神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第5話

              
                 武装神姫 クロスロード

            第5話 「キミとボクとで、ライドオン!」  
           
「ちっくしょ──っ! おい、隣。もう一回勝負だ!」 
アクセスポッドから、すごすごと出てくる黒姫たちを見ながら陽子が拳を握りしめる。
「いや、あのさあ、陽子。今の戦いを見たらその……」
 あたしは頭に血が上った陽子を、なんとか落ち着かせようとなだめたが無駄だった。
 けっきょく、今度はシュミレーターの代金は陽子が持つという条件で三回ほど戦ったが、
完全にその動きをトロンに把握されてしまった黒姫たちの全敗という結末に終わった。

                        ※

「まったく、やりすぎなのよ、あんたは!」
 ここはいつもの休憩所。あたしは現実を突きつけられ、肩を落としながらすごすごと自
動ドアの向こうに消えていった陽子の後ろ姿を思いだし、語気荒く言い放った。
 あたしの放つ怒気などどこ吹く風、テーブルに寝そべったトロンが、器用に顔だけあた
しの方に向けた。
『じゃア、背景ズに華を持たせた方がよかっタ?』
 あたしは、のどまで出かかった次の言葉を飲み込むしかなかった。
 陽子には気の毒だが、確かにトロンの意見の方が正論だった。それに、いくら陽子と唯
があたしにとって親友だとしても、勝利をゆずられてもふたりは喜びはしないだろう。何よ
り、あたしとしても、そんな八百長みたいなバトルは我慢できなかった。
『だいたいサ、おしりにカラをくっつけたヒヨっ子ガ、ボクやレスPに挑もうなんテ、かたはら
痛タッ!?』
 得意げに話を続けていたトロンが、頭を押さえながら驚いた風に顔を上げる。
『ナ、ナニすんのサ、リン?』
「あんたがあんなまどろっこしいマネをしないで、きちんと相手に自分の気持ちを伝えて
いれば、こんなことにはならなかったのよ?」
 いつになく強いあたしの口調に気をされたトロンだが、不服そうな顔になる。
『で、でもサ……』
「結果として、あんたの中途半端さが、黒姫たちにレスティーアを軽んじさせる原因にな
ったんでしょう?」
『……』
 そこらへんは、トロンも充分理解しているのだろう。唇を尖らせながらも黙り込んでし
まった。
「トロンに戦いを無理強いさせるつもりはないわ。でもね、レスティーアとの戦いをあん
たが望んでいるなら、実戦を積むことも大切でしょう?」
 まだうつむいたままだったけど、トロンはかすかにうなずいた。
『結局は、地道に経験を積み重ねる以外、強くなる方法は無いということですね』
「そうね。それが王道……って、リベルター?」
 あたしの心中を察するかのような言葉にうなずきかけたあたしは、はっとしながら声の
主に視線を向ける。いつの間にあらわれたのだろうか、トロンのすぐそばに、銀髪をたな
びかせたリベルターが静かにたたずんでいた。
「まったく、いつも突然あらわれるわね」
 内心驚きながら、あたしは平静を装おう。
『ほんト、ギンちゃんっテ、影薄いからボクも気がつかなかったヨ』
『ぐさっ!』
 イモムシみたいに身体をくねらせながら、何気なく発したトロンの一言に、リベルターは
胸のあたりを押さえながらうつむいてしまう。

              やっぱり、本人も気にしてるのだろうか?

『えっと、それより今、“ギンちゃん”とか言ってたみたいだけど、それって……』
 根性で立ち直ったのか、リベルターは口元を引きつらせながら、トロンに問いかける。
『あア。もちろン、キミの愛のニックネームに決まってるでしョ?』
 反論は認めん! と言わんばかりの口調で指を突きつけるトロン。その指先では、当の
本人が白い山脈と化していた。
「ニックネームか……よかったじゃないか、リベルター」
「きゃっ!? て、店長さん!」
 それほど油断していたつもりはなかったけど、いきなり背後から聞こえたダンディボイ
スに、あたしは飛び上がらんばかりに驚いた。
「失礼。脅かすつもりはなかったんだが……」
 唖然と見上げる視線の先で、不自然なまでにきらめく歯を輝かせ、店長さんがはにかん
だような笑みを浮かべる。
「実は、一ノ瀬くんに……いや、一ノ瀬くんとトロンくんに、折り入って頼みたいことがあって
ね」
そう言いながら、店長さんは静かにソファーに腰を下ろした。
「頼み……ですか?」
 あたしは、まだバクバクいってる鼓動を鎮めるべく、胸に手を当てながら問い返した。

                          ※

「ライドシステムが……動き出すんですか?」
 驚くあたしを見ながら、店長さんがうなずく。
「ああ。まだ、もう少し先のことになるがね」
 店長さんの話によると、神姫とオーナーがひとつとなってバトルを行うライドシステム
が、後一月ほどで、いよいよ全国的に稼働し始めるらしい。
「でも、それとあたしたちに頼みって、何の関係があるんですか?」
「うん。実はこの店で行うイベントの初日に、一ノ瀬くんとトロンくんに、ライドシステムの
デモンストレーションをやってもらえないかと思ってね」
「へ? で、でもんすとれーしょん?」
 せいぜい頼みといっても、イベントの人集めのために、ビラ配りでもさせられるんだろ
う、ぐらいに考えていたあたしは、思いもしない店長さんの提案に愕然とした。
「だ、だだだ、だめですよ! あたしなんかじゃ!!」

       ただでさえ人の視線とか気になるのに、あたしには絶対無理!

 火がついたように真っ赤な顔になりながら、あたしは必死になって両手を振った。
「そうか……無理…か」
「……あ」
 残念そうに肩を落とす店長さんを見て、あたしは少しだけ冷静さを取り戻した。

  そうだ、店長さんのおかげで、あたしはトロンに稽古をつけることができたんだ。

 そう考えると、あたしは自分が情けなくなった。
 店長さんは、あたしの個人的な理由なのに嫌な顔もせずライドシステムを使わせてくれた。

                   何の見返りも求めずに……

 あたしはそう思いながら、トロンに視線を向けた。
 トロンはあたしを見上げていた。そして、いまにも倒れ込みそうな寝ぼけ顔で大きくうなず
くと、あたしに向かって親指を立てる。

「……わかりました」
「え?」
 ミラーグラス越しに、店長さんがあたしを見つめる。
「あたしたちでよければ、お手伝いします!」
「ほんとうかい? 一ノ瀬くん?」
 力強くうなずくあたしに、店長さんが破顔する。
「……でも、ほんとうにあたしたちなんかでいいんですか? 実際にライドオンを体験し
てみた店長さんたちの方が適任だと思うんですけど」
 了承はしたものの、やっぱり不安な気持ちになったあたしは、おそるおそる店長さんに
提案してみた。
「いや、関係者である我々より、一ノ瀬くんたちの方がふさわしいさ」
『それに、これは神姫オーナーとしても、名誉なことだと思いますよ。こういう時は喜ぶべ
きです、隣さん!』
「う~ん。まあ、そうなんだろうけど……」
 リベルターが必死にフォローしてくれるが、なんか釈然としない。
『ギンちゃんの言うとおりサ』
 リベルターに寄りかかるようにして、トロンが億劫そうに立ち上がる。
『もっと素直に喜びなヨ? いつものリンなら嬉しさのあまリ、「う~しっしぃ!」とか奇声を
上げテ、木々の間を飛び回ってるじゃないカ?』
「あたしは新種のUMAか?」
 真顔で尋ねるトロンの頭を、あたしはツッコミながら軽く叩いた。
 どういう身体の構造をしているのかわからないけど、トロンは二、三度バウンドすると
短い悲鳴とともにテーブルの向こう側に落ちていった。
 それを見ていたあたしは、なぜだか急にこみ上げてきた笑いを抑えることができなかっ
た。あたしはお腹をかかえて笑いだした。唖然としながら見ていた店長さんとリベルター
も釣られたように笑いだす。
 身体の中に、澱のようにたまっていた不安や悩みが、みるみるなくなっていく。

      いつもあたしの背中を押してくれるのは、あいつなんだよね……

 あたしは滲んだ涙をぬぐいながら、トロンの方に歩きだした。

                         ※

「ねぇ、リベルター。ひとつ聞いてもいいかな?」
 カウンターに頬づえをついていたあたしは、メンテナンスルームの入り口を見ながら口
を開いた。
 トロンは、いま部屋の中でバーチャル、リアルの双方のバトルに対応可能なライドシス
テムに使用する専用の受信機の取り付け作業をしている最中だった。
『どうしたんですか? あらたまって』
 カウンターの上に立ちながら、あたしと同じところを見ていたリベルターが、顔を上げ
る。
「うん。あのさあ、ライドオンするって……どんな感じなのかな?」
 あたしを見上げていたリベルターが、ふっと視線を外すと、眼を閉じた。
『不安…ですか?』
「少しね」
 あたしはリベルターの問いに、素直に答えた。
 トロンとひとつになることが嫌なんじゃない。ただ、自分の中に別の存在がいる。その
ことが、どうしてもあたしの頭では理解できないからだった。
『私のなかに店長さんが、そして店長さんのなかに私がいる。お互いのすべてを共有する
──悪いものではないですよ。そんな感じも……』
「ふぅ~ん、そういうものなんだ?」
 思わず相づちを打ったあたしの耳に、リベルターのかすかな声が響いた。
『……それに、私はもう……』 
「うん? なにか言った、リベルター?」
『い、いえ、何も……あ、終わったみたいですよ?』
 渡りに船と言わんばかりの表情で、部屋を指さすリベルター。開いたドアの向こうから、
トロンを抱いた店長さんが歩みよってきた。
「おまたせしたね」
 そう言いながら、店長さんはカウンターにトロンを下ろす。目を凝らして見るが、別段
前と変わったところはないみたいだった。
「後はイベント当日を待つだけだね」
 さわやかに微笑む店長さんとは対照的に、どうもトロンの様子がおかしい。チラチラと
こっちを見てると思うと、あたしと目があった途端、顔を伏せてしまう。
「さっきからどうしたのよ?」
『うン、これでボク……』
「?」
『リンと身も心もひとつになれるんだネ?』
「…………」


「やっぱり、こんなヤツとライドオンしたくね────ッ!!」


 身体中をクネらせ、頬を赤らめる寝ぼけ悪魔を見ながら発したあたしの魂の絶叫が、D
O ITの店内に虚しく響きわたった。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する