神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第12話

   
                   武装神姫 クロスロード

             第12話 「これって、運命の出会い?」 

 たとえどんなに油断していたとしても、これほどそばにいれば気配で気づくはずだった。
 
    コイツ、ここまで気配を絶つ術に長けてるなんて、よほどの使い手?

 あたしの考えは、相手に弾き飛ばされ床に尻餅をついた瞬間、尾てい骨から脳髄まで走
った電流によって中断させられてしまう。
「痛ったぁ!」
 ようやく身体の痺れがとれ、痛みがスクラム組んでやってくる。
「まったく! いったい何が……ん?」
 腰をさすりながら立ち上がろうとするが、なぜか身体が思うように動かない。
「う~~~ん」
「ひっ!?」
 なんか野太い男の人の声が聞こえたと思ったとたん、太股のあたりに妙な感触を感じ、
あたしは総毛立つ。
 ゆっくりと視線を落とすと、あたしのスカートに深々と顔をうずめる男の後頭部が目に
飛び込んできた。
「……い、い、い……」
 あまりの出来事に、あたしは拳はおろか、ろくに声も出なかった。
 おこりのように震える身体の振動のせいで気がついたのだろうか、男はいきなり猛烈な
勢いで起きあがる。
 年はまだ若そうだが、時代遅れなデザインの大きなメガネをかけた何ともさえない顔立
ちの男と目があった。
 あたしの瞳に浮かぶ羞恥と憤怒に、己が何をしでかしたのか理解した男の顔色がみるみ
るうちに青ざめていく。
「あ、あの、これは、そのっ」
「イヤ────────────ッ!!」 
 両手を振りながらなおも弁解を続ける男のあごに、絶叫にも似た悲鳴とともに渾身の力
を込めた蹴りが炸裂し、男の身体が不自然なほどに反り返る。
「痛ででっ。……いや、こ、これは誤解なんだ!」
 一撃でしとめたかと思ったが、男は案外タフなようだった。風のように立ち上がると、後ず
さりながら弁解を続ける。
「……辞世の句(いいわけ)は終わった?」
 あたしは押し殺した声でつぶやくと、ゆっくりと男の方に歩み寄る。
『と、隣どの、気持ちは拙者にもわかるが、まずは落ち着くでござるよ!』
 足下でガーネットが必死になだめるが、あたしはまるで取り合おうとはしなかった。
あたしの全身から吹き出す殺気に男は首を振りながら後退するが、残念なことに背後の壁
にはばまれ歩みが止まってしまう。

 クク、今頃この男の脳裏には、どうせろくでもない人生が走馬燈のように回ってるんでしょ
うね?

 壁に身体を押しつけ、汗まみれになりながらなおも首を振り続ける男に、あたしはかす
かな哀れみを感じた。




            でも、とどめはさすけどねッ!



 あたしは、男をみあげながら静かに拳を胸元にかまえる。
「アディオス! 変態ッ!!」
「いや、だからぼくの話を聞いて……ひっ!?」
 男のなんとも情けない悲鳴とともに、背後から強烈な殺気を感じ、思わず身をよじる。
あたしの横を通り過ぎたモノは、男の耳元をかすめ背後の壁に突き刺さった。
 慌てて男のすぐ横に深々とめり込んだモノに目をやるとそれは一本の棒だった。さらに
その棒をたどっていくと、先っちょに細い紐のようなものが無数に揺れている。
「……これ、モップ?」
 あたしはさらに、身体はそのままに限界まで首をねじり背後を見やる。
 そこには、投擲ポーズを終えたまま固まった美佐緒が、全身を戦慄かせながら立ち尽く
していた。
「ゆ、許せない。こ、こんなこと……」
 一語一語絞り出すようにつぶやく美佐緒。その声は怨些に満ちており、あたしが今まで
一度も聞いたことがないような声音だった。
「ちょ、ちょっと美佐緒?」
 まるで、夢遊病者のような足取りで近づいてくる美佐緒に話しかけるが、「許せない、
許せない」と繰り返すだけで、まるであたしの声は耳に届いてはいないようだった。
 おぼつかない、それでいて一歩一歩に無限の恨みを込めながら歩み寄る美佐緒。あたし
と男は声もなくそれを見つめていた。
 あたしたちまで後数歩というところで歩みを止めると、美佐緒は皮膚の色が変わらんば
かりの勢いで両の拳を握りしめる。
「こんなの……ハレンチだわ!」
「……美佐緒」
 血を吐かんばかりにつぶやく美佐緒に、あたしは胸を締め付けられるような気持ちにな
った。

「わたしだって……わたしだってまだ、せんぱいのお花畑に顔をうずめて“くんくん”と
か“ぺろぺろ”もしたことないのに! こんなハレンチなこと許せな……あ痛っ!?  」 
 電光のごときローキックが、美佐緒のふくらはぎにヒットする。
「お前の存在の方が、よっぽどハレンチだ────ッ!」 
 あたしの罵声は、転倒した美佐緒の斜め上を虚しく通り過ぎていった……

                          ※

「ほんとうに、ゴメンっ!!」
「もう、いいです!」
 何度めだろうか。男は土下座したまま、床にひたいを擦りつけんばかりの勢いで頭を
下げる。さすがに男が不憫に思えてきて、あたしは吐き捨てるようにつぶやいた。
「そんな! こんな変態を許したら、あとできっと後悔しますよ?」
「……そうね。あんたを見てると、あたしもつくづくそう思う」
 なんのこと? と指をくわえてキョトンとしている美佐緒を見ながらあたしは盛大にた
め息をつく。
「じゃ、じゃあ、許してくれるのかい?」
 男はパッと顔をあげると、ホッとしたような声で尋ねてきた。
『まあ、それなりの等価は払ってもらうけどね』
 男は、抑揚のない声に驚き横を向く。すぐそばに突き刺さったままのモップの上に、い
つの間にかソウルテイカーを装着したトロンが立っていた。
トロンは無言のまま、怪訝な顔でみつめる男のひたいに右手の裳を押し当てる。
「ちょ、トロン! あんた、まさ……」
 トロンの瞳に、剣呑な光を見たあたしが必死に止めようとしたが、手遅れだった。
 閃光と共に、それにそぐわぬ大きな破裂音が男のひたいでおこった。
「И↓☆Ю☞Åッ!?」
 男には、何が起こったのか理解できなかったろう。ひたすら両手でひたいを押さえ、床
の上を転げ回っている。
 いくら神姫用とはいっても、PBはりっぱな凶器だ。あたしは薄笑いを浮かべて男を見
下ろすトロンを鷲掴みにすると、きびしく問いつめた。
「バカ!! なんてことすんのよ?」
『大丈夫だよ。カートリッジは模擬戦ようのに変えてある。かんしゃく玉が破裂した程度
の威力しかないよ』
「そ、そんなこといったって……」
『それにまだ、お仕置きは済んでないしね』
「ひっ!?」
 そうトロンは答えると、あたしの手を振り払い床に飛び降り男の方に歩き始める。男は
のどに何かつまったような声をあげると、後ずさりはじめた。
『……まったく、さっきから何をしていますの、恵一郎?』
 呆れと嘲笑をミックスしたような声が聞こえ、場にいた全員が頭上を振り仰ぐと、棚の
最上段からさっきの神姫、グリューネワルトが冷めた目で見下ろしている。
「リューネ!? 何をいってるんだ! みんなお前が原因だろう?」
 男はひたいをさすりながら、グリューネワルトに詰め寄るが、当の本人はどこ吹く顔だ。
『何を言っていますの? わたくしの行った行動はただの過程にすぎませんわ。あたな
方がこうなったのは、お二人の前方不注意が原因でなくて? ……とは言っても』
 涼しい顔でそう言うと、グリューネワルトは棚から音もなく飛び降りると、重さを感じさ
せない軽やかな仕草でトロンのすぐ目の前に着地した。
『遠路はるばるようこそ』
 髪も触れ合わん位置に立ち尽くすグリューネワルトに、トロンは軽く頭を下げる。
『でも、キミにはこれっぽっちも用はないんだ。来た早々悪いんだけど、早急にお引き取
ねがえるかな?』
 敵意を隠そうともせず話続けるトロン。グリューネワルトの切れ長の瞳がわずかに細ま
る。
『あなたにはなくとも、わたくしにはありましてよ?』
 グリューネワルトはそこで話を区切ると、一瞬背後を振り返る。
『認めたくはありませんが、あんな男でも一応わたくしのマスターですしね』
 肩をすくめるグリューネワルトに、わずかにトロンの表情が和らいだ。
 でも、それはほんのわずかな間だった。
『へ~、お互い考えてたことは一緒なんだ? じゃあさあ、手っとり早い方法でケリをつ
ける?』
 シュミレーターのある二階を指さしながら軽い口調で話しかけるトロンに、グリューネ
ワルトがほくそ笑む。
『ええ、喜んで……』
 この場に似つかわしくない大輪の花のような笑顔を浮かべ、ドレスの裾を軽く持ち上げ
るような仕草を見せるグリューネワルト。その優美な動きに、トロンは呆気にとられた顔
になる。
 だが次の瞬間、グリューネワルトの全身から形容しがたい気が吹き出した。


                   こ、この感じは?

 さっきフロアーで感じた不思議な気配、あれはグリューネワルトが発したものだと理解
したが、もうひとつの考えがそれを一瞬に消しとばす。

          だめだ! トロンの実力じゃ、この神姫には勝てない!!

 確信にも似た閃きが頭の中を駆け抜けると、慌ててあたしは動き出す。
『トロンどの!』
 あたし同様に感じるモノがあったのだろう。表情を硬くしたガーネットが、すばやく二
人の間に割ってはいる。
『なんだよ、ガンちゃん! 邪魔する気?』
『落ち着く出ござるよ、トロンどの!!』 
 自分の肩を押さえつけるガーネットの手を、乱暴に払いのけるトロン。荒んだ空気に、
美佐緒までが押し黙ってことの成り行きを見守っている。


                『二人とも、そこまでッ!!』


           一触即発の場に、澄んだ声が響きわたった
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