神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第19話

 一直線に突き進んでくるトロンを見ると、ガーネットは微かに微笑み、左手で鞘を握り
しめ右手を刀の柄にそっと置く。
『ハッ!!』
 ガーネットは、トロンが自身の間合いに入るや、裂帛の気合と共に刀を抜き放つ。銀光
と化した刀身は狙いたがわずトロンの首筋へと吸い込まれていく。
 だが、必殺の闘志を込めたガーネットの一撃は、トロンに届くことはなかった。トロン
は刀身が鞘から抜かれるや否や、いきなり横に飛び退ったのだ。弧を描きながら襲いか
かるガーネットの剣戟は、むなしく空を切り裂いただけだった。
 あたしはトロンのとった行動に唖然としていた。たった二回の攻撃でトロンは居合いの
何たるかを理解してしまったのだろうか? あたしは今更ながらトロンの学習能力の高さ
に驚きを隠せなかった。だが、ガーネットが刀を抜いた今こそ絶好のチャンス!
「トロン!」
『わかってるって!!』
 あたしの叫びにトロンは地面の上を一回転しながら呼応すると、素早く身を起こし、そ
のまま猛然とガーネットめがけて突っ込んでいく。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
             第19話  「刃狼 そのさん」
 
 やはりトロンは気づいていたんだ。居合いは一度その刀が鞘から抜かれてしまえば、
そう、その一撃さえかわせれば、再び鞘に収めるまで“死剣”と化すということを。

 トロンはダメージを感じさせない動きで走り始めると、一気にガーネットとの距離を詰
める。だがあたしは、驚きの表情に覆われていたガーネットの唇に満足気な笑みが浮
かぶの見て、全身に悪寒が走った。
 それを目の前で見ていたトロンも同じ思いだったろう。そして次の瞬間、煌めくはずの
ない閃光が再び起き、トロンは腹部に強烈な衝撃を受け、後ろに吹き飛んでいく。勝利
を確信していた金色の瞳が驚愕に彩られ、大きく見開かれる。
 わけがわからず力なく宙を舞うトロン。あたしは、呆気にとられながらガーネットに視
線を移し愕然とした。
「そ、そんな。居合いの……二刀流?」
 そこには右手だけではなく、いつの間にか左手にも刀を握り締め、大きく抜き放った姿
のまま会心の笑みを浮かべるガーネットの姿があった。
 それはあたしにとっては信じられない光景だった。本来は鞘を片手で押さえ抜刀するの
が剣術の基本中の基本のはず。まして特殊な抜術を必要とする居合いでは、片手で刀を
抜き放つなど不可能なはずだった。
 
                 いや、不可能だと思い込んでいた。
 
「そうか、ガーネットの片方の刀が短かったのはこのために……」
 あたしはバトルの開始時に、ガーネットの腰に下げられた一振りの刀の長さがもう一方
の物と比べて短いことに気づき、違和感を覚えたのを思い出していた。
 最初は単純にガーネットが二刀流の使い手だからと考えていたが、よく考えてみればそ
の左手に握られた刀は定番ともいえるサイズである打刀と、近づかれた際に使用する脇差
との中間的な長さを持ち、片手で抜刀しやすくするためだろうか、その刀身は打刀より微
妙に湾曲しているように見えた。
 あたしはガーネットの刀に疑問を持ちながら、既成概念に凝り固まり、トロンになんの
アドバイスもできなかった自分に内心腹を立てていた。
「トロン、しっかりして! 大丈夫?」
『……うっ』
 地面に倒れ伏せたままピクリとも動かなかったトロンだったが、あたしの悲痛な叫びが
届いたのだろうか、小さなうめき声をあげるとゆっくりと顔をあげる。
『トロンどの、先程の居合いの盲点をつく攻撃見事でござった。だが、いかなる場合でも
油断すべからず。この世の事象に絶対などないでござるからな』
 いつの間にか両手に握っていた刀を鞘に収めたガーネットが、腕を組み諭すようにトロ
ンに語り始める。
 ガーネットの予想外の行動に、最初はキョトンとしてたトロンだったが、みるみるその
顔が曇っていく。
『さすがはガンちゃん。こんな時に講釈たれるとは、“刃狼”と呼ばれる神姫はやっぱり
一味ちがうね』
 言外に毒をたっぷり含んだトロンの嫌味に、一瞬複雑な表情を浮かべたガーネットだっ
たが、それはすぐに苦笑に変わった。
『これはまた、ずいぶんと懐かしい名前が出てきたでござるな。だがトロンどの、拙者は
別に講釈をするつもりなど毛頭ないでござる。拙者はただ、トロンどのに知って欲しいだ
けでござるよ』
『?』
 少し寂しそうに微笑みながら、淡々と話を続けるガーネット。その瞳に浮かぶ真摯な光
に気づいたのか、トロンも黙って話しに聞き入っている。
『トロンどのの体裁きを見た限り、レスティーアとの戦いのときより格段に動きが良くな
っているようでござる。これほどの短時間でこれだけの成長をするとは、余程よい師に
めぐり合った様でござるな』
 ここまで話すと、ガーネットはあたしの方をチラリと見て微かに笑みを浮かべ、再び話
し始めた。
『だが、トロンどのと戦ってみて確信したでござるが、それだけではレスティーアには決
っして勝てないでござろう。トロンどののもうひとつの“力”こそ、伸ばすべき大切な物
と拙者は考えるのでござるが』
 ガーネットの話を、ただ押し黙って聞いていたトロンだったが、やがてポツリと小さな
声でつぶやいた。
『……たとえそれが“卑怯”と呼ばれても?』
『もちろんでござるよ。“策”もまた、立派な武器でござるからな』
 トロンの問いに、ガーネットは力強くうなずきながら話しかける。
『さて、そろそろ第三ラウンドを始めるでござるか?』
『やれやれ、本当におせっかい焼きだねガンちゃんは、まさかそれを言いたくてボクとの
戦いを望んだわけ?』
『まさか。拙者はそこまでお人よしではないでござるよ』
 ため息をつきながら首を振るトロンに、ガーネットは屈託のない笑みを浮かべながらそ
う答える。
 ふたりの会話を黙って聞いていたあたしは、やはりガーネットはトロンのことを心配し
ているのだということを感じとっていた。
 その時、考えに耽っていたあたしは、コンソール上の小さなランプが点滅しているのに
ようやく気づいた。慌ててディスプレーに目をやると、それは通常の会話で対戦相手に聞
かれたくない作戦などを相談する時に、チャットを使用するための合図だった。
 どうしてこんな面倒なことを? と思ったのだが、おそらくトロンはガーネットの地獄耳を
警戒しているんだろうと気がついた。
 食い入るように見つめる画面上に、次々と単語が浮かび上がり、それはすぐに文章へと
形を変えていく。
 
──そろそろ仕掛けるよ。カードの準備はいいかな?──
 
 あたしはさっきトロンとの会話のあとに用意した、コンソールの上に置いてあるカード
ケースにチラリと視線と移すと、キーボードを素早く叩いた。
 
──こっちはいつでも準備OKよ──
 
──了解! 使う時は合図をするんでヨロシク♪──
 
 あたしの答えに満足したのか、トロンは返信を返すと一方的にチャットを終了してしま
った。
 
それにしても語尾に♪マークなんて、ずいぶん余裕あるわね。トロンのヤツ
 
 自分の攻撃がことごとく失敗したうえに、ガーネットに核心をつく説教をされたのに些
かも落ち込んだ様子もみせないトロンに、あたしは呆れながらも苦笑していた。
 
ううん、これがトロンの長所なのかもね。
 
 本当は落ち込んでいるかもしれない。傷ついてるのかもしれない。でも、それを表に出
さない心の強さこそ、トロンの強さなんだ。
 あたしは再び対峙した、ふたりの戦場に視線を移しながらそう考えていた。                  
『さてと、ところでガンちゃん。ボク、さっきからどうしても気になってる事がひとつあ
るんだけど……』
『ほお、それは一体なんでござるか?』
 戦いを再開するわけでもなく、突然神妙な面持ちで話し始めるトロンに、ガーネットは
いやな顔もせずに律儀に相槌を打つ。
『うん。実はさあ、ガンちゃんのパンツ……ちょっと派手すぎない?』
『えっ? あ、いや、こっ、これは美佐緒どののがどうしてもというもので……』
 真正面を見据え、ニヤニヤと笑いながらポツリとつぶやくトロンの一言に、顔を真っ赤
にしたガーネットは慌ててドレスのスカートを押さえ込む。
 あたしたちの使っているシュミレーターの周りに集まっていたギャラリーは、次に始ま
る激闘を予感して静まり返っていたのだが、一瞬にしてフロアーは爆笑の渦に包まれる。
 おそらくそれは、さっきガーネットが後ろ蹴りを放った時のことを言ってるんだろう。
確かにそれは、女のあたしが見てもなんと言うか、一瞬目を伏せてしまったほどの色とデ
ザインを誇る代物だった。店内に設置された大型のディスプレイを見ていたギャラリーか
らも、どよめきの声が上がったくらいだから、おそらくみんなも同じ事を考えてたんだと
思う。
「ぶうっ、失礼しちゃうわね。あんなのまだ可愛いほうなのよ。こないだのなんかもっと
過激だったんだから。ねぇ、ガーネット?」
『…………』
 店内に巻き起こる笑いの渦に、耐えかねたのか顔を伏せてしまったガーネット。そこに
美佐緒の能天気な声が追い討ちをかける。って言うか、自分の神姫にとどめ刺してどうす
る気なのよ? このバカ女!
 あたしは美佐緒の無神経っぷりに腹を立てながらも、ひょっとしてこの隙にトロンは攻
撃に移る気なのかと思ったのだが、当の本人は見事な悪魔顔を浮かべたまま一歩も動こう
とはしなかった。
『まぁ、そんなに気にする必要ないんじゃない? リンなんか飽きもせず、いっつもしま
しまパンツばっかりだしさぁ』
「へっ?」
 とりあえず、もしものためにとアイテムカードをコンソールの上に置いていたあたしは、
自分の胸元で手をパタパタと振りながら突然あたしのことに話をふってきたトロンの真意
がわからず、唖然としてしまった。
 
「そうよね~、せんぱいストライプ系お気に入りだもんね。週に三日は
確実だし♪」
 
 わけがわからずポカンと口を開けていると、突然、美佐緒の得意そうな声があたしの耳
に突き刺さる。トロンと美佐緒のダブルバカの発言に静まり返っていたフロアーは、次の
瞬間、先程をはるかに超える大爆笑に包み込まれる。
 
あのバカ! インカムがマイクモードになってるじゃない! だいたい、何であんたが
そんなこと知ってんのよ?
 
 思わず手の中のカードケースをグシャリと握りつぶしながら美佐緒を睨みつけるが、あ
の大女はニコニコ微笑みながら、まるで気にもしていないようだった。
「……そうか。最近学校の階段とか登る時、後ろから妙な視線を感じると思ったらアイツ
か? アイツが犯人なんだな?」
 あたしは怒りに身体を震わせながら、呪詛のごとくつぶやく。
「あんのバカども……あとでゼッテー泣かす!」
 新たな誓いを胸に秘め、ニヤリと笑うあたしの目の前では、トロンのヤツがさも楽しそ
うに美佐緒の声に相槌を打っている。
『うん、うん、本当だよねぇ。なにが楽しいのかそっち系ばっかりはいてるもんね。まぁ
ボクとしてはリンの体形からいったら、プリント物のほうがよっぽど似合ってると思うん
だけど……へぶっ!
 ベラベラとしゃべり続けていたトロンだったが、ものすごい音が頭上に響くと、いきな
りその場にしゃがみ込んでしまう。頭を押さえながら呻いているトロンの目の前には、
大型の銃が虚しく転がっている。
『つぅ~、痛ったいな! いきなり何すんのさ、リンッ!』
 怒りのためか、はたまた痛みのためか、なみだ目になりながらも、ものすごい形相で
トロンはあたしをじろりと見ると文句を言ってきた。
「え~っ、だってアイテム送れって言ったのトロンじゃなかったっけ?」
 頭をさすりながらあたしを睨みつけるトロンに、あたしは口元に意地の悪い笑みを浮か
べながら、とぼけた口調で答える。
 あたしの小馬鹿にしたような話し方にカチンときたのか、噛み付かんばかりの勢いでト
ロンが食って掛かってくる。
『合図してからって言ったじゃないか!』
「あれぇ~、そうだっけ? でも、アイテム送った時にちゃんと「今、アイテム転送した
わよ~」って言ったんだけどなあ……心の中で。 あっ、もしかして聞こえなかった?」
『聞こえるわけないだろ、そんなモン! ボクはただ年相応のパンツにしたほうがいいん
じゃないかって言っただけじゃないか。なにが気に入らないわけ?』
「全部よ、全部! なんであたしが17にもなってプリント物なんてはかなきゃなんない
のよ。だいたいあたしがどんな下着はこうが、山盛りでっけぇお世話よっ!」
 バトルそっちのけでいきなり始まった、殺気のこもったあたしたちの舌戦に、フロアー
が気まずい沈黙に包まれる。
『ま、まあまあ、ふたりともいい加減にするでござる。今はバトルの真っ最中でござるよ』
 あたしたちの痴話喧嘩に、落ち込んでいたはずのガーネットが困ったような顔で割って
入ってくる。我に返ったあたしが周りを見渡すと、唖然とした表情でこっちを見ているギ
ャラリーのみなさんと目が合った。
「ご、ごめん。ガーネット」
 あたしはいつの間にか半立ちになっていたのに気づき、顔を真っ赤にしながらシートに
腰を下ろす。さすがのトロンも頭を搔きながらバツの悪そうな顔をしていた。
『まったくさあ、ボクの完璧なプランが滅茶苦茶だよ。酷いと思わない、ガンちゃん?』
 自分のことを棚にあげ、肩をすくめるトロンにガーネットは微笑んでいたが、その唇か
ら紡がれた言葉はあたしの予想もしないものだった。
 
『滅茶苦茶? 予定通りの間違いではござらんか? トロンどの……』
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コメント


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おれ、グリムロック!たたかいの続き聞きたいの!!

おっと、脳みそが某TF並みになりましたが(笑) コメントするのをすっかり忘れるくらい読みいってましたよ、ここ数回。今「あれ?コメントしてなかったっけ?」と大ボケを(笑)

いやー続きが気になるとともに、是非ともガーネットさんの立体化をパンツ込みで!パンツ込でっっっ!!!

初瀬那珂 | URL | 2012-05-15(Tue)00:20 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

読んだ人の知性を、グリムロック並に低くするSS! ヤバいですねぇ、サイバトロンのみなさんにみつかったら、正義の名のもとに粛清されそうです(笑)。

妙に長くなってしまったこの一戦、次回でとりあえず決着がつきますので、もうしばらくお付き合いください。

ガーネットの立体化(パンツ込み)、いや~、なんだかトロンともどもアイリぺがうまくいかなくて(初瀬さんの半分でも才能があれば……)絶賛頓挫中だったりします(もっともガーネットの作業が遅れている原因は他にもあるのですが)。

とりあえず、いま進行中の作業がひと段落したら、そちらの方も(パンツ込みで)頑張りたいと思います(汗)。

シロ | URL | 2012-05-15(Tue)20:35 [編集]