神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第29話

                  武装神姫 クロスロード

              第29話  「決意」


 ここはDO IT内にある店長さんのプライベートルーム。姫宮先輩と別れた後、事の
顛末を説明するために店長さんの元を尋ねていた。
 あたしは片桐からのメッセージを伝えると、店長さんの様子をうかがった。
「そうか、彼に会ったのか……それにしても」
 あたしの前にあるソファーに深々と身を沈めた店長さんは、しばらくしてそう言った。
『そんな……サタナエルが生きていたなんて……』
 目の前の机の上で、顔を青ざめさせながらリベルターが、はっきりとわかるほど身体を
震わせている。
 かつて多大な犠牲を払って倒したはずの存在が生きていた。そして、それがまた彼女た
ちの前に立ちふさがる──リベルターの心情を思うと、あたしの気持ちは複雑だった。
「あ、あの、そんなに考え込まなくても……ほら、今度あの男が現れたら、あたしが責任
もって取り押さえますし」
 予想を超えて場に重くのしかかる空気に、慌てたあたしは努めて明るくふるまった。
「おそらくそれは無理だろう」
 思い直したようにこちらを向き、話し始める店長さん。
「それってどういう意味ですか?」
「少なくとも片桐は傍観者だ。戦いの場には姿を現すことはないだろう。今までがそうで
あったようにね」
「そ、そんな……」
 店長さんの言葉のから、片桐が接触してきたあの時が最初で最後のチャンスだったと知
り、あたしは歯ぎしりして悔しがった
「しかたがないよ、隣ちゃん。ぼくなんて、まだ片桐って人に一度もあったことないんだ
からさ」
「でも……って、あれ? 天堂さん、いたんですか?」
「ハハハ、い、いやだなぁ~、隣ちゃん。さっきから君の横に座ってたじゃないか?」
 キョトンとするあたしに、天堂さんは引きつった笑みを浮かべながら、必死になってい
る。

 というか、確かリューネは“ナイトメア”の時活躍した神姫だって聞いたけど、そのマ
スターが片桐に会ったこと無いなんて、どんだけ存在感ないんだ、この人?

『恵一郎の影が薄いのは、今に始まったことではありませんわ。それよりも解決しなくて
はならない問題があるのではなくて?』
 部屋の隅で膝を抱えてうずくまる天堂さんを尻目に、テーブルの上に身軽に飛び降りる
と、リューネはあたしたちをぐるりと見回しそう言った。
「確かにグリューネワルトくんの言うとおりだな。片桐が挑戦状を突きつけてきた以上、
我々も早急に対策を講じなければ」
 うなずきながらつぶやく店長さんだが、ふいにその視線がこちらに向けられた。
「だが、一ノ瀬くんたちは……」
「あんな男をのさばらせてはおけません。あたしたちも手伝い……」
『だめですっ!!』
 心配そうな表情を見せる店長さんに、あたしは胸を張って答えようとしたが、悲痛な叫
びにも似た声があたしの言葉をさえぎった。
「リベルター? な、何を言ってるの? このままじゃ」
『いやなんです。これ以上犠牲がでるのは……トロンたちにまでもしもの事があったら、
私たちはもう……』
 そう言いながら、両腕で身体を抱きしめながら崩れるようにしゃがみ込むリベルター。
あたしたちは、そんな彼女にかける言葉がみつからなかった。

                           ※

 目の前の大型スクリーンに、神姫同士の戦いが映し出されている。ランサメントのフィ
ールド内の地形が変わってしまうのでは、と思うほどの猛攻撃をかいくぐり、アークがト
ライクモードに変わると一挙に距離を詰める。
 すれ違いざまに襲いかかるアークのブレードを、ランサメントは間一髪で交わしてしま
う。
 ふたりの口元に笑みが浮かぶ。それは、互いを認めあった者の笑いだった。

 場の雰囲気が悪くなり、作戦会議はいったん中断し、あたしは気分転換のためにシュミ
レーターのあるコーナーに場所を移すと、眼前で繰り広げられる神姫同士の戦いを黙って
見ていた。

 あたしは最近、神姫バトルに対する考えを改めていた。
 以前は神姫バトルとは人間たちが神姫を使って行う見せ物だと思っていた。実際、そう
いう感覚で神姫を戦わせるマスターも多いと聞いている。
 でも、トロンが乗り越えてきた数々の戦いが、その考えが間違いだと教えてくれた。

               でも、今度の戦いは違う……

 片桐という男にとって、戦いはただの娯楽なのだ。それを止めることに、あたしは何の
疑問も感じなかった。
 でも、リベルターの言葉が、あたしの心に影を落としていた。そう、それを阻止するの
はあたしじゃない。実際、血を流すのはトロンたちだ。
     
                あたしはただ見ているだけ。

 その現実が、あたしの心に重くのしかかっていた。

「……はぁ」
「どうした。悩み事か、隣?」
「ええ。まあ、なんというか、って……お、和尚さん?」
 スクリーンから目をそらし、ため息をついていたあたしは、いきなり問いかけられ驚き
慌てて顔を上げる。
 いつの間に現れたのか、ベンチに腰掛けていたあたしの横に座り込み、和尚さんは
腕を組みながらスクリーンを見上げている。
「まったく、お前らしくもない。隙だらけではないか! 思わず後ろから喝(一撃)を入れ
ようかと思ったぞ」
 憮然と言い放つ和尚さん。

     和尚さんの剛拳が後頭部に直撃したらタダじゃ済まないんですけど……

 背筋を伝い流れ落ちる汗を気にしながら、あたしは内心胸を撫で下ろしていた。
 事情を話せば和尚さんのことだ。みずから先陣を切って戦いそうだが、相手はあの変態
野郎。どんな手を打ってくるかわかったもんじゃない。

 これ以上、今回の一件に他人を巻き込まないためにも、和尚さんに話すわけにはいかな
い。

 そう考えふけっていたあたしを、和尚さんは不思議そうに見ていた。
「えっと。あっ、そういえば今日は睦月と一緒じゃないんですか?」
 このままじゃヤバいと話をそらそうとするが、和尚さんは無言でベンチの一点を指さす。
そこにはあたしの横で鼻歌まじりでベンチの上を掃いている睦月の姿が。

            だ、だめだ! 睦月の気配にも気づかないなんて……

 ますます訝しげな顔を見せる和尚さんに、どうやって話を逸らそうかと頭を抱えている
と、どうやら睦月にゴミとみなされたのか箒で掃かれ目の前をコロコロと転がっていたト
ロンがムクリと起きあがる。
『気を利かせろBOーZU。リンは今日、アノ日なんダ』

「違う!!」
 大きく上げた腕を力一杯振り下ろしてから、あたしはトロンにツッコんだ。

      あっ、でも、そういうことにしといた方が、この場はごまかせたかも……

 こぶしを通して伝わる断末魔の痙攣を感じながらあたしはフッと思ったが、そんな考え
も鼓膜を破らんばかりの和尚さんの豪快な笑いに消し飛んでしまう。
「まったく、あいかわらずじゃのう。で、今回はどこの誰が争い事に巻き込まれたのじゃ?」
「え?」
 いきなり核心に触れられてしまったあたしは、小山のような身体を見上げる。
「お前がそんな浮かない顔をしとる時は、たいてい身近な者によからぬ事があった時と相
場が決まっとるからのう。また、美佐緒とかいう娘子の事か?」
「べ、別に美佐緒は関係ありません!」
 いきなり出てきた美佐緒の名前に、なぜかドキっとしながらあたしは大声で答える。
 気色ばむあたしを気にした素振りも見せず、和尚さんは天井を見上げた。
「ふふ、まあよい。それにしてもお前も成長せんのう。初めて剛三郎の奴に稽古をつけて
もらった日の事を忘れたか?」
 何気ない和尚さんの一言に、あたしは眉をひそめると無意識に左腕をさすっていた。
「……忘れるわけないじゃないですか。折られたんですよ……腕を」
『う、腕を……』
『折られタ?』
 ポツリとつぶやくあたしにトロンと、トロンの身体についたホコリを払っていたルーシ
ィが驚きあたしを見上げる。脳天気のかたまりみたいな睦月まで、呆気にとられたような
顔をしていた。
『……なんデ、リンのじいちゃんはそんな事したノ?』
 口調こそいつもの寝ぼけトロンのものだったが、その言外に激しい怒りのようなものが
感じられた。
「もう、ずっと昔の話よ。それにおじいちゃんの気持ちも今はよくわかるから」
 遠い目をしながら答えるあたしに、トロンが怪訝な表情をみせる。あたしは苦笑しなが
らトロンの頭をそっと撫でた。
『で、でも、痛くなったんですか、リンさま?』
「そりゃあ、痛かったわよ。最初は何が起きたのかまるでわからなかった。痛みで地面を
転げ回ってる時もね」
 あたしの答えに、ルーシィの両目にみるみる大粒の涙が浮かんでくる。今度はルーシィ
の頭を撫でさすった。
「おじいちゃんはね、あたしに教えたかったのよ。あの時感じた“痛み”や“怖さ”は、つね
に自分が受け、相手に与えるもの。力というものがいかに危険か、そして力は軽々しく
ふるってはいけないということを──それを忘れないために、おじいちゃんは一番最初
にあたしの身体に教えたのよ」
 遠くを見ながら話すあたしのスカートが引っ張られる。視線を移すと、トロンが無言で
さっきあたしに叩かれたためかあきらかにへコんだ頭を指さしている。
「ま、まあ、あたしも人間だし、我慢の限界ってもんがあるのよ」
 咳払いをしながら、露骨に視線をそらす。

            ていうか、あんたの場合は自業自得でしょう?

「それを覚えておるなら話は早かろう。おそらく今回は、そのオチビさんたちが関わって
おるのじゃろうが……」
 トロンとにらみあっていたあたしは、和尚さんの言葉に驚く。
「図星か?」
 歯をむき出すように笑う和尚さんに、あたしは素直にうなずいた。
「戦うのはトロンたち。でも、あたしには何もできない……ただ見ているだけ」
「それで良い」
「えっ?」
 唇を噛みしめつぶやくあたし声に、和尚さんの声が重なる
「戦って受ける傷は、何も身体に受けるものばかりでは無い。心に刻みつけられる傷もあ
るのじゃ。お前がオチビさんたちを信じるならば耐えろ、隣! それが今回のお前の戦い
じゃよ!」
 あたしは黙ってトロンとルーシィを見つめた。ふたりともあたしから視線を逸らさず、力強
くうなずいてくれた。

「……隣よ」
 和尚さんの声に、うなじにトリ肌が生じる。
 反射的に振り向くと、そこには音もなく立ち上がった和尚さんが放つ拳が視界一杯に広
がっていた。
 あたしはベンチに腰掛けたままの不自然な体勢だったけど、なんとか和尚さんの拳を捌
くと、右手で和尚さんの手首の関節を極めそのままベンチから倒れ込むように身体をひね
り込む。
 ふたりそろってベンチもろとも倒れた音はかなりのものだったろう。
 でも、周りの視線も気にする余裕はなかった。痛む身体に鞭を打ち、あたしは和尚さん
の手首の関節を極めたまますばやく起きあがる。
 あたしたちはしばらく無言でにらみ合っていたが、突然和尚さんが豪快に笑い出す。
「はっはっはっ! やはり迷いの無いお前は強いのう」
 心底楽しそうに笑う和尚さんに、あたしは静かに息を吐き出すと、ようやく手首の戒め
を解いた。
「もう! いったい何を考えてるんですか? こんな場所で!」
「どうじゃ。少しは吹っ切れたか?」
 和尚さんの言葉にあたしはハッとした。思わず向けた視線の先で、トロンたちと目があ
った。トロンは大きく肩をすくめてみせる。
「はい! ありがとうございます」
 迷いの晴れたあたしは、勢いよく立ち上がると深ぶかと和尚さんに向かって頭を下げた。

 そうだ、迷ったってしょうがない。あたしは戦うって決めたんだ。トロンたちと一緒に!

 あらためて決心した途端、身体の芯から沸き上がってくる何かを感じた。

 その時、あたしの頭にそっと手のひらが置かれると、慈しむように撫で始めた。
 大きくてごつごつした手。そして、その手のひらはとても暖かかった。

                 おじいちゃんの手のように……
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