神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第15話

『痛ったいなァ。なにすんのサ、リン!』
 額をさすりながら、どっから取り出したのか大きな十字型のばんそうこうをぺタリと額
に貼ると、トロンはあたしを睨みつけ、不満そうにそう言った。
「うるさいっ! あんたみたいな寝ぼけ悪魔には、寝覚めの一発はデコピンがお似合い
でしょう?」
『……それってさァ、デコボコのいっぱいあル、オレンジ色のヤツ?』
「それは、デコポン」
『じゃァ、トマトとかにいっぱい入ってるヤツだっケ?』
「それは、リコピンよ!」
『オッ、さすがリン、ないすツッコミ~』
「……はぁ」
 口元のよだれを手で拭いながらニヤリと笑い、親指をビシッと立てるトロン。
 デコポンやトマトの話なんかしてる場合じゃないのに、つい釣られてツッコミを入れて
しまうあたしは、骨の髄までこのバカ悪魔に蝕まれているのだろうか?
 大きなため息をつきながら、不安にかられる今日この頃だった。
 
                     わんだふる神姫ライフ
 
               第15話     「理由」
 
『……あの~、隣どの?』
「あっ、ごめん、ガーネット」
 あたしは照れ笑いを浮かべながらガーネットに向き直った。
 でも、あたしを見つめるガーネットは無言だった。彼女が何を言いたいのかは充分に
理解しているつもりだったけど、どう返答したらいいものか迷っていた。少なくともこの答
えは、一人で勝手にだしていいものではないだろうし。
「じゃあ、せんぱいのやる気をだすためにも、このバトルで賭けをしませんか?」
 どうしたものかと思案していたあたしの耳元に、いきなり美佐緒の声が聞こえ驚き振り
返ると、すぐ目の前に笑みを浮かべた美佐緒の顔があった。
「賭けって……それ、どういう意味よ?」
 あんた近いのよっ! と言わんばかりに美佐緒の顔を押し戻しながら尋ねると、そうは
いくかと、必死に抵抗しながら美佐緒が説明を始めた。
「だ、だからですね、むぐっ、このバトルの勝者に与えられる特典という事です。例えば
ガーネットが勝ったならば、ぐぅっ」
「ガ、ガーネットが勝ったら、くっ、な、なんだっていうの……よ?」
「わ、わりゃひと……おちゅきあいして……くりゃはい!」
 自分の頬にミシミシとあたしの手のひらをめり込ませながら、なおも肉迫する美佐緒を
全身全霊の力を込めて押し戻す。
 めり込んだ手のせいで、一昔前のB級ホラーにでてくるモンスターみたいな形相になり
ながらも突き進んでくる美佐緒の馬鹿力を逆手にとり、あたしはさっと身体の軸線をずら
し美佐緒をやり過ごした。
 当然、後先考えずに全力全開で向かっていた美佐緒は、あたしという身体の支えを失
いものすごい勢いでホールの床に鼻から強行着陸する事になった。
「帰るわよ、トロン!」
 焦点の定まらない顔であたしを見上げていたトロンを、ひょいと箱から摘み上げると、
レジの方へ足早に歩み去っていく。
「え~ん、待ってくださいよぉ、せんぱ~い。そこは「望むところよっ!」って言うとこ
ろですよ~」
 鼻を押さえながら、慌てて後を追ってくる美佐緒にクルリと振り向くと、あたしはこめ
かみを引き攣らせながら吐き捨てるように言い放った。
「言うわけないでしょう、馬鹿! だいたい何なのよ、その賭けって? あたしが勝った
ら何かくれるわけ?」
「万が一、トロンが勝ったその時は……」
「その時は?」
「わたしの身体……せんぱいの好きにしてくだ……あ痛っ!」
 あたしは頬を赤らめ、腰をクネクネさせながら禁断の妄想ワールドに突入した美佐緒の
脛を、無言のまま蹴飛ばしてやった。
『ヘェ~、おもしろそうじゃなイ。やろうヨ、リン!』
「じょ、冗談じゃないわよ! もしあんたが負けちゃったらどうする気なのよ?」
 腰に手を当てたまま、足を押さえながらヒィヒィと言っている美佐緒を凍てつくような
眼で見ていたあたしは、脳天気なトロンの提案に驚いてしまった。
『ダイジョーブだっテ! ボクはリンの神姫なんだヨ? リンもオーナーとして自分の神
姫を信じてヨ』
「で、でも……」
『そんなに言うんだったらボクの目を見テ、リン! これがウソを言っている者の目に見
えるノ? ………………プッ!』
「いや、そんな開いてんだか閉じてんだかわからないような目で言われてもって、あんた
今、最後のほうで『プッ』とか吹き出してない?」
 
 駄目だ。このバカ悪魔は絶対ワザと負けるに決まってる。こいつだけは信じちゃいけな
い!
 
 何がおもしろいのか、よっぽど自分のセリフがツボに入ったらしく、しゃがみ込んで身
体をプルプルと震わせているトロンに氷点下の視線を送っていたあたしの背中に、さっき
から無言のままだったガーネットが話しかけてきた。
『隣どの、先程の勝負の件でござるが、是非拙者からもお願いするでござる……無論、美
佐緒どのが言った賭けは無かった事にして、でござるが』
「え~っ? 何でぇ~、ガーネットォ~」
『何でもナニも、真剣勝負の場に賭け事など持ち込むのは不謹慎でござるよ。美佐緒どの』
 不満そうに食って掛かる美佐緒を珍しく強い口調で一喝するガーネット。美佐緒は頬を
膨らませソッポを向いてしまう。
 そんな美佐緒を、ヤレヤレといった表情で見つめながら苦笑いを浮かべていたガーネッ
トだったが、しばらくするとあたしの方に振り返る。
『で、如何でござるか、隣どの?』
 真摯な光を宿した瞳であたしを見つめるガーネット。彼女がなぜトロンとの戦いに固執
するのかその理由はわからなかったが、ここまでガーネットが望むのなら、あたしとして
は断る必要を感じなかった。
 
                  あとは、本人次第なんだけどね……
 
 そう考えながらトロンに視線を移すと、相変らずプルプルと身体を震わせながらしゃが
み込んでいたトロンだったが、呼吸困難に陥りながらもあたしの方に向かって親指を立て
ていた。
「……ふぅ。OKだって、ガーネット」
『本当でござるか? 隣どの!』
 小さなため息をつきながらふたりの戦いを了承すると、あたしとは対照的に明るい表情
をみせるガーネット。
 
      こんなにうれしそうな彼女を見れたのが、せめてもの救いなのかな?
 
 しばらくそんなガーネットを見つめていたが、意を決するように小さく頷くと机の上の
彼女の前に屈んだ。そしてあたしは真正面からガーネットの瞳を見据えながら、以前から
心に決めていて事を話し始めた。
「あのね、ガーネット。実はあたしからもひとつだけお願いがあるんだけど……」
                           ※
「はぁ。ずいぶんと帰りが遅くなっちゃったな~」
 薄闇に包まれ、人気のない通りをポツリポツリと点在する街路灯が、儚げなくあたしの
影を地面へと写しだしていた。
 あの後、ガーネットとトロンのバトルの予定などを美佐緒と話し合っていたら、すっか
帰りがおそくなってしまい、あたしは夜のとばりの下りるなか足早に家路を急いでいた。
『……ねェ、リン』
 肩から下げていたバッグから眠たげなトロンの声が聞こえてきた。あたしは歩調を変え
ることもなく、何気ない口調でトロンに答えた。
「ん、何?」
『どーしてあんなこと言ったノ?』
「なんの事よ?」
『さっき、ガンちゃんに言ってたことだヨ』
「…………」
 あたしはその言葉を聞くと道のまんなかで、ピタリと立ち止まってしまった。
バッグに視線を移すと、トロンが首だけ出したまま、こっちを見上げている。
 さっきまでとはうって変わった静かな口調のトロンに、あたしは何も言えなくなってし
まった。
 
    トロンの気持ちはあたしにもよくわかる。あたしだって立場が同じだったら、きっと
困惑してしまったはずだから……
                            ※      
『バーチャルバトルで……で、ござるか、隣どの?』
「うん」
 真顔でうなずくあたしを、キョトンとした顔で見つめていた美佐緒とガーネットだった
が、美佐緒が小さくうなずくのを見ると、ガーネットはあたしの提案を快諾してくれた。
『拙者はトロンどのと戦えるのであれば、別にかまわないでござるよ』
 微笑みながらそう答えてくれたガーネット。美佐緒も気を利かせてくれたのか、何も聞
いてこなかったけど、トロンまでもがいっさい理由を尋ねてこなかったのは意外だと思っ
ていたけど……やっぱり気になるよね。
 
 自分の容姿にコンプレックスを持っているあたしは、美佐緒のような存在を別にすれば、
なかなか他の人に素直に自分の心を開くことができなかった。
 
         “何でも気兼ねなく話し合える、友達のような存在が欲しい”
 
 それが、あたしが神姫を欲しいと思った理由だった。こんな話、とてもトロンのヤツに
は言えないけどね……
 
 だから、もともと自分の神姫に戦いなどさせるつもりはなかったあたしには、成り行き
上のこととはいえ、レスティーアとトロンのリアルバトルはかなりショッキングな出来事
だった。
 例え、それがオーナーと神姫の同意の上のこととは言っても、あたしたち人間の暴力へ
の欲望の身代わりとして戦わせているようで、見ているのが辛かった。
 もちろん、今回みたいにリアルバトルをバーチャルバトルに変える事が、なんの問題の
解決にならない事はあたしにだってわかっている。
 そして、リアルバトルを否定してるくせに、トロンがレスティーアに勝ってほしいと、
あたしの勝気な部分が願っているのも否定しようの無い事実だった。
 自分自身のエゴと、そんな自分に対する嫌悪感が頭の中を交錯し、とてもトロンに上手
く説明する自信のないあたしは言葉に詰まってしまった。
 しばらく、何とも居心地の悪い無言の間が続いたが、そんなあたしの心を見透かしたの
かトロンが間延びした口調で話しかけてきた。
『……べつ二、リンが気にするコトないんじゃないかナ?』
「それってどういう意味よ?」
『つまりサ、あくまで戦うのはボクたち神姫ってコト、リンがそんなこと気にしたってど
うにもならないんじゃないノ?』
 あたしはギクリとしながらトロンの方に視線を向けた。相変らずバッグの中から顔だけ
だしていたトロンだったが、毎度のことながら、コイツあたしの心が読めるのか? と驚
きを隠せなかった。
 でもそんなことより、トロンの一言は溜めに溜め込めこんでいたあたの感情に火をつけ
るのに充分だった。
「ば、馬鹿にしないでよね! あたしはあんたのオーナーなのよ? そんな無責任な真似
ができるわけないでしょう?」
『……ボクみたいに生意気デ、かわいげのカケラもなくテ、いっつも寝惚けてテ、リンを
からかってばかりいル、ボクみたいな神姫でモ?』
「あたりまえでしょう? あんたみたいに生意気で、可愛げの欠片もなくて、いつも寝ぼ
けてて、あたしのことをからかってばかりいるあんたみたいな神姫でも、よっ! いい?
トロン! あんたがあたしの神姫であるかぎり、もう絶対にあんたにリアルバトルはさせ
ないからねっ! わかった?」
 止め処も無く口をついてくる言葉を一気にまくし立てると、あたしは息継ぎのために大
きく息を吸い込んだ。トロンはあたしの声が聞こえているのかまるで判断がつかなかった
が、しまりのない顔で黙ってバッグの中からあたしの顔を見上げていた。
 そして、そんなトロンを見て、あたしはようやく我に返った。
「ごめん、大きな声を出しちゃって……でも、もうあたし見たくないの。トロンが戦って
あんなに傷つく姿を……」
『……ふぅ~ン。そっカ……わかったヨ、リン』
「へ?」
 てっきり反論してくるかと思ったトロンが、あっさりとあたしの言葉に従ったために、
拍子抜けしてしまい、何とも間の抜けた返答をしていた。
「本当にそれでいいの、トロン?」
『うン。リアルでもバーチャルでもボクはちっともかまわないヨ。リンといっしょに戦え
るならネ』
「トロン……」
『さッ、もうおそいし帰ろうヨ。ボク、なんだかねむくなってきたしネ』
「う、うん」
 思いもしなかったトロンの言葉に声をなくしたあたしだったが、大きなあくびをしなが
らバッグの中に潜り込んでいくトロンの声に、促されるように駅への道を急ぎ始めた。
『……リン』
 しばらく歩いていると、あたしの歩調のあわせてユサユサとゆれるバッグの中からトロ
ンのつぶやくような声がした。
「どうしたのよ?」
『……ありがとウ……』
「えっ?」
 
 いきなり聞こえた微かなトロンの声に、驚き立ち止まったあたしはバッグへと視線を移
したが、いくら耳をすませても聞こえてくるのはトロンのいびきだけだった。
 
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