神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第19話

       
                  武装神姫クロスロード

                 第19話「一触即発!」

「よっと!」
 あたしは、軽快な動きで一段抜かしにエスカレーターを駆け降りると(よい子のみんな
は、ぜったいマネしちゃだめだよ?)姫宮先輩の目の前に華麗に着地してみせた。
 ほんとうなら、ポーズの一つもつけたかったけど身体もまだ本調子じゃないため、そこ
はグッとがまんした。
「一ノ瀬さん」
 あたしを見つめる先輩の瞳は、かすかにうるんでいた。
 それは、あたしに真実を知られたこと云々よりも、そのためにこれからあたしに降り懸
かる災厄を案じているように見えた。
「ごめんなさい、先輩。待ちきれなかったんで、話し、先に聞いちゃいました」
 おどけたように舌をだし、そう答えたけど、なるべく先輩とは目を合わせようとはしな
かった。
 それは、姫宮先輩を悲しませてしまったことへの罪悪感のせいだったと思う。
「隣ちゃん、ほんとうにいいのかい? きみには何も関係のないことなんだよ?」
 天堂さんも先輩同様、あたしを案じて言ってくれたのはわかっていた。でも、なぜかわ
からないけど、あたしはムキになって反論していた。
「べつにそんなこと天堂さんに心配してもらう必要なんてありません! それに、あたし
たちが本気になれば……」
『……足手まとい以外の何になるというのですの?』
「へ? リューネ?」
 天堂さんの肩の上で、腕を組みながら憮然と言い放つリューネ。
『わたくしも、トロンさんと使徒の戦いを拝見させてもらいましたが……最低の内容でし
たわ』
『……最低?』
 リューネの暴言への返答は、肩から下げたバッグから聞こえた。
 地の底でうめく、亡者のような声でつぶやくトロンが、金色の瞳に憤怒の炎を宿しリュ
ーネをにらみつけていた。
『ええ、最低も最低、“ 最低のモンドセレクション金賞受賞”といったところですわ!』

                 意味わかんねーよ!
  
 とりあえず、胸の内でいっぱつツッコんで、あたしは口を開いた。
「それって、言い過ぎじゃない?」
『言い過ぎ? わたくしは、ただ事実を述べただけでしてよ?』
 まるで悪びれた様子もなく、言い切るリューネの眼前に音もなくトロンが降り立つ。
『じゃあ、ボクがどれぐらい最低か試してみる?』
 金色の瞳に怒りの業火を宿し、トロンが唸るようにつぶやく。リューネは、そんなトロ
ンを冷ややかな目で見ていたが、口元に笑みを浮かべるときびすを返してシュミレーター
のある二階へと歩いていく。
 あたしや天堂さんは、二人の剣幕に呆気にとられ制止することも忘れていたが、トロン
の行く手を遮るように蒼い影が立ちふさがった。
『なんか用、レスP?』
『わざわざ言わねばならぬほど、きさまも間抜けではあるまい?』

 止めに入ってくれたのはうれしんだけど、レスティーア。それじゃ逆効果だって……

 これじゃあ、仲裁どころかかえって火に油を注いでいるだけだ! 内心頭を抱えている
と、今度こそほんとうに救いの手がさしのべられた。
「なるほど、トロンくんの気持ちもよくわかるがね……」
 一同の視線が集中し、少しはにかんだような笑みを見せる店長さん。ぐるりとあたした
ちを見回していたが、やがて店長さんの視線が一点で止まる。
「グリューネワルトくん」
『な、なんですの? あらたまって……』
 急にトーンの下がった声で名指しされたリューネが、思わず後ずさる。
「以前にも言ったはずだよ? この店では、一切の私闘は禁ずる、とね」
『わ、わたくしは、ただ……』
 不満そうに口を開いたリューネだったけど、店長さんと目が合うと、不満そうな顔をし
ながらも口を閉ざしてしまった。
 リューネの態度は、あたしたちやマスターである天堂さんに接していた時のような尊大
さは微塵も感じられなかった。
 リューネの豹変ぶりに、驚きながらも店長さんを見上げていると、少し照れたような顔
をしながら店長さんが話しけてきた。
「さあ、こんなところで立ち話もなんだ。場所を変えよう、飲み物でも……」
『ちょっと、待ったッ!!』
 強引にあたしたちを休憩所の方に連れていこうとした店長さんの試みは、不満を露わに
した声に頓挫してしまう。
 振り向いた視線の先に、腕を組んだまま憤懣やるかたないといった顔をしたトロンがあ
たしたちをねめつけている。
『たしかにここは店長さんの店かもしれない。でも、だからといってボクたちの戦いを止
める権利はないよ!』
 冷静に考えれば屁理屈以外の何物でもないのだが、トロンの剣幕にそのことについて言
及するものはあたしも含め皆無だった。店長さんは、トロンをみつめたまま何か思い悩ん
でいたようだったけど、やがて口を開いた。
「しかし、トロンくん。彼女は特別なんだ」
『?』
『……グリューネワルトは、使徒やエーアストと戦うために創られた神姫なのよ?』
 店長さんの肩に乗っていたリベルターが、ポツリとつぶやく。
「な、なんですって?」
 思いもしなかったリベルターの言葉。トロンも、声もなく店長さんたちを見上げている。
『リューネ……どうして仲間同士で戦わなければならないの?』
 妙に抑揚のない声でリューネに問いかけるリベルター。
『わたくしは、この小悪魔さんを仲間にしたつもりはなくてよ、リベルターさん?』
『リューネ、あなたは……』
 どこか人を小馬鹿にしたようなリューネの口調に、リベルターは拳を堅く握りしめる。
 あたしは理解した。リベルターの感情の起伏にとぼしい話し方は、いまにも爆発しそう
な感情を必死に抑えようとしていたんだ。
『ありがと、ギンちゃん。もういいよ』
『トロン!?』
 軽い口調とは裏腹にトロンの顔に覚悟の程をみたのか、リベルターはまだ何か言いたげ
だったけど諦めたようにうつむいてしまう。
『おい、トロン』
 レスティーアが次の言葉を紡ぐより早く、トロンは向き直る。
『レスPは、相手が自分より強いからといって、それでバトルをやめるのかい? 自分よ
り弱い相手としか──確実に勝てる相手としか戦わないのかい?』
 痛いところを突かれたレスティーアは、そのまま黙り込んでしまう。そのままふたりは
しばらくにらみあっていたけど、やがてレスティーアは大きく息を吐くと静かにきびすを
返した。
『店長どの、私からもお願いします。トロンとグリューネワルトの一戦を承諾してはいた
だけないでしょうか?』
「レスティーアくん!?」
『レスP!』
 思いもしない助け船に、店長さんは困惑を、トロンは対照的にパッと顔を輝かせる。
 しばらく、気まずい沈黙が場を覆っていたけど、やがて三つの視線があたしに向けられ
た。
「まったく! 今の今まで蚊帳の外だったくせに、いまごろになってあたしに何か用?」
 トロンたちの言い分はわかっていたけど、少しへそを曲げていたあたしは、とぼけてそ
っぽを向く。
 横を向いても、三つの視線はあたしから離れない。しばらくして、あたしは大きなため
を息をひとつついた。
「わかったわよ! 好きにすればいいでしょう!」
 うれしそうに破顔するトロンを横目で見ていたあたしは、釘を刺すべく口を開いた。
「ただし! いつもどおりにバトルはバーチャルでやること、いいわね?」
『バーチャル? 何をのんきなことを……』
 意外なことに、反論の声は落胆するトロンの横から聞こえてきた。ゆっくりと、声の主
に首をめぐらせる。
「何か不満でもあるわけ、リューネ?」
『隣さん、あなたはずいぶんと勘違いをされているようですわね?』
「どういう事?」
『あなたは、使徒たちとの戦いがはじまったら、彼女たちに「この戦い、バーチャルバト
ルでお願いします」、というつもりですの?』
「うっ! そ、それは…… 」
 リューネの物言いは、いちいち燗に障ったけど、言ってることは正論だ。
 腕を組み、冷ややかな声で尋ねてくるリューネに、あたしは二の句をつげなくなった。
どれくらい時間が過ぎただろうか? そのまま続くと思われた沈黙の静寂を破って、あ
たしはようやく口を開いた。
「……わかったわ」
「一ノ瀬さん!?」
 背中から聞こえた声にあたしは振り返った。
「ごめんなさい、姫宮先輩。でも、こうでもしないとトロンのヤツ納得できないみたいな
んです」
 あたしは、先輩に二の句を継がせまいと一気にまくしてると、深々と頭を下げた。
 どこか困惑したような先輩の気配。でも、姫宮先輩はもう何も言わなかった。
 あたしはそのまま前に向き直った。そこには、困ってような顔をした天堂さんがいた。
「天堂さん、勝手を言ってすみません。でも、あたしもトロンも覚悟の上なんです! こ
の戦い、受けてもらえませんか?」
 天堂さんは、しばらくあたしをみつめていたけど、無言のまま首を縦に振ってくれた。
 あたしは、ようやくまとまった話に内心ため息をつきながらトロンに向きなおった。
「あんたも、あそこまで言い切った以上、ハンパな戦いなんかしたらただじゃおかないわ
よ?」
『うん!』
 トロンをにらみつけながら、凄みをきかせてそう言い放ったけど、当の本人はうれしそ
うな顔をしただけだった。
 あたしは、トロンとルーシィを抱きかかえ、シュミレーターのある二階へと向かった。


                        ※


「トロン、店長さんたちがいってたけど、リューネはただ者じゃない。くれぐれも油断は
禁物よ?」
『おいっち、にぃ、さん、しぃ──わかってるって!』

           あいかわらず、緊迫感のカケラもないヤツ……

 ラジオ体操のリズムに乗りながら答えるトロン。その妙に浮かれた態度に、脊髄反射で
特大のため息がもれる。
「あのねえ……」
『確かに、事の起こりはグリューネワルトの態度に腹がたったからさ。彼女がボクより強
いのもわかっている』
 不安げなあたしの声をさえぎり、話し続けるトロン。〆である深呼吸を終えるとあたし
を見上げた。
『それがわかっていてもなお、ボクはグリューネワルトと戦いたい……怒りとは別にね。
リンなら、今のボクの気持ちわかるよね?』
 トロンはこの前の使徒との戦いで、苦戦を強いられた。そして、リューネはその使徒た
ちと戦うために創られた……トロンからしてみれば、心情的にもリューネとのバトルは避
けられないものなのだろう。
 あたしを真っ向からみつめるトロンの瞳には、もはや怒りの欠片すら見あたらなかった。
『じゃあ、行ってくる!』
 トロンは、あたしの返事も待たずきびすを返す。
『で、でも、絶対に無茶しちゃダメだよ? トロンちゃん!』
『OK!』
 心配そうなルーシィに背を向けたまま、トロンは軽く手を挙げる。
「ふう。 あの性格、いったい誰に似たのやら……」
 アクセスポッドに向かうトロン。その後ろ姿にあたしは誰にとも言うわけでもなく、ささ
やくようにつぶやく。

          『もちろん。世界でただ一人の、ボクのマスターにさ!』

               後ろを向いたまま、トロンは即答した。
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