神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第15話

                  武装神姫 クロスロード

                第15話 「罪の代価」

 あたしたちのことなど忘れたかのように、トロンは静かに夜空を見上げていた。
『まだ、あらがうか、ストラーフよ?』
『もちろん』
 抑揚のない問いかけに、トロンは言葉短く、しかし毅然とした態度で答える。
『リンは、ボクにとってかけがえのない存在だからね』
「……トロン」
 一片の淀みなく、そう言いきるトロン。あたしは胸がいっぱいになって、それ以上言葉
を続けることができなかった。
『だから……』
 そう言いながら、トロンの身体がわずかに沈み込む。それに併せて、静かな殺意を秘め
た銃身が音もなく持ち上がる。
『リンを傷つける者は、誰であろうと許さないッ!!』
 吠えるようにそう叫ぶと、トロンは一直線に走り出す。でも、片足に大きなダメージを
負っているためスピードはがた落ちだった。
 白い神姫は、値踏みするかのようにゆったりとした仕草で照準を定めると、トリガーを
引き絞る。
『何ッ?』
 白い神姫が愕然とつぶやく。狙い定めたビームは確かにトロンの身体を貫いた。だが、
トロンは意に介さず走り続けている。能面のような神姫の顔に、はじめて動揺の色が浮か
んだ。
「<アクセル・ハート>……トロンのヤツ、あんな身体で」
 驚きながらも銃撃を再会する白い神姫。さすがに<アクセル・ハート>の効力も切れ、
ビームの直撃を受けるトロン。でも、その疾走は止まることがない。
『……くそッ!』
 さきほどまでの冷静さが嘘のように、舌打ちを打つ白い神姫。ついにトロンは攻撃に耐
えきり、神姫の眼下にある砂場に頭から転がり込む。
『ぺっ、ぺっ!』
 口に入った砂を吐き出しながら、トロンはゆっくりと頭上を見上げる。自身に満ちたト
ロンの表情とは対照的に、白い神姫の顔は苦渋に彩られる。
『……チェックメイトだね』
『なんだと?』
『聞こえなかった? キミはもう、詰まれたんだよ』
 身体についた砂を払いながら、ぽつりとつぶやくトロン。白い神姫の顔に、あきらかに
動揺が走る。
『何を馬鹿なッ!』
 狼狽しながらビームガンをかまえる白い神姫を気にした様子も見せず、トロンは砂地に
手を当て、ゆっくりと立ち上がろうとする。
『う、動くなっ』
『……わかってないなぁ。ボクが動こうが動くまいが、キミの負けは決まっているんだよ
?』
『そ、そんなはずは……』
『じゃあ、試してみるといいさ』
 トロンの目がわずかに細まり、その唇がある形へと変わっていく。

                       嘲笑に。

『う、うおおおおおおおおおおおおおおッ!』
 白い神姫が初めて見せた感情の発露。でも、絶叫とともに放たれるはずのビームは、沈
黙したままだった。
 耳を覆わんばかりの轟音とともに、いきなり眼下の砂場から巨大な砂注が立ち上り、ト
ロンの姿を被い隠してしまったからだ。
PBの爆発により、大量の砂が舞い上がり、白い神姫は視界を奪われてしまう。
『くそっ! こんな小細工で……んっ!?』
 しきりに目をこする白い神姫。そのとき、視界の端に砂柱を突き破り、黒い影が飛び出
す。雷光のような素早さで身をひねり黒い影に銃口を向けたとたん、白い神姫動きが止ま
ってしまった。
『腕…だと? がはッ!?』
 白い神姫は、とつぜん背中を襲った激痛に顔をしかめる。振り向いた先、フライトユ
ニットにビームソードが深々と突き刺さっていた。
『貴様ぁあッ!』
 そこには、もはや機能しなくなった己の右腕を囮に使い、残った左腕のビームアンカー
を射出したトロンが、金色の瞳で白い神姫を見つめていた。
『ふ、ふん!こんなかすり傷では私を倒すことなど不可能だ!』
『そうだね……さて、どうしたもんかな?』
 言葉とはうらはらに、あからさまに侮蔑の表情を浮かべるトロン。白い神姫の端正な顔
が屈辱にゆがむ。
『ならば、私が夜空の散策に招いてやろう! この…地を這う虫けらがッ!!』
 白い神姫がそう叫ぶと同時に、ブースターが咆哮をあげ、猛烈な勢いで上昇をはじめる。
『せっかくのお誘いだけど、遠慮しとくよ……』
 アンカーガンに内蔵されたワイヤーが、目にも止まらぬ早さで伸びていくの横目で見な
がらもトロンの口調はまるで変わらなかった。
 そして、ワイヤーが完全に伸びきり、トロンの身体がわずかに持ち上がった瞬間、かす
かな音とともにアンカーガンがパージされてしまった。
『ボクは、高いところは苦手なんでね』
 目にも留まらぬ早さで空へと消えていくアンカーガンを見つめながらながら、トロンは
つぶやいた。
 驚いたのは白い神姫の方だろう。パージされた瞬間、猛烈な勢いでワイヤーを巻き込み
ながら迫るアンカーガンをみるや回避をはじめる。
 でも、それで自分の背中に刺さったビームソードが抜けるはずもなく、必死にアンカー
ガンを振り払おうと旋回を続ける姿は、自分の尻尾にジャレつく子犬のようで滑稽に見え
た。
 そして、その数秒後、アンカーガンの本体とビームソードの柄が触れたとたん、白い神
姫の背部で閃光が起き、片方の主翼がちぎれ飛ぶと真っ逆さまに落下し始める。
『ぐはっ!?』
 幸い落ちたところは砂場だったため、落下のダメージは少なかったにたいだ。でも、白
い神姫の左胸からビームソードの刀身が夜空に向かって吃立していた。
『な、なぜ……』
 見下ろす立場から見上げる方へ、苦痛に顔をゆがめながら白い神姫が力なくつぶやく。
『別に、たいしたトリックは使ってないさ』
 トロンはそう言うと、手のひらを広げてみせる。掌の真ん中から、PBのカートリッジ
が音もなく迫り出す。
『これを、アンカーガンの射出孔に一発差し込んでおいただけさ』
「……それで、あんな威力が……」
 ようやくあたしにも、さっきの爆発の理由が理解できた。

 アンカーガンの射出孔に戻ったビームソードは、PBの爆発により再び打ち出されたん
だ。指向性爆薬の威力によりさらに加速させられて……

『さて……地を這う虫けらの王国へ、ようこそ!』
 いまさらながら、トロンの機転の早さに素直に感心していたあたしは、トロンの声音に
ゾッとして思考を中断された。
 トロンは砂場に降り立った場所と寸分違わぬ位置に立ち、静かに白い神姫を見下ろして
いる。
「もういい、もういいの……勝負はついたのよ? トロンッ!」
 トロンの瞳に宿った異様な光に、ただならぬものを感じてあたしは痛みも忘れて立ち上
がった。
『そうだね。彼女の無様な姿を見て、ようやくボクの溜飲も下がった感じだよ……』
 トロンは静かにそう言うと、太腿のラックに手をやりながら、いきなり砂の上に横たわ
る白い神姫の腹部を力任せに蹴りとばした。
『がはっ!?』
 身体を襲った激痛に思わずあえぐように口を開ける白い神姫。トロンは、大きく開いた
口めがけて手にしたもの無造作に放り込んだ。
 あたしの見間違いじゃなければ、それはPBの予備カートリッジだった。

「トロン……あんた」
 トロンの考えがわかったあたしは、よろめきながら歩き始める。
 白い神姫も、口中の異物を吐き出そうとするが、しゃがみ込んだトロンに顔を鷲掴みに
され阻まれてしまう。

『でもね、こいつはリンを傷つけたことの罪を償ってないんだよ……』
 トロンはまるで、物語でも語って聞かせるような口調で誰にともなく話しはじめる。

「だめ…」
 必死になって前に進もうとするが、足がもつれて思うように動かない。

「やめて…」
 白い神姫も、力を振り絞って逃れようとするが、どこにそんな力が残っていたのか、ト
ロンの身体はピクリとも動かなかった。

「お願い! もうやめてッ、トロ───」
 あたしの悲痛な叫びは、PBの炸裂音に阻まれトロンに届くことはなかった。
 掌に内蔵されたPBが爆発した瞬間、口中の予備カートリッジも誘爆し、白い神姫の頭
部は瞬時に四散した。

「なんで? どうして…こんなこと…」
 力なく地面に座り込むあたしの目の前で、至近距離からの爆発のため原形を留めぬほど
破損した左手から白煙を纏わりつかせたまま、トロンが立ち上がる。

『……だいじょうぶだよ』
 愉悦にも似た満足そうな笑みを浮かべたまま、トロンは夜空に向かって話しかける。
『キミを傷つける者は、誰であろうとボクが許さない』
「…………」
『今度こそ、絶対に…守ってみせる…から………シャー…リー…』
「えっ?」
 いきなり耳朶をうった聞きなれない単語に、あたしが顔を上げると同時に、まるで糸が
切れた人形のようにトロンが倒れ込む。
「トロン?」
『トロンちゃん!!』
 鬼気迫るようなトロンの戦いにおびえきっていたルーシィだが、呪縛が解けたかのよう
にトロンにしがみつくと泣きじゃくりはじめた。
『トロンちゃん、しっかりして! トロンちゃん!!』
 何度も何度もトロンを揺さぶり続けるルーシィ。あたしは取り乱すルーシィの間に割っ
て入ると、トロンをそっと抱き上げた。

                         ※

『美佐緒どの、あそこでござる!』
「せんぱいっ!」
 公園の入り口の方から美佐緒とガーネットの声が響き、複数の足音が入り乱れて聞こえ
てきた。
「み…さお…」
 安堵のためだろうか、腕に中に倒れ込むあたしの怪我に気づいた美佐緒が、悲鳴にも似
た金切り声をあげる。
「せんぱいっ? ……ひ、ひどい、す、すぐに救急車を!」
「しっかりするんだ、一ノ瀬くん!」
『隣さんッ』
「と、隣ちゃん……」
 店長さんやリベルター、それに天堂さんの声を聞いて、張りつめていた心がゆるんだの
だろうか。あたしは身体中から力が抜けていくのにあらがうことができなかった。

 美佐緒に抱きしめられたまま、薄れていく意識の中、あたしはふと夜空を見上げた。


 この凄惨な戦いを、無慈悲なまでに照らし続けていた月を背に、遙か高みからあたした
ちを見下ろす影を見たような……気がした。
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コメント


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いつも、ひっそりこっそり覗かせてもらっていますw日常から非日常への急展開!なぞの襲撃に聞いたことの無い名前!!今後の話の展開に目が離せません!!(*´ω`*)

maki. | URL | 2013-09-19(Thu)15:24 [編集]


>makiさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

いまさら感がありますが、トロンたちの『敵』もようやく登場し、物語も今後は(多少)シリアスになっていくと思います。

トロンが意識をなくす前につぶやいた名前の意味なども、トロンの過去と共にこれから少しずつ明らかにしていくつもりです。

なかなか展開が先に進みませんが、今後もお付き合いいただければ幸いです。

シロ | URL | 2013-09-20(Fri)06:51 [編集]


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