神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

武装神姫 クロスロード 第35話


                     武装神姫 クロスロード

                 第35話   「接触」


「いや、あのねリベルター、これは違うの!」
 呆れきったと言わんばかりのリベルターの声にあたしは慌てて弁解するが、なぜか
インカムは沈黙を守ったままだった。
『……ぷ、うふふふふふ』
「?」
 さすがにこんな状況で笑い始めたあたしたちの不謹慎さに、リベルターも腹を立てたの
だろうと心配していると、インカムの奥から微かな含み笑いが聞こえた。
 あたしが眉をひそめていると、笑い声はだんだんとトーンを上げていった。
「リベルター?」
 ついに我慢の限界を越えたと言わんばかりに、カラカラと笑い始めるリベルター。今度
はあたしたちが沈黙する番だった。
『ご、ごめん…なさい。こ…んな時に』
 息が続かないのか、途切れ途切れに謝る。
『でも、良かった』
「何が?」
 リベルターの声に、あたしの問いが重なる。
『思ったほどみなさんが気落ちしてなかったことがです。“私たち”も少しは救われた気
分です』
 そう話すリベルターの声も、ずいぶんと明るさを取り戻しているようだった。
「リベルター、私だ。そちらの状況はどうだい?」
『店長さん! ご無事でしたか?』
 インカムを通して話しかける店長さんに、リベルターの安堵した声が答える。
『二階に侵入した使徒は何とか撃退しました。また“リベルター”がサーチした結果では、
現在、店内に稼働中の使徒は確認されません』
「そうか、わかった。私たちもすぐに二階に向かう」
 凜とした声に戻ったリベルターの報告にうなずくと、店長さんはあたしたちの方に振り
向いた。
「聞いたとおりだ。みんな、二階の私の私室に行ってくれ」
 店長さんの声にうなずくと、あたしたちは一目散にエスカレーターへと向かった。
『何をやってるんですの、あの人は?』
 電源の切れたエスカレーターを駆け登り、先に進もうとすると、あたしの肩に乗ってい
たリューネが声をあげる。慌てて振り向くと、てっきり後ろにいると思った店長さんがま
だ下の階におり、床にしゃがみ込んでいる。
「どうしたんですか、店長さん!」
 倒れた陳列棚の辺りで、ごそごそとやっていた店長さんはあたしの声に手を挙げ答える
と、すぐにあたしたちに追いついてきた。店長さんは、あたしの肩を軽く叩くと、先を急
ぐようにうながした。
                           ※

 二階の奥にある店長さんの私室に近づいたあたしたちの足は、目の前の光景を目にした
とたん止まってしまった。
 おそらく高出力のビームを打ち合った結果だろう。壁と言わず、天井や床まで、焼け焦
げ無惨な様相を呈していた。足下には下半身だけとなった使徒が断面から白煙を吹き上げ
倒れている。
『リベルターさん!』
 ルーシィの声に、あたしたちの視線が前方に集中する。 店長さんの部屋へと続くドア
の前に、銀髪のアーンヴァルが仁王立ちで浮いていた。
『よくもまあ、あんな武装で……』
 呆れとも感心ともとれる口調でトロンがつぶやく。リベルターが装備していたのは、ア
ーンヴァルの基本武装だった。
 けっしてアーンヴァルの武装を否定するわけじゃないけど、使徒を相手にするには、少
々パワー不足なのはいなめないだろう。にも関わらず使徒と互角以上の戦いをしたんだ。
 あたしは無傷のリベルターを見ながら、彼女の実力の高さを実感していた。
『さあ、みなさん。急いで中へ!』
 リベルターにうながされ、あたしたちは室内へとなだれ込む。あたしたちが部屋に入る
と、重々しい音とともにドアが閉まった。
『こちらに』
 リベルターに導かれるまま、部屋の奥にある扉をあたしたちはくぐり抜ける。部屋に踏
み込むと同時に、まばゆい光が室内を照らした。
『ミナ…サン。ゴ…ブジ…デ』
 非常用の外部電源でもあったのだろうか、いきなり灯ったライトに目をしばかせている
と、押し開けられたドアの奥、部屋の中央に据えられた大型の作業台の上で、もうひとり
の“リベルター”が微笑んでいた。あたしたちは部屋中に散乱しているコードを踏まない
ように気をつけながら歩を進めた。
「リベルター、無事だったか」
『…ハ…イ』
 店長さんの安堵する様子に、“リベルター”も微笑み返す。あたしたちは、“リベルタ
ー”を取り囲むように部屋の中央に集まった。“リベルター”もあたしたちの無事を確認
するかのように、ゆっくりと首をめぐらせる。
『スミ…マセ…ン、ミ…ナサン』
「みんな覚悟のうえよ、気にしないで」
 苦しげにつぶやく“リベルター”に、あたしは元気いっぱいに答える。強ばっていた彼
女の表情が、わずかにやわらぐ。
「一ノ瀬くんの言うとおりだ。それに、無駄に時間を稼がれ精神的に消耗するのを考えれ
ば、こうやって戦力を集中させ使徒たちを待ちかまえられる今の状況は、考えようによっ
ては、我々に有利だ」
 あたしたちを前に話し始める店長さんに、全員がうなずく。
「幸い敵の第一波は退けた。だがこれで終わりのわけがない。今のうちにこちらもフォー
メーションを決めておこう」
「そうですね。こちらの戦力は五人。これを……」
『ちょ、ちょっと待ってください!』
 店長さんの話に相づちを打ちながら、姫宮先輩が話を引き継ぎ作戦を思案し始めたが、
驚いたような声に、我に返った。全員の視線があたしに、というか、あたしのバッグから
顔をのぞかせているルーシィに集中する。
『あ、あの、かおりさん。ここにいる神姫は六人ですよ?』
 指折り数えながら不安さを隠そうともせず、すがるような表情で姫宮先輩に話しかける
ルーシィ。先輩はすまなそうな顔になる。
ルーシィは泣きそうな顔で周りを見回すが視線が合うと、みな目を伏せてしまう。
『酷なことを言うようですが、使徒との戦いはルーシィさんには少々荷が重いのではなく
て?』
 みんなの心情を代弁するかのように、リューネが口を開く。
『そ、そんな。わたしだって戦えます! ねっ、そうだよね、トロンちゃん?』
 今にも泣き出しそうな顔で、ルーシィがトロンにしがみつく。
『もちろん』
 言葉短に答えるトロン。ルーシィの表情が明るくなる。
『……だから、ルゥにはここに残ってほしいんだ』
 ルーシィの方に向き直りながら口を開くトロンに、またルーシィの表情が曇ってしまう。
『え? でも、それじゃ……』
 不満そうに顔で異論を唱えようとするルーシィを、トロンは両手を上げてさえぎった。
『キンちゃんの言うとおり、ルゥがパンチ力に欠けてるのは事実だ。実際、使徒やエーア
ストとの戦いが始まれば、ルゥをフォローする余裕はボクたちにはない』
 きっぱりと言い切るトロン。ルーシィもそれは充分わかってるのだろう。無言で顔を伏
せてしまう。
『だからこそ、ルゥにはここに残ってほしいんだ……リンたちを守るためにね』
『えっ?』
 思いもしないトロンの提案に、ルーシィが顔を上げる。
『フォローできないのは、ルゥだけじゃない。リンたちの守りも手薄になる。だから誰か
に残ってほしいのさ。……わかってくれた?』
『う、うん』
 トロンの優しげな声に、ルーシィは渋々とうなずく。そんな彼女の眼前に、いきなり黒
光りする長大な銃が差し出された。
『これを使うといい、役にたつはずだ』
 声の主、レスティーアはそう言うと、片手に持っていた大型のビームライフルをルーシ
ィに手渡す。だが予想以上に重かったのだろうか、手にしたとたんルーシィはよろめく。
『いいの、レスP?』
『いらん心配は無用だ』
 心配そうに尋ねるトロンに、レスティーアは残る片手に握った大型のライフルと、背部
の強化腕が手にした、さらに巨大な二丁のビームキヤノンを持ち上げてみせる。
『あ、あの、レスティーアさん!』
 トロンたちが振り返ると、そこにはビームライフルを両手で抱え、おぼつかない足取り
のルーシィが立っていた。
『どうした、ルーシィ?』
 レスティーアの問いに答えず、ルーシィは頬を赤くしてうつむいていたが、意を決した
ように顔を上げる。
『あ、あの…このライフルの使い方を教えてください!』
 レスティーアにとっても、この問いは予想外だったのだろう。ポカンと口を開いていた
が、苦笑いを浮かべると机の端の方にルーシィを連れていき説明を始めた。
「あんたの口先三寸もたまには役に立つのね」
 レスティーアの説明に、いちいち律儀にうなずくルーシィを見ながらあたしが話しかけ
ると、トロンは前を向いたまま興味もなさそうに答えた。
『なんのこと?』
「とぼけないで。ルーシィのことよ。あの子を傷つけないためにあんな言い方をしたんで
しょう?」
 あたしが少し声を荒げると、トロンはようやくこちらを向いた。
『ああ、そのこと? 少なくとも半分は本心だよ』
「半分?」
『片桐は、みさキチをも上回るほどの“ピーッ”だよ。ボクたちの隙を作るためなら平気
でリンたちを襲うぐらいするだろうしね』
 あたしを見上げながら、トロンはいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「あんた、そこまで考えて……」
「なるほど、確かに片桐なら十分使いそうな手だね。ならばこちらも、ルーシィくんがレ
クチャーを受けている間にやることをやってしまおう。一ノ瀬くん。これをトロンくんに
つけてくれ」
 トロンの読みの深さに驚いていると、いきなり背後から感心したような店長さんの声が
聞こえた。振り返ると、店長さんは微笑みながらあたしの前に手を差し出す。
「それって……」
『“黒き翼”だね』
 あたしの声を引き継ぐように、店長さんの手のひらに乗っていた物を一瞥すると、トロ
ンがつぶやく。
「そうだ。さすがにトロンくんでも、飛べないままで使徒の相手をするには限界がある」
 あたしは店長さんが店長さんが手渡してくれた品を、まじまじと見つめた。
 “黒き翼”は飛翔速度などにおいて、本格的な飛行用装備には及ばないものの、気軽に
神姫に飛行能力を与えてくれる武装パーツとして人気があった。
「なるほど、これなら調整にかかる時間も少なくてす……あっ!」
 あたしはそこまで話して、さっき店長さんが下の階でなにかを探していたのを思い出し
た。あたしの考えがわかったのか、店長さんがキラリと歯を輝かせながら微笑む。
「それに、使徒の力はやはり侮れないしね」
「どうしてですか?」
 急に真剣な表情になった店長さんに、あたしは尋ねる。
「いや、さっきトロンくんのパーツを捜しているときにみつけたんだが、スチール製の棚
がありえないほどひしゃげていてね。あれを見ていて、今更ながら使徒の恐ろしさが身に
しみたんだ」
「…………」
「ああ、それは使徒じゃなくて、あたまを使いすぎてキレたせんぱいが……あ痛っ!」
 雷にでも打たれたように直立不動になる美佐緒の横で、これ以上はないというほど引き
つった笑みを浮かべるあたしを見て、店長さんが不思議そうな顔をする。

           ごめんなさい、店長さん。ソレ、あたしが犯人です。

 美佐緒の爪先を踵で踏みしだきながら、あたしは心の中で店長さんに陳謝した。
『それよりも、トロンさんの調整を急いだ方がよろしいのではなくって?』
『そうですね。私も手伝います』
 リューネの声にあたしが我に返り、答える間もなく、リベルターはトロンの背を押し、
隅の方に連れていくと慌ただしく用意を始める。
 正直、あたしが手伝うと、かえって足を引っ張りそうだったので、ポツンと立ち尽くし
ていると、背後から感情を感じさせない声が聞こえてきた。

            『ネツゲ…ン、ハン…ノウヲ、カ…クニン…シマ…シタ』


            “リベルター”の声に、部屋中が緊張に包まれる。

スポンサーサイト

PageTop

武装神姫 クロスロード 第34話

    
                武装神姫 クロスロード

               第34話   「氷解」

 暗闇より生じた人影は、トロンとすれすれのところで歩みを止める。
 全身を闇よりもなお暗い、黒一色で彩られた巨体は、あたりを威圧するような空気を漂
わせていた。
 その身に纏う甲冑は、曲線を基準としたフォルムは優美さを備え、全身を覆う装甲は騎
士の甲冑のような装飾を施されていた。
 トロンは眼前に立ちふさがる黒い山を黙って見上げていた。その巨体は、基本装備を纏
ったストラーフと並ぶほど大きかった。
 まさに目の前の黒影は“騎士”だった。でも、その身には四丁もの巨大な銃を携えてお
り、腰に一振りの長剣を下げているものの、その姿はあたしのイメージする騎士とは異質
の姿をしていた。

「そうか、あれがレスティーアの本来の姿……」

 レスティーアにつけられた「黒騎士」という二つ名が、レスティーアにとっては皮肉以
外の何物でもないという……前に桜庭さんが聞かせてくれた話の意味を、あたしはようや
く理解した。

 視線を感じ首をまわすと姫宮先輩があたしを見つめていた。先輩にはあたしの考えてい
ることがわかるのだろうか。視線をはずすことなく、静かにうなずいた。
『なかなか似合ってるじゃないか、その格好』
 あたしの心情も知らず、トロンはおどけた口調で話しかけるが、黒影は何も答えない。
 トロンは軽く肩をすくめると、彫像と化した巨体に射るような視線を送る。
『まったく! いつまでぶて腐ってんのさ……レスP』
 トロンを見下ろしていた巨大な騎士は、大きなため息とともに兜につけられた面頬を跳
ね上げる。そこにはよく見知った顔があった。
『やれやれ。ようやく私の名を覚えたと思ったのにな……また逆戻りか』
 心底呆れたといった表情になるレスティーアのリアクションに満足したのか、トロンは
ニンマリと笑うと背を向けた。
『……トロン』
『ん、何さ? あらたまっ…ブホッ!?』
 神妙な口調で名を呼ばれ、いぶかしげに振り向いたトロンの頬に、絶妙なタイミングで
レスティーアの拳がめり込んだ。
 とっさのことで全員が唖然としているなか、ゴロゴロと回転を続けていたトロンは壁に
めり込み、ようやくその動きを止めた。
『痛っつうううううッ! な、何すんだよ、レスP!?』
 あたまを抱えながら、顔を真っ赤にしてレスティーアに詰め寄るが、当の本人は顔色一
つ変えない。
『この前受けた、不意打ちの礼をしたまでだ』
『不意打ちって──まだ、そんなこと言ってんの? この、石頭の唐変ぼ……ん!?』
 トロンの罵詈雑言は途中で止まってしまった。いつものレスティーアでは考えられない
ことだが、彼女は笑っていた。
『……きさまのおかげでようやく目が覚めた。礼を言うぞ……トロン』
 そう言うと、レスティーアはトロンに向かって深々とあたまを下げたが、トロンはポカ
ンと口を開けたまま、レスティーアを見上げているだけだ。
 レスティーアは、一瞬はにかんだような笑みを浮かべたが、すぐにいつもの厳しい表情
にもどるとトロンに背を向け去って行ってしまう。
「大丈夫?」
 レスティーアの背中を目で追いながら話しかけるが、トロンは釈然としないようだ。
「ごめんなさいトロン。でも、あなたのおかげであの娘はようやく過去との決別ができた
……だから自ら封印していた“黒騎士”として戦う決意をしたの」
 先輩はそこでいったん話を止めた。
「あの娘は不器用だから、自分の心を素直にあらわせない──でも、レスティーアはあな
たに心から感謝しているわ。それだけはわかってあげて?」
 心底すまなそうにあやまる姫宮先輩にも、トロンは拗ねたような態度をくずさない。
『だったらさ、『ありがとう』の一言でいいじゃないか……まったく、何考えてんのさ』
 頬をさすりながらトロンがブツブツ言っていると、遠くからレスティーアの声が聞こえ
てきた。


           『騎士は一度受けた屈辱は決して忘れん!』


                 はぁ、やれやれ……
 

         あたしと姫宮先輩は、顔を見合わせ笑ってしまった。

                    
                         ※


『……これって、結果オーライということなんでしょうか、リンさま?』
「そうみたいね」
 狐にでもつままれたような表情で話しかけてくるルーシィに、苦笑しながらあたしは答
える。
『ようするに、お二人は似たもの同士、ということではなくて?』
 特大のため息をつきながら肩をすくめるリューネ。後ろでトロンとレスティーアが『こ
んなんと一緒にするな!』と言わんばかりの顔になる。

    リューネ。気持ちはわかるけど、これ以上話をややこしくしないで!

「お、おほん! まあ、アレね。こんな所で油を売ってるわけにもいかないわ。先を急ぐ
わよ、みんな?」
「そうですね。わたし、せんぱいとなら教会だろうとホテルだろうと、どこへでもついて
いきますよ」
 必死に場を取りなそうとするあたしの背後で、世にも脳天気な声が相づちを打つ。

「……だから、なんでお前がここにいるっ!?」

 なかなか話が先に進まない今日この頃だった。

                          ※

「一ノ瀬さん、大丈夫?」
 怒りのあまり、酸欠状態にでもなったのだろうか、いきなり気の遠くなったあたしを、
姫宮先輩が慌てて抱き止めてくれた。
「これは何本に見えるかい、一ノ瀬くん?」
「……さ、三びょん……」
 心配そうにあたしの目の前で指を立てる店長さん。霞む目をこすりながらあたしが答え
ると、ホッとしたような笑みを浮かべる。
『本当に申し訳なかったでござる。隣どの』
なんか片桐と戦う前に、限りなく体力ゲージが0に近づいてきたあたしの耳に、済まなそ
うなガーネットの声が聞こえた。首を回すと、ガーネットが土下座をし、深々と地に頭を
つけていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ? なんでガーネットが謝るわけ?」
 ガーネットは、しばらくそのままの姿勢を崩さなかった

『美佐緒どのに無理を言い、店長どのに今回の戦いに無理矢理参加させてもらったのも、
すべて拙者の一存なのでござる、隣どの!』
 そう言いながら、ガーネットは頭を上げ、あたしの目を真っ正面か見つめた。その瞳に
は悲痛さともとれる光を宿していた。
「……理由を話してくれる? ガーネット」
 静かに尋ねるあたしに、ガーネットがうなずく。
『拙者はかつて、エーアストの一人と戦ったことがあるでござる』
「え?」
 ガーネットがエーアストを知っていた? それは予想もしない一言だった。あたしはし
ばらく唖然としていたが、ガーネットはそんなあたしの心情を知ってか、淡々と話を続け
た。
『ある日、拙者たちの戦いの場に“奴”はいきなり乱入してきたでござる』
 そこまで話し、ガーネットは唇を噛んだ。
『惨い戦い……いや、あれは一方的な殺戮でござった。あの“紅の鬼神”の去った後に残
ったのは、瀕死の傷を負った拙者だけでござった』
 当時の光景が脳裏をよぎったのだろうか、ガーネットの拳が堅く握りしめられた。あた
しはガーネットの話しを聞きながら、ハッと顔を上げる。
「じゃあ、美佐緒が前に話してた、ガーネットの身体をこんなにした神姫って……」
 あたしの言葉に、美佐緒が悲痛な面もちでうなずく。
『なるほどね。ガンちゃんにとっては、この戦いは弔い合戦というわけか』
『いや、拙者自身の手で弔うというのなら、残念ながら拙者の無念は一生晴れることはな
いでござる』
 そっと目を伏せつぶやくトロンだが、ガーネットの紡いだ言葉に驚き顔を上げる。
『それってどういう意味?』
『奴はある神姫たちとの激闘の末に、討ち取られたという話しでござる』
 寂しそうに微笑むガーネット。あたしは以前リベルターの言った言葉を思い出していた。

              もう、エーアストは存在しない、と。

『で、でも、それならガーネットさんが無理をしてまで戦う必要はないんじゃないですか
?』
『そういうわけにはいかないでござるよ、ルーシィどの』
 心配そうな顔のルーシィに、ガーネットが優しく微笑む。
『確かに……エーアストたちが全て亡きものになっているのであれば、拙者も諦めがつい
たでござろう──だが、そうではなかった!』
 そこまで話し、歯を食いしばるガーネット。それはあたしが初めて見た、ガーネットの
憤怒の形相だった。その迫力に気圧されたのか、ルーシィがトロンの背中に隠れてしまう。
『確かに拙者たちの行ってきた戦いにも問題があったのかもしれない。だが、拙者たちに
もルールはあった。だが奴らは違う!圧倒的な力で他者を蹂躙するだけ。奴らをのさらば
せておくことは、拙者とお館様との戦いの日々を否定することになるでござる!』
 血を吐くように叫ぶガーネット。あたしは視線を美佐緒に向けた。
「これが、あんたがこんな所にでしゃばってきた理由なの?」
 静かに尋ねるあたしに、美佐緒は力強くうなずいた。
「はい。ガーネットは、わたしにとってかけがえのない家族ですから」
「でも……これは」
「せんぱいなら、今のわたしたちの気持ち、わかってくれますよね?」
 そう言って、屈託のない笑みをみせる美佐緒。言われるまでもなくガーネットの、そし
て美佐緒の想いはあたしにだってよくわかる。あたしは美佐緒を見ながら、特大のため息
をつく。
「まったく、むかしっから変なところで頑固なんだら……美佐緒! あんた“覚悟”はで
きてるわね?」
「はいっ!」  
 射るようなあたしの視線に臆することなく、美佐緒が首を縦に振る。
『ま、丸く収まったってとこかな? それにしても……』
 あたしたち一同を見回しながら、肩をすくめつぶやくトロン。だが、急に真顔になると
ガーネットを真っ正面から見つめる。その真剣さに、何事かとあたしたちの表情も引き締
まる。
『それにしても、以外だったね……』
『な、何がでござるか、トロンどの?』
 トロンはガーネットの頭のてっぺんから爪先まで無遠慮に眺めるとポツリとつぶやいた。
『いや、ガンちゃんって……本当に“紅緒”だったんだ?』
 緊迫しきった場が、一瞬にして爆笑の渦に包まれる。
『な、何を言ってるでござるかトロンどの。だったも何も拙者最初っから紅緒でござるよ?』
『うそつけ! セーラー〇ーンとかプリ〇ュアの格好した紅緒がいるわけないだろ?』
『いや、あれは美佐緒どのが無理矢理……』
 必死に弁解を続けるガーネット。だがトロンは『信じられん』と言わんばかりに、首を
横に振るだけだ。
 薄闇に覆われ、床にはいろんなものが散らばる店内。
 こんな状況でなんなんだけど、あたしたちは笑いを止めることができなかった。

『……あの、みなさん。なんかとても楽しそうですね?』
「はい?」



 あたしたちのインカムに聞こえてきたのは、困ったような、呆れたようなリベルターの
声だった。
             

PageTop

武装神姫 クロスロード 第33話


                 武装神姫 クロスロード

             第33話   「集結」

 全速力でDO ITまで戻ったがあと少しというところで息が続かず、あたしは足を止め
膝に手を当てあえぐように呼吸を繰り返した。
 妙だった。汗が目に入り歪んで見える建物からは一切の明かりが消え、物音一つしない。
「ま、まさか……」
 あたまを振り、脳裏に浮かんだ最悪の光景を追い払うと再び走り出す。遠目ではわから
なかったけど、正面入り口の横にあるショーウィンドーが粉々に割れ、飛び散っていた。
「やっぱりここから行くしかないわね」
 入り口に下りたシャッターを横目で見ながら、あたしは砕けたショーウィンドーから用心
深く店内をのぞき込む。黒一色かと思った店内は、非常灯のかすかな明かりに照らされ
ていた。
「みんな、行くわよ?」
 押し殺したようなあたしの声に、トロンたちがうなずく。
 床にはガラス片や様々な品物が散乱していて、店内はめちゃくちゃだった。そしてその
中に見慣れた姿があった。
「……使徒」
 そこには、フロアーに倒れ伏した数体の使徒の姿があった。間違いなくここで戦いが起
こったんだ。足下に注意しながらも先を急ぐ。
 あたしは四方に気を配ると、使徒たちの気配をつかもうと努めた。機械である神姫に気
配があるのかと尋ねられれば、答えは“YES”だった。
 確かに神姫の放つ気配は人のそれとは異なるものだった。でも、以前リューネや使徒か
ら感じたように、感情というものを与えられた神姫にも独特の気配があった。

 でも、あたしは使徒の気配にこだわりすぎたようだった。慎重に進むあたしの背後から
伸びてきた繊手に気がつくのが遅れたのだ。
 猛烈な力でいきなり背後から押さえ込まれた。なんとか逃れようとするがびくともしな
い。

                 こ、こいつ、ただ者じゃないっ!

 尋常ならぬ膂力の持ち主に、額に珠の汗が浮かぶ。

「う~~~ん。せんぱいの汗の匂いって、ス・テ・キ♪」
「…………」
 恍惚とした声が背後から聞こえ、髪に顔を押し当てられるのを感じた瞬間、あたしの身
体は反射的に動いていた。
「うおりゃぁぁぁああああああああああああッ!」
「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああッ?」
 あたしの身体が弧を描き、全力全開で美佐緒を床に叩きつける。地響きとともに天井の
照明が揺れ、埃が舞落ちる。
「こ、このバカ女! なんであんたがここにいるのよ? ……まさかこの店をこんなにし
たの、あんたの仕業じゃないでしょうね?」
 牙を剥き出し美佐緒に詰め寄るあたしの背後で、トロン、ルーシィ、リューネの三人が
『ンなわけねーだろ?』と言わんばかりに胸元で手を振っていたが、当然あたしは気づか
なかった。
「痛たたた。 ひっどぉい! わたしがそんなことするわけないじゃないですか!」
 おしりをさすりながら、頬をふくらませ美佐緒が反論する。冷静に考えればその通りな
のだが、あたまに血が上ったあたしはそこまで気が回らなかった。
「じゃあ、なんでここにいるのよ?」
「……だって、驚かそうと思ってせんぱいの家のそばで待ってたのに、いつになっても
帰ってこないから、わたし心配になって……」
 あたしの問いに美佐緒は指をくわえながら答えるが、まったく要領を得ない。
「はあ? 何それ? そんなに気になるんだったらあたし携帯に直接連絡すればいいじゃ
ない」
 でも、やっぱり美佐緒の声で話すルーシィはヤだな、とか思っていると、美佐緒の瞳が
これ以上ないほど、見開かれる。
「連絡なんかしたら、不意にせんぱいに抱きつけないじゃないですか! あ痛っ!」
 あたしは胸元でこぶしを震わせながら、頭にできた特大のこぶをさする美佐緒を睨みつ
ける。
「何考えてんのよ、馬鹿! ……ふう、まったく、ここは危険なのよ? 何があってもあ
たしから離れちゃだめよ、いい?」
『……ちょっとタンマ!』
 美佐緒の前に立ち、再び進み出そうとするあたしの動きをトロンの声がさえぎる。
「どうしたのよ、こんな時に?」
 あたしは、両手でTの字を作っているトロンにいぶかしげな顔をする。
『これってヘンだよね?』
「どこがよ? 美佐緒が変なのは、今に始まったことじゃないでしょう?」
 当然といった風に答えるあたしの背後で、「わたし、普通だもん」と、ぶつぶつ言う声
が聞こえてくる。
『いや、みさキチが変態なのはボクも知ってるよ。ボクが言いたいのは、どうしてリンが
ここに来るのをみさキチが知ってたのか? ってことなんだけど』
「あっ!」
 場の視線が美佐緒に集中する。言われてみれば確かに変だ。ひょっとしてルーシィがま
た連絡を? と思ったが、当の本人は首を横に振っている。

 えっと。てことは、この美佐緒は偽者? いや、こんな変人、アカデミー主演女優賞を
もらった俳優だって演じられるわけがない! でも言われてみれば、美佐緒がこんな所に
いるのおかしいわよね? けど、さっきあたしに抱きついた時の怪しい指の動きは美佐緒
にしかできないと思うし…………うう、何? あ、頭が、頭が割れるように痛い……

「せんぱい……どうかしたんですか?」
 ピタリと動きの止まったあたしに、美佐緒が心配そうに近寄ってくる。
「一ノ瀬ドラゴンキィ─────ック!」
「ひぃっ!?」
 うなりを上げて迫るあたしの蹴りを、美佐緒は間一髪でかわす。代わりにあたしの必殺
の一撃を受けた背後のスチール製の陳列棚が無惨にひしゃげる。
 こめかみに手をやり、激痛に顔を歪めながら、あたしはブツブツとつぶやく。
「うふふふ、そうよ。難しく考えることなんかないじゃない。ここでこいつにとどめ刺し
ときゃ、本物だろうと偽者だろうともう関係ないわよね? うん、あたしってば天☆才!」
「あ、あの、せんぱい。目が怖いんですけど?」
 恐怖に顔を引きつらせ、美佐緒は後ずさりを始める。
「大丈夫よ、美佐緒。じっとしていれば一瞬で終わるから……痛だ────ッ!?」
 天使のような(と、思う)笑みを浮かべながら拳を振り上げたあたしだが、猛烈な力で
髪を引っ張られる。
『まったく。どうしてリンはなんでも力技で解決しようとするわけ? そんなんだから、
“脳ミソまでヒッティングマッスルでできた女子高生”とか言われるんだよ』
「初耳よっ! じゃあ、あんたには他に解決の方法があるっていうの?」
 まだトロンがポニーテールにぶら下がっているため、天井に向かって怒りをぶつける。
『もちろん! ボクにお任せあれ』
 自信たっぷりにトロンは言うと、あたしの肩によじ登ってきた。
『みさキチ、これからボクの出す質問に答えてよ』
 トロンは、そこで言葉を区切る。
『正直に答えてほしい……キミの生死に関わる事だからね』
 そう言いながら、あたしを指さすトロン。美佐緒は顔中に脂汗を浮かべ、何度もうなず
いている。
『さて、問題です。 リンの今日のパンツは……』
「ゴールデン・ストライプ!」 
 トロンの声をさえぎるように美佐緒が即答する。
 ふたりはそのまま見つめあっていたが、やがてトロンはひたいの汗をぬぐいながらあた
しに微笑みかける。
『ふぅ……OK、本物だよ。 よかったね、リン』
「よくねぇ───────ッ!」 
 さわやかな笑みを浮かべるトロンに、あたしの絶叫にも似たツッコミが無人の店内に響
きわたる。
「なな、なんであんたたちがそんなこと知ってんのよ?」
 ずばりビンゴな答えに、あたしは顔を真っ赤にしながらスカートを押さえ込む。
「『それは……愛ゆえにッ!』」
 今年一番のヤな笑みを浮かべ、親指を立てるトロンと美佐緒。
『……どうでもいいですけど、あなた方、自分の置かれた状況を理解してまして?』
 切り裂くような冷たさをともなったリューネの声に、あたしはようやく冷静さを取り戻
した。
『そ、そうですよ。美佐緒さんが敵か味方って事だけで、もう三千字以上使っちゃたんで
すよ!』

  さすがのルーシィも、ちょっとご立腹の様子だ。でも、三千字ってなんのこと?

「おほん! じゃあ、話を元に戻して……美佐緒! なんであんたがここにいるわけ?」
「それは、私から説明しよう」
「おひょ!?」
 心臓が止まるかと思った。美佐緒を問い詰めようとしたとたん、いきなり蝶番が軋む音
聞こえ、壁の一部が開くと中から場違いなダンディボイスが聞こえたのだ。
「て、店長さん? 何やってるんですか、こんな所で? それにリベルターは?」
 わずかに開いた隙間から店長さんの顔が見え、あたしは胸をなで下ろし安堵する。
「いや、失礼。いきなり使徒が襲撃してきたものでね。一時的に避難していたんだ。それ
とリベルターなら心配いらない。彼女は今、二階にいる」
 暗闇の中でも不自然に白い歯をきらめかせ微笑む店長さん。聞けば、以前エーアストの
襲撃を受け店の修理をしたさい、退避用のスペースを何カ所か用意したらしい。
「それより、美佐緒をここに呼んだのって」
「すまない一ノ瀬くん。私が呼んだ」
「な、なんでそんなことをしたんですか? 美佐緒には何も関係ないじゃないですか!」
 カッとなったあたしは、隠し部屋の中に顔を突っ込んで文句を言った。あたしの剣幕に
店長さんの顔が奥に隠れてしまう。
「あ、あの店長さん。苦しいんですけど……」
 暗くて奥まで見えなかったんだけど、まだ誰かいるらしい。あえぐような声がする。
「この声……姫宮先輩?」
 恐怖の相を浮かべた店長さんの肩越しに、こっちを見ているのは姫宮先輩だった。
「いったいどうなってんのよ、これ」
「あの、せんぱい、落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるか!」
 美佐緒があたしをなだめようとするが、あたしの高ぶった気持ちは収まらない。

『すべては拙者の一存。美佐緒どのや店長どのを責めないでほしいでござる、隣どの』
 暗闇からいきなり声が聞こえた。
 驚いたあたしが目を凝らして見ていると、闇の中から深紅の人影が歩み寄ってきた。
 いつものゴシックドレスは血のように紅い武者鎧に変わり、フリル付きのリボンで纏め
られたツインテールは、あたしと同じように頭の後ろでひとつに縛られていたが、それは
間違いなくあたしの知るガーネットだった。
「ガーネット。なんであんたまでここに?」
『拙者だけではないでござるよ』
 うめくようにつぶやくあたしの声に、困ったような顔をしながらガーネットは振り返る。
 店の奥から重々しい足音が響いてきた。やがて足音は闇の中で巨大な姿を形作る。

                    『レス……P?』

     目の前に立ち止まった人影に、確認するかのようにトロンが口を開く。
 
 
              こうして、あたしたちは一同に会した。
  

PageTop
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。