神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第6話

      
                  武装神姫 クロスロード

              第6話 『戦慄! シロイナニカ』

「……やっぱり、ここに入っていかなきゃならないわけ?」
『むゥ~、それしか選択肢はないと思うけどネ……』
 唖然と立ち尽くすあたしの眼前で広がる光景は、まさに修羅場だった。
 ちょっと用があって出かけていたあたしの携帯に、今日は近所のスーパーで砂糖の特売
をやってるから帰りに買ってきてほしいというお母さんからのメールが入ってきており、何気
なく立ち寄ったスーパーの店内は阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。

 <お一人様、一袋まで>と書かれたワゴンの前に、怒声を上げながら砂糖に群がる主婦
のみなさまの迫力は筆舌に尽くしがたいものがあり、その姿は、前にケーブルテレビで放送
していた大昔のホラー映画のワンシーンを見ているような錯覚を覚えてしまうほどだった。


 まあ、あの映画では、いかにも青絵の具を塗りたくったようなゾンビが人々に襲いかかって
たんだけど、現実は、血色の良い艶々した頬の奥様方が砂糖に襲いかかっているという状況
だった。

            ま、こっちのほうが妙にシュールで怖いんだけどね……

『リン! このゾンビ野郎どもを突破しないト、ボクたち生きて帰れないヨ!』
「失礼なことを言うんじゃない! といってもそれしか手はないか……」
 あたしと同じことを考えていたらしいトロンを、とりあえず自分のことは棚に上げながら軽く叱り
つけ、あたしは前方の光景に目をやりがら覚悟を決めると大きく息を吸い込み目の前のゾン……
じゃなかった! 奥様の群れに猛然と突っ込んでいった。

                          ※

 行く手に立ちふさがる肉のカベを必死に掻き分けながら、

            あたし、今この人たちと同じレベルなんだろうな~。

 とかヤな考えが頭をよぎったが、それを心の中で否定しながら、あたしはとにかく前へ
前へと進むことに意識を集中させた。
 どれぐらい進んだのだろうか。おばちゃんたちにもみくちゃにされながら、汗や香水の
匂いにいい加減ゲンナリしていたあたしの視界が突然開け、目の前のワゴンの上に鎮座
する二袋の砂糖があたしの瞳に飛び込んできた。

                 ああ、なんてきれいな白……

 おばちゃんたちの極彩色豊かな服ばかり見ていたせいか、あたしの瞳に映った砂糖はか
ぎりなく清らかに見えた。
 一瞬、我を忘れて砂糖に見入ってしまったあたしは、まわりの喧騒に気づき慌てて手を伸
ばすが、電光石火の勢いで伸びてきた手が獲物を見つけた猛禽のように砂糖を奪ってい
く。

                   の、残り一袋!

 だが悲しいかな、両側から恰幅のいいおばちゃんに挟みこまれているあたしは、もう少し
というところで砂糖に手が届かない。 

                  もう、こうなったら!

「うおりゃあアぁあああッ!!」
 恥も外聞もなく大声を上げながら全力で前に進もうとすると、あたしの迫力に気圧され
たのか、いきなり左右から押さえつけていた力がなくなり、あたしは勢い余ってワゴンに
頭から突っ込んでしまった。
 身体をしこたまワゴンに打ちつけ、苦痛に顔を歪めながらも、あたしは最後の砂糖を鷲
づかみにした。

                  上白糖、GETだぜぃ!

 なんか身も心もおばちゃんになった気分になりながらも、達成感に浸っていたあたしだ
が、ようやく手に入れた砂糖の妙な感触に眉をひそめた。
 恐る恐る視線を向けてみると、砂糖とそれを握り締めたあたしの手の間から小さな手足
がバタバタと蠢いている。
『むぅ~、こ、これはわたしが先に取ったんですぅ~~~~~!』
 くぐもった声で、ソレは必死になって何かを訴えているようだったが、呆気にとられた
あたしの耳にその声は届いてはいなかった。

                           ※

『ふぅ。 上白糖、GETだぜぃ!』
「…………」
 とりあえず会計を済ませ店の隅のほうに移動したあたしは、ものすごくデジャブー感あ
ふれるセリフを聞きながら、砂糖の袋の上にちょこんと正座をし満足そうに額の汗をぬぐ
う天使型の神姫、アーンヴァルを黙って見つめていた。
 パッと見は、ノーマルのアーンヴァルのように輝く黄金色のショートカットに蒼い瞳の持
ち主だったけど、よく見ると左目の下にホクロのようなものがある。
『あっ、すみません。色々と手伝っていただいたのに、自己紹介もしていませんでしたね。
わたし、リセルといいます』
 あたしの視線に気がついたのか、リセルは砂糖の上で正座したままで深々と頭を下げる
と自己紹介を始めた。その姿がまじめを通り越して妙に滑稽に思えたあたしは、笑いをか
み殺すのに苦労してしまう。
「あたしは一ノ瀬 隣。で、こっちのボ~ッとしているのがトロン。まあ、よろしくね」
 にこやかに笑いながら話しかけたが、リセルはなぜかあたしの顔をまじまじとみつめて
いる。どこか懐かしさに浸っているような瞳にあたしは二の句をつげず、しばらくその状態
が続いた。
 しばらくして、リセルはあたしの視線に気づいたようだった。すぐに屈託のない笑みを浮
かべると、あたしや砂糖の袋にもたれかかりながら黙って自分を見ていたトロンに笑いか
ける。
『そうですか、お二人とも素敵なお名前ですね。わたしのほうこそよろしくお願いします。
……それにしても隣さんはえらいですね~』
 紐にくくり、たすき掛けにした、ピンクの生地にブルーのストライプという大昔のマンガに
でてきそうな古臭いデザインのがま口に、おつりとレシートをしまいながらリセルは上機嫌
で話しかけてきた。
「へっ? な、なんのこと?」
 意味がわからずキョトンとしていると、リセルはあたしを見上げながらニコリと微笑む。
『だって隣さんはまだ小さいのに、お母さんのお手伝いでお買い物なんて……やっぱりこ
れってえらいですよ!』
 両手を胸元まで持ち上げ、グッと握りこぶしを作りながら力説するリセルが何を言いた
いのか瞬時に理解したあたしは、リセルに優しく微笑んだ。
「そう? でもまあ、あたしも17だしね」
『…………へっ?』
 呆けたような顔から、なんとも締まりのないセリフがリセルの口をついて出てきたのは、
きっかり三分が過ぎてからのことだった。
                   
『すみません! すみません! すみません! すみません! すみません! すみ…』
「もういいわよ。気にしてないから」
 砂糖の上でひたすら土下座を続けるリセルに引き攣った笑顔で答えながら、謝り続ける
彼女の横で腹を抱えて悶絶中のトロンをあたしは無言で睨みつける。
「……それにしても、ひとつ聞きたいことがあるんだけど。ねえ、リセル。あんた今日ひとり
で買い物にきたわけ?」
 とりあえず、この気まずい雰囲気をなんとかしようと、あたしはさっきから疑問に感じてい
たことを口にしていた。だいたい神姫が買い物っていうのもいろんな意味で無理があるだろ
う。話を聞くと、今回の場合もリセルはワゴンによじ登り、最後の砂糖に飛びついたらしい。
 そんな死のダイブみたいなことを毎度毎度やってたらリセルの身がもたないだろうし、今回
はあたしが品物をレジまで運んだけど、いつもどうしているんだろう?
『あ、そのことですか? いつもは匠さんにお願いしてるんですけど、今日ははぐれてし
まいまして……わたしって特売とか半額とかいう言葉に弱くって、つい我を忘れて熱くな
っちゃうんですよね~』
 照れたようにポリポリと頭を掻く、妙に所帯じみたリセルを呆れた顔で見下ろすあたし
の横で、ようやく笑い飽きたらしいトロンがポツリと口を開く。
『べつにさァ~、特売ぐらいでそんなにムキになることないんじゃないノ?』
『……ぐらぃ~?』
 つまらなそうにつぶやくトロンの言葉を耳にするや、リセルは急にドスの効いた声を発
すると、いきなりトロンの顔を鷲づかみにする。
リセルの大きく見開かれた目は血走り、怒りのためかその身体はワナワナと震えている。
「ちょ、ちょっと落ち着いてリセル! ストップ、ストップ!!」
 いったいその手にどれぐらいの力が込められていたのか、トロンの下膨れ顔がみるみる
変形していくのにおどろいたあたしは、慌ててふたりの間に割って入った。
『はっ! やだ、わたしったらまた……ご、ごめんなさい!!』
 あたしが必死になだめると、ようやく我に返ったリセルが目の前の瓢箪みたいな形にな
ったトロンの顔を見て愕然となる。
「ま、まあ、こっちにも問題はあったわけだし、気にしなくてもいいわよ」
 すっかりしょげかえってしまったリセルにあたしは片頬を引き攣らせながら微笑むと、
トロンの足をつかみながら体温計の要領で力一杯振ってみた。
 別に意味はなかったんだけど、これが効いたのか、元に戻っていくトロンの顔を見なが
らあたしは内心ホッとしていた。
「それにしても、いつまでもこのままってわけにはいかないわね。リセルのマスター……
確かタクミさん、だっけ? 早くその人を探さないとね?」
 しゅんとうなだれていたリセルを見ながら、あたしが辺りを見回しながら話しかけると
驚き立ち上がりながらリセルは両手を振りはじめる。
『あ、あの、そんな気を使っていただかなくても大丈夫です。いつもみたいに場内放送で
匠さんを呼んでもらいますから』

                いつも? 今、いつもって言った?

 必死にあたしを止めようとするリセルを見下ろしながら、買い物の度に、自分の神姫に
場内放送で呼び出される、まだ顔も知らないリセルのマスターに心底同情してしまった。
「……頼むからそれだけは止めてくれって言っただろう? リセル!」
「!?」
 いきなり背後で聞こえた野太い声に驚き、慌てて振り返ると、そこには両手一杯にレジ
袋をぶらさげ困り果てた表情をした男の人が立っていた。

                          ※

「ほんとうにすまなかったね。リセルのヤツが迷惑かけたみたいで」
「い、いえ、そんなことは……」
 慣れた手つきでリセルの買った砂糖をレジ袋にしまいながら、その人は苦笑いを浮かべ
る。でもその口調とは裏腹に、まだ小さく縮こまっているリセルに向けたまなざしは優しい
光を宿していた。
 すらりとした長身の体躯に人のよさそうな笑みを浮かべた男性は、須賀 匠と自己紹介
をしてきた。
 なんでも須賀さんは、神姫を開発、販売している小さな会社に勤めているそうで、今回
も仕事の関係でこの街に短期で滞在しているらしかった。
『それにしても匠さん。よくわたしの居場所がわかりましたね?』
 ふと思いついたように首をかしげながら尋ねるリセルの疑問は、実はあたしも思ってた
ことだった。
「ああ、そのことか? 実はこんなこともあろうかと、お前に発信機をつけといたのさ」
 ジーンズのポケットから黒光りする携帯のようなものをひっぱりだすと、須賀さんはそ
れを胸元で軽く振りながらニヤリと笑った。
 それを見て、慌てて自分の身体を調べ始めたリセルが、やがて素っ頓狂な声をあげる。
『あっ、ほんとだ! こんなところに!』
 思わずリセルの方を向くと、その背中に何か貼り付けてあった。

 いや、ほんとうはかなり前からその存在に気づいてはいたんだけど、あの丸いシールに
中央がぽっこり膨れたあの形って、てっきり……

「それって、ピップエ〇キバンじゃなかったんだ?」
『あのねェ、リン。ボクたち神姫は精密機械のカタマリなんだヨ? そんなモン貼り付け
るわけないでショ!』
 いぶかしげな目つきでリセルの背中を指差していたあたしに、さも小馬鹿にしたような
口調でトロンのヤツが口をはさんできた。
『あ、あの、隣さん。トロン。ふたりとも落ち着いてください!』
 トロンの生意気な口調にカッときたあたしを見て、慌ててリセルが一食触発寸前のあた
したちの間に割って入ってくる。
「まあ、なんだ……それにしても隣ちゃんはえらいな~」
 須賀さんも、さすがにマズイと思ったのだろう。慌てた様子で話しかけてきた。
「え? な、なんのことですか?」
 おそらくは場の空気を変えようとしたのだろうけど、いや~な予感に襲われながらもあ
たしは須賀さんのほうに向き直った。
 横では必死に、リセルが身振り手振りで須賀さんに何かを伝えようとしているが、残念
なことに須賀さんにはまったく伝わっていないようだった。
「ほら、隣ちゃんまだ小さいのにお母さんの手伝いなんてさ。隣ちゃんはいい子だな~っ
て思ってさ」
 もうダメ! といった雰囲気で頭を抱えてうずくまるリセルを尻目に、あたしは今まさ
に墓場から甦ったゾンビでさえ裸足で逃げていくような陰鬱な声でつぶやいた。
「……えぇ、まぁ。……あたしももう17ですから……」
「…………はっ?」

 須賀さんのリアクションは、リセルのそれよりさらに二分後に発せられた。

                          ◆

「それにしても、本当におもしろい子だったな」
 マンションへの帰り道、不機嫌さを隠そうともせず、足取り荒く去っていった少女の後
ろ姿を思い出し俺は思わず苦笑してしまった。
『もう。匠さんの所為でもあるんですよ? 人事みたいに言わないで下さい! ……まあ
わたしも人のことはあまり言えませんけど……』
 俺の態度に、胸ポケットから顔だけ覗かせていたリセルが柳眉を逆立て注意するが、
すぐに自分も当事者のひとりだと思い出し、みるみる語尾が小さくなる。
「はは、ま、お互い様か? それにしてもリセル、お前、やけに隣ちゃんと親しげだった
けど、まさかあの娘のこと知ってたのか?」
 俺は店内での二人のやり取りを思い出し、何気なくたずねてみた。
『えっ、そんな風に見えましたか?』
 リセルは俺を見上げながらうれしそうにそう言った。だが、それ以上話そうとはしない。
俺も、それ以上詮索する必要を感じなかったので、この話はここで終わってしまった。
 リセルはしばらく俺をみつめていたが、やがて背後を振り返った。
『まさか……あの時の女の子が隣さんだったなんて……』
 リセルのつぶやきはあまりにも小さく、俺にはよく聞き取れなかった。
「ん? いま何かいったか?」
『えっ? いえ、なんでもないです。さあ、帰りましょう、匠さん』
 リセルは胸元で手を振りながらそういった。
 そしてもう一度、彼女たちが去っていった方角に目をやった。
                                
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