神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

武装神姫 クロスロード 第32話


                   武装神姫 クロスロード

                  第32話 「邂逅」

 驚き振り返ると街路灯の淡い光に映し出され。ひとりの女が立っていた。
 整った顔立ちだがその肌は妙に青白く、腰まで伸びた艶やかな黒髪はともかく、その身
に纏った衣服はブーツも含め黒一色だった。
 無言で互いを擬視していたが、聞こえてきた声はどちらのものでもなかった。
『貴様は──清桐あさぎ!』
 使徒のうめくような声に、目の前の“奇妙な黒女”の名前はわかった。
「隣ちゃん、ケガはないかい?」
 慌てて走り寄ってくる天堂さんが、あたしの無事を確認すると安堵の表情を浮かべる。
 でもあたしは目の前の女性、清桐さんから目を離す事ができなかった。危機を救っても
らった事には感謝しているけどさっきの物言いといい、何かひっかかる感じがしたからだ
った。
 睨みつけるようなあたしの視線に気にした素振りも見せず、清桐さんは顔を上げると小
さくうなずいた。
 それが合図だったのか、トロンと使徒たちの間に割って入った黒い人影、見たこともな
いタイプの神姫が使徒めがけて突き進む。
 使徒とは対照的に、清桐さんの神姫は全身を黒いゴシックドレスで包んでいた。
 もっとも、本来布で形作られるはずのドレスも、頭部から伸びた巨大なツインテールも
すべて鈍い鋼の輝きを放っていた。
 突然頭上で始まった戦いに、顔を見合わせ困惑の表情を浮かべるトロンとリューネを急
いで呼び戻した。
 リューネは使徒の猛攻から逃げ、あたしのバッグの中に避難していたルーシィの横にト
ロンを降ろすと、自分は天堂さんの肩の上へと戻っていく。
 ふたりとも一言も発しなかったけど、不満そうなのは顔を見れば一目瞭然だった。
「……あんたたち、あの神姫を知ってる?」
『わたしのデータベースには、該当する機体はありません』
『右に同じ』
 ささやくように尋ねるあたしに、ことに調べていたのだろう。ふたりが速答する。横を
見ると天堂さんも首を振っている。
「知らなくて当然ね。あの子は“ローゼッタ・シュバルツハール”。M・M社の誇る最新鋭
試作モデルよ」
 指で黒髪をいじりながら清桐さんは得意気な顔をするが、それよりどこかで聞いたよう
な名前が気になった。
「M・M社って……あんた、片桐の仲間なの!?」
 掴みかからんばかりの剣幕で問いつめると、清桐さんは心外といった風な顔をする。
「仲間? 私たちは仲間をこんな酷い目にあわせたりしないわ」
 そう言って清桐さんは上を指さす。つられて顔を上げるとものすごい勢いで何かが落ち
てきた。
 間一髪でよけると、ソレはアスファルトに叩きつけられ動きを止めた。
 出来損ないの粘土細工のように歪み、あらぬ方向に四肢を向けて無惨な姿を晒している
のは間違いなく使徒だった。しかも……
『く、くくくくくく、くび!』
 あたしの考えをルーシィが代弁してくれた。落下してきた使徒の身体には、首が無かっ
た。
 無言で夜空を見上げるあたしを、片手に使徒の頭をぶら下げた清桐さんの神姫が無表情
に見下ろしていた。
「惨い」
 あたしの横で、嫌悪に顔をゆがめながら天堂さんがつぶやく。
「惨い? 何を暢気な……」
 清桐さんはそう言って指を鳴らす。あたしたちの足下に丸いものが落ちてきた。それは
堅い音を響かせながら路上で跳ねると、てんで好き勝手な方に転がっていく。

                  そう、使徒の首が……

「敵を倒さなければ、あなたたちがそうなるのよ?」
 彼女はそう言うと、使徒の頭をあごで指した。
「でもこれで理解できたでしょう? これは遊びじゃないってね。片桐の事は私にまかせ
て、お嬢ちゃんたちはお家に帰りなさい」
 優しく諭すように話しかてくけるが、その一語一句はどう考えたって人を小馬鹿にして
るようにしか聞こえない。
『とぅるるるるる! とぅるるるるる!』
 カチンときたあたしが、清桐さんに詰め寄ろうとすると、いきなりバッグの中から奇声
が聞こえた。
 あたしが視線を向けると、バッグから顔だけ出したルーシィが唇を突き出し、呼び出し
音を熱演している。
 トロンが怖いものでも見るような目で後ずさるなか、これってマナーモードにできない
のかな、などと考えながらルーシィの鼻を軽く押す。
『一ノ瀬くんかい? 私だ!』

 ……やっぱりこのサービス、解約しよう。虚ろな目をしながらダンディボイスで話すル
ーシィはイヤだ!

 そんな事を考えていたあたしだが、店長さんの会話の続きに頭から冷水をかけられたよ
うな気分になった。
『すぐに店に戻ってくれないか? 使徒が……』
 そこまで話すと、いきなり電話が切れてしまった。
「ど、どうしたの、ルーシィ?」
『この電話は、現在電波の届きにくい……』
「だ──っ! なんなのよこれ?」
 よくわかない状況に、あたしは慌てふためく。
「と、とにかく急いで戻らないと!」
『……罠、だね』
 DO ITへのきびすを返しかけたあたしの動きを、トロンの冷静な声が止める。
「わ、罠?」
『どう考えてもね。だいたい最初っから電波を遮断しときゃいいものを、わざわざ要点だ
け伝えて後は妨害なんて、出来過ぎでしょ?』
 トロンの諭すような声に、あたしは横を見た。天堂さんとリューネもうなずいていた。
「そ、そうかもしれないけど、このままってわけにはいかないでしょう? DO ITに
は今、店長さんとリベルターしかいないのよ?」
 ふたりの実力はまったく未知数だったけど、多勢に無勢。使徒が大挙して押し寄せて来
たらどうなるかわかったもんじゃない。
 あたしが声を枯らしながら説得すると、天堂さんが顔を上げた。
「確かに隣ちゃんの言うとおりかもしれない──行こう!」
 力強く言い切る天堂さんの迫力に、トロンとリューネが渋々とうなずく。
 やれやれといった顔で頭を振る清桐さんを横目に、あたしたちは元来た道をたどり始め
る。
『!? リンッ!』
「隣ちゃん、下ッ!」
「へ?」
 全力疾走を始めたあたしに、トロンと天童さんが悲鳴に近い声を上げる。そのただなら
様子に足を止め下を向く。
 足下には、さっきと変わらぬ格好で使徒が横たわっていた。唯一の違いは、使徒の全身
から白煙が上がっていることだった。
 何が起こったか理解できず棒立ちになっていると、目の前が真っ白な光に覆われ、あた
しはものすごい勢いで弾き飛ばされた。

            そして、あたしの意識は闇に沈んでいった。

                        ※

 かすかな呼び声にあたしは目を覚ました。どうやら気を失っていたみたいだった。
 なんとか身体が動かそうともがくが、自由がきかない。まだ意識がもうろうとしている
あたしの耳に、声が聞こえる。
「だ、だい…じょうぶかい? と…なりちゃん……」
 あえぐように途切れ途切れで話しかけてくる声が天堂さんのものだと気づくと、もやが
かかっていたようなあたしの意識は、一気に覚醒した。
 身体が動かないわけだった。あたしは天童さんに覆い被されるようにして地面に押し倒
れていたんだ。
 いつもなら、絶叫とともに天堂さんの頬に拳を叩き込んでいるところだったけど、数セ
ンチ先にある天堂さんの顔を見てあたしは息を飲んだ。
 天童さんの眼鏡には無数のヒビが入り、額からは鮮血がしたたっていた。
「て、天堂さん……」
 必死で天堂さんの身体から這いでると、あたしは絶句してしまった。
 天童さんの背中は血で染まっていた。ようやくあたしは、天堂さんが爆発した使徒から
身を挺してかばってくれた事実に気がついた。
『リンさま!』
『リン、どこもケガはない?』
 バッグの中からせき込みながらトロンとルーシィが尋ねてくるが、あたしの耳には届い
ていなかった。
「天堂さん、しっかりしてください、天堂さんっ!」
 荒々しく身体を揺さぶり続けるあたしに、天堂さんは力無く困ったような笑みをうかべ
るが、頭の中が真っ白になったあたしはそのことに気がつかない。
「何をやってるの? 止めなさいっ!」
 怒声とともに頬が鳴り、ようやくあたしは我に返った。
 清桐さんは、あたしを押し退けるようにして天堂さんの傷の具合を調べ始めるが、すぐ
に安堵の息を吐く。
「大丈夫。破片で少し背中を切っただけみたいね……あなた、泣いてるの?」
 そう言って不思議そうな顔をする清桐さん。慌てて頬に手をやると、濡れていた。
「こ、これは驚いたから……あ、あたし、泣いてなんかいません!」

           何であたし、こんなに取り乱してるんだろう?

 身振り手振りを交え、自分でも滑稽に思えるほど言い訳を続けながら、あたしはそんな
ことを考えていた。
「そう」
 一言だけ発して、清桐さんは口を閉ざしてしまうが、その口元には柔和な笑みが浮かん
でいた。
「それならあなたは先を急ぎなさい。心配しなくてもいいわ。彼は私が病院に連れていく
から」
 それだけ言うと、清桐さんは軽々と天童さんを抱きかかえ、歩き始める。
「ちょ、ちょっと待ってください! 清桐さん、あなたいったい何者なんですか?」
 いまさらながら、最大の疑問を清桐さんお背中に投げかけると、呆れたような響きを含
んだ回答があった。
「私がM・M社の試作神姫を持っていると知っても、まだわからないの?」
『なるほど。つまりキミはM・M社の人間ってことか』
 目を細めながらトロンがつぶやく。
「ご名答。私はM・M社のセキュリティー部門に所属しているの。ここまで説明すれば、
私がなぜ片桐を追っているか理解してもらえるわね?」
 あたしたちに背を向け、路地裏に進みながらも清桐さんの歩みは止まらない。
「そっか。あの人は裏切り者である片桐を追っかけていたのね」
『ようやく気づいたようですわね?』
「うん、……って、リューネ! あんたこんなところで何してるのよ? 天童さんについ
ていってあげなくていいの?」
 ひとり納得し小さくうなずいていたあたしは、いつの間にか肩の上に乗り、呆れ顔で話
しかけてきたリューネに気づき飛び上がらんばかりに驚いた。
『わたくしは医者ではありませんわ。一緒についていったところで何ができるというんで
すの、隣さん?』
「そ、それはそうだけど……」
 吐き捨てるように言い放つリューネにあたしは口ごもってしまったが、血が出るほど唇
をかみしめ前を見ている彼女に気づき、リューネの本心が痛いほどにわかった。
「リューネの言うとおりだ……急ぐんだ隣ちゃん。ぼくも…すぐに後を追うから……」
 荒い息の下で、天堂さんは気丈に振る舞う。

     あたしはうなずくと、リューネを抱き上げDOITへの道を急いだ。
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