神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第17話

                   武装神姫 クロスロード

               第17話  「リベルター」 

「心外だなぁ、あたしの口からこんなセリフがでるわけないって思ってたわけ? レステ
ィーアは……」
『あっ、いや、そんなつもりは……』
 少し意地の悪い笑みを浮かべながら、めずらしく狼狽するレスティーアを見ていたが、
あたしはふと思い出したかのように美佐緒に話しかけた。
「ねぇ、美佐緒。姫宮先輩がせっかく持ってきてくれた花が枯れると困るから、ひとっ走
りいって活けてきてくれない?」
「えっ? はい……でも、このお部屋って花瓶が……」
 何か腑に落ちないといった表情を浮かべる美佐緒に、あたしは押しつけるように花束を
渡した。
「そんなの何でもかまわないって! じゃあ、お願いね? あっ、ルーシィも美佐緒を手
伝ってやって!」
『えっ、でも……』
『さ、ルーシィどの、行くでござる』
 あたしの真意に気づいてくれたのだろうか、ガーネットはかすかにうなずくと、不満そ
うな二人をながめながら連れだって病室を出ていった。
「……さてと、これで遠慮なく話ができますね」
「一ノ瀬さん……」
 晴れやかな笑みを浮かべ、笑いかけるあたしとは対照的に、姫宮先輩の表情は沈ん
でいた。あたしはあえて、それに気づかない振りをして話を続けた。
「ひょっとして、あの白い神姫は、半年前に起こった“ナイトメア”と何か関係があるんじゃ
ないですか?」
 淡々と話し続けるあたしの声に、レスティーアが跳ね上がるように顔を上げる。
『い、一ノ瀬どの、あなたは、あの“事件”を……』
 レスティーアの声は語尾がかすれて聞き取りづらかったけど、あたしは力強くうなずい
た。
「ええ、知っているわ。“ナイトメア”のことも……そして、あの事件に姫宮先輩とレステ
ィーアが関わっていたことも……」
 あたしの話を、黙って耳を傾けていた先輩たちの表情がみるみる曇っていくのを目の当
たりにして、あたしは自分の好奇心が先走りし、二人の心情に配慮するのを怠っていたこ
とにようやく気づいた。
 今度はあたしの声が尻つぼみになっていく。
「あっ! す、すいません。あたし……」
「ううん、いいの。もともと私たちが言い出したことだし、一ノ瀬さんが気にすることは
ないわ」
 姫宮先輩は、そう言いながら笑ってくれた。でも、すぐに口元に浮かんだ笑みは影を潜
めてしまう。
「でも、あなたはこの事件とは……」
「関係ならありますっ!」
 沈みがちな先輩の声は、あたしの反論の言葉に遮られる。姫宮先輩が驚いたように顔
をあげる。
「えっ?」
「あたしはもう巻き込まれています! だから、すべてを知りたいんです」
「一ノ瀬さん」
 あたしを見つめる先輩の瞳は、限りないほど悲しみに彩られていた。
 どれぐらいそんな状態が続いただろうか? 姫宮先輩ののどがかすかに動くと、唇が開
いた。
「たっただいまぁ~、って、あれ? どうしたんですか、せんぱい。そんなに怖い顔して?」
「なんでもないわよッ!」
 様々な花の香りとともに、部屋に戻ってきた美佐緒。あいつになんの罪もないのはわか
っているけど、あまりのタイミングの悪さにあたしは殺意すら覚えてしまった。
「ねぇねぇ、せんぱい。見てください、これ」
 うれしそうに活けた花を差し出す美佐緒。色とりどりの花が絶妙な配置で活けられた花
々の美しさに、あたしは一瞬怒りも忘れて見入ってしまったが、美佐緒の手元に目をやる
と、すぐに不機嫌になってしまった。
「ねぇ、美佐緒。これは……何?」
 あたしはふるえる指で一点を示す。
「何って、花瓶がなかったから代わりにと思って……せんぱい何を使ってもいいって言い
ましたよね?」


「……だからって、シビンに花を活けるなぁあああああッ!!」

                          ※

「ま、まあまあ、落ち着いて一ノ瀬さん」
 そう言いながら、姫宮先輩はあたしたちの間に割って入ってくる。
 自分が持ってきた花の末路を目の当たりにしながら、まだ美佐緒をかばおうとする先輩
に、「どんだけ女神属性なんだ、この人は?」などと思いながら、あたしは締め上げてい
た美佐緒の首から手を離した。
「ふう。……ねぇ、一ノ瀬さん」
 ようやくおさまった乱闘騒ぎに、先輩は小さく息をはくとあたしに話しかけてきた。
「けがが治ったら、DO ITに来て……」
 姫宮先輩は、一言つぶやくと席を立ち、入り口へと歩いて行く。
「えっ? ちょ、先輩?」
「その時、すべてを話すわ……お大事にね」
 あたしの問いかけになど耳に入っていないかのように、つぶやくと姫宮先輩の後姿がド
アの向こうに消えた。
「な、何なのよ、いったい……」
 何が起きたかまるで理解できず、呆気にとられた表情の美佐緒たちを背に、あたしは惚
けたようにつぶやいた。

                          ◆
 病室を出ると、いままで黙り込んでいたレスティーアが口を開いた。
『申し訳ありません姫。私の軽率な行いで……』
「気にしないで、あなたのせいではないわ」
 シュンと縮こまってしまったレスティーアを励ましていた私は、薄暗い廊下の奥に、壁
に背をつけわたしたちに手を振っている人影に気がついた。
「て、天堂さん?」
「いやあ、ひさしぶりだね。かおりちゃん」
 天堂さんは、頬をかきながらこちらに歩いてくる。
「ほんとうに……半年ぶりですね」
「そうだね。かおりちゃんも元気そうでなによりだ」
 はにかんだような笑みを浮かべる天堂さん。

            あの時と少しも変わってはいない……

「あら? でも、どうして天堂さんがここに? 知り合いの方がここに入院でもしている
のですか?」
 ふと思いつき口にすると、天堂さんは苦笑しながら私の背後を指さす。
「そこの病室に、ね」
すぐに、天堂さんの言わんとする意味を察した私は、慌てて背後を振り返る。
「そこって……天堂さん、あなた一ノ瀬さんと知り合いだったんですか?」
「まあね。といっても、知り合ってまだ数日だけど──いや、もっと前か……」
「?」
「あっ、な、何でもない、こっちの話しさ──それより、かおりちゃん……」
「えっ?」
 まだ考え込んでいた私は、ガラリと変わった天堂さんの口調に我に返った。顔を上げる
と、天堂さんはいつになく真剣な表情で私を見つめていた。
「かおりちゃん、隣ちゃんに事情を説明するつもりなのかい?」
「……聞いていたんですか?」
「うん」
 天堂さんの態度から、一ノ瀬さんが今回の一件に関わることを快く思っていないのは一
目瞭然だった。
『ですが、天堂どの。あなたはご存じないでしょうが、一ノ瀬どのの気性からいって、こ
れ以上隠し立てするのは、かえって逆効果に……』
 私をかばうように話し始めたレスティーアを、どこか悲し気な声がさえぎる。
『……そして、いたずらに犠牲を増やすことになる……あの時のように』
 いつの間にか天堂さんの肩に腰掛け話を続けるリューネを、レスティーアは驚いたよう
に見上げる。
『グリューネワルト!』
『おひさしぶりですわね、レスティーアさん』
 レスティーアに微笑みかけるリューネ。レスティーアの口元もかすかにほころぶが、す
ぐにその表情が厳しいものになる。
『いまのセリフ…どういう意味だ、グリューネワルト?』
『別に……言った通りの意味ですけど?』
 レスティーアの問いに、言葉少な目に答えるリューネ。そのすみれ色の瞳が、悲しみに
ゆらぐ。
『ただ、いらぬ犠牲を強いる必要はない、それだけのことですわ……ノインさんのように
……』
『黙れッ!!』
 絶叫にも似たレスティーアの叫びにリューネはハッとした顔になり、手で口元を覆う。
『その名を…口にするな』
 両の拳を握りしめ、おこりのように身体を震わせるレスティーア。その姿に、リューネ
も顔を伏せてしまう。
『……トロンの戦闘メモリーに残っていた映像から、一ノ瀬どのたちを襲ったのは、まず
“使徒”のはず。敵がやつらの生き残りなら……』
「……たしかに、相手が“使徒”なら、ぼくたちでもなんとかなるかもしれない」
 レスティーアの言葉を継いで、淡々と話を続ける天堂さん。
「でも、敵に“エーアスト”のような存在がいたら……そのときはどうするつもりだい?」
 レスティーアは驚愕の相を浮かべ、顔を上げる。
『もう、〈ナイン〉のみなさんは……いないのですよ?』
 顔を伏せたまま、リューネは床の一点を見つめながらつぶやいた。
                         ◆
             
「こんにちは!」
 慌ただしくスチール製の陳列棚に品物を並べる店長さんの背中に、あたしは元気いっぱ
いに話しかけた。
「い、一ノ瀬くん! けがの方は、もういいのかい?」
「ええ、もう、この通り!」
 おどろきながらあたしを見下ろす店長さんの目の前で、軽く正拳突きを放ってみせる。
 あたしのその姿に店長さんは微笑むが、すぐにその口元のダンディースマイルは影を潜
めてしまう。
 まあ、いくら元気に振る舞ってみても、あたしが病院にかつぎ込まれてから三日もたた
ずに現れたら、いくら店長さんだって怪訝に思うだろう。
 あたしたちの会話が聞こえたのか、棚の奥からリベルターが顔を出す。 
『隣さん! 身体の方は大丈夫なんですか?』
「うん!」
『で、でも……』
 店長さんと同様に、リベルターに浮かんだ笑顔は瞬時に消え、心配そうな表情になる。
「大丈夫だって! 自分の身体よ? 起きているべきか、寝ているべきか……それぐらい
の判断は自分でつけられるって!」
 つとめて明るく振る舞い、そう言いきるあたしを、リベルターは無言で見上げていた。
 本当のことをいうと、まだ痛みは残っていた。常識的には、まだ安静にしてなきゃいけ
ないのかもしれない。でも、あたしは過去の経験から、今は多少無理をしてでも起きてい
た方がけがの直りは早いと判断していた。

 そう思っての行動だったけど、リベルターの瞳に浮かんだ懐疑的な光に気づき、あたし
は内心苦笑いを浮かべていた。
「それに、いつまでもトロンのヤツを預けっぱなしにするわけにもいかないでしょう?」
 ようやくリベルターは、納得したような顔をする。
「で、トロンのヤツ……どうしてる?」
『あっ、はい。トロンはいま、メンテナンスルームで休んでいます』
『あ、あの、それでトロンちゃんの様子は……』
 バッグの中から顔だけだし、心配そうに問いかけるルーシィに店長さんが口を開く。
「トロンくんのことなら心配はいらない。修理はすべて終わっているからね」
 ホッとした顔で、胸をなで下ろすルーシィ。頭を撫でると、うれしそうにあたしを見上
げる。
「会って行くかい?」
「はいっ!」
 あたしは、店長さんに続いてメンテナンスルームのドアをくぐっていった。

                          ※ 

 修理用の作業台や、様々な工作機械。そして、大量のパーツがうず高く積まれた大きな
棚。メンテナンスルームのスペースは大半がこんな物に占領されていたが、部屋の隅の方
に修理を終えた神姫が休むベッド型のクレイドルが複数あり、その一番端にトロンの姿が
あった。
 トロンはベッドから身を起こし、無言で壁を見つめていた。
『トロンちゃん!』
 あたしは、そんなトロンに違和感を感じ足音を忍ばせて近づいていったが、がまんしき
れなかったのだろう。ルーシィはバッグの端に足をかけると、止める間もなくトロンめが
けてダイブを敢行した。
 自分めがけて飛来した白いカタマリに、さすがのトロンも目を白黒させている。
『エッ? うワッ!?  ル、ルゥ……どうしてここ二?』
 最初は訳が分からず戸惑っていたトロンだが、やがて自分にしがみつき嗚咽を上げて泣
き続けるルーシィの頭を撫で始めた。
「どう、トロン。身体の調子は?」
『リン!?』
 片手を上げてベッドに近づくあたしに気づき、トロンはハッとして顔を上げるが、なぜ
か、すぐにうつむいてしまった。
「どうしたのよ? まだ、どっか具合が悪いの?」
 あたしの問いに、トロンは小さくかぶりを振った。
 気まずい沈黙が室内を包んだが、しばらくすると、トロンは下を向いたままつぶやいた。
『……怒ってル?』
 消え入りそうなかすかなつぶやき。あたしはその言葉の意味を瞬時に理解していた。

      きっとトロンは、あの夜のバトルのことを言っているんだろう……

「そうね、むかっ腹はたってるかな?」
 あたしの返事に、トロンの身体がかすかに震えた。
 あたしはトロンを両手で包み込むように抱き上げた。トロンは驚き顔を上げる。
「勘違いしないで。あたしが腹を立ててるのは、あんたを止められなかった自分自身に対
してよ!」
 そこまで一気に言い切ると、あたしはニヤリと笑ってみせた。
「あんたのおかげで、あたしもルーシィも助かったのよ……ありがとう、トロン」
『……リン』
 しばらく、狐につままれた悪魔みたないな顔をしていたトロンだが、しばらくして、か
すれたような声でつぶやいた。
「あのさ、トロン……」
 その先が続かず言いよどむあたしに、トロンは不思議そうに首をかしげた。
『ン、どうしたノ?』


                    シャーリー。


 あの夜の戦いで、意識を失う前にトロンがつぶやいたセリフ。
 どうしてもその名前が頭から離れず、トロンにそのことを聞きたかったけど、なぜかあ
たしはそれ以上言葉が続かなかった。

                今は聞かない方がいい……

 あたしの内にいるもう一人のあたしが、そうささやいたような気がした。
「んん、やっぱいい!」
 照れ笑いを浮かべながら両手を振るあたしを見て、わずかにトロンのまゆが寄った。

                         ※

「さて…と」
 あたしはトロンとルーシィを抱き上げたまま、背後を振り返った。部屋の入り口には、
店長さんが無言で立っていた。
「あの、姫宮先輩は……」
 あたしの問いに、店長さんは首を振った。
「いや、今日はまだ着ていないようだね。まさか、一ノ瀬くんがこんなに早く退院すると
は夢にも思ってなかったろうしね」
 そう言いながら苦笑する店長さん。でも、その返事で、店長さんが姫宮先輩から事の顛
末を聞いていることをあたしは察していた。
「じゃあ、代わりに店長さんに聞いちゃおうかな?」
 おどけたようにそう言うと、店長さんの表情がかすかに強ばった。
「一ノ瀬くん」
「すべてを知りたいんです!」
 あたしは真顔でそう言いながら店長さんに詰め寄るが、店長さんは口を開かない。
「あの白い神姫が言ってました。あたしたちは『“罪人”に組みする者だ』と、“罪人”っ
て誰のことなんですか? 半年前、この店で何が起こったんですか?」
 一気にまくしたてり、あたしは息継ぎをしながら返事を待った。しばらくして、店長さ
んは大きく息をはいた。
「……わかった、すべてを話そう」
『店長さんっ!』
 あきらめたように口を開く店長さん。リベルターの悲鳴にも近い叫びがそれを覆う。
「リベルター、私たちは一ノ瀬くんたちを巻き込んでしまった。こうなったら、すべてを
話すべきだと私は思う」
『でも……』
 さとすように店長さんは話しかけるが、リベルターは、まだ納得できないようだった。
「ただ、一ノ瀬くん。事情を説明する前に、きみに会わせたい人がいる」
「会わせたい……人?」
「いや、実際には人ではないが……」
「?」
 訳がわからず怪訝な顔をするあたしを見て、店長さんは意味深な笑みを浮かべる。
 近くを通りかかった店員さんに、しばらく誰も部屋にこさせないようにと念を押し、店
長さんは二階にある私室へとあたしたちを案内した。
 全員が部屋に入ると、店長さんはドアに鍵をかけ奥の扉へと歩き出す。そこは以前、
ライドシステムの説明を聞いたときに気になった場所だった。

        店長さんは、頑丈な作りの扉の前に立つと、静かにノックした。


               「……リベルター、入ってもいいかい?」


            店長さんの口から紡がれた、思いもしない言葉。


  反射的に振り返るが、テーブルの上に立つリベルターはうつむき、その表情はわか
らなかった。
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