神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第9話

 
                     ── 変だ ──
 
 目の前にある神姫の待機スペースでは、トロンが黙々とバトルの準備をしている。
「それにしてもさぁ、レスティーアにも困ったモンだよね。なにもあんなにムキになる必
用なんてないのにさぁ」
『…………』
 つとめて明るくふるまうあたしを迎えるのは無言の間。
 
                    ── 何か変だ ──
 
 さっきのレスティーアとのやり取りの後、なぜかトロンはあたしと一言も口をきこうと
しない。それどころか、さっきからあたしを見ようともしなかった。
「まあ、アレよ。レスティーアも本気で怒ったわけじゃなくて、きっとあんたを軽く懲ら
しめようとして……」
『…………』
 
 何度目かの無言の返答にどうしたものかと思案するあたしの前を、装備をつけ終えた
トロンが足早に通り過ぎる。
「ちょっと待って、トロン!」
 あたしの座るコンソールの横にある、神姫とバトルフィールドとの出入り口の役目を果
たすアクセスポッドの開閉スイッチの前で、トロンの動きが止まった。
「本当にどうしちゃったの? 今日のトロン変だよ! そんなにレスティーアに馬鹿にさ
れたのが悔しかったの?」
『……そんなんじゃないよ。ただ、ボクにもガマンできる事とできない事がある。それだ
けの事さ。じゃあ、行ってくるよ、リン』
 身をかがめ、アクセスポッドに入りながら、トロンはそう答えた。
 そしてこの時、あたしはトロンの口調がいつもとは別人のようになっていることに、よ
うやく気がついた。
 慌ててトロンに問いかけようとした時、あたしは初めて知った。一瞬あたしの方をふり
向き、かすかに微笑んだトロンの瞳が“金色”だということを……
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
               第9話     「対峙」
 
 そこは廃墟だった。ひび割れ欠けた壁、崩れ落ち原型を留めぬ建物の窓という窓は全
て割れ、わずかに残ったガラスはポッカリと開いた窓枠を縁取り、まるで怪物の口のよう
に見えた。
 そんな廃墟に、ふたつの人影があった。
 ひとつは、深い蒼色の鎧を身に纏った騎士だった。優美な装飾のほどこされた長剣を
地に突き立て、その上に両手を乗せたまま微動だに動かない。
 廃墟の中を吹きすさぶ風ですら、この蒼穹の騎士の前では恐れをなし、ふたつに割れ
ながら道を譲っているかのような、そんな錯覚を覚えた。
 そして、もうひとつの人影は異形の体躯をもつ者であった。
 スラリとしたフォルムを持ちながら、触れた物すべてを切り裂く鋭角なパーツで構成さ
れた巨大な脚。そのプロポーションを著しく人外のものへと見せる長大な腕、そして、そ
の先に生えた禍々しいまでの白銀の光を宿す巨大な爪。
 背後にセットされた、こうもりの翼を連想させる一対の巨大なブレードを持つ姿は、あ
たしに彼女達のモチーフとなった、ある名前を思い起こさせた。
 
                      曰く、“悪魔”と。
 
 烈風吹きすさぶバトルフィールドの中、いずれ鳴り響くであろう試合開始の合図を前に
トロンとレスティーアは微動だにせず、互いを睨みつけていた。
「トロン」
 あたしはさっきから胸の中に湧き上がってくる、モヤモヤとした気持ちを自分の神姫の
名とともに静かに吐き出した。
 どうしてこんな事になってしまったのだろうか? いくら答えを求めてもだれも教えて
はくれない。
 ただ一つだけ、ほんの一瞬だったけどトロンの瞳を垣間見た時、あたしにもわかった事
がある。それはトロンが“怒っている”という事だった。
 でも、だからこそわからなかった。何故トロンがあそこまで怒りをあらわにしたのか。
いつもは、自分がからかわれたり、怒られたりしても平然としているくせに……
                  
目の前に立つトロンを見たとき、レスティーアの切れ長の眼がわずかに細まった。たぶ
ん、レスティーアにもわかったのだろう。眼前に立つトロンとさっきまで自分が罵声を浴
びせていたトロンとは何かが違うと、だが、レスティーアは己の内に生じた疑問を一瞬で
振り払ったようだった。
『ふん、臆しもせずに私の前に立つとはな……それだけは褒めてやろう、ストラーフ』
 自身をも上回る巨躯を持つトロンを前にしても、少しも動揺することもなく、レスティ
ーアは言い切った。
 きっとレスティーアは、トロンのような姿をしたストラーフと、ううん、もっと強大な
力を持った神姫たちと戦い、自らの力でそれらを打ち破ってきたのだろう。それは、トロ
ンを見つめる透き通るような蒼い瞳と、口元に浮かんだ不適な笑みが証明していた。
「レスティーア」
『心配は無用です、姫。この程度の輩などすぐに処断いたしま……ぐっ!?』
 悲しそうな顔をした姫宮先輩の声は、先輩の方に首だけ向け、話し始めたレスティーア
によって遮られた。
 だが、自身にあふれたレスティーアの声も、一発の銃声によって遮られてしまう。
「レ、レスティーア!」
 驚き叫ぶ先輩の声につられ、レスティーアのほうに視線を移したあたしは唖然とした。
 レスティーアは首から上を大量の白煙に包まれ、大きくバランスを崩すところだった。
何が起こったのかさっぱりわからないあたしは、とっさにトロンの方を向くと、思わず息
をのむ。
 あの金色の瞳で、トロンはレスティーアを見つめていた。そしてもうひとつ、レスティ
ーアを見ている物があった。
 それは、トロンの手に握られた銃。ひと筋の硝煙をたなびかせ、レスティーアまで目に
みえぬ不動の直線で結ばれた銃口だった。
「トロン……あんた何やってんのよ! まだ試合は始まってないのよ?」
『大丈夫、よく見てみなよ、リン。レスPは傷ひとつ負っちゃいないよ』
「え?」
 事態がさっぱりわからず、パニックを起こしかけたあたしは、トロンとの通信用に頭に
つけていたインカムの存在も忘れて、声も限りに叫んでいた。
 あたしのあまりの大声に思わず肩をすくめ耳をふさいでいたトロンは、苦笑しながらこ
っちを向くと、あたしを優しくあやすように話し始めたが、あたしはにわかにその言葉を
信じられなかった。
 だって、トロンの手に握られていたのは、あたしがテレビや映画でよくみかける拳銃と
呼ばれる物とは、似ても似つかない代物だったから。
シュラム・リボルビンググレネードランチャー。
それはトロンを買った時にベーシックセットの中に入っていた、ストラーフ専用の武装
の中でも最大の火力を持つ武器のはずだった。
「大丈夫って、だってそんなのまともに当たったら、いくらレスティーアだって……」
 さすがにトロンの言葉を鵜呑みにはできず、首をふるあたしだったが、口元に笑みを浮
かべ一点を指差しているトロンに気づき、視線を移したあたしは大きく目を見開いた。
 てっきりその身体を地面に横たえていたと思ったレスティーアは、右膝こそ地につけな
がらも、まだ倒れてはいなかった。
「そんな、どうして?」
 あたしの問いに答えてくれたのは、一陣の風だった。
 レスティーアの周りを去りたげに纏わりついていた白煙を吹き飛ばし、その下からでて
きたものは……
「け、剣?」
 それはレスティーアが、唯一このフィールドに持ち込んだ武器だった。信じられないこ
とだけど、レスティーアはとっさに剣をかざしてグレネードの直撃を防いだんだ。
 ゆっくりと長剣を降ろすレスティーア。その刀身の中程からは、いく筋もの硝煙が立ち
昇っている。
「レスティーア、大丈夫? ケガは無い?」
『ハッ。無様なところをお見せして、申し訳ありませんでした、姫』
 心配そうに話しかける姫宮先輩だったが、レスティーアの声を聞くと、ホッと安堵の表
情を浮かべている。
 そんな先輩に背を向けながら、レスティーアはゆっくりと立ち上がった。
『……やってくれたな、ストラーフ』
 一語づつ噛み締めるようにつぶやくレスティーア。目の前のトロンをキッとみすえる蒼
い瞳のなかに揺らいでいるものは、“怒り”と“驚き”だった。
『ケガはしなかった、レスP?』
『なん……だと?』
 真っ向から自分を睨みつけるレスティーアに、ニヤニヤとしながら問いかけるトロン。
意味がわからず眉をひそめていたレスティーアもすぐにトロンの真意に気づき、みるみ
る険しい顔になる。
『あんまりカッカしないで、ボクの思う壺だよ? 今のはボクからの、決闘の前の白手袋
だとでも思ってよ』
 怒りの臨界点に達しようとしているのか、レスティーアの身体が小刻みに震え始めた。
噛みしめられた唇からは、いまにも血が滲みそうだ。
 
                思う壺って、ふつう自分で言うか? 
 
 トロンが何を考えているのか、まったく理解できないあたしは、あいた口が塞がらなか
った。ふつうに考えれば、こんなことをしたらレスティーアの怒りに、そう、火に油を注
ぐような……
「あっ?」
 そこまで考えて、あたしの頭の中で、ひとつの可能性が浮かび上がった。
 
                    ひょっとして、トロンは……
 
 あたしがフィールドに視線を向けると、そこには、まるで悪びれた様子もみせないトロ
ンの姿があった。
 すると、突然アラーム音が鳴り響き、トロンの頭上に反則を意味する赤い光点がひとつ
灯った。
『それにしても、レスPって意外と甘ちゃんなんだね?』
『何?』
 頭上の光点をつまらなそうに見上げていたトロンは、おもむろにレスティーアに視線を
戻すと、そう言った。
『フィールドに立ったその瞬間から、戦いは始まっているんだよ。闘る気あるの?』
『……きさまぁ!』
 レスティーアの瞳に炎が燃え上がった。だがそれは、凍てつくような氷の炎だった。
 あたしにも、レスティーアが本気になったのがはっきりとわかった。
 鬼気迫るレスティーアの形相に、思わずそらしたあたしの眼に映ったトロンは笑ってい
た。その口元に嘲りの笑みを浮かべながら。
『リン、頼みがあるんだけど、聞いてくれる?』
「ど、どうしたのよ、急に?」
 レスティーアの方を向いたまま、トロンは妙に静かな口調であたしに話しかけてきた。
『アドバイスはしないでほしいんだ。この戦いはボクの闘りたいように闘らせてほしい』
「それって、どういう意味な……」
 乾いた唇をようやく開き、絞りだすようにつぶやいたあたしの言葉を、トロンはそっと
遮った。
『それともうひとつ……何があっても信じてほしい……ボクを』
「トロン」
 わけがわからず、混乱していたあたしの口から紡がれた声は、試合開始の電子音に掻き
消されトロンに届く事はなかった。
 
                   そして、ふたつの影は交錯した。
 
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コメント


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こんばんは。

ついに戦いの火蓋が切って落とされた訳ですね・・・文字通り^^

それにしてもトロンさんの変貌ぶり・・・というかえげつなさが垣間見えてニヤニヤしております。

そういえば、バトル方法はライドオンじゃないんですねー♪ バトロン式の方が好きな身としてはこれまたニヤニヤしております^^

続きが気になって仕方がないっ!!

初瀬那珂 | URL | 2012-03-06(Tue)23:56 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

大変お待たせしました。ようやくトロンの初バトル開始です……バトルはじめるまでに9話もかかるSSもあまりないと思いますが(汗)。

正攻法で戦う神姫とは違う、トロンの風変りな戦いを楽しんでもらえればと思います。

今回のバトルはリアルバトルで行われていますが、本SSはライドシステムが稼働する数か月前という設定でして、これらを使った一風変わったバトルも起こると思います。
お楽しみに!

シロ | URL | 2012-03-07(Wed)20:40 [編集]