神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第16話

「はあ、はあ、やっば~。こりゃあ完全に遅刻ね」
 走りながらポケットから携帯を取り出し、表示された時間を横目で確認すると顔をしか
めた。美佐緒との約束の時間はかなり過ぎてしまっている。
『う~ン、だるいヨ~、つかれたヨ~』
「なんで一日中寝てただけのあんたが、そんなに疲れるのよ?」
 猛スピードで後ろに流れていく風景に目もくれず、あたしは胸ポケットから顔だけ出し、
ブツブツとつぶやき続ける遅刻の原因を一喝した。
『むゥ、やっぱり寝疲れかなァ~』
「ふふふ、トロン。なんだったらあんた、このままトコシエの眠りについてみる?」
『ン~、今回は遠慮しとくヨ』
 自分でもはっきりとわかるほど引き攣った顔で話しかけるが、トロンはさして気に素振
りもみせず、しれっと答える。
 あたしはトロンを睨みつけたまま、最後の角を曲がると目の前に見えるDO ITに、
頭から全力で突っ込んだ。
 自動ドアをくぐりぬけ猛然と突き進むあたしに、驚いた顔で慌てて道を開ける他のお客
さんや店員さんに心の中で謝りながらも眼前のエスカレーターへと急ぐ。
「  よっ!! 」
「きゃっ!?」
 エスカレーターまであと少しというところで、いきなり背中に殴られたような衝撃を受
け、危うく転びそうになってしまった。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第16話   「テケリ・リ!」
 
「なっ、何なんですか、あなたは? あぶないじゃないです……か」
 必死にエスカレーターの手摺りにしがみつき、背中の痛みに耐えながら振り向き背後
の人影を睨みつけたのだが、あたしの抗議の声は途中で止まってしまった。
 唖然としながら見つめたその人は、美佐緒ほどではないものの180センチはあるので
はないかとおもえるほどの巨躯をもつ男の人だった。
 しかし身長こそ同じくらいでも、薄手のシャツの下からでもはっきりとわかる筋肉は圧
倒的な迫力があり、ありきたりな言い方をさせてもらえばまるで肉の壁みたいだった。
 ポカンと口を開けたまま、さらに視線を上に向けると、どこかの山から切り出してきた
岩を荒々しく削りだしたような顔があたしを見おろしていた。
「悪ぃ。そんなに力を入れたつもりはなかったんだけどよ。ケガ、なかったか?」
 あたしはしばらくその大男を無言で睨みつけていたが、困ったように頭を搔く男の仕草
に、妙な愛嬌を感じて少しだけ溜飲が下がった思いだった。
「もう少し力の加減をしてください! それと、あたしに何か用でもあるんですか?」
 本来なら時間もないし、すぐにでも美佐緒とガーネットの待つ二階に行きたかったけど
目の前の男の人の態度にひっかかるものを感じて一応用件を聞いてみた。
「お? おお、それなんだけどよ。あんたなんだろう? レスティーアをコケにしたスト
ラーフのオーナーってのはよ」
「え?」
 あたしの剣幕にどう切り出していいのか迷っていたのだろうか、割れ鐘を叩いたような
声で堰を切ったように話し始めた男に、あたしは圧倒されてしまった。
 
            ストラーフって、やっぱりトロンのことよね?
 
 胸ポケットに視線を向けると、なぜかトロンはぷるぷると身体を震わせながら、男の人
を見上げていた。
『テ、テケリ・リ! テケリ・リ!』
「?」
 いきりなり身振り手振りを交えながら意味不明の言葉をしゃべり始めたトロンに、あた
しは眉をひそめる。
「あんた、何やってんのよ?」
『いヤ、なんかショゴスみたいなカオしてるかラ、このほうがコミニュケーションとれる
かなァ~、と思っテ』
「ショゴス? 何ソレ?」
『まァ、一説のよるト、リンたち人間のご先祖さまかもしれない存在かナ?』
 あたしは無言で、眼前にそびえたつ人間山脈を見上げた。
 あたしも人様のことをどうこう言える容姿じゃないけど、悪相といってもいい感じの男
の人の顔をまじまじと見ながら、この人がご先祖様なのはちょっとイヤかな~、などと
失礼なことを考えてしまった。
 
と言うか、コミュ二ケーションってこの人、最初っから日本語を話してるのに……
 
「あのよぉ。話、続けていいか?」
「え? ハイッ、どうぞお続けになってください!」
 困り果てたような顔をした男の人の声に我に返ったあたしは、慌てて作り笑いを浮かべ
ると、妙な日本語で話を続けるようにうながした。
「俺は、桜庭美雪っていうんだけどよ……」
「み、みゆき?」
 度々話のコシを折ってたいへん申しわけなかったんだけど、あまりにギャップの激しい
名前に思わず聞き返してしまった。
「おう! 美しい雪と書いて美雪だ。よろしくな」
 なんか得意そうに背をそらして答える桜庭さんには申しわけないんだけど、あたしの率
直な感想は、似合わね─ッ、だった。
「あたしは一ノ瀬と言います。確かにあたしはトロンのオーナーですけど、それと桜庭さ
んの用件と、どういう関係があるんですか?」
 散々話のコシを折りまくったのはこっちのほうだけど、なかなか繋がらない内容に首を
傾げながら、あたしは桜庭さんに問いただす。
「それなんだけどよ。これから俺とバトルしねぇかい? 一ノ瀬ちゃん」
「へ? バトル?」
 ようやく話が本筋に戻ったことが、よほどうれしかったのか桜庭さんは顔中の筋肉をめくり
上げるような顔をした。多分、笑ったんだろうけど正直いってすごい迫力だった。きっと人食
い虎が笑うと、こんな感じなんじゃないかな。
「あの、すみません桜庭さん。あたしたちこれからバトルの約束があって、今日は無理な
んです」
「え? そうなのか……そりゃあ残念だな」
 あたしの答えにがっくりと肩を落とす桜庭さん。きっと根は素直な人なんだろう。あた
しの態度に、いちいち一喜一憂する姿に笑いをかみ殺すのに苦労した。
 あたしはシュンとしてしまっている桜庭さんが少しかわいそうになってしまい、そっと
目線を胸ポケットに移してみる。トロンはねむそうな顔であたしを見上げていたが視線が
合うと小さくうなずいた。
「でも、日を改めてもらえるなら、あたしたちは別に構いませんよ?」
「ほ、本当か、一ノ瀬ちゃん! おおっ?」
 うれしさのあまりか、こっちにめがけて突進してくる桜庭さんに、あたしの身体はつい
反射的に動いてしまった。
 あたしが我に帰ったのは、桜庭さんを今まさに背負い投げで投げ飛ばそうとしている最中
だった。
 
あっ、今のキャンセル!
 
 そう思った時には手遅れで、キョトンとした顔で肩越しに逆さに通り過ぎていく桜庭さんに、
あたしはただ引き攣った笑みを送るしかなかった。
                            ※
「本当にすみませんでしたっ!」
 地響きを立てて床に叩きつけられ、腰に手を当てうめいている桜庭さんに、あたしは平謝り
に謝った。
「痛つつっ。いきなりじゃないかよ、一ノ瀬ちゃん。それにしてもタイミングといい技のキレと
いい、あんた武術でもやってんのかい?」
「えっ? ええ、少しだけ……」
 顔をしかめながら尋ねる桜庭さんに、あたしはしどろもどろに答える。
『フッ、あまいなショゴス。“熊殺しのリン”といえバ、このあたりじャ、赤ん坊でも知っテ……
OGWAAAAA!』
 あたしは無言で胸ポケットを鷲づかみにすると、力任せに締め上げた。手のひらに伝わ
る断末魔の痙攣を楽しんでいるあたしを見て、桜庭さんがいぶかしげな顔をする。
「なるほどな。しかしオーナーのあんたがこれほどの腕なら、そっちのおチビさんがレス
ティーア相手にいい勝負やったってのもうなずけるぜ。」
 ひとりで納得したように何度もうなずく桜庭さん。あの戦いの時は、まだトロンはあた
しから合気道を習ってはおらず、レスティーアとまがりなりにも渡り合えたのはトロン自
身の実力なのだが、これ以上話がややこしくなるのもいやだったのであえて黙っておくこ
とにした。
「それにしても、これから一戦やるって話だが、相手はどこのどいつだい?」
「相手ですか? ガーネットですけど」
 苦痛に顔を歪めながら尋ねてきた桜庭さんに何気なく答えると、立ち上がりかけていた
桜庭さんが急にあたしのほうに振り向いた。
 その形相に、こんどこそ襲ってくる気か? と思わず身構えるが、桜庭さんはしばらく
唖然とした顔でいたが、ようやく口をひらいた。
「あ、あんた。あの“刃狼”と闘ろうっていうのかい?」
「じんろう?」
 聞きなれない名前に、首を傾げるあたしを見下ろしていた桜庭さんの喉が大きく動く。
「ああ、ガーネットの二つ名さ。めったに戦わないんでランクも下位の方だが、距離を詰
めての戦いならば、間違いなくこの店で最強だぜ。なんてったってあのレスティーアでさ
え負けちまったぐらいだからな」
「う、うそ? だってガーネットが戦うとこなんて一度も見たことないし、“コスプレ侍”
なんて呼ばれてるから、あたしてっきり……」
「まあ、自分の気に入った相手としか戦わねえからガーネットの実力を知ってるやつはそ
んなに多くはねえが、あいつのことをそんな妙な名前で呼ぶやつは、間違いなく何も知ら
ねぇ新参者だろうよ」
 
     すみません。あたしも思いっきり新参者なもんで、何も知りませんでした……
 
 桜庭さんはガーネットの武勇伝を延々と語っていたようだが、真っ白なカタマリと化し
たあたしの耳には一切とどいていなかった。
 ガーネットと知り合ったのは、かなり昔のことだが一度たりとも彼女が戦っているとこ
ろを見たことがなかったあたしは、ガーネットが“刃狼”なんていう二つ名で呼ばれる存
在だったなんて初耳だった。
 だいたい、子供のころから実の姉のように美佐緒の世話ばかり焼いていた彼女の姿
からは、とても想像できないことだった。
「あれ? そういえばガーネットって……」
 思いもしなかった彼女の一面を知って、驚きを隠せなかったあたしだが、ここである疑
問が頭をよぎった。いや、ガーネットの実力の話じゃないんだけど。
『あ、あのさァ…リン。そ、そろそロ……じ、じかン…』
「時間? ……オー マイ ガッ! やばい! 完全に忘れてた!!」
 いまだにつかみつづけていた手のひらの中から、ピクピクと震える感触とともに、息も
絶え絶えのトロンの声が答えのでないあたしの思考を中断させた。
「すみません桜庭さん、あたしたち急いでるんで今日はこれで失礼します!」
 まだひとりで話し続けている桜庭さんをその場に残し、あたしは大慌てで二階のフロア
ーへと続くエスカレーターを駆け上った。
 
              美佐緒とガーネットの待つ、戦場へと向かって……
 
 
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