神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第25話

                 武装神姫 クロスロード

              第25話 「勝てない理由」



 うなりをあげて接近するガンポッドを、アーンヴァルは紙一重で回避する。
『くっ!』
 手にしたLC3レーザーライフルで狙撃を試みるが、狙いを定めようと長大な砲身を構
えたときには、標的であるはずのガンポッドはアーンヴァルの視界の外に回避してしまっ
た後だった。
 しかも、今度はがら空きになったアーンヴァルの背後めがけて別のガンポッドが砲撃を
はじめる始末。
『きゃああああ!?』
『ほれほれ、どうしたのじゃルーシィとやら。もう少しわらわを楽しませてたもれ?』
 複数のガンポッド<玉面>にかこまれ、空中で右往左往するルーシィ。
 狐姫は、そんなルーシィを見ながら舌なめずりをしている。
『あ、あの、リンさま。わたし……ひぃ!? ど、どうしたらいいんですか?』
 あきらかにおちょくられてるんだろう。顔のすぐそばを通過していった玉面を目で追い
ながら、ルーシィは悲鳴に近い声であたしに懇願してきた。
『とりあえず、ボクならその物干し竿を捨てるのを推奨するね』
 救いの手は、あたしの下──コンソールのあたりから差し伸べられた。
 トロンのアドバイスに、ルーシィはレーザーライフルを投げ捨てると小型の銃アルヴォ
PDW9を取り出し砲撃を加えながら突き進んでくる玉面を紙一重でかわし、振り向きざ
まに狙い打つ。立て続けに閃光が二つあがる。
 攻守逆転。さっきまでのテンパりぶりが嘘のように落ち着きを取り戻したルーシィは、
精密機械のように(まあ、神姫は機械だけど)確実に玉面を打ち落としていく。
「へぇ、ルーシィもやるもんね」 
 一基、また一基と爆散していく玉面を見ながら、あたしは驚きをかくせなかった。
 前にリベルターから、ルーシィは射撃に対してかなり高い能力をもっていると聞かされ
ていたけど、正直ここまでとは思わなかった。

 狐姫はこの店のランキングでは上位に位置するランカーだけど、ひょっとすると……

『ま、このまま押し切れれば御の字だけどね』
 コンソールの上であぐらをかき、腕を組んだままフィールドを凝視していたトロンが、
あたしの思惑を否定するかのようにつぶやく。
「どういう意味よ、それ?」
 トロンは返事の代わりに、一点を指し示す。
 数発の直撃を受けながらも、ルーシィは玉面をやりすごす。一時的に無防備状態になっ
た狐姫めがけてアルヴォの銃口が向けられる。恐怖に息をのみ硬直する狐姫。
 でも、それはルーシィもおなじだった。
 刹那の間、凍り付く時間。でも、先に行動を起こしたのは狐姫の方だった。狐姫は残っ
た四基の玉面を束ねるように集結させると、そのままルーシィめがけて突っ込ませた。
 苛烈な砲撃を繰り出しながら、特攻よろしく自分めがけて迫りくる玉面を間一髪でルー
シィは回避する。
 だが、玉面は反転することもなく、そのまま空の彼方へと飛び去ってしまう。惚けたよ
うな顔で、ルーシィはそれを見送っていた。
「ルーシィ、後ろ後ろッ!」
『へっ?』
 それは一瞬の出来事だった。あたしの声に視線をもどしたルーシィの目と鼻の先に、ニ
ンマリと微笑む狐姫の顔があった。

 状況が理解できずポカンとするルーシィ。狐姫の両腕の鉤爪が身体に食い込んでも、そ
の表情は変わらなかった。

                          ※

 バトルを制し有頂天になってる狐姫と、それを諫めながら立ち去る桜庭さんの背中を見
送ると、あたしは振り返る。
「勝負は時の運。そんなにしょげかえることないでしょう?」
 コンソールの上に正座しながら唇をかみしめるルーシィに、苦笑しながら話しかける。
 いままで神姫バトルにあまり興味をしめさなかったルーシィだけど、リベルターたちの
生い立ちを聞き、トロンとリューネの戦いを目の当たりにしてから人が変わったように神
姫バトルに興味を示すようになった。

           まあ、それはいいんだけど、問題は結果だった。

『でも、十連敗……』
 そう、いまあたしたちの前にたちふさがっている最大の問題は、ルーシィがまるで勝て
ないということだった。
「そんなの気にすることないって! トロンなんて初白星をかざるのにどれだけ大変だっ
たか。ね、トロン?」
『……イヤなこと思い出すね』
 ちょっと例えがアレだったか、トロンは苦虫をかみつぶしたような顔になる。
 ルーシィはパッと顔をあげるが、それがなんの解決にもなってないことに気づき、すぐ
にうなだれてしまう。

 ほんとうは、ルーシィの勝てない理由はあたしもトロンもわかっていた。

                 でも……それは。

『ふぅ』
 長い沈黙の間。それを破ったのは小さなため息だった。
『ねぇ、ルゥ、一つ聞いてもいいかな?』 
 めずらしく、まじめな口調で話しかけてくるトロンを、不思議そうにルーシィは見上げ
ている。
『ルゥは、本気で勝つ気ある?』
 トロンの言葉の意味が理解できなかったのか、惚けたような表情になるルーシィ。でも、
それはわずかなことだった。みるみるルーシィの顔に険しさがにじみでてくる。
『それ、どういう意味? わたし、ふざけてなんかいないよ!』
 ルーシィは顔を真っ赤にしてつめよるが、トロンはそれを両手で制した。
『ルゥが真剣にバトルに挑んでることは、ボクにもわかっているさ。 でも、それならど
うしてさっき、狐姫への攻撃を止めたんだい?』
 トロンの問いに、さっきまでの激情がうそのようにルーシィの動きが止まる。トロンは
そんなルーシィを金色の瞳で見つめていた。
『狐姫とのバトルだけじゃない。その前のバトルでも同じことが何度もあったよね?』
 静かに問いかけるトロン。胸元でかたくにぎりしめられたルーシィの拳が、力なくたれ
さがる。

        そう、“優しさ”。それがルーシィが勝てない理由だった。

 あたしもトロンも、それにはとっくに気づいていた。
 トロンが指摘したように、バトルに挑むルーシィの気概は本物だった。でも、いざ対戦
相手にとどめの一撃をくわえようとすると、きまってルーシィは躊躇してしまう。

          そして、これは戦う者にとっては致命的な弱点だ。

『わたし…わたし』
 トロンに言われて、ルーシィはようやく意識してみたいだった。何度もつぶやきながら
両手を見つめている。
「そうだ。ルーシィ、新しい武器、買ってあげるよ!」
 どんよりとしてきた場の空気を払拭すべく、あたしはパンと両手を打ちならす。
『え? でも……』
 一瞬、パッと顔を輝かすも、すぐにしずみ込むルーシィ。あたしは有無をいわさずルー
シィとトロンを抱き上げると階下へと向かった。

                         ※


 いざ一階にある武器関係のコーナーに足を運んでみたけど、展示されている武器のデー
タなんぞあたしにはチンプンカンプンだった。
 どうしたものかと辺りを見回していると、めずらしく店内を巡回していたリベルターと
はち合わせした。
『では、これなんかどうでしょう?』
 あたしから話を聞き、あごに手を当て思案していたリベルターは、小型のハンディビー
ムガンを差し出した。
「どれどれ? へ~、ルーシィも見てみなよ。すごいよ、コレ!」
『わぁああ!』
 最初はあまり浮かない顔をしていたルーシィだったけど、差しだれたビームガンを見る
やパッと顔を輝かす。
『小型ですが、アーンヴァルのアルヴォPDW9よりも威力、速射性ともに格段に性能は
すぐれているんですよ』
 『よっ!』、『はっ!』、『とぉ!』とかいいながらポーズをとり続けるルーシィを横目で
見ながらリベルターは説明を続ける。
「じゃ、じゃあ、それをもらおうかな?」
 だんだん専門的な内容になるにつれて、お経に苦しむ孫悟空な気分になってきたあたし
はそれから逃避するかのようにリベルターの説明をさえぎった。
『こちら、(税込み)1万9千2百円になります!』
 今の今まで頭をおそっていたはげしい痛みが、引き潮のごとく去っていった。
「へっ!? そ、そんなに高いの?」
『ハイッ! こちら発売されたばかりの最新式ですので』
「いや、あのね。もうちょっとリーズナブルなヤツを……」
『でも、ルーシィはすごく気に入ってるようですよ!』
 あたしのお願いなど聞く耳もたんといわんばかりに遮ると、リベルターはなおも話を続
ける。
『ルーシィったら、あんなにうれしそうに……やっぱり、自分の神姫の求める武器を買っ
てあげるのって、マスター冥利に尽きると思いませんか、隣さん?』


             な、なんか、今日のリベルター怖い!


 はちきれんばかりの営業用スマイルを浮かべるリベルター。でも、その笑みに見え隠れ
する血走った目に気づいたとたん、もはや観念する以外に選択肢がないことを悟ったあた
しだった。

                         ※

『お買い上げありがとうございます! あっ、プレゼントということでリボンつけておき
ましたよ』
「……ありがとう……」
 リベルターから手渡されるや、きれいにラッピングされた包みを破り捨てビームガンを
とりだすルーシィを横目で見ながら、あたしは大きなため息をひとつ付いた。
『今日のギンちゃん、凄腕のやり手ババアみたいだったね?』
 鼻歌を奏で、店の奥へと歩み去っていくリベルターの背を目で追いながら、呆気にとら
れたようにトロンがつぶやく。
「……うん。品物探すときは、もう二度とリベルターには頼まない……」
 あまりの軽さに、手を離したとたん浮かびあがりそうなサイフをしまいながら、あたし
は決意を固めた。
『……でも、このままじゃ、根本的な解決にはならないよ?』
 ビームガンを両手に、まだポーズを付けているルーシィを見ながらトロンが口を開く。
「わかってる。でも今は無理でも、たぶん刻がくればルーシィは自分で決断すると思う」
『根拠は?』
「……カン」


  トロンはしばらくあたしを見上げていたが、小さく肩をすくめるとつぶやいた。


        『リンの野生の勘がそう言うんじゃ、間違いないね』
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コメント


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なるほど。優しいが故にトドメの一撃を果たせない・・・ですか。
実際相手を殴ったり蹴ったりするのって(やりませんよ!)なかなか勇気が要りますもんねえ・・・
ですが戦闘センスそのものは悪くないようですし、それを割り切った時きっとルーシィちゃんは勝利してくれるのでしょう。

白井餡子 | URL | 2014-01-18(Sat)03:20 [編集]


>白井餡子さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

多くの神姫はバトルに対してあまり嫌悪感は抱かないようですが、なかにはルーシィのようなタイプもいると思います。

ルーシィ自身も、ある出来事をきっかけに戦うことを決意します。
彼女の心の葛藤などは、今後のストーリーで語られてゆくと思います。

お楽しみに!

シロ | URL | 2014-01-19(Sun)19:07 [編集]