神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第21話

「せ、せんぱい! わたしの所為でガーネットが、ガーネットがぁ……」
「美佐緒」
 メンテナンスルームに運び込まれたガーネットを見届けると、美佐緒は倒れこむように
あたしの胸に飛び込み、嗚咽をあげて泣き始めた。
 いつもの美佐緒からは想像もつかないような取り乱しように、あたしは驚きながらもな
んと言って慰めればいいのかわからず、子供のように泣きじゃくる美佐緒の艶やかな黒
髪を無言で撫でる以外に、あたしには何もしてあげることができなかった。
 
                     わんだふる神姫ライフ
 
              第21話  「美佐緒とガーネット」
 
 美佐緒が落ち着くのを見計らって、あたしたちはメンテナンスルームのそばにあるソフ
ァーに場所を移した。
「ほら、これでも飲んで、いい加減元気だしなさいよ」
「……はい」
 努めて明るく振舞うあたしが差し出した缶コーヒーを、しばらく泣きはらした目で見つ
めていた美佐緒だが、やがて微かに微笑むとそっと受け取った。
 
 バトルが終わり、バツのわるそうな顔でアクセスポッドから出てきたトロンを見た時に、
あたしはガーネットが倒れたのはバーチャルバトル内でのことだったのだからと楽観的に
考えていたんだけど、事態はもっと深刻だった。
 自分が先に倒されたために、ガーネットの異変に気づかなかったトロンだったが、あたし
から事情を聞くと慌ててあたしを促し、美佐緒のコンソールの方へと駆け寄っていった。
 おろおろと立ち尽くしていた美佐緒をなだめながら、アクセスポッドの中から助け出した
ガーネットは意識を失い、どうやっても目を覚ます事はなかった。
「……ねぇ、美佐緒。ちょっと聞いてもいいかな?」
 正直、この状況でこんな話をしてもいいものなのか悩みもしたけど、この押しつぶされ
うな圧迫感に耐え切れなくなったあたしは、コーヒーを口に運びながら上目遣いに美佐緒
に話しかけた。
「えっ? 何をですか?」
 あたしが渡したコーヒーには口もつけず、思いつめたような瞳でメンテナンスルームの
入り口を見つめていた美佐緒は、あたしが突然話しかけたために驚きながらこちらを振り
向いた。
「あんたさっき“時間”がどうとか言ってわよね? あれってどういう意味なの?」
 あたしの問いかけに、美佐緒の表情が強張ったのを見て、あたしは美佐緒の心情にもう
少し配慮すべきだったと後悔した。
「あっ、ごめん。 あのね、美佐緒が言いたくないなら別に……」
 その態度に、慌てて手を振りながら取り繕うあたしをしげしげと見ていた美佐緒は、寂
しそうに微笑んだ。一緒に並んで座っていた美佐緒はあたしより大きいはずなのに、今は
妙に小さく見えた。
 
そう、美佐緒と初めて知り合ったあの頃のように……
 
「いえ、いいんです。……本当はもう、ガーネットは戦えない身体だったんです」
『それって、どういうことなの、みさキチ?』
 あたしたちの会話にはまるで参加せずソファーの端に腰掛け、いつもなら戦いが終わっ
た途端に寝ぼけモードになるはずのトロンが、心配そうに金色の瞳でメンテナンスルーム
を見ていたが、美佐緒の声に驚いた様子であたしたちの方に振り返った。
 美佐緒はそんなトロンをしばらく見つめていたが、やがてガーネットの過去を静かに語
り始めた。
 
 あたしの住んでいる町の大地主であり、資産家でもある、今は亡き美佐緒のお祖父さん
が神姫という存在に興味を示し、The Sixth Factoryという企業に開発の面で資金援助
などの協力をしていたということ。
 そしてガーネットは、テスト用に作られた紅緒のプロトタイプだということだった。
「そっか、やっぱりね」
「せんぱい……その事に気づいていたんですか?」
 美佐緒の淡々と続く話の合間にあたしがポツリとつぶやくと、美佐緒が驚愕の表情であ
たしを見た。
「まあね。と言っても、それに気づいたのは、ほんの少し前のことなんだけどね」
 まだ驚いた様子であたしを見つめている美佐緒に、あたしは照れ笑いを浮かべながら
答える。
 ガーネットとの戦いの直前に、桜庭さんとの会話で頭をよぎった違和感、それはあたし
がガーネットと初めて出会った時期だった。あの頃はまだアーンヴァルやストラーフとい
った最初期の神姫があたしたちの前に姿を現したばかりで、紅緒はまだ一般には販売
されていないはずだった。

 今思えば妙な話だが、あの頃はあたしもまだ小さかったから神姫という存在になんの知
識もなく、美佐緒の肩の上で律儀に挨拶をするガーネットをあたしは驚きと羨望のまなざ
しで見つめるだけだった。
『……それにしたって、ガンちゃんとの付き合いはボクより長いんだから、もっと前に気
づきそうなモンだけどね~』
「うっ、うっさいわねっ!」
 ため息を吐きながら、呆れたようにポツリとつぶやくトロンの言葉は正鵠を射るもので
あり、あたしは顔を赤くして反論するのがやっとだった。
「でも、それってせんぱいらしいですよね」
 美佐緒にまで笑われたのは正直複雑な気分だったけど、少しは元気がでてきた美佐緒
の姿にあたしは内心ホッとしていた。
「でも、せんぱいと初めて会った時にはもう、ガーネットの身体はボロボロだったんです。
お祖父様があんな無茶な事をガーネットにさせたから……」
 そう呟くと、美佐緒の笑顔がみるみる曇っていった。
「無茶な事?」
 おうむ返しに尋ねるあたしに、美佐緒は眉をしかめ唇を噛み締めていたが、やがて静か
に話しを続けた。
 初めの頃は、神姫という科学の結晶との生活で満足していた美佐緒のお祖父さんだった
が、神姫同士を戦わせる神姫バトルの存在を知った時、ガーネットの生活は大きな変化を
迎えた。
 当時は現在のように明確なレギュレーションは無く、今でいうような違法改造は日常茶
飯事で行なわれ、またシュミレーターもまだ数が少なく当然のようにリアルバトルが繰り
広げられていた。そして相当数な神姫が、その無謀な戦いの中で命を落としていったそう
だ。
 
「ガーネットはオーナーであるお祖父様の期待に応えようとして、自分の身体も顧みず、
ボロボロになるまで戦って……そして、ある神姫との戦いで、致命的な傷を受けてしまっ
たんです」
 ここまで一気に話し終えると、美佐緒はスカートを硬く握り締め、うつむいてしまった。
「でも、いくら深い傷を負ったといっても修理はしたんでしょう? それなら……」
 あたしはそっと美佐緒の手に自分の手を重ねながら慰めるように尋ねた。でも美佐緒
は顔を伏せたまま、大きく首を横に振るだけだった。
「だめなんです。確かに手足や胴体の一部なら修理や交換も可能です。でもガーネットに
蓄積されたダメージは、CSCや頭部にも及んでいるんです」
 あたしは悲しそうにつぶやく美佐緒の声に、返す言葉も見つからず絶句してしまった。
美佐緒の言った頭部やCSCは、神姫にとってもっとも重要な部位だった。これらの場所
が機能しなくなることは、彼女たちの死を意味した。
『みさキチ、なんでガンちゃんはそんな身体でボクと戦おうとしたの? 無茶すぎるよ!』
 ガーネットの真意が理解できなかったのだろう。トロンが美佐緒に食ってかかるのを見
て、慌ててあたしはふたりの間に割って入ろうとしたが、美佐緒は目であたしを制すると
トロンの瞳を真正面から見据えた。
「トロンの言いたい事はわたしにもよくわかってるわ。でもね、ガーネットも今までは何
とか30分は戦えたの。それに今回の戦いも、もしタイムリミットを少しでも過ぎたらすぐ
に降参するという約束だったから……」
『…………』
「それと、ガーネットがトロンと戦いたがっていた理由だけど、ガーネットはこう言って
いたわ。『トロンどのは拙者に似ているから』ってね」
『ボクがガンちゃんに……似てる?』
 その言葉に、さみしそうに微笑む美佐緒。トロンが不思議そうな顔をする。
「確かにふたりは似通ったところがあるかもしれないね」
「「て、店長さん!?」」
 いきなり声をかけられ、飛び上がらんばかりに驚いたあたしたちの目の前に、いつの間
にか柔和な笑みを湛えた店長さんが立っていた。
「あの、店長さん! ガーネットは……」
 ソファーから立ち上がり心配そうな表情をみせる美佐緒に、店長さんは無言で頷きメン
テナンスルームを静かに指差した。
 あたしたちをその場に残して、信じられない速さでメンテナンスルームに消えた美佐緒
の背中を追って、あたしたちも慌てて部屋に駆け込んだ。
 だが、作業台の上でゴシックドレスを纏い、横たわったガーネットはまるで起きる気配
をみせなかった。不安そうなあたしたちの視線が集中した店長さんは気にした素振りもみ
せず、作業台の横にあったパソコンの方に話しかけた。
「リベルター。ガーネットくんの再起動を……」
『了解しました』
 あたしはそこで初めて、この部屋にもうひとりいた事に気がついた。それはアーンヴァ
ルタイプの神姫のようだった。
 神姫に疎いあたしでも、人気のタイプであるアーンヴァルを他の神姫と間違うことなど
ないんだけど、そんなあたしが目の前の神姫に一瞬躊躇したのは彼女の髪の色の所為
だったからだ。
 普通、アーンヴァルは輝くようなブロンドの頭髪だが、眼前の神姫は腰まで届く銀髪の
持ち主だった。
 あたしの食い入るような視線に気づいたのだろうか、銀髪のアーンヴァル、リベルター
はパソコンのキーを叩くのやめると、あたしのほうに向き直り笑顔をみせると軽く会釈を
してきた。
 釣られて頭を下げながら、あたしはリベルターに妙な違和感を感じていた。
 
それはうまく言えないんだけど、まるで目の前の彼女が幻のような……そんな存在の希
薄さの所為だった。
 
「ガーネット!!」
 美佐緒の安堵の篭った涙声に、あたしは現実に引き戻された。振り返った先には涙でべ
ショべショになった美佐緒がガーネットを抱き上げ、頬擦りをしていた。
『美佐緒どの、心配をかけて申し訳なかったでござる』
 何度も何度も無言で頷く美佐緒。涙でびしょ濡れになるのもかまわず、ガーネットもう
れしそうに目を閉じ、されるがままになっている。
 そんなふたりを黙って見つめていたあたしは、ジーンズを引っ張られているのに気づき
視線を下に向けると、そこにはテーブルの上でトロンがあたしを見上げていた。
 トロンは軽くウィンクをすると、無言で外を指差した。
 あたしはすぐにトロンの気持ちを理解すると、トロンを手のひらに乗せ、メンテナンス
ルームを後にした。
                          ※
「ふぅ~、なんとか丸く収まったみたいね?」
 美佐緒たちを残して、一階の奥にある休憩所に席を移したあたしは、椅子に背を預ける
と大きな伸びをする。
『ン~、まァ、そんな感じだネ』
 目の前のテーブルの上では、ガーネットの無事を確認したせいで緊張の糸が切れたのか
本来の姿(?)に戻ったトロンが、寝そべりながらねむそうな声で答える。
『……ねェ、リン』
 バトルなんかとは比較にならない緊張感のせいか、疲労を感じたあたしが肩を揉みほぐ
していると、トロンが妙に静かな声であたしに話しかけてきた
「ん? どうしたのよ。そんな深刻な声なんか出して?」
『うン。あの時、みさキチが言っタ、ボクとガンちゃんが似ているってどういう意味なの
かナ?』
 かなり疲れていたせいでトロンの話を上の空で聞いていたあたしは、口元まで出掛かっ
たあくびを噛み殺すと、テーブルの上のトロンをまじまじと見た。
 トロンはいつもの寝ぼけ顔だが、あたしを見る瞳は真剣そのものだった。あたしはそん
なトロンを見つめているうちに、笑いが込み上げてきてしまった。
『リン?』
「ご、ごめん。そっか、あんたけっこう勘が鋭いと思ってたんだけど、自分の事となると
そうでもないんだ?」
『?』
 いぶかしそうな顔で見上げるトロンに、あたしはゆっくりと話しかけた。
「これはあたしの想像なんだけど、ガーネットは強大な武器や装備に頼らず、己の身ひと
つで戦うあんたに共感を覚えたんじゃないかしら? ガーネットは自分の剣に全てを託し、
あんたがその悪賢さを唯一の武器としているようにね」
『……それがヒキョーなことでモ?』
 トロンはあたしの話しに、ただ黙って耳を傾けていたが、やがてポツリとつぶやいた。
それは、ガーネットとの戦いの最中に発したものと同じだった。あたしはその時になって
いつもは気にした素振りもみせないトロンが、自分の“武器”に後ろめたさを感じていた
ことにやっと気がついた。
「昔、おじいちゃんが言ってた。“策もまた力なり”ってね。……あたしもそう思う」
『リン…』
 もう少し気の利いたセリフも言えないものかと自分に呆れながらも、おじいちゃんが言
っていた言葉をあたしはトロンに語りかけた。
『策もまた力なり…カ』
 うまく想いがトロンに伝わったのか不安になったあたしがトロンの顔を覗き込むと、ト
ロンは噛み締めるように一言つぶやき、明るい表情であたしを見上げた。
『うンッ、わかったヨ。リン!』
「そっ? じゃあ、そろそろ帰ろっか?」
 内心胸を撫で下ろしながらそれをおくびにも出さず、テーブルの上に手のひらを差し出
すと、トロンが驚いたような顔をする。
『へッ? ガンちゃんとみさキチはどうするノ、リン?』
「いまさら戻るのも無粋ってもんでしょう? どうせ明日は学校なんだからイヤでも顔を
つき合わせるわよ」
 
 反射的に手のひらに上ってきたトロンに、あたしは笑顔をみせながらそう答えた。
 
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