神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第42話

                  武装神姫 クロスロード

              第42話 「熾天使の来訪」


『<ライトニング・フェザ───ッ!>』

 反射的に振り仰ぐあたしの目に、美佐緒たちに襲いかかるガンポッドの上空から数知れ
ぬ光の羽根が雨のように降り注ぐ。
 光り輝く羽根が突き刺さると、ガンポッドは爆発を起こし、閃光が消えたあとにはあれ
ほどの数を誇ったガン・ポッドがすべて消えていた。
 カメラアイをズームさせると、吹き抜けになった天井すれすれのところに六枚の巨大な翼を
広げ、全身から淡い光を放つ一体の神姫が音もなく浮いていた。

『あの…神姫は……』

 その神姫を見た瞬間、あたしの脳裏に数年前の出来事が鮮明によみがっていた。

                          ※
 
「となりおねぇちゃ~ん。はやくはやくぅ!」
「ちょっとまってよ、美佐緒。いったいなんだっていうの?」 
 不機嫌さをかくそうともせず、乱暴に美佐緒の手を振り払うが当の本人はどこ吹く風だ。
「となりおねぇちゃんにあわせたい子がいるのぉ」
「会わせたい子? だれのことよ?」
「えへへ、……が~ねっとぉ!」
「ガーネット? 何よ、あんた犬でも飼ったの?」
「が~ねっとはいぬじゃないよぉ!」
 まゆを寄せながら尋ねると、美佐緒は不満そうに頬をふくらませる。 

                 まるで、焼き餅みたいね……
 
「わかったわよ。そのガーネットとかいうのに会えばいいんでしょう?」
「うん!」
 さっきとは、うって変わって満面の笑みを浮かべる美佐緒の頬をつつきながらあたしは
たずねた。
    
                 今は、つきたてのお餅みたい……

 美佐緒はうれしそうに笑うと、また両手であたしの手をひっぱりはじめた。 

 美佐緒にひっぱられるまま歩いていると、あたしたちは耳をふさぎたくなるほどの音を
立て、工事を続けるのビルの前を通りかかった。
「君たち、危ない!」
「へ?」
 いきなり背後からあびせかけられた大声に、おどろきあたしにしがみついている美佐緒。
その肩に手を置きながら振り返った。
 そこには、サラリーマン風のおじさんが顔をひきつらせながらあたしの頭の上を指さし
ている。
「となりおねぇちゃん、うえっ!」
 すぐとなりで美佐緒の悲鳴にも近い叫び声があがり、あたしはつられて空を見上げた。

                  あの黒いのって、なに?

 あたしたちめがけて一直線に落ちてくるソレが数本の鉄パイプだと気づいた瞬間、あた
しは反射的に美佐緒を押し倒し、その上に覆いかぶさっていた。
 路上にぶつかり音をたてる耳障りな金属音が止むと、あたしはかたく閉じていた目をそ
っとひらく。
 運がよかったのか、鉄パイプはあたしたちを避けるように落ちてきたみたいだった。
「美佐緒、だいじょうぶ? どこもケガしてない?」
 あたしは美佐緒の両肩をつかむと、軽くゆすってみた。
 はじめは焦点の合わなかった美佐緒の瞳が、ようやくあたしの姿を映しだすと、かすか
にうなずいた。
 美佐緒の無事に大きなため息をつこうとしたが、フと周りを見たとたん、あたしはでか
かったため息を飲み込んでしまった。
 目の前……ううん、周りに転がっていた鉄パイプは、どれもまっぷたつになって転がっ
ていた。
 異変に気づいた美佐緒としばらく顔を見合わせていたあたしは、ゆっくりと空を見上げ
た。

 そこには光り輝く六枚の翼を広げ、悠然と宙に浮かぶ人影があった。それはあたしたち
と比べてあまりにも小さかった。でも、あたしにはその人影の指先まではっきりと見えた。
「天使……」
 あたしの横で、美佐緒の惚けたような声が聞こえた。

               そう、その小さな人影はまさに天使だった。

 その人影が“神姫”と呼ばれる存在だったこと。そして、それがアーンヴァルという
天使型の神姫だとあたしが知ったのは、もう少し先のことだった……

                          ※

「隣ちゃん、聞こえるか?」
『ひゃっ!?』
 いきなり男の人の声が耳元で聞こえ、我に返ったあたしは空中で飛び上がった。
『この声………………まさか、須賀さんですか?』

 須賀 匠。そう、前にスーパーで出会ったアーンヴァル──リセルのマスター。

『どうして須賀さんがここに? というか、いまどこにいるんですか?』
「隣ちゃんのすぐそばさ」
『へ?』
 反射的に辺りを見回すが、須賀さんの姿はどこにも見えなかった。あたしの耳に
、須賀さんの含み笑いが木霊する。
「ごめんごめん。正確にはきみの本来の身体のそばだ。いま、この店の地下にいる」

            地下……ライドシステムが置かれた場所。

 まだ現状が把握できていないあたしは口を開くが、須賀さんに先手を打たれてしまう。
「くわしい話は後だ。まずはリセルと合流してサタナエルを……」
『ちょ、ちょっとまってください! じゃあ、あのアーンヴァルはリセルなんですか?』
 おもいっきり須賀さんの話の腰をへし折ってしまったけど、それはやむを得ないことだった。

      じゃあ、あの時、あたしと美佐緒を助けてくれたのはリセルだったの?

 おどろきとなつかしさ。様々な感情があたしの胸をよぎるが、感傷的になったのはほん
のつかの間、サタナエルのつぶやきがあたしを現実へと引き戻した。
『……生きていたのか、セラフ……』

                       セラフ?

 サタナエルの押し殺したようにようなつぶやきには、聞き覚えがあった。それは、以前
DO ITで姫宮先輩が話してくれた、アーンヴァルの名前……

『……隣さん』
 耳元でささやくように名を呼ばれ、おどろき振り返る。すぐそばに、はにかんだ笑みを
浮かべリセルがあたしと並び立つように浮いていた。
 あの左頬にある特徴的なほくろ。間違いなく目の前のアーンヴァルはあたしの知ってい
るリセルだった。
『え~と、あの……お怪我はありませんか?』
 無言で穴が開くほど見つめられ、リセルが困ったような顔で尋ねてきた。
『え? うん、なんとか……ていうか、あたしがわかるの?』
 端から見れば、いまのあたしはポニーテールにしたトロンにしか見えないはずだった。
『ええ、事情は店長さんから……』
「コングラッチレーション!!」
 場にそぐわない調子っぱずれの歓声が、リセルの声をさえぎる。声の主である片桐は、
感極まったといわんばかりにあたしたちを見上げている。
「いや~、素晴らしい! セラフ……まさか、あなたが生きていたとは、これはうれしい
誤算というやつでしたよ」
 片桐の態度に嘘偽りは感じなかった。まちがいなくあいつはリセルの無事を心から喜
んでいるみたいだった。ただ、それとは対照に、リセルの表情はみるみる曇っていく。  
「あなたが……あなたみたいな人がいたから、みんなが……」
 怒りのためだろうか、それ以上リセルの言葉は続かなかった。ただ握りしめた拳をふる
わせている。
 片桐は、そんなリセルを不思議そうに見上げている。
『隣さん、力を貸してください』
 前を向いたまま、リセルが話しかけてきた。
『それはこっちの台詞──でも……』
 リセルの問いに反射的に答えたけど、拭いきれない一抹の不安が語尾を小さくしていた。 
 あれだけの実力をほこったレスティーアたち四人を瞬時に倒してしまったサタナエル。

         あたしたち二人だけで、あのサタナエルを倒せるだろうか……

「せんぱい!」
 美佐緒の悲鳴にも近い金切り声に我に返る。目を覆わんばかりのビームの束が目の前に
迫っていた。
 反射的に目をふさぐが、いつまで待っても痛みはおろか熱さも感じない。
『え? リセルッ!?』
 恐る恐る目を開けると、目の前にリセルが立っていた。
四枚の翼が身体を覆うように前方に展開し、サタナエルのビームは翼の前でその動きを完
全に止めていた。
『そんな、あのビームを……』
 あたしのつぶやきが合図だといわんばかりに、四枚の翼が勢いよく開き、ビームは軌道を
反らされ新しい標的である天井や壁に光る牙を突き立てる。

「あのアーンヴァル……」
 下から、どこか放心したような美佐緒の声が聞こえてくる。

       ようやく美佐緒も思いだしたみたいだ。あたしたちの命の恩人を……

『……天使(セラフ)』
 あの時と同じセリフがあたしの耳朶を打つ。でもそれをつぶやいたのは美佐緒ではなか
った。
『ルーシィ?』
 手にしたビームライフルを力いっぱい抱きしめながら、ルーシィはリセルの姿に釘付け
だった。
『隣さん!』
 リセルは真っ正面からあたしの目を見ていた。あたしは無言でうなずいた。
『美佐緒、先輩、早く地下室に!』
 あたしの声に、姫宮先輩は美佐緒をつれてライドシステムのある地下室へと向かう。
 入り口で二人を迎え入れる須賀さんの姿を目にし、安堵のため息がでた。

『……行くよ、リセル!』
『はい!』

 あたしたちは、同時にサタナエルめがけて飛翔した。

    迷っていても仕方がない、いまはあたしにできることを全力でするだけ!

 そう思いながらも、あたしは無意識のうちにつぶやいていた。




                『トロン、あんたがいてくれたら……』
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