神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第34話

    
                武装神姫 クロスロード

               第34話   「氷解」

 暗闇より生じた人影は、トロンとすれすれのところで歩みを止める。
 全身を闇よりもなお暗い、黒一色で彩られた巨体は、あたりを威圧するような空気を漂
わせていた。
 その身に纏う甲冑は、曲線を基準としたフォルムは優美さを備え、全身を覆う装甲は騎
士の甲冑のような装飾を施されていた。
 トロンは眼前に立ちふさがる黒い山を黙って見上げていた。その巨体は、基本装備を纏
ったストラーフと並ぶほど大きかった。
 まさに目の前の黒影は“騎士”だった。でも、その身には四丁もの巨大な銃を携えてお
り、腰に一振りの長剣を下げているものの、その姿はあたしのイメージする騎士とは異質
の姿をしていた。

「そうか、あれがレスティーアの本来の姿……」

 レスティーアにつけられた「黒騎士」という二つ名が、レスティーアにとっては皮肉以
外の何物でもないという……前に桜庭さんが聞かせてくれた話の意味を、あたしはようや
く理解した。

 視線を感じ首をまわすと姫宮先輩があたしを見つめていた。先輩にはあたしの考えてい
ることがわかるのだろうか。視線をはずすことなく、静かにうなずいた。
『なかなか似合ってるじゃないか、その格好』
 あたしの心情も知らず、トロンはおどけた口調で話しかけるが、黒影は何も答えない。
 トロンは軽く肩をすくめると、彫像と化した巨体に射るような視線を送る。
『まったく! いつまでぶて腐ってんのさ……レスP』
 トロンを見下ろしていた巨大な騎士は、大きなため息とともに兜につけられた面頬を跳
ね上げる。そこにはよく見知った顔があった。
『やれやれ。ようやく私の名を覚えたと思ったのにな……また逆戻りか』
 心底呆れたといった表情になるレスティーアのリアクションに満足したのか、トロンは
ニンマリと笑うと背を向けた。
『……トロン』
『ん、何さ? あらたまっ…ブホッ!?』
 神妙な口調で名を呼ばれ、いぶかしげに振り向いたトロンの頬に、絶妙なタイミングで
レスティーアの拳がめり込んだ。
 とっさのことで全員が唖然としているなか、ゴロゴロと回転を続けていたトロンは壁に
めり込み、ようやくその動きを止めた。
『痛っつうううううッ! な、何すんだよ、レスP!?』
 あたまを抱えながら、顔を真っ赤にしてレスティーアに詰め寄るが、当の本人は顔色一
つ変えない。
『この前受けた、不意打ちの礼をしたまでだ』
『不意打ちって──まだ、そんなこと言ってんの? この、石頭の唐変ぼ……ん!?』
 トロンの罵詈雑言は途中で止まってしまった。いつものレスティーアでは考えられない
ことだが、彼女は笑っていた。
『……きさまのおかげでようやく目が覚めた。礼を言うぞ……トロン』
 そう言うと、レスティーアはトロンに向かって深々とあたまを下げたが、トロンはポカ
ンと口を開けたまま、レスティーアを見上げているだけだ。
 レスティーアは、一瞬はにかんだような笑みを浮かべたが、すぐにいつもの厳しい表情
にもどるとトロンに背を向け去って行ってしまう。
「大丈夫?」
 レスティーアの背中を目で追いながら話しかけるが、トロンは釈然としないようだ。
「ごめんなさいトロン。でも、あなたのおかげであの娘はようやく過去との決別ができた
……だから自ら封印していた“黒騎士”として戦う決意をしたの」
 先輩はそこでいったん話を止めた。
「あの娘は不器用だから、自分の心を素直にあらわせない──でも、レスティーアはあな
たに心から感謝しているわ。それだけはわかってあげて?」
 心底すまなそうにあやまる姫宮先輩にも、トロンは拗ねたような態度をくずさない。
『だったらさ、『ありがとう』の一言でいいじゃないか……まったく、何考えてんのさ』
 頬をさすりながらトロンがブツブツ言っていると、遠くからレスティーアの声が聞こえ
てきた。


           『騎士は一度受けた屈辱は決して忘れん!』


                 はぁ、やれやれ……
 

         あたしと姫宮先輩は、顔を見合わせ笑ってしまった。

                    
                         ※


『……これって、結果オーライということなんでしょうか、リンさま?』
「そうみたいね」
 狐にでもつままれたような表情で話しかけてくるルーシィに、苦笑しながらあたしは答
える。
『ようするに、お二人は似たもの同士、ということではなくて?』
 特大のため息をつきながら肩をすくめるリューネ。後ろでトロンとレスティーアが『こ
んなんと一緒にするな!』と言わんばかりの顔になる。

    リューネ。気持ちはわかるけど、これ以上話をややこしくしないで!

「お、おほん! まあ、アレね。こんな所で油を売ってるわけにもいかないわ。先を急ぐ
わよ、みんな?」
「そうですね。わたし、せんぱいとなら教会だろうとホテルだろうと、どこへでもついて
いきますよ」
 必死に場を取りなそうとするあたしの背後で、世にも脳天気な声が相づちを打つ。

「……だから、なんでお前がここにいるっ!?」

 なかなか話が先に進まない今日この頃だった。

                          ※

「一ノ瀬さん、大丈夫?」
 怒りのあまり、酸欠状態にでもなったのだろうか、いきなり気の遠くなったあたしを、
姫宮先輩が慌てて抱き止めてくれた。
「これは何本に見えるかい、一ノ瀬くん?」
「……さ、三びょん……」
 心配そうにあたしの目の前で指を立てる店長さん。霞む目をこすりながらあたしが答え
ると、ホッとしたような笑みを浮かべる。
『本当に申し訳なかったでござる。隣どの』
なんか片桐と戦う前に、限りなく体力ゲージが0に近づいてきたあたしの耳に、済まなそ
うなガーネットの声が聞こえた。首を回すと、ガーネットが土下座をし、深々と地に頭を
つけていた。
「ちょ、ちょっと待ってよ? なんでガーネットが謝るわけ?」
 ガーネットは、しばらくそのままの姿勢を崩さなかった

『美佐緒どのに無理を言い、店長どのに今回の戦いに無理矢理参加させてもらったのも、
すべて拙者の一存なのでござる、隣どの!』
 そう言いながら、ガーネットは頭を上げ、あたしの目を真っ正面か見つめた。その瞳に
は悲痛さともとれる光を宿していた。
「……理由を話してくれる? ガーネット」
 静かに尋ねるあたしに、ガーネットがうなずく。
『拙者はかつて、エーアストの一人と戦ったことがあるでござる』
「え?」
 ガーネットがエーアストを知っていた? それは予想もしない一言だった。あたしはし
ばらく唖然としていたが、ガーネットはそんなあたしの心情を知ってか、淡々と話を続け
た。
『ある日、拙者たちの戦いの場に“奴”はいきなり乱入してきたでござる』
 そこまで話し、ガーネットは唇を噛んだ。
『惨い戦い……いや、あれは一方的な殺戮でござった。あの“紅の鬼神”の去った後に残
ったのは、瀕死の傷を負った拙者だけでござった』
 当時の光景が脳裏をよぎったのだろうか、ガーネットの拳が堅く握りしめられた。あた
しはガーネットの話しを聞きながら、ハッと顔を上げる。
「じゃあ、美佐緒が前に話してた、ガーネットの身体をこんなにした神姫って……」
 あたしの言葉に、美佐緒が悲痛な面もちでうなずく。
『なるほどね。ガンちゃんにとっては、この戦いは弔い合戦というわけか』
『いや、拙者自身の手で弔うというのなら、残念ながら拙者の無念は一生晴れることはな
いでござる』
 そっと目を伏せつぶやくトロンだが、ガーネットの紡いだ言葉に驚き顔を上げる。
『それってどういう意味?』
『奴はある神姫たちとの激闘の末に、討ち取られたという話しでござる』
 寂しそうに微笑むガーネット。あたしは以前リベルターの言った言葉を思い出していた。

              もう、エーアストは存在しない、と。

『で、でも、それならガーネットさんが無理をしてまで戦う必要はないんじゃないですか
?』
『そういうわけにはいかないでござるよ、ルーシィどの』
 心配そうな顔のルーシィに、ガーネットが優しく微笑む。
『確かに……エーアストたちが全て亡きものになっているのであれば、拙者も諦めがつい
たでござろう──だが、そうではなかった!』
 そこまで話し、歯を食いしばるガーネット。それはあたしが初めて見た、ガーネットの
憤怒の形相だった。その迫力に気圧されたのか、ルーシィがトロンの背中に隠れてしまう。
『確かに拙者たちの行ってきた戦いにも問題があったのかもしれない。だが、拙者たちに
もルールはあった。だが奴らは違う!圧倒的な力で他者を蹂躙するだけ。奴らをのさらば
せておくことは、拙者とお館様との戦いの日々を否定することになるでござる!』
 血を吐くように叫ぶガーネット。あたしは視線を美佐緒に向けた。
「これが、あんたがこんな所にでしゃばってきた理由なの?」
 静かに尋ねるあたしに、美佐緒は力強くうなずいた。
「はい。ガーネットは、わたしにとってかけがえのない家族ですから」
「でも……これは」
「せんぱいなら、今のわたしたちの気持ち、わかってくれますよね?」
 そう言って、屈託のない笑みをみせる美佐緒。言われるまでもなくガーネットの、そし
て美佐緒の想いはあたしにだってよくわかる。あたしは美佐緒を見ながら、特大のため息
をつく。
「まったく、むかしっから変なところで頑固なんだら……美佐緒! あんた“覚悟”はで
きてるわね?」
「はいっ!」  
 射るようなあたしの視線に臆することなく、美佐緒が首を縦に振る。
『ま、丸く収まったってとこかな? それにしても……』
 あたしたち一同を見回しながら、肩をすくめつぶやくトロン。だが、急に真顔になると
ガーネットを真っ正面から見つめる。その真剣さに、何事かとあたしたちの表情も引き締
まる。
『それにしても、以外だったね……』
『な、何がでござるか、トロンどの?』
 トロンはガーネットの頭のてっぺんから爪先まで無遠慮に眺めるとポツリとつぶやいた。
『いや、ガンちゃんって……本当に“紅緒”だったんだ?』
 緊迫しきった場が、一瞬にして爆笑の渦に包まれる。
『な、何を言ってるでござるかトロンどの。だったも何も拙者最初っから紅緒でござるよ?』
『うそつけ! セーラー〇ーンとかプリ〇ュアの格好した紅緒がいるわけないだろ?』
『いや、あれは美佐緒どのが無理矢理……』
 必死に弁解を続けるガーネット。だがトロンは『信じられん』と言わんばかりに、首を
横に振るだけだ。
 薄闇に覆われ、床にはいろんなものが散らばる店内。
 こんな状況でなんなんだけど、あたしたちは笑いを止めることができなかった。

『……あの、みなさん。なんかとても楽しそうですね?』
「はい?」



 あたしたちのインカムに聞こえてきたのは、困ったような、呆れたようなリベルターの
声だった。
             
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