神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第10話

 
          それは嵐だった。 蒼い……蒼い嵐。
 
            ─── 一瞬の閃光 ───
 
      その嵐が巻き起こす風は、幾十、幾百もの刃の形をとっていた。
   
           ─── 鋼が鋼に食い込む音 ───
 
    そして、その嵐のなかで轟く雷鳴は、まるで嘲りの声のように聞こえた。
 
      ─── かつて形なしていたモノが、力なく宙を舞う ─── 
 
 
「もうイヤだ! こんなのってないよ! あたし……あたし、もう……」
 あたしは思わずインカムを投げ捨てると、腰掛けていたシートの上で両手で耳をふさぎ
目をかたく閉じていた。
 そんな事をしたからといって、何も変わらないのはわかっていた。
 
             でも、今のあたしには、それしかできなかった。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第10話   「がんばれ!」
 
 それは、“戦い”などと呼べるようなものではなかった。
 トロンは自らの両手に、複雑なラインで形成されたアングルブレードを、そして背部か
ら伸びた長大な強化腕チーグルには、それぞれ巨大なこうもりの翼を連想させるフルス
トゥグフロートゥが握られていた。
 対するレスティーアの武器は一振りの長剣のみ、いくらトロンにとって初めての戦いと
はいっても、これならなんとかなるのでは? などという都合のいい考えがあたしの脳裏
をよぎったが、それがどれだけ虫のいい考えだと思い知らされるのに、さしたる時間はか
からなかった。
 まるで滑るような足取りで接近してくるレスティーアに、トロンは大きく振りかぶった
フルストゥグフロートゥを上段から加速をつけて振り下ろした。
 レスティーアは長剣を頭上にかざし受けの体勢をとった。本来ならば、フルストゥグフ
ロートゥの重量とそこから生み出されるスピードを考えた場合、レスティーアのとった行
動は自殺行為といっても言い過ぎではなかったろう。だが実際には、トロンの一撃はレ
スティーアの剣を打ち砕くことはなかった。
 フルストゥグフロートゥがレスティーアの剣に触れた瞬間、鋼の壁の如き剛の力で応え
るかと思った剣は、とたんに人知れず流れる小川のような柔の流れとなって、その強烈な
剣戟を受け流し軌道を変えてしまった。
 驚愕に彩られたトロンの表情とは対照的に、レスティーアの薄いが形のよい唇に笑みが
浮かぶ。
 そして、レスティーアの剣をもつ右手が大きくブレたように見えた。
『くっ』
 それをかわせたのは、偶然だったのか? トロンの胸元めがけて突き出された剣の切っ
先を、アングルブレードでかろうじて受け止めたトロンだったが、ブレードの刃を滑るよ
うに迫る剣の勢いを止めることはできず、そのままトロンの鎖骨のあたりを貫通する。
 トロンは激痛に顔を歪ませながら地を蹴ると、そのまま後方へとジャンプし、その反動
を利用して自身を貫いた剣をむりやり抜いてしまった。
 そして、トロンを刺し貫いたままの格好で冷たく微笑むレスティーア目掛けて、猛然と
突き進んだ。
 唸りをあげ、レスティーアめがけて同時に繰り出されたフルストゥグフロートゥを、レ
スティーアは刀身で流れを変えてしまい、アングルブレードの一撃をわずかに身体を
動かし剣の柄頭ではじき返してしまった。
 そして、銀線と化したレスティーアの剣戟がトロンに襲いかかった。とっさにチーグル
を目の前で交差させ防御するが、神速といっても過言ではないその突きの鋭さの前で
はまったく無力だった。交差させたチーグルと防御しきれなかったトロンの身体が、み
るみる無数の切り傷に覆われていく。
 トロンは全身を襲う激痛に耐え、歯を食いしばりながら目の前のレスティーアを睨みつ
けていた。
 だが、トロンの四本の腕から繰り出す攻撃はことごとく空を切り、レスティーアの攻撃
は、確実にトロンの身体を傷つけていった。
 必死になってレスティーアの攻撃を受け続けるトロンの表情には、さきほどまでレステ
ィーアをからかっていた時にみせていた余裕は微塵も感じられなかった。
 
       悲しかった。こんなにボロボロに傷ついたトロンを見るのが……
 
     悔しかった。トロンがこんなにがんばっているのに、何もできない自分が……
 
 でも、いくら耳をふさぎ、目を閉じたところで目の前の現実から逃げられるはずもなか
った。
 あたしのすぐそばで、いきなりものすごい音が聞こえた。その音の大きさにおどろいた
あたしは思わず目を開け、がくぜんとしてしまった。
「ト、トロン」
 あたしは、自分の殻へと閉じこもっていたほんの数十秒のあいだに、状況がさらに悪化
していたことにやっと気がついた。
 いつのまにかフィールドの端、つまりあたしのすぐ目の前に、レスティーアが毅然と立
っていた。
 そして彼女が無言で見下ろす先には、荒々しく息をしながら、ようやく片ひざをついて
起きあがろうとする満身創痍のトロンの姿があった。
 だが、トロンを見つめるレスティーアの瞳になぜか戸惑いのようなものが浮かんでいた
のを、全身を無数のキズにおおわれ、とっさに元の姿が思い出せないほど変わり果てた
トロンの姿に目を奪われ、あたしは気づかなかった。
 左右両方のチーグルに握られていたフルストゥグフロートゥは影も形もなく、左腕のチー
グルにいたっては、根元から無くなっていた。その鋭利な切断面からは、絶えずスパー
クが走り、内部からはトロンの荒い息づかいに合わせて、潤滑油や冷却剤らしきものが絶
え間なく噴き出している。
 そして唯一残った右のチーグルも、元の形状がわからないほど切り刻まれていた。それ
は、レスティーアの猛攻を防ぎきった代償でもあった。
 さらに、トロンの大腿部から換装された大型の脚部パーツ、サバーカも無傷では済まな
かった。関節からは白煙を吹き上げ、チーグル同様に引き裂かれ、ささくれ立ったサバー
カの装甲がレスティーアの剣技の凄まじさを物語っていた。
 そしてトロン自身も、全身に受けた傷の数はチーグルやサバーカに比べればはるかに少
なかったが、左腕は完全に機能が停止してしまったのか、だらりと下がったままピクリとも
動かない。
「トロン、大丈夫なの?」
『はぁ、はぁ。 まぁ、何とか……ね』
 大丈夫じゃないのはわかりきっているのに、こんな質問しかできないに自分に腹が立っ
たが、トロンは荒い息をはきながらも律儀にあたしの問いに答えてくれた。
「トロン……もう、やめよう」
『…………』
「もういいよ。トロンは一生懸命戦ったじゃない、充分だよ! それにあたし……これ以
上トロンが傷つくのを見たくないよ!」
 必死に語りかけるあたしに、ただ黙って耳をかたむけていたトロンの表情は、うつむき
見えなかった。
『はぁ、はぁ、まいったな。ボクとしてはこういう時は「がんばれ」って言ってくれるほ
うが、うれしいんだけど……ねッ!』
 乱れる呼吸のなか、トロンは軽く頭をふりながら自嘲気味につぶやき、最後の一言
を発すると同時にレスティーアめがけて飛びかかった。
『ふん、おろかな!』
 レスティーアは、かるく鼻をならすと、ボロボロになったチーグルとトロンの右手に握
られたアングルブレードから繰り出される攻撃を軽々とかわしてしまった。
 そして返す刀で、いとも簡単にサバーカの装甲を刺し貫いた。レスティーアの容赦ない
一撃にサバーカは機能の大半を失い、トロンはバランスを崩し転倒してしまった。
『痛っ~』
『もはや万策つき、満身創痍のきさまには万に一つの勝機もないはず。いいかげんに
観念しろ、ストラーフ!』
 転倒した拍子に、顔から倒れ込んでしまい、なみだ目で鼻を押さえるトロンにレスティ
ーアは剣を突きつけ冷たく言い放つ。
 その表情は、何度倒しても立ち上がり向かってくるトロンに対する激しい苛立ちを隠せ
ないようだった。
『……レスPがボクの立場だったら、あんな思いをして降参なんてするの?』
『なんだと?』
 あいかわらず鼻を押さえながら、金色の瞳を自分に向けて尋ねるトロンにレスティーア
が怪訝な顔をする。
『するわけないよね? だってリンは、ボクの“マスター”なんだから』
『ストラーフ……きさまは……』
 唖然とした表情でトロンを見つめるレスティーア。そして、あたしの頭に突然、あの時
トロンがつぶやいた言葉が甦った。
 
    ─── ボクにも、ガマンできる事とできない事がある。それだけの事さ ───
 
        あたしのため? あたしがバカにされたから、トロンは怒ったの?
 
 信じられなかった。自分勝手でわがままで、いつもあたしの事をバカにして、あたしの
ことなんかこれっぽっちも考えてないと思ってたのに。
 
「はは、 ほんとうにバカだな、あたしって……」
 トロンはあたしのために必死になって戦っていたのに、あたしときたら逃げることばか
り考えていた。トロンは自分を信じてって言ったのに……
 
            ホント、こんなんじゃ、トロンのマスター失格よね。
 
 あたしが自分のアホさかげんにあきれ果てたとき、トロンのつぶやいた、もう一つの言
葉が脳裏をよぎった。
 
  ── こういう時は「がんばれ」って言ってくれるほうがうれしいんだけどね ──
 
 全身に受けたダメージに、悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、なおも立ち上がろうとするト
ロンを見たとき、コンソールの上に投げ出していたインカムを手に取ると、あたしは静か
にマイクを口元に引きよせていた。
 
「……トロン、聞こえる?」
『くっ、 どうしたの、リン? ボク、今ちょっと立て込んでてね、さっきの話しだったら
家に帰ってからゆっくりと……』
「……がんばれ……」
『え?』
 また、あたしが止めにはいると思ったのか、ぶっきらぼうに答えたトロンは、あたしの
言葉に驚きの表情で振り返った。
 あたしは大きく息を吸い込むと、今のあたしにできるたった一つのことを、精一杯のエ
ールをトロンに送った。
「がんばれトロン! レスティーアなんか……やっつけちゃえ!!」
 ほんの数秒だったけど、驚愕の色をうかべた金色の瞳が、あたしを見すえていた。
そして、口元にかすかな笑みをうかべ小さくうなずくと、トロンは踵を返した。
『と、言うわけなんだ、レスP。マスターのご命令ってやつでね、悪いんだけどもう少し
ボクにつきあってよ』
『……それがきさまの答えか? ストラーフ』
 おどけたような口調で話しかけるトロンに、レスティーアは静かに問いかけた。
『あったりまえだろ? なんてったってボクは、“リンの神姫”なんだからねッ!』
 トロンは大きな声でそう吼えると、レスティーアめがけて一直線に突き進んだ。
『よかろう、ならばこれで……最後だッ!』
 残った力のすべてを右のチーグルへとそそぎこんだトロンの渾身の一撃を、再び一条
の銀光と化したレスティーアの剣が横一文字に迎え撃つ。
 本来ならば、いくらレスティーアの技量をもってしても、あの鋭いカギ爪を供えたチー
グルの貫手の一撃を止められるはずがないと思っていた。
 だが、レスティーアの剣がチーグルの爪の先端に接触しておきた一瞬の閃光のあと、
レスティーアの剣はやすやすとチーグルを両断し始めた。
 大きく弧を描きながらチーグルを上下に分断し、必殺の刃がトロンに襲いかかる。
「だめ、トロンにげて!」
 あたしの悲痛なさけびに応じたのは、一発の打撃音だった。
 それはトロンが自らの右手で、両断されたチーグルのなかほどに下から強烈な掌底突き
を放った音だった。
 この一撃でレスティーアの剣は、自ら両断していたチーグルに、逆に上下から挟み込ま
れる形になり、わずかだが刃の進むスピードが落ちてしまう。
『くっ。だ、だが、この程度では、まだ!』
 自身の剣を食い止めようとする、予想外の力に思わずレスティーアの顔が歪む。
『じゃあ、こんなのはどうかな、レスP?』
『何? ……う、うおっ!?』
 いたずらっ子が浮かべるような無邪気な顔で、自分を見つめるトロンに怪訝なまなざし
を向けた時、レスティーアの剣をにぎる両腕に猛烈な衝撃が襲う。
 それはトロンの背後でおこった小さな閃光が原因だった。
 
                    ── 強制排除 ──
 
 トロンは背部ユニットとチーグルの接続を自ら絶つと、これを意図的に廃棄してしまっ
たのだ。
『そ、そんな……馬鹿な……』
 レスティーアの剣を食い込ませたまま、猛烈ないきおいで上空へと吹き飛ばされたトロ
ンのチーグルは大きな弧を描き、くるくると回転を続けていく。
  
              『うおおぉぉおァァああアアア─────ッ!』
 
 そして、唖然としながら視線を宙へと彷徨わせるレスティーアめがけて、唯一のこった
トロンのアングルブレードが一刃の黒い風となって襲いかかった。
 
                トロンの絶叫にも似た咆哮とともに……
 
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いきなりスプラッター!?

こんばんは、初瀬那珂です。

怒涛のバトル展開・・・それにしてもレスP強いですね。

いろいろと感想はありますが、こう・・・一話一話コメントを書いていくというのも無粋な気がしてきたので、しばらくSSに関してはコメントを控えさせていただきます。

初瀬那珂 | URL | 2012-03-10(Sat)23:03 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

まぁ、レスティーアとトロンのからみがこのSSの本筋になりますので、それなりに強くないとストーリーが進みませんしね(笑)。

それとコメントの件ですが、無粋などととんでもない! とても励みになりました。
ただ、一話ごとにコメントしてると初瀬さんも大変だと思いますし、これからは時々感想なんぞをもらえればそれで充分です。

なんといっても、先はまだまだ長いですしね(笑)。

シロ | URL | 2012-03-11(Sun)20:04 [編集]


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