神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第11話

      
                    武装神姫 クロスロード

               第11話    「嵐の予兆」

「まったく、ひどい話ね!」
 片手で新聞を開きながら、残った手を使い、器用に箸を使ってごはんを口に放り込んで
いたあたしは、ひとり憤慨していた。
『ど、どうかなさったんですか、リンさま?』
「ん? ああ、ちょっとね……」
 驚いた様子で話しかけてくるルーシィに、あたしは新聞に書かれた記事から目を離さず
にあいまいな返事を返す。

         ── またも、神姫をつかったひったくり発生! ──

 新聞の見出しには、そう書いてあった。
 武装神姫。あたしたち人間のパートナーとして彼女たちが誕生してから、かなりの歳月
が流れていた。
 そして、ここ数年。その神姫を使った犯罪が激増していたのだ。
 紙面の隅に追いやられるように書かれた、どこぞのバカが、自分の神姫を使って神姫セ
ンターに殴り込みをかけたなどまだ可愛い方で、今回みたいなひったくりを始め、強盗、
恐喝、放火など、ここに書いてない犯罪の種類を探したほうが早いくらい多岐にわたって
いた。

                      そして……

『まア、今回は人死にがでなかっただケ、マシじゃないノ?』
 テーブルの上に寝そべり背中を見せていたトロンが、興味もなさそうな声でつぶやく。
トロンの何気ない一言に、あたしはさらに気が滅入ってしまう。
 そう、最近では神姫を使用した傷害事件まで起こっていたのだ。
 ロボット三原則とやらのおかげで、これら犯罪は未然にふせげると考えられたが、基本
的に神姫はオーナーの命令に服従を強いられる。気の弱い神姫などは、結局オーナーの
命ずるままに犯罪に加担してしまうケースも多いらしい。
『あっ、リ、リンさま! これを見てください』
 うつむき、押し黙ってしまったあたしに気を使ってくれたのか、ルーシィが明るい声で
紙面の一点を指さす。
「ん? ……老人介護の救い手あらわる。 メルヘン・メーカー社の新型神姫発売?」
『これって、お年寄りのみなさんに、わたしたち神姫がお役に立っているということです
よね、リンさま?』
「うん。ルーシィの言うとおりね」
 相づちをうつあたしに、ルーシィが破顔する。
『さし当たっテ、リンが気にしなけりゃならないことは他にあると思うんだけド……』
「何をよ?」
 あたしたちの話しに割って入ってきたトロンが、無言で一点を指さす。
 壁に掛けられた時計を一瞥すると、あたしは新聞と箸を投げ出し、慌てて登校の準備を
始めた。
                          ※

「わあ~、可ぁ愛いぃ~~~!」
『えへへ、そ、そんな事ないですよぉ』
 のぞき込むように顔を近づける美佐緒に、あたしの肩に腰掛けたルーシィが頭を掻きな
がら照れ笑いを浮かべる。
 学校からの帰り道、偶然(本人談)出くわした美佐緒は、ルーシィに気づくと歓声を上
げてあれやこれやとルーシィにちょっかいを出し始めた。
『ルーシィどの。拙者、ガーネットと申す。以後、懇意にお願いするでござるよ』
『あっ、はい。わたしのほうこそ、よろしくお願いします』
 美佐緒の肩からほがらかに話しかけるガーネットに、ルーシィが慌てて頭を下げるが、
ちらりと上目遣いにガーネットを見上げている。
『……あの~、ガーネットさんって、少し変わった話し方をするんですね?』
 おずおずと尋ねるルーシィに、ガーネットが首をかしげる。
『そうでござるか? 紅緒はみんな、拙者のような話し方をすると思うでござるが……』
『はっ? べ、紅緒?』
 即答するガーネットの声に、ルーシィが硬直する。
 あたしは肩からズリ落ちそうになったルーシィを慌てて押し戻しながら、ルーシィの心
情を察して心の中で苦笑していた。
『……あのさア、ガンちゃん。そのカッコで紅緒は無理があるんじゃないノ?』
 あたし同様に、現実逃避のため露骨に目を反らしていたトロンがようやく口を開く。
 トロンの言いたいことはあたしにも十分理解できた。シュメッターリングの武装を身に
つけ、ござる言葉で話す神姫を紅緒だと言ってもまず信じる人なんていないだろう。
『はっはっはっ、何をおっしゃるトロンどの? 拙者、どこから見ても心身ともに立派な
紅緒でござるよ!』

   いや、だからそんなキャピキャピ(死語)した格好の紅緒なんていないって!

 もはや、義務でツッコむあたしだった。

                            ※

「じゃあ、今日はルーシィのメンテナンスのために?」
「まあね」
 ルーシィを店長さんに預けると、メンテナンスルームのドアをくぐりながら、美佐緒の
問いかけにあたしは言葉少な目に答える。
 ルーシィは店舗などで購入したわけでなく、福引きの景品だった。問題はないだろう
が、機会があったらチェックをしといたほうがいいだろうという店長さんの勧めにしたが
って今日はDO ITに顔をだしたわけだった。

 ほんとうは、これぐらいオーナーであるあたしがしなきゃならないことなんだろうけど、
大の機械音痴のあたしがメンテしたんじゃ、何が起こるかわからないしね……

 美佐緒に気づかれないように苦笑いを浮かべると、あたしは休憩所へと向かった。
「?」 
 フロアーのまんなかあたりで、あたしの足が止まった。
「どうかしたんですか、せんぱい?」
 ゆっくりと店内を見回すあたしに、美佐緒が不思議そうに話しかけてきた。
「ねえ、美佐緒。なんかへんな感じがしない?」
「そうですか? …………別に何もおかしいところはないみたいですけど?」
 釣られて首をめぐらした美佐緒が、明るい声で即答する。
 美佐緒の声を聞きながらも、あたしはまだ納得がいかなかった。確かに見た目にはいつ
もと変わらぬ光景が目の前に広がっていた。

                     でも、何かが違う!

 店内に広がる張りつめたような空気。視覚ではあたしにもその違いはわからなかった。
でも、あたしはそのわずかな差を敏感に肌で感じ取っていた。

『……ずいぶんと、鋭い勘の持ち主ですのね?』
 いきなり、耳元で賛美とも嘲笑ともとれる声が聞こえた。
 すぐ横にあるのは、製品の陳列に使う大型のスチール製の棚のはずだった。あり得ない
場所からの問いかけに、驚きながらも機敏に振り向く。
 あたしの目の高さに、一体の神姫が立っていた。
「あんた、いったい……」
 腕を組み、あたりを弊睨するかのように見回す神姫は、あたしの問いに答えようともせ
ず無言を貫いていた。

 美しい神姫だった。切れ長の瞳はスミレ色の輝きを放ち、すっと通った鼻梁に形のいい
唇はまるで一流の彫刻家の作品を見ているようだった。
 そして何より驚いたのはその金色の髪。腰まで届く糸のような髪は軽いウェーブがかか
りまるで生きているかのように波打ち、店内の照明を受け微妙にその色合いを変えていた。
 その美しさに声もなく目を奪われていると、眼前の神姫は髪をかきあげ、得意気な顔を
する。
『いつまでそうしているつもりですの? いい加減にしないと、お金を取りましてよ?』

         ……どうも、性格は外観とはほど遠いみたいだった。

 勝ち誇ったような声に我に返ったあたしは、棚の上の神姫をにらみつける。
「あんた、いったい誰よ?」
『人にものを尋ねるときは、まず自分から名のる。……あなたは、ご両親からそう教わら
なかったのかしら?』
「あたしは、一ノ瀬 隣!」
 ドタマにカチンときたが、この神姫の言ってることは正論だ。あたしは唸るように名を
告げた。その言外に、次はあんたの番よ! という含みをもたせて。
『わたくしの名は、グリューネワルト』
 まるで流れる水のようなよどみのない動きで金髪の神姫、グリューネワルトはあたした
ちに向かって軽く会釈する。
 その優雅な立ち振る舞いに、あたしは毒気を抜かれたように立ち尽くしてしまう。
「で、あんたは何でここにいるわけ?」
『別に、たいした用ではありませんわ』
 グリューネワルトは、あたしの怒気のこもった問いかけにも気にした素振りも見せず店
内を見渡している。
『ですが……どうやらわたくしの取り越し苦労だったようですわね……』
 グリューネワルトの声は、どこか安堵の響きのようなものを感じさせた。
「えっ?」
『……あなたたちには関係の無いこと。忘れておしまいなさい』
「ちょ、ちょっと、それってどういう意味なのよ?」
 グリューネワルトはあたしの問いには何も答えようとせず、あたしたちの存在など忘れ
たいわんばかりにきびすを返すと、棚の反対側に歩み去ってしまう。
「あっ、こらっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「せっ、せんぱい、前!」
「へ?」
 慌てて小さな影の後を追って走り始めたが、あまりに注意がそちらに逸れていたらしい。

 美佐緒の声に視線を前に戻すと、棚の陰から出てきた人影が、あたしの視界いっぱいに
広がっていた。
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