神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第4話

                  武装神姫 クロスロード

               第4話  「60秒の戦い」

「あのさあ、陽子。できればもう一度トロンの相手をしてやってくれないかな? シュミ
レーターのお金はあたしが払うからさ」
 下手にでながら提案してみると、陽子は片方の眉をわずかに持ち上げる。
「気持ちはわかるが、止めとけ隣。何度やっても結果は同じさ」
 案の定、有頂天になってる陽子は、思った通りの受け答えをしてくる。
『無駄だよ、リン』
「へっ?」
 ムッとしながらも、どうしたものかと思案していたあたしは諦め声のトロンに驚く。
「な、なに言ってんのよ? あんたがバトルしたいって言ったんでしょう?」
『まあ、そうなんだけどさ。よく考えてみたら、背景ズとそのオマケたちがようやく勝ち取
った勝利だからね。もう一度戦ったら負けるとわかってるのに無理強いしたら可哀想っ
てもんだよ』
 大げさに肩をすくめながら、首を振るトロン。
『『オ、オマケ?』』
 トロンの言葉に、黒姫とキャロの表情が曇る。
「……なんだと、今なんつった?」
 押し殺すようなような陽子の口調に、トロンは億劫そうに振り返る。
『えっ? 背景って……ああ、ごめん。今はモブキャラその一、だっけ?』
 耳をほじりながら謝るトロン。陽子のひたいに、もの凄い数の青筋が浮かび上がる。
「黒姫、バトルの準備だ! 今度こそあの悪魔に引導渡してやれっ!!」
『お、おう!』
 シュミレーターの方に足音荒く去っていく陽子。黒姫も慌てて後を追っていく。あたし
が両手を合わせて拝むような仕草をすると、苦笑しながら唯がうなずいてくれた。
 渋るキャロをうながしながら、歩み去る唯の後ろ姿を見送ると、あたしは大きなため息
をつくと、シートにもたれるように腰を下ろしインカムのスイッチを切った。
「まったく。陽子は単純だから手玉にとりやすいと思ったんだろうけど、やりすぎよ!」
 心底陽子に同情しながら、あたしはトロンを毒づいた。
『じゃあ、またわざと負けてあげようか?』
「友情と勝負は別物よ! というか、今度あんなふざけた戦いをしたら承知しないわよ?」
 あたしが語気荒く言い放つと、トロンのやつは『おお、怖ッ!』とか言いながらおおげ
さに後ずさる。
 その態度にカチンときたが、対面のシートに腰を下ろした陽子がこっちに向かって手を
振っているのに気づく。
「ったく、何やってんだよ? そろそろ始めるぜ!」
 マイクをONにすると、陽子の不機嫌そうな声が耳に突き刺さる。
 唯が必死になだめてくれたのだろうか、その声音はさっきに比べると、いくぶん落ち着
きを取り戻しているようだった。
 安堵のため息をつきながら横を向くと、あたしの雷を避けるためか、アクセスポッドに
潜り込むトロンの後ろ姿が目に入った。

                        ※

「これって、不味いわね」
 あたしは、眼前の風景を目の当たりにしながら顔をしかめる。公平を期すために、ラン
ダムで選んだバトルフィールドはよりにもよって、遮蔽物が一切ないアリーナと呼ばれる
円形の闘技場だった。
 以前、トロンが初勝利を納めたフィールドもアリーナだったけど、あの時の対戦相手の
睦月と黒姫たちではさすがに格が違いすぎた。
『まあ、この方ががっぷり四つに組んだ戦いができるってもんさ』
 インカムに、世にもお気楽な声が響いてくる。
「トロン……」
『わかってる。さすがにボクも、レスPをバカにされてまで手を抜くつもりはないよ』
 釘を差そうとするあたしの声を制し、さっきとは打って変わって真面目な声になったト
ロンが、前方を食い入るように見ながら答える。
 その視線の先に、ふたつの影が立ちふさがる。
『まったく、せっかくいい気分に浸ってたのに水を差しやがって』
『その通りです。圧倒的な性能差かつ、数の有利の前はどんな奇策も通用しませんよ、ト
ロン!』
 ぶーぶーと文句を垂れながら、不満そうな顔を隠そうともしない黒姫たち。トロンはそ
んなふたりを交互に見ながら苦笑する。
『勝利の美酒に酔ってるところをすまないね、おふたりさん……お詫びといっては何だけ
ど、すぐに終わらせるからさ』
 そう言いながら、トロンは人差し指を立てた。
『それって……』
『一分でおれたちを倒すってことか?』
 無言で大きくうなずくトロンに、黒姫とキャロが顔を見合わせる。しばらくそのままの
姿勢で顔をつき合わせていたふたりだが、かすかにうなずた。
『おもしれぇ、やれるもんならやってみろッ!』
 大太刀を構えながら地を蹴り、トロンめがけて疾走する黒姫。その背後では、キャロが
レーザーライフルの砲口をトロンに向ける。

           このパターンは、さっきトロンにとどめを刺した戦法。

 インカムから、陽子の「やっちまえ!」という声が聞こえる。
 黒姫たちにとっては、必勝パターンというやつなんだろうけど、その戦い方はあまりに
も短絡的に思えた。首を巡らせると案の定、腕を組み立ち尽くすトロンの唇も苦笑の形を
とっている。
『やれやれ。聖〇士に同じ技は通用しないのは、もはや国民的常識なのに……』
 首を横に振りながらため息をつくトロンに、思わずあたしは叫んでいた。
「あんたは神姫でしょう? それよりちゃんと前を見なさいよ!」
 思わず腰を浮かせ、あたしは前を指さす。そこにはトロンの目の前まで迫った黒姫が、
グリーヴァを頭上高く振り上げている姿があった。
 トロンは顔色ひとつ変えず、右手を前方にかざした。
 それと同時に、肘のあたりに取り付けられたビーム発生器が180度回転し、その先端
に発生したビームソードを音もなく射出する。
『おあっ!? ……へっ?』
 黒姫が慌てて回避しようと身をひねるが、ビームソードは彼女のはるか横を通りすぎて
いった。
『なんだ? どこ狙ってやがるんだ?』
 何が起こっているのか理解できず、足を止める黒姫。その背後で、小さな悲鳴が聞こえ
た。驚き振り返る黒姫の瞳に、レーザーライフルの砲身にビームソードが突き刺さり体勢
を崩すキャロの姿が映し出される。
 キャロは渾身の力を振り絞り、その場に踏みとどまるが、銃口から光の矢が放たれるよ
りも前に、トロンは右手を大きく振り抜いた。
『えっ? きゃああああ!?』
 ワイヤーで繋がったビームソードが突き刺さったままのレーザーライフルが、トロンの
動きに合わせ砲身があらぬ方向を向く。
 狙いを外されたビームの一撃が、無防備状態の黒姫の背中を直撃した。
『がはっ!?』
 トロンのすぐ横を、弾丸のような勢いで黒姫が通り過ぎていく。
「そ、そんな……」
 不意をつかれた黒姫は、フィールドの壁面に叩きつけられ、糸の切れた操り人形のよう
な不自然な格好で床に落下する。それを見て、半立ちになった陽子が絶句する。
『残り、五十二秒……』
 確認するかのように背後を一瞬見やり、無表情でつぶやくトロン。戻した視線の先で、
怖じ気付いたキャロが後ずさりを始める。
「しっかりしてキャロ。まだバトルは終わってないのよ? まず、<ココレット>と<リリアー
ヌ>を全機射出。トロンの動きを牽制しながら空中に退避! 急いで!!」
『は、はい!』
 唯の矢つばきの指示に、キャロは慌てながらも迅速に対応する。主翼に収納されていた
ガン・ポッドを展開させると、大急ぎで飛翔し始める。
「へ~」
 あたしは、テキパキと指示を続ける唯に驚きを隠せなかった。その凛とした口調からは、
いつもの気弱さは微塵も感じなかった。横のシートに腰掛けていた陽子も、唖然とした顔
で唯を見ている。
「レーザーライフルのチャージをはじめて! チャージ終了と同時に、トロンを包囲した
まま一斉射撃!」
『了解です、マスター!』
 唯の指示に力強く答えるキャロ。その姿を見て、あたしは素直に感心していた。
 自信に満ちた今のキャロは、少し前とは別人のようだった。
 やっぱり神姫は、オーナーとふたりでひとつの存在。唯とキャロを見ながら、あたしは
少しばかり微笑ましい気分になった。
「それに引き替えねぇ」
 そうつぶやきながら、あたしは自分の神姫へと視線を移す。周囲をめぐるましい速度で
動き周り威嚇を続けるガン・ポッドを、気にした素振りも見せず、トロンは腕を組んだま
ま立っていた。
 不敵な笑みを浮かべていたトロンだが、あたしのため息が聞こえたのか、ついとこちら
に首を向ける。
『リン、ボク怖いよ! どうしたらいいの?』
 視線からあたしの心中を悟ったのか、急に両目いっぱいに涙を浮かべたと思ったら、頭
をかかえてしゃがみ込むトロン。
「……どうせ、次の手は考えてあるんでしょう? いつまでも猿芝居をするな!」
 群をなして背筋を駆け抜ける悪寒に耐えながら、あたしはうめくようにトロンをたしな
めた。
「今よ、キャロ!」
 唯は一瞬の隙を見逃さなかった。トロンがしゃがみ込んだと同時に攻撃の指示が飛ぶ。
 トロンを囲むように旋回を続けていたガン・ポッドが距離をとり、その先端に煌めく輝
きが大気を焼き、トロンめがけて突き進む。
『いっけぇええええええええっ!』
 キャロの雄叫びとともに、狙いすませたレーザーライフルから、ガン・ポッドとは比較
にならないほどの光の束がとき放たれる。
 地上と空中、両面から襲いかかる百光の矢にトロンの姿がかき消される。
 その威力にモニターが白く輝き、周りの光景を覆い隠した。

『や、やった。やりましたよ、マスター。わたし、トロンを倒しました!』
 白煙をまとわりつかせ、地上にできた巨大なクレーターにトロンの姿がないのを確認す
ると、キャロは空中で小踊りしながら喜んだ。
「ど、どうだ、隣? やっぱり黒姫とキャロのまえにはトロンなんて……な、何だよ?
何、笑ってんだよ?」
 土壇場での逆転劇に、勢いづいた陽子があたしを指さしながら喜びをあらわにするが、
あたしの口元を見て、怪訝な顔をしながら口ごもる。
「今の攻撃、確かにすごかった。でも、トロンのやつにとどめを刺すには、ちょっとばか
りひねりが足らなかったかもね。忘れちゃった、陽子? レスティーアとトロンの戦いを
……」
 あたしはそう言いながら上を指さす。
『そ、そんな……』
 つられて見上げるキャロを、黄金の双眼が静かに見つめていた。
『これが、ボクの<アクセル・ハート>。以後お見知り置きを』 
 トロンはわずかに両目を細めると、つぶやくようにそう言った。
『どうして……あなたは飛べないはずなのに』
 遙か高みから自分を見下ろすトロンを見ながら、惚けたようにキャロがつぶやく。

 キャロはまだ気づいてないみたいだった。頭上に向けられたトロンの右腕と、アリーナ
の天井をつないだ一本の銀線に……

 トロンはキャロの攻撃が命中する寸前、<アクセル・ハート>を発動させ上空へ跳躍す
ると、ビームアンカーを使いさらに高空へと退避していたんだ。
「キャロ、あの体勢ではトロンはもう逃げられない。いまのうちに攻撃を!」
 唯の的確な指示に、キャロはチャージに時間のかかるレーザーライフルを投げ出すと、
小型の銃、アルヴォを取りだそうとする。
『残念だけど、もうタイムリミットなんでね。そろそろ終わりにしようよ』
 〈アクセル・ハート〉を使った反動か、痛みに顔をしかめながら、なにやらゴソゴソと
やっていたトロンが手に握ったそれを眼下にばらまく。
 トロンめがけてレーザーガンを構えたキャロが、はたしてそれをPBの予備カートリッ
ジと気づいたかどうか。
 無造作に放り投げられたカートリッジのうち、いくつかはその先端部分をキャロの身体
へと接触させた。同時にキャロの身体から、小さな閃光がいくつも起きる。
 いきなり身体を襲った衝撃に、空中でバランスを崩したキャロは地上めがけて落ちてい
く。
『きゃあああああああっ!?』
 長い悲鳴の尾を引きながら、床に激突したキャロはピクリとも動かない。
『さて、あと十秒か……』
 アンカーガンのワイヤーを伝い、キャロのすぐ横に音もなく降り立つトロン。

『……九』
 黒姫とキャロ。ふたりを倒したはずなのに、トロンは何故かカウントダウンを続ける。

『……八』
 トロンの背後から、気を失っていたと思った黒姫が、太刀を振りかざし襲いかかる。

『……七』
 トロンめがけて、裂帛の気合いとともに、怪しく輝く刃が振り下ろされる。

『……六』
 後ろも見ずに大きく後退するトロン。その身体を袈裟掛け断ち切るにするはずの銀線が
虚しく空を切り裂く。

『……五』
 位置をずらされ、ソウルテイカーの装甲に覆われた肩に手首を打ちつけた黒姫が、苦痛
に顔をゆがめる。

『……四』
 トロンは、黒姫の手首の関節を極めると、一気に締め上げる。黒姫の手から、太刀がこ
ぼれ落ちる。

『……三』
 腕に走った激痛から逃れようと、黒姫が身体を浮かす動きに合わせてトロンの身体がわ
ずかに沈み込む。

『……二』
 弧を描きながら床に叩きつけられる黒姫。その落下点にはキャロがおり、ふたり仲良く
苦鳴をあげる。

『……一』
 ふたりの顔の前に、真紅の輝きを放つビームソードが、ゆっくりとした動きで近づいて
くる。ふたりの『ひっ!?』という短い悲鳴が聞こえた。

『……さて、背景ズのおふたりさん』
 ゆっくりとした動作で、トロンが陽子たちの方に顔を上げる。
『まだ──続ける?』
 黒姫の背中に足を乗せたまま、静かに尋ねるトロン。

 そのあまりのサタン面に、陽子と唯は一瞬顔を見合わせると、ふたりそろって首を振り
ながら両手を上げた。
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