神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第26話


                   武装神姫クロスロード

                第26話 「元凶」


 あたしはひとりで繁華街を歩いていた。ここ数日で、あたしを取り巻いていた環境は激
変していた。
 自分ではそれを受け入れたつもりだし覚悟もしている。でも、話があまりにも大きくな
り、考えをまとめる時間がほしかったからだった。
 こんな風に辺りを散策するのが久しぶりだった。でも、なぜか周囲の風景が妙に色あせ
て見えた。
 それは、つい数日前まで知らなかった世界を垣間見たせいなのだろうか。
 いや、ここ数年で増加の傾向にあった神姫を使用した犯罪の数々は連日のようにテレビ
やニュースを騒がせていた。

 自分は何も知らなかっただけ──ううん、知ろうとせず、ただ目を閉じ、耳を塞いでいた
だけなのではないだろうか?

 そんな考えが、あたしの心に影を落としていた。

「おじょうさん、落ちましたよ?」
 あてどなく歩いていたあたしを、突然鼻にかかった声が呼び止める。
 いぶかしげに振り向くと、小粋なスーツを着こなし、とても実用的にはみえない小さな
丸めがねを鼻の上に載せた長身の男が、にこやかにあたしを見つめている。
「……あたしのじゃありません」
 差し出された男の手元を一瞥すると、不快さを隠そうともせず歩き出す。


どこの世界にキュー〇ー人形なんか落としてくヤツがいるのよ!


 こんな大変な事件が起きているのに、こんなチャランポランなやつもいる。
 こみ上げてくる怒りを抑えて、男から足早に立ち去ろうとするが、そんなあたしの心情
を無視するかのように背中から軽薄そうな声がついてくる。
「いや~、会心の出来のつもりだったんですけど、見事にすべっちゃいましたね~」
 どこがよ? と、あたしは心のなかで反射的にツッコんでいた。怒りのボルテージが上
昇するあたしの背後から、なんとも脳天気な声がかけられる。
「いい天気ですし、よろしければ私とお茶などいかがですか?」

       いい天気? これからあんたの血の雨がふるっていうのに?

 立ち止まったあたしはこぶしを握りしめわなわなと震えるが、そんなあたしの怒りは男
の声に四散する。
「あなたにとっても有意義な時間になると思いますよ? 一ノ瀬……隣さん」
 慇懃無礼な男の声に、強烈な毒を感じたあたしはゆっくりと振り返る。
「あなた……だれです?」
 男はかすかに唇を吊り上げ、芝居がかった仕草で頭を下げる。
「はじめまして。私、片桐と申します」

 あたしは、すべての元凶を無言でみあげながら、わずかに目を細めた。

                        ※

「……お茶……ねぇ」
 あたしのつぶやきを聞きながら、片桐と名乗った男は、自動販売機から拾い上げた缶を
手渡してきた。
「あれ? ジュースのほうが好きでした?」
 不思議そうな顔の男を、真っ正面からにらみつける。
「……いえ、お茶に誘うって、こんなところでお茶する事なんだって……そう思っただけ
です」
 嫌味をたっぷりと込めてそうつぶやくと、男の差し出すお茶を受け取る。
「ああ、普通はこんな感じですよ。まあ、一ノ瀬さんはナンパされるの初めてのようです
から、ご存じないんでしょうけど」
「……よけいなお世話だ……」
 手の中で、ひしゃげていく缶の音を聞きながら、今にも吹き出さんばかりの憤怒のマグ
マをなんとか押さえながら、押し殺すようにつぶやく。

 そりゃあ、たしかにナンパ(なのか?)なんかされたのは生まれてはじめてだったけど、
いくらなんでもこんな人気のない薄汚れた路地裏なんかに誘い込むのがナンパと違うこと
ぐらいわかるっつーの!

「で、話ってなんです?」
 あまり汚れてない場所を選び、いまにも崩れそうな雑居ビルの壁に背をつけると、目の
前の男に射るような視線を送った。
 片桐はあたしの視線から逃げるように横にくると、同じように壁に背をつけ缶コーヒー
を一気にあおった。
 あたしはしばらく男を睨んでいたが、小さなため息をつくと缶に口をつけた。
「一ノ瀬 隣」
 いきなり話し始めた片桐を、怪訝な表情で見上げる。だが片桐はあたしの視線を気にし
た素振りも見せず、話を続ける。
「都内の女子高校に通う17歳。性格は真面目一辺倒で、曲がったことを何よりも嫌う」
 ここまで話すと片桐はコーヒーを一気にあおり、空になった缶を自販機横のゴミ箱めが
けて投げつけた。缶は壁にぶつかると、あらぬ方向に転がっていった。
「あらら、外れてしまいましたね。まあ、それよ……?」
 照れ笑いを浮かべる片桐は、いきなり歩きだしたあたしをいぶかしげに見ている。
 片桐の視線を背に受けたまま、あたしはそのまま進むと、地面に落ちている空き缶を無
言で拾い上げ、ゴミ箱に放り込んだ。
 背後で苦笑が漏れる。
「やれやれ、本当に真面目な人で……」
「お茶、ごちそうさま。他に用もないみたいですし、もう帰ります」
 もう興味がないと言わんばかりに背を向け歩き始めるあたしの行く手を、慌てた様子で
片桐が遮る。
「せっかちな方ですね。アイギスからの報告通りですが」
「アイギス?」
 苦笑を浮かべる片桐の声に聞き覚えがあり、あたしは歩みを止める。そしてその名が、
レスティーアと因縁浅からぬ使徒の名であると思い出す。
「やっぱり、あなたがリベルターたちを巻き込んだ……」
 そう言いながら、振り向き片桐を見上げる。
「ようやく話を聞いていただけるようですね。実は私、あなたがたに大変興味をもちまし
てね」
「興味?」
 目の前の男の軽薄そのものような話し方に、悪寒が走るのを我慢する。

               うう、トリハダ立ってきた。

「ええ、私の自信作である使徒を打ち破った神姫と、そのマスターにね」
 そこまで話し、ちらりとあたしを見る片桐。でも、当の本人が一言も発せず自身を睨み
つけてるのに気づくと肩をすくめて話を続ける。
「正直、アイギスから話を聞いたときには自分の耳を疑いました。聞けば、使徒を破壊し
たのはノーマルのストラーフタイプの神姫。しかも、そのマスターもまったくのド素人と
か。私はショックのあまり、目眩を覚えましたよ」
「 ……じゃあ、遠慮なくその辺で横になったらどうですか? なんならあたしが手伝い
ますよ?」
 なんのつもりか、額に手を当てよろめく片桐に、あたしは指を鳴らしながら、ひときわ
異臭を放つゴミ袋がうず高く積まれた場所をあごで示した。
 あたしの示す方を見て、片桐はぎょっとした表情になる。
「いえいえ、ご心配にはおよびませんよ」
 唇の端をひきつらせながら、片桐は首を振る。
 これ以上与多話しを続けるなら、「実行に移す!」とあたしの目が語っているのに気づ
くと、慌てた様子になる。
「こほん。では、本題に入りますが……実は今度催されるパーティーに、ぜひ一ノ瀬さん
にも参加していただきたいのですよ」
 いくらあたしが頭よくなくたって、こんな場面に似つかわしくないこの単語が、何を意
味するかぐらいすぐにわかった。
「パーティー? あんた、正気なの?」
「ええ、もちろん。私はいたって正常ですよ」
 噛みしめた歯の間から押し殺すようにつぶやくあたしに、片桐は即答する。
 予想はしてたけど、一句一語違わぬ回答を耳にした時、あたしは肌の色が変わるほどこ
ぶしを握りしめていた
「なるほど……でも、いろいろとあたしの事を調べたみたいですけどひとつ忘れていませ
んか、片桐さん? あたしがこの場であなたを叩きのめして警察に送り届ければ、そんな
馬鹿げたパーティーを開く必要もないと思うんですけど?」

 自分でも、みるみる身体が冷たくなっていくのを感じる。そう、怒りが限界を突破して
しまった時の、あの感じ……

 あたしは片桐の返事も待たず、音もなく前進する。
「な、なるほど、それも一理ありますね……ですが、少し落ち着いた方が賢明だと思いま
すよ」
 青ざめながら後ずさりを始める片桐。その動きに合わせてあたしの動きも止まってしま
った。
 もちろん、片桐の言葉を真に受けたわけじゃない。

                   こ、この気配!

「ふう。あなたのことは充分知っていると言ったはずですよ。私がなんの備えもなく、武
術の達人であるあなたの前に立つと思いましたか?」

 いくら頭に血が上っていたとは言え、背後から感じる明確な殺意に気づかなかったなん
て。

 内心歯噛みをしながら、左後方から針にように鋭い殺気を放つ存在を横目で追った。視
界の端に、あの夜、トロンが戦った使徒に似た姿が映った。その手に握られた大型の銃が、
あたしの頭に不動の直線を引いていた。
「攻守逆転ですね。さて、さきほどの返事を聞かせてもらえますか?」
 片桐をにらみつけ、悔しがるあたしを尻目に、意外なところから回答が聞こえた。

『答えは──これさッ!』
 思わず頭上を仰ぎ見るあたしと片桐。いや、上空にいた使徒でさえ驚きの表情を浮かべ
る。
 稟とした声は、使徒のさらに上から聞こえたのだ。
「トロン!? なんであんたがここに?」
 ここにいるはずのないトロンの姿に、あたしは驚く。ソウルテイカーの指先から発生す
るビームソードを構え、逆落としに使徒に襲いかかるトロン。
 だが、使徒は信じられない速度で旋回すると、手にした大型のビームガンをトロンに向
けるが、その銃口が吠える前に数発のビームの光が使徒を襲う。
「ル、ルーシィまで!」
 雑居ビルの非常階段の踊り場から、おっかなびっくり顔を出してこっちを見ているのは、
間違いなくルーシィだった。その手には、この前買ってあげたハンディビームガンが握ら
れている。
 予想外の攻撃にアイギスは舌打ちで答えるが、ルーシィの攻撃を最低限の動きで全てか
わしてしまう。そしてアイギスは、頭上からの影に電光石火の動きで巨大なシールドを振
りかざす。
『何ッ?』
 トロンのビームソードが巨大なシールドに触れたとたん、まばゆい閃光とともに、ソー
ドが拡散してしまう。
『くそ! 電磁フィールド……』
 目を細め、悔しそうな顔になるトロン。バイザー越しでその表情はわからなかったけど、
アイギスはその口元に笑みを浮べると、巨大なシールドをつけたまま軽々と左手を振った
フィールドの力場の助けもあったのだろうが、トロンは弾丸のような勢いで弾き飛ばされ
ると、ビルの壁面に叩きつけられる。
『ト、トロンちゃん! えっ、きゃあああ!?』
 おどろき、踊り場からトロンに話しかけようとしたルーシィに、アイギスは容赦なく銃
撃を加える。ルーシィは頭を抱え奥に引っ込んでしまう。 手にした銃が、そのまま階下
に落ちていく。
「ふむ、こんなものですか……少々かいかぶりすぎましたかね?」
 トロンとルーシィのふたりがかりの攻撃を軽々といなしてしまった使徒の実力に愕然と
していると、背後で片桐の声が聞こえた。そのあまり冷たい感情の欠落した声に、あたし
は振り返った。
 その瞳には、危険なまでの光が宿っている。
「この程度の実力では、パーティーの招待客としては役不足ですね……アイギス!」
 片桐は片手を上げながらつぶやく。それが合図だったのかアイギスは高度を落とすと、
壁にめり込んだままのトロンに銃の照準を合わせる。
 だが、トリガーを引き絞る前に、その銃身に数発のビームが直撃する。限界までエネル
ギーのチャージをすませていたビームガンが、その威力に耐えられず大爆発を起こす。
 爆発に巻き込まれたかと思ったが、アイギスはそれより早くビームガンから手を離すと
爆発の圏外へと後退していた。
 何が起こったのか理解不能状態だったが、反射的に銃撃の来た方を振り向いた。


     そこには、路地に差し込む逆光を背にした、ふたつの人影あった。
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