神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

武装神姫 クロスロード 第9話

                    武装神姫 クロスロード

              第9話     「天使降臨」

「じゃ、じゃあ、いくわよ?」
 しんと静まり返った部屋の中、あたしはつばを飲み込みながら誰にともなくつぶやいた。
眼前の机上にはクレイドルが置かれ、その上にはアーンヴァルが目を閉じ静かに横たわっ
ている。
 この瞬間を迎えるために乗り越えた艱難辛苦の数々を思いだし、あたしは感涙に頬を濡
らす。
 運良くアーンヴァルを手に入れたあたしだが、CSCやクレイドルといった神姫を動かすの
に必須の品を何一つ用意してないのに気づき、閉店間際のDO ITを強襲……もとい、来
訪したのだ。
 内心は困惑していただろうが、店長さんは嫌な顔もせずあたしの相談に親身になって答
えてくれた。
 なんとか目的のブツをそろえ、はやる心を押さえて家路についたが、三度ほど車にひか
れかけられるわ、飛び乗ろうとした電車の扉が閉まり身体を挟まれるわ、あげくの果てに、
家の目の前で何故かおまわりさんに呼び止められ、あれこれ質問されたりとさんざんな目
にあってしまったがあたしは少しもめげなかった!

       だって、あこがれのアーンヴァルを手に入れちゃったんだもんね~。

 まあ、部屋に戻ったあとも、緊張してブリスターを開けるとき、また中身を全部ぶちま
けちゃったり(もちろん、神姫は無事キャッチしたけどね)、起動前に充電するのをすっ
かり忘れて、「この神姫、動かない!」とパニくったり大騒ぎをしながらようやく眼下の
神姫の起動にこぎつけたわけだった。
『ン~。どしたノ、リン?』
 クレイドルの上のアーンヴァルを見ていたトロンが、怪訝そうに動きの固まったままの
あたしを見上げる。
「い、いや~、なんか緊張しちゃって。やっぱりさぁ、念願のアーンヴァルだし、こうい
う場合ってしばらく神棚かなんかに飾っておいたほうがいいのかな~、とか思ったり」
 頭を掻きながら照れ笑いを浮かべるあたしを、トロンは呆れたような顔で見つめている。
『……バカなこと言ってないデ、さっさと起動しちゃいなヨ!』
 トロンはあたしを遮るように、足でEnterキーを押してしまった。
「あっ! な、何すんのよ?」
 神姫にとって起動とは、命の炎が灯される──神聖な儀式のようなものだった。
 もっとも期待と不安が入り交じる瞬間をトロンに横取りされる形になり、あたしは不機
嫌そうに声を荒げるが、トロンは知らん顔でそっぽを向いている。
 トロンの態度にムッときたが、あたしの耳に聞こえてきたかすかな物音に慌てて机に
視線をもどす。
 クレイドル上のアーンヴァルの身体が、小刻みに動いていた。
『FRONT LINE社製、MMSーAutomaton。FLOー12、天使型アーンヴァル。セット
アップ完了、起動します』
 抑揚のない声でつぶやくと、黄金色の髪に隠れていたまつげがかすかに震え、瞳が静
かに開く。
「ど、どうしよう、トロン。この子、動き出しちゃったよ。 に、逃げよっか?」
『……落ち着きなヨ。逃げてどうすんのサ?』
 おろおろとするあたしを見上げながら、トロンが呆れたような表情でいさめる。
 とりあえず、大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着けると机の上へと首を回す。澄んだ藍
色の瞳があたしを見ていた。
『……』
 ぼんやりとあたしを見つめていたアーンヴァルだが、しばらくすると焦点が結ばれ、瞳
にあたしの姿が映し出される。
『貴女がわたしのマスターですか?』
 クレイドルから身を起こしながら、アーンヴァルが杓子定規な口調で尋ねる。
「え、ええ。そうよ」
 なんか、あまりにもトロンの時と違う展開に(もっともこっちの方が普通なんだろうけど
ね)、ためらいながらもそう答える。
『認証作業終了。登録の完了した女性を、マスターと認識しました』
 アーンヴァルは小声でつぶやくと、静かに目を閉じる。でも、それはほんのわずかな間
だった。屈託のない笑みを浮かべると、天使型の神姫はあたしを真っ正面から見つめた。
『これからよろしくお願いします、マスター』
 起動直後の堅さが嘘のように、少しはにかんだような笑みを浮かべて、ぺこりと頭を下
げるアーンヴァル。

      こ、これよ! これこそあたしが夢にまでみた理想の神姫の姿よ!!

 あたしはプルプルと握りしめた拳を震わせ、感動に打ち震えていた。
『あ、あの~、マスター?』
 あきらかに、とまどいと脅えの表情を浮かべたアーンヴァルが、恐る恐るあたしに話し
かけてくる。
「え、何?」
 ようやくドリームワールドから帰還したあたしは、照れ隠しに咳払いをしながら尋ねる。
『あ、はい。 その、わたしに名前をつけていただけるとうれしいんですけど……』
「な、名前?」
 おずおずと口をひらくアーンヴァルに、あたしは固まってしまった。

            そ、そういえば、名前まだ考えてなかった……

 さんざんトロンに八つ当たりしたが、あたしだってまさか本当にアーンヴァルをGET
できるなんて夢にも思ってはいなかった。
 期待に胸を膨らませ、キラキラと輝く瞳であたしを見上げるアーンヴァルから露骨に目
をそらすと、あたしは頭をフル回転させはじめる。
「え、え~と…………あっ、そうだ。“ルシエル”なんてどうかな?」
『……まだソレにこだわってたノ?』
「うっ」
 凍てつくような声音でつぶやくトロン。
「な、なんでダメなのよ? あんたは気に入らなかったんだから、別に……」
 あたしの反論は途中で止まってしまった。トロンが両手で大きなバッテンを作ってあた
しを睨みつけているというのも理由のひとつだったけど、それよりトロンの雰囲気がいつ
もとまるで違っていることがあたしから反撃の意志を奪ってしまった。

 それにしても、なんでトロンはここまで頑なに“ルシエル”という名前をいやがるのだろうか?

 あたしは、初めてトロンにこの名前を薦めた時の事を思い出していた。真っ正面から見
つめるあたしの視線に気づくと、トロンは慌てて目を反らした。


                       あっ、まさか……


 その瞬間、あたしの脳裏に閃くものがあった。
『え~と……』
「ご、ごめん。すぐ考えるからね」
 けれど、心配そうな顔であたしを見上げるアーンヴァルと目が合ったとたん、あたしの
思考はそこでさえぎられてしまった。
「そうねぇ、う~~~~~~ん」」
 腕を組んで考えることしばし、あたしはようやく口をひらく。
「じゃあ、アーンヴァルだから“アーたん”とかどう?」
 アーンヴァルは遠慮がちに首を横に振る。
 このあとも、“ポチョムキン”とか“独歩”とか、心に思い浮かんだ名前を次々とあげて
いくが、なかなか気に入ったものがないようだった。
 新しい名前を口にする度に首を振り続けたアーンヴァルだったが、最後の方になると
首を振るのを止めてしまい泣きそうな顔になる。
「あっ、ごめん。 え~と、え~~~とぉ……」
 唇を噛みしめながら、涙目であたしを見上げるアーンヴァル。

             ああ、なんか鼻水まで垂れてきちゃってるよ……

 さすがにその姿を見て不憫に思うが、いくら焦ってもいいネーミングは浮かばない。
 その時、オーバーヒート寸前まで酷使したあたしの頭にキュピンと閃くものがあった。
「よし! あなたの名前は“ルーシィ”よっ!」
『えっ、ルーシィ?』
 ついにうつむき、表情まで見えなくなっていたアーンヴァルが、ハッとしたように顔を
上げる。
「ええ、そうよ! ……あの、お気に召しましたか?」
『何、ヒクツになってるのサ?』
 揉み手をしながら下手に尋ねるあたしに、冷ややかに見上げていたトロンが氷点下
級のツッコミをかましてくる。
 とりあえず、そんなトロンをシカトして今現在の悩みのタネに目をやると、アーンヴァ
ルは自分の胸に手を当てて、『ルーシィ』と何度も繰り返しながらつぶやいていた。
『とても素敵な名前です。ありがとうございます、マスター!』
 パッと輝くような笑みを浮かべながらはしゃぐルーシィ。あたしはそんな彼女を眺めな
がらホッとする一方、脱力感に襲われる。

 つ、疲れた。なんで神姫の名前を決めるのに、こんなに苦労しなきゃいけないの?

 安堵のため息をもらしながらいすの背にもたれかかっていると、皮肉をたっぷりと含
んだ声があたしの耳朶を打つ。 
『ホントにリンは単細胞だネ。そんな二、ルシエルって名前が使いたかったノ?』
 さすがにトロンのヤツは、ルーシィの名前の意味に気づいたみたいだった。
「う、うっさいわね! あの子も気に入ったみたいなんだからいいでしょう?」
 心底呆れ果てたと言わんばかりに肩をすくめるトロンに、あたしは顔を口にして反論す
る。
『マ、リンの好きにすればいいサ』
 トロンは、そんなあたしを見上げながら苦笑している。
『あの~、マスター?』
「は、はい! なにかご用でしょうか?」
 控えめに話しかけてくるルーシィに、あたしは反射的に立ち上がる。

              い、いかん! ヘンなトラウマになってる。

「おほん! えっと、何か用かな?」
 盛大な咳払いをしながら取り繕うと、呆気にとられながらあたしを見上げるルーシィに
微笑んでみせる。
『あのですね。マスターのことはなんとお呼びしたらいいでしょうか?』
「え? あたしのこと? そうねぇ、じゃあ……」
『テキトーに、ポチョムキンでいいヨ』
「お前は黙っとれ!」
 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべるトロンに、あたしは牙を剥いて威嚇する。
 でも実際、ルーシィの名前の一件で疲労困憊状態におちいったあたしは即答できなか
った。ルーシィがいま使っている“マスター”という呼び方はもっとも一般的だけど、どうも
あたしは好きになれなかった。

 あごに手を当て、思考のループに突入してしまったあたしを無視するかのように、億劫
そうにトロンが口をひらく。
『リンでいいんじゃないノ?』
『では、リンさまでよろしいでしょうか?』
「へ? リンさま? う~ん……まあ、それでいっか」
 なんかトロンに勝手につけられたのが引っかかるけど、これといってリクエストがある
わけでもなく、自分を納得させるためにつぶやくと、屈託のない笑みを浮かべるルーシィ。
『いろいろと至らぬところもあると思いますが、よろしくお願いします、リンさま』
「うん。こちらこそよろしくね、ルーシィ」
 深々と頭を下げるルーシィにあたしも釣られて頭を下げる。
『それと……』
 ルーシィはそう言うと、トロンの方に向き直る。
『ボクはトロン。マ、よろしくネ』
 ルーシィの表情から察したのだろうか、親指を立てながら眠そうな声で自己紹介をする
トロンに、ルーシィが顔をほころばせる。
『わたし、起動したてで何もわからないからいろいろ教えてくださいね、トロンさん』
 律儀にトロンにまで頭を下げるルーシィ。でもトロンはそんな彼女を見て、眉を寄せて
いる。
『なんカ、かたっくるしいネ、キミ』
『えっ。そ、そうですか?』
 トロンの態度に、ルーシィが慌てて顔を上げる。
『ボクはそういうの好きじゃないんダ。ボクのことは呼び捨てでいいヨ。その代わリ、ボ
クもキミのことをルゥって呼ばせてもらうからサ』
『ルゥ、ですか?』
 なんの脈絡もなく、突然つけられた愛称にルーシィはとまどった様子だったけど、すぐ
に笑顔になった。
『わかりました。それでは、あらためてよろしくお願いしますね、トロンさ……あっ?』
 トロンの眉根が寄るのを見て、ルーシィが両手で口をおおう。
『じゃあ、よ、よろしくね。 その、トロン……ちゃん』
 頬を赤らめながら、もじもじするルーシィ。

     くぅ~、たまんねぇ。 何、この初々しさ。ルーシィってば、マジ天使! 

『……あのさア、リン。ヨダレ拭いたら? みっともないヨ』
 トロンの呆れきったような声も、滝のようなヨダレを流し、ヘヴンモードになったあた
しの耳にはまるで届いてはいなかった。




             こうして、我が家に新しい家族が加わった。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。