神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第18話

「だめっ! トロン後退って!!」
『え? うわっ!?』
 あたしはインカムのマイクに向かって、声の限りを尽くして叫んだ。
 悲痛さをふくんだ叫びと同時に上がったトロンの驚きの声は、あたしの大声に反応した
ものではなく、いきなり自分の目の前にあらわれたガーネットに対してのものだったと思
う。
 それは信じられない光景だった。トロンとガーネットの間には、人間のサイズでいえば
数メートルにも及ぶ距離があったというのに、ガーネットは文字通り一足飛びにトロンと
の間合いを詰めてしまったのだ。
 そして次の瞬間、軽く刀の柄に手を触れていたガーネットの右腕が一条の銀線と化し、
トロンの首元めがけて弧を描いた。
 それでもトロンが襲いかかる凶刃をかろうじて避けられたのは、あたしの「後退って」
の声が終わる前に行動を起こせた、トロン自身の特性である反射神経の高さゆえのこと
だろう。
 トロンの右頬をかすめた銀光は、その淡いブルーの前髪を数本宙に舞わせると、忽然と
その姿を消してしまった。
「そんな、これって……居合い?」
 
                    わんだふる神姫らいふ
 
              第18話   「刃狼 そのに」
 
『あ~、びっくりした……で、「イアイ」って一体なんなのリン?』
 ウサギをモチーフにしたというヴァッフェヴァニー。その脚部パーツであるクレイグの性能
もあったのだろうが、数十センチも後ろに跳び退ったトロンはあたしのつぶやきを聞いて
いたのか、切り裂かれた右頬に指を当てながらそう聞いてきた。
 あたしはトロンの頬から流れる、オイルだか潤滑剤の類が赤い色をしているのを見て眉
をひそめた。
 
なんで、わざわざ血の色と同じにする必要があるわけ?
 
 あたしは、神姫を世に生み出した人たちの悪趣味に気分が悪くなった。
『あのさ~、聞いてる、リン?』
「あ、ごめん」
 トロンの頬のキズに気をとられていたあたしは、無視でもされたと思ったのか、少し不
機嫌そうな感じで尋ねてきたトロンの声に我に返った。
『リンの都合がよろしければ、その「イアイ」とかいうヤツの説明かなんかしていただけ
ると、ボクとしては大変ありがたいんでございますけどね?』
 まだふて腐れているのか、嫌味をたっぷりとふくみながら問いかけてくるトロンにムッ
としたが、実際それは難しい話だろう。
 
         第一、そんな悠長なことしていたら、それこそガーネットが……
 
 あたしはそこまで考えて、ようやくガーネットがいっさいの追撃に移ってないことに気
がついた。
 慌てて振り向くと、さきほど抜刀した位置から一歩も動かずあたしを見つめるガーネッ
トの姿があった。その澄んだ黒瞳は、まるでトロンへの説明をうながしているようにみえ
た。
「こほん。あんまり時間なさそうだから手短にいくわよ? 居合いというのは江戸時代の
武士たちがとっさに襲われた時に、鞘に収めた刀を素早く抜き放ってその攻撃に応じる
という護身用の剣術の一種なのよ」
『護身? ボクに襲いかかってきたのはガンちゃんのほうだよ?』
 納得いかん! という表情でガーネットを指差すトロンに、当人であるガーネットが二
ガ笑いを浮かべている。
「まぁ、その時々に合わせて形を変えていくのは武術も同じだしね。それに乱暴な言い
方をしてしまえば“抜いて・斬って・収める”という居合いの基本動作さえ守っていれば、
あとは本人の工夫しだいだしね」
 いまだに釈然としないトロンの顔を見つめるあたしの口元も、きっとガーネットのもの
と同じ形をしていたことだろう。
 祖となる形はひとつでも、いずれそこから無数の流派に分かれ、その数だけ独自の
技が生まれていく。
 
 あたしが習った武術だって、それを教えたおじいちゃんとあたしの筋力や体格の差から
結果としてそのまま使うことができず、あたしも自分のものとするために随分と苦労を強
いられたものだった。でもそれを、まだ経験の浅いトロンに理解しろというほうが無理な
話だろう。
 
「とにかく、居合いの真髄は相手の攻撃に合わせて最小の動作からなる、カウンター攻撃
みたいなもんよ。そのスピードこそ脅威だけど、逆を言えばその軌道は単調になりやすい
の、そこらへんを頭に叩き込んでおけばまだ勝機はあるわ」
『なるほどね』
 あごに手を当て考えこむトロンに、腕を組んだまま黙って見つめていたガーネットが静
かに語りかける。
『急くようで申しわけないが、今の隣どのの説明で、居合いのことを理解してもらったで
ござるかな、トロンどの?』
『まっ、だいたいね』
『それは重畳。では、戦いを再開するでござるか、ん?』
 満足そうに微笑みながら、刀の柄に手をかけたガーネットの顔がわずかに曇る。
 突然トロンは、自分の右隣にあった石柱の背後に隠れてしまったのだ。あたしの反対側
にあるコンソールに腰をおろしていた美佐緒が「あ~、トロンの卑怯者~」とか文句を言
いながら頬をふくらませていたが、あたしはトロンの行動に満足していた。
 居合いはその特殊な性質から、その攻撃はどうしても直線的になりやすい。周りに無数
に林立する石柱を盾にするのは、もっともベストの対応だろう。
『なるほど、考えたでござるな』
 ガーネットを囲むように屹立する石柱の後ろを、素早い動きで移動するトロンを目で追
ながらも、その少し肉厚な唇に微笑みを浮かべるガーネット。
 だが、ただ立ち尽くしているだけに見えるその姿には、まるで隙がみあたらず、トロン
も攻撃の機会を見出せないようだった。
『くそっ』
 あまりに動きのない展開に業を煮やしたのか、ガーネットの真後ろにあった石柱の影か
らトロンは飛び出すと、間合いを詰めるべく一気にガーネットに走りよった。
 だがガーネットは、すぐそばまでトロンが急速に接近しているにもかかわらず、気にし
た様子もみせずトロンが近づくにまかせている。
 その姿に違和感を感じながらも、手にしたナイフを振りかざしガーネットに肉迫するト
ロンの眼前で、いきなり黒いものがトロンの視界いっぱいに広がった。
 悪魔の翼を思わせるソレが、ガーネットが身に纏っていたゴシックドレスのスカートだ
と気づいたときには、ノーモーションで放たれた後ろ蹴りが絶妙のタイミングでトロンの
腹部に吸い込まれていく。
『ぐふっ!?』
 カウンター気味に炸裂したガーネットの蹴りを受け、大きくバランスをくずしたトロン
に、息をつく間もなく振り向きざまに放たれたガーネットの剣戟が襲いかかる。
 だがトロンはなんとか踏み止まると、渾身の力を足に込め地を蹴り、そのままガーネッ
トに向かって跳びかかった。
 トロンめがけて唸りをあげ、突き進むガーネットの刀の中程が、トロンの首筋に食い込
む。
 自殺行為にも等しい行為にみえるかもしれないが、あたしは内心、トロンの行動に舌を
まいていた。
 全てに当てはまるわけじゃないけど、相手の攻撃に呼応して反撃する居合いも、その破
壊力を左右するのは基本的には他の剣術と同様、相手に刃が到達するまでにいかにその
速度を上げられるかにかかっている。
 鞘から刃を抜き放ち、その時生じる遠心力によって速さを高める居合いにとっても、最
も威力があるのは外周にあたる刀の先端部分だ。
 もはや回避も間に合わないと悟ったトロンは、直感によるものかはわからないけど、刃
先による一撃という最悪の事態を避けるために、あえてガーネット懐に向かって行ったの
だろう。
 トロンの装備しているヴァッフェバニーのアーマーは、首元をカバーするためか襟の部
分が大きく張り出すような形状をしているが、そのおかげでガーネットの一撃は完全に致
命傷をあたえることができず、トロンは苦痛に顔を歪ませながらも一直線にガーネットめ
がけて突き進む。
 自分のすぐ目の前に迫りながらも攻撃する様子もみせないトロンに、さすがのガーネッ
トも動揺しているのは、彼女の表情からも見てとれた。
 刀をにぎるガーネットの力がわずかにゆるむ。その一瞬の隙にトロンは肉薄すると、ガ
ーネットの眼前でくいっと顔をあげ、そのまま頭をガーネットの鼻めがけて叩き込んだ。
『くっ!?』
 思いもしないトロンの反撃に、今度はガーネットがバランスを崩す。だが今までのダメ
ージが重なったのか、トロンはガクリと地面に膝をついてしまう。
 これを好機とみたガーネットは、体勢を整えながら刀の柄に手を添えたが、なぜかハッ
とした顔で自分の右手を見るといきなり後方に跳躍してしまった。
 突然のガーネットの行動に、あたしはおろか、痛みに顔をしかめていたトロンでさえ怪
訝な表情をみせる。
「どうしたの、ガーネット? まさか……」
『なんでもないでござるよ、美佐緒どの。久しぶりの戦いに、少々緊張したようでござる』
 何か思い当たることがあるのか、眉をひそめ心配そうに顔を曇らせる美佐緒に、慌てた
ように手を振りながら屈託の無い笑顔でガーネットが答える。美佐緒は、その様子に胸を
なでおろしているようだった。
『ふぅ。とどめをさそうと思えばいつでもできただろうに、随分と余裕だね、ガンちゃん。
それともボクに情けをかけてくれてるのかな?』
 首筋を片手で押さえながらようやく立ち上がったトロンは、今のガーネットの不可解な
行動に身体だけではなくプライドも傷つけられたのか、不満そうな声で眼前のガーネット
を睨みつけている。
『いや、そんなつもりは毛頭なかったのでござるが……トロンどのが不快に感じたという
のならば、それは拙者の落ち度、申しわけなかったでござる』
 深々と頭を下げるガーネットをジト目で見ていたトロンだが、彼女の潔い態度に納得し
たようだった。
『ま、それならいいんだけどね。じゃあ、そろそろ続きといこうか?』
「ちょっと待って、トロン! あんた傷のほうは平気なの?」
『平気じゃないけど、まだ闘れるよ』
 平然とバトルを再開しようとするトロンにあたしは慌てて通信を入れると、トロンは首
を押さえながら何事もなかったように答えるが、威力を半減できたとはいえ指の隙間か
ら漏れる赤い液体がアーマーを赤く染めていくのを見ても、トロンの受けたダメージは
決して軽くはないはずだった。
『……リン、聞こえる?』
「え? うん、聞こえてるよ。どうしたの?」
 太腿のアーマーについているポケットから布のようなものを取り出し、首にきつく巻き
つけながら、妙に小さな声でトロンが話しかけてくる。思わずあたしも声をひそめてトロ
ンに答えていた。
『リン、アイテムカードは持ってきてるよね? W─4を用意しておいてほしいんだ』
「W─4?」
 あいかわらず声を抑えながらヒソヒソと話を続けるトロンに、あたしは眉をひそめた。
 アイテムカードというのは、戦闘の際に追加で使用できるアイテムのことだった。バト
ルごとに使用できるポイントが決まっているため、それほど強力なものは使えないけど
戦術に幅ができるため、軽視できないものだったりする。
 ちなみに、Wはウェポンの頭文字だったりするんだけど、いつもは追加のアイテムなん
かに興味を示さないトロンが自分から求めてくるなんて、それだけガーネットは強敵とい
うことなんだろう。
『タイミングはボクが指示するから、よろしく頼むよ』
「う、うん、わかった」
『さて、打ち合わせは終わったでござるか? トロンどの』
 あたしたちが息を潜めて話し合っている間も、腕を組みながら黙ってそれを見ていたガ
ーネットだったが、話が終わったとみたのか静かに話しかけてきた。
 かなり小声での話をしていたのに、ガーネットにはしっかりと聞こえていたようだった。
 ガーネットの耳の良さに小さく舌打ちするトロンだったが、気を取り直したたのか、明
るい声で答える。
『まあね。じゃあ、第二ラウンドを始めよっか?』
「待って! トロン」
『ん、何?』
 ガーネットに向かって、ダメージを感じさせない滑らかな動きで距離を詰め始めたトロ
ンは、あたしの声に歩みを止めると不思議そうに尋ねてくる。
「あんたも気づいてるだろうけど、ガーネットは剣術だけじゃなく体術もかなりの使い手
みたいだから、まずは距離を開けて様子を伺い、隙を見て反撃に移る。受けたダメージも
あんたのほうが大きいんだから、くれぐれも無茶は禁物よ。いい?」
『OK!』
 あたしが一気に捲くし立てるのを黙って聞いていたトロンは、小さくうなずくとガーネ
ットのほうに踵を返し、全力で向かって行った。
 
……って、トロン。あんた、人の話聞いてたの?
 
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コメント


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お~ガーネットさんは、居合い使いでしたか~
しかし、シロさんの事、単なる居合い使いで終わるとは思えませんし、続きがどうなるか楽しみです。

そんな事で、前回の時に私が予想した事に関して言うてみたり。
太刀の長さが違う事と二刀という事で、普通の太刀や大太刀ではなく、小太刀二刀を想像して、刃狼という事だったので、元々は防御重視である小太刀二刀を攻撃型に変えた物かな~と思いました。
まぁ、頭に浮かびやすい物としては、るろうに剣心に出て来る忍者でしょうかね。
あれが攻撃型小太刀二刀と言えるでしょうなぁ。

さて、ダメージを受けたトロンがどの様な反撃をするか楽しみにさせてもらいま~す。

ASUR・A | URL | 2012-05-06(Sun)22:36 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

単なる居合使いで終わるとは……え? ええ、まあ。アレですね。あまり過度の期待をしないほうが、ガッカリ感が少ないとだけ申し上げておきます(汗)。

小太刀二刀。御庭番衆のあの人ですね? 確かに軽装の(実際は動きづらいですが……)ガーネットには、小太刀のような武器の方が、より速さに長けた戦いができたかもしれませんね。

私も、蒼紫の小太刀二刀流は好きでしたが、この話を書いていた当時は、るろ剣のことをすっかり忘れてました(笑)。

あまり大した盛り上りを見せないかもしれませんが、次回もおたのしみに!

シロ | URL | 2012-05-07(Mon)23:11 [編集]


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