神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第6話

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴っている。
「……うう、本当にもう、最っ低ぇ~!」
 机に突っ伏しながら、呪詛のごとく何度つぶやいたかわからないセリフが、あたしの口
からもれる。
「……あの、どこか具合でも悪いの? 一ノ瀬さん」
 あたしは突然声をかけられ、ハッとして顔を上げた。そこには心配そうにあたしの顔を
覗き込む、クラスメートの秋野さんの姿があった。
「ううん、 別にどこも悪くないから大丈夫だよ」
「本当かよ? もう昼めしだっていうのに、ピクリとも動かないからさ~」
 笑いながら秋野さんに答えると、その後ろから、少しはすっぱな口調の佐山さんがひょ
いと首を出し、あたしに尋ねてきた。
 艶のある黒髪をおさげにし、おとなしそうな秋野さんと、短めに刈りそろえた茶色の髪
が見た目どおりワイルドな印象の佐山さん。対照的な二人だが気が合うのか、いつも
一緒にいる。
 正直、あいさつをするぐらいで、それほど親しい仲というわけではないが、あたしのこと
を心配してくれたのがすごくうれしかった。
「ありがとう二人とも、ほんとうにもう大丈夫だよ。あ~あ、もうお昼か、朝から走り回って
あたしおなかペコペコだよ」
 つとめて明るくふるまうと、あたしはお弁当を取り出そうとカバンに手を突っ込んだ。
 
 まあ、考えようによっては、あの後トロンのやつがセルフスリープモードに入ったかの
ように爆睡しててくれたのが不幸中の幸いって……ん?
 
「どうかしたの、一ノ瀬さん?」
 題名、「弁当箱に手を伸ばす可憐な少女」と名付けてもいいほどに彫像と化していた
あたしの耳に、秋野さんの声が響く。
「え? え~と……あたし、お弁当忘れちゃったみたいだからちょっと学食行ってくる。
じゃ、じゃあね。秋野さん、佐山さん」
顔を見合わせ唖然としている二人を残し教室のドアをくぐると、あたしは本日三度目の
全力疾走に移った。
 
           「どこ行きやがった! バカ悪魔―――――――ッ!!」
 
                  わんだふる神姫ライフ
 
           第6話     「姫と騎士」
 
                          ◆
 穏やかな木漏れ日がさんさんと私に降り注ぐ、お昼時の教室や学生食堂を包み込んで
いた喧騒やざわめきは、ここには無い。
 
                   本当にここは学校なのかな……
 
 一瞬、そんな考えが頭をよぎる。私は箸を止めると空を見上げながらポツリと呟いた。
「本当に、いいお天気ね」
『まことにその通りですな、姫』
 妙にかしこまった返答に思わず苦笑を浮かべた私は、声のした方に視線を移した。
 声の主は、私の腰掛けているベンチの端の方にいた。蒼穹の空を思わせる蒼色の甲冑
に身を包み、穏やかな陽の光を受け、きらきらと光る見事なブロンドの髪が静かに風に揺
れている。
 その小さな騎士はベンチの上に片膝をつき、こうべを垂れたまま、まるで何年も前から
そうしていたかのように微動だに動かなかった。
「ねぇ、レスティーア。その『姫』って言う呼び方は止めてもらえないかな?」
『な、何故にございますか? 姫ッ!』
 彫像のようにピクリとも動かなかったレスティーアが、私の言葉に“信じられぬ”と言わ
んばかりの驚愕の表情を見せる。
 
                    綺麗だなぁ~。
 
 女の私から見ても、軽い嫉妬を覚えてしまうほどの彫りの深い整った顔立ち、思わず
見惚れてしまった私の瞳に、レスティーアの驚きと戸惑いを纏わせたコバルトブルーの
瞳が映った時、私は我に返った。
「あ、あのね、違うのよ、レスティーア。別にその呼び方が嫌というわけじゃなくてね。
えっと、人がたくさん集まってる所とかでいきなり『姫』とか呼ばれるのが恥ずかしいと
言うか……」
 しどろもどろになった私の言葉に、ようやく落ち着きを見せるレスティーア。その表情
にも、いつもの凛々しさが戻る。
『何を仰いますか。我が主君たる方を『姫』とお呼びする事になんの不都合がございまし
ょうか? まして、そのような事で我が姫を愚弄する者がおりますれば、私が即刻処断
いたしますゆえに、どうかご安心くだされ』
「う、うんっ。その時はよろしく……ね。レスティーア」
『ハッ、お任せくだされ、姫!』
 絶対にそんな物騒な時が来て欲しくないと心の中で祈りながら、何回繰り返したか忘
れてしまったこの会話は、レスティーアが自身ありげに自分の甲冑をドンと叩く音で終わ
りを告げる。
 
               私って、やっぱり押しが弱いのかな。
 
 大きなため息をつくと、とりあえずお弁当を食べてしまおうと箸を動かし始めたが、私
の手はすぐに止まってしまった。
「あれ? タコさんウィンナーが無い……」
『はっ? タコさんウィンナー……ですか、姫?』
 私の言葉に要領を得ないレスティーアが、怪訝な表情で聞いてくる。
「うん……どこかに落ちちゃったのかな?」
『ふぅ~ン。これがタコさんウィンナー、ねェ……』
 行方不明になったウィンナーを探してキョロキョロとしていた私は、いきなり聞こえた
声に驚きながらも、視線を声の主の方に向けた。
「あらっ、ストラーフ?」
 声の主は、私のすぐとなりに両足を投げ出し、ペタンと座り込んだ悪魔型の神姫だった。
両手で持ったウィンナーを口いっぱいに頬ばり、モグモグと咀嚼中だ。
『ン~、これが“おいしイ”っていうやつなのかなァ~。ボクにはよくわかんないヤ……
……もウ、コレ返すヨ……ハイッ』
 なんか見ている私のほうが思わず「大丈夫なの?」と聞きたくなるぐらい眠そうな顔の
ストラーフは、頬ばっていたウィンナーをゴクンと飲み込みながら(飲み込んじゃったけ
ど大丈夫なのかな?)つまらなそうな顔をして、私に小さな歯形の付いたタコさんウィン
ナーを差し出してきた。
「え? うん。 あの、あなたは……」
『きさま! 先程から我が姫への無礼な振る舞いの数々、もはや我慢ならんっ! 我が剣
のサビとなる前に名を名乗るがいいッ!』
『あのねェ~、ヒトに名を尋ねる時ハ、まず自分から名乗るべきじゃないノ?』
『ぐっ?』
 わなわなと怒りで全身を震わせながら腰の長剣に手をかけ、切りかかろうとしたレステ
ィーアだったが、まるで動ずる事もなく平然とした態度のストラーフの一言に黙ってしまう。
 
 やっぱり礼儀という点では、このちょっと変わった感じのするストラーフの言ってる事
のほうが正論だしね、うん!
 
 釈然としないといった表情をみせながら、目の前のストラーフを睨みつけていたが、
それでもレスティーアは大きく息を吸うと、吐き捨てるように叫んだ。
『我が名はレスティーア。姫をお守りする、誇り高き騎士だ!』
『ふ~ン、ボクはトロン。まァ、ボクはかたっくるしいのは苦手だからさァ、ざっくばら
んに『トロン様』とでも呼んでヨ』
『ふ、ふざけるな! 何故きさまのような輩に、様づけせねばならんのだ!』
『もォ、おこりんぼさんだねェ~、レスPは』
『な、何ぃ~。だ、誰がレスPだ! 我が名は……』
 いくらレスティーアが声を荒げようとも眉一つ動かさず、からかうような口調で応じる
ストラーフに、レスティーアの白い肌はみるみると赤く染まっていく。
 
                う~ん、これはちょっと不味いかな?
 
 どうやら、真面目すぎる性格のレスティーアと、目の前のストラーフはあんまり相性が
良くないみたいだ。このままだと……
 そう私が考えていると、レスティーアは手にした長剣をゆっくりと鞘から抜き始めた。
驚いた私は、慌てて二人を止めようとベンチから腰を浮かしたが、とつぜん浴びせかけ
られた怒声に身動きできなくなってしまった。
「あ───っ、見つけた───っ! ハァ、ハァ、ど、どこ行ってたのよ。バカ悪魔!」
 声の主は、仁王立ちで私の方を指差している、ちょっとキツめな瞳が印象的な小柄な女
生徒だった。肩で息をしながら、春もまだ遠いというのに滝のような汗を流している。
 まったく身に覚えが無いとはいえ、今にも掴みかかってきそうな雰囲気にたじろいでし
まった私だが、よく見ると、目の前の女生徒の射るような視線とぷるぷると震える指先が
示しているのが、私の斜め下、ベンチの上である事に気がついた。
                        ◆
『あれェ~、リンじゃないカ……どーしたノ? ちょっと会わないうち二、学校中走り回
った後みたいな顔してるケド……』
「だ、だ、誰のせいだと思ってんのよ、このバカ悪魔! あ、あれほど……ん?」
 カバンの中から脱走したトロンを探して、校内を走り回ったあたしは、ようやく中庭で
ぼけ~っとした顔のトロンを発見した。
 スコールの直撃でも受けたかのように目の中に入ってくる汗で視界は歪み、あたしの
肺は、文句なんか言ってるヒマがあるなら呼吸しろ! とシュプレヒコールをあげている。
 極限の疲労でガクガクと笑う膝を怒りで支えながら、自分の置かれた状況を理解して
いないトロンに詰め寄ったあたしは、ようやくトロンと同じベンチに腰掛けた女生徒と、彼
女のすぐ傍にいる騎士型の神姫(確かサイフォス……だっけ?)の存在に気がついた。
 ふたりとも、あっけにとられた表情であたしを見つめている。
「あ、あの、 あたし、二年の一ノ瀬といいます。 その、ウチのトロンが何か失礼な事を
しましたか?」
『失礼も何も、このストラーフは姫の……ム、ムグ!?』
「くす、この娘とは、お話していただけよ。 あ、私は三年の姫宮かおり。よろしくね、一
ノ瀬さん」
 恐る恐る尋ねるあたしに、烈火のごとき怒りをぶつけようとするサイフォスの口を塞ぎ
ながら姫宮さんは、柔和な笑みを口元に浮かべ、あたしとトロンを交互に見つめそう言っ
た。
 姫宮さんは、光の加減で緑色にも見える黒髪をショートカットにし、大きなメガネが良
く似合う整った顔立ちの女性だった。あたしと一つしか歳が違わないというのに、落ち着
いた雰囲気を漂わせていた。
「あの、本当にすみませんでした。まだトロンは起動したばかりで、何もわからなくって
……」
 あたしは姫宮さんに、深々と頭を下げた。チラリと上目づかいに姫宮さんを見てみると、
少し困ったような様子であたしを見ていたが、フッとその視線を、相変わらず自分の横に
ちょこんと座っているトロンへと移す。ぼ~っとした表情で姫宮さんを見上げるトロンを見
つめるその瞳は、慈愛に満ちたものだった。
「そうだったの……ねえ、一ノ瀬さ、あらっ?」
 姫宮さんの言葉は、突然鳴ったチャイムの音にかき消された。
「あらあら、午後の授業の始まりね、急がないと……じゃあ、また会いましょうね、一ノ
瀬さん、トロン」
「あ、はいっ」
『じゃあねェ~。レスP、かおリ~ン』
『我が名はレスティーアだ! それと姫を妙な名で呼ぶっ、ム、ムグッ!?』
 レスティーアは、あたしたちの方をキッと睨みながら、何かを言っていたが、苦笑する
姫宮さんの指先に再び阻まれ最後まで聞こえなかった。姫宮さんは、あたしたちの方に
向き直り、かるく会釈をすると校舎の方へと歩いていった。
「はぁ~、もうかんべんしてよ。……やっぱりあそこに行くしかないのかなぁ」
 姫宮さんの後ろ姿を見ながら、あたしはドッと襲ってきた脱力感に必死に耐えていた。
『ン~、ナニ、あそこっテ?』
「あんたを買ったお店のことよッ!」
 あたしは、差し出した手のひらによじ登ってきたトロンを、制服の胸ポケットにそっと入れ
ながら寝ぼけ悪魔の問いに答えていた。
「あたし、今こそ確信した。あんた絶対にどっか壊れてる! それを直しにいくのよ!」
『ZZZZZZZZZZZZ』
 あたしの決意の声に応えたのは、なんとも脳天気なイビキだった。怒りと疲労と空腹で、
一瞬意識が遠のいたが、なんとか踏みとどまる。
 憎悪のまなざしでトロンを睨みつけ、一発ひっぱたいてやろうかと思ったが、いつの間
にか鳴り止んだチャイムに気づくと、慌てて踵を返し校舎に向かって走り出す。
 
                きっと直る! あそこに行けば!
 
       あたしの心はもう、あの店に、<DO IT>に向かって飛んでいた。
 
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コメント


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姫宮さん、可愛いっす^^

レスティーアさんもちょこっと面倒くさそうな性格ですが面白いですね。「女の私から見ても、軽い嫉妬を・・・中略・・・コバルトブルーの瞳」これはサイフォス型の顔をこのレベルまで仕上げるってことですね!いやー楽しみ楽しみ♪ フィギュアではアレですが、バトロンの騎士子さんはトップクラスの美人さんですもんね^^

それにしても、キャラクターが生き生きとしていて読んでいて楽しい作品ですね。

次も楽しみにしていますねー^^

初瀬那珂 | URL | 2012-02-12(Sun)01:50 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

ウチのSSの登場人物たちは、いろんな意味で「濃い」のが多い
ですから、かおりのようなキャラは一服の清涼剤ともいえる存在
かもしれません。

>これはサイフォス型の顔をこのレベルまで……
いやいやいやいやいやいや、それ無理、絶対無理ですって(汗)。
まあ、あくまでイメージ程度にお考えください(笑)。

いつもSSを掲載する度に、「やりすぎかな?」などと
不安になったりもしますが、初瀬さんの、キャラが生き生きと
している等のコメントは、私にとって大きな励みになります。

シロ | URL | 2012-02-12(Sun)22:06 [編集]


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