神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第14話


                    武装神姫 クロスロード

                     第14話 「強襲」 

「あれって、神姫?」
 あたしは空を見上げながら、誰にともなくつぶやく。
 距離が離れているのと、青白い月の光のせいで細部までよくはわからなかったが、まち
がいなく小さな影は神姫のようだった。
 それにしても、頭上の白い神姫はみたこともないタイプだった。強いていえば、アーン
ヴァルMK・2に似ていないこともないが、一対の巨大な翼や全体のフォルムは鋭角的で、
より攻撃的なイメージを見る者に与えた。
「……あたしたちに、何か用?」
 まるで変わらぬ状況に、耐えかねたあたしが問いかけるが、やはり白い神姫は押黙った
ままだ。
『キミって、ずいぶんとシャイなんだね?』
 まだ気が高ぶっているせいだろうか、いつもならとうに寝ぼけモードに戻っているはず
のトロンが、バッグの端に腕をかけながら話かける。
 だが当の本人は、それが自らに課せられた使命といわんばかりに無言を貫いている。
「……行くわよ!」
『えっ?』
『あの、リンさま?』
 いきなりきびすを返し歩き始めたあたしに、トロンとルーシィは驚いたように問いかけ
てくるがあたしは一切取り合わなかった。

            これ以上、あの神姫に関わらない方がいい。

 理由はわからなかった。でも、あたしの勘はそう訴えかけ、一分一秒でも早くこの場か
ら立ち去るようにとあたしを急かす。
 早足から、ついに駆けだしたあたしの背中に、氷柱を押し当てられたような悪寒が走る。

                       これって……

 過去に幾度となく感じた感覚。あたしはとっさに身をひねった。
「ぐっ!?」
 直後に、右肩にやけ火箸を突きつけられたような痛みが走る。あまりの激痛に足がもつ
れ、あたしは路上に倒れ込んでしまった。
『リ、リンさま?』
『どうしたの、リンッ!』
 投げ出されたバッグから、はいでてきたトロンたちが心配そうに駆け寄ってくるが、あたし
はろくに返事もできない有様だった。
『ひどい……』
 ケガに気づいたルーシィが、口を押さえて絶句する。
「だ、大丈夫。これぐらい、なんともないわ」
 あたしは痛みに顔をしかめながらも、ルーシィに無理に笑って見せた。
『……お前ッ!』
 耳元で、怒号にも似た声が響く。
「ト、トロン、あんた……」
『ルゥ! リンを頼む!!』
 トロンの口調から容易ならぬ雰囲気を感じると、あたしは痛みも忘れて制止しようとし
たが手遅れだった。
トロンはあたしの声に耳を貸そうともせず、白い神姫めがけて走り出す。
「ト、トロン! 待って!!」
          
 あたしはうめき声を上げながら無理矢理身体を起こすと、ふらつきながらトロンの後を
追う。

  トロンのバカ! これじゃあ、リアルバトル……ううん、事態はもっと最悪じゃない!

                          ※

 猛スピードで眼下に走り寄ってくるトロンを白い神姫は黙って見下ろしていたが、手に
したビームガンをいきなりトロンへと向けた。
『!?』
 白い神姫がトリガーを引き絞るよりも早く、トロンは転がるような勢いで身を捻る。
 間一髪。一瞬前までトロンが立っていたアスファルトが蒸発し、巨大な穴を穿つ。その
大きさに比べてはるかに高出力なビームに、横目で見ていたトロンの表情が強ばる。
「トロン……」
 痛みに眉をしかめ、よろめくような足取りであたしはトロンたちの後を追う。間髪入れ
ずに襲いかかるビームの猛射を、トロンは必死にかわし続けている。

               でも、どう考えてもトロンが不利だ。

 そう、どれほど見事に攻撃をかわそうと、飛行能力を持たないトロンには反撃のしよう
がない。このままでは、遅かれ早かれあのビームに貫かれてしまう。
 もちろん、ソウルテイカーを作ったのはトロン自身だ。その長所も短所も、誰よりも知
り尽くしているはずだ。
だが、頭に血が上ってしまったのか、トロンはただガムシャラに白い神姫へと向かうだ
けだった。白い神姫の猛攻から逃れるためか、一つ先の路地へと姿を消したトロン。白い
神姫もまた音もなくその後を追う。
「あいつったら、もうっ!」
 短い舌打ちを打つと、あたしはよろめきながら路地を曲がった。

                          ※

 路地に入り込むと、塗り込められた闇の中にまばらに街路灯の灯りが浮かんでいる。そ
の闇を切り裂くかのように、光の柱が降り注ぐ。
『なぜ、キミはこんな事をするんだ!』
 断続的に降り注ぐビームをかいくぐりながら、詰問するかのような口調で問いかけるト
ロンの声が聞こえた。薄明かりに照らし出されたその身体は、幾筋もの白煙をまとわりつ
かせていた。

 いくら回避能力に優れているトロンでも、あの攻撃を凌ぎきることは無理だったんだ。

『……汝らは、あの罪人に組みする者』
 白い神姫がいきなり口を開いた。
『罪人?』
 まるで要領を得ない回答に、トロンの表情が曇る。
『……よって、この場にて処断する』
『何を…言ってるんだ、キミは?』
 まるで感情を表に出すこともなく、ただ記憶させられた単語の羅列を口にしているかの
ような無味乾燥とした声音がおごそかに響く。
 トロンの問いにもはや興味を示すこともなく、白い神姫の猛攻が再びトロンに向けられ
る。襲いくる灼熱の矢を必死にかわしながら、トロンは近くの児童公園へと逃げ込んでい
く。
『あ、あの、リンさま。 どど、どうしたらいいんですか?』
「どうしたらっていわれても……」
 公園内へと姿を消したトロンの後ろ姿を追いながら、慌てふためくルーシィの問いかけ
にあたしは口ごもってしまう。 

               せめて、こんなときに……そうだっ!

 必死にフル回転させていたあたしの脳裏に、一筋の光がさす。

「ルーシィ! 美佐緒に……」
『とぅるるるるるるっ! とぅるるるるるっ!』
「ひっ!?」         

 びっ、びっくりした! 虚ろな瞳であたしを見上げ、いきなり唇を突きだし呼び出し音
はじめたルーシィ。あまりに異様な姿に、あたしは身体を襲う痛みも忘れたほどだった。
「で、電話? 誰よ、こんな時に!」
『とぅるるるるるるっ! かみしろ みさおからです。とぅるるるるるるっ! かみしろ
みさおからです……』
 呼び出し音を続けながら、器用に送信主の名を告げるルーシィ。あたしは、間髪入れ
ずにルーシィの鼻の頭を押していた。
「あっ、せんぱいですかぁ?」
 ルーシィの口から紡がれた美佐緒の声が、はじめて頼もしく聞こえた。
「あ、あのね、美佐緒……」
「ひどいですよぉ、せんぱい! あれほど待っててくださいって言ったじゃないですか!」
「あ、いや、だから……」
 必死に状況を説明しようとするが、美佐緒のヤツはそんなあたしの気持ちも知らずにブ
ーブー文句を垂れている。
 あたしは大きく息を吸うと肺いっぱいに空気をため込み、美佐緒の会話を遮るように声
も限りに叫んだ。
「お願い! 助けて美佐緒ッ!!」
「……へっ!?」
 絶叫にも似たあたしの叫びに耳をやられたのか、はたまた、「助けて」などという言葉
があたしの口から出たことに戸惑っているのか、美佐緒の口をついて出た言葉はなんと間
の抜けたものだった。
「ど、どうしたんですか、せんぱい?」
 それでも、あたしの声音から容易ならない事態が起こったのを肌で感じたのだろうか、
美佐緒の声は真剣そのものだった。
「トロンが、トロンのヤツが変な神姫に襲われてるの。すぐそばの児童公園に……!?」
 みるみる顔色がドス黒くなっていくルーシィを鷲掴みにしながら、必死に状況説明を続
けるあたしの声は、足下を揺るがす振動と耳を覆わんばかりの大きな音のせいで中断して
しまった。
「お願い、早く来て!」
 まだ美佐緒は何か話しかけてきたが、あたしは電話を切ると、音のした方──公園へと
駆けだした。

                           ※

 あたしは、目の前の光景に絶句してしまった。ポツリポツリと点在する遊具が月の光に
照らし出され、どこかいびつな影を地面へと映し出す公園内。
 その敷地内にあった一本の木が、断面から煙を上げながら地面に転がっていた。そして、
あろうことか片足を倒木にはさまれトロンがもがいていた。
 下敷きになったのは足首だけど、神姫からすれば大木といっても差し障りのないサイズ。
木はピクリとも動きそうにもなかった。
『リ、リンさま。トロンちゃんの腕が……』
 ようやくルーシィも気づいたみたいだった。木を押し返そうとするトロンは片手しか使
っていなかった。
 残った右腕は、中程からちぎれかかっていた。
 トロンの懸命な努力を高みから無言で見下ろしていた白い神姫が、いきなり手にしたビ
ームガンをこちらに向ける。
『あのストラーフはもう動けない……まずは、汝たちから処断する』
『リ、リンさまを撃つというなら、わ、わたしから撃ってください!』
 あたしのひたいに不動の直線を結んだ銃口が、かすかにゆらいだ。
「ルーシィ!?」
 バッグから飛び降りいきなり駆けだしたルーシィが、白い神姫を見上げながら両手を広
げてそう叫んでいた。
『……よかろう』
 白い神姫は、ゆっくりと照準をルーシィに定める。
「ばかッ!」
 あたしは、慌ててルーシィに被い被さる。
『リンさま? なぜ……』
「あたりまえでしょう! ルーシィを身代わりにできるわけないじゃない!」
『リンさま……』
 声を荒げて答えるあたしに、ルーシィは放心したような表情を浮かべていたが、やがて
身体が震えだし大粒の涙を浮かべはじめる。

 ほんとうは怖かくてしかたがなかったのだろう。精一杯の勇気をふり絞り、ルーシィは
あたしをかばってくれたんだ。

「……ありがとう、ルーシィ。 もう、充分だよ」
 あたしにしがみつき、嗚咽をあげて泣いているルーシィの頭を、あたしはやさしく撫で
さすった。ビームでの負傷のせいか出血こそひどくはないが、刻一刻とあたしの体力は消
耗していた。
 悔しいけど、もうあたしも身動きできそうにない。
 明確な殺意とともに、再びあたしに銃口を向ける白い影を、あたしは歯がみしながら睨
みつける。

 だが次の瞬間、猛烈な破裂音が人気のない公園に響きわたる。
 思わず堅く目を閉じるあたしだが、それがビームを発射した音とは違うことに気づく。

                   これって、PBの……

 そう、それはあたしの聞きなれた……PBの炸裂音だった。捻るように向けた視線の先
にトロンが音もなく立っていた。
 でも、トロンの無事に出そうになった安堵のため息を、あたしは飲み込まざるをえなか
った。
 トロンの右足は、足首から先がなかった。


 とっさにPBを使い、自身の足を壊して窮地を脱したトロン。その悲壮なまでの覚悟に、
あたしは声もでなかった。
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