神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第40話

                    武装神姫 クロスロード
 
                  第40話 「ライドオン」




                      ── うっ!? ──

 意識の覚醒とともに全身を襲ったのは、耐えがたいまでの痛み。そして、あたしの目に飛び
込んできたのは、辺り一面火の海と化した家の中だった。
 壁も廊下も──ううん、家そのものが灼熱の舌に舐めとられ断末魔の悲鳴を上げている。
 その光景はまさに地獄そのものだった。

 でも、身体中を熱波と痛みになめ回されながらも、身体はあたしの意志とは無関係に
前進を続けた。
 目の前の床に倒れ伏した人影に向かって……

『……シャ、シャーリー……』
 あたしの口が、あの名前をつぶやく。

『ご、ごめん、シャーリー、ボク……』
 たったひとつ残った右腕を精一杯伸ばすが、今のあたしには人影までの距離はあまりに
も遠かった。

 力無く地に落ちる指先、あたしの頬を伝わる涙は熱のせいですぐに乾いてしまう。

『ふふふ……あーはっはっはッ!』

 突然背後で哄笑が響きわたる。反射的に背後を振り返る。廊下の端に転がっているの
は──あたしの下半身。

 哄笑の主は、その遙か高みからあたしを見下ろしていた。

                     サタナエル……

『何が神姫だ。“神なる姫”だ! この程度の力しか持たぬガラクタが私に取って代わろう
などとかたはら痛いわ!!』

 あたしの心に、憎しみや悔しさといった感情が流れ込んでくる。でも、もう身体が動か
ない。荒れ狂う炎の中で、サタナエルはいつまでも笑い続けている。

 

          そして、あたしの意識は再び闇の中に落ちていった……
             

                         ※


『……う、ここ…は?』
 ゆっくりと瞼を開くと、そこは薄闇に包まれていた。
『まったく、目が覚めてもまだ闇の中なんて──ん?』
 あたしは頬に妙な感触を覚え、反射的に指で頬をなぞる。

                    濡れていた。

 黒光りする鋼の指についた液体を見ながら、あたしはポツリとつぶやいた。
『涙……そっか、あれはトロンの……』
 あたしはこのとき、すべてを理解していた。

『トロンちゃん! 気がついたんだね?』
 あたしの思考を断ち切るように、いきなりルーシィが飛びついてきた。
『ちょっとルーシィ、落ち着いてって』
 涙でぐしょぐしょになった顔で頬ずりしてくるルーシィにちょっぴり辟易しながらも、
ようやくあたしは現状を思い出した。
 頭上では、ガーネットたちが乱戦の真っ最中だ。
『あ、あの、トロン…ちゃん?』
 ルーシィは、あたしを見下ろしキョトンとしている。
『ありがと、ルーシィ。ひとりでトロンを守ってくれてたんだね』
『へ? は?』
 大きく見開かれたルーシィの瞳に映ってるのは、まごうことなきトロンだ。
 とうぜんルーシィには今の状況は理解できないだろう。あたしは苦笑しながらルーシィ
のあたまを撫でてあげた。
『時間がないからくわしい話はあと! それより援護の方、頼むわよ?』
 身を起こしながら手短に用件だけ言うと、あたしは“黒き翼”をはばたかせ、飛翔した。


 しばらくして、遙か下からルーシィの悲鳴にも似た叫びが聞こえてきた。


『……たたた、たいへんじゃ───ッ! トロンちゃんがナンか変ッ!!』




           ……これじゃあ、援護は期待できないわね……

                        ※ 


                   何……この感じ?

 あたしは違和感にまゆをひそめた。妙に身体が重かった。少なくとも、トロンの特訓
につきあいネイキッドを動かしていたときはこんな感じはなかった。
 前方で行われてる戦いの喧噪に我に返る。

           いまはそんなこと気にしている場合じゃない!

 いったん戦いの場を見下ろすぐらい上昇すると、そのまま逆落としに降下する。
 あたしは、使徒のひとりに向かって右手を突き出す
『えっと、こう…かな、わっ!?』
 右手の肘に装備されていたアンカーガンが、ガスの噴出とともにいきおいよく射出される。
 あてずっぽうだったけど、運よくアンカーガンは使徒の持つビームガンを弾きとばすと、
そのままレスティーアたちの間をすり抜ける。
『トロン!?』
『貴様は!』
 レスティーアたちの声を背中で聞きながら、あたし降下を続け床に着地する。
 頭上に感じた殺気に我に返る。振り仰ぐと銃を失った使徒がビームソードを振りかざし
ながら一直線に突っこんで来る。
 突っ立ったまま自分を見上げるあたしをいぶかしながらもも、手にしたビームソードを
振りおろす。
『なっ?』
 ビームソードはその高熱の刃で深々と切り裂いていた。

                   自らの立つ、床を……

『どこを狙ってるの?』
『うおっ!?』
 何が起きたか理解できない使徒は、耳元で聞こえた声におどろくと、後ろに跳びすさっ
た。
『ば、馬鹿な! きさま、いったい何をした?』
 あたしはなにも答えず無言で手招きした。
 怒りに顔を朱に染めた使徒が切りかかってくるが、その軌道はあたしの手刀によって反
らされ、むなしく髪留めを切り裂いたにすぎなかった。
 驚愕にゆがむ使徒には何が起こったのか理解できなかったろう。
 手首を極められ、自らの身体で虚空に弧を描いた時も、そのまま破片をまき散らしなが
ら床にたたきつけられた瞬間ですら……

 完全に機能を停止させてしまった仲間を目の当たりにしても、使徒たちは固まってしま
ったかのように微動だにしない。
 そんな使徒たちの間を縫うように、レスティーアたちがあたしの横に降り立った。
『トロン、きさま──大丈夫なのか?』
『うん、なんとかね。それよりレスティーア、他のみんなはどうしたの?』
 使徒の攻撃で片方の髪留めが吹き飛んでしまい、乱れた髪が視界をさえぎり鬱陶しかっ
たので、あたしは残った髪留めで薄紫色の髪を頭の後ろでまとめながらたずねたが、
いつまでたってもレスティーアからの返事はなかった。
 いぶかしげに顔を上げると、レスティーアの手のひらがひたいに押し当てられる。
『……どこもおかしいとこなんてなんて無いわよ?』
 にぎったレスティーアの手首を、ひたいからはずしながら話しかけるがレスティーアの
まなざしは困惑の色を深めるばかりだ。
『いや、どうみてもおかしいだろう?』
『おかしくなんかないって! よく見てレスティーア、あたしよ、あたし!!』
 自分を指さしながら詰め寄ると、レスティーアは訝しげに見ていたが、ようやく気がつ
いたみたいだった。
『ま、まさか、一ノ瀬どの?』
 レスティーアが惚けたような顔をしたのは、ほんのわずかな間だった。すぐに厳しい表
情を浮かべると、今度は彼女が詰め寄ってきた。
『なんという無茶なことを、危険すぎます!』
『今のあたしと使徒の戦いを見てなかったの?』
 さも心外といわんばかりに顔をしかめてそう言うと、レスティーアは押し黙ってしまう。
『わかってる。あたしが今まで経験してきたことと、神姫たちの戦いがまるで異質だと
いうことぐらい。でもね、いまはそんなこといってる時じゃない。みんなで力を合わせな
けきゃ、あいつは──サタナエルはたおせない!』
 一気にまくして、あたしが息継ぎをしている間もレスティーアはだまってあたしを見つ
めるだけだった。
『わかりました、一ノ瀬どの』
 大きなため息とともに、レスティーアはそう言った。あたしはレスティーアの肩を軽く叩
くとそろって姫宮先輩の足下に駆け寄った。
『すみません、遅くなって』
 だいたい予想はついたけど、案の定返事はなかった。
 頭上を仰ぐと、姫宮先輩は目をまん丸くしてあたしを見下ろしている。
「せんぱぁああああいッ」
 不本意だが、あたしの現状にいっぱつで気づいたヤツもいたみたいだ。美佐緒は地響き
をあげながら走り寄ると、あたしを抱き上げ頬ずりをはじめる。
『ちょ、ちょっと美佐緒、落ち着いて……』
「いや~ん、せんぱいったらさらにちっちゃくなって可愛い! もうこのままぺろぺろし
た──げほ!?」
 あたしの右ストレートが頬にめり込み、美佐緒はもんどりうって倒れ込む。
「せんぱいったら、ひどいです~」
『うるさい! PBぶち込まれなかったことに感謝しろ!!』
 頬を押さえながらブーたれる美佐緒を一喝していると、背後から遠慮がちに話しかけら
れる。
『……そのリアクション……』
『ほんとうに、隣どのでござるか?』
 振り向きながら重々しくうなずくあたしに、リベルターとガーネットが顔を見合わせる。
『まったく。そこまで自虐嗜好のある方だとは存じませんでしたわ。それ以上小さくなっ
てどうするつもりですの、隣さん?』
『ちっちゃいって、言うな────ッ!』
 あきれ果てたといわんばかりの顔で話しかけるリューネに、あたしは中指を突き立てな
がらツッコむ。
『隣どの、落ち着くでござるよ』
 ガーネットの声に我に返ると、あたしは数度深呼吸を繰り返した。
『そうね、今やりゃなきゃならないのは……』
 

 そう言いながら前方に視線を向ける。あたしたちを見つめるサタナエルは、冷ややかな
笑みを浮かべていた。
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