神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第11話

 
                        ◆
 ほんの少し前までしんと静まり返っていた店内も、今はザワザワとした空気に包まれて
いる。
 私はそっと天井に設置された大型の電光掲示板へと視線を移した。
 
              ─── WINNER レスティーア ───
 
 私は掲示板にきざまれた文字を、ただ、じっと見ていた。
 どれくらいそうしていただろうか、アクセスポッドの開閉用モーターの駆動音が、私を
現実へと引き戻した。
「おつかれさま、レスティーア」
『姫? あ、いえ……』
 アクセスポッドから出てきたレスティーアは、私の声に驚き、一瞬身体を震わせるが、
すぐに一言答えると、うつむき黙ってしまった。
 つねにゆるぎない信念と誇りが、自身の行動の指針だと言っていたレスティーアが
こんなに狼狽するのはめずらしかった。
 
               こんな態度をとる彼女を見るのは……
 
 一瞬、脳裏をよぎった半年前の出来事を、かるく頭をふって記憶のすみに追いやると
私は何も言わずにレスティーアを見つめた。
レスティーアは、鎧の胸の部分についた真新しいキズをゆっくりと指でなぞっていた。
 
この戦いが終わったら、レスティーアに伝えたいこと、聞いてほしかったことがたくさ
んあったけど、もう必要はないかな?
 
 私はそう思いながら、一ノ瀬さんたちの方へ視線を移した。
 レスティーアも、私と同じ方を黙って見ていた。
                         ◆
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
              第11話    「トロン」
 
「もう、何やってんのよ? 早く開いて!」
 もの言わぬ機械に文句を言っても、どうにもならないことは百も承知だが、それでも今
のあたしには、アクセスポッドの開く時間がたまらなくもどかしかった。
「トロン、トロン大丈夫なの? お願い返事して!」
 ようやく開いたアクセスポッドに顔をつっこむようにしてトロンに呼びかけるが、アク
セスポッドの奥のほうは暗くて何も見えず、あたしの声になんの返事もない。
「ど、どうしよう、まさか中で死んでなんかいないよね? え~と、こういう時は……そ
うだっ、JAFに電話すれば!」
『……あのねェ、そんなとこに電話しテ、どうするつもりなノ?』
「きゃっ!?」
 すっかり舞い上がり、携帯を取り出そうとしていたあたしは、いきなり後ろから聞こえ
たトロンの声に飛び上がらんばかりに驚き、アクセスポッドの方をふり向いた。
 そこには、重苦しいモーターの音とともに、フィールドから上昇してくるリフトの上に
足を投げ出し、座り込んだトロンの姿があった。
「トロン!」
 あたしはリフトに駆け寄ると、そっとトロンを抱き上げた。ボロボロだった……傷の無
い場所をさがすのが大変なくらい。
「ねぇ、トロン、本当に大丈夫なの? 身体、痛くない?」
『ダイジョーブだっテ…それよりリン……』
「ん、何?」
 とりあえず、トロンの状態に胸をなでおろしたあたしは、ようやくトロンがあたしの顔
をじっと見つめている事に気がついた。
 その顔はあたしがよく知っている、いつものねむそうな顔をしたトロンだった。
あたしはトロンの頬についた油を拭こうとハンカチを持って近づくと、トロンはふいに
あたしから視線を外しうつむいてしまった。
『ごめン、リン。 ボク……負けちゃったヨ』
「トロン」
 
 そう。あの時、トロンの渾身の攻撃はレスティーアに命中した。でも、その衝撃にレス
ティーアは大きくバランスをくずしたが、それだけではまだ彼女の鎧を貫くことはできな
かった。
 だがそれでもトロンは諦めなかった。さらに一撃をくわえようと身をひねるが、今まで
の戦闘でのダメージの蓄積に加え、限界を超えた動きを強いられたトロンの右脚のサ
バーカが悲鳴を上げ、膝関節から折れ千切れてしまったのだ。
 それでも、金色の瞳でレスティーアを睨みつけていたトロンは、体勢をくずしながらも
残った左脚で大地を蹴るとレスティーアめがけて突き進んだ。
 だけど、トロンの起死回生の攻撃がレスティーアに届くことはなかった。
 おどろくことに、レスティーアは残っていた鞘で(あとで、姫宮先輩に聞いたのだが、
レスティーアの剣は特注の品で鞘まで総て金属製なんだそうだ)トロンの決死の攻撃を
受け止めると、返す刀(いや、鞘か)でトロンに一撃を与え、残念だけどトロンのLPは、
そこでゼロになってしまった。
                   
「そんなの関係ないよ。それよりも……ありがとう、トロン」
『エッ、なんのコト?』
 あたしはじっとトロンを見つめた。開いてるんだかわからない目、しまりのない半開き
の口、それはまぎれもない、いつものトロンだった。
 
      そう、あたしの知っている……じゃあ、さっきのトロンはいったい?
 
『どうしたノ? リン』
 眉をひそめ、心配そうにあたしの顔をのぞきこむトロンと目が合ったとき、なぜかあた
しは笑いがこみ上げてきた。
 
どうでもいいことよね、そんなこと。トロンはトロンなんだから。
 
「ううん、なんでもない。 ねぇ、トロン。さっきはあたしがバカにされたと思ったから
怒ったんでしょう? だからあんなに一生懸命に戦ってくれたんだよね?」
『エッ? いヤ、ボクはさァ、たダ、ちょっとムッとしただけデ……』 
 めずらしく慌てふためくトロンは、口の中でなにかごにょごにょと言っていたが、プイ
ッと横を向くと、あたしの胸のなかに顔をうずめてしまった。
『……一ノ瀬どの』
「レスティーア?」
 いきなり名前を呼ばれ、おどろいたあたしが声のほうを向くと、いつのまにあたしの座
っていたコンソールの上にレスティーアが立っていた。
「どうしたの? レスティーア」
 あたしの問いに答えることもなく、ただじっとあたしを見つめていたレスティーアは、
いきなりあたしの前に片ひざをつくと、深々と頭を下げた。
『一ノ瀬どの、先程の非礼の数々、どうかお許しいただきたい』
「レスティーア。もういいよ。元をただせば、あたしたちの方に原因があったわけだし、
だからもう頭を上げて、ね?」
 いきなり謝りだしたレスティーアに驚いたあたしは、なんとか止めさせようとしたが、
彼女はなかなか頭を上げようとはしなかった。
「ほら、いいかげんにしなさい! もう、この件は、お・わ・り! OK?」
『一ノ瀬どの』
 歯を見せながら笑いかけるあたしに、ようやくレスティーアは頭を上げた。
 あたしを見つめるレスティーアの澄んだ蒼い瞳には、ついさきほどまで宿していた、怒
りや嘲りの色が嘘のように消えていた。
「本当にごめんなさいね、一ノ瀬さん」
 いつの間にかレスティーアの後ろに立っていた姫宮先輩はそう言うと、あたしに向かっ
て頭を下げた。
「え? ちょっと待って下さい。 な、なんで先輩が謝るんですか?」
『そ、そうです、今回の件は全て私の責任! 姫が謝罪せねばならぬ理由など……』
 先輩の突然の行動に、慌てふためくあたしたちをだまって見ていたが、やがて先輩はそ
っと首を横にふった。
「レスティーア、あなたはさっき一ノ瀬さんに、こう言ったわね。“自分の神姫をあるべ
く道に導くのがオーナーの努めだ”と……だから私は謝るの、だって私はあなたのオーナ
ー。そして、レスティーアは私にとって大切なパートナーだから」
『……姫』
 優しく微笑む姫宮先輩に、絶句して立ち尽くすレスティーア。そんな二人をだまって見
ていたあたしは、姫宮先輩の言葉を心の中でつぶやいた。

                     パートナー、か。
 
「あ、あの、一ノ瀬さん。それとトロンをなるべく早く、メンテナンスルームに連れて行
ったほうがいいと思うんだけど……」
「あ!」
 ぼ~っと、突っ立っていたあたしは、遠慮がちな先輩の言葉で我に返った。
『……あのさァ~。ボクには一言も無いワケ、レスP?』
 慌ててメンテナンスルームに向かおうとしたあたしの胸ポケットから、つまらなそうに
トロンがつぶやいた。
 思わず足を止め、胸ポケットに目をやると、トロンは眉間にシワを寄せ、ふて腐った顔
をしている。
『ふん、勝負は私の勝ちだ! きさまに頭を下げねばならぬ理由など無いわ!』
「ちょっと、レスティーア!」
 ふたたび炎を宿した碧眼でトロンを睨みつけ、憮然と言い放つレスティーアに、慌てる
姫宮先輩。
 
      一件落着かと思いきや、こちらはいまだに冷戦の真っ最中デスカ?
 
『……だが、きさまの主を想う今日の戦いは、賞賛に値する』
 あきれ果てたあたしの特大のため息は、思いもしないレスティーアの一言に引っ込んで
しまった。姫宮先輩はおろか、トロンですら呆気にとられた顔をしている。
『再び、きさまと相見える時を楽しみにしているぞ……トロン!』
 あたしたちに背を向けていたレスティーアは、初めてトロンの名を呼ぶと、きらめくブ
ロンドの髪をなびかせながら、姫宮先輩のほうに歩み去っていった。
                          ※
「これで、良しっと!」
「ふぅ」
 店長さんの明るい声に、息を呑んでいたあたしは、ようやく大きく息をはきだした。
 メンテナンスルームの中にある、神姫用の作業台の上で横たわるトロンの全身はテーピ
ングだらけだった。さすがに左腕に受けたダメージは大きく、修理にけっこう時間がかか
ったが、不思議なことにトロンの受けた剣による切りキズはほとんどが内部までは達して
はおらず、神姫の修理用につくられた特殊パテでの応急修理でいいとのことだった。
「後はパテの後処理と素体の塗装なんだが、これは一ノ瀬くんの都合のいい時に店に来て
くれればいいだろう」
「ほんとうに、ありがとうございました、店長さん」
 ぺこりと頭を下げるあたしに、馴れた手つきで工具を片付けながら店長さんは、はにか
んだような笑みを浮かべた。
「いやいや、これも私の仕事だからね……それにしても、ここまでトロンくんが善戦する
とは以外だったな」
「え?」
 ポツリともらした店長さんの言葉の意味がわからず、あたしは怪訝な顔をした。
「いや、正直な話。レスティーアくんの実力と、起動したばかりのトロンくんの状態を考
た場合、もっと短時間で決着がつくかと思ったのでね……それがここまで戦えたという事
は、やはりトロンくんの“ゆがみ”と、一ノ瀬くんの選んだCSCの相乗効果か……おも
しろい」
「あの、それってどういう意味なんですか?」
 ひとりであごに手を当てブツブツとつぶやく店長さんは、あたしの問いかけに、ハッと
してこちらを向いた。
 あたしのほうを向いた店長さんは、何故かあたしを見つめたまま口を開かなかった。
でもあたしには、不思議と店長さんの言おうとした事が、わかったような気がした。
 
君の神姫だ、君自身で考えるんだ。自分の神姫の“特性”を、と。
 
                           ※
「はぁ~」 
 人気の無くなったDO ITの店内の一角にあるソファーの上で、あたしは自販機で買
ったお茶を飲みながら一息ついていた。
「はぁ。今日は長い一日だったわねぇ。でも、やっとあんたとレスティーアの決着もつい
たことだし、これで……」
『ついてないヨ』
「え? それってどういう事? だって……」
何気なく言った一言を遮るトロンに、おどろいたあたしはテーブルの上へと目をやった。
『あのときリンは言ったよネ? 「レスティーアなんか、やっつけちゃえ!」っテ、でも
ボクはまだレスPに勝ってナイ!』
 あたしは、声も無くただ唖然としてトロンを見つめていた、あのトロンがこんなことを
考えていたなんて。
『確か二、レスPにリンをバカにされたのがガマンできなくテ、ボクは戦っタ。そしテ、
レスPはそんなボクの気持ちに気づいてくれたかラ、ボクが負けたのにリンにちゃんとあ
やまったんダ。でモ、戦いは終わったハズなの二、ボクのなかで何かがくすぶってル』
「…………」
『ボクはレスPに勝ちたイ! ……おかしいかナ、ボク?』
 そこまで一気にまくしたてたトロンだったが、あたしが笑っているのに気づくと、急に
口調が尻つぼみになっていく。
「ばかね、そんなんじゃないわ。でも以外だったなぁ~、あんたの口からそんなセリフを
聞くなんて、あんたもやっぱり神姫だったんだ?」
『……リン』
「でもね、トロン、これだけは言っとく。あたしは中途半端なヤツが大っ嫌いなの! あ
んたもそこまで言い切ったからには、最後までキッチリやり遂げなさいよ?」
『うン!』
 元気そうにうなずくトロンを見ながら、結局はまたトロンに戦いを強いるということに
あたしは複雑な気持ちだった。でもトロンはあたしのために、あんなにキズだらけになっ
て戦ってくれた。だったら今度は、あたしがトロンのために何かをしてあげる番だ。
 
              トロンはあたしのパートナーなのだから……
 
 
 あたしをじっと見上げる、トロンのねむそうな顔の瞼の奥で、あの金色の瞳があたしを
見つめているのを感じた瞬間、あたしの心は決まっていた。
 
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コメント


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やったー続ききたー!!

こんばんは。不粋な発言は避けるとして簡潔に・・・面白かったです♪続きがたのしみー!!

初瀬那珂 | URL | 2012-03-19(Mon)00:19 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

まずはストレートな感想、ありがとうございます(笑)。

とはいえ、やはり“面白い”の一言は私にとって最高の褒め言葉! この言葉を糧にこれからもがんばっていきたいと思います!!

シロ | URL | 2012-03-19(Mon)21:36 [編集]