神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

わんだふる神姫ライフ 第25話

「ライドシステム?」
 あたしは、目の前で湯気をあげていたコーヒーを口元に運ぼうとして動きを止め、耳慣
れない言葉に首を傾げた。
 今あたしのいるところは、DO ITの二階にある店長さん専用の個室だった。
 小さなスペースだったが整理整頓の行き届いたその部屋で、あたしはソファーに腰掛け
店長さんと向かい合っていた。目の前のシンプルなデザインの机の上には、リベルターと
トロンがチョコンと向き合って座っている。
 あたしの目の前でトロンのヤツはこっくりこっくりと舟をこぎ始め、リベルターは、そんな
トロンに微笑みを浮かべていた。
 あたしたちの力になれるかもしれない。店長さんのこの言葉に惹かれ、二階の一番奥に
あるこの部屋へと案内されたが、開口一番、店長さんの口から出た聞いたこともない単語
が一体全体どうすればあたしたちの力になってくれるのかあたしには皆目見当がつかなか
った。
「あの~、それっていったい何なんですか?」
 コーヒーをすすりながら、おずおずと尋ねるあたしに、店長さんは不自然にまでに白く
輝く歯をみせながら答えた。
「まぁ、結論から言ってしまえば、一ノ瀬くんとトロンくんが直接戦うことのできる魔法
の機械! といったところかな?」
「ぶっ! あ、す、すいません! あの、あたしとトロンが戦うって……」
 予想もしなかった店長さんの答えに、思わずあたしは含んでいたコーヒーを吹き出して
しまい、慌ててハンカチで机の上をふきながら店長さんに尋ねた。
 店長さんは、あたしの起こすリアクションが初めからわかっていたのか、慌てる素振り
もみせず静かに語り始めた。
 
                   わんだふる神姫ライフ
 
              第25話  「ライドシステム」
 
 店長さんの話が淡々と進むのに比例して、あたしのあんぐりと開いた口も大きさを増し
ていたようだった。
 “ライドシステム”、それは現在主流となっているバトルロンドでの戦いの在り方を根底
から変えてしまうものだった。
 現在あたしたちは、オーナーと神姫はあくまで別個の存在であり、バトル時にはオーナ
ーの指示、もしくは神姫本人の判断によって戦いが行なわれているが、ライドシステムは
オーナーと神姫が一体となって戦うことができる画期的なシステムなんだそうだ。
 正直な話、それぞれが別個の意思を持つ存在がひとつになるなんていうとが、はたして
可能なのかあたしにはまるでわからなかったが、実際にそんなものが実用化に向かってい
るとは、科学の進歩というやつにあたしは感心するしかなかった。
 ただ、このライドシステムはいまだ実用化の段階まではいってないそうで、色々と問題が
山積みの状態らしく、完成までにはまだ少し時間がかかるという話だそうだ。
 この時あたしの脳裏に浮かんだのは、なんでそんな最新の機械、それも未完成のものが
こんな所に(すいません、店長さん!)あるんだろうか? ということだった。
 さりげなく店長さんにそのことを聞いてみると、店長さんの友人がこのライドシステムの開発
に携わっている企業に勤めているそうで、データ収集のために各地の神姫センターに配置さ
れるはずの試作機のうちの何台かを、様々な角度からの検討するためとかいう名目でDO 
ITのような個人経営の神姫ショップにテストの依頼をしてきたそうだ。
 ただし、あくまで試作機ということなので、いきなりDO ITに集まる常連さんたちにテストを
頼むわけにもいかず、いまのところは店長さんとリベルターが専属でテストを行っているらしい。
 「なるほど。……でも、そのライドシステムってオーナーとその神姫がひとつになるシステム
なんですよね? だけどそれじゃ、あたしとトロンが戦うなんて無理なんじゃないですか?」
 一通りシステムの説明を受けたあたしは、話の途中から感じていた疑問を店長さんに投げ
かけてみた。
「一ノ瀬くんの疑問はもっともなことなんだが、実はこのライドシステムが未完成というとろが
今回は役に立ちそうでね」
「?」
 要領を得ない店長さんの回答に眉根を寄せていると、苦笑しながらリベルターが話を引き
継いだ。
『つまりですね、隣さん。ライドシステムの白眉ともいうこのシステム自体が、未だ試行錯誤
を繰り返している状態なんです。実際、神姫とオーナーがひとつになった時の双方の安全
性なども、まだ完全とはいえませんし……』
「そ、それじゃあ、あたしとトロンは人身御供っていうわけ?」
 リベルターはまだ説明を続けていたが、あたしはそこまで話しを聞くと、顔色を変えてソファ
ーから立ち上がりかけた。
 あたしの形相に驚いた店長さんとリベルターが、慌ててあたしをなだめすかし、ようやく落
ち着いたあたしにリベルターが説明を再開した。突発的に発生する危険を回避するために、
現在のライドシステムのデータを集めるために店長さんたちが行っている方法というのが、
オーナーがライドオンする対象に自分の神姫ではなくテスト用の素体を使用するというやり
方だった。
 確かにこのやり方なら神姫になんの影響を与えることも無く、実際かなりテストを繰り返し
た現在も店長さん自身になんら異常はないそうだ。
「ふぅ、なぁんだ、そういうことだったんだ」
『ごめんなさい隣さん。私の説明が悪かったせいで、よけいな心配をかけてしまって』
 ようやく合点のいったあたしが大きく安堵の息をはくと、リベルターがすまなさそうに謝っ
てきた。
「そんなことないわよ。あたしが勝手に早とちりしただけなんだから、リベルターがそんなに
責任を感じる事なんかないって」
 目の前でシュンとうなだれるリベルターに、あたしは心のなかで自分を一喝してから彼女
に笑顔をみせた。
「つまり、あたしはトロンではなく、そのテスト用の神姫を動かせばいいのよね? それなら
ば、確かにあたしとトロンの対戦も可能よね」
『はい! 私が隣さんに言いたかったのは、そういうことだったんです』
 さっきとは打って変わって明るい表情をみせるリベルター。そんな彼女を見て、あたしは
笑いをこらえるのに苦労した。
 
 なんかリベルターって不思議な娘よね。あんなに神秘的な雰囲気を漂わせていたかと思
えば、今はこどもみたいなはしゃいでるし。
 
『あ、あのぅ、私の顔に何かついていますか、隣さん?』
「ううん、なんでもない」
 キョトンとした表情であたしを見つめるリベルターに、慌てて手を振りごまかしていると、
店長さんの声が聞こえてきた。
「さて、ライドシステムに関しては、大体のところ一ノ瀬くんも理解してくれたと思う。私自身
がテストをしてみたがこれといって以上はみつからないし、今回のような使用に関しては
安全性は私が保証するが……」
「ぜひ、使わせてください! ほらっ、トロン。あんたからもちゃんとお願いしない……と?」
 あたしは、店長さんに向かって深々と頭を下げながら視線をテーブルに移すと、トロンが
自分の頭ほどの鼻提灯をだして爆睡中である事実を知って愕然とした。
「起きんかい!」
 さすがに店長さんたちの目の前でトロンをひっぱたくわけにもいかず、とりあえず怒声
をかけると鼻提灯がパチンと景気のいい音とともに割れ、そのショックなのか、とりあえ
ず目を覚ましたトロンは特大のあくびを一つすると、まるで焦点の定まっていない目であ
たしに話しかけてきた。
『ふぁ~~~~ア。おはよゥ。 リン……コーヒーまダ?』
「な、なにが『おはよウ』よ。あんた、また寝てたの?」
『むゥ。ボクの一日ハ、ミルクと砂糖をたっぷり入れたブラックコーヒーではじまるんだけど
ねェ~』
「……それはもはや、ブラックコーヒーでもなんでもない……」
 あたしは怒りのあまり、ぷるぷると震える拳を握り締めながら声を殺して呟いた。
『まァ、それはさておキ。ボクにいったいなんの用なのサ、リン?』
「なんの用じゃないわよ! あんた店長さんの話、聞いてなかったの?」
『うン、ぜんぜン!』
「だからねぇ~っ!」
 妙にうれしそうにうなずくトロンに、こめかみを引きつらせながらあたしは大きく息を
吸うと、12倍速ほどのスピード(当社比)で、身振り手振りを交えながら説明を始めた。
「……と、い、言うわけ……なのよ。ゼェゼェッ、せ、せっかくの機会なんだからフイに
すること……はぁはぁっ、な、ないでしょう?」
『……あのさァ~、リン』
「ハァ、ハァ、な、何よ?」
 精も根も尽き果てた、といった表情で息を切らせながらもトロンの方を見ると、眉をひ
そめ、口をへの字に結びながら神妙な面持ちであたしの顔を見ていたトロンが、しばらく
するとポツリと言った。
『ごめン、速すぎてぜんぜんわからなかったヨ。悪いんだけド、もういっぺん最初っから
やってくれル?』
「ギャ───────────────────ッ!」
 この瞬間、あたしの頭の中で、何かがすごい音を立ててブチ切れた。
                         ※
『大丈夫ですか、隣さん?』
「うん。ありがとうリベルター。もう平気」
 ソファーの背に身体を預けながら、心配そうな顔をするリベルターに、あたしは力なく
微笑んでみせる。
『ボクはぜんぜんへーキじゃなイ! これってAVでショ? ケーサツにうったえてやル
ッ!!』
 目の前の机の上で、リベルターに自分の拳ほどもあるたんこぶにバンソーコーを貼って
もらっていたトロンが、顔ぜんたいを口にしながらあたしに食って掛かってきた。
「……それを言うならDVよ……」
 ギロリとトロンを一瞥しながら、もはやツッコム気力も失ったあたしだったが、とりあえず
訂正だけはしておいた。
「まぁ、トロンくんも納得してくれたようだし、こちらもライドシステムの用意をしようと思っ
ているのだが……」
「……わかりました。じゃあ、お願いします」
 あたしにそう尋ねながら、店長さんが差し出してくれたグラスに入った冷たい水を一気
に飲み干すと、あたしは店長さんに改めてお願いした。
「わかった。では、行こうか」
 あたしの言葉に笑いながらうなずくと、店長さんはソファーから腰を上げ、フロアーへ
と続くドアへと歩いていった。
「あれっ? 店長さん、ライドシステムってこっちにあるんじゃないんですか?」
 あたしは店長さんの背を目で追いながら、ある方向を指差した。そこには頑丈そうなつ
くりのドアがあり、隣室へと続いているようだった。
「あ、いやっ。そこは私のプライベートルームでね」
『そ、そうなんです! システムを搭載したシュミレーターは地下にあるんです。お二人
ともこちらに』
 あたしの指差す方向に目をやった途端、なぜか店長さんとりベルターの顔色がサッと変
わり、妙に落ち着きがなくなってしまった。
 
             あたし、なにかヘンなこと聞いちゃったのかな?
 
 手のひらに乗せながら、あたしとトロンは思わず顔を見合わせが、トロンはあたしから
視線を外すと、怪訝な表情を浮かべながら例のドアを見つめていた。
                          ※
「これが、ライドシステム?」
 元々は、倉庫として使っていたという地下のスペースの一角にそれはあった。
 あたしたちが神姫バトルで使用するシュミレーターの半分にも満たない大きさしかない
本体と、簡素なつくりのシートの前にコンパクトにまとめられたコンソールがあった。
 そして、その表面にはいくつかの灯りが点滅を繰り返し、シュミレーターの置かれた壁
ぎわには不釣合いなほど大型のモニターが設置され、無言であたりを威圧していた。
 もっと部屋一杯ぐらいある大型の機械を想像していたあたしは、少し拍子抜けしてしま
ったが、周りでは店長さんとリベルターが慌ただしく動き回っていた。
『こちらの準備は完了しました』
 シュミレーターの横にある、スチール製のディスクに置かれたディスクトップパソコンに
なにやら入力をしていたらしいリベルターは、店長さんに作業の終わりを告げた。
「こちらも終了だ。さ、一ノ瀬くん、トロンくん、こちらへ」
 おそらくトロン用なのだろう。シュミレーターにアクセスポッドを接続していた店長さ
んは、せわしなく動かしていた手の動きを止めると、あたしたちに手招きしながら声をか
けてきた。
「行くわよ? トロン」
『……うン』
 あたしは覚悟を決めると、トロンを手のひらに乗せたままシュミレーターへと歩み寄っ
ていった。
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