神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第23話

 季節的に暖かくなってきたとはいえ日が暮れるのも早く、沈みかかった夕日を背に
DO ITの自動ドアをくぐると、そこには人だかりができていた。もしやと思って近づいて
みると、聞き覚えのある大声があたしの耳に飛び込んでくる。
「うむっ。勤行も終え、ちと時間ができたのでな、ここで一戦交えようと思ったのじゃが
気づくと睦月の姿が見えんのじゃ!」
「そうですか……それは困りましたね」
 和尚さんと、どうやら応対をしている店長さんの声が聞こえ、あたしと美佐緒は顔を見
合わせた。あたしは軽くため息をつくと、ボ~ッとしている睦月を小脇に抱え、人だかり
を掻き分け進み始めた。
 もみくちゃになりながらなんとか人の壁を突破すると、遠巻きに見守る野次馬の視線の
先にスラリとした長身の店長さんと、身長では及ばずとも横幅では圧倒的なボリュームを
誇る、立派な法衣に身を包んだ和尚さんが話し合っているのが見えた。
 あたしはそのまま和尚さんに近づくと、何気なくその大きな背中を軽く叩いた。
 
       返事は振り向き様に放たれた、手加減抜きの和尚さんの剛拳だった。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
              第23話  「バトル和尚 そのに」
 
「くっ!?」
 唸りをあげてあたしの顔面を強襲する一撃を、辛うじて“一重”で捌くことができたの
は、ほとんど無意識での行動だったが、その拳圧であたしは大きく体勢を崩してしまう。
「ん? なんじゃ、誰かと思えば隣ではないか?」
 惚れ惚れするほど見事な正拳突きの構えをとったまま、平然とあたしに話しかけてくる
和尚さん。かろうじて踏み止まったあたしは反射的に全身の力を抜き、次の攻撃に備えた
が、それが無い事に気づくと、大きく息をはきながら噛み付かんばかりの勢いで和尚さん
に食って掛かった。
「もう、「なんじゃ」じゃないですよ! あれほど条件反射で攻撃するなって言ったじゃ
ないですか! 相手があたしじゃなかったら、今頃大惨事になってましたよ?」
「がっはっは。いつもの癖でな! それより隣、何故お主がこんな所におるんじゃ?」
 歯を剥き出して睨みつけるが、まるで反省した素振りもみせない和尚さんに、あたしは
これ以上なにを言っても無駄だと悟り、無言で和尚さんの鼻先に睦月を突きつけた。
『和尚様~。ご心配をおかけして申しわけありませんでした』
「おおっ? 睦月ではないか!」
 すまなそうに頭を下げる睦月を、拳だこの盛り上がったゴツイ手で優しく受け取ると、
和尚さんは嬉しそうに破顔した。
「それにしても、和尚さんが神姫を持ってたなんて知らなかったなあ。いつの間に買った
んですか?」
 ようやく再開し喜び合うふたりの姿を見て、少し溜飲の下がったあたしは一番の疑問を
和尚さんに投げかけてみる。
「ん? ああ。先日、本堂に人が訪ねてきてのう。神姫を販売しているセールスマンらし
いのじゃが、なんでも神姫というのは大変“燃える”存在というのでの、試しに買ってみ
たのじゃよ!」
「多分その“もえる”という言葉は、和尚さんが考えているものとはまったく次元が違う
モノだと思うんですけど?」
「そうか? まあ、細かい事を気にするな!」
「はぁ。じゃあ、あたし用があるんで、これで失礼しますね」
 こめかみを揉みほぐしながら、これ以上何を言っても時間の無駄と気づいたあたしは、
フロアーを揺すらんばかりに大笑いする和尚さんに背を向け歩き出す。
「せんぱい、大丈夫でしたか? ケガなんてしてませんよね?」
 野次馬の輪を何とか突破すると、慌てたように美佐緒が走りよってきた。心配そうな顔
の美佐緒に笑顔で答え、肩越しに視線を走らせると笑いながらに話しかけた。
「大丈夫よ。和尚さんにとってあんなの挨拶みたいなもんよ……ちょっと物騒だけどね。
それより美佐緒、そろそろ時間じゃないの?」
 話しながらあたしが美佐緒の背後を指差す。壁にかけてある大型のデジタル時計は美佐
緒が予定していた時間を過ぎていた。
「わっ、いけない、もうこんな時間なの? う~、じゃあせんぱい」
 この期に及んでまだ名残惜しそうにしている美佐緒は、ガーネットに急かされながら渋
々と出口へと向かっていく。何度もこちらを振り返りながら自動ドアの向こうに消えてい
く美佐緒の後ろ姿を見送っていたあたしは、大きく伸びをすると胸ポケットから顔だけ出
していたトロンに話しかける。
「さて、なんか色々あったけどそろそろ二階に行こうか? 今からなら、まだバトルでき
るだろうしね」
『むゥ~、そうだネ』
 予定外のことばかり起きたため、すっかり時間がなくなり少しご機嫌斜めのトロン。
 苦笑いを浮かべるあたしのそばに、いつの間にか近づいてきたのか、いきなり和尚さん
が話しかけてきた。
「隣、お前が持っておるのは神姫ではないか?」
 あの巨体で、一切気配を感じさせず背後に立つ和尚さんに内心舌を巻きながら、あたし
は平静を装って和尚さんの方に振り返る。
「ええ、こいつはあたしの神姫でトロンって言います。ホラッ、ちゃんと挨拶しなさいよね?」
『ムッ、よろしくナ、BO-ZU!』
「がっはっはっ、豪気なヤツじゃ、気に入った! ついて来い、隣!!」
 トロンのいい加減な挨拶に内心頭を抱えていると、和尚さんはまるで気にした素振りも
みせず、床が揺れるのではないかと思える声で笑いだす。
 その光景に呆れていたあたしの腕を和尚さんはいきなりつかむと、有無を言わせぬ勢い
でズンズンと歩き始めた。
「ちょっ、ちょっと待ってください。どこに行く気なんですか?」
「ん? 決まっておろうが! バトルじゃよ!!」
「へっ?」
 当然という顔つきで二階を指差す和尚さんに、あたしはギリギリと凄い力で締め付けら
る腕の痛みも忘れて唖然としてしまった。
                          ※
「まったくもう、強引なんだから……」
 ズキズキと痛む腕をさすりながら文句を言うあたしに、バトルフィールドに転送された
トロンが笑いながら話しかけてきた。
『まあ、ボクとしては願ったり適ったりってとこなんだけどね』
「そりゃあそうだけどさ……それにしてもこのフィールド、ヤバくない?」
『そうだね。ま、睦月の装備しだいかな?』
 気を取り直してフィールドに視線を移したあたしは眉をひそめていた。和尚さんの選ん
だのはアリーナと呼ばれる遮蔽物の一切ない、円形の闘技場だった。
 フィールドとしてはスタンダードなんだけど、トロンとの相性はあまりいいとはいえな
かった。相手もトロンと同様に距離を詰めた戦いが得意な神姫ならいい勝負になるけど、
レスティーアやガーネットとの対戦のあと、トロンは対レスティーア戦に目標を絞り経験
を積もうとしたのだが何故か対戦相手から敬遠されてしまい、なんとか頼み込んで相手を
してもらうことになった神姫は、ほとんどが丸腰に近いトロンなら楽に勝てると踏んだ長
距離の砲戦能力の高い神姫ばかりだった。
 結果として、一切の射撃武器の携帯を拒んでいるトロンは、今のところ全敗街道を驀進
中という有様だった。
 このままでいいの? そうトロンに問いかけたこともあったけど、『何事も経験』の一
言で片付けられてしまった。
正直、あたしもトロンにDO ITで一番になって欲しいわけでもなく、本人が納得してるな
らそれでもいいと思ってるんだけどね。
 
でも、今のままじゃレスティーアには勝てない……
 
 あたしの心を重くしているのはトロンの置かれた今の状況ではなく、もっと根本的な問
題だった。それは……
「おう! 待たせたな、隣!!」
「げっ!?」
 あたりに響き渡る和尚さんの蛮声に、思考を破られたあたしがフィールドに目をやると
あたしは愕然としてしまった。
 トロンと対峙するようにポツンと立つ睦月。いや、あれは本当に睦月なんだろうか?
 文字通り点となったあたしの目に飛び込んできたのは、なんか形容のしがたい武器の塊
だった。
 全身を覆うように、これでもか? と取り付けられた、ミサイルポッドにガトリングガ
ン。そして自分の身長を超える二基の巨大なミサイルが天空にむかって屹立していた。
 こんなわけのわからん装備に身を包んだ神姫が睦月だと判断できたのは、全身の武器が
濃いグレー一色で塗装されている中から、例の赤と白のツートンカラーがチラチラと見え
ていたからだった。
「何アレ? あんなんで動けるの?」
『う~ん、睦月の下半身はフロートみたいだから、積載量的にはOKみたいだけど』
 呆れたようにつぶやくあたしの声に、さらにトロンの唖然とした言葉が覆いかぶさって
くる。                     
 和尚さんの性格から、絶対接近戦仕様の装備になるとふんでいたあたしの予想は物の
見事にはずれてしまった。
「ま、睦月の性格を考えればわかる事だったかな?」
 ほわ~んとしたあの性格じゃ、確かに格闘向きではないだろうと気づいたあたしは、苦
笑を浮かべていたが、気を引き締めインカムのマイクでトロンに話しかけた。
「トロン。睦月の武装からみてもあんたとの相性は最悪よ。バトル開始と同時に、とにか
く距離を詰めて!」
『了解! まあ、それしか手はないからね』
 苦々しそうに一言つぶやくと、トロンはバトル開始の電子音とともに猛烈な勢いで睦月
めがけて突進した。
 一見すると自暴自棄になってるように見えるが、さすがに射撃戦の得意な神姫相手に辛
酸を舐め続けてきただけあって一直線に移動したのはほんのわずかの時間だけで、あとは
狙いを定めさせないように緩急を交えたジグザグの動きで睦月を翻弄し始めた。
 トロンのランダムな動きに焦った睦月が迎撃のため射撃を始めたが、派手に打ち放たれ
た攻撃は、ことごとくトロンの残像を貫くだけだった。
 このままいけばもしや? とも思ったが、ガトリング砲はともかく、ミサイルは直撃しなくて
も爆風だけでもダメージをトロンの身体に刻み込んでいく。
 自分でもこのままでは埒があかないと考えたのだろう。トロンは急に向きを変えると、
睦月を中心に円を描くような移動を始める。
 慌てた睦月がトロンを追撃し始めたが、元々素早い動きを苦手とするフロートシステム
に加え、あれだけの重武装が仇となって、まるでトロンの動きに対応することができない
ようだった。
そんな睦月に対して、チャンスと判断したのか徐々に輪を縮めていくトロン。あたしも
勝利を確信したその時、楽しそうな和尚さんの大声があたしの耳に突き刺さる。
「がっはっはっ! やるのう、トロンとやら。 睦月! まずはその場を動かず奴の動き
に合わせて回転じゃあ!!」
 和尚さんの指示にしたがい、フロートの利点を使い高速で回転し始める睦月に、トロン
はおろかあたしも怪訝な顔をしていたが、和尚さんはニンマリと笑うとコンソールを力一
杯たたきながらがなり立てた。
「よしっ! いまじゃあ睦月、全弾発射じゃあ───っ!!」
『はぁぁぁぁぁ~~~~いぃぃぃぃぃ~~~』
 高速で回転を続けていたため、妙に間延びした声の睦月が和尚さんの合図とともに
轟音をたてながら、全身に備えられた武器を一斉に発射してきた。
「『えっ!?』」
 和尚さんの指示に思わず動きを止めて唖然とするトロンと、カクンとあごの落ちたあた
しの口から漏れた言葉は、見事なくらいにハモっていた。
 睦月の武装はみたところレーザーなどの光学系の武器は一切なく、ほとんどが発射時に
反動のかかる実弾系の武器ばかりで構成されてるようにみえた。それをあんな高速で回っ
てるところで撃ったら……
 
 恐れていたとおり、肩のあたりの8連ミサイルポッドが火を噴いた途端に、睦月は背後
に大きくバランスを崩す。だが、それで回転が止まるはずもなく、続けて発射されるミサ
イルやガトリング砲があらぬ方向に唸りをあげて飛んでいく。
 もはや自力で止まることも不可能となり、回転地獄ゴマと化した睦月はその直後、直視
できないほどの閃光につつまれた。
 腰掛けていたシートを襲った振動が去ると、あたしはそ~っと薄目を開けてフィールド
に目を向けた。
 そこには回転している途中に弾薬が誘爆し、大爆発を起こした睦月が残したクレーター
と、アリーナの天上まで届く巨大なきのこ雲が立ち上っていた。
 
 電光掲示板に燦々と表示された「WINNER───トロン」の文字に気づくことなく、
なんか巨大なドクロみたいにも見えるきのこ雲を見つめ、呆然と立ち尽くすトロン。
 
     あたしは、その背中になんと声をかけていいか、わからなかった。
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コメント


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ワロタw
予想外の武装&予想外の戦闘結果で本気で笑ってもうたw

和尚とのギャップありすぎな武装すぎて、何をどうしたらw
しかも、巫女型の睦月さんなんで、私の頭の中には「たKIがわさんの所の九十九さん」が沸いていたから余計ギャップが凄すぎて凄い事になってる最中ですw

これには、トロンも燐さんも唖然とするばかりですよね。
どんどんとレスティア対策から離れて対遠距離戦に慣れてきているトロンさんですが、これも良い経験の1つとして糧にしていくんでしょうね。

続き楽しみに待ってま~す。

ASUR・A | URL | 2012-06-10(Sun)00:45 [編集]


>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

とにかく、記念すべきトロンの初勝利は、なんともなさけない試合内容にしたかったので、こんなバトルになりました。
私としても、予想外にウケてもらえたようでよかったです(笑)。

もともと睦月は、たKIがわさんの九十九さんに影響を受けて作ったものですからね(実際、睦月の実力では九十九さんのようなバトルは無理でが……)。

今現在は苦戦を続けるトロンですが、次回はタイトルにつけたように“光明”が見えてくると思います。
お楽しみに!

シロ | URL | 2012-06-10(Sun)21:43 [編集]