高速振動剣と腰部のリボンを模したブースター&ビームソード。
ある意味、この二か所にローゼッタの全てが集約しているといっても誤りではないかも(笑)。
それにしても、改めて見ると黒分が多いですなあ。もう少し赤を増やすかな?

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腰部のビームソード。
かなり高出力を誇り、出力を調整することによって、ダガーモードから身の丈に及ぶほどのバスターモードとして使用可能。マルガリータのメイン武装です。

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頭部の高速振動剣。
その巨大さゆえに、実用性を軽視されがちな武器だが、マルガリータたちは第三の腕のように自在に操る。
切る、突くといった使い方だけではなく、相手を挟み込むなどその用途は多岐にわたる。

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その武装は接近戦のみに対応している。

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一切の射撃武器をもたぬマルガリータだが、対ビームコーティング処理された高速振動剣を使い、低出力の光学兵器なら“反射”や“切り裂く”などの一風変わった防御法を披露する。




と、延々と続いた解説はここらでお開きということで。
このマルガリータ、確か前回紹介したリグリットに次いで製作した、我が家でも古参の神姫だったりします。

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当時は、いじっていて楽しい存在でした。

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あんまりいじると、沸点低くてすぐにブチキレてましたが……。

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ただ思い入れも深く、当時一番画像に収めていたのもマルガリータだったりします。
というわけで、発掘画像から少し。
おそらく、夢魔子&軽白子発売記念で撮った一枚、夢魔子装備でマルガリータの小悪魔度がUP! 不覚にも、自分の神姫にキュンとしてしまいました(笑)。

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さらに発掘画像から。
「セバスにパンツ盗まれて、激怒するマルガリータの図」、当時のマルガリータのいじられっぷりがよく分かる一枚(笑)。





さて、マルガリータの紹介はここら辺で終わりにして……実は我が家にはもう一人ローゼッタがおりまして、続いてその娘の紹介を……ん? なんか騒がしいな?




マルガリータ『ほら、次はあんたの番でしょう? さっさときなさいよ!』

???『え~? わ、私はいいよぉ……私もマリーちゃんと同じローゼッタだしぃ』

マルガリータ『タイプは同じでも仕様が違うでしょう? ほら、さっさとくるの!』

???『いぃやぁだぁああああああっ!!』

マルガリータ『……ふぅ、しょうがないわねぇ……』

???『えへへへ』

マルガリータ『……次はキッチリ紹介するかんね?』

???『ちぇ!』




……え~、今回は時間も無いことですし、もう一人の紹介は次週にしたいと思います(汗)。

ではっ!






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わんだふる神姫ライフ 第13話

 AM五時。あたりは薄闇に覆われ、近くの家々の明りもいまだ消えている。まだ薄暗い
庭の中ほどまであたしは歩を進めると、トロンの座る縁側に向き直った。
 最近は暖かくなってきた日中とはうって変わり、規則正しく吐き出されるあたしの吐息
にも微かに白い物が混じっていた。
 あたしは、長い間使っていたせいで所々ほつれてきた黒い袴の帯を力いっぱい締めると
胴着の襟元の乱れを正した。
 染み付いた汗の匂いが、かすかに鼻孔をくすぐり、否応無しに精神が昂っていくのを感
じる。いつの間にか口元に微かな笑みが浮かぶ。

                  おっと、いけない、いけない。
 
 あたしは我に返ると、戒めの意味もこめて両の頬をおもいきり叩いた。
『ヘェ~。ずいぶんと堂に入ったモンだねェ、立ち振る舞いでわかるヨ、リン』
「言ってくれるじゃない、あんたにそんな事わかるの?」
『うン、本に書いてあっタ!』
 
                なるほど、知識で知ってただけなのね。
 
 さっきまで口元に浮かんでいた笑みが、苦笑に変わっていくのを感じながら、あたしは
また胴着に眼を移した。
「ところでトロン。さっきから気になってたんだけど、胴着にくっついてる、このちっち
ゃいのナニ?」
『あァ、ソレ? それはねェ、マーカーだヨ、モーキャプで使うんでネ』
「も、もーきゃぷ?」
 あたしの視線の先にあるのは、直径2、3センチの小さな球状の物だった。それが胴着
のいたるところにくっついていた。
 トロンの説明では、モーキャプとはモーションキャプチャーの略だそうで、人物や物体
の動きをデジタル的に記録するための技術で、映画なんかのCGの製作に使われている
ということだ。
「へ~。ところでよくそんな物が家にあったわね、どっから探してきたの?」
『こんなモン、ふつうのウチにあるわけないでショ? 買ったノ!』
「は? 買った?」
 
                  わんだふる神姫ライフ
 
              第13話    「一重」     
 
「それって、どういう意味?」
『イミもなにモ、必要だから買ったんだけド?』
「だからそうじゃなくって、どうしてあんたがお金なんて持ってるのかって聞いてんのよ
!」
 トロンは、あたしの顔をしばらくマジマジと見ると、眉の端をクイッと上げ、
 
              ─ おまえはナニを言っとるんダ? ─ 
 
 と、器用に意思表示をしてきた。
『ボクがおかねなんて持ってるワケないじゃン? 月末にセーキューがくると思うかラ、
よろしくネ、リン』
「………」
                         ※
「……まぁ、それはさておき、とりあえず稽古を始めるわよ、トロン!」
『……はイ』
 トロンが勝手に買い漁った品物は、開封してしまったために返品は不可能らしい。
 あたしは怒りに震える声で、縁側で正座したままシュンとうな垂れたトロンの頭の上で
揺れる、特大のたんこぶを眼で追いながら語気荒く言い放った。
『アッ、ちょっとタイム!』
「もう! なんなのよ?」
 まずは説明をと、口を開きかけたあたしは、トロンの能天気な声に腰砕けの状態になり
ムッとしながら睨みつけるが、トロンは何に使うのか知らないけど『必要だかラ』と言う
ので、あたしの部屋から持ってきたノートパソコンを縁側に引っ張ってくると、なにやら
ゴソゴソと始めた。
『これでよシ……おまたセ、リン!』
 PCを起動させ、キーボードをいくつか叩いていたトロンがあたしのほうに向き直ると、
そう言ってきた。
「うん……まずあんたに色々と教える前に言っておきたい事があるの、昨日のあんたの話
では、合気道を教えて欲しいと言うことだけど、ほんとうにそれでいいの?」
『うン』
 あたしを見上げながらねむそうな顔でうなずくトロンに、あたしはかすかに眉をよせた。
「あんたがそう言うんだったら、それはいいんだけど……実はもうひとつ問題があってね。
特に合気道の場合、あたし一人で形稽古をするより、立会稽古のほうが感覚的にもわかり
やすいと思うんだけど」
 ただでさえ相手の動きに呼応して対処する合気を、形稽古だけで理解するというのは実
際には難しい話だった。
『ダイジョーブだっテ! そのためのモーキャプなんだからサ』
せめて、こんな時に美佐緒がいてくれれば……などと物騒な考えに浸っていたあたしを、
トロンの呑気な声が現実へと引き戻した。
コレがあれバ、リンの動きを戦闘用のデータとしてテ、ボクに()直接インプットできるんダ』
「へ~、そうなの?」
 実際、トロンが何を言ってるのか半分もわからなかったけど、鼻高々に(実際はめり込
んでるけど)説明してるトロンを見て、あたしは、まあ大丈夫なんだろうと胸をなでおろ
した。
「じゃあ、そろそろ始めよっか? まず、合気で一番大切なのは相手の攻撃を“受ける”
のではなく“流す”という事、これができないと話が先に進まないからね」
『……うン』
 あたしの真剣な口調に、少し緊張したようなトロンの声が重なる。
「この動作ができてこそ、はじめて次の……相手の体勢を崩しその反動を利用しての攻撃
に移ることができる。おじいちゃんは、合気道にとって一番大切なその見切りの動作を、
“一重”と呼んでた」
『……ひとえ……』
「じゃあ、始めるわよ」
 あたしは、トロンの呟きを聞きながら呼吸を整え、精神を集中させた。
 あたしの目の前に、黒い影が渦巻いていた。それはすぐに黒い人影へと形を変え、あた
しの前に立ちふさがった。中肉中背の体躯をもったソレは軽く身構え、あたしに近づくと
問答無用で、あたしの顔に正拳突きを叩き込んできた。
 薄目を開け、ただ静かに立ち尽くすあたしの顔に拳がふれる瞬間、あたしの身体が音も
無く動いた……
                           ※
「ふぅ……まっ、基本の動きはこんなもんかな?」
 ようやくあたしは身体から力を抜き、小さく息を吐いた。正直言うと、ここしばらく稽
古をさぼっていたため、小一時間にもおよんだ形稽古は結構しんどかったりした。
『おつかれェ~。ひとやすみしようヨ、リン』
「そうね……あれっ?」
 トロンの声に、額の汗をぬぐいながら振り向いたあたしは、縁側の上にチョコンと座っ
たトロンの後ろに、きれいに畳まれたタオルとスポーツドリンクが置いてあるのに気がつ
いた。
「へ~、気が利くじゃない」
『まァ、これぐらいはしないとネ』
 タオルで首もとの汗をぬぐい、缶を手に取ると、タブを押し込み一気に喉に流し込む、
 
           それにしてもコレ、どっから持ってきたんだろ?
 
 この冷たさからすると冷蔵庫なんだろうけど、まさかトロンにそんなことできるわけな
いしねぇ。
 缶に口をつけながら横目でトロンを見るが、当の本人は、あたしの視線など気にした風
もなく、PCに接続された神姫サイズのキーボードに熱心に何かを入力していた。
 さっき見た時は気づかなかったけど、あたしのPCから細いケーブルが伸びていて、目
で追っていくと、それはトロンの首の後ろに繋がっているようだった。
 あたしは、夢中でキーを叩くトロンを見ているうちに、気づいた事があった。
「ねぇ、トロン。そのちっちゃなキーボードって、まさか……」
『うン。これもモーキャプといっしょに買ったんだヨ!』
 恐るべき予感に身を震わせながら、恐る恐るキーボードを指差したあたしに、トロンは
事も無くそう言いのけた。
「じ、じ、冗談じゃにゃいわよ! さっきのと合わせて、いったい幾ら使ったわけ?」
『ん~、ソフトとかも合わせテ、ぜんぶで“ピーッ”万円ぐらイ……だったかナ?』
 怒りのあまり、ろれつの回らなくなったあたしは、トロンがさらりと言った金額を聞く
と、一瞬意識が遠のいた。
 
あ、あはははははははは。ナニソレ? “ピーッ”万円って……
                   
『もゥ、なんでも協力するって言ったノ、リンじゃないカ!』
「確かにそうは言ったけど、せめてあたしに一言ぐらい相談しなさいよ!」
 頭にできたコブをさすりながら文句を言ってきたトロンに、あたしも柳眉を逆立てなが
ら反論した。
『だっテ、リンはビンボーだかラ、相談なんかしたら絶対に買ってくれないでショ?』
「だ、だれが貧乏よ! このバカ悪魔ッ!!」
『……ウ~』
 二段重ねになったコブを押さえながら低くうめき声を上げるトロン。恨めしそうにこっ
ちを睨んでいるが、あたしは知らんぷりしてそっぽを向いていた。
『まったク、リンはキョーボーなんだからサ……』
「自業自得でしょう! まったく、こんなんでレスティーアとまともに戦えるの? 」
 果てもなく文句を言い続けるあたしだったが、ニヤニヤとあたしを見上げるトロンと目
が合うと、喉まで出かかった次の言葉も引っ込んでしまった。
『マ、そこんところはボクを信じテ』
 そう言って、トロンは呆気にとられたあたしの顔を見ながら、片方の瞼をかすかに動か
した。
 多分、本人はウィンクのつもりだったのだろうが、ほとんど閉じている状態では本当に
そうだったのか、今のあたしにはわかる術もなかった。
                         ※
 あたしは縁側の上に座るトロンとPCをはさんで腰掛けていた。ちらりとトロンを見る
と、あいかわらずキーボードと格闘中だ。
 しばらく縁側に手をつき、ボ~ッと空をながめていたあたしの耳に、トロンがキーを叩
くリズミカルな音だけが響いていた。
「どう? 少しはあんたの役に立ちそう?」
 あたしは流れる雲を目で追いながら、何気なく尋ねる。
『う~ン、そうだネ。ボクが思ってたよりかなり複雑みたいだけド、なんとかするヨ』
 データーの解析に夢中なのか、あたしとの会話もうわの空みたいだったけど、あたしは
不思議と腹が立たなかった。
 トロンと一緒に暮らすようになって、まだ数か月しかたっていない。でも、こんなにひ
とつのことに熱中しているトロンを見るのは初めてだった。
 それだけトロンにとって、レスティーアとの再戦は大切な事なのだろう。だけど、それ
だけにあたしには気になることがあった。
 それは何故、トロンが合気道を選んだのか? だった。確かに合気はあたしが習った中
では抜きん出た守りの武術だった。でも、あたしの教える合気を完璧にトロンがマスター
したとしても、レスティーアの神速ともいえる剣戟を捌くので精一杯のはずだ。
 
            そう、それだけでは勝てない……なのに何故?
 
 これだけ一生懸命になっているトロンに、こんな質問をするのは酷かとも思ったのだが、
あたしはどうしてもガマンができず、トロンに尋ねてみた。
 さすがに気分を害するかと思ったが、トロンはしばらく寝ぼけまなこであたしを見てい
たが、べつだん気にした風も無くこう答えた。
『あア、そのコト? それならダイジョーブだヨ! ボクがリンにおしえてほしかったの
ハ、なんでも防ぐ“楯”についてだかラ。なんでも貫く“矛”はボクが用意するから問題
ないヨ!』
 トロンはいつもの調子で、ニヤリと笑ってそう言った。
 思いもしない回答に、トロンに問いただそうとしたあたしの声は、朝食の用意ができた
と呼びにきた母の声によって遮られた。
 部屋の時計に目をやると、かなり時間が過ぎていた。
「ヤバッ、もうこんな時間? トロン、悪いけど今日はここでやめとこう、あたし学校に
行く前にシャワーもあびたいしね」
『うン』
 とりあえずノートパソコンを片付け、その上にトロンを乗せると、あたしは一段抜きで
階段を駆け上がり急いで部屋へと向かった。
 
合気道が“楯”なのはわかる。でもいったい“矛”って何のことなの?
 
 
    あたしは、トロンが漏らした言葉を、もう一度心の中でつぶやいていた。

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