神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第12話

   
                   武装神姫 クロスロード

             第12話 「これって、運命の出会い?」 

 たとえどんなに油断していたとしても、これほどそばにいれば気配で気づくはずだった。
 
    コイツ、ここまで気配を絶つ術に長けてるなんて、よほどの使い手?

 あたしの考えは、相手に弾き飛ばされ床に尻餅をついた瞬間、尾てい骨から脳髄まで走
った電流によって中断させられてしまう。
「痛ったぁ!」
 ようやく身体の痺れがとれ、痛みがスクラム組んでやってくる。
「まったく! いったい何が……ん?」
 腰をさすりながら立ち上がろうとするが、なぜか身体が思うように動かない。
「う~~~ん」
「ひっ!?」
 なんか野太い男の人の声が聞こえたと思ったとたん、太股のあたりに妙な感触を感じ、
あたしは総毛立つ。
 ゆっくりと視線を落とすと、あたしのスカートに深々と顔をうずめる男の後頭部が目に
飛び込んできた。
「……い、い、い……」
 あまりの出来事に、あたしは拳はおろか、ろくに声も出なかった。
 おこりのように震える身体の振動のせいで気がついたのだろうか、男はいきなり猛烈な
勢いで起きあがる。
 年はまだ若そうだが、時代遅れなデザインの大きなメガネをかけた何ともさえない顔立
ちの男と目があった。
 あたしの瞳に浮かぶ羞恥と憤怒に、己が何をしでかしたのか理解した男の顔色がみるみ
るうちに青ざめていく。
「あ、あの、これは、そのっ」
「イヤ────────────ッ!!」 
 両手を振りながらなおも弁解を続ける男のあごに、絶叫にも似た悲鳴とともに渾身の力
を込めた蹴りが炸裂し、男の身体が不自然なほどに反り返る。
「痛ででっ。……いや、こ、これは誤解なんだ!」
 一撃でしとめたかと思ったが、男は案外タフなようだった。風のように立ち上がると、後ず
さりながら弁解を続ける。
「……辞世の句(いいわけ)は終わった?」
 あたしは押し殺した声でつぶやくと、ゆっくりと男の方に歩み寄る。
『と、隣どの、気持ちは拙者にもわかるが、まずは落ち着くでござるよ!』
 足下でガーネットが必死になだめるが、あたしはまるで取り合おうとはしなかった。
あたしの全身から吹き出す殺気に男は首を振りながら後退するが、残念なことに背後の壁
にはばまれ歩みが止まってしまう。

 クク、今頃この男の脳裏には、どうせろくでもない人生が走馬燈のように回ってるんでしょ
うね?

 壁に身体を押しつけ、汗まみれになりながらなおも首を振り続ける男に、あたしはかす
かな哀れみを感じた。




            でも、とどめはさすけどねッ!



 あたしは、男をみあげながら静かに拳を胸元にかまえる。
「アディオス! 変態ッ!!」
「いや、だからぼくの話を聞いて……ひっ!?」
 男のなんとも情けない悲鳴とともに、背後から強烈な殺気を感じ、思わず身をよじる。
あたしの横を通り過ぎたモノは、男の耳元をかすめ背後の壁に突き刺さった。
 慌てて男のすぐ横に深々とめり込んだモノに目をやるとそれは一本の棒だった。さらに
その棒をたどっていくと、先っちょに細い紐のようなものが無数に揺れている。
「……これ、モップ?」
 あたしはさらに、身体はそのままに限界まで首をねじり背後を見やる。
 そこには、投擲ポーズを終えたまま固まった美佐緒が、全身を戦慄かせながら立ち尽く
していた。
「ゆ、許せない。こ、こんなこと……」
 一語一語絞り出すようにつぶやく美佐緒。その声は怨些に満ちており、あたしが今まで
一度も聞いたことがないような声音だった。
「ちょ、ちょっと美佐緒?」
 まるで、夢遊病者のような足取りで近づいてくる美佐緒に話しかけるが、「許せない、
許せない」と繰り返すだけで、まるであたしの声は耳に届いてはいないようだった。
 おぼつかない、それでいて一歩一歩に無限の恨みを込めながら歩み寄る美佐緒。あたし
と男は声もなくそれを見つめていた。
 あたしたちまで後数歩というところで歩みを止めると、美佐緒は皮膚の色が変わらんば
かりの勢いで両の拳を握りしめる。
「こんなの……ハレンチだわ!」
「……美佐緒」
 血を吐かんばかりにつぶやく美佐緒に、あたしは胸を締め付けられるような気持ちにな
った。

「わたしだって……わたしだってまだ、せんぱいのお花畑に顔をうずめて“くんくん”と
か“ぺろぺろ”もしたことないのに! こんなハレンチなこと許せな……あ痛っ!?  」 
 電光のごときローキックが、美佐緒のふくらはぎにヒットする。
「お前の存在の方が、よっぽどハレンチだ────ッ!」 
 あたしの罵声は、転倒した美佐緒の斜め上を虚しく通り過ぎていった……

                          ※

「ほんとうに、ゴメンっ!!」
「もう、いいです!」
 何度めだろうか。男は土下座したまま、床にひたいを擦りつけんばかりの勢いで頭を
下げる。さすがに男が不憫に思えてきて、あたしは吐き捨てるようにつぶやいた。
「そんな! こんな変態を許したら、あとできっと後悔しますよ?」
「……そうね。あんたを見てると、あたしもつくづくそう思う」
 なんのこと? と指をくわえてキョトンとしている美佐緒を見ながらあたしは盛大にた
め息をつく。
「じゃ、じゃあ、許してくれるのかい?」
 男はパッと顔をあげると、ホッとしたような声で尋ねてきた。
『まあ、それなりの等価は払ってもらうけどね』
 男は、抑揚のない声に驚き横を向く。すぐそばに突き刺さったままのモップの上に、い
つの間にかソウルテイカーを装着したトロンが立っていた。
トロンは無言のまま、怪訝な顔でみつめる男のひたいに右手の裳を押し当てる。
「ちょ、トロン! あんた、まさ……」
 トロンの瞳に、剣呑な光を見たあたしが必死に止めようとしたが、手遅れだった。
 閃光と共に、それにそぐわぬ大きな破裂音が男のひたいでおこった。
「И↓☆Ю☞Åッ!?」
 男には、何が起こったのか理解できなかったろう。ひたすら両手でひたいを押さえ、床
の上を転げ回っている。
 いくら神姫用とはいっても、PBはりっぱな凶器だ。あたしは薄笑いを浮かべて男を見
下ろすトロンを鷲掴みにすると、きびしく問いつめた。
「バカ!! なんてことすんのよ?」
『大丈夫だよ。カートリッジは模擬戦ようのに変えてある。かんしゃく玉が破裂した程度
の威力しかないよ』
「そ、そんなこといったって……」
『それにまだ、お仕置きは済んでないしね』
「ひっ!?」
 そうトロンは答えると、あたしの手を振り払い床に飛び降り男の方に歩き始める。男は
のどに何かつまったような声をあげると、後ずさりはじめた。
『……まったく、さっきから何をしていますの、恵一郎?』
 呆れと嘲笑をミックスしたような声が聞こえ、場にいた全員が頭上を振り仰ぐと、棚の
最上段からさっきの神姫、グリューネワルトが冷めた目で見下ろしている。
「リューネ!? 何をいってるんだ! みんなお前が原因だろう?」
 男はひたいをさすりながら、グリューネワルトに詰め寄るが、当の本人はどこ吹く顔だ。
『何を言っていますの? わたくしの行った行動はただの過程にすぎませんわ。あたな
方がこうなったのは、お二人の前方不注意が原因でなくて? ……とは言っても』
 涼しい顔でそう言うと、グリューネワルトは棚から音もなく飛び降りると、重さを感じさ
せない軽やかな仕草でトロンのすぐ目の前に着地した。
『遠路はるばるようこそ』
 髪も触れ合わん位置に立ち尽くすグリューネワルトに、トロンは軽く頭を下げる。
『でも、キミにはこれっぽっちも用はないんだ。来た早々悪いんだけど、早急にお引き取
ねがえるかな?』
 敵意を隠そうともせず話続けるトロン。グリューネワルトの切れ長の瞳がわずかに細ま
る。
『あなたにはなくとも、わたくしにはありましてよ?』
 グリューネワルトはそこで話を区切ると、一瞬背後を振り返る。
『認めたくはありませんが、あんな男でも一応わたくしのマスターですしね』
 肩をすくめるグリューネワルトに、わずかにトロンの表情が和らいだ。
 でも、それはほんのわずかな間だった。
『へ~、お互い考えてたことは一緒なんだ? じゃあさあ、手っとり早い方法でケリをつ
ける?』
 シュミレーターのある二階を指さしながら軽い口調で話しかけるトロンに、グリューネ
ワルトがほくそ笑む。
『ええ、喜んで……』
 この場に似つかわしくない大輪の花のような笑顔を浮かべ、ドレスの裾を軽く持ち上げ
るような仕草を見せるグリューネワルト。その優美な動きに、トロンは呆気にとられた顔
になる。
 だが次の瞬間、グリューネワルトの全身から形容しがたい気が吹き出した。


                   こ、この感じは?

 さっきフロアーで感じた不思議な気配、あれはグリューネワルトが発したものだと理解
したが、もうひとつの考えがそれを一瞬に消しとばす。

          だめだ! トロンの実力じゃ、この神姫には勝てない!!

 確信にも似た閃きが頭の中を駆け抜けると、慌ててあたしは動き出す。
『トロンどの!』
 あたし同様に感じるモノがあったのだろう。表情を硬くしたガーネットが、すばやく二
人の間に割ってはいる。
『なんだよ、ガンちゃん! 邪魔する気?』
『落ち着く出ござるよ、トロンどの!!』 
 自分の肩を押さえつけるガーネットの手を、乱暴に払いのけるトロン。荒んだ空気に、
美佐緒までが押し黙ってことの成り行きを見守っている。


                『二人とも、そこまでッ!!』


           一触即発の場に、澄んだ声が響きわたった

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武装神姫 クロスロード 第11話

      
                    武装神姫 クロスロード

               第11話    「嵐の予兆」

「まったく、ひどい話ね!」
 片手で新聞を開きながら、残った手を使い、器用に箸を使ってごはんを口に放り込んで
いたあたしは、ひとり憤慨していた。
『ど、どうかなさったんですか、リンさま?』
「ん? ああ、ちょっとね……」
 驚いた様子で話しかけてくるルーシィに、あたしは新聞に書かれた記事から目を離さず
にあいまいな返事を返す。

         ── またも、神姫をつかったひったくり発生! ──

 新聞の見出しには、そう書いてあった。
 武装神姫。あたしたち人間のパートナーとして彼女たちが誕生してから、かなりの歳月
が流れていた。
 そして、ここ数年。その神姫を使った犯罪が激増していたのだ。
 紙面の隅に追いやられるように書かれた、どこぞのバカが、自分の神姫を使って神姫セ
ンターに殴り込みをかけたなどまだ可愛い方で、今回みたいなひったくりを始め、強盗、
恐喝、放火など、ここに書いてない犯罪の種類を探したほうが早いくらい多岐にわたって
いた。

                      そして……

『まア、今回は人死にがでなかっただケ、マシじゃないノ?』
 テーブルの上に寝そべり背中を見せていたトロンが、興味もなさそうな声でつぶやく。
トロンの何気ない一言に、あたしはさらに気が滅入ってしまう。
 そう、最近では神姫を使用した傷害事件まで起こっていたのだ。
 ロボット三原則とやらのおかげで、これら犯罪は未然にふせげると考えられたが、基本
的に神姫はオーナーの命令に服従を強いられる。気の弱い神姫などは、結局オーナーの
命ずるままに犯罪に加担してしまうケースも多いらしい。
『あっ、リ、リンさま! これを見てください』
 うつむき、押し黙ってしまったあたしに気を使ってくれたのか、ルーシィが明るい声で
紙面の一点を指さす。
「ん? ……老人介護の救い手あらわる。 メルヘン・メーカー社の新型神姫発売?」
『これって、お年寄りのみなさんに、わたしたち神姫がお役に立っているということです
よね、リンさま?』
「うん。ルーシィの言うとおりね」
 相づちをうつあたしに、ルーシィが破顔する。
『さし当たっテ、リンが気にしなけりゃならないことは他にあると思うんだけド……』
「何をよ?」
 あたしたちの話しに割って入ってきたトロンが、無言で一点を指さす。
 壁に掛けられた時計を一瞥すると、あたしは新聞と箸を投げ出し、慌てて登校の準備を
始めた。
                          ※

「わあ~、可ぁ愛いぃ~~~!」
『えへへ、そ、そんな事ないですよぉ』
 のぞき込むように顔を近づける美佐緒に、あたしの肩に腰掛けたルーシィが頭を掻きな
がら照れ笑いを浮かべる。
 学校からの帰り道、偶然(本人談)出くわした美佐緒は、ルーシィに気づくと歓声を上
げてあれやこれやとルーシィにちょっかいを出し始めた。
『ルーシィどの。拙者、ガーネットと申す。以後、懇意にお願いするでござるよ』
『あっ、はい。わたしのほうこそ、よろしくお願いします』
 美佐緒の肩からほがらかに話しかけるガーネットに、ルーシィが慌てて頭を下げるが、
ちらりと上目遣いにガーネットを見上げている。
『……あの~、ガーネットさんって、少し変わった話し方をするんですね?』
 おずおずと尋ねるルーシィに、ガーネットが首をかしげる。
『そうでござるか? 紅緒はみんな、拙者のような話し方をすると思うでござるが……』
『はっ? べ、紅緒?』
 即答するガーネットの声に、ルーシィが硬直する。
 あたしは肩からズリ落ちそうになったルーシィを慌てて押し戻しながら、ルーシィの心
情を察して心の中で苦笑していた。
『……あのさア、ガンちゃん。そのカッコで紅緒は無理があるんじゃないノ?』
 あたし同様に、現実逃避のため露骨に目を反らしていたトロンがようやく口を開く。
 トロンの言いたいことはあたしにも十分理解できた。シュメッターリングの武装を身に
つけ、ござる言葉で話す神姫を紅緒だと言ってもまず信じる人なんていないだろう。
『はっはっはっ、何をおっしゃるトロンどの? 拙者、どこから見ても心身ともに立派な
紅緒でござるよ!』

   いや、だからそんなキャピキャピ(死語)した格好の紅緒なんていないって!

 もはや、義務でツッコむあたしだった。

                            ※

「じゃあ、今日はルーシィのメンテナンスのために?」
「まあね」
 ルーシィを店長さんに預けると、メンテナンスルームのドアをくぐりながら、美佐緒の
問いかけにあたしは言葉少な目に答える。
 ルーシィは店舗などで購入したわけでなく、福引きの景品だった。問題はないだろう
が、機会があったらチェックをしといたほうがいいだろうという店長さんの勧めにしたが
って今日はDO ITに顔をだしたわけだった。

 ほんとうは、これぐらいオーナーであるあたしがしなきゃならないことなんだろうけど、
大の機械音痴のあたしがメンテしたんじゃ、何が起こるかわからないしね……

 美佐緒に気づかれないように苦笑いを浮かべると、あたしは休憩所へと向かった。
「?」 
 フロアーのまんなかあたりで、あたしの足が止まった。
「どうかしたんですか、せんぱい?」
 ゆっくりと店内を見回すあたしに、美佐緒が不思議そうに話しかけてきた。
「ねえ、美佐緒。なんかへんな感じがしない?」
「そうですか? …………別に何もおかしいところはないみたいですけど?」
 釣られて首をめぐらした美佐緒が、明るい声で即答する。
 美佐緒の声を聞きながらも、あたしはまだ納得がいかなかった。確かに見た目にはいつ
もと変わらぬ光景が目の前に広がっていた。

                     でも、何かが違う!

 店内に広がる張りつめたような空気。視覚ではあたしにもその違いはわからなかった。
でも、あたしはそのわずかな差を敏感に肌で感じ取っていた。

『……ずいぶんと、鋭い勘の持ち主ですのね?』
 いきなり、耳元で賛美とも嘲笑ともとれる声が聞こえた。
 すぐ横にあるのは、製品の陳列に使う大型のスチール製の棚のはずだった。あり得ない
場所からの問いかけに、驚きながらも機敏に振り向く。
 あたしの目の高さに、一体の神姫が立っていた。
「あんた、いったい……」
 腕を組み、あたりを弊睨するかのように見回す神姫は、あたしの問いに答えようともせ
ず無言を貫いていた。

 美しい神姫だった。切れ長の瞳はスミレ色の輝きを放ち、すっと通った鼻梁に形のいい
唇はまるで一流の彫刻家の作品を見ているようだった。
 そして何より驚いたのはその金色の髪。腰まで届く糸のような髪は軽いウェーブがかか
りまるで生きているかのように波打ち、店内の照明を受け微妙にその色合いを変えていた。
 その美しさに声もなく目を奪われていると、眼前の神姫は髪をかきあげ、得意気な顔を
する。
『いつまでそうしているつもりですの? いい加減にしないと、お金を取りましてよ?』

         ……どうも、性格は外観とはほど遠いみたいだった。

 勝ち誇ったような声に我に返ったあたしは、棚の上の神姫をにらみつける。
「あんた、いったい誰よ?」
『人にものを尋ねるときは、まず自分から名のる。……あなたは、ご両親からそう教わら
なかったのかしら?』
「あたしは、一ノ瀬 隣!」
 ドタマにカチンときたが、この神姫の言ってることは正論だ。あたしは唸るように名を
告げた。その言外に、次はあんたの番よ! という含みをもたせて。
『わたくしの名は、グリューネワルト』
 まるで流れる水のようなよどみのない動きで金髪の神姫、グリューネワルトはあたした
ちに向かって軽く会釈する。
 その優雅な立ち振る舞いに、あたしは毒気を抜かれたように立ち尽くしてしまう。
「で、あんたは何でここにいるわけ?」
『別に、たいした用ではありませんわ』
 グリューネワルトは、あたしの怒気のこもった問いかけにも気にした素振りも見せず店
内を見渡している。
『ですが……どうやらわたくしの取り越し苦労だったようですわね……』
 グリューネワルトの声は、どこか安堵の響きのようなものを感じさせた。
「えっ?」
『……あなたたちには関係の無いこと。忘れておしまいなさい』
「ちょ、ちょっと、それってどういう意味なのよ?」
 グリューネワルトはあたしの問いには何も答えようとせず、あたしたちの存在など忘れ
たいわんばかりにきびすを返すと、棚の反対側に歩み去ってしまう。
「あっ、こらっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「せっ、せんぱい、前!」
「へ?」
 慌てて小さな影の後を追って走り始めたが、あまりに注意がそちらに逸れていたらしい。

 美佐緒の声に視線を前に戻すと、棚の陰から出てきた人影が、あたしの視界いっぱいに
広がっていた。

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艦これ?  姦これ?

……なんでもアレですって? 最近世間様じゃ「お盆休み」とかいう行事があるんですって?

聞いた話じゃ、頭の上に盆を乗せて己の前非を悔いながら身体を休めるそうですね。

フフ、ヘンなの。













……いいです。何枚でもお盆乗せます──(悔やみきれないけど)前非も悔います。

だからお盆休みください。


〇〇〇〇〇〇さんッ!!


ハァハァ、す、すみません。つい取り乱しました。でも、ちょっとスッキリしました。



それでは本題にはいりましょうか。
私はよく他の武装紳士さんのブログを覗いて回っていますが、最近よく目にするワードが「艦これ」。
自ら提督となり、擬人化した軍艦(娘)を率いて海戦を繰り広げる! らしいんですが、私このゲームいまだにプレイしたことがないので、くわしいことは分かりません(笑)。

ではなにゆえ今回こんな記事を書いたかと言いますと、ちょっとした懐かしさからだったりします。
私は以前、かなり軍艦に魅かれていた時期がありました。とくに第二次世界大戦時に活躍した日本海軍の軍艦にはあこがれに近いものを感じていました。

私が好きだった艦種は「空母」です。むろん大和をはじめとする戦艦群もすきなんですが、太平洋戦争は空の戦い。やはり中心となった戦力は空母だったと思います。
日本海軍は多種多様の空母を有していましたが、私がとくにすきだったのは「隼鷹」と「飛鷹」の二隻です。
艦これをプレイしている人たちにはそう珍しくもない名前でしょうが、軍艦にそれほど詳しくない人には馴染のない名前かもしれません。

じっさい「赤城」や「加賀」、「蒼龍」に「飛龍」といった花形空母たちとくらべると知名度は低いですしね。
ですがそれもそのはず、上記の正規空母たちとはちがい、「隼鷹」たちの前身は大型客船だったのです。
けっきょく、橿原丸と出雲丸は客船として一度も航海に出ることもなく空母に改装され、「隼鷹」と「飛鷹」という名を与えられ戦いへとその身を投じます。

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Junyo.jpg

他の商船などを改装した空母に比べると、その姿は正規空母と何ら遜色のないものです。
速度、防御力などに多少難がありましたが、蒼龍級の空母と同等の搭載機をもち、ミッドウェー海戦で沈没した四隻の空母に代わり日本海軍の主力の一翼を担っていました。

ターニングポイントであったミッドウェー海戦。これ以降日本海軍は苦闘を続け徐々に敗戦へと向かっていくことになります。僚艦「飛鷹」をマリアナ沖海戦で失ったあとも戦い続ける「隼鷹」。
当時は、この二隻に関連する資料や戦史物をずいぶんと読み漁ったものです。



……と、思い出話に花が咲きすぎましたね。ついなつかしくなって(汗)。


さて、かんじんの「艦これ」なんですが、私は当分プレイする予定はありません。どうも擬人化した軍艦たちの姿に馴染めないんですよねぇ。まあ、そんな気にする必要なぞないんでしょうが……。

とはいえ私のお気に入りの空母が、どんな姿になっているのかはやはり興味がありますので、さっそく調べてみました。

まずは「飛鷹」から。

YhJ8S.png

……うんうん、いいじゃないコレ。黒髪の似合う、なかなかの美少女っぷり!
でもカテゴリー(?)の軽空母って……たしか「飛鷹」は全長も排水量も「翔鶴」級ぐらいあったような……あっ、女の子に体重の話はタブーでした。スミマセン。


おほん、では「隼鷹」の方はどんな娘かな?

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                    …………




               「ひゃっはあー!」!?




                    何コレ??




なんか、ずいぶん自分の思い描いていたイメージとの落差が……。
まあ生真面目そうな「飛鷹」とはいいコンビになりそうですね(苦笑)。


う~ん、他の軍艦たちの容姿や性格などは分かりませんが、かなり個性的な艦むすめたちがそろっているみたいですね。ちょっと興味がわいてきましたよ(笑)。

なんか、神姫版の艦むすめにチャレンジしてみたくなりました。











それにしても、「かんこれ」と入力後変換すると「姦これ」とか表示しちゃう自分のパソコンって……。

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魔王降臨!



……ふう、やっと終わった。







おっと、これは失礼しました。長い事撮影スペースに放り込んでいたガンプラ等の整理がやっと終わり、少々放心しておりました(笑)。

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整理前はこんなカンジ☝。ちなみに、後ろにもう一列控えております。

なにゆえこんな状況になったかと申しますと、数週間前にエアコンの入れ替えをしまして、業者の方々にみられると困るハズカシイ品々を一時避難させてたんですよね。
けっきょく、元に戻すのがめんどくさくて現在に至るわけです(笑)。


それが、ようやく重い腰を上げて撤去作業にうつったのには理由があります。

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そう、コレ!  初白子!!

じつはこの初白子、初瀬那珂さんからゆずってもらいました。
以前から初白子を探してたんですが、最近はお宝ショップでも姿を見かけることがなくなっていたもんで、これは嬉しかったです!

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ようやくこれで三人。とりあえずSSにでてくるアーンヴァル(ルーシィ、リベルター、リセル)の分が確保できましたよ。


これだけでも充分うれしかったのですが、じつは今回オマケまでつけてもらっちゃいました。

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                         ドンッ!!

「ブラザーズ マント」!

某ACTシリーズのアレですな。
せっかく頂いたことですし、さっそくウチの看板娘に着させてみたいと思います。




では、ライドウォンッ!!

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シロ「……よし! ライドオン完了。お~いマルガリータ。用意はできたか?」

マルガリータ『…………』

シロ「何やってんだよ? 早く来いよ!」

マルガリータ『…………』

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シロ「おお! 似合ってるじゃないか」

マルガリータ『…………』

シロ「?? 何さっきから黙り込んでるんだ?」

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マルガリータ『いや、どうコメントしていいやら分からなくなって……』

シロ「いやいや、似合ってるって!」

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マルガリータ『そうかな?』

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シロ「今日のオマエは一段と光り輝いてるぞ」

マルガリータ『いやいや、それはないって』

シロ「ウソじゃねーよ。今のオマエは、例えて言うなら可憐な一輪の赤い薔薇ってカンジだぞ!」

マルガリータ『えっ!? そ、そう?』

シロ「おお! ミス・武装神姫でもいいと思うぞ?」

マルガリータ『そ、そんなことないって、褒めすぎよ!!』

シロ「そうか? じゃあ、大魔王でいいか……ブッ!

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マルガリータ『だれが大魔王だ? コンチキショーッ!!』

シロ「……ご、ごめんなさい。ホント、チョーシコイテマシタ」




                       チャンチャン。





さて、如何だってでしょうか、今回の寸劇。

最初見た時はこのマント、神姫には大きすぎかな? と思いましたが、いざ着せてみるとほとんど違和感はなかったですね。
一枚の布のはずが三分割されていて、それぞれ独立して動かさせるなどマントというシンプルなアイテムのわりにはなかなか楽しめましたね。

いやいや、初瀬さん。けっこうなものをいただきありがとうございました。
おかげで、我が家最凶の武装神姫が誕生しました(笑)。

それでは最後に、大魔王様の雄姿をもう一度……。

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マルガリータ『だから魔王っていうなぁぁああああッ!!』

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武装神姫 クロスロード 第10話

        
                   武装神姫 クロスロード

              第10話 「機械の正しい修理法」

「オー マイ ガッ!」
 あたしは頭を抱えながら叫んでいた。

 色とりどりの洗濯物に紛れて、目の前を飽きることなく回転を続けるコレって……あた
しの携帯?

                           ※

「やっぱりダメ! 動かない~~~」
 エメラルドグリーンに輝く携帯を投げ出すと、あたしは机に突っ伏した。
『まったク、何やってんのサ?』
 目の前で動きを止めたウエット感あふれる携帯を見つめながら、トロンが大きなため息
をつく。
「しょうがないでしょう? ポケットに入れたの忘れてたのよ!」
 八つ当たりなのは重々承知の上だが、あたしは歯を剥き出しながらトロンに怒りをぶつ
ける。
『そりゃア、自業自得ってやつでしョ? ボクには関係ないネ』
 ここらへんは慣れたもので、我関知せず、と言わんばかりに涼しい顔で答えるトロンを
見て、あたしはがっくりとうなだれる。
『あ、あの、リンさま。一応修理にだしてみてはどうでしょうか?』
 トロンとは対照的に、あたしの剣幕に恐れおののきながら、おずおずと話しかけてくる
ルーシィ。その提案に脳裏に稲妻が走り、あたしは慌てて身体を起こす。
「修理? そ、それよ!」
 あたしは携帯を机の真ん中に置くと、静かに立ち上がる。そして大きく息を吸うと、そ
っと目を閉じ、精神集中を始める。
 突然のあたしの行動に、ルーシィはおろかトロンですら何かを感じたのか、息を飲む気
配がした。

              「チェスト─────────ッ!」

 裂帛の気合いとともに、渾身の力を込めた右手を机の上の携帯に叩き込む。
 ルーシィの『ひっ!?』という、短い悲鳴が聞こえた。
「……ふう。これでよし!」
 あたしは息を吐きながら、真ん中がベッコリとヘコんだ携帯を見つめ、満足そうにつぶ
やいた。

                           ※

「あ~~~ん、やっぱりダメ~~~。何でぇ~~~?」
 無惨にひしゃげた携帯を放り出しながら、あたしは再び机に突っ伏した。
『……あのさァ、リン』
 そんなあたしを黙って見ていたトロンが、なにか疲れ果てたと言わんばかりの顔をしな
がら、沈んだ声で話しかけてくる。
「何よ!」
 乱暴に尋ねるが、トロンは顔色ひとつ変えない。
『ボク、前から思ってたんだけド、リンの機械に対する接し方ってナンか間違ってなイ?』
「そんなことないわよ! “止まったら殴れ!”これはおじいちゃんに教わったやり方な
のよ?」

 いまから数十年前に、日本を震撼させた地上デジタル化。この地デジ化直後から、我が
家の居間に鎮座するビンテージ物のテレビがいまだに現役なのも、ひとえにこの修理法を
続けた結果である。
 必死にその有効性を説明するが、トロンはげんなりとした表情であたしを見上げるだけ
だった。その横で、なにかに憑かれたような顔をしながら、ルーシィがひたすら首を横に振
っていた。

                           ※

「うう、それにしても、どうしようコレ……」
 完全にご臨終状態と化したマイ携帯を握りしめ、あたしは途方に暮れていた。
『そんなに悩まなくてモ、買い換えればいいだけじゃないノ?』
「そんなお金が、どこにあるのよ!」
 つまらなそうに尋ねてくるトロンに、あたしは脊髄反射でツッコんでいた。
 以前、トロンのバカが勝手にあたしの口座からお金を引き出したため、一度はゼロにな
ったあたしの貯金。
 倹約に倹約を重ね、ようやく幾ばくかの蓄えができたと思ったら、今回のルーシィの一
件で再び貯金は激減してしまい、とても携帯を買うような余裕はあたしにはなかった。
『ふ~ン。……よシ! ボクのまかせてヨ』
 トロンはくるりときびすを返すと、机の上のノートパソコンめがけて走り出す。
「ちょ、まかせろって、どうするつもりよ?」
 がっくりと肩を落としていたあたしだが、トロンの奇行が理解できず顔をあげる。
『あ、あの、ひょっとしてわたしのせい……ですか?』
 思い当たる節があったのだろうか。あたしの背中にルーシィの声が投げかけられる。
 振り返ると、ルーシィは不安気な表情であたしを見上げていた。
「ううん。ルーシィは関係ないよ」
 今にも泣きだしそうなルーシィの頭を、あたしは優しく撫でさすった。
『ただいマ~』
 しばらくして、なにやらパソコンをいじっていたトロンが、何事もなかったように戻っ
てくる。
「何やってたのよ?」
『ふふフ。ちょっとネ』
 得意気なトロンに、あたしは眉をひそめる。
 トロンの不可解な行動も気になったけど、あたしは大きく息を吐くと、現状に対する結
論を出した。

   しかたがないわね。ルーシィという家族ができたんだ。今は我慢あるのみ!

 無い物ねだりをしても虚しくなるだけだと気づいたあたしは心機一転、気持ちを入れ替
えた。
「まあ、ちょっと不便だけど、別に死ぬわけじゃないしね。ルーシィも気にしちゃ……っ
て、あれ、ルーシィ?」
 努めて明るく振る舞いながら微笑みかけるが、視線の先にルーシィの姿はなかった。
 驚き辺りを見回すと、机の端の方にルーシィとトロンがしゃがみ込んでいる。回り込む
ようにしてのぞいてみると、いつのまに持ってきたのか、首の後ろから伸びたケーブルと
携帯を繋いだトロンが壊れた携帯をさかんにいじっていた。
『どう、トロンちゃん?』
『ン~。まァ、メモリーまでダメージはいってないみたいだけどネ』
 心配そうに尋ねるルーシィ。トロンの答えに表情が明るくなる。
『リンさま! 携帯用のUSBケーブルはありますか?』
 ルーシィはあたしの側まで走り寄ってくると、息を切らせて問いかけてくる。
「へ? ケーブル? そりゃあ、あるにはあるけど……そんなモノ、どうする気なの?」
 うれしそうにピョンピョンと跳ね回るルーシィ。なにか考えがあるようだけど、まるで
思い当たることのないあたしは、ただ困惑するだけだった。
『わたし、リンさまの携帯になります!』
「はっ?」
 両腕を胸元まで上げ、得意げに言い切るルーシィ。
 あたしのあごが、カクンと落ちた。

                          ※

「通信用モバイル機能を搭載している?」
 確認するかのように尋ねるあたしに、ルーシィは力一杯うなずいている。
 要は、ルーシィ自身が携帯電話としての能力を持っているということらしい。
『わたし、こう見えてもアーンヴァルの最新モデルなんです!』
 もっとも初期の神姫であるアーンヴァルだけど、現行の神姫に対抗するために、OSや
ジェネレーターの改良などは常に行われており、地道にヴァージョンアップを繰り返して
いた。
 得意げに胸を張るルーシィ。あたしは素直に感心したふりをしていたが、そんなものを
わざわざ神姫に付ける必要があるのだろうかと、内心首をかしげていた。
 ルーシィは手渡されたケーブルを首の後ろに差し込むと、残った方を折れ曲がった携帯
に接続する。途端にルーシィの瞳から光が消えていく。
『……接続終了。メモリーからのデーターの転送を開始します』
 抑揚のない声で現状を報告するルーシィ。どうやら携帯のデーターは無事みたいだった。
それから待つこと数分。ルーシィは、自らに接続していたケーブルを静かに引き抜く。
『リンさまの携帯のデーターは、わたしのメモリー内にすべてバックアップしました。こ
れで、わたし自身を使っての会話が可能になります』
「会話って……こうするの?」
 あたしはルーシィをむんずと掴むと、耳にあてがう。
 自分の顔をあたしの耳に押しつけられ、ルーシィが苦しそうに説明を始める。
『い、いえ。スピーカーと集音マイクはわたしに内蔵されていますので、ふつうに会話し
ていただければ大丈夫です』
「あ、そうなんだ? ごめん」
 あわててルーシィを机の上に降ろす。
『ふう。 もし電話がかかってきたら、わたしの鼻の頭を押してください。そうすれば通
話が始まります』
「ふ~ん、そうなんだ? でも、いきなりそういわれてもねぇ……」

 鼻息荒く、『いつでも準備OK!』 といわんばかりのルーシィだが、相手から電話が
かかってこなければどうにもならないわけで……

『とぅるるるるるるっ! とぅるるるるるるるっ!』
「きゃ!?」
 せっかく、やる気満々のルーシィの行為に水を差すのもかわいそうだと思い、とりあえ
ず自宅の電話を使いテストをしようとあたしが腰を上げると、いきなりルーシィが奇声を
あげる。
「な、何よコレ?」
『う~ン。 これっテ、呼び出し音じゃないノ?』
 さすがにトロンもこれには驚いたらしく、薄気味悪そうにルーシィを見つめている。
 そんなことを露とも知らず、虚ろな目をしたまま唇をつきだし、ルーシィは呼び出し音
を繰り返す。
「それにしたって狙いすぎでしょ、このタイミングは?」
『まァ、ストーリーを円滑に進めるためにハ、止む終えない演出ってヤツだネ』
「なんの話よ?」
 腕を組んだまま、ひとり納得したようにうんうんとうなずくトロンに、あたしは眉をひ
そめる。
 そんなあたしたちをよそに、いまだに呼び出し音を熱演し続けるルーシィ。ちょっとお
っかなかったけど、あたしは恐る恐るルーシィの鼻の頭を指先で押してみた。
『あ~、せんぱいですか~。わ・た・し・です!』
 ルーシィの口からつむがれたのは、美佐緒の脳天気ボイスだった。
 絶妙なタイミングに驚いたが、それより身体を硬直させながら能面のような表情を浮か
べて美佐緒の声で話すルーシィの不気味なこと! 
 あたしは距離をあけると、ルーシィに話しかけた。

「どうしたのよ、こんな時間に?」
「どうしたもこうしたも、さっきのメールの件、わたしは何枚でもOKですよ!」
 妙に熱の籠もった口調で話し続ける美佐緒。
「はっ? メール?? 何枚???」
 まるで要領を得ない会話に、あたしはとまどうばかりだ。
「もう、何を言ってるんですか、せんぱい? 少し前にメールくれたじゃないですか!」
 あたしの頭に稲妻が閃く。机の上にあったノートパソコンを引き寄せると、いつの間に
か開いていたメール画面をのぞき込む。













                  あたしのパンツ、買わない?
















 画面に浮かび上がった、きわめて短い一文を読み上げた時には、あたしの手にはガッチ
リとトロンが握りしめられていた。      
『ぷ、ぷぷプ。 リ、リン。落ち…着…いテ』
 青黒い顔で必死に話しかけるトロンだが、あたしはまるで聞く耳を持たなかった。
「うふ、うふふふふふふふ。トロン、あんたやっぱりどっか壊れてたのね? でも、安心
して。あたしがすぐに直してあげるから♪」
 目の前に掲げられた手から、なんとか逃げだそうと身をよじるが、トロンの身体はピク
リとも動かない。
 あたしは、右手を静かに振り上げる。

「チェスト───────ッ!!!」
『NOォおおおおおおおおおおおオッ!』

 こうして、あたしの献身的な修理は夜を徹して行われ、この日、一ノ瀬家に新たな家訓
が加わった。






                 曰く、“直るまで殴れ!”

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武装神姫 クロスロード 第9話

                    武装神姫 クロスロード

              第9話     「天使降臨」

「じゃ、じゃあ、いくわよ?」
 しんと静まり返った部屋の中、あたしはつばを飲み込みながら誰にともなくつぶやいた。
眼前の机上にはクレイドルが置かれ、その上にはアーンヴァルが目を閉じ静かに横たわっ
ている。
 この瞬間を迎えるために乗り越えた艱難辛苦の数々を思いだし、あたしは感涙に頬を濡
らす。
 運良くアーンヴァルを手に入れたあたしだが、CSCやクレイドルといった神姫を動かすの
に必須の品を何一つ用意してないのに気づき、閉店間際のDO ITを強襲……もとい、来
訪したのだ。
 内心は困惑していただろうが、店長さんは嫌な顔もせずあたしの相談に親身になって答
えてくれた。
 なんとか目的のブツをそろえ、はやる心を押さえて家路についたが、三度ほど車にひか
れかけられるわ、飛び乗ろうとした電車の扉が閉まり身体を挟まれるわ、あげくの果てに、
家の目の前で何故かおまわりさんに呼び止められ、あれこれ質問されたりとさんざんな目
にあってしまったがあたしは少しもめげなかった!

       だって、あこがれのアーンヴァルを手に入れちゃったんだもんね~。

 まあ、部屋に戻ったあとも、緊張してブリスターを開けるとき、また中身を全部ぶちま
けちゃったり(もちろん、神姫は無事キャッチしたけどね)、起動前に充電するのをすっ
かり忘れて、「この神姫、動かない!」とパニくったり大騒ぎをしながらようやく眼下の
神姫の起動にこぎつけたわけだった。
『ン~。どしたノ、リン?』
 クレイドルの上のアーンヴァルを見ていたトロンが、怪訝そうに動きの固まったままの
あたしを見上げる。
「い、いや~、なんか緊張しちゃって。やっぱりさぁ、念願のアーンヴァルだし、こうい
う場合ってしばらく神棚かなんかに飾っておいたほうがいいのかな~、とか思ったり」
 頭を掻きながら照れ笑いを浮かべるあたしを、トロンは呆れたような顔で見つめている。
『……バカなこと言ってないデ、さっさと起動しちゃいなヨ!』
 トロンはあたしを遮るように、足でEnterキーを押してしまった。
「あっ! な、何すんのよ?」
 神姫にとって起動とは、命の炎が灯される──神聖な儀式のようなものだった。
 もっとも期待と不安が入り交じる瞬間をトロンに横取りされる形になり、あたしは不機
嫌そうに声を荒げるが、トロンは知らん顔でそっぽを向いている。
 トロンの態度にムッときたが、あたしの耳に聞こえてきたかすかな物音に慌てて机に
視線をもどす。
 クレイドル上のアーンヴァルの身体が、小刻みに動いていた。
『FRONT LINE社製、MMSーAutomaton。FLOー12、天使型アーンヴァル。セット
アップ完了、起動します』
 抑揚のない声でつぶやくと、黄金色の髪に隠れていたまつげがかすかに震え、瞳が静
かに開く。
「ど、どうしよう、トロン。この子、動き出しちゃったよ。 に、逃げよっか?」
『……落ち着きなヨ。逃げてどうすんのサ?』
 おろおろとするあたしを見上げながら、トロンが呆れたような表情でいさめる。
 とりあえず、大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着けると机の上へと首を回す。澄んだ藍
色の瞳があたしを見ていた。
『……』
 ぼんやりとあたしを見つめていたアーンヴァルだが、しばらくすると焦点が結ばれ、瞳
にあたしの姿が映し出される。
『貴女がわたしのマスターですか?』
 クレイドルから身を起こしながら、アーンヴァルが杓子定規な口調で尋ねる。
「え、ええ。そうよ」
 なんか、あまりにもトロンの時と違う展開に(もっともこっちの方が普通なんだろうけど
ね)、ためらいながらもそう答える。
『認証作業終了。登録の完了した女性を、マスターと認識しました』
 アーンヴァルは小声でつぶやくと、静かに目を閉じる。でも、それはほんのわずかな間
だった。屈託のない笑みを浮かべると、天使型の神姫はあたしを真っ正面から見つめた。
『これからよろしくお願いします、マスター』
 起動直後の堅さが嘘のように、少しはにかんだような笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下
げるアーンヴァル。

      こ、これよ! これこそあたしが夢にまでみた理想の神姫の姿よ!!

 あたしはプルプルと握りしめた拳を震わせ、感動に打ち震えていた。
『あ、あの~、マスター?』
 あきらかに、とまどいと脅えの表情を浮かべたアーンヴァルが、恐る恐るあたしに話し
かけてくる。
「え、何?」
 ようやくドリームワールドから帰還したあたしは、照れ隠しに咳払いをしながら尋ねる。
『あ、はい。 その、わたしに名前をつけていただけるとうれしいんですけど……』
「な、名前?」
 おずおずと口をひらくアーンヴァルに、あたしは固まってしまった。

            そ、そういえば、名前まだ考えてなかった……

 さんざんトロンに八つ当たりしたが、あたしだってまさか本当にアーンヴァルをGET
できるなんて夢にも思ってはいなかった。
 期待に胸を膨らませ、キラキラと輝く瞳であたしを見上げるアーンヴァルから露骨に目
をそらすと、あたしは頭をフル回転させはじめる。
「え、え~と…………あっ、そうだ。“ルシエル”なんてどうかな?」
『……まだソレにこだわってたノ?』
「うっ」
 凍てつくような声音でつぶやくトロン。
「な、なんでダメなのよ? あんたは気に入らなかったんだから、別に……」
 あたしの反論は途中で止まってしまった。トロンが両手で大きなバッテンを作ってあた
しを睨みつけているというのも理由のひとつだったけど、それよりトロンの雰囲気がいつ
もとまるで違っていることがあたしから反撃の意志を奪ってしまった。

 それにしても、なんでトロンはここまで頑なに“ルシエル”という名前をいやがるのだろうか?

 あたしは、初めてトロンにこの名前を薦めた時の事を思い出していた。真っ正面から見
つめるあたしの視線に気づくと、トロンは慌てて目を反らした。


                       あっ、まさか……


 その瞬間、あたしの脳裏に閃くものがあった。
『え~と……』
「ご、ごめん。すぐ考えるからね」
 けれど、心配そうな顔であたしを見上げるアーンヴァルと目が合ったとたん、あたしの
思考はそこでさえぎられてしまった。
「そうねぇ、う~~~~~~ん」」
 腕を組んで考えることしばし、あたしはようやく口をひらく。
「じゃあ、アーンヴァルだから“アーたん”とかどう?」
 アーンヴァルは遠慮がちに首を横に振る。
 このあとも、“ポチョムキン”とか“独歩”とか、心に思い浮かんだ名前を次々とあげて
いくが、なかなか気に入ったものがないようだった。
 新しい名前を口にする度に首を振り続けたアーンヴァルだったが、最後の方になると
首を振るのを止めてしまい泣きそうな顔になる。
「あっ、ごめん。 え~と、え~~~とぉ……」
 唇を噛みしめながら、涙目であたしを見上げるアーンヴァル。

             ああ、なんか鼻水まで垂れてきちゃってるよ……

 さすがにその姿を見て不憫に思うが、いくら焦ってもいいネーミングは浮かばない。
 その時、オーバーヒート寸前まで酷使したあたしの頭にキュピンと閃くものがあった。
「よし! あなたの名前は“ルーシィ”よっ!」
『えっ、ルーシィ?』
 ついにうつむき、表情まで見えなくなっていたアーンヴァルが、ハッとしたように顔を
上げる。
「ええ、そうよ! ……あの、お気に召しましたか?」
『何、ヒクツになってるのサ?』
 揉み手をしながら下手に尋ねるあたしに、冷ややかに見上げていたトロンが氷点下
級のツッコミをかましてくる。
 とりあえず、そんなトロンをシカトして今現在の悩みのタネに目をやると、アーンヴァ
ルは自分の胸に手を当てて、『ルーシィ』と何度も繰り返しながらつぶやいていた。
『とても素敵な名前です。ありがとうございます、マスター!』
 パッと輝くような笑みを浮かべながらはしゃぐルーシィ。あたしはそんな彼女を眺めな
がらホッとする一方、脱力感に襲われる。

 つ、疲れた。なんで神姫の名前を決めるのに、こんなに苦労しなきゃいけないの?

 安堵のため息をもらしながらいすの背にもたれかかっていると、皮肉をたっぷりと含
んだ声があたしの耳朶を打つ。 
『ホントにリンは単細胞だネ。そんな二、ルシエルって名前が使いたかったノ?』
 さすがにトロンのヤツは、ルーシィの名前の意味に気づいたみたいだった。
「う、うっさいわね! あの子も気に入ったみたいなんだからいいでしょう?」
 心底呆れ果てたと言わんばかりに肩をすくめるトロンに、あたしは顔を口にして反論す
る。
『マ、リンの好きにすればいいサ』
 トロンは、そんなあたしを見上げながら苦笑している。
『あの~、マスター?』
「は、はい! なにかご用でしょうか?」
 控えめに話しかけてくるルーシィに、あたしは反射的に立ち上がる。

              い、いかん! ヘンなトラウマになってる。

「おほん! えっと、何か用かな?」
 盛大な咳払いをしながら取り繕うと、呆気にとられながらあたしを見上げるルーシィに
微笑んでみせる。
『あのですね。マスターのことはなんとお呼びしたらいいでしょうか?』
「え? あたしのこと? そうねぇ、じゃあ……」
『テキトーに、ポチョムキンでいいヨ』
「お前は黙っとれ!」
 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべるトロンに、あたしは牙を剥いて威嚇する。
 でも実際、ルーシィの名前の一件で疲労困憊状態におちいったあたしは即答できなか
った。ルーシィがいま使っている“マスター”という呼び方はもっとも一般的だけど、どうも
あたしは好きになれなかった。

 あごに手を当て、思考のループに突入してしまったあたしを無視するかのように、億劫
そうにトロンが口をひらく。
『リンでいいんじゃないノ?』
『では、リンさまでよろしいでしょうか?』
「へ? リンさま? う~ん……まあ、それでいっか」
 なんかトロンに勝手につけられたのが引っかかるけど、これといってリクエストがある
わけでもなく、自分を納得させるためにつぶやくと、屈託のない笑みを浮かべるルーシィ。
『いろいろと至らぬところもあると思いますが、よろしくお願いします、リンさま』
「うん。こちらこそよろしくね、ルーシィ」
 深々と頭を下げるルーシィにあたしも釣られて頭を下げる。
『それと……』
 ルーシィはそう言うと、トロンの方に向き直る。
『ボクはトロン。マ、よろしくネ』
 ルーシィの表情から察したのだろうか、親指を立てながら眠そうな声で自己紹介をする
トロンに、ルーシィが顔をほころばせる。
『わたし、起動したてで何もわからないからいろいろ教えてくださいね、トロンさん』
 律儀にトロンにまで頭を下げるルーシィ。でもトロンはそんな彼女を見て、眉を寄せて
いる。
『なんカ、かたっくるしいネ、キミ』
『えっ。そ、そうですか?』
 トロンの態度に、ルーシィが慌てて顔を上げる。
『ボクはそういうの好きじゃないんダ。ボクのことは呼び捨てでいいヨ。その代わリ、ボ
クもキミのことをルゥって呼ばせてもらうからサ』
『ルゥ、ですか?』
 なんの脈絡もなく、突然つけられた愛称にルーシィはとまどった様子だったけど、すぐ
に笑顔になった。
『わかりました。それでは、あらためてよろしくお願いしますね、トロンさ……あっ?』
 トロンの眉根が寄るのを見て、ルーシィが両手で口をおおう。
『じゃあ、よ、よろしくね。 その、トロン……ちゃん』
 頬を赤らめながら、もじもじするルーシィ。

     くぅ~、たまんねぇ。 何、この初々しさ。ルーシィってば、マジ天使! 

『……あのさア、リン。ヨダレ拭いたら? みっともないヨ』
 トロンの呆れきったような声も、滝のようなヨダレを流し、ヘヴンモードになったあた
しの耳にはまるで届いてはいなかった。




             こうして、我が家に新しい家族が加わった。

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