神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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武装神姫 クロスロード 第39話

                 武装神姫 クロスロード

              第39話 「ふたつでひとつ」

 あたしはサタナエルから逃げ出すようにゆっくりと後ろに下がりだす。
 でも、決死の逃避行は背中に当たった壁のせいで数歩で終わりを迎えてしまった。
 とっさに左右に視線を向けるが、どちらに逃げようともサタナエルには想定内のことだ
ろう。きゅっと吊り上がったサタナエルの口元が、無言でそれを肯定している。

 眼孔のような砲口から光があふれだす。どうあがいても現状を打破できないことを悟っ
たあたしは、トロンを力一杯抱きしめサタナエルの攻撃からかばうようにしゃがみ込む。

『秘剣……刃狼ッ!!』

 振り仰いだ全員の瞳に、大気を切り裂く巨大な狼の姿が映しだされる。
 とっさにフィールドを展開させたサタナエルに、狼の咢がおそいかかった。
『ちっ!』
 ダメージこそ与えられなかったみたいだけど、サタナエルの巨体がはげしく揺さぶられる。
 天井の大穴から小さな人影が身をひるがえし、音もなくあたしの目の前に着地する。
『大丈夫でござるか、隣どの?』
「うん、なんとか……でも、トロンが大変なの!」
 あたしは、握りしめていたトロンを差し出す。ガーネットはひとしきりトロンを調べて
いたけど、やがて顔を上げる。
『これはいったい……何があったでござるか?』
「それがわからないのよ。サタナエルから昔の話を聞いたとたん、こんなんなっちゃって」
 身振り手振りを交えて事の顛末を説明するが、ガーネットはますます眉をひそめるばかりだった。
 しばらく黙り込んでいたが、奥の方からあたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
 目を凝らして薄闇を擬視すると、階段の中程から美佐緒がおっかなびっくり顔を出して
いる。
「美佐緒!? あんたこそ大丈夫? どこも怪我してない?」
「はい」
 美佐緒の声に安堵し胸をなで下ろしていると、複数の足音が階段の方から聞こえてきた。
足音は、すぐに懐かしい人たちの姿へと変わった。
「みんな!」
 あたしはサタナエルをさけるように大きく迂回しながら階段の方へと向かった。
 不思議なことに、サタナエルは一瞬美佐緒たちを横目で見るが、興味がないといわんば
かりに微動だにしない。
「一ノ瀬くん、無事かい?」
 つかの間の再会を喜び合っていたけど、それもわずかなことだった。
「あたしなら平気です。でも、トロンが……」
 店長さんたちの目の前に、あたしはトロンを差し出した。
「!? いったい、これは……」
「わかりません。トロンの過去を聞いたとたん、こうなっちゃって……」
「なんだって、過去?」
「ええ、……店長さん、ひょっとしてトロンの過去を……」
 過去という単語に店長さんの表情がサッと変わった。あたしの問いかけにも答えようとしない。
「あの……」
『リンさまぁああああ!』
 場違いなほどの明るい声に、頭上を仰ぎ見る。レスティーアに抱き抱えられたルーシィがあた
しに手を振っている。
 爆撃機の爆弾よろしく、空中で投棄されたルーシィがあたしめがけて飛び込んできた。
 あわてて受け止めると、あたしはしっかりとルーシィを抱きしめた。
「ルーシィ! よかった、無事だったんだね?」
『はい、わたしはだいじょうぶです。リンさまこそ、お怪我はありませんか?』
 心配そうにあたしの全身に目をやるルーシィに、あたしは苦笑した。
 あたしたちの足下に着地したレスティーアにリューネ、そしてリベルター。多勢に無勢、
あれだけの使徒を相手にみんな大なり小なりダメージを受けているみたいだけど、とにも
かくにもみんなの無事な姿にあたしは心底安堵した。
『リンさま、トロンちゃんはどこです?』
 キョロキョロとあたりを見回すルーシィ。あたしは床に横たわったトロンを指さした。
『トロンさん?』
『そんな、バカな…』
 リューネとレスティーアとが信じられないという風にあたまを振る。
『うそ……トロンちゃん?』
 ルーシィはよろけながらトロンのそばにいくとしゃがみ込んでしまう。
『ねぇ、起きてよトロンちゃん』
 すがりつくように身体をゆさぶるが、トロンは目を覚まさない。
『ねぇってば、トロンちゃん!』
 さらに強くトロンをゆさぶるルーシィ。あわてて止めようとするが、背後からリベルタ
ーがルーシィの身体を抱き抱える。
『だいじょうぶよ、ルーシィ。トロンはシステムダウンをおこしているだけ、時期に目を
覚ますわ』
『ほんとうですか?』
 すがるように尋ねるルーシィに、リベルターは力強くうなずいてみせる。

「しかし、意外な展開ですねぇ」
 この戦いが始まってから傍観者の立場を貫き通していた片桐が、あたしたち一同をゆっ
くりとながめてからようやく口を開いた。
「サタナエル、現在稼働中の使徒の数は?」
『六体です』
 間髪入れずに答えるサタナエル。片桐はあごに手をやり考え込む。
「しかし、意外な展開ですねぇ」
「何が意外なのよ?」
 同じセリフをくりかえしながらまた考えこむ片桐に、あたしはいらだちを隠そうともせず
言い放った。
「いえね、<ナイン>のみなさんならいざ知らず、スペック的にも使徒たちがこちらの神姫
さんたちに負ける要素がみあたらないんですよ」
 片桐はそこで話を区切ると、ハンカチをとりだしメガネをふきはじめる。
「それなのに、現実は半数以上の使徒を失ってしまった……やっぱりこれって、意外な
展開だと思いませんか?」
「思わないわよ!」
 メガネをかけなおしながら尋ねてくる片桐に、あたしは歯をむき出して答えた。
 あたしの剣幕に片桐は肩をすくめるが、天井に向かって指を鳴らした。
 天井の穴から小さな影が姿を現し、片桐の周りに浮遊する。使徒たちはあきらかにおび
えていた。

                    そう、片桐に。

 ところが、当の本人はそれに気づいた素振りも見せなかった。
「まあ、いいでしょう。私がみたところ、みなさん青色吐息といった様子ですし、後はサ
タナエルにまかせましょう」
 片桐が話し終わると同時に、ゆっくりとサタナエルがあたしたちの前に進み出る。
 ガーネットの必殺剣ですら、サタナエルにダメージらしいダメージを与えることができなかった。

 ダメなものはダメ。あたしは気持ちを切り替えると、こんどはまわりを見渡した。
こっちはルーシィやレスティーアたち全員が、少なからずダメージを受けている。
 そりゃそうだろう。三倍近い数の差に加え、ただでさえ規格外の能力をあたえられた使
徒たちを相手に戦ったんだ、一人の犠牲もでていない現状は奇跡と思うべきだ。
『ふう、仕方がありませんわね』
 大きなため息をつくと、リューネが前にでる。
『落ち着けグリューネワルト』
 肩に置かれた手を、リューネは振り向きざまに払いのける。
『落ち着いたからといって、何か状況が変わりまして、レスティーアさん?』
『確かに……このままにらみ合っていても埒があかないでござる。ここは無茶を承知で敵
陣に切り込み、死中に活を求めるしかないでござるな』
 ガーネットは、籠手の留め具をきつく締めながらそう言うと、こっちに振り返った。
『拙者たちが突入したら、美佐緒どのたちはすぐにこの店から逃げるでござる』
 思いもしないガーネットの提案に美佐緒は狼狽するが、それはほんのわずかな間だった。
「な、何を言ってるの? ガーネットを置き去りにして逃げられるわけないでしょう!」
 声を荒げながら詰め寄る美佐緒。でも、ガーネットは顔色ひとつ変えない。
 ルーシィは、初めて見る美佐緒の真剣そのものの表情に、トロンを抱き抱えたまま唖
然としている。
『それでは拙者が困るでござるよ。美佐緒どのにもしもの事があったら、それこそ拙者
あの世でお館様に合わす顔がないでござる』
 ガーネットの悲壮な決意に気づいたのだろう。美佐緒は口ごもってしまうが、それは一
瞬のことだった。
「だめ! だめ、だめ、だめ!! 神姫とマスターは二つで一つなのよ? そんなの絶対
にだめッ!!」
 狂ったように頭を振り続ける美佐緒を、あたしは慌ててなだめすかした。

 そのとき、あたしの脳裏に美佐緒の声が木霊した。


                  神姫とマスターは二つで一つ


「そ、それよッ!」
 思わず叫んでしまったあたしを、美佐緒が涙でぐしょぐしょになった顔で見ている。
「店長さん、お願いがあるんです」
 わけがわからず怪訝な顔をする店長さんの耳元に、あたしは堰を切ったように話し出す。
「……な!? む、無茶だ! そんなこと……」
 そこまで話すと絶句してしまい、言葉が続かない店長さん。
「確かに無茶は承知です。うまくいっても現状を変えられるかはわからない。でも、もう
それしかしか手はありませんよ?」
 たたみかけるようにそう言うと、店長さんは追し黙ってしまった。
「一ノ瀬さん、いったい何を……」
 店長さんの表情から何かを察したのか、姫宮先輩が心配そうに話しかけてきた。
「もちろん、起死回生の策……とまではいかないけど、少しはこの状況は変えられると思
う……でも、そのためにはみんなの助けが必要なの!」
 いっきょにそうまくしたて軽い酸欠におちいったあたしを、レスティーアたちが怪訝そ
うに見つめている。
『何をお考えなのです、一ノ瀬どの?』
 大きく深呼吸を繰り返すあたしに、みんなを代表してレスティーアが話しかけてくる。
『隣さん、急いでください。ここは私たちが!』
 みんなの上げた疑問の声をさえぎるように、手にしたLC5レーザーライフルをかまえ
ながらリベルターが叫ぶ。
『リベルター、どこまでも愚かな奴──そこまでしてその出来損ないたちを庇う価値なぞ
どこにある?』
『あなたこそはまだ気づかないの? 神姫たちは出来損ないなんかじゃないわ!』
『馬鹿な……奴らのどこが我々より勝っているというのだ?』
 あからさまに侮蔑の表情を浮かべるサタナエル。それを見つめるリベルターの瞳が悲し
みにゆらぐ。
『そう、私たちは神姫たちより優れた存在かもしれない。でもそれは、性能だけの話……
彼女たちは私たちには無いものをもっているわ』
『何、だと?』
『それは、“可能性”よ』
 一語一語区切るように話すリベルター。サタナエルはうつむき黙ったままだ。でも、そ
れはすぐに場を揺るがすほどの哄笑へと変わった。
『アーハッハッハッハッハッ!! 何が“可能性”だ! 笑わせるな』
『……最初から完全な力を与えられたセンジュも紅御雷も最後までそれに気がつかなかった。
でも、神姫たちは無限に成長する“可能性”を持っている』
 淡々と話すリベルター。それは、以前店長さんが話してくれたことおなじだった。
『くだらん! そのような不確定要素で何ができ──何ッ!?』
 とつぜん放たれたビーム、サタナエルはフィールドを展開し間一髪でそれをさえぎる。
「レスティーア!」
 手にした銃を乱射しながらレスティーアが突進する。そのすぐ後ろにガーネットも続く。
 いきなりはじまった戦いに慌てて駆け寄ろうとすると、足下から氷点下級に冷めた声が
聞こえてきた。
『……貴女は、いつまでそんなところでボケッと突っ立ているつもりですの?』
「リューネ?」
『レスティーアさんたちは、貴女のために時間稼ぎをしていましてよ? 何か策があるの
なら、さっさと行ったらどうですの?』
『そ、そうです。こ、こ、ここはわたしたちにまかせてください! ……で、でも、なる
べく早く戻ってきてくださいね、リンさま?』
 リューネの横で、ビームガンを抱きしめながら涙目になったルーシィが哀願する。
『大丈夫です。ルーシィは、私とリューネで守ります!』
 ルーシィのそばに音もなく降り立つリベルター。
「ごめん、みんな。少しの間だけがんばって! 店長さん!!」
「わかった。急ごう」
 ようやく納得してくれた店長さんをうながすと、あたしたちはきびすを返して走り出す。





     この状況を打開できるかもしれないあの場所、地下室に向かって……
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