神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ  第1話

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
 いつもの見慣れた風景が、猛スピードで後ろに流れていく。

                もどかしいな……

 路地を曲がりながら、フッとそんな考えが頭をよぎる。
 いつも通っている通学路。毎日この道を使っているのに、こんなに時間がかかるとは思わ
なかった……いや、実際にはいつもより早いペースで家に向かっているはずなんだけど。

               もう少し、急ぐかな……

 そんなあたしの考えを戒めるかのように、小脇に抱えた箱からカチャカチャと微かな音
がする。
「おっと。いけない、いけない」
 あたしは小さくつぶやくと、箱に視線を移しながらも家路を急いだ。
                   ※                  
「はぁ、はぁ。 たっ、ただいま、お母さん!」
「おかえり、隣。 あのねぇ、今日……」
「ごめん。今、急いでるんだ!」
 まだひとりで話を続けている母を尻目に、一気に階段を駆け上がり部屋に飛び込むと、
手に持っていたカバンをベッドの上に放り投げ、あたしは脇に抱え込んでいた綺麗に包装
された箱をまじまじと見つめた。
「やっと手に入れたんだ。あたしだけの『神姫』を」
 そう小さくつぶやくと、あたしは手にした箱を思い切り抱きしめた。             

                わんだふる神姫ライフ 

            第1話   「悪魔が来たりて」

「あれぇ、おっかしいなぁ、何で動かないのコレ?」
 あたしは何度繰り返したかわからなくなったセリフをまた口にすると、大きく背を反ら
した。背後で座っていた椅子が、不満をこめた軋みをあげる。
 学校から帰って、早数時間。着替えもソコソコに神姫の起動を始めたのだが、何故か机
の上の神姫はピクリとも動かない。
 あたしは、苛立ちを少しでも抑えようと乱暴に頭にツメを立てる。ただでさえ纏りの悪
いあたしの髪はさぞや凄いことになっているだろうが、今はそんな事を気にしてる余裕は
あたしには無かった。
「美佐緒のヤツに聞くのも癪だしね」
 脳裏に浮かんだ後輩の顔に、思わず頭を振る。
「……ふぅ」
 いつまでも腕を組み、眉間にシワを寄せても何の問題の解決にもならないと気づくと、
あたしは机の上に乱暴に投げ出してあったマニュアルを手に取り、何度目だか忘れたが一
から目を通しはじめた。
「えっと、まず神姫の胸のところにある、このカバーをはずしてぇ……んで、後はこの窪
みにこのCSCとかいうのをはめ込めばいいだけだよねぇ」
 そう、たったそれだけの事である。
 あまり機械には強くないあたしだったが、これなら楽勝~、と思い鼻歌まじりで作業を
開始したが、結果はご覧の通り惨憺たるモノだった。
「まさか、走ってる時にガチャガチャ振ったのがヤバかったのかなぁ?」
 あたしは帰り道の爆走を思い出し少し青ざめた。そういえば精密部品ってあんまり乱暴
に扱うと壊れるって聞いたような……いやっ、家に帰って箱を開けた時だって、あんなに
厳重に梱包されてたし、箱の中のブリスターとかいうのもあんなにしっかりと閉まってた
じゃない。
 あんまりしっかりと閉まってたもんで、ブリスターを開けた時、勢い余って中のパーツ
とかを全部ブチまけちゃったくらいだからね(もっとも、神姫だけは必死でキャッチした
から無事だったんだけど)。
「まさかあの店、不良品つかませたんじゃないでしょうね?」
 とりあえず、神姫の動かない理由=『自分』という最悪のパターンを心のなかで否定す
ると、あたしの邪念は一気にこの神姫を買った店へと移った。
「そういえば、何か怪しい感じのする人だったよね」
 あたしの記憶は数時間前、この神姫を買った店へと飛んでいた。
 確かに、あたしの対応をした店長と名乗った人の風貌は、今になって考えると何か変だ
った。ミラーグラスに隠された目、きれいに後ろに撫で付けられた髪の毛、短く刈りそろ
えられた口ひげの下にはキラリと光る白い歯。
 まぁ、それはいいにしても、やっぱりテレビとかに出てくるバーテンダーが着てるよう
なスーツに身を包んでるのはおかしいよね?

   うん、わかってる。そんなに変なら最初っから気づけよって言いたいんでしょ?

 でも、あたしの心はあの神姫に。そう、『特売品、最後の一体です!』の張り紙を張ら
れたあの神姫を見た瞬間、レジへと飛んでいたから……
 みんなも知ってるように神姫は決して安い物じゃない。そりゃあ、なかにはひとりで何
体もの神姫を持ってる人もいるらしいけど、しがない高校生のあたしには別世界の話だ。
 そんなあたしの前に半値以下まで値段を引かれた神姫がいたら。たとえそれがユーズド
品だったとしても、前から神姫が欲しくて堪らなかったあたしが飛びつくのも当然っても
んよね? 
 それに、支払いはカードでOKってことだけど、あたしの銀行の口座から拉致されてい
く諭吉さんたちの姿を思い浮かべただけで……
「それだけに絶対不良品なんて許せない!」
 確かにユーズド品にはいろんなトラブルが付き物。でも、まがりなしにも売り物として
店頭に並んだものが動かないなんて論外よ!
 断固抗議を!と意気込み、椅子から腰を浮かしかけたあたしだが、その動きは途中で止
まってしまった。
「でも、結構親身に色々教えてくれたっけ、あの店長さん」
 店の中で、神姫の入った箱を抱えたまま、血走った目で辺りを見回すあたしを優しく取
り成してくれたのは店長さんだっけ?
 さっさと支払いを済ませ帰ろうとするあたしを引きとめ、神姫が起動した後に必要なク
レイドルを始めとするパーツの類も、一つ一つ丁寧に自分で選んでくれたんだよね。
 あたしが神姫を買うのが初めてだと言うと、店で用意していたCSCをプレゼントだと
言って好きな物を選ばせてくれたのも店長さんだった。

 ただ、あたしが選んだCSCを見せた時、店長さんの口元が引きつったように見えたけ
ど、あれは何だったのかな?

「そうすると一体何が原因なワケ? ああっ、もうワケわかんな~い!」
 とりあえず、根が単純なあたしとしては、上記の理由で店長さんへの疑惑も却下された
わけだが、だからといってあたしの神姫が動き出す筈も無く、結局あたしは自分の直面す
る悩みのスタート地点に戻っただけだった。
「ほんとにどうすればいいわけ? この眠り姫はピクリとも動かなっ、んっ、アレッ?」
 悶絶しながら頭を掻きむしっていたあたしだったが、その動きは机の上に視線を向けた
時にピタリと止まった。
 しばらく机の上の神姫を黙って見つめていたあたしは、とっさに記憶の巻き戻しを始め
た。

 うん、確かにさっきまでは確かに直立不動みたいな姿勢でクレイドルと呼ばれる充電器
の上で寝てたよね。

 だけど、目の前の『ストラーフ』と呼ばれる悪魔型の神姫は、いつの間にかクレイドル
からはみ出すように、だらしなく手足を投げ出したような格好になっている。
「ひょっとして動いたの?」
 一途の希望を胸に、ストラーフに近づいたあたしの耳に微かな音が聞こえてきた。
『ZZZZZZZZZZzzz』

              え~、これってイビキ? 

 いや、待て、落ち着けあたし! 改めてストラーフの顔をまじまじと見つめると、確か
にその音は、半開きになった口から聞こえ…半開き?
 よく見ると、確かにさっきまで閉じていた口元が、今は開いている。しかも、今まさに
その口元から頬を伝わって流れ落ちているのは……
「ヨッ、ヨダレ?」
 わぁ~さすが神姫。ヨダレまで出てくるなんて何て芸が細かいんだろ~って、違う! 
そこは断じて感心する所じゃ無い!
 理由がわからずパニくっていたあたしは、とりあえず自分の胸のうちに湧き上がってき
た不安をまぎらわすために、ひとりボケ&ひとりツッコミを敢行してみたが、無論そんな
ものが問題の解決にならないことはあたしにだってわかってる。
「何これ? 神姫って起動する時って、みんなこんな感じなの?」
 絶対に違うだろうソレ、と頭の中で自分に軽いツッコミを入れながらも、あたしは恐る
恐るストラーフ近づくと、そっと指先で小さな頭を軽く突付いてみた。
『う~~~ン』
 頭を揺すられたストラーフは不満そうな声をあげると、くるりと寝返りを打ち、スヤス
ヤと寝息を立てはじめた。
「やっぱりコレって寝てるわけ? ねぇ、ちょっと、起きてよ!」
 まったく起きる気配を見せない相手に業を煮やしたあたしは、今度はストラーフの頭を
さっきより強く揺さぶった。
 しばらく揺さぶり続けたのに起きようともしないストラーフだったが、あたしのしつこ
さに根負けしたのか、薄目を開けてこちらをチラリと見た。

 どんよりと濁った……そう、たとえて言うなら、死後一週間ぐらい経過した魚のような
目と視線が合った。

           こ、これは、ひょっとして……ハズレ?

 今まで感じたことのないような、後悔という名の稲妻が背中を駆け抜ける。
 しばらく時間が止まったかのように見つめ合っていたあたしたちだったが、それにもす
ぐに飽きたのか、ストラーフはあたしに背を向け面倒くさそうに呟いた。
『う~ン、わかったよォ。あと五分したら起きるからさァ……』
「……」

                 「あと 五分じゃねーッ!!」


 その直後、推定M6クラスに及ぶあたしの魂の激震が、部屋中を震わせた。
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