神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第3話

「ハァ。やっぱり夢……じゃ、なかったのね」
 ベッドから起き上がり、机の上に視線を走らせた後、あたしは大きくため息を吐きなが
らつぶやいた。
 机の上には、あたしのテンションをドン底まで落とした張本人、悪魔型の神姫ルシエ…
…いや、トロンがいびきをかきながらクレイドルからずり落ち、どうすればこんな格好に
なるのか聞きたくなるほど豪快な寝相で爆睡中である。
 なんの悩みとも縁のなさそうなトロンの幸せそうな寝顔を見ながら、あたしはまた大き
なため息をつくのであった。
 
                 わんだふる神姫ライフ
 
            第3話     「背中」
 
「隣ぃ~、そろそろ起きないと遅刻しちゃうわよ~」
「はぁ~い、もう起きてるから大丈夫だよ!」
 急いでドアを開け、階下の母に一声かけると、あたしは気乗りしない足取りで部屋へと
戻り、再び机の上に視線を移す。
「ねぇ、ちょっと、いい加減に起きなさいよ! え~と、ト、トロン」
 指先でトロンの身体をしばらくユサユサと揺すると、ようやくクレイドル上のトロンは、
薄目を開けてあたしの方を見た。
『ふァ~~~。何の用なのサ、リン』
「何の用? じゃないわよ。あんた一体いつまで寝てるつもり? もう朝なのよ!」
 まるであたしに非があるとでも言わんばかりの不機嫌そうな声に、こっちもつい声を荒
げてしまう。
 それにしても昨日から疑問に思ってたんだけど、前にあたしが見たストラーフって薄紅
色の瞳を持った中性的な感じすらした顔立ちの神姫だったような気がしたんだけど、それ
に比べて目の前にいる自称ストラーフときたら瞳の色も判別不可能なぐらい目は閉じっぱ
なしだし、弛緩しきった頬の肉にあごは埋まり、その姿は前にテレビで放送していた大昔
のアニメ特集に出ていたムー〇ンとかいうキャラみたいだった。
『なニ? ボクの顔になんかついてル?』
「ううん、何でもない。それよりもホラッ、起きて、起きて!」
 あたしの視線に気づいたトロンの声を軽くいなすと、あたしは再度トロンに起きるように
促した。
『あのさァ、リン。ボク、昨日から気になってた事があるんだけド』
「何よ?」
 無遠慮に人の顔を眺めながら、つぶやくトロン。
『なんでリンって、いっつも怖い顔してんノ?』
「悪かったわね! あたしは生まれつきこういう顔をしてんのよ!!」
 人の気にしてる事をズケズケと指摘してくるトロンに、あたしは声を荒げるが、トロンは
そんなあたしを憐れむように見上げていた。
『そっカ。まア、生きていればそのうち良いことあるヨ……多分』
「山盛りでっけぇお世話よ!」
 器用に片方の眉を上げながら、まるで心のこもっていない口調であたしを慰めるトロン
にあたしは激昂するが、本人は顔色一つ変えやがらねぇ。
 あたしは、この寝ぼけ悪魔に付き合う愚を思い知らされ、ひときわ大きなため息を一つ
吐くと、クレイドルの上でこっちを見ているトロンに背を向け、着替えを始めた。
 
                あ~、なんか頭が痛くなってきた……
 
 気のせいかズキズキと痛むこめかみを指で揉みほぐしながら、読んで字の如くあたしの
頭痛のタネを肩越しに見てみると、やっこさん、あたしに背を向けクレイドルの上でコックリ
コックリと舟をこぎ始めている。
 
                   ハァ~、いい気なもんよね。
 
 もう、あたしの意思とは無関係に出てくるセルフサービス的なため息を吐きながら、パ
ジャマのボタンを外し始めた指が、ふっと止まった。
「ねぇ、トロン。あんたにちょっと聞きたい事あるんだけどさ」
『ン~、なぁにィ、リン?』
「……ひっ!?」
 昨日の夜から感じていた疑問を聞いてみようと、何気ない感じでトロンの方に振り返っ
たあたしは心臓が止まるんじゃないかと思うほど驚いた。
「あ、あんたどうしたのよ? その首?」
『ボクの首がどうかしたノ、リン?』
 あたしは背中をこっちに向けたまま、顔だけあたしの方に向け、話し始めたトロンに唖
然とした。しかもその首も、いきなりギュルンと凄い勢いでこっち向いたんだよ?
「だ、大丈夫なのソレ? 痛くないの?」
 恐る恐るトロンの首を指差すが、本人はまったく平気の平左だ。
『ぜ~んぜん。 神姫だったらさァ、これくらいはラクショーだヨ』
「へ~。す、すごいんだね」
 あいかわらず背中をこっちに向けたまま両腕を腰に当て、顔だけそっくり返しエラソー
にしているトロンだったが、その異次元的なポーズも含めて、あたしは今の科学の進歩に
素直に感心してしまった。
 最もこの神姫の特技(?)は、後にあたしが出会う事になる神姫たちによって完全否定
される事となり、あたしがこの悪魔にだまされたと知ったのは、かなり後の話である。
『んデ、ボクに聞きたことって何なノ、リン?』
「えっ。ああ、それよ、それ!」
『?』
 いきなりあたしに、ビシッと指を突きつけられたトロンは怪訝そうな顔をする。
「あんた昨日からあたしのこと『リン』て呼んでるんだけどさあ、それってやっぱりあた
しのこと?」
『そんなの当たり前の事じゃないカ、リンはリンなんだかラ』
 何をいまさら、と言わんばかりの顔でトロンはキッパリと言い切った。
「だ、だけど、オーナーの呼び方ってオーナー自身が決めるんじゃなかったっけ? 第一
あたしの名前は<となり>よ!」
『だから<リン>でショ?』
「まぁ、あんたが気に入ったんならそれでいいけど……」
『でショ? まァ、それにどうでもいいジャン、リンの呼び方なんかさァ』
 
           待て。あたしの名前ってどうでもいいレベルの話なの? 
 
 なんか納得がいかなかったが、これ以上この悪魔にかかわってると遅刻しそうな気配
が濃厚なので、あたしは着替えを再開した。
 着替えを続けながらあたしは、もう一つだけ気になっていた事を口にした。
「ホントにあんたの名前、トロンでいいの?」
『ン~、なんでェ~?』
 あたしは一瞬、答えに詰まった。だってトロンという名前は、決してあたしの本心でつけ
たものじゃない。トロンに対してイライラしていたあたしが、皮肉と当てこすりでつけたよう
な名前だから……
『ボクは別に気になんかしてないヨ』
 背中越しにトロンの声が聞こえた。
「えっ?」
 話しながらも忙しく動いていたあたしの手が、ピタリと止まった、
『ボクの名前は、マスターであるリンがつけてくれタ、たった一つの大切なものなんだか
らネ』
「ト、トロン……」
 思いもしないトロンの返事に驚いたあたしだったが、ひょっとして今ならと期待を込め
てある提案をトロンにしてみた。
「だ、だったらさぁ、やっぱりあたし、あんたの名前ルシエルが良いと思うんだけど?」
『まァ、どうでもいいジャンそんなコト。この大宇宙の広大さに比べれば、リンのつけた
名前なんて塵芥みたいなモンでショ?』
 
  ち、ちりあくた? なにそれ? あたしの考えた名前ってそんなレベルの事なの?
 
 眼前の悪魔にまたもいいようにからかわれていた事に気づくと、怒り心頭に達したあた
しは、思わず脱ぎ捨ててあったパジャマを机の上のトロンめがけて叩きつけていた。
 いくら小柄な体格のあたしが着ていた物とはいえ、そこは人間のサイズ。どっちに行っ
たら良いのかわからず、トロンはパジャマの下をモゾモゾと這い回っている。
「ふん、いい気味よ! これに懲りたら少しは大人し、って、あんた何やってんの?」
 いい加減パジャマから這い出してくるかと思いきや、いまだに真ん中あたりでモゾモゾ
とやっているトロンに眉をひそめて顔を近づけてみると、荒い息づかいのなか、妙に熱の
こもった声が聞こえてきた。
『あ、あン。リンの、リンの匂いがするゥ~~~ッ。 ボクもゥ、イッちゃ……』
「気持ち悪ぃーんだよ。 おめぇ―はっ!」
 思わずあたしは、パジャマごとトロンを鷲づかみにすると、ベッド目掛けて投げつけてい
た。枕のあたりにぶつかり大きくバウンドしながら布団の上へと落下したパジャマ柄の茶巾
包みの中から、トロンがフラフラと千鳥足で這い出てきた。
『ひ、ヒドいじゃないカ、リン。ボクもう少しでイけそうだったのにさァ』
「ば、馬鹿なこと言ってんじゃないの! それとトロン、あんたその首をいい加減なんと
かしなさいよね!」
 あたしは、まだ首が真後ろを向いたまま不満そうにブツブツと文句を言っているトロン
を睨みつけながら、鋭く一喝した。
『なに言ってんのさァ、リンだってボクと似たようなモンじゃないカ!』
「はぁ、一体なんの事よ? あたしのどこがあんたと似てって……や、やだっ!」
 眉を寄せながら不満そうに口をとがらすトロン。その指先を目線で追っていたあたしは
自分がブラとショーツだけという、かなり刺激的な格好でいた事を思い出し、慌てて両手
で胸を隠すとしゃがみ込んでしまった。
 壁にハンガーで吊るしてある制服よりは、ベッドに投げ捨てたパジャマの方が距離的に
近いと気づき、必死に腕を伸ばすが、パジャマまであと数ミリというところであたしの動き
はハタと止まった。
「ん? そういえばトロン。さっきあたしがあんたと似たようなもんだとか言ってたけど、
あれってどういう意味よ?」
 ピッと伸ばした指の先、あたしのパジャマの上で、ようやく本来の正しい位置へと戻った
首を両手でコキコキと音をたてて調整していたトロンは、しばらくこっちを眠そうな顔で見
ていたが、おっくうそうに口を開いた。
『あのねェ、さっきからボクのことばっか責めてるけド、リンだってボクの方に背中を見せ
っぱなしじゃないカ!』
 鼻息も荒く、納得いかんとばかりに不満を口にするトロンだが、イマイチ言ってる意味が
理解できないあたしは、トロンの視線の先に目を移す。
「…………」
『ネ、背中でショ?』
「……これは背中じゃねー」
『はァ? 聞こえないヨ』
「これは背中じゃねー……………胸だ───ッ!!」
 部屋中の空気が震え、窓ガラスもビリビリと振動するほどのあたしの魂の絶叫が、部屋
中に轟いた。衝撃波でも発生したのかベッドの反対側、窓際の壁まですっ飛んでいったト
ロンを鷲づかみにすると、無言で顔の正面まで持ち上げる。
『い、いやァ~、ボクもおかしいとは思ったんだよネ。普通、ブラって背中にはしないもんね
ェ~、 ア、アハハハハ』
「……云いたい事はそれで終わりかしら? トロン」
『エ、エ~ト、時間はだいじょうぶなのかなァ~、とか思ったリ』
「時間?」
 ガッシリと掴まれ、ミシミシとヤな音を立てながら薄紫色に変色した顔だけ出していたトロ
ンが、あたしの両手の中から息も絶え絶えに呟いた。
 イヤ~な予感に襲われながら机の上の時計に焦点を合わせると、八時二十分を表示し
ていた。 
                   は、はちじにじゅっぷん?
 
「オー マイ ガッ! な、何コレ? 何でこんな時間なわけ?」
 トロンをベッドの上に放り投げると、あたしは慌てて壁にかかっていた制服をむしり取る
ように手にすると、慌てて着替えを始めた。
『いヤ~、学生さんっテ、ホントたいへんなんだねェ~』
 ブレザーに袖を通し、腰まで伸びたブラウンの髪を乱暴に頭の後ろで纏めながら、トロ
ンのやつを睨みつける。
 あたしを見上げる悪魔は意地の悪そうな笑みを浮かべたままだが、ふと、何かを思い
出したかのように首を傾げる。
『それにしてモ、最近の小学生っテ、制服なんダ?』
「あたしは、これでも高校生よ!」
 一発ひっぱたいてやろうかとも思ったが流石に時間がない。ひったくるように机の上の
カバンを手に取るとドアへと向かう。ドアノブに手を掛けた体勢で、あたしは首だけトロン
の方に向けた。
「いい? あたしが帰ってくるまで家でおとなしくしてるのよ!」
『うン。ボク、いい子にしてるヨ……でモ、さびしくなっちゃうから早く帰ってきてネ。ダーリン』
 
   あたしの返事は、家中を揺るがすほどの勢いで叩きつけられたドアの音だった。
 
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コメント


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どうもです~
宣言通りに全て読ませてもらった!
まぁ、バトロンは知らなくても問題無いんでない?
私もSS書く時にバトロンの設定を使ったりもしたりしますが、どちらかといえば「武装神姫SSまとめWiki」の方の設定の方がらしくて、そっちを使ったりする事がありますし、SSは作者の自由で設定を決めて良いと思いますしね~

そして、わんだふる神姫ライフを3話まで読ませてもらいましたが、最初から主人公が紆余曲折の苦労をしまくっていますねぇ。
やる気が無いストラーフのトロンとの掛け合い漫才も面白く読ませてもらいましたし、トロンが頑なに拒否する「ルシエル」という名前に関しての伏線も今後どうなるか楽しみです。
今後、2人の生活がどう進んでいくのか楽しみに待ってま~す。

そして、ブログリンクの方もさせてもらいました。
これからもよろしくお願いします。

ASUR・A | URL | 2012-01-25(Wed)10:31 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ、お待ちしておりました。

なにぶん、SSもブログの運営法も、右も左も分からぬままの見切り発車、
いろいろ至らぬところもあると思いますが、よしくお願いします。

SS本編も、私の性格上、ギャグ主体のストーリー展開になりますが、
しばし、お付き合いください。

最後になりましたが、こちらの方もASUR・Aさんのブログとリンクさせて
もらえればと思います(少し時間がかかりそうですが)。

また時間の空いた時にでも、のぞきに来てください。

シロ | URL | 2012-01-25(Wed)21:21 [編集]