神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第30話


                  武装神姫 クロスロード

            第30話   「前夜祭」
   
 和尚さんのおかげでなんとか吹っ切れたあたしは、店長さんたちの待つ部屋に戻った。
でも、そこにいたのは店長さんと天堂さんだけだった。
「……やっぱり来ませんね。姫宮先輩」
「連絡はしたんだがね。しかたがない。姫宮くんには、後で私から話しておこう」
 あたしの沈みがちの声に、いたわるように店長さんが答える。バッグに目をやると、さ
っきまでの機嫌のよさはどこにいったのか、トロンが頬をふくらませ、ブツブツと何か言
っていた。
 結局あたしたちは、姫宮先輩抜きで作戦会議を再開した。といっても、あくまで受け身
のあたしたちの立てられる対策など、たかがしれている。
 結論としては、店長さんは決戦の場をDO ITで行うつもりらしかった。
「そんな。そんな事をしたら、またお店がめちゃくちゃになっちゃいますよ?」
 慌てふためくあたしを、店長さんが笑いながらとりなす
「確かにそれはきびしいね。だが心配は無用だよ一ノ瀬くん。明日から店は数日間臨時休
業とするし、店内の品も可能な限り地下にでも移すからね。とにかく被害は最小限に抑え
たい。この店だけでそれが収まるのなら、安いものさ」
「そうですか、そうすると問題はあとひとつですね」
 店長さんの決意の強さにそれ以上の説得は無駄だと悟ったあたしは、それ以上は何も言
わなかった。

                           ※

「しかし、本当に大丈夫なのかい、一ノ瀬くん?」
 自動ドアをくぐりぬけようとするあたしの背に、店長さんの心配そうな声が届く。
「そんなに心配しなくても平気ですよ。こっちにはトロンとルーシィもいますし」
 よけいな心配はかけまいと、あたしは振り向きながら明るく振る舞うが、店長さんたち
の表情は晴れない。
「やっぱり心配だよ。ぼくが送っていくよ」
 天堂さんはそう言うと、あたしの返事も聞かず帰り支度を始める。店長さんもあたしを
見ながらうなずいていた。
            
 あたしの住んでる町に比べれば、DO ITのある場所はかなり開けた場所にあった。
 とはいっても、もうかなり夜も更け人通りもまばらだった。
「えっと、ほ、星がきれいだね?」
 会話もほとんどなく、駅に向かって早足で歩いていたが、無言の間に耐えられなくなっ
たのか、咳払いをすると天堂さんが話しかけてきた。
「……そうですね」
 素っ気なく答えるあたしに、横で気落ちしたような気配がする。
「どうかしたんですか?」
「え? あはははは。な、なんでもないよ」
 あたしが怪訝な顔で見上げると、天堂さんは慌てて両手を降り始める。天堂さんの肩の
上で、リューネがやれやれといった表情を浮かべている。
『おイ、ケーイチロー。 さっきからキミ、リンとの距離が近いゾ。リンに手を出したら
ボクが許さないからナ?』
 いつの間にかバッグからトロンが顔を出すと、不機嫌さを隠そうともせず天堂さんにビ
シッと指を突きつける。
「ちょっ、ご、誤解だよ! ぼ、ぼくは決してそんな…」
 なんでトロンがこんなにご機嫌斜めになってるのか不思議に思っていると、慌てふため
き、遠藤さんは両手だけでは足りないのか猛烈な勢いで首まで降り始める。

             でも、なんであんなに赤くなってるんだろう?

「だ、だだだだだから違うって言ってるだろ! ぼくはただ隣ちゃんが心配なだけで、別
に興味があるわけじゃ……」
「あたしだって、人のスカートに顔を突っ込むような男に興味なんてありません!!」
 すぐ横を歩いていた天堂さんの気配が急に消えた。後ろを振り返ると、天堂さんはゴミ
捨て場そばの電柱の陰で、膝を抱えてしゃがみ込んでいた。
「はあ……何なのよこれ?」
『きっとみなさん、リンさまのことが心配なんですよ』
 特大のため息に合わせて大きく沈み込むバッグにしがみつきながら、ルーシィが笑いか
けてくる。
「心配……ねぇ」
 あたしは、苦笑しながら夜空を見上げた。

                           ※

「トロン、上ッ!」
『くそ!』
 脱兎のごとく前方に飛び込むトロン。直後にその場所を高出力のビームが薙ぎ払う。
 目まぐるしく変化する光景を目で追いながら、あたしは自分の考えがいかに甘かったか
を痛感していた。

 あの片桐のことだ。楽しみは後に取っておくはずだから、こちらのメンツの揃わない今
日は襲ってくることはないだろう。

 そんなことを考えながら夜空を見上げると、そこに白い人影が三つ、あたしたちを見下
ろしていた。
 見覚えのあるその姿がゆっくりと長大な銃身を持ち上げるのが目に入るや、考えるより
先に身体が動いた。
 ビームの光がアスファルトを貫く頃には、あたしは地面を転がりながら使徒から距離を
とっていた。横目で見ると、落ち込んだままの天堂さんは障害物(電柱)が盾になってい
て無事のようだ。
 あたしは帰り際、念のためにと店長さんから渡されていた簡易型のインカムをポケット
から取り出すと、耳に当てがう。
「トロン! ルーシィ!」
『『アラホラサッサーッ!』』
 息もぴったりのタイミングだが、腰の抜けそうなかけ声にあたしはつんのめりそうにな
った。
 再びこちらに狙いを定めようとした使徒だが、地面に飛び降り、果敢に射撃を始めたル
ーシィのせいでタイミングを失ってしまう。
『ほんじゃまあ、時空の狭間から、ボク、光臨!』
 バッグの中でもぞもぞやっていたトロンがソウルテイカーを身に纏うと、わけのわから
んセリフとともに使徒めがけて一直線に飛び出していく。
 トロンに照準を合わせようとする使徒たちに、ルーシィが間断無くハンディビームガン
の洗礼を見舞う。
 フォーメーションを崩す使徒たち。トロンは電柱などの後ろに身を潜めながら使徒たち
に近づくが、肝心の敵は遙かお空の上にいた。
 彼女たちの情報収集能力から考えれば、初戦におけるトロンと使徒の戦いは筒抜けだろ
う。

                   もう、あの戦法は使えない。

 レスティーアとの再戦にのみに主眼をおいて作られたソウルテイカーに、トロンは飛行
能力を与えなかった。でも、今となってはそれは致命的と言えるほどの弱点になってしま
っていた。
 一瞬脳裏に、トロンを力一杯投げる! とかいう選択肢も浮かんだが、あたしは頭を振
ってその考えを却下した。

      そんなことしても、使徒に近づく前にトロンが蜂の巣になるだけだ。

 この状況を打破すべく、あたしは無い知恵を絞り始めた。

                     それにしても……

 あたしは片桐の思考がまるで理解できず、年頃の女の子にあるまじき大きな舌打ちを打
った。明日は週末で学校が連休に入るため、DO ITに泊まり込んで片桐たちを待ち受け
る。最初はそう考えていた。
 片桐にとっても、あたしたちが揃っていた方が都合がいい。そう考えての事だったけど、
ものの見事に裏をかかれてしまったみたいだ。

           「まったく! ほんとにあいつ、何考えてんのよ?」



             こうして、望まれぬパーティーは始まった。

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