神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第38話



                 武装神姫 クロスロード

                第38話 「過去」

「トロン、あんた──アイツのこと知っているの?」
『……いや』
 あたしの問いかけに、つぶやくような否定の声。でも、その声に何か違和感を感じ、あ
たしは首を回した。
「どうしたの?」
『なんでも…ないさ』
 トロンはあたしの方を見ようともせず、明らかに苦痛に耐えるような顔をしながらそう答え
なおも宙天を食い入るように見ている。

 トロンの態度は気になったけど、いまは目の前の片桐たちから目を離せない。

「いかがです、一ノ瀬さん?」
「何がよ?」
 まるで、何かに酔ったような口調で片桐が話しかけてくるが、あたしの唸るような声音
に、みるみる片桐の顔が青ざめていく。
「いえいえ、このサタナエルのことですよ。どうですこの姿。まさに美の結晶だとは思い
ませんか?」
「……べつに!」
 きっぱり言い切るあたしに、片桐がかなしそうな顔をする。ハンカチを目に当てながら、
いかにその考えが間違っているか滔々と語り出すが、あたしはまったく取り合わなかった。
 それは、さっきから頭上で聞こえる音のせいだった。

                みんなが戦ってる!

 ようやく視界が開け、あたしは目だけを四方に向けた。
 誰もいない──どうやら、一階に落下したのはあたしとトロンだけみたいだった。

          というより、あたしたちだけ……誘われた?

「……トロン。何とかこいつらをやり過ごして、姫宮先輩たちと合流するわよ」
「上にいるみなさんのお相手は使徒たちが勤めます。お二人がそんなに慌てることはあり
ませんよ」
 耳ざとくこあたしたちの会話を聞きつけた片桐が、図々しく話に割って入ってきた。
「それに、こちらにいるサタナエルがどうしても話をしたいと申しましてね」
 片桐がちらりと背後に目配せすると、サタナエルが音もなく進み出る。

 間近で見るサタナエルは、見れば見るほど奇妙な形をしていた。最大の特徴は、見た
ところ手足と思われるパーツが見あたらないことだった。
 全体は複雑な箱状のパーツで構成され、中央に埋め込まれるようにサタナエルが座して
いる。神姫たちの武装がその身に纏うタイプなのに対して、サタナエルのそれはまるで
乗り物のように見えた。
 本体の左右からは翼を思わせるようなパーツが張り出し、背後には聖人をモチーフに
した絵画に見られるような後光を連想させる巨大なリング状の物体が取り付けられていた。

             その姿は、見ようによっては天使にも見えた。

                  ただし、異形の天使……
 
 サタナエルはトロンを見つめたまま微動だにしなかった。
 バイザーからかすかにのぞくサタナエルの瞳は、懐かしさと激しい怒りの炎をふくんだ
奇妙な光を宿していた。
『ボクに何か用があるなら、さっさと済ませてくれないかな? こう見えてもけっこう忙
しいんでね』
 真っ向からサタナエルをにらみつけたままトロンは言い放つが、その口調にはいつもの
迫力がまるで感じられなかった。
 いぶかしげに肩に視線を走らせると、トロンはあたまに手をやり何かに耐えるような顔
をしている。
「どうしたの? どこか具合でも悪いの?」
 あたしの問いかけにも応えず、トロンは唇を噛みしめサタナエルを睨みつけている。
『……その人を喰ったような口調、少しも変わらんな』
 サタナエルの口元がわずかにほころぶ。だがそれは、何かを堪えているようにも見えた。
 サタナエルの声を耳にするや、なぜかトロンは両手であたまを押さえうつむいてしまう。
『私を覚えていないのか?』
 どこかさみしそうにサタナエルはつぶやく、でもそれはほんの一瞬のことだった。
『だが私は決して忘れない』
 豹変したサタナエルの口調に、トロンは思わず顔を上げる。その表情は、今まで一度も
見たことがないほど困惑に覆われていた。
 サタナエルはゆっくりと首を巡らし、そんなトロンを見つめていたが、やがてその唇が
ゆっくりと動いた。



                   『なあ、ルシエル……』


 サタエルのつぶやきにトロンの身体が硬直する。
『な、なんのことだ? ボクの名前は……』
『ルシエル──貴様の本当の名だ』
『ちがう! ボクはトロンだ!!』
 トロンの絶叫にも似た叫びが、室内に木霊する。
『やはり、あのダメージで記憶を失っているのか……だが、私は決して忘れん。この身
体に傷をつけた出来損ないのガラクタの名をな!』
 完全に戦意を失い。狂ったように頭を振り続けるトロンをながめていたサタナエルの唇
が、いびつな形にゆがむ。
 それは、悪童がとんでもないいたずらを思いついた時の顔だった。
『それでいいのか、ルシエル? ミス・アーミティッジが今の貴様を見たらどう思うかな?』
 握り潰さんばかりいきおいで頭に手をやっていたトロンの動きがピタリと止まった。
『……アーミ…ティッジ……』
 虚空を見つめながつぶやくトロン。サタナエルはその巨体をゆっくりと旋回させトロンと
対峙すると、身を乗り出し観察するかのようにトロンの顔をのぞき込む。 
『そう、アーミテッィジだ』
『アーミテッィジ………………シャーリー!?』
 トロンの身体がおこりにかかったように震え出す。
『う、うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!』
 両手で頭を抱え、これ以上はないほどカッと目を見開くと、トロンは声も限りに叫びだ
した。

 怒り、悲しみ、憎しみ、悔恨……それは、あたしが生まれて一度も聞いたことない魂を
引き裂くような叫びだった。

「どうしたの、トロンッ!」
 あまりのことに硬直していたあたしの身体は、トロンの叫びでようやく自由になった。
 両手で耳をふさぎながらトロンに話しかけるが、あたしの声はまるでトロンにはとどい
てはいないみたいだった。
 無限に続くかと思われたトロンの叫び。でも、それは始まりと同じように唐突に終わる。
糸が切れた人形のように全身の力がぬけ、トロンはいきなり地上めがけて落下した。
「トロンッ!!」
 反射的に身体が動き、足が地を蹴る。衝突寸前のトロンをかろうじてキャッチした。
 トロンを受け止めたところまではよかったけど、バランスをくずしたあたしは、盛大に
床を転がる羽目になった。
「痛てて……トロン、どうしちゃったの? しっかりして!」
 手のひらのトロンを激しく揺さぶるが、両目を開き脱力したかのように四肢を投げ出し
たまま、トロンはピクリとも動かなかった。
「あんたたち、トロンに何したのよッ!」
 すぐそばに浮かんだままのサタナエルと片桐をにらみつけながら、あたしは激しく誰何
した。
『別に何も、……ただ私は真実を伝えただけだ』
「真実?」
『そう。主の命すらすら守れなかった、哀れなガラクタの物語をな』  
 そう言いながら、嘲笑するサタナエル。あたしの頭に一気に血が上る。
「お前ッ!!」
 こぶしをにぎりしめると、あたしは立ち上がった。
 一瞬、気圧されたような表情を浮かべたサタナエルだが、怒りに身体を震わせるあた
しを見るや口元に苦笑が浮かぶ。
 サタナエルの武装の各所が開き、無骨な形のビーム砲がせり出してくる。
 いくらなんでも、ビームより早く動くなんて不可能だ。
 現実を突きつけられ硬直するあたしに、ゆっくりと砲身が動き照準を合わせる。
「くっ!」 



     あたしはトロンをかばうように抱きしめる以外に、為す術がなかった。
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