神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第14話

『う~ン、これもちがうなァ』
「………」
 目の前にある、ガッシリした机の上の大小様々な箱の一つから、ねむそうな声が聞こ
えるたびに、コロンコロンと様々な形状をしたパーツが箱の中から放り投げられてくる。
あたしは暇を持て余し、その度に目の前を転がっていくパーツを横目で追っていた。
 ここはDO ITの一階の隅にある、中古やワケ有りのパーツをバラ売りしてくれるコ
―ナー。
 自分の神姫の武装や装備を自作するオーナーには、かなり人気のある場所なのだが
、そんなスキルなど皆無のあたしは、いつも遠目に眺めていただけで、ここにきたのは
初めてだったりする。
『ム~、これでもナイ!』
「ちょっとトロン! いい加減にしなさいよ、こんなに散らか……ひゃっ?」
「うふふふふふ、 せ~んぱい」
 当たり構わずパーツを投げ散らかすトロンに、いい加減腹を立て一言注意をと思ったあ
たしだったが、いきなり後ろから抱きつかれ中断せざるを得なかった。
「ちょっと美佐緒! いきなり抱きつくなって、嫌だっ、どこ触ってんのよあんたは!」
 いきなり後ろから羽交い絞めにされたが、わざわざ振り向かなくても、こんな非常識な
マネをする知り合いはひとりしかいなかった。
「あ~ん。せんぱいの、このツルンペタンぶりがなんとも……あ痛っ!」
「だれがツルンペタンよ、この大女!」
 あいかわらずの怪力で締め付けてくる美佐緒を、何とか振るほどこうとしていると努力
していると、美佐緒のやつがトレーナー越しにあたしの胸をまさぐり始めた。
 カッとなって、当てずっぽうに放った踵の一撃は、見事に美佐緒の向こうずねにヒット
したらしく、ようやく緩んだ美佐緒の手をふりほどき後ろを向くと、美佐緒は足を押さえ
てヒィヒィと言っていた。
『いいじゃないノ、ムネがぜんぜん無くったってさァ、リンにはユメとキボーがあるじゃ
っテ……うワッ?』
「うるせ───よ! バカ悪魔!」
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第14話 「ギガンティックな女 R」
 
 思わずトロンめがけて机の上にあったパーツを投げつけるが、壁にぶつかり虚しい
音をたてると、それはまたあたしの前に転がってきた。
『もゥ、ほんとうにリンはキョーボーさんだねェ、ボクはたダ、なぐさめてあげようとし
ただけなのにさァ』
「あれをどう解釈したら、慰めの言葉になるのよ?」
 トロンは、さっきから潜り込んでいた箱から顔だけ出して、口元にニヤニヤとした笑み
を浮かべながらさも楽しそうに話しかけてきた。
 あたしをからかっているのは疑いようもなく、トロンのやつを睨みつけるが、本人はケ
ロッとしてやがる。
「もう、せんぱいったら落ち着いてください。平常心、平常心」
「あたしから平常心を奪ってるヤツがエラそうに言うな! このセクハラ女子高生!!」
「え~、いくら何でもセクハラなんて言い方は酷いです。わたしはただ、せんぱいとのス
キンシップを楽しんでるだけなんですよ~」
「スキンシップじゃない! それを世間じゃあ、セクハラって言うのよっ!」
 眉をひそめ、頬をふくらませながら不満そうな顔をしている美佐緒を罵倒するが、こい
つもトロン同様まったく反省の色がみえなかった。
 
  あぁ、何かもう熱が出てきたわ。何であたしの周りってこんな変なのしかいないの?
 
 思わず机に片手をつくと、残った方の指でこめかみの辺りを揉みほぐしながら偏頭痛の
原因に視線を向けるが、トロンも美佐緒もキョトンとしているだけで、あたしの悩みなど
全く気づかないようだった。
『本当に、いい加減にするでござるよ。トロンどのに美佐緒どの!』
 
   イタ───ッ! ここにあたしの苦しみを理解してくれる存在がたったひとりだけ!
 
 そこには何故か、神姫サイズのウチの学校の制服を着ているガーネットが、腰に手を当
て机の上からトロンと美佐緒を睨みつけていた。
「あぁ~~~ん、ガ~ネットォ~~~ッ」
『え? うわっ。ど、どうしたでござるか隣どの?』
 思わず走りよって抱きしめようとしたあたしと目が合った途端、ビクッと身を竦ませ盛
大に後ずさりを始めるガーネット。
 
           あ、あたし、今そんなにヘンな顔をしてたのかな?
 
 恐怖の相を顔に浮かべながらあたしを見上げるガーネットを見て、ションボリとうな垂
れていると、我に返ったガーネットが必死に話しかけてくる。
『え、え~と、こんな所でふたりそろって何をしているのでござるか、隣どの?』
『ン~、ちょっと探しモノをねェ~』
 ガーネットの問いに答えようと顔を上げたあたしよりも早く、いつの間にか箱の中に戻
り、またゴソゴソとやっていたトロンが面倒くさそうに答えた。
『……オッ? あっタあっタ』
 やっとお目当ての物がみつかったのか、トロンは満面の笑みを浮かべながら、いくつか
の黒光りしているパーツを両手で抱え、箱の中からヨロヨロと這い出てきた。
「あらっ? それって……」
『ヴァッフェバニーの装備パーツでござるな』
 トロンが抱えているパーツと、箱のすぐ横に積み上がっていた物に気がついた美佐緒と
ガーネットが小さくつぶやいた。
 休日の朝も早くから、トロンに連れられDO ITへとやってきたのは、このヴァッフ
ェバニーとかいう兎型の神姫の装備パーツが目当てだった。
 最初はてっきり、チーグルやサバーカといったトロン自身の装備を修理して使うのかと
思ったのだが、レスティーアとの戦いの後に学校帰りにDO ITで見てもらうと、あま
りの惨状に修理不可能と診断された。
 正直、この話をすまなそうな顔をした店員さんから聞いた時、あたしは目に前が真っ暗
になったもんだ。
 失意のうちに帰路についたが、レスティーアとの再戦を丸腰で戦わせるわけにもいかず
相当の出費は覚悟しながらトロンに現状を説明した。
 でも、黙って話を聞いていたトロンの締まりのない口から出たのは、意外な言葉だった。
『まァ、いいんじゃないノ? ボクもアレはもう必要ないかなって思ってたしネ』
「そ、そうなの?」
 机の上で、相変らずノートパソコンと格闘中だったトロンは、ちらりとこっちを向きボ
ソッと呟くと、またあたしに背中を向けてしまった。
 確かにトロンは、強化腕チーグルの制御が苦手だとは言ってはいたけど、曲がりなりに
も自分の基本装備に対する愛着とか無いのだろうか? あまりのトロンのドライっぷりに
呆れもしたが、正直なところ、内心胸を撫で下ろしているとトロンが何気ない口調で話か
けてきた。
『アッ、そうそウ、代わりといってはナンなんだけどさァ、ボク、ど~しても欲しいモノ
があるんだよねェ~』
「…………」
 
 きっと砂漠かなんかで行き倒れた旅人に、一杯の水を差し出した時の悪魔も、こんな風
な声なんだろうな~、などと思いを馳せながら、あたしはトロンの背中を声も無く見つめ
ていた。
 
 トロンのヤツがどんな無理難題を押しつけてくるかと、気が気ではなかったのだが、D
O ITに着くや否や、トロンがあたしを引っぱっていったのが、冒頭に紹介したパーツ
のバラ売りのコーナーだった。
 てっきり高額な武器や装備をねだられると思い込んでいたが、トロンの選んだ物に拍子
抜けしてしまった。
 ヴァッフェバニー。この兎をモチーフにしたという神姫は、同時期に発売された神姫に
比べるとかなり軽装備であり、映画なんかにでてくる特殊部隊の隊員を彷彿とさせる出
で立ちをしていた。
「ねぇ、トロン。あんたの欲しがってたのってそれで全部なの? なんか数が少ないみた
いなんだけど」
 自分が潜り込んでいた箱の横に戦利品を積み上げ、満足そうに額の汗を拭うトロンを見
ながら、以前雑誌で見たヴァッフェバニーのパーツのリストと比べて数が少ない事にあた
しは気がついた。ヴァッフェバニーを象徴する、ウサギの耳をイメージしたゴーグルや武
器の類、それに背部に装着するリアブースターとかいうのも無いみたいだった。
『うンッ、これで充分かナ……あとはボクがなんとかするからダイジョーブ』
 さして気にする素振りもみせずに、ぺシぺシと積み上げた装備をうれしそうに叩くトロ
ン。よく見ると、トロンが集めてきたパーツは結構使い込んであるみたいで、痛んでいる
物も多かった。それに本来は黒一色で統一されているはずなのに、あちこちから掻き集
めたためか、ブーツ型の右脚などは全て赤色に塗装されていた。
「あのさぁ、ヴァッフェバニーの装備と武器ぐらいなら、あっちで売ってた新品のセット
を買ってあげられるから、それにしたら?」
 トロンの選んだ傷だらけのパーツを見ているうちに、さすがに不憫に思えてきてしまい
机の上にいるトロンの目線まで身体を屈めるとそう提案したのだが、トロンは眠そうな顔
をしながら首を横に振った。
『心配しなくってもへーキだヨ、リン。見た目ほどコイツはこわれてないからネ。それに
コレはあくまでデータ収集用に必要なだけだシ』
「データ……収集?」
 目の前の満足そうな顔のトロンを見ながら、あたしは首を傾げていた。
 
  データ収集ってどういう意味? これを使ってレスティーアとの戦うんじゃないの?
 
「……あの~、せんぱい?」
 トロンの真意がわからず、頭の中を無数の?マークが乱舞していたあたしは、美佐緒の
声で我に返った。
 慌てて振り向くと、すっかり存在を忘れ去られていた美佐緒とガーネットが困った様な
顔をしている。
「あ、ごめん。それで何か用なの、美佐緒?」
 愛想笑いを浮かべながら二人を見比べていると、美佐緒は微笑みながらこう言った。
「今度、わたしとバトルをしませんか? せんぱい!」
「……何よ。あんた、あたしと闘る気なの?」
「へ? ち、違います。わたしたちじゃなくって、ガーネットとトロンの事ですよ~」
 やっとこのセクハラ女に引導を渡せるのかと、歓喜に震えながら眼を細め、拳を軽く胸
元で構えながらニタリと笑うあたしを見て、美佐緒が慌てて両手と首を激しく振り始める。
 
                     チッ、紛らわしい!
 
『……ボクがガンちゃんト、バトル?』
 心の中で舌打ちし、地団駄ふんで悔しがっていたあたしなど気にした風もなく、怪訝な
顔でポツリとつぶやくトロン。
「ガンちゃんって……それ、ガーネットのこと?」
 顔がブレて見えるほど激しく首を立てに振り、肯定の仕種を繰り返すトロン。あたしの
視線の端で、確認の為に自分を指差していたガーネットの口元が、みるみると引き攣って
いく。
 それにしても美佐緒の言葉はトロン同様、あたしにとっても意外だった。あたしの覚え
ている限りでは、ガーネットが戦っている姿を一度も見た事はなかったし、美佐緒にして
もガーネットの服の話はしても、神姫バトルの話が話題に上ったことは皆無だった。
『実は今回の戦いは、拙者が美佐緒どのに無理を言ってお願いしたものでござる』
 お世辞にも、回転が速いとはいえないあたしの頭から、いい加減白煙が噴出すかと思わ
れた時、苦笑いを浮かべながらガーネットが話し始めた。
 事の発端は、レスティーアとトロンの一戦だった。
 あの戦いを観戦していた人たちの口伝で、DO ITに集まるオーナーやその神姫たち
の間でトロンがちょっとした話題になっているそうだ。
 負けちゃったのに? と意味がわからず眉をひそめたが、勝ち負けの問題ではなく、ま
るで戦闘経験の無いトロンが、レスティーアを相手に接近戦で長時間戦い抜いた事にみん
なの興味が集まったらしい。
 そして、実はレスティーアが、DO ITのランキングでは中堅でありながら、剣を使
った戦いではトップクラスの実力の持ち主であることをこの時になって初めて知った。
 この噂を聞いたガーネットが、美佐緒にトロンと戦わせて欲しいと懇願したそうだ。
最初は首を縦に振らなかった美佐緒だが、ガーネットの熱意に負けて最後は渋々と了承
したらしい。
 あたしはこの話に驚きながら、トロンの様子を横目で伺うと、本人はボ~ッとした表情
でガーネットを見ていた。
トロンがどんなリアクションをとるのか興味のあったあたしは、黙って様子を見ていた
が、本人はピクリとも動かない。
 あたしたちの視線に晒されてもまるで動じないトロンを訝しみそっと近づくと、その緩
みきった口元から一筋のヨダレが流れ落ちていくところだった。
 
                     「お・き・ろッ!」
 
          あたしの必殺のデコピンが、トロンの額に炸裂した。
 
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