神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第44話

         その音は、レスティーアの口元から漏れる歯軋りだった。
 
『私はまた、トロンの奸計にまんまとのせられたというのか? <アデッソ エ フォル
チュナー>を用いてまでこの体たらくとは、なんたるザマだ!』
 レスティーアの怒りの度合いを示すかのように、長剣を握り締めた右手は、その柄すら
握りつぶさんばかりの勢いで震えている。
「レスティーア。気持ちはわかるけど、今は目の前の相手に、トロンだけに意識を集中さ
せなさい」
 優しく包み込むような姫宮先輩の声を背中に受け、レスティーアはハッとしたように振
り返る。先輩の瞳をレスティーアは黙って見つめていたが、やがて大きくうなずくと、ト
ロンの方へと視線を戻す。
 口笛を吹きながら、右拳や膝にP・Bの予備カートリッジを装填していたトロンが、レ
スティーアの視線に気づくとニンマリと笑った。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
               第44話    「決着」
 
 それはまさに、嵐のような剣戟だった。その一振りが巻き起こす風は烈風と化し、ソウ
ルテイカーの表面を流れすぎる度に、閃光とともに深い切り傷を残していく。
 でも、トロンだってやられっぱなしではなかった。その身体に刻み込まれた傷の幾つか
は、本来なら致命的なものだったろう。しかしトロンは“一重”で確実にその攻撃を捌きな
がら、その威力は半減したとはいえ、果敢に“半歩”を使い、レスティーアの間合いを崩し
反撃の隙をうかがっている様だった。
 あたしは息を飲みながら、ふたりの動きを追っていた。バトル開始時に比べれば、確か
にスピードも威力も落ちているかもしれない。
 でも、トロンとレスティーアが受けたダメージからすれば、ふたりの攻防は脅威的ともい
えた。そして、それは周りの人たちも同じ思いなのだろう、固唾を呑んでこの戦いの行方
を見守っている。
 大気を薙ぎながら迫り来る長剣を、トロンは身を屈めてやり過ごそうとした。
 しかし、トロンの頭をかすめて通過するはずの銀線は、突如その軌道を逆落としに変え、
トロンの旋毛めがけて振り下ろされる。
 その一撃の放つ気迫のせいか、髪の毛を逆立たせながらトロンは舌打ちすると、左手を
頭上へと突き出した。
 トロンは、なんとかその攻撃を“一重”で捌くことができたが、一条の光の線と化した刀身
は、ソウルテイカーの左拳に装備されたP・Bの射出機ごと切り落とすと、なおも下方へと
流れ落ちていく。
 レスティーアの剣が、ゆるやかなラインで形作られたソウルテイカーの腕部をすべり落
ちていくと、その肘のあたりに差し掛かった時、小規模な爆発が起き、激しい衝撃が剣を
強く握り締めたレスティーアの両腕を襲った。
 それがP・Bによるもとレスティーアが気づいた時には、トロンはレスティーア目掛けて
いきなり右手を突き出す。いぶかしげに見守るレスティーアのまえで、トロンの右肘の
パーツが百八十度回転すると、いきなり鋭いガス音とともにパーツの先端から発生したビ
ームソードがレスティーアめがけて射出される。
 だが、ほとんど距離がないのにもかかわらず、レスティーアは自分の腹部めがけて唸り
をあげて飛来するビームソードを間一髪で身を捻ってかわすが、代わりに彼女の腰に括り
付けてあった鞘が、乾いた音を立てて弾き飛ばされる。
 背後に向かって飛び去るビームソードを横目で見ながら、視線を前へと戻すレスティー
ア。トロンの右肘から一本のワイヤーが伸び、それを右肘のパーツが猛烈な勢いで巻き戻
しているのに気づくとハッとした表情になる。
「あれって、アンカーガン?」
 全体的にひとつに纏まった感じのするソウルテイカーだったけど、取って付けたような両肘
のパーツ。ビームソードの発生器にしては大きすぎると思っていたけど、まさかアンカーガン
としての機能まで持っていたなんて。
 あたしは狐姫との戦いを思い出し、トロンが今度はレスティーアに看板でもぶつけるつもり
なのかと思っていたが、ビームソードはレスティーアの背後にあるビルの壁面に深々と食い
込み、いくら引っ張ろうがピクリとも動きそうになかった。
 そして、かわりに他のモノが動いた。
『うおりゃああああッ!』
 トロンはワイヤーに引っ張りあげられると、不自然な体勢のまま、ものすごい勢いでレス
ティーアめがけて頭から突っ込んでいく。どちらかというとトロンの迫力に気圧されたレス
ティーアは咄嗟に対応が遅れ、もろにトロンの体当たりを受けてしまい、ふたりはもんどり
打って倒れこんでしまう。
『くそ。この期に及んで往生際の悪いッ!』
 アスファルトの上を転げまわりながら忌々しそうなつぶやき、トロンを押さえ込もうとする
レスティーア。トロンはそれを足で押し返そうと、悪戦苦闘している。
『クッ! お、往生際が悪いのがボクのチャームポイントだって、わ、忘れちゃった?』
 そのままふたりしてもつれ合ったまま、しばらく転がり続けていたが、鉄筋の剥き出し
になった建物にぶつかり、ようやく動きを止める。
 自分に切り掛かろうとするレスティーアの両腕をなんとか押さえ込もうと、必死になり
ながら背後の壁にしこたま頭を打ち付けたトロンが、目の端に涙を浮べながらレスティー
アに話しかける。
『痛ぅ~。それにさあ、切り札はギリギリまで隠してこそ、その威力も上がるんだよ。知
らなかった、レスP?』
 トロンはそこまで話すと、一点を見つめながら静かに微笑んだ。
 レスティーアは、カラカラに乾いた喉を少しでも潤すようにつばを飲み込むと、トロン
の視線の先を追った。自分の腹に押し当てられた、トロンの踵を……
 次の瞬間、レスティーアの腹部で破裂音が響き、猛烈な勢いで後ろに吹き飛ばされてし
まう。
「なっ、これってダブルフェイク? トロンのヤツ、最初っからこれを狙って……」
 あたしは、地面に横たわったままのレスティーアを黙って見やるトロンに、心の中で絶
句していた。
 
 トロンは、最初にレスティーアと接触した時、ワザと踵にP・Bがあるように振る舞い、
逆に彼女の油断を誘ったんだ。ソウルテイカーの踵に仕込まれたP・Bで、確実にレステ
ィーアにクリティカルダメージを与えるために……
 
『くそっ! ダメか……』
 悔しそうにつぶやくトロンの声に、あたしはトロンが何を言っているのか理解できなか
った。でも、トロンが睨みつける視線の先で、薄く白煙をあげる腹部に手を当てながら、
ゆっくりとレスティーアが身を起こすのを見て、あたしは思わず息を呑んでしまった。
 トロンの口調からも、さっきの攻撃は、起死回生の一撃とはならなかったかもしれない。
しかし、スクリーンに映し出されたレスティーアのL・Pの残量から見ても、今の攻撃が
彼女に少なからぬダメージを与えたのは間違いなかった。
 それでもレスティーアは、そんなことを感じさせず毅然とした態度のままだ。
 でも、それはトロンだって同じだった。レスティーアのあれだけの猛攻にも耐え抜き、
彼女の奥の手である<アデッソ エ フォルチュナー>に全身を焼かれながらも、身体を
襲っているであろう激痛を、おくびにも出そうとしない。
 もう、あたしにはわかっていた。ふたりは心身ともに限界を迎えており、この戦いが終
わりを迎えようとしていることに。
 あたしたちが見守るなか、レスティーアは静かに立ち上がると、真正面からトロンの金
色の瞳を見据える。
 その碧眼に、どれほど怒りの炎が渦巻いているのか、あたしは気が気じゃなかったけど、
レスティーアの双眼は驚くほど澄んでいた。
『トロン……私は貴様のような神姫と戦えることを、誇りに思う』
 レスティーアの唇が紡いだ言葉は、さらにあたしを唖然とさせた。
『……へぇ~。こりゃあ、ビックリだ……』
 トロンは呆けたような顔をしていたが、しばらくして、ようやくポツリとつぶやいた。
 レスティーアは、トロンのさも意外だと言わんばかりの口調に自分でもらしくないと思
ったのか、苦笑しながら目を伏せてしまう。
 でもその表情は、次にトロンの口をついて出た言葉に驚きのソレに変わる。
『はじめてだね。レスPと意見が合ったのはさ』
 レスティーア同様、トロンの言葉に驚きを隠せなかったあたしが、アングリと口を開け
たまま声の主を見つめていると、さすがにトロンも照れくさかったのか、咳払いをしなが
らレスティーアの方に向き直った。
『さて、お互いもう限界みたいだし、そろそろ決着つけようか?』
 晴々とした表情でそう話しかけるトロンに、レスティーアは静かにうなずいた。
 そして、あたしたちが固唾を呑んで見守るなか、トロンとレスティーアはどちらからと
もなく動いた。
 
                 黒き風と、蒼き風となって……
 
 あたしには……ううん。多分、この戦いを声もなく見つめ続ける人たち全てが気づいて
いるはずだった。
 もう余力の残ってないふたりにとって、これが最後の一撃になることを。
 そして、互いに攻撃を繰り出し、最後に立っていた者こそ、この戦いの勝者だというこ
とを。
 
『イエェェェ────────ッ!』
 レスティーアが、大上段へと振りかぶった長剣を、裂帛の掛け声とともにトロンの頭め
がけて一気に叩き付ける。
 だが、トロンは取り乱すことなく金色の双眼で、自分めがけて振り下ろされる銀光を睨
みつけていた。そして、その必殺の刃がトロンを切り裂く寸前、黒い影が音もなくレステ
ィーアの長剣へと伸びた。
『何ッ!?』
「そんな……」
 あたしとレスティーア。それぞれの口から漏れた言葉はまったく違えど、驚きに彩られ
ているという意味では同じだった。
 レスティーアの長剣は、天空に向け敬虔な祈りを捧げるように組み合わされたトロンの
両の手のひらに挟み込まれ、その動きを止めていた。
 
                     ── 白刃取り ──
 
 護身の武術にとって、奥義のひとつでもある真剣白刃取り。あたしは教えた覚えもない
その技で、トロンがレスティーアの渾身の一撃を止めた事に驚いていると、突然、組み合
わされたトロンの手のひらから強烈な閃光が漏れた。
 それが掌に仕込まれたP・Bによるものだとあたしが気づいた時には、レスティーアの
長剣は中程から折れ、その刀身が中天へと舞い上がる。
 
 攻守逆転! トロンは解き放たれた黒い矢と化して、レスティーアめがけて一気に突き
進む。レスティーアは咄嗟に腰に手を回すが、そこにあるべき鞘はなかった。
 
 凍りついたレスティーアを見ながら、トロンの口元に会心の笑みが浮かぶ。
 
          『うおおぉぉおァァああアア────ッ!』
 
その絶叫にも似た雄叫びは、トロンがレスティーアと初めて戦った時にあげたものと、
まったく同じだった。
 そして、トロンの総てを込めた黒い拳が、自分の身体に吸い込まれるのを静かに見つめ
ていたレスティーアは、そっと目を閉じた。
 
 
 
              その口元に、満足そうな笑みを浮べたまま……
              
 
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