神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第7話

      
                    武装神姫 クロスロード

               第7話  「隣、危機一髪ッ!!」

「はあ~~~~~~っ!」
『……どしたノ、リン?』
 あたしの特大のため息に、陳列棚によじ登り、商品を吟味していたトロンが怪訝な顔で
こっちを振り返る。ここはDO ITの店内。今日はトロンに必要な消耗品などの買い出しに
店を訪れていた。
「ん~。まあ、ちょっと、ね」
 トロンの問いに、あたしは気乗りのない返事を返す。
 あたしの心をブルーな気分にしている原因が、こっちの気持ちも知らず首をかしげる。
『リン。そんなにボクとねんごろになるのが嫌なノ?』
 とうの昔にあたしの悩みに気づいてたんだろう。トロンのやつは、あたしを見上げなが
ら嫌らしい笑いを浮かべている。
『ダイジョーブだよ、リン。いくら精神的にボクに慮辱されてモ、実際リンの身体は綺麗
なままなんだか、ブッ!』
 得意げにべらべらとしゃべり続けるトロンに、ラス・オブ・ゴッド的なあたしの拳が振
り下ろされる。
「あんたのそういうところが死ぬほど嫌なのよ! あんたとライドシステム使うぐらいな
らいっそ……」
「わたしとライドオンしましょうっ!!」
「へ? きゃああああぁ!?」
 怒りに身体を震わせ怒濤の追い打ちをかけようとしたあたしは、背中から猛烈な衝撃を
受け、そのまま床へと倒れ込んでしまった。
「ちょ、ちょっと美佐緒! なんのつもりよ!」
 床に押し倒されると同時に、あたしの身体は万力みたいな力を込めた腕に羽交い締めに
される。 

    わざわざ振り返らなくても、こんな非常識な真似をするヤツはひとりしかいない!

「せんぱい! わたしとひとつになりましょう? いますぐにっ!!」
 さすがにあたしに撃退され続け知恵をつけたのか、片腕であたしの動きを封じたまま、
残った手のしなやかな指先があたしの身体をまさぐり出す。なんとかふりほどこうとあが
くが、美佐緒の腕はピクリとも動かない。
「美佐緒! いい加減にしないと……や、やだ、あっ?」
 さかんに太もものあたりをまさぐっていた美佐緒の指が、スカートの中に忍び込んでく
る。まるで数匹の蛇に這い回れるような感覚に(い、いや、もちろんそんな体験したこと
ないし、イメージって意味でね?)あたしは不本意ながら声を上げてしまった。
『コラ、みさキチ! リンから離れロ~』
 必死に首を回すと、美佐緒の頭の上にトロンが乗っかり美佐緒の髪の毛を力いっぱい
引っ張っているが、両の瞳に妖しい光を宿した美佐緒はまったく気づかないみたいだ。
『リンの身体を好きにしていいのハ、ボクだけなんダ~』
「それは違うっ!」
 状況が状況だが、あたしは反射的にツッコんでいた。

          っていうか、これって“前門の狼、後門の虎”ってやつですか?

『ウ~、しょうがないナ~、もウ』
 なんかどっちに転んでもろくなことにならない気分になってきたが、ため息をひとつつ
くと、トロンの姿が美佐緒の頭の上から消えてしまった。
「あっ! ちょっとトロン、どこ行くのよ?」

            絶体絶命と言わんばかり状況に、このバカ悪魔!

 トロンの薄情ぶりに頭に血が上ったあたしは、全力で美佐緒を押し返そうとするが、そ
の都度、美佐緒の執拗な指使いに身体の力が抜けてしまう。
「せんぱい……かわいい」
 美佐緒は、唇を舐めながら喘ぐようにつぶやく。
「お、おねがい……美…佐緒。もう、やめ……」
 消え入りそうな声で嘆願するあたしを、美佐緒は頬を上気させながら見つめている。
「だぁめ! さぁ、そろそろフィニッシュですよ。覚悟はいいですか、せんぱい、って…
痛った─────ッ!?  
 勝ち誇ったようにあたしを見下ろす美佐緒の背後で、ズブッ、とかいう柔らかいものに
何かかがめり込むような音がしたとたん、美佐緒は弓のように身体を反らせる。
「!?」
 何が起きたのか全く理解できない状況だったけど、あたしは霞がかかった頭を二、三度
振って意識をはっきりさせると、硬直したままの美佐緒を押し退けるように巨体の下から
這いだした。
「…………」

            なんていったらいいんだろうか? 突き刺さっていた。

 スカートに覆われた美佐緒の豊満なお尻のど真ん中に、強化腕チーグルがズップリと肘
のあたりまでめり込んでいた。
 あんまり見たくなかったけど、チーグルをたどっていくとどこから調達してきたのか、珍しく
ストラーフの基本武装を身につけたトロンの姿が目に飛び込んできた。



     トロンは笑っていた。なおもチーグルを美佐緒のお尻にねじ込みながら……



               それはまさしく、悪魔の所業だった。

                          ※

「トロンの馬鹿! 花も恥じらう乙女になんてことするのよ!!」
 痙攣しながら悶絶していた美佐緒だが、しばらく放っておくと案の定復活し、自分のこ
とを棚に上げてお尻を押さえながらトロンに詰め寄った。 
『ふン。ちょっト“ピーッ”が広がっただけだロ? “ピーッ”がふたつにならなかっただけ
でモ、ボクに感謝してほしいもんだネ』
 鼻の穴をほじりながら加虐的な笑みを浮かべるトロンに、美佐緒は巣籠り前のリスのよ
うに頬をふくらませる。
「ひっどぉ~い! わたし、前も後ろも初めてはせんぱいに捧げるって決めてたのに!」
「いらんわ、ンなもんっ!!」

     乱れた着衣を整えながら、あたしは血を吐くような叫びとともにツッコんだ。

                           ※

『すべての原因は、拙者の監督ふゆき届け……拙者、腹を切ってお詫びするでござるッ!』
「だから止めなさいって!」
裂帛の気合いとともにお腹に突き立てようとした脇差しを、あたしは慌てて奪いとる。
「ガーネットがそんなに責任感じることなんてないでしょう?」
『ですが、それでは拙者の気が……』
 ガーネットは、目の端に涙を浮かべながらあたしを見上げていたが、やがてがっくりと
うなだれてしまう。
 人一倍責任感の強い彼女のことだ、その無念さも相当のものだったのだろう。かすかに
小さな身体を震わせるガーネット。


 でも、身に纏ったプリ〇ュアとかいうアニメキャラの衣装が、ガーネットの放つ悲壮感に
水を差しまくっていたことはあたし一人の胸にしまっておいた……


「ほら、それにあんな目にあったらさ、どうにも……」
『…………』
「あっ!」
 なんとか場を取り繕うとしたあたしの一言は、逆効果みたいだった。
 顔を朱に染めうつむいてしまったガーネットを見て、あたしは両手で口元を押さえる。
美佐緒のバッグの中で、たこ糸で淫猥な姿に縛り上げられたガーネットの姿を思いだして
いた。実際ガーネットがいくらがんばろうとも、あの状況では手も足もでなかったろう。
「うふふ、あれは最近では会心の出来で……あ痛っ!」
「何、自慢げな顔してんのよ、あんたは!」
 頭を押さえてうめく美佐緒を、あたしは拳を震わせながらにらみつける。
「いい、美佐緒? あんたも今度こんな馬鹿な真似したらとどめ刺すわよ?」
「うう、せんぱいだって感じてたくせにぃ……」
「……何か言った?……」
「あ!? う、うそです! わたしの気のせいで……あら?」
 あたしの迫力に、美佐緒は慌てて両手を振って愛想笑いを浮かべるが、その動きがハタ
と止まってしまった。
「どうしたのよ急に?」
「せんぱい、あれ」
 痛みも忘れてしまったのだろうか、美佐緒は指で一点を指さしている。
 美佐緒が指し示す先に、一組の男女が人目を避けるように人気のない陳列棚の前に立っ
ていた。
 あたしたちの間にはかなりの距離があったが、目を凝らしてみると女性の方に見覚えが
あった。
「姫宮先輩?」
 男の人は記憶になかったが、相手の女性は間違いなく姫宮先輩だった。ふたりは熱心に
何か話しているようだった。
「先輩、あんなところで何を……って、あんたたち、何やってんのよ?」
 あたしは、いつの間にか辺りを伺いながら先輩たちの方に向かってはいずって行くトロ
ンと美佐緒に気づき、ふたりをとがめた。
『シッ! シャラップ、リン。あの清純そうな顔したかおリンが男と逢い引きしてんだヨ?』
 先頭を進んでいたトロンが、どこから持ってきたのか古ぼけた鉄かぶとをすっぽり被り、
り人差し指を口に当てながらこっちをにらんでいる。
「そうですよ、せんぱい。今は己の欲望の赴くまま、前進あるのみです!」
 鉄かぶとの縁を持ち上げながら、珍しく真面目な顔であたしに話しかける美佐緒。
「あんたたちねぇ、何バカなこと……ん?」
 あたしは、かすかに眉をひそめた。
「二人とも、帰るわよ!」
 力任せにトロンと美佐緒の首根っこをつかむと、あたしは有無をいわさずレジの方へと
歩きだした。
『ちょ、ちょっとリン、何ヲ?』
「い、痛たたたた。どうしたんですか、せんぱい!」
 それぞれ不満を口にしていたトロンたちはおろか、ガーネットでさえあたしの発する無
言の迫力に何かを察したのか黙り込んでしまう。

 あたしの方に振り向いていたトロンと美佐緒は気がつかなかったのだろう。
 でも、あたしには確かに見た。


                 姫宮先輩の頬を伝う涙を。
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