神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第16話

                 武装神姫 クロスロード

                第16話 「誓い」 

 わずかに覚醒した意識のなか、あたしはどこかに横たわっていた。暗闇の中、必死に
身体を動かそうとするが、まるで自分の思い通りにならない。
 ようやく自分の努力が報われないものと悟ると、あたしは自分の置かれた状況を把握し
ようとつとめる。

 そこで、ようやくあたしは、自分のすぐそばに小さな気配があることに気がついた。

 気配の主は一言も発せず、あたしの頭を無言で撫でつけている。どういうわけか、撫で
られる度に心が落ち着いていく感じがした。

『…ごめん、リン』

                この声、トロン?

 悲痛なうめき声のようにも聞こえた気配の主が、トロンのものと知って、あたしは驚き
を隠せなかった。
『でも、今度こそリンは必ずボクが護るから』
 まるで、愛しい我が子をあやす母親のように話し続けるトロン。
 なんとか身体の自由を取り戻そうともがくが、指一本動かすことができない。
『だから…安心して、リン』
 消え入るような小さな声とともに、あたしのひたいにやわらかく、そして暖かいものが
押しつけられる感触が……

    あたしは不思議と心がやすらぎ、ふたたび深い眠りに落ちていった……

                         ※


 どこかであたしを呼ぶ声が聞こえる。次の瞬間、身体を襲った痛みに、あたしの意識は
一挙に覚醒した。
「…………」
 視界いっぱいに広がった真っ白な天井。
 まるで見覚えのない光景に自分がどこにいるかもわからず、軽く頭を振り意識をはっき
りさせようとする。視界の外に人の気配を感じ、首だけそちらに向ける。
「……美佐緒? ルーシィ?」
 ようやく結んだ焦点が、心配そうな美佐緒やルーシィたちの姿を映し出す。
「あんたたち……クッ!?」
 反射的に起きあがろうとすると、とつぜんひきつるような痛みが身体を襲い、あたしは
うめき声をあげてしまった。
『リンさま!? いけません!』
「そうですよ、まだ安静にしてなきゃダメですよ」
 ベッドの上で痛みに顔をしかめるあたしに、安堵から一転、慌てたような表情の美佐緒
が身体を支えてくれた。
「ここ……どこなの?」
『ここは病院でござるよ、隣どの』
 枕のあたりで聞こえた声に首を回すと、ナースの衣装を身にまとったガーネットが、慈
愛にみちた笑みを浮かべている。

     とりあえず、あたしも本調子じゃないし、ツッコムのは止めておこう……

 あたしの肩に手を置いた美佐緒にうなづきながらベッドに身を横たえると、あたしは病
室をぐるりと見渡した。
「……ところで、トロンのヤツは?」
 何気ない質問に、美佐緒たちの表情が曇る。
『トロンちゃんは今、DO ITにいます』
「DO IT? ……あっ!?」

              そうだ! トロンは、あの白い神姫と……

 ふさぎこんだルーシィの声に、あたしの脳裏にあの凄惨な光景がよみがえる。シーツを
投げ捨て慌ててベッドから起きあがろうとしたあたしは、またも痛みに顔をしかめるハメ
になった。

              ……うう、あたしって、ほんとバカ……

『だ、大丈夫でござるよ、隣どの。美佐緒どのが確認したところでは、トロンどのに大事
はないということでござるからな』
 身体を丸め痛みに耐えるあたしに、ガーネットが苦笑しながら教えてくれた。
「もう、せんぱいったら」
 呆れた口調とともに微笑む美佐緒を見て、あたしは眉をひそめた。
「美佐緒、あんたどこか調子でも悪いの?」
「えっ? そ、そんなことないですよ」
 慌てたように両手を振る美佐緒だが、あきらかに様子が変だった。顔色もよくないし、
なにより、すこしやつれた感じがした。
『……この病院に保管してあった輸血用の血液が足りず、美佐緒どのがずいぶんと協力し
たでござるからな』
「えっ?」
 ぽつりとつぶやくガーネットに、あたしは驚きの声を上げる。
「あっ! ガーネット、言っちゃダメって約束したのにぃ!」
『それに、リンさまが気づくまで、美佐緒さんは一睡もせずにリンさまの看病をしてくれ
たんですよ』
「あ~、ルーシィまでぇ!」
 珍しく狼狽する美佐緒に、あたしはがくぜんとしてしまった。
「美佐緒」
「えっ?」
「その……あ、ありがとう」
 美佐緒の行為に胸がいっぱいになってしまったあたしは、消え入るようにつぶやいた。
「……い、いやですよ、せんぱい。そんな他人行儀な言い方。せんぱいのであるわたし
としては、当然のことをしたまでです」
 
 なんか今、聞き捨てならないセリフが聞こえたような気がしたけど、とりあえず聞かな
かったことにしておこう……

「と、とにかく、せんぱいの身体が全快するまでは、身の回りのお世話はわたしが責任を
もってしますから、安心してくださいね」
 あたしの口元がわずかにひきつったのを見て、ひたいに一条の汗が流れ落ちる美佐緒。
「あっ、いけない! もう、こんな時間なの?」
「どうしたの?」 
 急にベッドの下のもぐり込み、ゴソゴソと何かやりだした美佐緒を見て、あたしはまゆ
をひそめる。
「さあ、せんぱい」、と美佐緒は手にしたモノをうれしそうに差し出す。
「……何ソレ?」
「何って、シビンに決まってるじゃないですか」
「いや、そうじゃなくて、ソレをどうする気なのかって聞いてんのよ!」
「シビンの使い道は一つしかありません!」
 一片の迷いなく、言い切る美佐緒。
 あたしのひたいには、これから起きるであろう出来事を予兆するかのように、痛みに耐
えていたとき以上の脂汗がびっしりと浮かんでいる。
「そんなに心配そうな顔をする必要なんてないんですよ、せんぱい。すべてわたしに任せ
ておいてください」
 ニンマリと微笑み、美佐緒が立ち上がる。
「だ、誰が使ったかもわからないシビンにほおずりするな!」
 うれしそうにシビンに頬をすり寄せる美佐緒に、必死になってツッコムが、当の本人の
耳にはまるで届いてはいないようだった。
「さあ、せんぱい」
「…………」
「シーシーしましょうねぇ♪」




  「いや───ッ! 看護婦さぁああん、助けてぇえええッ!!」




         あたしの魂のナースコールが、せまい病室に響きわたった……


                          ※


「一ノ瀬さん、けがの具合はどう?」
「あっ、姫宮先輩?」
 病室の入り口から顔だけだし、姫宮先輩が遠慮がちに微笑んでいたが、部屋の一点に目
がいくや、動きが止ってしまう。
「……えっと、何かあったの、一ノ瀬さん?」
 足下に転がるシビンと、それに勝るとも劣らぬ大きさのたんこぶを頭にこさえ、床に倒れ伏
したまま痙攣を続ける美佐緒を指さす先輩の頬は、ピクピクとひきつっていた。
「いえ、別になんでもないですよ? それより、そんなところで立ち話もなんですから、
中に入ってください」
 満面の笑みを浮かべながら手招きするあたしに、逃げることもままならぬと悟った姫宮
先輩は覚悟を決めたような顔つきになると、器用に美佐緒を避けイスに腰掛けた。
「それにしても、あなたたちって本当に仲がいいのね?」
 床に突っ伏したままの美佐緒を見ながら、先輩はポツリとつぶやいた。
「へっ、仲が…いい?」
「だって、昔から「喧嘩するほど仲がいい」と言うでしょう?」
 そう言うと、先輩は舌を出して小さく笑った。
「ええ、よく「夫婦みたいに仲がいいわね」って言われて本当に困ってるんですよぉ。ね
っ? あなた♡」
「……だれが「あなた♡」だ?」
 いつの間にか姫宮先輩の横に腰掛け、まるで何事もなかったかのようにほがらかな笑み
を浮かべ頬に手を当て照れまくる美佐緒に、あたしは唸るようにツッコんだ。

                        ※

「店長さんから話を聞いて、慌てて駆けつけてきたんだけど……元気そうで安心したわ」
 そう言いながら、先輩は花束を手渡してくれた。
「心配かけてすみません。でも、もうこのとお……って、痛っ!?」
 力こぶを作るがごとく腕を曲げて見せたが、身体を襲った痛みに、顔をしかめる。
「一ノ瀬さん!? ふぅ、まだ無理をしてはダメよ?」
 先輩は、おどろいたように腰を浮かせたが、あたしを見て安堵のため息をつく。
『姫の仰るとおりです。無茶は禁物ですぞ、一ノ瀬どの』
「うん。そうだね、気をつける」
 杓子定規な口調のレスティーアだったけど、その言外に姫宮先輩と同じモノを感じ、あ
たしは苦笑を禁じ得なかった。
『それにしても、トロンのヤツ……』
「えっ?」
 その口調にいらだちのようなものを感じ、あたしは顔をあげた。
『主である一ノ瀬どのを守ることもできず、このような傷を負わせるとは……ヤツはいっ
たい何をしていたのだ?』
「ちょっと、レスティーア?」
 真面目一辺倒なレスティーアのことだ。今のセリフのも悪意はないのだろう。でも……
『レスティーア。今の言葉はいいすぎでござる!』
 珍しく、厳しい表情でガーネットがレスティーアを諫めるが、それはレスティーアにと
って火に油を注ぐようなものだった。
『言い過ぎなものか! トロンが一ノ瀬どのを守れなかったのは事実だッ! だいたいヤ
ツは……』
『トロンちゃんを悪く言うのは止めてくださいッ!!』
 いまにも掴みかからん勢いでガーネットに詰め寄るレスティーアだったけど、驚いたよ
うに声のした方に振り返る。
『トロンちゃんは、リンさまを守るためにボロボロになるまで戦ったんです! だから…
…だから……そんなひどい言い方しないでください……』
 身体を震わせながら、必死にトロンをかばおうとするルーシィ。その姿に、怪訝そうな
顔をするレスティーア。ふたりが顔を合わせるのは今日が初めてだったけど、噂でルーシ
ィのことを知っていたのだろうか、すぐに納得したような顔になる。
『……そうか、お前がルーシィか?』
『は、はい。あ、あの、わたしルーシィといいます……はじめまして』 
 そう言うと、瞳に涙を浮かべたまま慌てて頭を下げるルーシィ。その律儀さに、レステ
ィーアは気勢をそがれたかのように苦笑を浮かべる。
『……そうだな。トロンの一ノ瀬どのへの想いの強さは、私が誰よりも一番知っているは
ずだった……私が言い過ぎたようだ。すまなかったな、ルーシィ』
『……レスティーアさん』
 ルーシィに向かって、いさぎよく頭を下げるレスティーア。それを見て、ルーシィは涙
を拭いながら愁眉を開いて微笑んだ。
 
                        ※

 一時は気まずかった空気もどこへやら、ときおり病室の外にまで響く笑い声が途絶えた
とき、一人だけ思い詰めた顔をしていたレスティーアが口を開いた。
『……ところで、一ノ瀬どの』
「ん? どうしたの、レスティーア?」
『実は、一ノ瀬どのにお聞きしたいことがあります……』
「レスティーア、止めなさいっ!」
 姫宮先輩は、敏感にレスティーアの心情を察したのだろう。珍しく諫めるような口調で
あたしたちの会話に割って入ってきた。
 先輩のきびしい声に、レスティーアは何か言いたげに顔を上げるが、すぐにうつむいて
しまう。

「……あたしに聞きたいことって……あの白い神姫のこと?」
『い、一ノ瀬どの?』
「一ノ瀬さん、どうして……」


 何気なくあたしの口をついたつぶやきに、姫宮先輩とレスティーアの驚きの声が重なっ
た……
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する