神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第7話

「うん。 全くといっていいほど異常はないようだね」
「そ、そうですか……」
 高原を流れるそよ風のように、あまりにさわやかに言われたせいで二の句が続かなく
なったあたしを、口元に笑みを浮かべた店長さんが静かに見ている。
「で、でも、これってヘンですよ! やっぱり線が何本か切れてたとか、どこかネジがゆ
るんでたとか……」
 機械にはとんと疎いあたしは、とりあえず頭に浮かんだそれっぽい原因を、店長さんに
ぶつけてみた。
 しかし店長さんは、あたしの幼稚ともとられてもしかたのない質問にも、笑顔を浮かべ
ながら静かに首を横にふるだけだった。
「で、でも、それじゃあ……」
「恐らくトロンくんが個性的なのは“ゆがみ”と関係があるのかもしれない」
 まだ納得がいかず、口ごもっているあたしに店長さんが話しかける。
「ゆがみ?」
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
               第7話    「DO IT」
 
 ここは<DO IT>。武装神姫などMMSと呼ばれる小型のロボットをあつかう個人
経営のお店だ。
 あたしたち人間と同じような姿を持ち、泣いたり、笑ったり、怒ったりとあたしたちと
同じように感情を持っている。それでいてその大きさは15センチ足らずという、あたし
が小さかったころには本やテレビの中にしかいないと思っていた存在、<神姫>。
 そんな夢のような存在である神姫たちが、あたしたちの前に姿を見せて、早数年。今
ではその爆発的人気に支えられて、町の小さな電気店でも神姫を扱っている店は多い。
あたしの住んでいる、名前も知られていないような小さな町でもそうだ。
 それなのに、あたしが電車をいくつも乗り継がなければならないこの店を選んだのには
理由があった。
 最近は、神姫の人気が高まるにつれて、神姫センターと呼ばれる専用の施設がいくつも
姿を見せ始めていた。
 いずれは日本全国津々浦々に、神姫センターができるなんて噂もあるけど、あたしの町
には影も形もないというのが現状だった。
 そんな中でこのDO ITは、個人経営ながら、神姫本体や武器、装備などのパーツ全
般を販売するスペースと、神姫の修理やメンテナンスを請け負うブースからなる、一階の
フロアー。そして二階には、神姫たちにバトルをさせることができるシュミレーターと呼ば
れる機械が数台ある。
 特にこのシュミレーターを複数設置しているのは、この辺ではDO ITだけであり、この
店は、つねに多数のお客さんで溢れかえっている。
 もっとも、自分の神姫にゲームとはいえ、戦いなんてさせるつもりは毛頭なかったあた
しは、この店の二階に足を運んだ事はほとんどなかった。
 そして、今あたしがいるのは、DO ITの一階のスミのほうにあるメンテナンスコーナー
と呼ばれる神姫のメンテナンス全般を請け負ってくれるところだった。
 先日の姫宮先輩との一件で業を煮やしたあたしは、休日の朝一番に愚図るトロンを連
れて家を出ると、開店と同時にDO ITに飛び込んだわけだった。
 メンテナンスコーナーの奥にある、小さなテーブルとソファーの置いてある個室に場所
を移し、あたしは店長さんと向かい合って座っていた。
 テーブルの上に置かれたコーヒーに、あたしは手をだす気持ちにはならず、時間だけが
過ぎて行く。
「あ、あの店長さん!」
「……“ゆがみ”の事だね?」
 カップから湯気が上がらなくなった頃、思わず発したあたしの声をさえぎり、店長さんは
静かに話し始めた。
「“ゆがみ”というのは、ある大手メーカーが試作段階の神姫に行った意図的な能力の調整
ともいうものでね。まあ、正しくは“特性”とでも言ったほうが聞こえはいいだろうが」
「特性って、あの寝てるだけの状態の事を言うんですか?」
 思わずあたしの口をついて出た質問に、口に含んだコーヒーを盛大に吹き出す店長
さん。
「げほっ、げほっ。 あ、いや、失礼。 まあ、トロンくんの場合は少々特殊なケースだと
は思うんだが、一ノ瀬くんも知っているとは思うが、神姫にとってCSCは……」
「あ─────っ!」
「えっ?」
 いきなり上げたあたしの大声に、話の腰を折られた店長さんが呆気にとられたような
顔になる。
「あ、ごめんなさい、大きな声をだしちゃって……あの、店長さん。あたしがこの店でト
ロンを買った時、CSCをプレゼントしてくれましたよね? あの時あたしが選んだCS
Cを見せた時、なんか店長さんの顔色が変わったような。ひょっとしてトロンがおかしく
なった原因ってそのせいじゃ……」
 店長さんの言ったCSCという単語を耳にしたとき、あたしの頭に閃くものがあったが、
あたしの視線の先にいる店長さんは、やはり首を横に振るだけだった。
「残念だが、一ノ瀬くんが選んだCSCを見て驚いたのは、チョイスの仕方が少しばかり
個性的だったものでね。あの時、一ノ瀬くんが選んだCSCは三つとも“エメラルド”だ
ったよね?」
「はいっ。あの、ひょっとして三つとも同じCSCだと何か問題が……」
 必死に記憶の糸を手繰り寄せたあたしは、確かにあの時選んだCSCがすべて同じ
だった事を思い出した。
 でも、あたしが三つともエメラルドを選んだのは、別にたいした意味はなく、ただエメ
ラルドのもつ色合いが好きなだけだったからだ。
「もちろん三つとも同じCSCを選ぶ事になんら問題はない。もしあったとしたら、当然
その場で止めていたしね。ただ、CSCをすべて統一するというのは、その神姫の能力を
一つだけ最大まで引き上げたい時などに用いる方法でね。本来はある程度、熟達した
神姫オーナーが行うんだが、一ノ瀬くんが初心者だというのは聞いていたが、てっきりそ
ういった情報を知った上での選択だと思ったもので……」
 
         イヤイヤ、アタシハソンナコトマッタクシラナカッタノデスケド……
 
 あまりの展開に幽体離脱を起こしかけたあたしのタマシイだったが、店長さんのささや
くような声を聞くと、再びあたしの身体へと戻ってきた。
「結果として、“ゆがみ”は不安定すぎるという結論になり、市場に出回る前に廃止され
た。だが私はこう考えるんだ。神姫を開発した人たちが真に望んだものは、“完全”などで
はなく、神姫たちの雛形たる私たち人間の持つ“不完全さ”なのではないかと……だから
こそ私たちは……あっ」
 まるで熱病にでもおかされたかのように熱のこもった口調で話し続ける店長さんの話に、
あたしは黙って耳を傾けていた。そして、ようやくあたしの視線に気がついた店長さんは
バツが悪そうに笑うと、きれいに撫で付けられた髪の毛に爪を立てた。
「いや、これは失礼したね。こんなわけのわからない事をならべ立ててしまって……驚い
たんじゃないかな?」
「そんなことはありませんよ」
 照れまくる店長さんの姿に笑いを噛みころすのに苦労しながら、あたしの視線はこの部
屋のドアの向こうに、メンテナンス用の作業台の上で眠っているはずのトロンへと向けら
れていた。
「あの、ひょっとして店長さんはこう言いたいんですか? 神姫とは意図的に未熟に生み
だされた存在だと。そして、それを導き、ともに歩んでいくのがあたしたち人の役目だと
……」
 店長さんの方に向き直り、あたしが話し始めると、店長さんの顔がみるみる驚きに彩ら
れていく。ミラーグラスに隠された、その下にある目はあたしには見えない。でも何故か
あたしには、店長さんの目がやさしさに満ちた光を宿したような気がした。
「これは、驚いたな……一ノ瀬くんの口からこう言ったセリフが聞けるとは、正直うれし
い誤算というやつだな」
 店長さんの口元が、わずかにほころぶ。
 あたしもつられて微笑みコーヒーを口に運ぶが、頭の片隅にある疑問が生じた。
「あれ? でも、なんでトロンが“ゆがみ”なんて持ってるんですか?」
 ティーカップに伸ばした店長さんの指が止まる。店長さんはミラーグラス越しにあたし
を見ていたが、やがてためらいながらも口を開く。
「トロンくんが“ゆがみ”を持つ理由はただひとつ。彼女はFront Line社の悪魔型MMS
ストラーフのプロトタイプの一体だからだ」
 事も無げに言い切る店長さん。あたしは唇に当てたカップから、コーヒーが流れ落ちて
いるのも気がつかなかった。
 店長さんは、そんなあたしに気にした様子も見せず話を続ける。
 ストラーフの試作タイプであったトロンは、ある事故に巻き込まれ半身を失うほどのダ
メージを追ってしまった。そんなトロンの修理を請け負ったのが店長さんということだった。
「でも、それって変ですよね?」
 あたしは即座に店長さんに尋ねた。機密事項にも等しい試作神姫の修理を、一介の
神姫ショップに依頼するなんて、誰が考えたっておかしな話だろう。
 あたしは一瞬、店長さんにからかわれているのでは? といぶかしげな顔になったが、
目の前の店長さんの表情がそれを否定していた。
「一ノ瀬くんの言いたいこともよくわかる。だが今回の一件は、私の友人のたっての頼み
だったんだ」
 トロンの修理を依頼した店長さんの友人という人は、Front Line社の人間だという事
以外、店長さんは多くを教えてはくれなかった。
 でもあたしは、その事故でトロンが膨大な戦闘メモリーや記憶を全て失ってしまったと
いう事や、店長さんの友人が、できればこのストラーフを普通の神姫として新しい人生を
歩ませてやってほしいと嘆願したという話を聞いた時、それ以上店長さんを問い詰める気
にはならなかった。
 
       そして頃合いを見はかられ、店頭に並んだトロンとあたしは出会った。
 
「それで、話はもどるんだが」
「は?」
 急に声のトーンが落ちた店長さんの声に、あたしは我に返る。
 店長さんの、さっきまではにかんだような笑みを浮かべた口元は、何かを覚悟したかの
ように硬く閉ざされていた。
「私は神姫好きがこうじてこの仕事を始めたわけだが、道理はわきまえているつもりだ。
トロンくんの修理は完璧だったと断言できるし、私が調べたかぎりではトロンくんの身体
には、何ら異常はみあたらなかった。ただ、今説明したとおりトロンくんは特殊な出自を
持つ。一ノ瀬くんがどうしてもトロンくんに対して我慢ができないというなら、新しい神姫
を用意するなり、対応を考えるつもりなんだが……」
「……店長さんって、意外と意地の悪い人だったんですね?」
「?」
 あたしは、軽く店長さんを睨みつけるとソファーから腰を上げ、ドアの方へと歩いてい
った。ドアノブに手をかけ目の前の扉を見つめながら、あたしは、はっきりとした口調で
言った。
「つれて帰ります……トロンを!」
「そうか」
 あたしがドアをくぐりぬける時、どこかホッとしたような店長さんの声があたしの背を
追いかけてきた。
                        ※
「ほんと、いい気なもんよね~」
 作業台の上で、人の気も知らず爆睡中のトロンをそっと抱き上げると、あたしは思わず
大きなため息をはいた。
「それにしても、“ゆがみ”なんていうご大層なモノが、ただ一日寝てるだけなんて……
まっ、あんたらしいけどね」
「それは、少し違うかな」
「きゃっ? て、店長さん!」
 いきなり後ろから声をかけられたあたしが振り向くと、いつの間にかあたしのすぐ後ろ
に、いつもの笑みを浮かべた店長さんが立っていた。
「失礼。ところで今の話だが、以前調べてわかったんだがね。トロンくんは、同じタイプの
神姫と比べて、演算能力とトロンくん自身の機体の反応速度が二、三割ほど高いような
んだ。だが、その代わりにトロンくんのジェネレーターの出力は通常のものと比べて、約
二割ほど低い。これがトロンくんの持つ“ゆがみ”ということなんだが」
 
          トロン自身の反応速度って、つまり動きが素早いってこと?
 
 あたしは幸せそうな顔でイビキをかいている、機械仕掛けのナマケモノを穴が開くほど
見つめた。
「あ、あの、じゃあトロンが一日中寝てるのって……」
「それは……たんにトロンくんの生来の性格なのではないかと……」
 
 オー マイッ ガッ! 何ソレ性格って? せっかく持って生まれた長所もぜんぶ相殺
されちゃってるんですけど?
 
 歯切れの悪い店長さんの一言に、失望落胆したあたしはがっくりと肩を落とすと、今さ
らながらわかりきっていた事をポツリとつぶやいた。
「ダメじゃん、コイツ……」
 
『ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZzzz』
 
そんな絶望の淵にいるあたしだったが、脳天気な悪魔の大イビキが聞こえてきた時、な
ぜかこみ上げてくる笑いをおさえる事ができなかった。
 
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コメント


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こんばんは。

徐々に進みつつあるストーリー。それにしても店長が格好いいっす・・・そしてそれ以上にトロンさんが唯我独尊すぎる(笑)

ゆがみ・・・また、トロンの過去などが今後物語にどのような関わりを持ってくるの、続きが気になりますねー^^

ではでは

初瀬那珂 | URL | 2012-02-20(Mon)20:08 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

店長は、私のSSに出てくる登場人物なかでは(服装以外は)比較的まともな人物だったりします。
これからも、隣たちの相談役として、ちょくちょく顔を出してくる予定です。

また、今後もいくつかの伏線がポツポツと出てくると思いますが、それらが形を成すのはかなり後の話になると思います。
しばらくは、脳がトロケそうなストーリーをお楽しみください。


それにしても、唯我独尊……この言葉、すごくトロンにふさわしいですね(笑)。

シロ | URL | 2012-02-20(Mon)22:32 [編集]