神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第10話

        
                   武装神姫 クロスロード

              第10話 「機械の正しい修理法」

「オー マイ ガッ!」
 あたしは頭を抱えながら叫んでいた。

 色とりどりの洗濯物に紛れて、目の前を飽きることなく回転を続けるコレって……あた
しの携帯?

                           ※

「やっぱりダメ! 動かない~~~」
 エメラルドグリーンに輝く携帯を投げ出すと、あたしは机に突っ伏した。
『まったク、何やってんのサ?』
 目の前で動きを止めたウエット感あふれる携帯を見つめながら、トロンが大きなため息
をつく。
「しょうがないでしょう? ポケットに入れたの忘れてたのよ!」
 八つ当たりなのは重々承知の上だが、あたしは歯を剥き出しながらトロンに怒りをぶつ
ける。
『そりゃア、自業自得ってやつでしョ? ボクには関係ないネ』
 ここらへんは慣れたもので、我関知せず、と言わんばかりに涼しい顔で答えるトロンを
見て、あたしはがっくりとうなだれる。
『あ、あの、リンさま。一応修理にだしてみてはどうでしょうか?』
 トロンとは対照的に、あたしの剣幕に恐れおののきながら、おずおずと話しかけてくる
ルーシィ。その提案に脳裏に稲妻が走り、あたしは慌てて身体を起こす。
「修理? そ、それよ!」
 あたしは携帯を机の真ん中に置くと、静かに立ち上がる。そして大きく息を吸うと、そ
っと目を閉じ、精神集中を始める。
 突然のあたしの行動に、ルーシィはおろかトロンですら何かを感じたのか、息を飲む気
配がした。

              「チェスト─────────ッ!」

 裂帛の気合いとともに、渾身の力を込めた右手を机の上の携帯に叩き込む。
 ルーシィの『ひっ!?』という、短い悲鳴が聞こえた。
「……ふう。これでよし!」
 あたしは息を吐きながら、真ん中がベッコリとヘコんだ携帯を見つめ、満足そうにつぶ
やいた。

                           ※

「あ~~~ん、やっぱりダメ~~~。何でぇ~~~?」
 無惨にひしゃげた携帯を放り出しながら、あたしは再び机に突っ伏した。
『……あのさァ、リン』
 そんなあたしを黙って見ていたトロンが、なにか疲れ果てたと言わんばかりの顔をしな
がら、沈んだ声で話しかけてくる。
「何よ!」
 乱暴に尋ねるが、トロンは顔色ひとつ変えない。
『ボク、前から思ってたんだけド、リンの機械に対する接し方ってナンか間違ってなイ?』
「そんなことないわよ! “止まったら殴れ!”これはおじいちゃんに教わったやり方な
のよ?」

 いまから数十年前に、日本を震撼させた地上デジタル化。この地デジ化直後から、我が
家の居間に鎮座するビンテージ物のテレビがいまだに現役なのも、ひとえにこの修理法を
続けた結果である。
 必死にその有効性を説明するが、トロンはげんなりとした表情であたしを見上げるだけ
だった。その横で、なにかに憑かれたような顔をしながら、ルーシィがひたすら首を横に振
っていた。

                           ※

「うう、それにしても、どうしようコレ……」
 完全にご臨終状態と化したマイ携帯を握りしめ、あたしは途方に暮れていた。
『そんなに悩まなくてモ、買い換えればいいだけじゃないノ?』
「そんなお金が、どこにあるのよ!」
 つまらなそうに尋ねてくるトロンに、あたしは脊髄反射でツッコんでいた。
 以前、トロンのバカが勝手にあたしの口座からお金を引き出したため、一度はゼロにな
ったあたしの貯金。
 倹約に倹約を重ね、ようやく幾ばくかの蓄えができたと思ったら、今回のルーシィの一
件で再び貯金は激減してしまい、とても携帯を買うような余裕はあたしにはなかった。
『ふ~ン。……よシ! ボクのまかせてヨ』
 トロンはくるりときびすを返すと、机の上のノートパソコンめがけて走り出す。
「ちょ、まかせろって、どうするつもりよ?」
 がっくりと肩を落としていたあたしだが、トロンの奇行が理解できず顔をあげる。
『あ、あの、ひょっとしてわたしのせい……ですか?』
 思い当たる節があったのだろうか。あたしの背中にルーシィの声が投げかけられる。
 振り返ると、ルーシィは不安気な表情であたしを見上げていた。
「ううん。ルーシィは関係ないよ」
 今にも泣きだしそうなルーシィの頭を、あたしは優しく撫でさすった。
『ただいマ~』
 しばらくして、なにやらパソコンをいじっていたトロンが、何事もなかったように戻っ
てくる。
「何やってたのよ?」
『ふふフ。ちょっとネ』
 得意気なトロンに、あたしは眉をひそめる。
 トロンの不可解な行動も気になったけど、あたしは大きく息を吐くと、現状に対する結
論を出した。

   しかたがないわね。ルーシィという家族ができたんだ。今は我慢あるのみ!

 無い物ねだりをしても虚しくなるだけだと気づいたあたしは心機一転、気持ちを入れ替
えた。
「まあ、ちょっと不便だけど、別に死ぬわけじゃないしね。ルーシィも気にしちゃ……っ
て、あれ、ルーシィ?」
 努めて明るく振る舞いながら微笑みかけるが、視線の先にルーシィの姿はなかった。
 驚き辺りを見回すと、机の端の方にルーシィとトロンがしゃがみ込んでいる。回り込む
ようにしてのぞいてみると、いつのまに持ってきたのか、首の後ろから伸びたケーブルと
携帯を繋いだトロンが壊れた携帯をさかんにいじっていた。
『どう、トロンちゃん?』
『ン~。まァ、メモリーまでダメージはいってないみたいだけどネ』
 心配そうに尋ねるルーシィ。トロンの答えに表情が明るくなる。
『リンさま! 携帯用のUSBケーブルはありますか?』
 ルーシィはあたしの側まで走り寄ってくると、息を切らせて問いかけてくる。
「へ? ケーブル? そりゃあ、あるにはあるけど……そんなモノ、どうする気なの?」
 うれしそうにピョンピョンと跳ね回るルーシィ。なにか考えがあるようだけど、まるで
思い当たることのないあたしは、ただ困惑するだけだった。
『わたし、リンさまの携帯になります!』
「はっ?」
 両腕を胸元まで上げ、得意げに言い切るルーシィ。
 あたしのあごが、カクンと落ちた。

                          ※

「通信用モバイル機能を搭載している?」
 確認するかのように尋ねるあたしに、ルーシィは力一杯うなずいている。
 要は、ルーシィ自身が携帯電話としての能力を持っているということらしい。
『わたし、こう見えてもアーンヴァルの最新モデルなんです!』
 もっとも初期の神姫であるアーンヴァルだけど、現行の神姫に対抗するために、OSや
ジェネレーターの改良などは常に行われており、地道にヴァージョンアップを繰り返して
いた。
 得意げに胸を張るルーシィ。あたしは素直に感心したふりをしていたが、そんなものを
わざわざ神姫に付ける必要があるのだろうかと、内心首をかしげていた。
 ルーシィは手渡されたケーブルを首の後ろに差し込むと、残った方を折れ曲がった携帯
に接続する。途端にルーシィの瞳から光が消えていく。
『……接続終了。メモリーからのデーターの転送を開始します』
 抑揚のない声で現状を報告するルーシィ。どうやら携帯のデーターは無事みたいだった。
それから待つこと数分。ルーシィは、自らに接続していたケーブルを静かに引き抜く。
『リンさまの携帯のデーターは、わたしのメモリー内にすべてバックアップしました。こ
れで、わたし自身を使っての会話が可能になります』
「会話って……こうするの?」
 あたしはルーシィをむんずと掴むと、耳にあてがう。
 自分の顔をあたしの耳に押しつけられ、ルーシィが苦しそうに説明を始める。
『い、いえ。スピーカーと集音マイクはわたしに内蔵されていますので、ふつうに会話し
ていただければ大丈夫です』
「あ、そうなんだ? ごめん」
 あわててルーシィを机の上に降ろす。
『ふう。 もし電話がかかってきたら、わたしの鼻の頭を押してください。そうすれば通
話が始まります』
「ふ~ん、そうなんだ? でも、いきなりそういわれてもねぇ……」

 鼻息荒く、『いつでも準備OK!』 といわんばかりのルーシィだが、相手から電話が
かかってこなければどうにもならないわけで……

『とぅるるるるるるっ! とぅるるるるるるるっ!』
「きゃ!?」
 せっかく、やる気満々のルーシィの行為に水を差すのもかわいそうだと思い、とりあえ
ず自宅の電話を使いテストをしようとあたしが腰を上げると、いきなりルーシィが奇声を
あげる。
「な、何よコレ?」
『う~ン。 これっテ、呼び出し音じゃないノ?』
 さすがにトロンもこれには驚いたらしく、薄気味悪そうにルーシィを見つめている。
 そんなことを露とも知らず、虚ろな目をしたまま唇をつきだし、ルーシィは呼び出し音
を繰り返す。
「それにしたって狙いすぎでしょ、このタイミングは?」
『まァ、ストーリーを円滑に進めるためにハ、止む終えない演出ってヤツだネ』
「なんの話よ?」
 腕を組んだまま、ひとり納得したようにうんうんとうなずくトロンに、あたしは眉をひ
そめる。
 そんなあたしたちをよそに、いまだに呼び出し音を熱演し続けるルーシィ。ちょっとお
っかなかったけど、あたしは恐る恐るルーシィの鼻の頭を指先で押してみた。
『あ~、せんぱいですか~。わ・た・し・です!』
 ルーシィの口からつむがれたのは、美佐緒の脳天気ボイスだった。
 絶妙なタイミングに驚いたが、それより身体を硬直させながら能面のような表情を浮か
べて美佐緒の声で話すルーシィの不気味なこと! 
 あたしは距離をあけると、ルーシィに話しかけた。

「どうしたのよ、こんな時間に?」
「どうしたもこうしたも、さっきのメールの件、わたしは何枚でもOKですよ!」
 妙に熱の籠もった口調で話し続ける美佐緒。
「はっ? メール?? 何枚???」
 まるで要領を得ない会話に、あたしはとまどうばかりだ。
「もう、何を言ってるんですか、せんぱい? 少し前にメールくれたじゃないですか!」
 あたしの頭に稲妻が閃く。机の上にあったノートパソコンを引き寄せると、いつの間に
か開いていたメール画面をのぞき込む。













                  あたしのパンツ、買わない?
















 画面に浮かび上がった、きわめて短い一文を読み上げた時には、あたしの手にはガッチ
リとトロンが握りしめられていた。      
『ぷ、ぷぷプ。 リ、リン。落ち…着…いテ』
 青黒い顔で必死に話しかけるトロンだが、あたしはまるで聞く耳を持たなかった。
「うふ、うふふふふふふふ。トロン、あんたやっぱりどっか壊れてたのね? でも、安心
して。あたしがすぐに直してあげるから♪」
 目の前に掲げられた手から、なんとか逃げだそうと身をよじるが、トロンの身体はピク
リとも動かない。
 あたしは、右手を静かに振り上げる。

「チェスト───────ッ!!!」
『NOォおおおおおおおおおおおオッ!』

 こうして、あたしの献身的な修理は夜を徹して行われ、この日、一ノ瀬家に新たな家訓
が加わった。






                 曰く、“直るまで殴れ!”
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