神姫者の巣

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武装神姫 クロスロード 第43話


                  武装神姫 クロスロード

                  第43話 「覚醒」

 一直線に自分たちめがけて突進してくるあたしたちを目にするや、使徒たちはあわてて
迎撃を開始した。
『この……こなくそッ!』
 雨あられと降り注ぐビームをかいくぐり、あたしは使徒に肉薄する。
 使徒はビームライフルを投げ捨てると、手にしたビームソードをふりかざす。光の刃が
顔面めがけて突き込まれる。
 間一髪、限界まで首をひねってソードの切っ先をやりすごす、首のジョイントが盛大に
悲鳴をあげた。

                   あっ、なんかヘンな音がした。

 首を押さえながら、惰性で突っ込んできた使徒をかわすと、あたしは使徒の背中を思い
切り蹴りとばした。
 バランスを崩し、使徒は地上めがけて落ちはじめる。
『えっ、ルーシィ?』
 落下していく使徒を目で追っていると、まだルーシィが戦場となった店内に残っている
ことに気がついた。
 さっきからポツンと上を見ていたルーシィは、使徒に気づくやあわててビームライフルを
持ち上げ照準を合わせるが、いっこうに攻撃する気配がなかった。
『どうしたの? ルーシィ!』
 あたしの叫びにもちかい問いかけにも、身体を震わせ彫像と化したかのようにルーシィ
は動かない。

                   しまった! ルーシィはまだ……

 ルーシィは、その優しさゆえに敵に対しても非常に徹しきれない。あたしは、実戦に身
を置けばルーシィも変わるだろうと簡単に考えていた。
『この……馬鹿女!』
 自分自身を罵倒すると、全力で急降下を開始する。
 ルーシィに狙い撃たれると観念していた使徒も、ルーシィの異変に気づいたみたいだった。
ブースターが火を噴き、ルーシィに体当たりせんほどの勢いで襲いかかる。
『ルーシィ、逃げて!』
 あたしの血を吐くような叫びにも、ルーシィは動かない。
 絶望が全身をかけ巡った瞬間、あたしの横を一陣の疾風が通り過ぎた。背後から襲いか
かる気配に気づき、使徒は頭上を降り仰ぐ。

『<ブレードストーム!>』
 叫びとともに、白い疾風が使徒の身体を駆け抜け、恐怖を顔に張り付けたまま彼女の身
体は空中で数個に分かれ、閃光に包まれた。
『……リセル』
 放心したように床に座り込んだルーシィのそばに、両手に一対の光剣を握りしめたリセ
ルが音もなく立っていた。
『セラフ…さん?』
 ようやく事態を把握したのか、リセルを見上げるルーシィの瞳に、大粒の涙がたまって
いく。リセルは光剣を腰に収めながらしゃがみ込むと、ルーシィの身体をそっと抱きしめ
た。
『もう、だいじょうぶよ』
 その言葉に安堵したのか、ルーシィは声を上げて鳴きはじめた。
『ルーシィ!』
『リ、リンさま?』
 床の降り立ち、走りよるあたしに気づくと、ルーシィはいきなりしがみついてきた。
『リンさま、ごめんなさい。わたし、わたし……』
 あたしは、嗚咽をあげて泣きじゃくるルーシィのあたまを撫でさすった。
『もういいよ、何も言わなくても。ほんとうにごめんね、無理させちゃって。あとはあ
たしたちに任せてルーシィは美佐緒たちのところに行って』
 ルーシィは驚きの相を浮かべ何か言おうとしたが、あたしは首を振ると地下室の入り
口を指示した。
 あたしたちはしばらく沈黙したまま見つめ合っていた。でもあたしが口を閉ざしている
と、ルーシィは観念したのか、肩を落としながら美佐緒たちの元へと歩いていった。

 あたしはルーシィの後ろ姿を見送りながら、こんなときに気の利いたなぐさめの言葉一
つかけてあげられない自分の不器用さに心底腹を立てていた。
『だいじょうぶですよ、隣さん。ルーシィはわかってくれます』
 あたしの心情を察してくれたのか、リセルはそう言いながら上を向いた。

『また、借りをつくっちゃったね?』
 飛翔しながら、前を向いたままあたしはリセルにお礼を言った。
『いえ、そんな……それに、ルーシィを見ていると昔を思い出すんです』
 リセルは、すこし照れくさそうに言った。
『むかし?』
『ええ、あの娘はそっくりなんです』
『誰に?』
『わたしに……です』
 それはまったく予期しない言葉だった。あたしがそのことを問いただそうとすると、リ
セルはかすかに微笑み、さらに加速した。

『いいかげんに観念したらどうだ?』
 再び対峙したあたしたちにむかって、サタナエルが嘲笑を含んだ声で話しかけてきた。
 問いには答えず無言でにらみつけるあたしたちを前に、サタナエルは大きなため息をつ
いた。
『貴様等がどうあがこうが、結果は変わらん』
 サタナエルはそう言いながら、ちらりと眼下に目をやった。
 戦いの余波でボロボロになった床の上に、ガーネットやレスティーアにリューネ、それ
にリベルターが見るも無惨な傷を体中に刻み込まれ、床に倒れ伏していた。
 あたしの目は涙で曇り、彼女たちをスリガラスのむこうに覆い隠す。
『あたしはあんたを許さない。必ずガーネットたちの仇は取ってみせる!』
『安心するがいい、トナリ・イチノセ。奴らはまだ完全に破壊されてはいない』
『え?』
 思いがけない言葉に、反射的にサタナエルの顔を見る。
あたしを見つめるサタナエルの
顔はいびつにゆがんでいた。
『私は慈悲深い──そう、奴らは貴様等人間の言葉に例えれば、まだ“虫の息”というや
つだからな』
 サタナエルはそう言うと、高らかに笑いだした。

 慈悲なんかじゃない。こいつは少しでもガーネットたちの苦痛を長引かせるために、
わざと彼女たちを生かしてるんだ!

 『サタナエル……あんたはッ!!』

 あたしの全身を、かつて感じたことのないほどの怒りが駆け抜けた。
『隣さん、落ち着いて!』

 リセルの制止を背中で受けるが、もう止まらない!


 ── うっ ──

『え?』
 あたまの中に声が響いた。

 ── ここ…は? ──

 身体中をかけめぐっていた怒りが、引き潮のように去っていく。“黒き翼を”はばたか
せ、サタナエルと距離をとる。
 あたしの豹変ぶりに、サタナエルは黙ったまま事の成り行きを見守っている。
『この声……トロンなの?』
       
 ── リン? ボクはいったい…… ──

『くわしい話しはあと! トロン、サタナエルを斃したいの、力を貸して!!』

 ── サタ…ナ…エル?………サタナエルッ!! ──

 混濁した意識がつながったのか、激情にかられたトロンの動きに、あたしの身体が勝手
に動き出した。
『きゃああああッ!? ちょ、ちょっとトロン、タイム! 落ち着いて!!』
 いきなり奇妙な動きをはじめたあたしを見て怪訝そうに見ていたサタナエルや使徒たちが
後退をはじめる。

── うわっ!? か、身体が動かない、なんで? ──

『だから、いま説明するって! あんたがシステムダウンしちゃったんで、店長さんにた
のんでライドシステムを使わせてもらったの』

── ライドシステム、そうか、だから…… ──

 ようやくトロンは現状を把握してくれたみたいだった。急に身体の自由がきくようにな
った。

『ライドオンしたまではよかったけど、なんか身体が重いのよ。サタナエルのヤツはめち
ゃくちゃ強いし、それに、ガーネットたちも……』
 あたしはそう言いながらもう一度下を見た。トロンの息を呑む気配を感じた。
「いいや、一ノ瀬くん。きみたちはまだ、完全にライドオンをしていないんだ」
 店内に備えられたカメラで逐一現状を見ていたのだろう。店長さんの声が耳朶を打つ。
『ど、どういうことなんですか、それ?』
「システムダウンした神姫に、強制的にライドオンするなんてケースは前例がないんだ。
きみにどんなリスクが起こるかわからない以上、トロンくんが再起動するまで無茶はでき
なくてね」
『じゃあ、いままでのって……』
「一ノ瀬くんが特訓のためにネイキッドを動かしていたろう? あれと同じだ」

 すっぱりとそう言いきる店長さん。まっさらなネイキッドはあたしの思いどおりに動い
てくれたけど、この身体はトロンのものだ。あいつのくせが染み着いている。しかも、か
んじんのトロンは寝たまま……

                あはは、そりゃ身体が重いわけだ。

 いままでの苦労は何だったの? と自問自答していると、あたしの気持ちに微塵も気
づいてない店長さんから通信が入る。
「ではこれから全システムを起動させる。用意はいいかい、二人とも!」
『は、はい! ……トロン?』

── わかってる、いこう、リン! ──

 あたしの問いかけに、トロンは間髪入れずに答えてくれた。
『店長さん、お願いします!』
「わかった、ライドシステム……ON!」

 店長さんの言葉が終わった瞬間、あたしのあたまに──ううん、身体中に何かが
流れ込んできた。

                  あたしの中にトロンが……


                 ── ボクの中にリンが ──

 意識と肉体の融合……いまあたしたちは、ほんとうの意味で一つになった。

 全身を覆っていた薄い箔がはがれ落ちるような感覚。あたしの肌は、場に満ちた殺気を
びりびりと感じ取っていた。

             そう、生身の身体のときに感じていたあの感触……

『これが、ライドオン……』
 握りしめた拳を見つめていると、悲しみに彩られた声が耳を打った。
「一ノ瀬さん」
「せんぱい、ガーネットを……」
『だいじょうぶ、あたしたちに任せて!』
 マイク越しに聞こえる美佐緒たちの声に、あたしは両の拳を打ちならし即答する。
『リンさま…』
 もうしわけなさそうなルーシィ。あの娘の声に反応するように、あたしの身体は勝手に
動いた。
『だいじょうぶだよルゥ、あとはボクたちがなんとかするからさ』
『トロンちゃん!?』
 その口調からトロンだと察したのだろう。ルーシィの声は、安堵のためかかすかに震える。
『ふん、いつまでもくだらん戯れ言を……いい加減に覚悟を決め……う!?』
 吐き捨てるようにサタナエルはつぶやくが、あたしと目が合うや、残りの言葉を飲み込ん
でしまう。
 あたしはゆっくりと、サタナエルを指さす。

『よぉく見ておきなさい、サタナエル。あんたのいう“ガラクタ”の底力ってやつをねッ!』


        あたしはそう叫ぶと同時に、サタナエルめがけて突き進んだ。


                      トロンとともに。
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