神姫者の巣

神姫好きの、また~りとしたブログ

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わんだふる神姫ライフ 第26話

 あたしは無言で、ライドシステムを搭載したシュミレーターへと近づいていった。
「トロンくんはこちらに、一ノ瀬くんはゴーグルを装着してからシートに」
 あたしはトロンを店長さんに手渡すと、シートへと目をやった。
 そこには、なんのためについているのかあたしにはさっぱり理解できない様々な機器で
構成された大型のゴーグルが、ポツンと置かれていた。
 手にしたゴーグルを持ち上げると、無数のケーブルがゴーグルの本体から伸びているこ
とに気がついた。
 目で追っていくと、それはシュミレーター本体へと繋がっているようだった。
 ケーブルを見入っていた視線の端で、トロンが店長さんにうながされアクセスポッドへと
入っていくところだった。
 その後ろ姿がいつも以上に小さく見え、あたしはトロンが不安を覚えているのでは?
と、そんな考えが頭をよぎった。
トロンに無理を強いたのかなと後悔の念が頭をよぎったが、その姿がポッドの中に消え
ようとした時、ふいにトロンがこっちに振り返った。
 
                   ──笑っていた──
 
 不敵な笑みを口元に浮かべ、あの金色の瞳であたしを見つめながら……
「こりゃあ、ナメてかかったらこっちが危ないかな?」
 あたしは苦笑いを浮かべながらゴーグルをかぶると、シートに腰掛け、しずかに目を閉
じた。
 
                    わんだふる神姫ライフ
 
            第26話   「激突! 隣VSトロン」
 
 そこには何も無かった。かすかな光さえ存在しない無の空間に、ただあたしは漂ってい
た……
 
       いや、違う。光が無いんじゃない、あたしが見えないだけなんだ!  
 
『……シンクロ率89%。システム、オールグリーン……もう大丈夫です。ゆっくりと目を開
けてください、隣さん』
 リベルターの澄んだ声に、恐る恐る目を開けてみる。うっすらとぼやけた景色が瞳に映
った瞬間、頭に激痛が走った。それはほんの一瞬のことだったが、あまりの痛みしゃがみ
込みそうになる。その時、二本の腕がとつぜん伸びてきて、あたしの身体を支えてくれた。
 ゆっくりと視線を移していくと、トロンがあたしの肩をつかみながら、心配そうに金色の瞳
であたしの顔を覗き込んでいた。
『……リン、大丈夫? どこか痛いの?』
『ううん、もう大丈夫みたい。ありがとう、トロン』
 笑いかけるあたしの顔を見ながら、眉をよせるトロンの腕にそっと自分の腕を重ねた時
に、あることに気がついた。
『ん、素肌? ……や、やだっ! なんであたし裸なの?』
 ゆっくりと腕から胸元へと視線を移したあたしは、いつの間にか一糸纏わぬ姿になって
いる自分に気づき、慌てて両腕で身体を覆うとしゃがみこんでしまう。
『使っている素体がフレッシュ(肌色)タイプみたいだからね。まぁ、カラーバリエーション
だと思えば気にならないんじゃないかな?』
『気になるに決まってんでしょう! リベルター、なんとかしてっ!!』
 のほほんとした口調で話しかけてくるトロンを睨みつけると、悲鳴に近い声でリベルタ
ーに懇願する。
『は、はい! 少々おまちください』
 うわずった声で答えるリベルター。しばらくすると、しゃがみこんでいたあたしの身体
が、かすかな光に覆われた。
『え? 何これ? あっ!』
 全身を包んでいた光が、ひときわ大きな輝きを放った。その光量に思わず目をつむっ
たあたしは、しばらくたって目をあけてみると、いつの間にか光は消えていた。
 そしてあたしの身体は、さっきまでの肌色一色とはまるで違うものへと変わっていた。
 全体的にはトロンのような、グレーとブラックと基調としていたが、デザインが少し違
うみたいだった。ストラーフの身体がボディースーツのような感じで、肌の露出がほとん
どないのに対して、あたしの場合は肩をふくんだ二の腕と太股の部分の肌が露わになっ
ていた。
『へぇ~。なかなか似合うじゃないか、リン』
 くるりと回りながら自分の姿を確認していたあたしに、目をまんまるくしながらトロンが
歩みよってきた。
『そ、そうかな? ……あれ? トロン、あんた背伸びた?』
 あたしはニコニコしながら目の前に立つトロンを見上げ……そう、トロンは何故か、あ
たしより背が高かった。
『神姫のボクが、背なんか伸びるわけないだろう?』
 困ったような顔で見つめるトロンだが、困惑してるのはあたしだって一緒だ。あたしと
美佐緒ほどではないだろうが、もとのサイズでいえば、トロンとの身長差はかなりあるだ
ろう。
 
しかもこの素体、トロンと比べるとなんか胸が……
 
『……店長さん。この素体、わざわざあたしの体形に合わせて選んでくれたんですか?』
 自分でもみるみる目つきが鋭くなっていくのを感じながら、あたしはギリギリと首の関
節を軋ませ振り向くと、押し殺したような口調で尋ねた。
「ご、誤解だ、一ノ瀬くん!」
『そ、そうです。3rdタイプのネイキッド(素体)を使ったのは偶然であって、決して他意が
あったわけではないんです。信じてください、隣さん!』
 わなわなと怒りに身体を震わせるあたしと目が合ったとたん、慌てふためく店長さん。
リベルターも、なんか涙目になりながら胸の前で両手を組んで、必死に弁解を続けている。
『神姫になっても、リンはやっぱりリンだね』
『……あたりまえでしょう?』
 あたしは背後で聞こえた呆れたような声にムッとしながら振り返り、トロンを睨みつけるが
トロンのヤツは肩をすくめておどけた様な仕草をとって笑っていた。
 ふたつの安堵のため息を背中で聞きながら、あたしは目の前に立つトロンに向かって小
さな声でつぶやく。
『じゃあ、そろそろ始める?』
 トロンは金色の瞳をわずかに細めると、微かにうなずいた。
『え、え~。では、隣さんとトロンの模擬戦を始めたいと思います。時間は無制限。装備
及び武装は使用禁止ということで……』
 うわずったような口調でルールの説明を続けるリベルターだが、あたしとトロンの耳に
はまるで届いてはいなかった。
                        ※
『どうしたの? いつまでそうやって突っ立っている気? ひょっとして、足でも攣った
の?』
 トロンはあたしの小馬鹿にしたような口調にもまったく動ずることもなく、彫像のよう
に立ちつくしている。
 一見すると、なんの構えも取らず、ただ無防備に突っ立っているだけのトロンだが、あ
たしは内心で満足していた。 
 一般的な合気道にも、相半身や逆半身といった基本的な構えは存在する。
 でも空手などとは違い、構えとは合気道にとって、重要な要素である自然体と対極に位
置するものだと、おじいちゃんは言っていた。
 そのため、あたしがおじいちゃんから教わった合気道は、まったく構えを持たない。これ
は、ほかの正統な流派からみれば、少々毛色のかわったものとみえるかもしれない。
 
さて、こうしていつまでもトロンと見つめあってても埒があかないか。
 
 一応、名目はトロンの特訓だしね。ひとつこっちから仕掛けてみるか。ライドシステム内
の時間の概念が外と同じなのかはわからなかったけど、ほぼ十分近くたっても変わらない
現状を打破するために、あたしは滑るような動きでトロンとの距離を一気に詰めた。
『ハッ!』
 溜め込んでいた息を吐き出すと同時に放たれた正拳突きは、狙いたがわずトロンの正
中線。水月めがけて叩き込まれた。
 トロンは待ってましたといわんばかりに相好を崩すと、静かに半円を描きながら手刀(て
がたな)であたしの一撃を受け流す。
『えっ? うわっ!?』
 あたしの拳を軽く捌きながら、得意げな表情を浮かべるトロンの顔が凍りつく。
 空手の正拳突きは、拳にひねりを加えながらその威力を高める。あたしはそれを利用し
て、わざとひねりを大きくした正拳突きをトロンに打ち込んでいた。無論、こんな拳に破壊力
などあるわけないけど、今はそれで充分だった。
トロンが拳を払いのけた瞬間、あたしは握っていた拳をひらくと、そのままトロンの手首
をつかみながら後ろに振りぬいた。
 本来なら、その場に突っ立ったままのトロンをこんな力まかせなやり方で投げ飛ばせるわ
けがない。実際に、反射的に力を込めたトロンの身体はピクリとも動かない。
『甘いっ!』
 あたしはとっさに踏み出していた足を軸に身体を半回転させると、片足で軽くトロンの踵
を払った。
 あたしの腕を引く力に拮抗しようとしていたトロンは、重心が踵に集中していたために足
払いひとつで、あっさりと転倒してしまった。
『いくら上手に技を捌いたって、その後ボ~ッと突っ立ってちゃ意味が無いでしょう? そ
れと受身はきちんと取る事!』

 仰向けに倒れこんだため、後頭部を強打したトロンが、両腕で頭を押さえながら床の上
を転げまわっている。
『痛ぅ~。リン、ボクはまだ初心者なんだからもう少しやさしくしてくれたって……』
『レスティーアとの戦いでも、彼女にそんなセリフを吐く気なの?』
『ぐっ? ……本当にリンは、きついんだよ……ねッ!』
 頭を擦りながら、すがるような目であたしを見つめるトロンに冷たい声で一喝すると、
トロンは苦笑いを浮かべ、急に身を起こしながらあたしめがけて鋭い突きを放ってきた。
 あたしはトロンの攻撃を受け流すと、そのまま一歩進み、両手でトロンの腕を押さえ込
みながら頭の上で腕を振りかぶり、身体の向きを切り替える。
『くっ』
 腕をねじり上げられる形となったトロンの口から苦鳴がもれるが、あたしはそのまま肩
口から自分の足元に叩きつけるように投げ落とした。
『前にも教えたけど、今のが投げ技のひとつ、四方投げ。さっ、次はあんたの番よ!』
『へっ?』
『へっ? じゃないでしょう? 投げられてばかりじゃ鍛錬にならないじゃない! 次は
あたしが仕掛けるからあんたが投げる。いくわよ?』
『う、うん』
 軽く頭を振り、立ち上がりながら答えるトロンに、あたしは情け容赦なく襲いかかった。
                        ◆
『隣さん……すごい』
 モニターを食い入るように見つめていたリベルターが、唖然とした表情でつぶやいた。
「まったくだ。神代くんやガーネットくんから話しは聞いていたが、まさかこれほどの腕
だったとは」
 モニターには、一ノ瀬くんとトロンくんの特訓の様子がいつ終わるともなく映し出され
ていた。
 幼いころからお祖父さんに格闘技の手ほどきを受けていたということだが、一ノ瀬くん
の実力は、私たちの想像を遥かに凌駕するものだった。
『ライドシステムが完成して、隣さんとトロンがひとつになったらふたりの実力は計り知
れないものになりますね?』
 妙にわくわくした顔で、リベルターが話しかけてきた。
「そうだな‥‥いや、一ノ瀬くんの気性から考えると、アドバイスはしても戦いそのもの
は常に一対一で行うもの、と言うんじゃないかな」
『そうですね、そのほうが隣さんらしいですよね』
 少し考え込みながら答える私にリベルターはうなずくと、視線をモニターへと戻した。
「それにしても突出した回避能力を持つトロンくんと、護身の武術といわれる合気道の使
い手である一ノ瀬くん……このふたりの出会いは運命というやつなんだろうか?」
『きっとそうだと思います。運命はかならず存在しますから』
 卓上のパソコンのモニターに視線を走らせながらリベルターの声がきこえた。
 
そう、運命は存在する。私とリベルターの出会いがそうであったように
 
 私は慌ただしくデータの収集を続けるリベルターの背中に、心の中でそっとつぶやいた。
                         ◆
『こなくそっ!』
 悪態をつきながら、ボロボロになったトロンが回し蹴りを繰り出してくる。わずかに身
を屈め、やり過ごそうとしたがあたしの頭上を通り過ぎるはずの蹴りは、突然そのベクト
ルを変えるとあたしの脳天めがけて振り下ろされた。
 短く舌打ちしながら、あたしはトロンの踵落としを横っ飛びにかわすと、受身をとりな
がらトロンの動きを目で追った。
『!?』
 トロンは片ひざをつきながら、いたずらっぽい笑みを浮かべ金色の瞳であたしを見てい
た。いや、べつにそれだけなら驚きはしないんだけど、両手をそっと地面にふれているあ
のポーズって。
『よ~い』
 くいっと腰を上げ、トロンがつぶやいたこのセリフは……
『ドンッ!』
 
   これって陸上選手がスタート時に使うおなじみのポーズ、クラウチングスタート!
 
『や、やばっ、……くっ!?』
 距離が近かったのも理由のひとつだったけど、まさかこんな時にこんな攻撃(?)を仕
掛けてくるとは夢にも思わなかったもんで、あたしは避けそこなってしまった。
 激しい衝撃とともにトロンが突っ込んできた。両肩をがっしりとつかまれ、とっさに対処
できなかったあたしはそのまま大きくバランスを崩す。
 
どうせトロンのことだから、このまま寝技にでも持ち込もうって考えなんだろうけど、そ
うは問屋が卸さないって!
 
 あたしは後ろ向きに転倒することも恐れず、いきなりその場にしゃがみ込んだ。
『え?』
 トロンにしてみれば、あたしの行動はまったく理解できなかっただろう。押し倒そうと
していたあたしがいきなりしゃがんでしまったために、自分が前方にかけていたスピード
+あたしの両肩をつかんでいたためにあたしの身体が突っ支い棒となり、トロンはそのま
ま前方に倒れこんでしまう。
 あたしはこの隙を見逃さず、両肩をつかんでいたトロンの両手を払うと逆につかみ返し、
あたしめがけて倒れこんでくるトロンの腹部に足をかけると、その反動を利用して思い切
り蹴り上げていた。
『わ? わ─────────っ!!』
 放物線を描きながら、すっ飛んでいったトロンは、床に全身を強打しながらバウンドす
ると、そのままピクリとも動かなくなってしまった。
『今のは合気道の技じゃなくて柔道でいうところの巴投げ! 覚えておいて損はないわ。
それと、最後の攻撃はなかなか良かったわよ。次もこの調子でね、トロン!』
『……は、はい……』
『ありがとうございました店長さん。今日はここらへんで終わりにしたいと思います!』
 ぐったりと横たわるトロンから聞こえた切れ切れの声に、あたしは微かに微笑むと、一
部始終をモニタリングしていただろうカメラの方に向きなおり、明るい声で店長さんに話
かけた。
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コメント


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隣さん強っ!!

しかし、アレですね・・・違う神姫にライドしてマイ神姫の修行をするというのは斬新ですな!

隣さん強っ!!

初瀬那珂 | URL | 2012-07-01(Sun)01:48 [編集]


潜在的ドSの気性が遂にライドシステムのお陰で覚醒を迎えたっ!w

という本音は置いておいてw

ライドシステムを利用した武術訓練の開始ですか~
確かに武道家が同じサイズで実践出来れば飛躍的な技術の向上が促されるでしょうし、良い使い方ですよね。

ただ、裏では店長とリベルターに関わる伏線も出て来ましたし、現状の目標「レスティーア戦の勝利」の後も色々と進んでいきそうですね。

この訓練の成果にプラスして一部発表されているトロンの武装がどの様に合わさっていくか楽しみにしています。

そして、神姫になっても洗濯板な燐さん南無(-人-)

ASUR・A | URL | 2012-07-01(Sun)20:15 [編集]


>初瀬那珂さん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

マスターVS神姫。
これは一度やってみたかったネタでして、ようやく実現と相成りました。
もっとも、訓練ですのでイマイチ迫力が出せなかったのが心残りですが……。

隣は強いですよ~。
まあ、脳内設定では、武術を習い始めてから十年近くたってますので、さすがにトロンに勝ち目はないかと(笑)。



>ASUR・Aさん

いらっしゃいませ。コメントありがとうございます。

いやいや、ドSなどととんでもない。ただ単に、隣の獣性と凶暴さがちょっと表に出ただけです(笑)。

今回の話は、隣がトロンに武術を教えることの矛盾点に悩んでいた時、隣が神姫サイズになれば良くね? みたいな感じで出来上がりました。
これに、以前から考えていた、「マスターと神姫のバトル」をからめてみました。
もっともこの特訓、徒手格闘メインなので成り立ちましたが、銃器使用だったら、隣はいまごろ蜂の巣でしょうね(笑)。

伏線詰め込みすぎで、中だるみ感が出てきた本編ですが、ここからは(多少なりとも)スピードアップしたいです。
隣から習った武術と、トロンの専用装備はけっこう密接な関係があったりします、今後をお楽しみに(ニヤリ)。

最後になりましたが、隣にとって、洗濯板こそジャスティスッ!


シロ | URL | 2012-07-02(Mon)07:29 [編集]


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