神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第1話

                     プロローグ

 
                    「ナイトメア」

『……ありがとう、カノン』
 巨大な長剣に身を預け、眠っているかのように身動き一つしない彼女のそばにしゃがみ
込むと、私は小さくつぶやいた。
 みだれた銀髪に隠れてその表情はわからなかったけど、わずかに見える口元には満足そ
うな笑みが浮かんでいた。

『あなたたちのおかげで……ようやく終わったわ』
『ですが、そのために失ったものは、あまりにも大きいのではなくて?』
 私のすぐそばから、苦渋に満ちた声が聞こえてきた。
『この戦い、確かにわたくしたちの勝ちなのかもしれない。でも……やり切れませんわ』
声の主は、頬にかかる輝く金髪を掃おうともせずつぶやくと、一点を見つめている。
 その視線の先には、鈍い光を放つ黒い甲冑に身を包んだサイフォスが、地面に膝をつき
微かに身体を震わせ泣いていた。
彼女の腕に抱かれた長剣に、無数の涙が零れ落ちる。

 だが、悲しみに包まれていたのは彼女だけではなかった。神姫をパートナーと認め、苦
楽をともに分かち合った人間たちもまた、同じ悲しみに包まれていた。

         自分の神姫を抱きしめ、声をあげて泣く人……

      無駄と知りながらも、何度も自分の神姫の名を呼び続ける人……

           ここには、悲しみ以外の何もなかった。


やり切れない気持ちになり、思わず逸らした視線の先で、あの人と目があった。
その表情はミラーグラスに隠れてわからなかったけど、こんな事件に巻き込んでしまっ
たというのに、あの人はただ黙って肯いてくれた。
 微かに微笑み返し、戦場となった店の中央を振り返る私の瞳に、巨大な残骸が映しだ
された。
かつては、その巨躯と驚異的な力でこの場を圧倒していた彼女も、無数の白煙をその身
からたなびかせ、いまは物言わぬ存在と化している。


          かつての私の仲間……ううん、私の“妹”。


 天に向かって千切れることもなく昇り続ける白煙は、この凄惨な戦いの犠牲になった者
すべての魂をやさしく包み、天界へといざなう道標にみえた。



         その時、私の頬をひとすじの涙が伝わり落ちた……
          
                      ※







“ 男勝りで血の気が多く、イノシシみたいに前しか見えてない乱暴な女の子

         でも、世界でただひとりのボクのマスター

 これは、ちょっぴりキレやすい1人の少女と、そんな彼女のことが大好きでたまらない
心優しい12人のストラーフたちの物語 ”





『……やっぱりサ、タイトルは“わんだふる神姫ライフ ~ リピュア ~”がいいと思
うんだけド……どう思ウ、リン?』
「……いや、いきなりタイトルがどうとか言われても……っていうか、イノシシみたいな
女って誰のことよ?」
 あたしは、制服の胸ポケットから聞こえてきた意味不明な問いに、眉をひそめてツッコ
んだ。

                 武装神姫 クロスロード

             第1話 「流れゆく(非)日常」

『アレ? タイトル変わってるヨ……』
「だから何の話よ?」
 眠そうな顔をしながら上を向き、不満気な声を上げるトロンに、あたしも釣られて視線
を空へと向ける。
 あたしの目に飛び込んできたのは、抜けるような真っ青な空と、ゆっくりと流れる白い
雲以外、別に何もなかった。

 でも、本当にいい天気だった。のんびりと過ぎていく午後のひととき。ときより優しく
頬をなでる風は暖かく、こうしているだけで不思議と心が安らぐ。
「……何やってんだ、隣?」
 そのままの姿勢で道の真ん中に突っ立ってボ~ッと空を見上げていたあたしは、いきな
り名を呼ばれ我に返った。声の方に振り向くと、目の前に不思議……というか、不信そう
な顔をした少女がふたり立っていた。
「えっ? あっ、陽子、唯。 いや~、あんまりいい天気なもんで……つい、ね」
 あたしと同じ制服に身を包んだふたりの女生徒は、クラスメートの佐山陽子と秋野唯だ
った。最近になって、ようやく名前で呼びあえるほど打ち解けた親友を前に、取り繕うよ
うに慌てて手を振ると、陽子が視線を空へと向けた。
「ま、確かに今日はいい天気だよな。授業も終わったし──格別だな!」
「そうね。ほんとうにきれい」
 大きく深呼吸しながら伸びをする陽子。唯も微笑みながら、ゆったりとした動きで空を
見上げる。そんなふたりを見ていたあたしも、再び流れる雲を目で追い始めた。

 どれぐらい時間が過ぎたのだろう。
 あたしたち三人は、背中に浴びせられた、けたたましい音をたてるクラクションの音色
で我に返った。
「あ、あぶねぇ。あやうく、あのお空に逝っちまうとこだったぜ」
「……」
「うん。ちょっとヤバかったかも」
 壁にぺたりと張り付きながらつぶやく陽子。いつもはおっとりとしてるくせに、脱兎の
勢いで逃げ出した唯も、今は放心したように路上に座り込んでいる。
 あたしも通り過ぎていく軽自動車を横目で見ながら額の汗をぬぐう。だが、なぜかあた
しと目があった運転手は真っ青になると、猛烈なホイールスピンとともに車を急発進させ
始めた。
「なんだ、ありゃあ?」
「さあ、急いでるんじゃないの? それにしても乱暴な運転ねぇ」
 あたしたちの疑惑のまなざしを背に、蛇行しながら車は猛スピードで去って行く。
『まったく、三人雁首そろえて何やってんだよ?』
『そうです。みなさんの行った行動は、一般常識かつ道交法的に見ても自殺行為です!』
 突然あたしの耳朶をうった非難の声に、苦笑しながら陽子と唯の方に目をやる。
 陽子たちの制服の胸ポケットからあたしたちをにらんでいたのは二体の神姫だった。
「あはは。ごめん。黒姫、キャロ」
 照れ隠しに頭をかきながら、陽子の神姫、ストラーフMk・2の黒姫と、唯の神姫、ア
ーンヴァルMk・2のキャロに、あたしは謝った。
 もともと神姫を持っていなかったふたりだが、トロンとレスティーアの戦いに感銘を受
けたらしく、ついに神姫の購入に踏み切ったらしい。
「それにしてもねぇ」
 あたしはあごに手を当て、物思いにふける。
 陽子たちの神姫は、Front Line社の最新モデルであり、その人気は尋常では
なく常に品薄の神姫だった。かくゆうあたしも、目の前で動いているのを見るのは初めて
だったりした。
 どんな非合法な手段を使って手に入れたのか? と聞いてみると、ふたりでこの神姫の
発売日の前日から店の前に並びクジで当選を決めた結果、見事最新型の神姫をGETした
と陽子はムッしながら教えてくれた。
『な、なんだよ隣、その顔は?』
 当人たちを見ながら考え込んでいたあたしは、黒姫の声で我に返った。
『そ、そうです。論理的かつ倫理的に検討しても、私たちに非はありません! でも、暴
力反対です……』
 唯のポケットから目だけのぞかせ、キャロも相づちをうつ。
「へ? 何よ、急に?」
 あきらかにおびえているふたりを見比べながら、あたしは眉間にしわを寄せる。
「大丈夫よ、キャロ。隣ちゃんは怒ってなんかいないわ。それが証拠に……隣ちゃんが本
気で怒ったら、ここら辺一帯はいまごろ血の海になってるわ」
 そう言いながら、唯はキャロの頭をやさしくなでる。


            ねえ、唯。……今の、フォロー?


「そうだぞ黒姫。隣はガサツで目つき悪ぃから、いつもメンチ切ってるように見えるだけ
だ、気にすんな!」
 陽子は黒姫の頭をぽんぽん叩きながら、陽気な口調で話しかける。

 
            陽子にガサツとか言われたくないかな?


『……なあ、隣。ところでトロンのヤツ、あのままでいいのか?』
『そうです、隣さん。可及的かつ速やかな対応を希望します』
 あたしが怒りに身体を震わせながら、心の中でツッコんでいると、いくぶん落ちついた
黒姫とキャロが遠慮がちに話しかけてくる。
「へ? トロン?」
 ふたりがピンポイントで指さす先に視線を向けると、暴走車にはね飛ばされたのか、は
たまたあたしが無意識に投げ飛ばしてしまったのか、目の前の塀に、トロンが見事なくら
い垂直に突き刺さっていた。
「ちょ、ちょっとトロン。大丈夫?」
 慌てて駆け寄るあたしに、くぐもった声が応じる。
『まるで車に跳ね飛ばされてテ、そのまま塀に頭から突っ込んだみたいに身体中が痛いヨ
……』
 ツッコミどころ満載なトロンの状況説明に、反射的にいつもの対応をしそうになったが、
ぐっとこらえる。
「もう少しがまんして、すぐに助けてあげるから!」
 あたしは、塀から生えているトロンの両足を鷲づかみにすると塀に片足をかけ、力のか
ぎり引っ張った。
『痛だだだだだダッ!? ちョ、リンッ、痛いっテ!』
「お、おい! 隣?」
「落ち着いて、隣ちゃん!」
 あまりに無鉄砲なあたしのレスキュー活動に、陽子と唯が慌てて止めにはいるが、かえ
ってあたしを勢いづかせるだけだった。
「ぬおりゃぁぁぁああああああっ!!」
渾身の力をこめてトロンを引っ張っていると、スポンッという音とともに、急に腕が軽
くなり、あたしは後ろに向かって倒れ込む。
 まったく無防備のままひっくり返ったが、とっさに受け身をとったおかげで大事にはい
たらなかったみたいだ。
「痛たた。 だ、大丈夫、トロン?」
『う~ン。……なんカ、まだ目の前がまっくらなんだけド……』
 腰をさすりながら手元に話しかけるが、なぜか返事は塀の方から聞こえる。いぶかしげ
にトロンに目を向けると、あるべきはずの頭が、きれいさっぱり消えていた。

「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああっ!?」

 あたしのはた迷惑な絶叫が、閑静な住宅街に響きわたった。

                      ※

 パニック状態になりながら塀からトロンの頭を取り出したが、どうしていいかわからず
おろおろしていると、トロンはやおらあたしの手から頭を奪い取り、何事もなかったかの
ように自分の身体にあてがった。
「ほ、ほんとに大丈夫なの?」
 あたしは狼狽しながら、目の前で頭を左右に動かし、位置の調整を続けるトロンに恐る
恐る尋ねた。
『まあネ。神姫だったラ、これぐらいのことはお茶の子さいさいサ!』
 根拠不明の、自身に満ちた笑みを見せるトロン。
 視界の端に映ったキャロと黒姫の表情から、こんな芸当ができるのはマイ神姫だけだと
すぐに悟ったが、あたしはとりあえず胸をなで下ろした。
「お前、ホントにスゲぇな?」
 半ば呆れ、半ば感心するような口調で陽子が話しかける。
『まあネ、ボクはすべての神姫の頂点に君臨する存在だかラ……あレ?』
 身体をそっくり返し、自信満々に答えるトロンだが、次の瞬間、頭がボトリと地面に落
ちる。
「とととと、隣ちゃん、これやっぱりダメだよ! すぐにトロンをDO ITに連れてい
った方がいいよ!」
 ふるえる声でトロンを指さし、青ざめた顔で話しかけてくる唯の言葉を耳にしたとたん、
トロンを両手で抱き抱えると全力で走り出した。
 後ろで陽子と唯の声が聞こえたが、あたしの耳にはまるで届いてはいなかった。
             
                     ※

 自動ドアを突き破らんばかりのいきおいで、あたしはDO ITの店内に突入する。
「どいて、どいて、どいて……って、そこどけ─────ッ!!」
 がむしゃらに突っ走るあたしに気づき、店内がいっきょにざわめく。頭やら肩にやわら
かいモノがぶつかるが、今のあたしには気にしている余裕はなかった。
「よう! 一ノ瀬ちゃんじゃねえか。どうした、そんなに急い──ぐはっ!?」
 なんか桜庭さんの声が聞こえたような気がしたが、頭にめり込む肉の感触が消えると同
時に大質量の物体が背後に流れ、桜庭さんの蛮声もとだえてしまう。

 後に、この光景を目撃していた人々(神姫込み)が口をそろえて、「まるで、〇った猪
みたいだった!」と、回想するあたしの爆走は、一階奥にあるメンテナンスコーナーにた
どり着くことで終わりを迎えるはずだった。
『あっ、隣さ……って、い、いやぁああああああッ!?』
 カウンターの上で、帳簿のようなものになにやら書き込んでいたリベルターが気配に気
づき顔を上げるが、カウンターに激突せんばかりの勢いで迫るあたしと目が合うや、恐怖
に顔を引きつらせ、魂をかき消すような悲鳴をあげながら逃走を始めてしまう。
「待てえぇぇえええぃっ! 逃げるなぁぁああああああっ!!」
『ひぃいいいいいいいっ! 喰べられるぅううううううっ!!』
「だれが、喰うかぁぁぁああああああああああああああっ!!」
 意味不明な言葉を叫びながら、なおも逃げるリベルター。しばらくカウンターをはさん
で併走していたが、リベルターの姿がカウンターの後ろに消えるのを見るや、あたしも一
足飛びにカウンターを飛び越える。

 後に、この光景を目撃していた人々(もちろん、神姫込み)が口をそろえて、「まるで、
獲物に襲いかかる〇った人喰い虎みたいだった!」と回想するが、今のあたしにはどうで
もいいことだった。
 カウンターの裏側で、頭を抱えガタガタと震えているリベルターを見つけると、あたし
は電光石火の速さでリベルターを鷲掴みにし、渾身の力を込めて頭上高く掲げた。
『ぐ、ぐぐぐ、ぐる…ちぃ……』
「リ、リベルターッ! お、お願い、トロンをなんとかして。急いでっ! 今すぐっ!!
ハリーアップッ!!!」

 みるみるドス黒くなるリベルターの顔を見ながら、あたしは涙ながらに懇願した。
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コメント


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始まりましたね!!新章♪新たな顔ぶれ&さらにスピード感のある描写で、休憩中に夢中で読んでしまいましたwこれからの展開、楽しみにしております♪(*^^*)

maki. | URL | 2013-05-18(Sat)13:39 [編集]


相変わらずの良い感じのオチも付きつつ第2部が始まりましたね~

相変わらずマイペースのトロンと、誰もが認める凶相の持ち主隣さんの漫才は健在ですなw
ついに、隣さんの親友達も神姫を入手し、新しいストーリーも進んでいくんでしょうなぁ。
プロローグ部分の過去の話が、どの様に本編と絡んでくるのかも気になりますし、シリアス面が何処まで出て来るのかも気になりますが、今後も楽しみに待たせて頂きます。

では、良い神姫ライフを~ (´・ω・`)ノシ

ASUR・A | URL | 2013-05-19(Sun)16:10 [編集]


>makiさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

極力数を抑えた第一部でしたが、第二部では少々話が大きくなるため、登場人物が増える予定です。

スピード感というか暴走に近いような気がしますが(笑)、とにかく勢いにませて突っ走っていきたいと思います!
時間があれば、また休憩中にでも読んでください。

makiさんのSSも楽しみにしております!!

シロ | URL | 2013-05-19(Sun)20:11 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

多少、書き溜めることができましたので、ようやく第二部スタートです。

なんだか、隣の(チャームポイントである)凶相っぷりばかり際立った話になってしまいました……。
読み返してみると、もうメチャクチャですね(笑)。
登場人物もぐっと増え、話の内容も(少々)大きくなる予定ですが、またしばらくお付き合いいただければ、と思います。

プロローグは過去の話ですが、登場人物(神姫)たちはそのまま二部に登場予定です。

ストーリー上、シリアスな展開は必須なのですが、ギャグ専門の私にそこらへんを描き切れるかがこのSSの一つのヤマでしょうね(笑)。

シロ | URL | 2013-05-19(Sun)20:34 [編集]


ついに新章突入!

以前ちらっと仰っていたとおり、レスPさんたちの過去もだんだん明らかに。

またまた目が離せませんね。

それにしても、トロン殿は相変わらずですなーw

初瀬那珂 | URL | 2013-05-21(Tue)01:35 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

ながらく(?)おまたせしましたが、新章突入です。
登場人物たちの過去や、まきちらかした伏線も徐々にあきらかになっていく予定ですので、またしばらくお付き合いいただければ幸いです。

ええ、トロンは相変わらずです。でも、この先こんなもんじゃないですよ(ニヤリ)。

シロ | URL | 2013-05-22(Wed)07:01 [編集]