神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第3話

   
                武装神姫 クロスロード

           第3話    「再始動?」

「ちょ、ちょっとトロン、いいの? あんた……」
「マジかトロン? いよっしゃあ────っ!」
 あたしの言葉を遮るように、陽子がガッツポーズをとりながら背後を振り向く。
「トロンが心変わりしないうちにバトルの用意だ。黒姫!」
『おう、まかせとけ陽子!』
「ちょっと、ふたりとも──きゃあっ?」
 やる気満々の陽子たち。間に入ってふたりを落ち着かせようとした唯の襟首を掴むと、
有無を言わせず二階へと続くエスカレーターに向かっていく。キャロが慌ててみんなの後
を追う。
「……どういう心境の変化よ?」
 ズルズルと引きずられていく唯を見送りながら、あたしはトロンに話しかける。
『別二。 暇つぶしにはいいかナ、と思っただけサ』
「……あんたがそう言うならあたしはかまわないけど……ところで武装はどうする気よ? 
素手で闘る気なの?」
 トロンに何か魂胆があるのは見え見えだが、あたしはあえて現実的な問題の方を提示し
てみた。
『あア、その事? ソウルテイカーならリンのバッグに入ってるヨ』
 気にした様子もみせず、シレッと答えるトロン。慌ててバッグの中を探してみると、ソ
ウルテイカーをおさめた小さなケースが顔をのぞかせる。
「あんた、いつの間に……」
『さァ、あんまり挑戦者を待たせても悪いしネ、そろそろ行こうヨ』
 あたしの問いに答えることなく二階を指さすトロン。あたしは陽子たちを追って歩きだ
した。
                      ※

 トロンが最後ここでに戦ってから、まだひと月くらいしかたっていなかった。それなの
に、シュミレーターのあるフロアーに来るのはずいぶんひさしぶりな気がした。

そんなことを考えながら、二階に一歩足を踏み入れたとたん、周りの空気が一変する。
まるであたしを取り囲むようにできた人の輪に眉を寄せるが、しばらくすると、かすかな
ささやき声が聞こえてきた。

「おい、来たぞ!」
「あの娘が噂の?」
「ああ。あの小柄な身体。ここに来る前に、軽く人ひとり殺ってきました、と言わんばか
りの鋭い目! 間違いない。伝説の“ランドセルの似合う女子高生”……ひっ!?」




   ─── なんなら、お前等も始末してやろうか? ───



 本職の人も顔色たらしめんばかりの殺意のこもったあたしのメンチに、辺りが水を打っ
たような静けさにおおわれる。
『フッ、愚民どもメ、ようやくリンを崇め奉りはじめたようだナ……計画どお……GuEEE
EEEE!?』
「……お前が広めたのか?」
 得意気に辺りをへい睨するトロンを、あたしは力一杯握りしめた。
「落ち着け隣! トロンを握りつぶすなら黒姫とのバトルが終わってからにしろ!」
 必死にあたしをとりなそうとする陽子。いつもなら、それタイミングが違う! とツッ
コむところだが、頭に血が上ったあたしは気がつかない。
「わたしにまかせて、陽子」
 めずらしく、自ら進んで出てきた唯が、あたしの耳に唇を近づけると、ささやくように
つぶやいた。
「隣ちゃん……“出入り禁止”」
「はうっ!?」
 その一言は、絶大な効果を発揮した。まるで落雷に打たれたかのように、あたしの身体
が硬直する。思わずゆるんだ手からこぼれ落ちるトロンを、陽子が慌ててキャッチする。
「ふう、まったく。いいじゃねぇかよあだ名のひとつやふたつ。どうせもうすぐ“暴走女子高生”
とか呼ばれるんだしよ」
「“鬼関車トーナリ”とか呼ばれたり……」
「ぶっ、あはははっ! それいい、サイコーッ!」
 おずおずとあたしのあだ名を披露する唯に、陽子が腹を抱えて同意する。

              ああっ、憎しみで人を殺してぇ……

                        ※

「ふう。……で、用意はできてるの、トロン?」
 あたしは、シュミレーターに備え付けられているシートに乱暴に腰掛けながらトロンに
尋ねた。背後で陽子たちの安堵のため息が聞こえる。
『こっちはいつでも準備OKだよ』
 あたしたちがドタバタやってる間に、ソウルテイカーを装備したトロンが屈伸をしなが
ら答える。少しハスキーな声も、金色の瞳もずいぶんとご無沙汰していたように感じる。
『いよっしゃ! まずはおれとバトルだ、トロン!』
 黒姫が両の拳を打ち鳴らし、大声をあげる。
『はぁ? 何、寝ぼけたこと言ってんの、キミ?』
『それはお前のことだろ? この寝ぼけ悪魔!』
 眉を寄せながら、冷めた目で黒姫に問いかけるトロン。間髪入れずに黒姫がツッコむ。

             うん、今のツッコミ、いいタイミングね。

『ふん。お前、勝つには勝ったけど、レスティーアにボロボロにされたって陽子から聞い
てるぞ?』
 にわかにトロンの顔色が変わる。
『ふっ。ど、どこでそんなガセネタ仕入れてきたんだか──黒姫、ボクはあのレスPを三
秒で葬った神姫なんだよ?』
 自慢げに指を立ててみせるトロン。

   いや、そんな事実ないし……それ以前に、あんたが立ててる指の数は四本だ!

 内心、かなり動揺していたのか、キャロにも同じことを指摘されたトロンが、慌てて指
を一本折り畳む。
 引っ込みがつかなくなったのか、延々と対レスティーア戦で、いかに自分が優秀な神姫
かを語り出すトロン。指一本でレスティーアを吹き飛ばしたとか、ドリーム入りまくった武勇
伝は、レスティーアがこの場にいたら流血の惨劇は必至というレベルの代物であり、聞い
てるあたしが居たたまれない気持ちになるほどイタい内容だった。 
『ま、そういうわけでね。一対一じゃ勝負にならない。ふたりががりで掛かってきなよ』
 キャロをあごで指しながら不適に笑うトロン。アクセスポッドの方に足早に歩いていく。
『なっ?』
 トロンのからかうような口調に、キャロが気色ばむ。
「……ふ、ふざけやがって! 黒姫、かまわねぇ、トロンのヤツをギッタンギッタンにし
てやれ!!」
「お、落ち着いて陽子! 隣ちゃん?」
 顔を朱に染め、いきり立つ陽子。唯は陽子を押さえながら、すがるような目であたしを
見ている。でも、あたしは大きく両腕を広げ、肩をすくめることしかできなかった。
「ごめん、陽子。トロンの暴言はあたしからも謝る。でも、あいつ何か考えがあるみたい
なんだ。できれば今回はトロンの条件でバトルをしてくれないかな?」
 陽子はカッとしやすいが、あたしほど喧嘩っ早いわけじゃない。あたしの言葉に真摯さ
を感じたのか、しばらくトロンを睨みつけていたが、やがて大きく息を吐くとうなずいて
くれた。
「でも、それでいいの、隣ちゃん?」
 心配そうな顔する唯に、あたしは微笑んでみせる。
「うん……それと黒姫、キャロ。あんたたちも遠慮なくトロンのヤツをけちょんけちょん
にしてやって、あたしが許す!」
『いいんだな?』
 不機嫌さを隠そうともせず、あたしをやぶにらみで見る黒姫。あたしが歯を見せて笑う
と、キャロと顔を見合わせ頷き、アクセスポッドに向かう。 
          
                         ※

『ありがと、リン』
「もう、あんたの尻拭いは御免だからね!」
 アクセスポッドに横たわりながら話しかけてくるトロンにあたしは語気荒く答える。
「それにしても、二対一なんてちょっとうぬぼれが過ぎてるんじゃないの?」
 あたしは最大の疑問をトロンに投げかける。黒姫とキャロは戦闘経験はほとんどないと
はいっても、最新鋭の神姫だ。基本性能は段違いに向こうの方が上のはずだった。
『ま、それに関しては、バトルの結果を見てから言ってよ』
 あたしの心配をよそに、ポッドが完全に閉まる前に、トロンはウィンクしながらそう言
った。

             










           ───  WINENR 黒姫&キャロ ───














「……で、この結果に対して、どんな説明をしてもらえるのかしら?」
 頭上に燦然と輝く戦闘結果と、目の前で手を取り合いながら喜びを露わにしている黒姫
たちを交互に見ながら、あたしは地を這うような声でトロンに話しかけた。
『……ま、まあ、アレだよ! 勝っても負けても、戦う神姫たちの姿って美しいよね? リン
もそう思うでしょう?』
 あたしは、揉み手をしながら営業用スマイルを浮かべるトロンを黙って見つめていたが、
大きくため息をつくと、吐き捨てるように言い放った。
「……そうね。そう思う」
『だ、だったらさあ……』
 ホッとしたように相づちを打つトロンの言葉を、あたしは鋭く遮る。
「あんたが“全力”で戦ったのなら、どんな結果でもあたしは文句なんて言わない!」
 あたしを見上げるトロンの顔が、瞬時に強ばる。
『えっと。な、何の事……かな?』
 頬を掻きながら目をそらすトロン。あたしが歯を剥きだして威嚇すると、バツが悪そう
に顔を背ける。
 そう。トロンが全力で戦ったのなら、あたしは何も言うつもりはなかった。でも、今の
トロンのバトルは憤飯モノだった。序盤は完全な受け身に回り、トロンは黒姫たちの攻撃
を慎重に回避し続けた。
 それは、あたしを感嘆させるほど見事な動きだった。さすがにトロンも場数を踏んでき
ただけのことはあり、このままいけば数の劣勢を補い、トロンお得意の老獪さで黒姫たち
の冷静さを失わせ、一気に勝負を決められる! あたしはそう踏んでいた。
 ところが、事も有ろうにトロンのヤツは、挑発を続け怒りに我を忘れた黒姫たちの起死
回生の必殺の一撃をまともに受けたのだ。
 キャロのレーザーライフルの放った一撃に宙天高く舞い、まったく無防備なまま、黒姫
の大太刀<グリーヴァ>の一閃がトロンの身体を切り裂いた。

 端から見れば、トロンがわざと負けたのに気づかなかったかもしれない。でも、あたし
の目はごまかせない。

「……そんなに、バトルを申し込まれるのがイヤだったの?」
 まだ怒りは収まらなかったけど、自分でも驚くぐらい静かな問いかけにトロンが顔を上
げる。
『えっ? リン、気づいてたの?』
 意表を突かれたのか、金色の瞳を大きく見開きあたしを見上げるトロンに、あたしはう
なずいた。

 やっぱり、トロンはレスティーアとの再戦までよけいな戦いをさけるために、あんな手
抜きのバトルをやったんだ……みんなから呆れられるように。

「そういう考えがあるんなら、ちゃんとあたしに相談しなさいよ! バトルやるのだって
タダじゃないんだからね!」
『……そうだね。リンにとって、へそのゴマに火を灯す思いで用意したお金だもんね』
 トロンの憐れむような口調に、あたしはかっとなって反論する。
「へそに火ぃつけてどーすんのよ? それを言うなら爪でしょ! それに……」
「いや~~~~、なかなかいいバトルだったよな、と・な・り君!」
 あたしたちの会話を断ち切るように、陽子が上機嫌で歩いてくる。あたしはそんな陽子
に、愛想笑いを浮かべるしかできなかった。
「まあ、今回はこっちの完敗ね。でも次は……」
『次? 次なんてやるだけ無駄さ。トロンの野郎の実力は、もう見切ったぜ!』
 あたしの言葉を遮りながら、黒姫が鼻息荒く言い切る。
「よく言った、黒姫! まあ、トロンがこの程度じゃレスティーアの実力も知れたもんだ
よな? これならこの間のトーナメント、おれたちも出場すればよかったぜ!」
 そう言いながら高笑いを始める陽子。とんでもなく天狗になりつつある陽子の袖を、
唯が慌てて引っ張るが、本人はまるで気づいた素振りもみせない。
 トロンのことならいざ知らず、レスティーアまで軽んじるような口調の陽子に、あたし
はさすがに眉をひそめたが、口を開く前にあたしの耳にかすかな音が響いた。
 それは、うつむいたままのトロンの口元から聞こえる歯軋りの音だった。
『……リン。キミが貧乏なのはわかってるけど、ボクにもう一度チャンスをくれないかな
?』
「だ、誰が貧乏よ? これでもあたしン家は中の下くらいの生活は……」
『お願いだ、リン!』
 拳を震わせながら、あたしの言葉をトロンが遮る。



                  自分でボケてきたくせに!



    とりあえず、心の中でツッコミを終え、あたしは視線を陽子へと移した。
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コメント


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自分の事は馬鹿にされても、宿敵(戦友)を馬鹿にされるのは我慢ならない!!
行け!!やっちまうんだ!!トローン!!(*0∀0)9
胸躍る展開に、次回を心待ちにしています♪

maki. | URL | 2013-06-17(Mon)10:09 [編集]


>makiさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

隣やレスティーアといった、心を許した存在が馬鹿にされるとすぐにカッとなるトロン。けっこう熱いヤツなのかもしれませんね(本人は全力否定しそうですが)。

次回は、そんなトロンのリベンジバトル編です。
お楽しみに!

シロ | URL | 2013-06-18(Tue)07:03 [編集]