神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第2話

               武装神姫 クロスロード

         第2話 「一列に並んで 歯ァ喰いしばれ!」  

「ほんとうに、すみませんでした!」
 膝にひたいがぶつかりそうな勢いで頭を下げるあたしに、店長さんは慌てたように話し
かけてくる。
「もういい、事情は聞いた。一ノ瀬君が取り乱すのも無理はないさ。さっ、もう頭を上げ
るんだ」
 労るような店長さんの口調に、あたしはしばらくためらっいていたが、やがて渋々とし
たがった。
「ほんとうにごめんね、リベルター」
 メンテナンスルームにある、神姫用の作業台に横たわるリベルターに、あたしはシュン
としながらあやまった。リベルターは、ギクシャクとした動きでこちらを向くと、乾いた笑いを
浮かべながら親指をビッと立ててくれた。
「あの、それで……」
「トロンくんの事だね?」
 あたしがおずおずとうなずくと、店長さんは白い歯に室内の照明を反射させながら微笑
んだ。
「トロンくんの身体を調べてみたが、これといって異常は見あたらないようだね」
「そう…ですか…あれっ?」
 トロンの無事を確認し、気が緩んだんだろうか、あたしはペタンと床に座り込んでしま
った。すぐに立ち上がろうとするが、まるで足に力が入らない。駆け寄ってきた店長さん
はあたしを抱き上げると、そばにあったイスに座らせてくれた。
「ご、ごめんなさい。なんか、気が抜けちゃったみたいで」
『隣さん……』
 照れ笑いを浮かべるあたしを、慌てて起きあがったリベルターが慈しむようなまなざし
で見つめている。
「ほんとうに、よかった。……でも」
 安堵とともにため息をつくあたしだったが、一つの疑問が鎌首をもたげかける。
「あ、あの、店長さん。一つ聞いてもいいかですか?」
「んっ、何かな? あらたまって」
「はあ。その、神姫って頭がなくても動くものなんですか?」
 あたしの問いに口ごもる店長さん。その横で、顔がブレてみえるほど首を横に降り続け
るリベルターを見るまでもなく、答えは決まっているのだろう。
「いや、さすがにそれは無理だろうね」
「だったら……」
 苦笑を浮かべる店長さんに納得できなかったが、あたしの心情を察してくれたのか、両
手をあげてあたしの問いを遮る。
「一ノ瀬くんの言いたいことはわかるつもりだ。だがこれは、トロンくんの出自に関係する
ことなんだ」
「あっ!」
 店長さんのつぶやきに、あたしは両手で口を覆う。


 そう、トロンは少し変わった経緯でこの世に生を受けた神姫だった。もともとは、悪魔型
の神姫ストラーフの評価試験用に製造された内の一体であり、ある事件がきっかけで半
身を失うほどの傷を負ってしまったのだ。
 そして、店長さんが修理を引き受け、後にDO ITの店頭にユーズド品として並び、あたし
と出会ったんだ。

「トロンくんは、神姫の“可能性”を模索されるために創られた存在だ。あるいは今回の現
象も、神姫の身体構造の柔軟さを試すために追加された機能なのかもしれないね……ん、
どうかしたのかい、一ノ瀬くん?」」
 急に押し黙ったあたしに、店長さんの心配そうな声が投げかけられる。
「あ、あはっ、あはははははははははははははははっ!」
「い、一ノ瀬くん?」
 突如室内に響きわたるあたしの笑い声に、店長さんが青ざめる。


 こ、こんな黒〇危機一髪みたいな能力を、トロンに与えたFront Lineの関係者各位! 
一列に並んで歯ァくいしばれッ!!


 あたしは、顔すら知らないFront Lineのみなさんに、怒りに身体を震わせながら
ツッコんだ。

「あっ!?」
 いまだに納得ができなかったが、とりあえず今日のところはトロンを連れて帰ってよし、
と店長さんからお墨付きをもらい会計をすませようとしてあたしは青ざめた。

              サイフはカバンの中だ!

 どうしようかと途方に暮れていると、いきなり肩をつかまれた。
「ぜぇ、ぜぇ……ほら、忘れ…もの…だ!」
 慌てて振り向くと、あたしを心配して後を追ってきてくれたのだろう。フルマラソンを
三セットぐらい完走したような顔をした陽子が、息も絶え絶えに立っていた。
「陽子、ありがとう……あれ? そういえば唯は?」
 目の前に突き出されたカバンを受け取り、サイフを取り出そうとごそごそやりだしたあ
たしは、いつも陽子に寄り添うように一緒にいる唯の姿が見えないことに気づき尋ねた。
 無言で一点を指す陽子。その指先をたどっていくと、入り口のあたりにもたれかかり、
ぐったりとした唯が店員さんに介抱されていた。

                      ※

「ごめんなさい、桜庭さん!」
 きっかり九十度の角度で頭を下げ、あたしは桜庭さんにあやまった。
「まっ、理由が理由だ。しょうがねぇさ」
 昨日の記憶がよみがえったのだろうか、桜庭さんはおなかをさすりながら苦笑する。
 暴走機関車と化したあたしがDO ITの店内を爆走した翌日。休日の朝一番からあた
しは再び店を訪れていた。理由はひとつ、あたしの暴走に巻き込まれた人たちに謝る
ためだった。
 とりあえず、あたしの姿を見たとたん、恐怖に顔を歪め足早に去っていく人は当事者と
判断し、無理矢理とっ捕まえひたすら謝った。
 こうして店内を一通り徘徊していたら、桜庭さんに会ったという次第だった。

『しかし、まっことすごい迫力じゃったのう。わらわはトナリに喰われるかと思ったぞよ』
 昨日の記憶がよみがえったのか、青ざめた顔で狐姫が話しかけてくる。
「あ、あははは、いやだなぁ狐姫ったら。そんなことするハズないじゃない?」
 あたしの乾いた笑い声に、狐姫は疑い深そうなまなざしを送るだけだった。
            
                     ※

「はぁ~~~!」
 桜庭さんと別れ、休憩所のソファーにもたれかかるように座り込んだあたしは、大きな
ため息を吐く。
テーブルに投げ出したバッグの中からは、世にも脳天気ないびきが聞こえる。あたしはも
う一度ため息をつきそうになったが、いきなり目の前に、缶コーヒーが差し出された。
「?」
 顔を上げると、見慣れた顔がふたつ、あたしを見下ろしている。
「ふたりとも……昨日はごめんね」
 陽子は苦笑いを浮かべながら、あたしの向かいのソファーに腰をおろす。唯もあたしに
缶コーヒーを手渡すと、陽子の横に腰掛けた。
「まったく、えれぇ目にあったぜ。それにしてもお前、ほんとに足速ぇのな。まるでダチョウ
みたいだったぞ?」
「あはは、いやだなぁ陽子ったら……もう少し雅な例えはないのかな?」
 散々ふたりに迷惑かけたのはあたしだし。そう考えながら拳とひたいに血管を浮かび上
がらせながらあたしは耐えるが、唇が耳元にめくれ上がっていくのを押さえることができ
ない。
「で、でも、良かったよね。トロンもなんともなくて」
 あたしの殺気を肌で感じたのか、全身にトリハダを浮かべながら、唯が話しかけてくる。
「それに、わたし心配しちゃったんだよ?」
「えっ、何が?」
「だって、昨日の今日でしょう? お店にきたら、“一ノ瀬さん、お断り!”みたいな張り紙
でもあったらどうしようかと思って……」
「ぶははっ! そりゃあ、あり得る話だな。 隣、お前店長さんの温情に感謝しねぇとな
?」
『う~ン。うるさいなァ!』
 文字通り、腹を抱えて笑いだした陽子の大声に、バッグの中から不満そうなトロンが顔
を出す。寝ぼけ悪魔と目があったとたん、何を思ったのか、陽子が急に真面目な顔になる。
「……なんともないのか?」
おそらく陽子は、昨日のことを言っているんだろう。

 まあ、首が取れても平然としている神姫なんて、誰が見てもおなじリアクションをとる
だろうし……

『フッ、何を隠そウ、ボクはミッドチルダの英知の結晶だからネ』
「……いや、そんなトンデモ設定、初耳だし……」
 鼻高々に(実際はめり込んでるけど)自慢話を始めたトロンに、あたしは脱力感に苛ま
れながらも、義務としてツッコんだ。
『それだけ元気なら、今日こそおれとバトルしようぜ、トロン!』
『そうです! 神姫としての本能かつ、燃える野獣のような闘争本能の赴くまま、トロン
に対戦を希望します!』
 テーブルの上に軽やかに降り立ちながら、黒姫がトロンを指さす。その後ろでは、キャ
ロも鼻息荒くうなずいている。
 トロンは、そんなふたりを眠そうな顔で黙って見上げているだけだった。
 事の成り行きを黙って見ていたあたしだが、次にトロンの口から紡がれる言葉を知って
いた。

                  答えは“NO”だ。

 レスティーアとの再戦が終わった後、トロンは一切バトルに興味を失ってしまったのだ。
しかし、あの激闘の後、 DO IT内でのトロンの評価はかなり上がったようだった。
後日、DO ITで行われたトーナメントにおいて、レスティーアが狐姫やタイガといった神姫
たちを抑え、見事優勝を納めたことがよけいにトロンの株を上げる結果となってしまった
みたいだった。
 そのため、噂を聞きトロンに対戦を希望してくる神姫はかなりの数に登ったが、そのた
びに、『ウッ、持病の癪ガ!』とか『いま喪中だかラ』と、のらりくらりと逃げ回っている毎日
だった。
 そんなトロンの態度に一番腹を立てていたのは陽子だった。もともと神姫に興味を持っ
ていた陽子だが、思い切って神姫を買った理由はトロンとレスティーアのバトルに触発さ
れたからだった。
 唯はそんな事を考えてはいなかったろう。でも、いつか自分の神姫をトロンと戦わせて
みたい。それが陽子の願望だった。それなのに、肝心のトロンがまったくとりあおうとし
ないのだ。
 トロンのそんな態度に、陽子はあたしに何とかするようにと言ってきたが、あたしは、
本人に戦う意志がない以上強要はできない、と陽子をなだめすかすことしかできなかった。

             でも、あたしは気づいていた。

 トロンは待っているんだ。レスティーアが再び自分に挑戦してくるのを……

 まるでバトルに興味を無くしてしまったかのようなトロンだが、あたしのパソコンに残
っているトレーニングプログラムの履歴を見てみれば、あいつの真意はあきらかだった。

              だからこそトロンは……

『ン~、そうだなァ。今ヒマだシ……マ、いっカ』
「へっ?」


     寝ぼけ悪魔の口からでた言葉は、あたしの予想を裏切るものだった。
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